Sin-Meer_PHASE12―突破―

Last-modified: 2008-03-19 (水) 10:26:10

PHASE12―突破―

 

#1

「コイツでっ!」
『墜ちなさい!』

 これで墜とした戦艦は五隻…後半分だ!

『なんだなんだ、良いのは機体だけかよ?』
『この……クソ野郎が!!』

 一方的にカオスが圧されている。圧倒的だ…。海中からカオスが急襲するも、即座に盾で叩き伏せる。

『クソっ…!な…なんだってんだよコイツ!!』
『ハハ…俺の事が気になって仕方ねぇみてぇだな!ま、聞こえてねぇだろうけど、一応名乗っとくか。
 俺はハイネ…ハイネ・ヴェステンフルス…フェイスさ!!』

 ………、やっぱりあの人がフェイスの…。
 右腕から伸びた何か…ワイヤーの様な鞭の様な物が、アビスを拘束する。そのまま振り回し、背後から迫るガイアに投げ付ける。

『随分とでけぇ魚が居たもんだな。おい、インパルス。さっさと戦艦墜としてくれ。……ちょっとノリノリで来たけど、あんまり長いとこ持ちそうはねぇわ。』
「はぁ!?もう少し持たせて下さいよ!」
『うるせぇ!人にはな、可能と不可能があるんだ!!』

 な、なんなんだこの人!?強いけど…強いけどさぁ、何か間違ってないか?
 い、いや…それより次の艦を狙わないといけないな。

『これで七!…そろそろ突っ切って行けるんじゃない?艦長、どうですか?』
『そうね、後は…あの三機さえなんとかすればいけそうだわ。』

 そうなると…俺の出番って訳か。この場合は……

「メイリン!フォースシルエット!!」
『了解!フォースシルエット射出準備開始します。』

 

#2

「ルナ!今の内に飛行可能な装備に換装してくれ!!二人だけじゃ手が足りない。」
『オッケー♪まぁ…格闘はあんまり得意じゃないんだけどね…。』
「言ってる場合か!」
『もー…怒鳴らないでよ。鼓膜破れると思ったわ。メイリン、飛行用のウィザードお願い。』

 ザクがミネルバに入る。それと同時に、フォースシルエットが射出される。

「えーと…ヴェステンフルス隊長。これより援護……」
『おいおい、こんな土壇場でイジメかよ?最近のパイロットは、どんな教育受けてんだよ…まぁ、言ってる場合じゃねぇか!!援護してくれ、インパルス!!』
「了解!」

 アビスが俺に向けて、一斉射撃してきた。翼が若干をかすめるが、ダメージは大した事が無い。
 まぁ、直撃を免れたのは、ヴェステンフルス隊長が事前に妨害してくれたお陰だが…。

『オレンジ野郎!邪魔するんじゃねぇよ!!』
『ハハっ…!良い男はモテてモテてしょうがねぇな!!いいぜ…まとめてテイクアウトしてやるぜ!!』

 ……っ!?アイツ…何処がどうキツいってんだ!!余裕で渡り合ってるじゃないかよ!!
 俺がアビスに斬り掛かる。アビスが放ったビームランスの刃と交わり、火花が散る…。

「……っ!!……はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
『このツギハギ野郎!いい加減…墜ちろってんだよ!!』

 すぐさま距離を離したアビスが、海中に潜って行った。水中から狙われるのは厄介だな…。くそっ!どうする…。
 今は構ってる暇は無い…か?放っておきたくは無いけど、手出しが出来ないな…。
 今は押され気味のルナを助けに行くしかないな。

 

#3

 海中から突然アビスが飛び出し、レールガンの砲門が俺に向く。PS装甲なら何とか耐えられるが、中に居る俺にはとんでもない衝撃が襲う。正直、受けたくない攻撃だ。

『させねぇよ!!』

 ヴェステンフルス隊長が、アビスに蹴りを見舞う。アビスの体制が崩れ、レールガンの軌道は俺を反れる。

『ボーっとしてんじゃねぇよインパルス!死にてぇのか!!』
「くっ…分かってるさ!!」

 ガイアが背後から迫って来る。しかし、それを牽制する様にビームが放たれる。飛行用ウィザードに換装したルナのザクだ。

「遅いぞルナ!」
『仕方ないでしょ!飛行用ウィザードなんて、使うの始めてだったのよ!?』

 これで何とか凌げる筈だ。ビームアックスで、ガイアの斬撃を受けるザク。ガイアはルナに任せよう。俺は……。

『僕は此処だよ!大人しく墜ちろっつーの!!』
「しまった……!」

 再度、海中から飛び出して来たアビスの一斉掃射だ。盾で何とか防いだが、左腕もろとも持って行かれた。

「くそっ!お前はっ!!」

 ビームライフルで応戦するも、すぐに海中に潜られて避けられる。ビームじゃ水中迄は届かない…かといって、水中戦に特化したアビスに水中戦を挑むのは自殺行為だ。そもそも、インパルスに水中用の装備なんか無い。
 次に飛び出して来た時に叩く以外は、手段は無いのか。

