PHASE06―世界の傷痕―
#1
う…僕は……。そうだ、戦災復興支援をしてて…そこで、空から何かが落ちて来て…。
目を開けると、そこには地獄の様な光景が広がっていた。
「お母さん?お母さん?何処に行っちゃったの?」
「痛ぇ…痛ぇよ……誰か…助けて…くれ……。」
パッと見て、生存者はあまり居ないと思う…。あちこちにクレーターが出来て、仮設住宅やテントからは火が上がっている。
「誰が……誰がこんな事をしたんだ……!!」
「キラ兄ちゃん…」
「あ…どうし―――」
言葉を失った。その子は、瓦礫の破片が目に刺さっている。…失明している。
「お父さんとお母さんを捜したいんだけど…目が見えないの…それに…凄く痛いの……」
「……分かった。僕が君のお父さんとお母さんを捜してくるから、君は…そうだ、ちょっと着いて来て?」
「うん……。」
ひとまずこの子は安全な所に連れて行かなきゃ。
「よし、此処に居てね?僕が来るまで動いちゃ駄目だよ?」
「うん…。」
「大丈夫。僕が君のお父さんとお母さんを連れて来るから。だから安心して?…ね?」
……捜せるだろうか?この状況だ…多分…もう……
「後ろ向きに考えちゃ駄目だ!とりあえず、生存者を早く避難させないと!!
皆さん!!あのテントまで避難して下さい!!」
「キラさん…ちょっと手を貸してくれ!!此処に生存者が居るんだ!!」
「っ…!?分かりました。今行きます!!」
生存者が見つかったみたいだ。一人の男性が瓦礫をどかしている。僕も手伝おうとした時、腕に鈍い痛みが走った。
「っ………!?」
「キラさん!?アンタ…その腕折れてるじゃねぇか!?アンタは救護班の方に行って治療して来い!!」
「それだと間に合いません!早く助けないと間に合わない!!」
腕は動かす度に悲鳴を上げるけど、今は構っていられない。生存者を助けて、あの子の両親を捜すんだ!!
#2
「せー………の!!」
瓦礫をどけると、中年の男女が倒れている。男性の方は、女性を庇う様に倒れている。だけど、酷い怪我をしている。
見覚えの有る顔だ。この人達はあの子の両親だ。
「大丈夫ですか!?」
声を掛けても返事が無い。意識を失っているのか!!
「早くテントの方に運ばなきゃ!!」
「キラさん!その腕じゃ無理だ!!もうじきオーブの救護班が来るから大丈夫だ!!」
「でも…約束したんです…。この人達を…あの子に……絶対に会わせるって……!!」
父親を背中におぶる。でも、腕で支えられない上に、体格が良いから重い。
「……ったく、言い出したら聞かねぇなぁ。まぁ、こっちの人は俺が運ぶよ。」
「助かります。」
呼吸は有る。まだ大丈夫だ。
絶対に死なせない。
テントまで辿り着くと、怪我をした人や小さな子供達で溢れかえっていた。
オーブ軍も動いている様で、怪我人を治療したり、救命活動に励んでいる。
「キラ様!?怪我を……」
「僕は大丈夫です。腕が折れただけですから。それより、この人達の治療をお願いします。まだ助かる怪我です。」
「ハッ!!」
あの子の両親を救護班に任せて座り込む。
「……そうだ、早くあの子に伝えなくちゃ。ご両親が無事だって…。」
居た、あそこだ。
「やぁ、お待たせ。」
「キラ兄ちゃん?お父さんとお母さんは?」
「救護班の人に任せたよ。大丈夫、少し怪我はしてたけど、ちゃんと助かるから。」
「本当…?」
「僕が君に嘘を吐いた事は無いでしょ?さ、行こう。」
「う、うん……。」
あの子を両親の病室に連れて行った後、僕は廊下に有った椅子に座って休んでいた。
「疲れた………。もう動けそうにないよ…。」
「キラ様…?お疲れのところ申し訳無いのですが、ユウナ様が至急オーブへお戻りになるようご命令が…。」
「え…?」
「あからさまに嫌そうな顔をなさらないで下さい。」
ユウナさん…僕に何の用だろう?
