PHASE11―月下の戦場―
#1
オーブ近海で俺達を待ち受けていたもの。それは、おびただしい数の連合艦だった。夜というせいもあって、目視で確認するのは難しいが、メイリンの話では十隻との事だ。MS舞台もそれは“結構”な数らしい。
更に追い討ちを掛ける様に、オーブ側から砲撃されている。
『どうやら…私達は連合に売られたみたいね。オーブ側に戻る事は出来ないわ。突っ切るしかないわね…。シン、ルナマリア?今はあなた達しか居ないわ…。頼むわね?』
「了解!メイリン、俺はブラストインパルスで出る!!全艦薙払ってやる!!」
『了解。』
『了解。それにしても…ちょっと突ついたら、うじゃうじゃ出てきそうで嫌だわ。』
あからさまに不満気にルナがぼやく。確かに…前に戦った時は、戦艦六隻にMS十八機…それでも厳しい戦いだったのに、今回はそれを上回っている。
「それでも…戦艦さえ潰せば!」
戦艦に向けて、のビーム砲を放つ。しかし、そのビームが戦艦を射抜く事は無かった。
『嘘!?あ…アイツって…この前出てきた……!!』
「あの“カニ野郎”!?また出て来やがったのかよ!!」
俺達を嘲笑うかの様に、光の盾をかざし…一機のMAが静かに佇む。奴に砲撃戦を挑むのは無謀過ぎる…。しかし、此方は砲撃仕様のブラストインパルスに、ルナのガナーザク…。
ここはソードシルエットに換装すべきか?
既に“カニ野郎”が砲撃の準備を始めている。
「クソっ!考えてる暇も無いってのかよ!!メイリン!ソードシルエットだ!!」
『了解。ソードシルエット、射出します!』
前みたいに…無様にミネルバを撃たせるもんか!アイツを叩き斬ってやる!!
#2
『回避!!』
ミネルバが、MAの砲撃に前もって対処出来た為に今回は避ける事が出来た。
しかし、MAに接近しようとするも、その周りをしつこく飛び回るMS達の弾幕のせいで、一太刀入れるどころか接近すら出来ない。
「くっ…!?ルナ!援護は頼めるか!!」
『無茶言わないでよ!艦の周りの奴等墜とすだけで此方は精一杯よ!!』
数機のMSがミネルバの周囲を徘徊し、事有る事にミネルバを狙い撃って来る。
くっ……!!俺は…どうすれば良いってんだよ!!
MAにフラッシュエッジを投げるが、弾幕で墜とされる。ビームライフルで射抜こうとしても、狙う前に砲撃を避ける事で手一杯だ。
「一か八か…賭けてみるしか無い…ってか?悪い冗談だ!!」
しかし、いつまでもこの状態ではミネルバはやがて墜とされてしまう。俺がやるしかない!
『シン!あのMAだけでも何とかして頂戴!!』
「く……っそ…!」
フルブーストでMAまで突っ込んで行く。装甲が持てば良い…今なら、コオロギがびっしり浮いたプールだろうが何だろうが、飛び込んでやるさ!!
ビームが何発か被弾する…肩のアーマーが吹き飛び、脚部もビームで切断されるが、それでも俺は“賭け”に勝った。最早、MAは目と鼻の先だ。
「今回は俺の勝ちだ!!!!」
機体下部から深々とエクスカリバーを突き刺し、ダメージを受けた上半身と下半身を分離する。MAが海中に沈んで行き、爆散する。
コアスプレンダーは耐久力こそ無いが、的は小さい。むざむざ当てられる事は…多分無い筈だ。
『まさか特攻するなんて…相変わらず無茶するわね?』
「うるせ。メイリン、チェストフライヤー、レッグフライヤー、ブラストシルエットを頼む!ルナは弾幕を張ってくれ!!」
『無茶な注文だわ!』
#3
敵が攻撃の手を緩める事は…期待するだけ無駄か。コアスプレンダーなんていう、インパルスの一番無防備な状態になっちまったからな…。それも、チェストフライヤーやシルエットが来るまでは、バルカン砲しかない。
更に此方は一発でも当たれば、もれなく撃墜というゾッとしない状況だ。
なんだか昔、マユと一緒に遊んだ横スクロールのシューティングゲームみたいだな。
「換装するまでが勝負か…!」
『うわっ!?あ、危ないじゃないのっ!』
ガナーザクのビームがMSを射抜く。ダガーと思わしきMSが爆散し、辺りを照らす。
「ルナ、ザクはまだ持ちそうか?」
『まだ何とかね。ただ…ちょこまかとうざったいわ。アイツ等。…っ!そこっ!!』
『う、うわあぁ―――…』
鼻を鳴らし、ルナは再度狙撃した。もう一機射抜かれて墜ちて行く。
「それだけ無駄口叩けるなら、まだまだいけそうだな。」
『まぁね。それなりにはしぶといつもりよ?
