W-DESTINY_第06話

Last-modified: 2009-08-28 (金) 03:01:29

アスランは自分の護衛に任命されたというゼクス・マーキスに導かれ、デュランダルのいる場所へ向かっていた。
自分は決断したのだ。ヒイロ・ユイと出会って自分の目的を定めたとき、全ての人を救えないなら、より多くの人を救おう。その力を得た。手を汚す覚悟もした。……その中にオーブは入っていなくても、もう決めたのだ。自分の変化に戸惑いながらも、胃の痛みが現実に戻す。小心者の自分には相応しい。

「失礼します。ザラ親善大使をお連れしました」

最初、誰のことか分からなかったが、すぐに自分の新しい身分を思い出し、また気が重くなる。
ザラ親善大使…何て、立派そうな人物だろう、絶対に自分のイメージでは無い気がする。

「良くやってくれたね。おかげで民衆の怒りは静まった」
「ど、どうも……」
「……自信を持てないようだね?」
「……やはり、どう考えても自分に合ってない気がします……」
「そんなことは無いさ……新しい役目に付いた者は、誰でも最初はそう思うものさ」
「議長はどうだったのです?」
「それを言い出すと、君に愚痴を聞かせることになるのだが?」
「も、申し訳ありません!」

デュランダルが議長になったのは、元はと言えばラクスやアスランの後始末をしたアイリーン・カナーバがプラントにとって、不利な条約を結ばざるを得なかったため辞職したからである。
アスランにとっては耳の痛い話になるのは当然だった。

「まあ、良いだろう。そんなことより、君は今後、色々と思い悩む事が出てくるだろう。そんな時、近くに相談出来る人間がいた方が良いと思ってね……改めて紹介するよゼクス・マーキスだ」
「ゼクス・マーキスです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、アスラン・ザラです……護衛と聞いていたのですが?」
「そうだが、それだけでも無くてね。彼の政治知識はたいしたものだよ。特に異世界では君と同じく、親善大使の任を務めたこともある」
「そうだったので………議長…今、おかしな単語が入っていませんでしたか?」
「ああ言った。落ち着いて聞いて欲しいのだが、彼は異世界から来ているのだよ」
「…………からかってます?」
「残念ながら本気だ」


アスランの演説を聞き終えたジブリールは様々な場所へ指示を送る。アスランの言い分は分かるが、それを認める訳にはいかない。まして自分は全世界の悪役へ指名されたのだ。
プラントへ言い分がある様に自分達にも言い分はある。そもそもプラントを作ったのは理事国なのだ。
苦労して、ようやく利益が上がりだしたら独立など身勝手も甚だしい。

「……それでは、その様に指示を変更しろ。分かったな」

連絡を終えるとジブリールはアスランのことを思い浮かべる。
やっかいな人間が現れた。デュランダルは有能だが民衆への影響力が少ないのが欠点だ。自分と似てると思う。だが、アスラン・ザラは能力は未知数だが民衆、それも過激派と穏健派の双方に大きな影響を持っているのだ。デュランダルと組んだ今、恐ろしい存在になるだろう。

「だが、本当に恐ろしいのは子供だよアスラン・ザラ。君が演説で言ったとおり、かつての大戦は戦ったのも子供なら、止めたのも子供なのだからね。
 だから、悪役の私としては、その恐ろしい子供を利用させてもらうよ」

口元に冷酷な笑みを浮かべながら独り言を呟く、否、姿の見えないアスランに対し彼は宣戦布告をしているのだ。

「君は大人になったようだが、彼女はの方はどうかな?私の見る限り、まだまだ子供だと思うが?」

アスラン以上に民衆に影響を持つ人物、ラクス・クライン……彼女が大人になっていなかったら、今回の演説に不快感を持つだろう。子供は子供扱いされるのを何より嫌がるのだから。
同時に昔は、あれほど忌み嫌っていたコーディネーターに深い嫌悪感を持っていない事を自覚する。
理由は分かっていた。彼らは化け物などでは無い。あの少女に比べれば、何とも可愛らしい存在ではないか、本物の化け物を作り出した自分にとってはコーディネーターといえ、優れた人間に過ぎない。