#3
でも、僕が此処を離れて大丈夫なんだろうか?他人に任せるのもなんかなぁ…。
「行ってこいよ。キラ」
「そうだぜ。俺達が居るんだから、俺達に任せろよ。」
僕の肩を叩いてそう言うのは、サイにカズイ。
「でも……。」
「帰って来ない訳じゃないんだろ?それに、お前…その身体で無理されたくないしな。」
「ゔ………。」
「はい、行った行った。早く治して、ついでに用事も終わらせて帰って来い。」
サイが僕の背中をグイグイと押しながらそう言う。
「そんな顔すんなよ。お前みたいに色々出来る訳じゃないけど、それでも少しは手伝えるんだからさ?」
「…分かったよ。ごめん」
「馬ー鹿。こういう時は、ありがとうって言うんだよ。」
「うん、ありがとう。二人共」
そうだね…今の僕に出来る事はあまり無いし…。行くしかないかな。
「キラ様…準備の方は?」
「大丈夫です。行きましょう。」
こうして、僕はオーブへ向かう事にした。
―ミネルバ館内―
青い空、白い雲…この空を眺めるのが懐かしいな。今までは気にもしなかったけど、改めて見ると綺麗だ。
俺達(というか俺とルナ)は、甲板で射撃訓練をしていた。ミーアは扉の辺りからこっちを覗き見ている。銃声のする度に目を丸くして驚く様を見て、少し笑いそうになった。あぁ、やっぱミーアは一般人で、俺達とは違うんだ…とつくづく実感する。
「ねぇ…シン?」
「ん?」
「ラクス様は何してるの?目から構って光線出してるけど。」
「言うな。アレをスルーしないと、連れ去られるぞ?」
「連れ去られるって何処によ?そういえば…レイ、大丈夫かしらね?ジュール隊の隊長って、すごい恐いみたいよ?」
「まぁ、レイは何でも普通にこなす奴だし、大丈夫だろ?」
レイが新型のMS貰ったのを滅茶苦茶悔しがってたのは敢えて追求しないでやろう。それと、昨日まで嫌がらせのメールを送っていた事も。
そんな事を考えていると、アスランがいつの間にか此処に居た。
「まだまだだな?シン」
「そりゃ…アンタに比べたら誰だってまだまだだろーが…」
「ん?」
「何でもありません…ていうか足踏むな!!絶対に聞こえてただろアンタ!?」
#4
「そういえば…後、数日でオーブに着くそうですよ?」
「グラディス艦長に聞いたよ。オーブに着けばカガリももう安心だ…。」
溜め息混じりにそう呟いて、アスランは手摺に背を預ける。
因みに、ルナは一足先に訓練を終わらせ、ミーアを連れて食堂まで連れて行った。
「戻るんですか?オーブに」
「あぁ、戻らないといけない。」「そこであなたは…何をするんですか?」
アスランが押し黙る。俺から視線を反らし、背を向ける。
「……何をするんだろうな?何をすれば良いのか…あの時から、その答えがまだ見つからない…我ながら情けないな。」
自嘲する様に笑いながら銃を握る。これ以上この話はしない方が良さそうだ。
俺は、どうしても聞きたかった事を聞く事にした。
「ザフトには戻らないんですか?」
「……一度ザフトを裏切った俺が戻れる訳が無いだろう?議長にも戻ってくれと言われたが…それだと俺自身が納得出来ないよ。身勝手な理屈だけどな。」
「…そうですか。」
「それに、オーブにもユニウス落下の被害が出ている筈だ。俺に何が出来るって訳じゃないが、それでも…何かはしないといけないしな。」
風が出てきた。話も終わったし、そろそろ行くか。
#5
食堂に着くと、みんながモニタを見たまま固まっている。
ミーアにルナ…メイリンやヨウランまでもが固まっている。
「みんなどうし―――!!!?」
モニタの映像を見て、俺の頭は真っ白になった。アスランもただ呆然としている。
モニタの中では、エターナルが…ジュール隊が、連合軍の放った無数のミサイルを撃ち落としていた。
また一つ…ミサイルを撃ち落とす。ミサイルの爆発は半端なものでは無い…そして、ミサイルに刻まれた刻印…。
核ミサイルだった。
「そんな…どうして核なんか!?連合がどうして撃って来るんだよ!!」
モニタには、更にニュースが流れた。映ったのはユニウスを落とそうとするテロリスト達のMS。
ザフト製の…MS……。
「ユニウスが落ちたの…ザフトの所以になってるのかよ?」
「そんな…私達だって必死に…」
こんなの…こんなのって…!!
今のところ、ジュール隊が核を全て撃ち落としているけど、数が数だ。一発でも撃ち漏らせばそれこそ…。
くそっ…!!俺は…俺はまた何も出来やしないのかよ!!
