PHASE12―突破―
#1
「コイツでっ!」
『墜ちなさい!』
これで墜とした戦艦は五隻…後半分だ!
『なんだなんだ、良いのは機体だけかよ?』
『この……クソ野郎が!!』
一方的にカオスが圧されている。圧倒的だ…。海中からカオスが急襲するも、即座に盾で叩き伏せる。
『クソっ…!な…なんだってんだよコイツ!!』
『ハハ…俺の事が気になって仕方ねぇみてぇだな!ま、聞こえてねぇだろうけど、一応名乗っとくか。
俺はハイネ…ハイネ・ヴェステンフルス…フェイスさ!!』
………、やっぱりあの人がフェイスの…。
右腕から伸びた何か…ワイヤーの様な鞭の様な物が、アビスを拘束する。そのまま振り回し、背後から迫るガイアに投げ付ける。
『随分とでけぇ魚が居たもんだな。おい、インパルス。さっさと戦艦墜としてくれ。……ちょっとノリノリで来たけど、あんまり長いとこ持ちそうはねぇわ。』
「はぁ!?もう少し持たせて下さいよ!」
『うるせぇ!人にはな、可能と不可能があるんだ!!』
な、なんなんだこの人!?強いけど…強いけどさぁ、何か間違ってないか?
い、いや…それより次の艦を狙わないといけないな。
『これで七!…そろそろ突っ切って行けるんじゃない?艦長、どうですか?』
『そうね、後は…あの三機さえなんとかすればいけそうだわ。』
そうなると…俺の出番って訳か。この場合は……
「メイリン!フォースシルエット!!」
『了解!フォースシルエット射出準備開始します。』
#2
「ルナ!今の内に飛行可能な装備に換装してくれ!!二人だけじゃ手が足りない。」
『オッケー♪まぁ…格闘はあんまり得意じゃないんだけどね…。』
「言ってる場合か!」
『もー…怒鳴らないでよ。鼓膜破れると思ったわ。メイリン、飛行用のウィザードお願い。』
ザクがミネルバに入る。それと同時に、フォースシルエットが射出される。
「えーと…ヴェステンフルス隊長。これより援護……」
『おいおい、こんな土壇場でイジメかよ?最近のパイロットは、どんな教育受けてんだよ…まぁ、言ってる場合じゃねぇか!!援護してくれ、インパルス!!』
「了解!」
アビスが俺に向けて、一斉射撃してきた。翼が若干をかすめるが、ダメージは大した事が無い。
まぁ、直撃を免れたのは、ヴェステンフルス隊長が事前に妨害してくれたお陰だが…。
『オレンジ野郎!邪魔するんじゃねぇよ!!』
『ハハっ…!良い男はモテてモテてしょうがねぇな!!いいぜ…まとめてテイクアウトしてやるぜ!!』
……っ!?アイツ…何処がどうキツいってんだ!!余裕で渡り合ってるじゃないかよ!!
俺がアビスに斬り掛かる。アビスが放ったビームランスの刃と交わり、火花が散る…。
「……っ!!……はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
『このツギハギ野郎!いい加減…墜ちろってんだよ!!』
すぐさま距離を離したアビスが、海中に潜って行った。水中から狙われるのは厄介だな…。くそっ!どうする…。
今は構ってる暇は無い…か?放っておきたくは無いけど、手出しが出来ないな…。
今は押され気味のルナを助けに行くしかないな。
#3
海中から突然アビスが飛び出し、レールガンの砲門が俺に向く。PS装甲なら何とか耐えられるが、中に居る俺にはとんでもない衝撃が襲う。正直、受けたくない攻撃だ。
『させねぇよ!!』
ヴェステンフルス隊長が、アビスに蹴りを見舞う。アビスの体制が崩れ、レールガンの軌道は俺を反れる。
『ボーっとしてんじゃねぇよインパルス!死にてぇのか!!』
「くっ…分かってるさ!!」
ガイアが背後から迫って来る。しかし、それを牽制する様にビームが放たれる。飛行用ウィザードに換装したルナのザクだ。
「遅いぞルナ!」
『仕方ないでしょ!飛行用ウィザードなんて、使うの始めてだったのよ!?』
これで何とか凌げる筈だ。ビームアックスで、ガイアの斬撃を受けるザク。ガイアはルナに任せよう。俺は……。
『僕は此処だよ!大人しく墜ちろっつーの!!』
「しまった……!」
再度、海中から飛び出して来たアビスの一斉掃射だ。盾で何とか防いだが、左腕もろとも持って行かれた。
「くそっ!お前はっ!!」
ビームライフルで応戦するも、すぐに海中に潜られて避けられる。ビームじゃ水中迄は届かない…かといって、水中戦に特化したアビスに水中戦を挑むのは自殺行為だ。そもそも、インパルスに水中用の装備なんか無い。
次に飛び出して来た時に叩く以外は、手段は無いのか。
「ルナ、大丈夫か!」
『あんまり大丈夫じゃない!早く助けて!!』
ルナの腕が劣っている訳でもなく、ただ単にスペックの差が出てるだけだ。俺が来た事を察知したガイアが、獣型に変形し、ビームの刃を帯びた翼で両断しに掛かって来た。
#4
盾は吹き飛んだし、ビームサーベルで受け切れる様な容易い武装でもない。
『でええぇぇぇぇぇぇえい!!』
「っ…!?分離!」
間一髪で上半身とレッグフライヤーで分離する。レッグフライヤーが無惨に両断され、爆散した。
でも、仕止められなかったのは痛かったな!
