Seed-NANOHA_342氏_第09話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:28:42

八神家。
夕食の準備をしているはやて、それを手伝うシャマルとシグナム。
ザフィーラは、居間にちょこんと座って通販番組を興味無さそうに見ていた。
そして、ソファに座りキラは悲鳴を上げている自分の体の節々に塗り薬を塗っていた。
「だっらしないなぁ~、キラ…。」
キラの後ろでその様子を眺めていたヴィータが溜め息混じりにそういった。
「…う、うん…。」
と返事しつつも薬を両ふくらはぎに、両腕にすりこむキラ。
「しかたないんちゃう?キラ君、管理局の戦技室でシグナムとザフィーラにしごかれてたみたいやし…。」笑いながらそう言うと、はやてはスープをかきまぜて、少量お玉で掬い、小皿に移して味見する。
「…うん、これでよしと。ほんならシャマル、皆の分のお皿の用意をして、シグナムは机の上にナプキン敷いて箸とスプーンをだしてやぁ。」
テキパキと指示をだし、それに従うシグナムとシャマル。
キラも手伝おうと腰をあげたが、シャマルが微笑みながら、座っておくようにと手で促した。
今はシンとの戦闘の六日前だ。
シグナムがシン・アスカ対策を、ザフィーラが接近戦を教えてくれている。
もちろん、管理局の仕事の手伝いをしながら、その合間に訓練をしている。
訓練中は射撃を封印し、サーベルだけで戦っているため、普段よりも腕に相当な負担がかかる。
また、朝は早く起きて、ザフィーラの子犬形態と長距離ランニングをしなければならない。
シンと戦う前に果てるのでは?と言うのがキラの本音である。
「できたで~、皆、いただきますしよか?」
八神家全員が食卓につき、はやての号令で皆が箸を手にとった。
「どやぁ?キラ君、おいしい?」
肉を頬張ったキラを見ていたはやてが聞いた。
「…ゴクンッ!うん、おいしいよ。」
「はーやーてぇ!何でキラのだけ量が多いんだよ?」とむくれるヴィータ。
確に、キラのお椀、皿に盛られている料理は、他のものたちよりも一周りほど多い。
「キラ君、六日後にはシン君と決闘やいうてたやんか?
せやから、その前に沢山食べて、力をつけんとな。」微笑み、キラを見るはやて。キラもはやてに笑って
「ありがとう…。」
とお礼を言った。

アースラ食堂。
「シンは、射撃魔法が少ないね…。」
黙々と料理を完食していくシンにフェイトが言った。「でも、パワーと接近戦ではキラ君に勝ってるよね?」
なのはが言った。
「うん、だから、それを生かすためには相手の注意を反らすための射撃が欲しいんだけど…。」
キラの射程は広い。
故に、接近戦で戦うシンは相手の弾幕をかいくぐって、自分の間合いに持っていかなければならない。
その為に、ケルベロスの様なチャージに時間がかかるような砲撃ではなく、フェイトのフォトンランサーの様な速攻性の射撃が欲しいのだ。
「一応、前にフェイトが教えてくれた射撃魔法みたいなのなら少しは使えるぞ?」
(皆さん、もうお忘れかもですが…一応、シンは射撃の練習をしていました。)
「うん、じゃあ、次からは私が射撃を教えるから…、なのはは対砲撃戦を…。」なのはは快く承諾し、サンドイッチを頬張った。

アッというまに時間が過ぎ、シンもキラも、それぞれに修練を積み、周りの者たちはその手伝いをした。

勝負前夜、キラは八神家のベランダで星を眺めながら、C.E.のことを考えていた。
自分がこの世界に来て、だいぶ経った。
色んな事に巻き込まれて、状況を理解するのに必死で、今までゆっくり考えることもなかったが、それでも全く心配していなかったと言うわけではない。
ただ、気になっても自分ではどうにもできないし、シグナムたちははやてのことで手一杯で、キラの世界の探索どころではなかった。「…どうなったんだろ…。」ふと口から出る言葉。
「どうしたんですか?」
「シャマルさん…。
自分の世界のことを考えてました。」
「明日の事を心配しなくていいんですか?」
と、意味ありげな笑顔を浮かべながら、ホットミルクのカップを手渡した。
「いや…、もちろん、心配ですよ?
勝てるかどうか、不安ですしね。」
カップを受取り、一口すする。ホットミルクは甘く、寒空の下で冷えたキラの体を暖めた。
「取り合えず、やれることはやったんだ。」
「あとは、キラ・ヤマト。お前が全力を出せるかどうかが勝敗の鍵だ。」
カップを持ったヴィータとシグナム、ザフィーラもやって来た。
ザフィーラは無言でこちらを見ているだけだ。
「シグナム、うちもそっちにつれてってやぁ…。」
家の中からはやての声が聞こえた。
一旦、シグナムが家の中まで戻り、はやてをだっこして連れてくる。
「いよいよ明日やな。がんばってなキラ君。
明日は勝っても負けても、ご馳走用意しとくからなぁ。」
「うん、がんばるからね。」はやての言葉にキラも答えた。
「それじゃあ、キラ君の健闘祈って乾杯やぁ。」
五人はカップを打ち付けた。