「そうだろう、マユ・アスカ……君の存在を知れば、誰でもそう思うさ、死の楽園からも見放された娘よ……最も恐るべき子供よ……」

彼女を見ていると嫌でも死というものについて考える。人は簡単に死ぬが、死なない人間は中々死なないのだ。人の命ほど不思議なものはあるまい。
そして、自分はどうだろう?分かっているのは地獄というものが本当にあれば、自分は確実にそこに行くということだけだった。


考え込むユウナをジッと見ている。今は横から下手に口を入れるべきで無いと感じたからだ。
ユウナはアスランの演説の何処が不満なんだろう?カガリも自分で考えるが、アスランの意見は大まかに言えばコーディネーターとナチュラルが手を取り合うべきとの主張だ。
たしかにブルーコスモスを敵と認識しているが、自分でさえも全ての人間と分かり合えるなど思っていない、だから、手を取り合うべき人間と手を取り合い、共通の敵を倒す。あまり気持ちの良い話では無いが、現実的な手段だと思える。これならあれほど困難に感じたコーディネーターとナチュラルの共存も出来る気がする。
自分の気付いた欠点と言えば、結局は戦争が避けられないこと、以前の様に真っ二つでは無く、各地で小競り合いレベルを含めた戦線が拡大するというのは問題だと思うが、演説前は総力戦を覚悟していたのだ。
よほどの平和主義者でないかぎり、マシな状態と言えると思う。自分でさえ、そうなのだ。ましてや自分から甘さを排除し100倍くらい頭の良いユウナがそんなことで険しい顔をするとは思えなかった。
そして、ユウナが落ち着いているのに気付く、あまり良い結論は出なかったようだが、聞かなければ、ならない。

「ユウナ、お前はアスランの演説が気に入らないようだが?」
「カガリは、どう思った?」
「問題はあるが、仕方ない事だと思う。現に演説前は総力戦を覚悟していたではないか」
「たしかに世界規模から見れば、アスランは正しいと思うよ。僕が他所の国に生まれていたら彼を支持していたろうね」
「他所の国?ではオーブに問題が?」
「うん、これからオーブはどうするかなんだけど……まず、この戦いはザフトが圧倒的に優位に立ったその理由は分かるよね?」
「うん、一概には言えないが、実際、戦前と戦後の戦力差はそれほど変わってないはずだし、その前提で話すけど2年前はコーディネーターとナチュラルが真っ二つの状態で互角だった。
 しかし、今度はザフトは前回に比べ一部不満を持つものがいたとしても、ほぼ100%の状態。
 それに比べ連合は、政策による不満を持つ国の住民が反旗を翻し、ザフトに付く可能性が高い。
 つまり、戦力比が大きくザフトに傾いたことになる」
「正解♪賢くなったね…ところで、オーブはどの陣営か憶えているかな?」
「あ!……連合……だった…」
「つまり、負け戦に突入することになったわけだが…」
「……上手い負け方は無いのかな?」

カガリの質問を聞くとユウナは大声で笑い出した。

「何で、そんなに笑うんだよ!私だってバカなりに必死で考えて!」
「ゴメン、ゴメン!…だって、負けず嫌いのカガリが負け方なんて…」
「だって、勝てないだろ!……それに…勝っちゃいけない気もする……」
「……うん、そうだね……アスランは時代を味方に付けた。彼を倒すということは、人類の新しい未来を潰すということなんだから……」
「……連合に虐げられている国の住民は今頃アスランを熱狂的に迎えているだろ…それを思うと」
「……それにしてもカガリ、負け戦だって言ってるのに寝返ろうって判断は無いんだね?」
「え?……だって、それは…」
「僕は最終的にはザフトに下るしか無い思う」
「……寝返りとか、そういうのは好きじゃないが……民のことを思っての判断なら…」
「うん、それは分かってる。少しでも良くなるよう考えるよ」
「上手く行くのかな?」
「……正直タイミングが難しい」
「え?」
「例えば、今すぐアスランの演説に感銘を受けたからって理由で寝返ると、連合の各国はどう思う?」
「……良い気分はしないだろうな」
「さらに問題として、我が国の経済事情を考えると、基本的には連合国には食料品を買って、工業品を売っているんだ。戦争が長引くのは無論、決着が付いても嫌いな国と商売は出来ないだろ?」
「……たしかに、例えば私が大西洋連邦の一国民だったとしても、オーブの製品は使いたくなくなるだろうな」
「そうなんだよ……だから、周りが納得するか同情する理由が無いと寝返ることは出来ない」
「わかった……だが、理想は中立に戻ることだぞ。それを忘れないでくれ」
「わかってるさ」
「無理を言ってすまないな……」
「気にしないでよ…カガリは」