「当たれっ!」
『私が…こんなっ!?』
コクピットは外した。だが、腰の辺り…スラスターを射抜く事は出来た。これで奴のスピードはある程度殺せた筈だ。
『ステラ!…ったく、今行くから待ってろ!!スティング、ガイアはちょっとヤバめだ。退いた方が良いんじゃない?』
『チッ…確かに、数で劣っちまってるからな。艦長、ファントムペイン、これより帰投する!』
奴等が一斉に此方に背を向けて行く。撤退するつもりか?
アビスがダメージを受けたガイアを連れて行く。
「逃がすもんか………」
『馬鹿野郎!その状態で深追いするんじゃねぇ!!』
「………っ!?」
確かに…アイツの言う通りか…。今は突っ切る事が任務だ。
これ以上は戦闘を続ける必要は無いな。今更気付いた事だが、バッテリーがもう僅かしか残っていない。
『ミネルバより通達、これより戦線を離脱する。MS隊、これより帰投せよ。』
「了解、インパルス…これより帰投します。」
ひとまず、俺達はミネルバに帰投する事にした。
#5
「ヴィーノ、ヨウラン。インパルスが少し酷い有り様になっちまった。整備頼む。」
「うひゃ~……。ま、あんだけ派手にやりゃ当然か。愛が足りないよ…シンは。」
「そりゃな。愛情深い様に見えないだろ?俺。」
ミネルバに帰投して、ヨウラン達に機体を預けた。すると、ミーアが駆け寄って来て、俺とルナにタオルと飲み物を手渡す。
「お疲れさまですわ。シン、ルナさん。」
「ありがとうございます。……って、何をなさってやが…じゃなくて、なさってるんですか?ラクス様。」
半眼で問い詰める俺を見つめ、首を傾げるミーア。
「普段、この艦の方々にはお世話になっていますし、私は私なりに出来る事をしようと思ったのです。グラディス艦長にお伺いしましたら、この役職を提供して下さいました♪」
……艦長…よりによって、雑用押し付けるなよ…。まぁ、ミーアが気にしてないから別に良いんだけどさ…。
「ラクス様。お気持ちはありがたいのですが、あまり無理はなさらないで下さい。お怪我の方は、もうよろしいのですか?」
「えぇ、お陰様でもうすっかり。ご心配には及びませんわ♪ルナさん。」
「そうですか。」
整備班の慌ただしく動き出した。長居したら邪魔になっちまうな…。
「ルナ、ラクス様。あんまり此処に居たら邪魔になっちまう。とりあえず移動しよう。」
「あ、それもそうね…。それじゃ、私はシャワーでも浴びてくるとしますか…。嫌~な汗かいちゃったし。」
「そうですわね。私も次のお仕事がありますので。」
………ん!?“次の仕事”!!!?
ルナがMSドッグを出て行ったのを見計らって、ミーアを手招きする。
「ラクス様…ちょっと…。」
「……なぁに、シン?」
「……艦長に何を任された?」
顎に指を当て、考え込むミーアを見て何となく嫌な予感がしてきた。
艦長……本当はミーアの事知ってるんじゃないか?