「いよいよ。明日だな…。」少し遅い夕飯のハラオウン家。
クロノが口の中のものを飲み込みながら言った。
「…あぁ。」
味噌汁をすするシン。
ちなみに今日はなのはが泊まりに来ている。
「シン君、明日はがんばってね。なのはも応援するから。」
「砲撃には気を付けて、冷静にやれば、シンなら、きっとできるから。」
「あぁ、やってやるさ。なのはもフェイトも、訓練に付き合ってくれてありがとな。…それからクロノも…。」
「とってつけたように言うな!
と、まぁ、君にも今回の闇の書事件では、色々と世話になったからな…。
明日は、期待してるよ。」クロノは顔を赤くしながら、ご飯を掻き込んだ。
そんな、シンとクロノを見ていたなのはとフェイトは顔を見合わせて笑う。
「ところで、リンディさん。C.E.は、俺がもといた世界は見付かりましたか?」 会話に混ざらずせっせと鍋に野菜や肉団子を足しているリンディ手を止めた。
「それが、まだ見付からないのよ。
一応、あなたとキラ君の発言を元に探してはいるんだけどねぇ。」
お玉でアクをすくいとっていく。
「そうですか…。」
ルナやレイはどうしてるだろう。
シンもキラと同様に、自分のいないC.E.、特にミネルバと戦況を心配していた。だが、帰る方法が見付からない以上、ジタバタしていてもしょうがないし、管理局が探してくれているのだから、まかせるしかなかった。
落胆した表情を見せるシンにリンディが言う。
「管理局も全力で探しているから…、今は明日のことを…ね?」
「はい、もちろん、負けるつもりはありませんよ?」
「そう…、それを聞いて安心したわ。
これが終わったら、どこか温泉でも行きましょう。
もちろん、なのはさんも。」
「温泉、いいんですか?」
「いいんですか?リンディさん?」
なのはも、シンも嬉しさを隠せないようだ。
賑わう八神家、賑わうハラオウン家。
こうして、夜がふけていく。そして明日は決着をつける日。
キラもシンも跳ねる鼓動を押さえ付け、眠りに着いた。

当日、海鳴市海上に結界が張られた。
その広い空間に二人の少年が宙に浮いている。
一人はキラ・ヤマト。
紺と白をベースにしたバリアジャケットを装着し、背には片翼五枚、計十枚の蒼い魔力翼を展開している。そして両手には、白に蒼のラインが入った銃型デバイス、ストライクフリーダムが握られている。
もう一人は、シン・アスカ。
青に白をベースとしたバリアジャケットを装着し、背には緋い魔力翼がある。
翼は閉じられたままだ。
そして両の手の甲には鉄甲を装着しており、両手にはデバイスデスティニーのソード形態、アロンダイトが握られている。
睨み合いが続き、二人の戦闘態勢は整っていた。

管理局、アースラ。
ブリッジに巨大な空間モニターが開いている。
左右に小さなモニターがキラ、シンのみ写していた。アースラスタッフは仕事を交代しながらこの戦闘を見ることになっている。
エイミィは二人の魔力、バイタル計測を行う。
リンディ、なのは、フェイト、アルフ、ユーノ、クロノ、はやて、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラは皆、モニターの前に集まっている。
そして、口々にがんばれ、がんばれと呟いていた。

『それでは始めます。準備はいいかしら?』
シンとキラ、二人は頷く。シンの右腕には黒いリボン、左腕には桜色のリボンが巻かれていた。
なのはとフェイトが巻いてくれたものだ。
それが、力を込めた際に微かに揺れた。
キラのバリアジャケットのベルトには、ヴィータの好きな兎のキーホルダーが下がっている。
また、左右の手首には白いリストバンドをつけていて、緑の刺繍でがんばって下さいと書いてある方はシャマルが刺繍したものだ。
紫色でがんばれや!と書いてある方は、はやてが書いてくれたものである。

『それでは……。』
リンディの声にシンとキラの、アースラスタッフの緊張が高まる。
『始めッ!!』
声が響き、シンとキラが同時に動き出す。
皆が息を飲む中、二人の戦いが始まった。

キラは即座に距離をとろうとする。
しかし、シンがそれをさせない。カートリッジを一発消費し、翼を展開。
爆発的なスピードでキラにぴったりと張り付いて離さない。
「くっ!」
声を漏らすキラだが、これは想定範囲内だ。
『サーベルモード』
サーベルを構え、迎撃態勢に入る。