自分は負け戦と気付いた時点で、どうやってザフトに取り入ろうかを悩んだというのに、カガリには、そんな発想は欠片も無かったのだ。どちらかと言えばプラント寄りで連合嫌いの人間だというのに。
ユウナはカガリの純粋さが好きだった。あまり政治家向きとは思えないが、人間としては、それでいいと思う。そばで支える者がしっかりすれば良いのだ。そして、自分は支えられる場所にいる。これは、名誉に思えた。
同時にここまで彼女を追い詰めたアスランに怒りを感じる。

「……他にもあるのか?…問題が」
「―!…ん…どういうこと?」
「顔色!…私に隠し事は出来ないと思え!」
「……辛い話だよ……オーブの代表としてだけで無く、カガリ個人としても…」
「……聞かせろ」
「……アスランはね、多くの国の人を助けようとしている。それは素晴らしい事だよ」
「……うん」
「でもね、政治において幸せの量は決まっているんだ。誰かが幸福になるなら別の誰かが不幸になる」
「……これは政治の基礎みたいな話だな…分配の問題だろ?」
「そう、誰かが富を独占すれば別の人は貧しくなる。だから、貧しい者を助けようとすれば、富める者から奪わなければならない」
「……逆に富みたければ多くの貧しい者を作らねばならない…か」
「うん、そして世界規模から見ればオーブは富める者なんだ」
「え?」
「そして、アスランはオーブ以外にオーブを作ろうとしている」
「意味が分かんないんだけど…」
「オーブは国土も小さく資源も無い、しかし大国と称されている。これは経済大国だからさ」
「うん」
「そして、オーブが経済大国になれた最大の理由は技術力。何故、技術が高いかは分かるね?」
「コーディネーターの技術者たちの力が大きいな」
「そう、そして、それはオーブが共存を訴えていたから可能な事だった……そしてアスランが今やろうとしていることは?」
「―!ナチュラルとコーディネーターとの共存」
「そうだよ、アスランに開放された地域の人々はコーディネーターを歓迎するだろう。そして、コーディネーターには地上で暮らしたがっている人も多い。そんな人間はアスランが解放した地域で生活するだろう、そこで、自分の持つ技術を使って……」

ユウナの言っている事は単純明快だった。連合に不満を持つ地域を開放すると、そこにはコーディネーターの住民が暮らしだし、生活のため技術力を提供する。それは元の地域の住民にとっても喜ばしいことで、更に歓迎されるだろう。結果、その国は高い技術力を得てオーブのような国になる。
それだけでは無い、地域によっては工業品だけでなく、食料生産に力を注ぐだろう、プラントは宇宙で食料を作っているのだ。それに考えれば荒れ果てた地を芳醇な大地に変える事も可能だろう。
オーブ以上の国力と技術を持った国が地上に誕生する。それはオーブにとって、何を意味するのか……

「……幾つくらい出来るのかな?」
「アスランの最終目標は地球全土を共存可能な国とすることだろうね……これは理想論だけど」
「……じゃあ、オーブは何の資源も無く『普通の技術力』を持った国になるのか?」
「一概にそうとは言えないよ。オーブだってここまで来るのに長い年月を要したんだから」
「……ゴメン……頭が痛くなってきた」

アスランのやっている事は正しいと思う、だが、それを喜べないオーブという国はなんなんだろう?
そして、その代表に付いている自分は、多くの人々の苦しみの上に立った圧政者のような気がしてきた。
そして、もう一つ分かったこと、彼はこうなる事を知って動いているのだ。

「私……アスランに見捨てられたんだ…」
「……今は先の事をお気になさらず、まずは戦争の終結だけを考えましょう、今日は遅いですからお休み下さい」
「……うん……また敬語に戻ったな」
「……それでは失礼します」