「シン…。」
ミーアが俺に駆け寄って来る。そして、俺の手を握る。
今更気付いた…。手に力が入り過ぎていたのか、爪が突き刺さって血が出ていた。
「あ、あぁ…大丈夫。」
「大丈夫じゃないでしょう!血が出てるわ!!ほら、医務室まで行かなきゃ!!」
「シン、ミ…ゲホッゲホッ!!ラクス様もそう言ってるんだ。早く治療して来い。」
みんなの視線が俺を捉える。ミーアは全然気付いてないし、アスランは苦笑しながら俺の肩を押す。
「…わ、分かりました。行きますから手を離して下さい。」
「はい、では参りましょう♪」
「俺の話聞けよ!!」
結局ミーアに引っ張られて俺は食堂からフェードアウトする。
……ミーアの手を握って分かった。微かに震えている。
#6
「はい、これで治療終わり。これからは力み過ぎ注意よ?」
「アハハハ…気をつけます。」
そう言って医務室を出る。俺の手には包帯が巻かれている。なんと大袈裟な…。
「いくらなんでも、これは大袈裟じゃないか?」
「………。」
「ミーア?」
「え?あ……何?」
話聞いてないな。全く…。
「どうかしたのか?」
「うん…ほら、さっきのニュース。連合軍の人達がプラントに核兵器を撃って、ユニウスが落ちたのがプラントの所以になってて…。」
「“戦争が始まるんじゃないか”…か?」
「うん…。」
……ミーア…そりゃ恐いよな。戦闘経験も無ければ、ただの一般人なんだから。それに、今居る場所も…。
「大丈夫。俺がミネルバを守り抜いてみせるさ。ルナだって居るし、まだ来てないけど…新しい隊長の人なんかフェイスなんだぜ?
プラントの方だって、あのジュール隊が居るんだ。だから大丈夫だよ。」
「うん…ありがとう。駄目だなぁ私って。この艦に乗るって決めた時から、こうなるかもしれないって分かってた筈なのに…。」
「ミーアは今の今まで一般人だったんだから、それは仕方ない事だと思うよ。…実は、俺も出撃前とかになると結構な…。」
「そうなの…?」
「そりゃそうだよ。多分、みんなそうだと思う。だから、気にする必要なんか無いって。」
少しだけミーアの表情が明るくなった。
しかし、我ながら不器用だと思う…。フォローに向いて無いのかな?俺。
「どうしたの?何か考え込んでるみたいだけど。」
「ん?あぁ、慣れないもんだなーって思ってさ?」
「……?」
ミーアが疑問符を浮かべながら首を傾げた。
#7
食堂に戻ると、ルナがニヤニヤしながら俺を見つめている。
「何だよルナ?ニヤニヤして…何か気持ち悪いぞ?」
「いやーシンがラクス様と何をしてたのかなーって♪で、どうなの?」
「は?ただ医務室行って、包帯巻いただけだけど…。」
ミーアも首を傾げている。何か勘違いしてないか?
俺の手を引っ張り耳打ちする。
「シン…あんたそれでも男なの?駄目よ。男は奪ってなんぼよ。」
やめてくれ。アスランと議長に殺される。
「何を言ってるんだよ。俺はやましい気持ちで受けた訳じゃないっての。」
「怪しいもんだなー。」
ヨウランまでもが変な事を言い出した。なんだってんだ?
「ルナ、ヨウラン…いい加減にしないと、ハゲるまで苛めるぞ?」
「はいはい、分かったわよ。」
「恐い恐い…。」
やれやれだ。いつから変な誤解受ける様になったんだ?
そんな事を考えようとした瞬間、館内に警報が鳴る。
『コンディションイエロー発令!!コンディションイエロー発令!!パイロットは至急ハンガーに集まって下さい。』
「な!?敵襲かよ!!」
「うわぁ…私とシンしか居ないわよ?ヤバいわね。」
そう、レイはジュール隊に居るし、実質は二人のみだ。フェイスの隊長は何をやってるんだよ!!
「三人だ…俺も出るよ。艦長に頼んでみる。」
「アレックスさん…。」
三人…か、相手の数や装備によっては、かなり厳しい戦いになりそうだ。
「シン…頑張って下さい。」
「大丈夫です…ラクス様。さっき言った通りですよ。」
「ほら!早く行くわよシン!!」
「分かってる!!アレックスさんは艦長の元に…」
「あぁ、任せてくれ。」
そう、この時はまだ知らなかった。この海域では、連合の新型MAが配備されている事に。
PHASH06―END