「よし、シン、まずは自分の間合いをとれたな。」
クロノがガッツポーズをとった。
「行け!シン!!」
「シン君そのまま張り付いて!!」
「がんばれ~、シンくん!」フェイト、ユーノ、なのはが叫んだ。
もちろん、現地の彼等にはこの声援は届かないのだが、なんと言うか、つい声を出してしまうのだ。
八神家一同の顔は真剣で、特にはやてとシャマル、キラが心配なのか、落ち着かないようだった。

「ミーティアは出さないのかよ!」
ブンッ、と空気を斬るアロンダイト。
キラは後ろに飛翔することで難無くかわし、再び距離をとろうとする。
「手を抜いてやるってのかよ!あんたはぁぁああ!!!」『ダブルフラッシュ・エッジ』
2つの緋い魔力刃がキラを挟み、シンが再び羽を展開して迫って来ていた。
シンの動向を確認しながら、キラは2つともサーベルを駆使して弾き、迎え撃つ。
キラはシンをじっと見据え、サーベルを構えた。
アロンダイトから薬筒が二つ、弾けとび
『パルマ・フィオキーナ』アロンダイトを連結させ、左手でもち、右腕をつきだそうとしたその時、キラが動いた。
片方のフリーダムを腰に下げ、シンに向かっていく。『シールド』
シンの腕が伸びきる前に掌底にキラの障壁が触れる。「ッ!?」
『シールド・バースト』
キラは自らのシールドを爆散させ、シンを吹き飛ばし、自分は爆風に乗って距離をとった。
『ライフルモード』
フリーダムが射撃形態へと変化する。
パルマフィオキーナ、放つタイミングをきめているのはシンだ。
毎回シンは腕を伸ばして掌底を当てがい、パルマを放っていた。
ならば、腕が伸びきる前に、障壁に触れさせ、タイミングを崩す。
これが今回、シグナムから教わった対策だ。
一瞬でもシンの反応が遅れればいい。
そして距離を取るためには自分だけが離れるよりも、相手も離したほうが距離を稼げる。
その為のシールド・バーストだ。

「…な。」
シンは何が起きたかわからないまま、態勢を建て直す。

「よっしゃ、キラ君、いてまえぇ!」
拳を作り、振り上げるはやて。
「は、はやて?」
「あ、主?」
「は、はやてちゃん?」
はやての発言にヴィータ、シグナム、シャマルが目を丸くする。
さして、表情を変えなかったのはザフィーラだけだった。

目前にまで迫る蒼き閃光。カートリッジを消費し
『ソリドゥス・フルゴール』
蒼い閃光を寸でのところで魔力の流れを発生させる。閃光は、まるでシンを避けるようにして曲がっていった。
「ッ!?砲撃が…曲がる?」キラは驚きを隠せなかった。

このシールドは、対砲撃戦用にシンがオリジナルで産み出したものだ。
なのはとの訓練中に何度も撃墜されるなか、シンは正直、なのはの砲撃に防御は無意味なのでは?
と思い始めていた。
そこで、普通にシールドを展開して駄目なら、強化すればいい。
そう考え、カートリッジを消費することで強固な障壁を作り出した。
だが、結局、なのはのディバイン・バスターを防ぎきることはできても、その代償に魔力を根刮ぎえぐりとられ、防ぐためだけに攻撃に移るための魔力をも使わなければならない。
それでは防いだ意味がない。
反撃できなければ、防御はただの時間稼ぎにしかならない。
そんな試行錯誤の末に編み出したこの障壁は相手の砲撃を反らすと言うもの。
なのはやフェイトたちの障壁とは性質も形状も違う。形状は波状。
カートリッジを消費し、圧縮魔力を一気に噴射する。魔力の流れをつくることで相手の砲撃軌道をその魔力の流れが反らすのだ。

キラは通常射撃を連射する。
放つ魔力弾はシンを避けていく。
「くそぉ!」
アロンダイトの切っ先がキラの目の前を斬った。
離した筈の間合いはすでにシンの間合いになっていた。
『サーベルモード』
迎え撃つしかないと判断したキラは、覚悟を決め、サーベルを構える。
『ハイスピードスラスト』完全なるシンの間合いで超高速の突きが放たれた。

「もらった!」
「いけぇーシン君!!」
フェイトとなのはが声をあげる。
対する八神陣営はキラの名前を呼び、あかん!などの声が聞こえる。
しかし、シグナムは腕を組み、少しだけ、口の端をつり上げた。