ユウナはカガリに別れを告げ自宅へと戻ると、父親のウトナと軽く情報を交換すると自室に入りワインを飲んでいた。
父も状況は分かっているが、これまで通り連合寄りの発言をすることを明言した。人には役割がある。
それを、誰よりも知る人物だ。連合がダメだと思うなら、そう思う人間がウトナを論破すれば良い。
そのために会議をやっているのだ。
それにしても、最後にカガリに言われた言葉……とっさに敬語が出た。理由は分かってる。傷付いて弱ったカガリを抱きしめたくなった…もっと俗に言うなら欲情したのだ。それを抑えるためなのだが、すでにアスランとの『男の約束』は破棄されている。それも向うが一方的にだ。それなのに何を律儀に守っているのだろう?自分の行動を振り返り疑問に感じていたが、しばらくすると答えが見つかった。

「そうか、これは意地だよ」

疑問が解けると笑みが漏れる。巨大な存在になったアスランに対する意地、彼がカガリを見捨てたなら自分は守ろう。全世界を見る彼に比べれば小さいが自分には相応しい気がする。そして、目的があれば人は強くなれる。立ち上がり窓辺に近づくと空を見上げアスランに宣戦布告をする。

「君が今後、何をしようと僕はカガリとオーブを守ってみせるよ」



「こっちは配置に付いた。今からアウルを出撃させる」
『了解です。彼女もターゲットの所に向かいました』
「ところで大丈夫なのか?あの娘に出来るのかな…誘拐なんて上品な仕事」
『不安ですけど……実際に重機関銃なんか用意していましたし」
「そりゃまた…殺る気満々だね」
『ターゲットは兎も角、何人生き残れるか……』
「孤児院だったよな……可愛そうに…ま、健闘を祈るわ」

カーペンタリアへ向かう艦隊の中で、ネオ・ロアノークの率いるJPジョーンズだけがオーブ近海で待機を余儀なくされていた。
そして、通信が終わるのを見計らって、スティング・オークレーは納得出来ないと指揮官のネオに突っかかってりだした。

「こんな所まで出張っておきながら、俺たちは待機かよ」
「そう言うなよ……今回は向うでアビスを使いたいって言うからさ」
「だったら、アウルだけ行かせて、俺たちはカーペンタリアへ向かえば良いじゃねぇか」
「そうもいかんだろ?お前、俺以外の指揮官の言うこと、ちゃんと聞けるか?」
「まともな命令ならな」
「向うがそう思っても、お前がダメと思ったら揉めるだろうが」

たしかに、この様子だと彼の上官が務まる人間は多くないだろう。だが、これでもスティングが一番、話のわかる人間だった。アウルはスティング以上に我侭だし、ステラは何を考えてるかさえ不明な少女で、他の人間に扱うのは余計に無理だろう。
だが、同時にネオはあの娘がいないだけマシとも思える。今回スティングが不機嫌なのは彼女が任務に関っているからでもあるのだ。

「そもそも、何だって俺たちが、あいつの手伝いなんだよ!」
「そんなに嫌うなよ、まあ、確かに気の強い女の子だけど…」
「そんなレベルかよ!アレが!いきなりステラに殴りかかるような奴だぞ!」
「それは…まあ…何でだろうな?」
「狂ってんだよ!……おかしいぜ、あのガキ」

それに関しては、全く異存はないとネオも思っていた。




カーペンタリアを出港したミネルバの艦内で、シンはノーマルスーツを着用する。
突然の連合艦隊の接近の報を受け、ミネルバを始め、空母1、護衛艦4、MS20機の部隊で迎撃に向かう最中だった。
彼らの意図は判っている。アスラン・ザラが怖いのだ。だから、アスランが最初に地上へ降りるであろう場所、カーペンタリア基地を攻撃しようというのだろう。
カーペンタリア基地でも、それを認識しているので、基地まで引き付けた方が迎撃をしやすいが、基地に損害を与えたくないとの理由で、思い切って前に出て迎撃しようと言うのだ。
着替え終わったのを見計らって、先に着終わったレイが声を掛けてくる。

「新たな戦いが始るな」
「……新たな戦い?」
「そうだ、少なくとも以前のように、憎しみで、撃ち合う戦いとは違う」
「……そうだな……俺には、あの人が目指しているものが、よくは分からないけど……少なくとも前より、マトモな世界だとは思うよ」
「……俺には、憎悪で突き進む世界では無い、それだけでも価値がある」
「レイ?……そうだな、たしかに価値はある」