シン、アンタこそ気を付けなさい?今撃たれたら、棺桶になっちゃうわよ?』
「ハハっ…洒落にならないな。…っと、そろそろ来るか。」
ミネルバはまだ装甲が持っているが、それでもそこまで長く耐えれはしないだろう。
先程から砲撃しようとしている奴には、バルカンを放って牽制してはいるが、大したダメージは与えられない。
と、ミネルバのカタパルトからブラストシルエット…並びに上半身、下半身が射出される。
『シン!今射出したよ!』
「やれやれ、やっと来たか…。了解!これより薙払う!!」
#4
――オーブ首相官邸
「ユウナ!コレはどういうつもりだ!!私はこんな事……」
「カガリ、これはもう決定した事だよ。オーブは連合と同盟を組む事になった。君は、オーブがどうやって此処まで復興したのか…忘れてはいないだろう?」
カガリとユウナさんが口論している…。とは言っても、カガリが一方的に非難しているだけだけど。
アスランはアスランで、何か思い詰めた表情で立ち尽くしている。
「しかし!そのオーブを焼いたのも連合だ!!そんな相手と同盟など…」
「連合が駄目ならザフトかい?ところが…そのザフトだって、ユニウスを墜として来た訳だ。連合はおろか、オーブ諸国にも甚大な被害が出たと報告されているよ。
それでも連合は支援してくれている。今その支援を切られたら、民はどうなる?僕は、ザフトに支援出来る程の余裕が有るとは思えないけどね?」
それを言われて、カガリが言葉に詰まる。
「だ…だが!ミネルバはユニウスの破砕作業に貢献してくれたんだ!!それを討つなんて!!」
「それを話して、民は納得するのかな?納得させるだけの証拠も無いじゃないか。
これが答えだよ。君に覆す事は出来やしない。」
そうだ。カガリの言う事は、多分本当の事なんだと思う。でも、それだけでオーブの人達を納得させるのは不可能だ。実際に被害を受けて…傷付いた人達には。
「カガリ…感情だけで考えてる様なら、君にこの国を統べる資格は無い。
僕達の仕事はね?この国の民を守る事だ。その為なら、僕は手段を選ばない。」
カガリはそのまま黙ってしまった。ユウナさんが僕に歩み寄って来る。
「済まないね。さて、キラ君。君には“少々頼みたい事”があるんだ。来てくれるかい?」
「は、はい…。」
#5
ユウナさんに応接室まで連れて行かれた。いったい、僕に頼みたい事って何だろう?
応接室の扉が開く。すると、仮面を被った一人の男性が窓の外を眺めていた。
「彼を連れて来たよ?ネオ・ロアノーク大佐。」
ロアノーク大佐と呼ばれた人が、此方を振り向く。何だ…この人…?まるで………
「あぁ、ご苦労だったな。ユウナ・ロマ・セイラン。
そして、初めましてかな?スーパーコーディネーター君?」
「なっ……!?」
どうして僕の事…?それに、今の声は…“あの人”?
そんな…有り得る筈が無い。“あの人”は…二年前に死んだ筈じゃないか!!