キラはシンの右手から放たれる突きに対し、左半身を前に出す。
そして、左のサーベルでアロンダイトの側面に刃を這わせ、そのまま左足を軸にしてターンし、振り向き様に、右のサーベルで一閃を見舞った。
一方、シンは突きをはずし、キラの左サーベルでアロンダイトを弾かれバランスを崩している。

突きは正面からの力には強いが、他方向からかかる力には弱い。

シグナムがシンとキラの戦闘を元に、あの強力な突進力を持つ突きの弱点を見い出していた。

『シールド』
デスティニーによって自動で張られる障壁。
バチィッッ!!!!
サーベルの直撃を全力で拒絶する。
フリーダムからカートリッジが消費された。
形成される2つの魔力弾。独特の音を発し、紫電を這わす。
「ッ!?」
キラがサーベルによる攻撃を引っ込めった瞬間。
『ソリドゥス・フルゴール』
砲撃を反らすための障壁をシンは張った。
『クスィフィアス3』
バシュッ!
「そんな砲…!?」
砲撃事態はそれたが、体を衝撃が駆け抜ける。
(距離が近いからか?)
二発目。
至近距離でのクスィフィアスの連射がシンを襲う。
三発目。
シンの脳が揺れる。
(何発ももらうのは危険だ)ソリドゥスを解除し、カートリッジを消費。
翼を展開して、上昇することでクスィフィアスから逃れる。と、そこへ
『ドラグーン』
切り放された十枚の翼がシンを包囲する。
速度も射撃角も全てが不規則な砲撃魔法。
「ちっ!」
左に避ければ上から、右に避ければ右から、360度、全包囲からの攻撃。
直ぐ様ソリドゥスを展開するが、展開したところへクスィフィアスと通常射撃が着弾する。
「ぐあっ!!」
いっそう大きな衝撃が体を駆け抜ける。
シンの動きが止まった。
『ハイマット・フルバースト』
「これで、決める!!」
必殺の一撃が、魔力の濁流が荒れ狂う猛獣のごとくシンを襲う。
一瞬飛んだ意識を取り戻したシンは、ハッと我に返り、障壁をはった。

戦闘をみているもの達は皆、シンの敗北を確信した。あれだけの魔力を障壁で受けきれるはずがない。
なのは、ユーノ、クロノ、アルフ、リンディも、そう思い、敗けを確信した。
エイミィが計測しているシンとキラのバイタルサイン。そして魔力。
シンの魔力が減少し続ける。
「まずいな、このままじゃ。」
「うん。これを防いだとしても、攻撃に移るだけの魔力がないと…。」
クロノの呟いた一言に、ユーノが言葉を返す。
フェイトは目を閉じ祈った。
あれだけ、練習したんだ。あれだけ、なのはにボロボロにされて、それでも勝つためにがんばったじゃないか!
目を開き、
「シンッ!!!」
名前を叫んだ。

障壁に亀裂がはいる。
苦悶の表情を浮かべ、シンは耐える。
もう持たない。という気持ちと、負けたくない。という気持ちが競り合い出す。「ま…だ……ぐっ。」
まだ終わらない。
いや…終われない。
フェイトも、なのはも自分を勝たせる為に協力してきれた。
時間を裂いて、管理局の仕事をこなしながら…。
まだ全力を出してない。
出しきれていない。
「負けて…たまるかぁぁぁああぁ!!!」
何かが弾ける、初めてではないこの感覚。
亀裂が入った障壁が修復される。
消費されるカートリッジ。シンは魔力の濁流を押し戻し始めた。
「なっ!?」
フルバーストの奔流に逆らってくるシンを目にし、キラはフルバーストを解除した。
突如、爆発が起こり、煙があがる。
その煙をかきわけ、襲い来る二本の極大の砲撃。
『スプレッド』
声と共に、爆発を起こし、無数の砲撃がキラに向かい放たれる。
『サーベルモード』
二本のサーベルとシールドを駆使して凌ぎきり、先ほどまで煙をあげていた場所に視線を向ける。
シンの姿は、そこにはなかった。
『Warnning!シールド』
ズンッとキラの頭上に張り出された障壁に衝撃が走る。
キラが見上げたそこには、貫かれた障壁と突き刺さった連結アロンダイト。
そして、無表情なシンの姿が目に入った。
ガシャンッ!!ガシャンッ!!
連結アロンダイトから同時にカートリッジが一発ずつ消費される。
「俺の勝ちだァ!!」
『ディープ・インパクト』障壁が砕けちり、辺りの空間が歪み、爆砕。
海は水しぶきをあげ、キラは超スピードで海面に叩きつけられた。

「し、信じられない。シン君の魔力が…跳ね上がった…。戦闘開始時よりもはるかに高い数値です。」
「すごいわね。まさか、ここまでとは思っていなかったわ。」
魔力の計測をしていたエイミィが驚きの声を上げ、リンディは感嘆の声を漏らす。
「フェイトちゃん、シン君、やったね!」
なのはがフェイトに微笑む。だが、フェイトの表情は真剣そのものだ。
まだ終わってない。
そんな表情をしていた。