「ルナ、大丈夫か!」
『あんまり大丈夫じゃない!早く助けて!!』

 ルナの腕が劣っている訳でもなく、ただ単にスペックの差が出てるだけだ。俺が来た事を察知したガイアが、獣型に変形し、ビームの刃を帯びた翼で両断しに掛かって来た。

 

#4

 盾は吹き飛んだし、ビームサーベルで受け切れる様な容易い武装でもない。

『でええぇぇぇぇぇぇえい!!』
「っ…!?分離!」

 間一髪で上半身とレッグフライヤーで分離する。レッグフライヤーが無惨に両断され、爆散した。
 でも、仕止められなかったのは痛かったな!

「当たれっ!」
『私が…こんなっ!?』

 コクピットは外した。だが、腰の辺り…スラスターを射抜く事は出来た。これで奴のスピードはある程度殺せた筈だ。

『ステラ!…ったく、今行くから待ってろ!!スティング、ガイアはちょっとヤバめだ。退いた方が良いんじゃない?』
『チッ…確かに、数で劣っちまってるからな。艦長、ファントムペイン、これより帰投する!』

 奴等が一斉に此方に背を向けて行く。撤退するつもりか?
 アビスがダメージを受けたガイアを連れて行く。

「逃がすもんか………」
『馬鹿野郎!その状態で深追いするんじゃねぇ!!』
「………っ!?」

 確かに…アイツの言う通りか…。今は突っ切る事が任務だ。
 これ以上は戦闘を続ける必要は無いな。今更気付いた事だが、バッテリーがもう僅かしか残っていない。

『ミネルバより通達、これより戦線を離脱する。MS隊、これより帰投せよ。』
「了解、インパルス…これより帰投します。」

 ひとまず、俺達はミネルバに帰投する事にした。

 

#5

「ヴィーノ、ヨウラン。インパルスが少し酷い有り様になっちまった。整備頼む。」
「うひゃ~……。ま、あんだけ派手にやりゃ当然か。愛が足りないよ…シンは。」
「そりゃな。愛情深い様に見えないだろ?俺。」

 ミネルバに帰投して、ヨウラン達に機体を預けた。すると、ミーアが駆け寄って来て、俺とルナにタオルと飲み物を手渡す。

「お疲れさまですわ。シン、ルナさん。」
「ありがとうございます。……って、何をなさってやが…じゃなくて、なさってるんですか?ラクス様。」

 半眼で問い詰める俺を見つめ、首を傾げるミーア。

「普段、この艦の方々にはお世話になっていますし、私は私なりに出来る事をしようと思ったのです。グラディス艦長にお伺いしましたら、この役職を提供して下さいました♪」

 ……艦長…よりによって、雑用押し付けるなよ…。まぁ、ミーアが気にしてないから別に良いんだけどさ…。

「ラクス様。お気持ちはありがたいのですが、あまり無理はなさらないで下さい。お怪我の方は、もうよろしいのですか?」
「えぇ、お陰様でもうすっかり。ご心配には及びませんわ♪ルナさん。」
「そうですか。」

 整備班の慌ただしく動き出した。長居したら邪魔になっちまうな…。

「ルナ、ラクス様。あんまり此処に居たら邪魔になっちまう。とりあえず移動しよう。」
「あ、それもそうね…。それじゃ、私はシャワーでも浴びてくるとしますか…。嫌~な汗かいちゃったし。」
「そうですわね。私も次のお仕事がありますので。」

 ………ん!?“次の仕事”!!!?
 ルナがMSドッグを出て行ったのを見計らって、ミーアを手招きする。

「ラクス様…ちょっと…。」
「……なぁに、シン?」
「……艦長に何を任された?」

 顎に指を当て、考え込むミーアを見て何となく嫌な予感がしてきた。
 艦長……本当はミーアの事知ってるんじゃないか?