ブリーフィングルームで待機しながら、自分の目的を再確認する。
シンが軍に入ったのは弱い人を守りたい、それだけだ。かつての自分と家族はコーディネーターだが、ナチュラルの隣人と上手くやっていた。それはシンとマユが健康面以外は普通のナチュラルと変わらなかったからだ。シンはナチュラルを見下すことは無かったし、周りもシンを恐れることは無かった。
だから何故、両者が忌み嫌い争うのか理解出来なかったし、理解する努力もしなかった。

だが、戦争で家族を失い、誰も救ってくれなかった非力を嘆き、だったら自分が守れる存在になろうとザフトのアカデミーに入ったとき、少しは理解出来るようになった。周りは戦闘向きのコーディネータ
ーに溢れ、最初はその才能の差で惨めな思いをすることが多々あった。
その意味では、自分はナチュラルに同調出来ると思う。

それがオーブで学んだ武術とそれを応用することで、さらに周りが遊んでる間に体力作りやシュミレーションをして、努力を重ねる内に孤立と引き換えに1、2を争うまでになっていた。
そこで、ふと隣の争っていた人物を見る。

常に自分の前に立ち続け、自分と同じ孤独に生きる。それがレイだった。
その才能に嫉妬し、ぶつかりながらも憧れた。それを認めるのが嫌で突っ掛かる。そして始めの内は、無視していたレイも反撃しだし、争いながら、堪え切れなくなって、レイを戦闘用コーディネーターの化け物と批判し、自分の不幸を盾にまでした。
そこで知ったのだ。不幸なのは自分だけでは無いと、いや、自分以上に辛い人間もいることを、レイは戦闘用の…いや、コーディネーターですらなかった。

『コンディションレッド、コンディションレッド、各員戦闘配置へ、パイロットはMSで待機…』

隣でレイが薬を飲んでいる。その薬の意味も知っている。だが何も言わない、それが礼儀であり、友情だった。

「行くか」
「ああ…新たな世界のためにってね」
「ほら、ぐずぐずしないで行くよ!」

ドアから顔を出しルナが声を掛ける。こっちは待っていたのに酷い言い草だが、それが彼女らしいと思う。彼女が自分に絡むようになって、レイとは何時の間にか和解していた。そして、孤独でも無くなってた。彼女と親しくなるにつれ、友人が増えていったのだ。

「髪の薄い人が、えらそうな事を言った手前、負けらんないからね。気合入れて行くわよ!」

レイと顔を見合わせ吹き出す。何故かルナはアスランが気に入らない様だが、ルナの明るさが自分とレイを救ってくれたのだと感謝している。
やがて二人と別れ、コアスプレンダーに乗り込み、発進を待つ。

『コアスプレンダー発進どうぞ!』

改めて気付く、自分の目的は、はっきりしている。目的が状態だとしたら、自分の目指す状態は平和に暮らしている人が争いに巻き込まれない世界。そして、友人たちと笑いながら過ごせる世界だ。

「シン・アスカ、コアスプレンダー発進します!」

だから、今は戦う、友人たちを守るためにも。



キラは黙ってラクスとバルトフェルドの話を聞いていた。アスランの考えにバルトフェルドは賛同し、ラクスは反対のスタンスを取っている。

「……わたくしにはアスランのやり方が正しいとは思えません」
「どのあたりが?」
「武器を持たない者にも武器を与える。それでは戦乱が拡大し、再び憎しみの連鎖に陥ってしまいます」
「そうだろうね……では、どうする?」
「アスランを止めるべきかと……」
「それで、どうする?どうやって止める?止めた後は?」
「では、バルトフェルド隊長は、多くの人が死ぬのを黙って見過ごせと?」
「黙って見過ごせないなら、出来る事をすれば良いのさ」
「だから止めようと……」
「そして、アスランに期待している民衆は再び、連合の言いなりか?それで満足なのか?」
「では、アスランに期待して戦って死ぬのは構わないと?」
「それが望みならな、少なくとも今までは選択肢さえなかったんだ」

二人は譲り合わずに平行線のままだった。キラは双方の言い分が理解出来る。確かに現状を打破するには思い切った手を打つ必要がある。だが、そのために多くの人が死ぬのは間違っていると思う。
おそらく、どちらも正しいのだ。そして、正しいから争いが起きる。