「キラッ!!」
声を上げるヴィータ。はやてもシャマルも、シグナムも声を上げる。
ザフィーラも口をあけたまま固まっていた。
その時、再びエイミィが声を上げた。
「そんな…キラ君の魔力もッ!?」

「やったのか?俺は…、勝ったのか!」
先ほどまで勝ちを確信していたが、なんだか信じられなかった。
あっというまの決着。
やった…勝った!
自分の力で、一対一で勝ったんだ。
『ハイマットフルバーストミーティアシフト』
「ッ!?な…何?」
慌てて回避行動をとるシン。
海に空く巨大な穴。
そこから噴き出す魔力のうねり。
そして姿を現すキラ。
バリアジャケットはリアクターパージされ、紺色のインナースーツが剥き出しになっている。
キラはもう、一発の被弾もダメージも許されない。
早くもあとがなくなっていた。
『Reload.サーベル&ライフル』
「……行くよ…。」
新たにカートリッジをリロードし右手にサーベル、左手にライフルもち、キラは相手を見据える。
先ほどまでとは明らかに違う眼。鋭く、相手を見据え、翼が展開された。蒼い光が輝きを増す。
「……。」
シンも無言のままに翼を展開した。見とれてしまうほどに色鮮やかな光が翼から噴き出す。

モニターしている全員が息を飲む。
誰かが生唾を飲み込んだ音が、静まったアースラ内に響いた。
刹那。
交錯する緋色の閃光と蒼色の閃光。
舞い散る紫電、走る稲妻。空を自在に駆ける二つの光。撃ち合う剣。交錯する魔力弾。
そして、相手とのぎりぎりの距離ですれちがうシンとキラ。すれちがう蒼と緋の翼。
シンが咆哮し、連結アロンダイトを操り、キラを目がけ振り下ろす。
キラはサーベルで受けるが、容易く弾き飛ばされる。しかし、宙返りをしてうまく体制を建て直し、そのまま攻撃に移り、すれちがい様にシンに胴切りを見舞った。
もちろん障壁のお陰で、無傷ではあるが衝撃が体を駆け抜ける。
相手はバリアジャケットを損傷しているのだ。
障壁を貫通させ、一撃当てればシンの勝ち。
だが、その一撃がなかなか当たらない。
それがシンをいらつかせていた。

「まずいな…。」
シグナムが呟いた。その横で頷くザフィーラ。
「へっ!?何でなん、シグナム?」
キラの方がシンにダメージを与えているように見えるはやてにとって、シグナムとザフィーラのこの反応は意外だった。
「主、私たちが戦闘時に装着している騎士服は自身の身を護るためのものだということはご存じですよね?」
頷くはやて。そして、気付く。
「ということは、キラ君…。」
「そうだ。騎士服を損傷したキラは障壁を貫かれたら、もうあとがない。」
腕を組んだままのザフィーラが言った。
「そして、相手は障壁貫通に特化した剣士。」
シグナムが続けた。
「もし一撃でも当たったら、キラの敗けは決まりだな。」
ヴィータが声音を低くして続けた。
「…たぶん、キラさんには相当なプレッシャーがかかっています。」
シャマルが不安そうに言う。
「集中力をきらせば、キラ・ヤマトは負ける。
持久戦は…不利だ。」
シグナムのその言葉に、はやては頭を振る。
「あかん、みんなそんなことばっか言うとったらあかんよ!キラ君はうちの家族や!応援してやらなあかん!!
がんばれぇ!」
八神家一同によるエールがキラに送られた。

『フォトンランサー』
シンがフェイトから教えてもらった速攻性の射撃。
数は六つ。
高速で放たれたそれらは、キラに向かって一直線に放たれる。
着弾し、舞い上がる煙。だが、煙を裂いてキラが姿を見せ、左右のライフルを連結。
飛び散る薬筒。
放たれる奔流をシンは避け、片方のアロンダイトをキラに向かってブーメラン状にして投げた。
「…くっ!!」
顎を伝う冷や汗を拭う暇なく、シールドを展開。
しかし、弾き飛ばされ、バランスを崩し、上半身がのけぞる。
『ハイスピードスラスト』待ってましたとばかりにカートリッジを消費。超高速の突きがキラを襲う。

ハイスピードスラスト、障壁貫通能力に特化したシンの魔法。カートリッジを一発消費することで、爆発的スピードを生みだし、さらにアロンダイトの切っ先に魔力刃を発生させる。
その威力は一撃必殺。