#6
艦長室、パイロットスーツを着たまま、俺はそこに居る。
「艦長……。一つだけお聞きしたい事があるんですが…。」
「あら?何かしら。用件はなるべく早めにね。議長に報告する事もあるのだから。」
「分かりました。手短に聞きます……。ひょっとして、“気付いてますか?”」
短い質問をする。俺が何を言いたいのか、艦長は既に理解していた様だ。
「ふふ…シン、あなた…私を誰だと思ってるの?この艦の艦長よ。“あの娘の正体について知っているか”…でしょう?
始めから議長に言われてたわ。偽のラクス様だって。」
笑いながら艦長は俺にそれだけ言って、キーボードを叩き始めた。
「艦長も人が悪い…。知ってるなら知ってるで、始めに言ってくれても良いじゃないですか。」
「聞かなかったでしょ?あなた。
まぁ、今のところ知ってるのは私達だけみたいね。彼女がしっかりやってくれてるみたいで、安心したわ。」
議長…俺よりこの人の方が、遥かに知らないフリが上手いんですけど…。人選ミスってませんか?アンタ。
と、ドアがノックされた。誰か来たらしい。
「誰か来ましたね。では、自分はこれで…」
「いえ、あなたは居なさい。いいわ、入って頂戴。」
「失礼します。特務隊所属、ハイネ・ヴェステンフルス…只今参りました。」
入って来たのは、例のフェイスの隊長だった。胸にフェイスの紋章が着いてる。
「よく来てくれたわね。私はタリア・グラディスです。」
「えーと…自分はシン・アスカです。」
敬礼すると、フェイスの隊長が敬礼した。
何だか…思っていたのとは違うな。もっとごっついオッサンだと思ってた。
何故か、ヴェステンフルス隊長は俺を見てニヤニヤしている。何かしたかな?俺。
「それではシン。ヴェステンフルス隊長に、この艦を案内してあげて頂戴。」
「ハッ!」
何はともあれ、俺とヴェステンフルス隊長は艦長室を出た。
#7
「へぇ~…お前がシン・アスカか。」
「え?あ…自分が何か?」
さっきからニヤニヤして…何だこの人は…。気色悪いな。
「いや~、アカデミーで問題児だったって聞いててさ?どんな奴か知りたくてな♪」
「うっ………!?」
そう、アカデミー時代の俺は兎に角問題児だった。よく、教官と取っ組み合いの喧嘩になったり、レイにシミュレータでちょくちょく勝負挑んだり…そう、色々やってたからな…ハハ…悪い噂って広まるもんだな。
今の俺が昔の俺を見たら、多分殴ってるだろう。俺はそんな奴だった。
「そんな顔すんなって。とやかく言うつもりは無ぇし、今は問題児って訳でも…あるみてぇだけど、まぁ、俺が叩き直してやっからさ♪」
「あのー、ヴェステンフルス隊長。」
そう呼ぶと、急にムッとしだした。あれ?何かマズイ事言ったかな?
「お前さー。俺が出戻りだからって苛めてんのか?隊長なんてやめてくれよ。
俺を呼ぶのは、ハイネで良いから。つーか、ヴェステンフルス隊長って言いづれぇだろ?」
「ま、まぁ…。」
「よし!以降は俺をハイネと呼べ!!また隊長なんて言ったら、便所掃除させるからな♪」
何だかいい人なのか嫌な人なのか…よく分からん人だ。悪い人ではなさそうだけど。
「いやー、まさかこんなとこで後輩に会うなんてなー。」
「後輩?」
「お前だよお前。サトー教官とこの奴だろ?実は、俺もアカデミー居た頃はサトー教官に世話になっててな♪」
教官…特に、サトー教官は恐ろしかった…。とてつもなくスパルタで、問題児だった俺は特に目をつけられていた。
今となっては懐かしいな。あの教官だけは尊敬出来た。元気にしてるかな?退役したみたいだけど…。
「えらく奇遇ですね。」
「まぁな。で…?お前はラクス様の護衛だろ?ラクス様は何処に居るんだよ。ファンなんだよ俺…サインくれるかな~♪」
鼻歌混じりに俺の後ろを着いて来るハイネ。済みません、この艦のラクス様は偽物です。
何はともあれ、フェイスが来たんだ。少しは安心…だな。
PHASE12―END