「それでは、僕はこれで…。」
「あぁ、それではまた後程…。」
「ど…どうしてあなたが!どうしてあなたが此処に居るんですか!!ムゥさん!!」
僕が“彼”の名前を呼ぶと、彼は「何を言ってるんだ?」という様な表情で、
「おいおい、誰だそりゃ?良いか?坊主…俺はネオ・ロアノークだ。誰と勘違いしてるかは知らんが、人の名前は覚えろよ?」
別人…なのかな?でも、雰囲気も話し方も声も…何もかもが“彼”に重なって見える。
「す、済みません。」
「や、気にしてはいないよ。ところで、君が呼ばれた理由…知りたくはないか?」
そうだ…僕は何故呼ばれたんだろう?何だか、嫌な胸騒ぎがする。こういう予感だけは絶対に外れない。
「我々に協力してもらう。拒否権は無いけどな。」
「…………。」
サイ…カズイ…。ごめん、暫く帰れそうにないかもしれない…。
#6
――オーブ近海
「クソっ!コレじゃ撃っても撃ってもキリが無い……ぐっ…!?損傷が激しくなってきた…。」
『もう!泣き言なら他所で言いなさいよ!!……っつぅ~…頭打ったわ……。』
クソっ!数が多すぎる!!
戦艦はかれこれ三隻墜とした…だけど、此方も相当な痛手を負ってしまった。
『十二時の方向から熱原感知!距離二万…これは…カオス、アビス、ガイアです!!
それともう一つ………』
『え?えぇ!?こっちはもう手一杯よ!!』
「なっ…!?奴等…やっぱり地上に降りてやがったのかよ!よりによってこんな時に!!」
出撃前に、艦長が言っていた事だ。“連合の強奪犯が、地上に降りた。”と、ジュール隊から報告が有ったらしい。
「コイツ等に……!こんな奴等に…!!墜とされてたまるかぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
トリガーを引く…しかし、ビームが放たれる事はなかった。バッテリーの残料が、既にギリギリまで減っている。
そして、その隙につけ込む様にダガーが迫って来た。既にビームサーベルを振り上げている。
『貰った!』
『シン!?』
「しまっ……―――」
……?斬られて…ない?
ダガーの腕の肘から先が折れている。いったい…誰が?
『ふぅー…間に合ったみてーだな。いやー…冷や冷やしたぜ。大丈夫か?インパルスのパイロット。』
上空から“何か”が、此方をめがけて飛んで来た。そいつは、ミネルバの周りを飛び回るMSを正確に撃ち抜き撃墜した。
「たったの一瞬で…三機も!?」
いったい…誰なんだ?
#7
空から現れたのは、オレンジ色のやたらめったら目立つ機体だった。
『ほら…そこだっ!』
『な…なんだ奴は!?ぐわあぁぁぁ……―――』
「な…なんなんだよアイツ…。」
そいつは、既に次の獲物を仕止めていた。そして、次の獲物に狙いを定める。
『シン…あれ誰?』
「今はそんな事気にしてる場合じゃないだろ!今のうちだ…メイリン!デュートリオンビームだ!!」『は…はい!!』
突然の増援だったが、助かったから今はそれで良い。多分、奴が議長の言っていたフェイスの隊長だろう。
『あのオレンジ野郎…!地上に降りて来やがったのかよ!!』
『へへ…今度こそ潰しちまえば良いじゃんか。』
『………』
今度はカオス、アビス、ガイアの三機が視界に入るまで迫って来た。チッ…面倒な奴等が来やがった!!
『おい、インパルスにザク。』
「は、はい。」
『雑魚は俺が引き受けた。お前達は、戦艦を墜としてくれ。まぁなんだ…奴等の相手はちょっとばかし慣れてっからな。』
随分な自信家だな…。でも、今は従った方が良いな…。
「ルナ、戦艦を狙うぞ?雑魚はあの人に任せよう。」
『えっ?でも…まぁ、そうするしかなさそうね…。』
そして、俺とルナは戦艦を狙う事にした。俺達の砲撃を潜って行く様に、そいつがMSの群れに突っ込んで行った。
『テメェ!この前みたいにいくと思うなよ!!』
『ハッ…嫌だねぇ~。そんなガツガツしてっとモテねぇぜ?』
触れ合いそうなくらいまで接近した両者が、剣を交えた。
PHASE11―END