猛然と迫るシンの突攻。
「フリーダム!」
『Alright, Double Shield!』
キラの前に縦一列にシールドが張り出される。
そして、キラは腰にフリーダムを下げた。
「そんなもんにぃぃいぃ!!」一枚目のシールドを容易に貫き、二枚目に差し掛かる。やや抵抗され、しかし、それでも止まらない。
見事に突き破り、残りはキラだ。
キラは両の手の平に、手より一回り大きい環状魔法陣を発生させた。
『クスィフィアス3』

腰に下がっているフリーダムから消費されるカートリッジ。
「もらったぁぁああ!!」
クスィフィアスはまだ生成途中だ。

どう見ても間に合わない。はやてとシャマルが目を閉じた。
「シン!駄目だッ!!」
フェイトが声を上げた。なのはもクロノ、ユーノ、アルフ、リンディは突然の大声にフェイトに視線を向けた。

「なっ!?」
バチィッ!!
突きを白羽取りし、シンのスピードに合わせて後ろに翔ぶキラ。
「つっ!やられてたまるかぁぁ!!」
咆哮とともに生成されたクスィフィアスを放った。
「うわぁぁ!!」
シンは弾かれ、後退する。「くっ!アロンダイト!!」
投げたアロンダイトが自分の手に戻る。
『ケルベロス!』
『カリドゥス!』
閃光がぶつかり合い、爆散。
『アロンダイトアンビデクストラスフォーム』
シンがアロンダイトを連結させ、一閃を見舞う。
しかし、キラはそれを後退することでかわし、フリーダムを連結。
カートリッジを消費し太い奔流を放った。
無情にも、その奔流はシンのソリドゥスによって反らされる。

結界内に魔力が充満する。こんなところでスターライトブレイカーを放てば、とんでもないパワーを秘めたものが出来るだろう。
そんな中で、戦うシンとキラ。
結界内が振動を始める。

「くっ!!」
冷や汗がキラの頬を伝う。シンの一撃はキラを障壁の上からでも容易に叩き落とすだろう。
だから直接障壁で受けることはしない。
「いい加減、落ちろぉお!!」シンの斬撃をかわし、その際に射撃を放つ。
二刀の剣による斬撃を交しながらシンの間合いで射撃を放つキラ。
避けきれない部分はライフル形態のままで受ける。
シンの蹴りは障壁で受け、すかさずキラも蹴りを放つ。
一方シンは苛立つばかりだ。自分の間合いで攻撃が当たらない。それならばと、距離をとりフォトンランサーを生成、キラに向かって放った。
「そんなものにぃ!!」
キラが回避しようと行動をとったその時、フォトンランサーの進行方向に障壁が発生、反射しキラに向かっていく。
「なっ!!こ、これは!?」
『シールド』
フォトンランサーが直撃、炸裂し、爆煙が上がる。
『ダブルケルベロスゲットセット』
煙から逃げるようにして出てくるキラの視界に入ったのは、ケルベロスの発射体勢に入っているシンだった。
「砲撃っ!?なら、僕は!!」『ハイマットフルバーストミーティアシフト』

「二人の魔力からして、これが最後の大技…だな。」
エイミィがモニターに表示している二人の残り魔力を見て、クロノが言った。
「決着が…着く!」
シグナムが言う。
「だけど…、砲撃はキラ君に有利なんじゃ?」
なのはが呟いた。

シンは発射体勢に入ったまま、ケルベロスで空になったカートリッジをリロードする。
(フリーダムのカートリッジを空にすれば、俺の勝ちだ。リロードする暇を与えない!
フリーダムの装填弾数は左右合計二十発。
さっき、あいつがリロードしたときから、数えてる。連結バスターに四発。クスィフィアスに二発、カリドゥスに二発。
ミーティア起動に四発。他武装起動に六発。
計二十発。
フリーダムの残弾はゼロだ!)

シンは両アロンダイトから一発ずつカートリッジを消費。
空気中から魔力を掻き集める。

「これって…なのはの!?」
思わずアルフが声を上げた。
「スターライトブレイカーに似てるけど…。」
とユーノ。
「あぁ、多分、こうでもしないと、あのミーティアには勝てないだろうな。
だけど…これなら…シンは勝てるかもしれない。」
「なんで?」
クロノの言っている意味がわからないアルフにシグナムが説明する。
「そうだな…。キラ・ヤマトのミーティアは拡散型。相手の数が多かったり、敵が大きければ大きいほどその威力を発揮する。
他方、シン・アスカの砲撃は集中型。
この時点でパワーの差がでる。押し合いになれば、シン・アスカに優勢だ。」
「あぁ、一見するとミーティアは太い魔力の奔流に見えるけど、実は数が多いだけだからね。」
相槌を打つクロノ。