 

#6

 艦長室、パイロットスーツを着たまま、俺はそこに居る。

「艦長……。一つだけお聞きしたい事があるんですが…。」
「あら?何かしら。用件はなるべく早めにね。議長に報告する事もあるのだから。」
「分かりました。手短に聞きます……。ひょっとして、“気付いてますか?”」

 短い質問をする。俺が何を言いたいのか、艦長は既に理解していた様だ。

「ふふ…シン、あなた…私を誰だと思ってるの?この艦の艦長よ。“あの娘の正体について知っているか”…でしょう?
 始めから議長に言われてたわ。偽のラクス様だって。」

 笑いながら艦長は俺にそれだけ言って、キーボードを叩き始めた。

「艦長も人が悪い…。知ってるなら知ってるで、始めに言ってくれても良いじゃないですか。」
「聞かなかったでしょ?あなた。
 まぁ、今のところ知ってるのは私達だけみたいね。彼女がしっかりやってくれてるみたいで、安心したわ。」

 議長…俺よりこの人の方が、遥かに知らないフリが上手いんですけど…。人選ミスってませんか?アンタ。
 と、ドアがノックされた。誰か来たらしい。

「誰か来ましたね。では、自分はこれで…」
「いえ、あなたは居なさい。いいわ、入って頂戴。」

「失礼します。特務隊所属、ハイネ・ヴェステンフルス…只今参りました。」

 入って来たのは、例のフェイスの隊長だった。胸にフェイスの紋章が着いてる。

「よく来てくれたわね。私はタリア・グラディスです。」
「えーと…自分はシン・アスカです。」

 敬礼すると、フェイスの隊長が敬礼した。
 何だか…思っていたのとは違うな。もっとごっついオッサンだと思ってた。
 何故か、ヴェステンフルス隊長は俺を見てニヤニヤしている。何かしたかな?俺。

「それではシン。ヴェステンフルス隊長に、この艦を案内してあげて頂戴。」
「ハッ!」

 何はともあれ、俺とヴェステンフルス隊長は艦長室を出た。

 

#7

「へぇ~…お前がシン・アスカか。」
「え?あ…自分が何か?」

 さっきからニヤニヤして…何だこの人は…。気色悪いな。

「いや~、アカデミーで問題児だったって聞いててさ?どんな奴か知りたくてな♪」
「うっ………!?」

 そう、アカデミー時代の俺は兎に角問題児だった。よく、教官と取っ組み合いの喧嘩になったり、レイにシミュレータでちょくちょく勝負挑んだり…そう、色々やってたからな…ハハ…悪い噂って広まるもんだな。
 今の俺が昔の俺を見たら、多分殴ってるだろう。俺はそんな奴だった。

「そんな顔すんなって。とやかく言うつもりは無ぇし、今は問題児って訳でも…あるみてぇだけど、まぁ、俺が叩き直してやっからさ♪」
「あのー、ヴェステンフルス隊長。」

 そう呼ぶと、急にムッとしだした。あれ?何かマズイ事言ったかな?

「お前さー。俺が出戻りだからって苛めてんのか?隊長なんてやめてくれよ。
 俺を呼ぶのは、ハイネで良いから。つーか、ヴェステンフルス隊長って言いづれぇだろ?」
「ま、まぁ…。」
「よし!以降は俺をハイネと呼べ!!また隊長なんて言ったら、便所掃除させるからな♪」

 何だかいい人なのか嫌な人なのか…よく分からん人だ。悪い人ではなさそうだけど。

「いやー、まさかこんなとこで後輩に会うなんてなー。」
「後輩?」
「お前だよお前。サトー教官とこの奴だろ?実は、俺もアカデミー居た頃はサトー教官に世話になっててな♪」

 教官…特に、サトー教官は恐ろしかった…。とてつもなくスパルタで、問題児だった俺は特に目をつけられていた。
 今となっては懐かしいな。あの教官だけは尊敬出来た。元気にしてるかな?退役したみたいだけど…。

「えらく奇遇ですね。」
「まぁな。で…?お前はラクス様の護衛だろ?ラクス様は何処に居るんだよ。ファンなんだよ俺…サインくれるかな~♪」

 鼻歌混じりに俺の後ろを着いて来るハイネ。済みません、この艦のラクス様は偽物です。
 何はともあれ、フェイスが来たんだ。少しは安心…だな。

 

PHASE12―END