「ただいま~♪ねえ、今日のアスラン君の演説見た?何か、もう立派になっちゃ……て、どうしたの?あの二人…」
「お帰りなさい、マリューさん」

帰宅したマリュー・ラミアスの存在が場の緊張感を一気に壊す。彼女は難しい内容より、アスランが立派になった事を喜んでいるらしい。

「……お母さんかね君は?」
「は?何のことでしょう?」
「……少し疲れました…先に休ませていただきますわ」

キラは退室するラクスを寝室まで送った。

マリューはバルトフェルドの口から言い争いの原因を聞いていた。途中で戻ってきたキラも話を聞いている。
確かにラクスの言い分は最もだ。人の死を嫌う彼女はアスランに賛成出来ないのも無理は無いだろう。
その優しさは尊いもので、だからこそ、あれだけ慕われるのだ。

「でも、やっぱり彼女には悪いけど私もアスラン君に賛成かな……今は何故か頑なになってるみたいだけど…他に良い方法が有るわけじゃないし……」
「やっぱり、無いんですかね……」
「キラは反対か?」
「……判りません…でも、人に死んでは欲しくないです」
「でも、今の私たちに、どうこう出来ることでも無いわ」
「……問題はそこさ」
「え?」
「本当なら、誰でもそう思うものなんだが、ラクスは違う……俺のせいさ」
「バルトフェルドさん……」
「何か大きな事をやるには、それぞれ手順がいる。例えば戦争を始める奴は、その決定権を持つに至るまで、色々な事を経験し考える。大西洋連邦なんかは選挙で大統領に選ばれるだけでも大変だし、オ-ブなんかは、世襲制といってもカガリに独断で出来ることは限られている」
「世の中の仕組みってやつね」
「だが、彼女は違う。前大戦で彼女は誰にも真似の出来ないことをやってのけた。そして、やっかいなことに彼女は思い悩んではいたが、何の努力もしていないんだ」
「それは、いくら何でも…」
「じゃあ、何をした?」

マリューはラクスの行動を考えてみる。最初に出会った時は追悼式代表とはいえ、何の力も無い、ただプラント議長の娘としての価値しか無かった。
次にキラにフリーダムを与える……これは情報とセキュリティカードが必要だが『誰か』が彼女に与えたのだろう。彼女が自分でやったことはキラの看病と道案内だけだ。
そして、フリーダム強奪の犯人として追われるも『何者か』の助力で身を守り、エターナルを奪って逃走……そして戦闘指揮は……バルトフェルドを見つめる。

「わかったろ。全て他人だ、彼女の力じゃない」

「彼女の平和を願う気持ちは本物さ、それには一遍の疑いの余地も無い。だから俺はそれを利用した」
「そんな……」
「俺自身、どうやったら戦争が終わるか悩んでいた。アスランの言ったとおりさ、戦後の事より戦争を終わらせることだけしか考えていなかったんだよ」
「……でも、それは……」
「いや、許されることじゃ無い。ラクス・クラインという平和な時にこそ必要な人間を戦わせたんだ。
 ずっと、後悔していたんだよ…これでもね」
「でも、これから…」
「そう思っていた。実は今回のアスランのやり方には欠点がある。アスランは今でこそ変わったが、元は『武の人間だ』やはり平和を叫んだとしても胡散臭さが付きまとう。とくにナチュラルにはね。
 だが、ラクスは違う!ずっと平和を叫んでいたんだ。その言葉はアスランより遥かに重い!……だから彼女がアスランに協力すれば、ずっと楽になるんだ」
「だったら、彼女を説得すれば」
「だから、それが問題なのさ……さっきも言ったろ、普通なら平和を願っても出来る事は高が知れてる。
 そんな人間がアスランに協力する事で平和に近づくなら喜んでするさ……昔の彼女のように」

そうだ。昔はラクス・クラインも無力で、それでも平和を願い、歌うことが平和になるならと追悼式に参加して……やれることを努力していた普通の人間だった。
それが今は、やり方が気にいらないと不満をぶつける。それだけなら良いが止めるための方法を考えているのだ。普通の人間、少なくとも今は一介の民間人の発想では無かった。
何故なら、それは常人では考えられない偉業をなしてしまったから、多くを望んでしまうのだ。
常人なら、完璧は無理だと妥協点を見つける。それは人が力を手にする過程で自然と身に付けるものだが、ラクスは力を手にする過程を踏んでいない。
そして、やっかいなことに駄々をこねれば、誰かが手を差し伸べてくれる。そんな環境が彼女を守ってきた。その環境を作った人間の1人は自分だと自覚する。