シンは笑う。勝利を確信した。フリーダムにはもうカートリッジがない。
「いっけぇぇえぇえぇぇ!!」『Burst!!』
「これで決める!!」
『Dischage!!』
二人の咆哮が木霊すと同時、轟音とともに放たれる砲火。
キラは押し合いをすると決め込んでいた。
しかし、確かに見えた。
シンが放つと同時に動き出したのが…。

辺りはケルベロスとミーティアフルバーストの激突、反応、爆散によりすさまじい光の輝き放つ。
モニターしていたなのは達は目を閉じた。

不快なほどの眩い光の中をシンは飛翔する。
『Till The Enemy.500, 400, 200, 100』
距離が縮むのが早くなった。意味するところは相手もこっちに向かってきているということだ。
恐らく、カートリッジのリロードはしていない。
こちらが動いたあとすぐに動いたはず。
キラのかげをうっすらとだが捕えた。
『Highspeed…Warnning!!
Shield!!』
デスティニーが張ったシールドは全包囲。
頭上、四方八方、足下からのランダム砲撃。
「そんな…、カートリッジは…もう…!!」
シンの視界の人影、キラが目前まで迫っていた。
アロンダイトの一閃で薙払う事を決め、長剣を振り下ろす。
ハイスピードスラストで本来ならば使うはずだった強化された魔力刃が、キラのサーベルによる一閃を防ぎ、弾く。
その直後に閃く蒼い閃光。通常射撃ッ!?
辛うじてかわすシン。

キラはシンが動いたのを確認したあと直ぐに動き出していた。
フリーダムの装填弾数は二十発。しかし、最大は二十二発だ。
最後の二発を使い、十枚のうち、四枚だけを飛ばす(カートリッジが足りないため四枚しか飛ばせない)。残りの六枚の内、二枚は四枚の翼の魔力にプラスする。やがて見えるシンの影。
キラの残りの魔力はない上に、カートリッジはゼロ。リロードする暇は…ない。自分の魔力も限界に近い。ドラグーンにより、案の定動きを止めたシン。
キラは迷わず右のフリーダムで斬りかかる。しかし、強化されたアロンダイトが斬撃を阻み、弾いた。
反動で持っていかれる体をそのままに、ライフル形態の左のフリーダムで直ぐに射撃。
シンが体勢を崩したのが目に入った。
(今だ!!)
反動を利用、半ば強引にターンし、右のフリーダムをライフル形態に変え、シンの額につきつけた。

光が止む、もはやシンも自力でシールドを張るだけの魔力は残っていなかった。カートリッジを使って張ることはできるが、隙が生まれる。
目の前にいるキラは、シンに銃口をつきつけたまま、引金を引こうとはしなかった。
(こ、降参を待ってるのか?)
光がはれる。
モニターしている皆が沈黙した。
そして、キラが口を開く。「僕の…負けだね…。」

「えっ…、な、何で。」
キラが引金を引くと、カチッと音がしただけだった。魔力切れ、一方のシンはまだ魔力刃健在、カートリッジも残っている。
「な…なんだよそれ!」
「僕はもう魔力が残ってない。でも君は…。」
言いたいことは分かる。だが、納得いかない。
なおも何か言おうとするシンにキラは言った。
「また、やればいいよ。…これから、何度でも…。」
「な、納得いくかー!!俺はあんたに致命打を一回も…。」
「でも、僕はバリアジャケットを損傷しているし、シンは…ー」
『キラ君、シン君!今からアースラに転送ー…。』
キラの言葉を遮り入ってきたエイミィから通信が途絶える。
そして、シンとキラ、二人は異変に気付いた。
ミーティアフルバーストと収束ケルベロスが衝突した場所に淀みが出来ている。広がりくる淀。
不思議と嫌な感じはしなかった。
「キラさん、これって…。」肩をすくめるキラ。
「でも、嫌な感じはしないね。」
「嫌な感じって?」
「命の危険とか…さ。淀みの中心にある白い光、見えるでしょ?」
言われてみればそうだが、しかし、得体のしれないものは怖い。
「まぁ、それは僕も怖いけどね。」
「どーします?」
「とりあえず、応援またないと…、結界を破るだけの魔力も、もうないし…。」
「デスティニーもフリーダムも、警告しないみたいですね。」
危険ではない…。そういうことだろうか…。しかし、自分が危機に面して気付いてないとき、いつも知らせてくれいたのはデスティニーだった。
恐らく、キラのフリーダムもそれは同様だろう。
「前に…オーブの慰霊碑で言ったこと、君は覚えてる?」
『ごまかせないってことなのかも…。
いくら綺麗に花が咲いても…、人はまた、吹き飛ばす。』
「…はい。覚えてます。」
なおも広がる淀みを前に何を言い出すかと思えば…とシン。
「吹き飛ばされても、僕はまた…花を植えるよ…。」きっぱり言い切るキラ。
「けど、それじゃ…また!」キラは頭を振って否定する。
「今度は君も一緒に…。」
「それで…駄目だったら?」「なら、君の友達や、知り合い。友達の友達や、知り合いの知り合いも一緒に…。」
「はぁ?」
「そうやって、皆で植えていこう?何度も失敗を繰り返してしまう僕たちだけど…。そうやって変えていこう…。少しずつ…。確実に…。」
シンはしばらくキラを見ていた。キラはシンを見ている。
やがて、シンがアロンダイトを腰に下げ片手を空けて、差し出した。

「いきなり変われっていったて…無理だもんな…。」
「だから、吹き飛ばされないように、柵を増やして行こう。」
キラはシンの手を握った。目前にまで迫る淀みが、シンとキラを包み込む。
「俺たち…死ぬんですかね?」
「…この世界には僕も君も本当は存在していないからね…。もしかしたら死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。」
淀みは二人の体を飲み込もうとする。
「…もし死ななくて…、それで元の世界に戻れてたら…、また勝負しましょう。今度はMSで!」
キラは頷いた。
「約束ですよ?」
二人が握っていた手が離れ、そして、それぞれは光に飲まれって行った。

アースラ。
「駄目だ、通信も念話も駄目。結界は解除したけど、二人がいない…。」
「そんな…、シン…。」
「キラ君…。」
艦内に重苦しい雰囲気が包む。クロノや、エイミィが何やら思いつめている。
舞台のセッティングミスだと思っているのだろうか。「捜索は…続けましょう。結界内で何が起こったか分からない以上、まだ生きている可能性はあるわ。
全責任は私が負います。」モニターは淀みが発生したと同時に、何も写さなくなった。
通信も、連絡をとる手段も何もかもが突然異常をきたした。
それに、とリンディは続ける。
「突然来たんだもの、突然帰ってもおかしくはないわ…ねっ?」
その言葉にいくらか雰囲気は軽くなり、あきれたように数人が笑った。

『キラッ!キラッ!!』
聞き慣れた声でキラは意識を取り戻し、目を醒ました。
「こ、ここは…。」
見慣れた狭い空間、流れ込む水。それが海水だと理解するのに少し時間がかかった。
「そっか…、戻ったんだ。」夢かとも思ったが、大破したフリーダムがアークエンジェルに収容され、パイロットスーツを脱がされた時に、リストバンドが手首に、キーホルダーがポケットに入っていた。
はやて、シャマル、ヴィータがくれたものだった。

インパルスを収容したミネルバ。
シンはコクピットから降り、皆の称賛の中アスランの元へと向かった。
「生きてますよ、キラって人は…。」
「何を根拠に!!」
胸ぐらを捕まれるシン。そのまま、シンは言った。
「だから今度は勝ちます。討つんじゃなくて…、勝ちます。…絶対に…。」
シンの言っている意味が分からずに、アスランは握っていた襟首を離す。
シンはそのまま、着替に更衣室へと入る。
パイロットスーツを脱ぐと両の腕には黒と桜色のりぼんがついていた。
「夢じゃ…なかったんだ…。」
なのはたちと過ごした約一ヶ月は確かに現実だった。

闇の書事件から6年後。
桜舞う季節。
なのはたちは、各々成長し、管理局の職につくことになった。
高校に入学してから数日が経つ。
そして今日は管理局に勤めている仲間、クロノ、ユーノ、エイミィ、皆が集まる日だ。
もちろん、はやても、フェイトも、ヴォルケンリッターの皆も…。
学校の屋上になのは、フェイト、はやての三人は集まっていた。
「ねぇ、なのは、はやて…。」
呼ばれた二人はいつもと変わらぬ元気な顔を向ける。「…うぅん、何でもない。」三人はそれぞれデバイスを取り出した。
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。」
「きっと、シン君もキラ君も無事やって。」
言葉にしなくても、どうやら二人とも分かっていたようだ。自分が何を聞こうとしていたのかを…。
「きっとまた…会えるよね…」
三人は声を揃えデバイスを起動させた。

管理局民間協力者
シン・アスカ、キラ・ヤマト共に現在も捜索中。

蒼い翼と緋い翼はまだ、戦場を駆けている。
運命を、未来を、混沌渦巻く世界を変えるために…。不屈の心を持つ、小さな少女が言った。
「永遠なんて…ないよ。人は変わる。皆変わっていく…、私もあなたも…変わっていかなくちゃいけないんだ!」
その言葉を胸にとめて…。「キラ・ヤマト!フリーダム行きます!!」/「シン・アスカ!デスティニー行きます!!」

シンとヤマトの神隠し 完

 

シンとヤマトの神隠し~Striker'S~ ◆CmPRCdy5tY氏
Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第01話