「だったら……なおさら彼女を説得しましょう。それが彼女のためでもあるんだから」
「……そうだな……実は俺はね、夢を描いたんだ。アスランの演説を聞いて」
「……夢?」
「ああ、これから、地上は大変なことになる。アスランのやろうとしてるのは勢力図の塗り替えだ。
 半端な困難じゃないだろう……でも、アスランが開放した地域でラクスが歌うのさ、平和を願って、俺は、その手伝いをするんだ……」
「いいわね、それ」
「だろ?…もちろん君たちも手伝うだろ?」
「手伝うって?」
「だからさ、目的はナチュラルとコーディネーターが仲良くする世界だろ?だったら先輩として見せ付けなくちゃ…仲良しだろ君たち……まるで親娘みたいに」
「……姉妹と言って欲しいんですが」
「いやぁ~そいつは悪か…」

玄関をノックする音が聞こえる。こんな遅くに来客だろうか?最近は落ち着いていたが、この前まで不審な気配が家を囲んでいたことを思い出す。

「……俺が出るよ」
「……お願いします」
「ああ、大丈夫だとは思うが君たちはラクスの部屋へ行ってくれ」

そう言い残すとバルトフェルドは玄関へ向かいマリューはキラと共にラクスの部屋へ向かった。

「何かあったのですか?」
「わからないわ」

まだ、眠っていなかったラクスが声を掛ける。周りには子供たちが眠っており、優しげな瞳で見つめていた。
心から優しい娘だと思う。そして、優しいからこそ間違ってると思ったことに怒りを覚えるのだ。
そして、彼女は戦った。目的を持ってないと非難されたが、逆に言えば暗闇の中でも争いを止めようと思い立ち上がったのだ。その純粋さゆえに。
それを考えると自分たちの罪を自覚してしまう。自分の理想を彼女に押し付け戦わせたのだ。
その結果が、今の歪みなら自分たちが責任を持って正さなくてはならないのだ。

「え?」

キラが驚きの声を上げる。玄関から争う物音が聞こえてきたのだ。気持ちを切り替え『ラミアス艦長』だった頃に戻り、すぐさま指示を出す。

「ラクスさん!子供たちを起こして!キラ君は皆を守るように!」

指示に従い、子供達と一緒に部屋の隅に下がるラクスを見ながらテーブルを倒し、ラクスと子供たちを守るバリケード代わりにして、自分は拳銃を手に前へ出る。
玄関はバルトフェルドがいるから大丈夫だろう。それよりも玄関で騒ぎを起こしてる隙に窓から侵入する敵がいることに注意をせねば……玄関の騒音が収まった。敵は何処から来る?バルトフェルドが戻ってくるまで緊張は解けない……

「―なっ!」

突然、部屋のドアが吹き飛ばされ倒れてくる……そしてドアが倒れると同時に、その向こう側にいた人影が『何か』を投げてきてマリューの腹に当たった。

「―つっ!」

重い衝撃に息が詰まる。当たったのは腹部だから肋骨は折れていないが、後ろに衝撃が抜け背骨が痛む。まるで、重いボールが当たった感じだ。事実、自分の腹に当たった『何か』はゴロンと音を立てて転がった。ボーリングのボールを落とした音に似ている……そしてマリューはその『何か』を見た。
周りで悲鳴が起きるが誰の声かも判断出来ない。

「こんばんは~♪みんなぁ~殺し合いの時間だよぉ~♪戦う準備は出来てるかなぁ~?」

少女がいる、それはいい。顔が傷だらけでも右腕が巨大な銃だろうと、そんなことはどうでもいい……

「アサルトライフルは持ってるぅ~?手榴弾はぁ~?バズーカーはぁ~?思い切って移動式重機関銃なんか有れば最高なんだけどなぁ~♪」

少女が何か言ってる。それもどうでもいい。だって、さっきまで笑っていたのだ。自分に夢を語っていたのだ。その夢に自分も誘われ、それが楽しそうだと思えたのだ……

「せめてサブマシンガンくらい無いと困っちゃうなぁ~♪だって、このオジサンみたいに弱いとマユツマンナイよぉ~♪」
「バルト…フェルド…」

その『何か』はバルトフェルドだった。しかし首から下が付いていない……