X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第38話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:59:16

第38話「己の機体で何が可能なのかは自分で考えろ!」

デスティニーで再び大空へと飛び立ったシンは、空中から周囲の景色を見渡した。
各所で爆煙が上がり、オーブの主力量産型MSであるムラサメと、降下してきたザク・グフの部隊が交戦状態にある。
そして今も一際大きな爆発音を上げ続けている箇所にシンの視線が行く。
そこでは、ドム・トルーパー3機が、防衛のM1アストレイ、ムラサメを次々と撃破していく姿があった。

「あいつら…これ以上好きにさせるかよ!」

自分の生まれた国で、しかも、嫌悪すべき身勝手な都合を押し付ける連中の手先として暴れまわる、シンにとって紛れもない敵に怒りを向けて、シンはデスティニーをその方向へ向かわせた。

「ふん、キラ様を倒したっていうダブルエックスやあの青い奴がいなけりゃたいしたことないね」

向かってくる防衛部隊のMSを屠りながらヒルダ・ハーケンは敵MSの手応えのなさを嘲け笑っていた。
彼女はラクス・クラインを神聖視し、そのためにならいかなる手段に出ることも厭わない。
それ故に、デュランダルへの反乱にも何一つ躊躇せず加わったし、今回のオペレーションフラワーの中核を担うことが決まった時にはラクス・クラインへの服従を断固として拒むオーブのセイランを自らの手で抹殺しラクス・クラインに大きく貢献できると天にも昇る気分になっていた。

だが、嘲笑う彼女の機体のレーダーが敵機の接近を知らせると、彼女は顔を引き締めてギガランチャーを手にした。
機体が接近を知らせている機体、それは当然ながら、メサイア防衛戦で、ラクス軍に猛然と立ち塞がり、インフィニットジャスティスを撃墜し、レジェンドとともにストライクフリーダムを追い詰めた、クライン派にとっては忌むべきMS、元X-42Sデスティニーこと、デスティニーガンダムであった。

「マーズ、ヘルベルト、ご覧よ、オーブも隠し玉を用意していたらしい。さあ行くよ、ラクス様のために!」

シンは、デスティニーガンダムに向かってくるドム3機にビームライフルを放つが、それはドムのビームシールドにあっさりと防がれてしまう。

ドムの長所は、ザクのような換装性でも、グフの運動性でもなく、高い防御力と火力であり、その防御力を支える要素の1つクライン派が盗み出した技術であるビームシールドである。

「くそ!上から撃ってたんじゃだめか!やっぱり接近戦を仕掛けるしかないのかよ!」

シンはデスティニーを地上に下ろしてドムの前に立ち塞がった。
口には出さないが、空中から攻撃を続けても防がれてしまうなら、最悪の場合、デスティニーを無視して、軍本部へドムが向かってしまう可能性もあり、足止めをするためにも、ある程度接近する必要があったのである。

デスティニーが接近しながらビームライフルを放ち、対するドム3機もギガランチャーをデスティニーに向けて放つ。
デスティニーはそれを上空へ飛んで回避し、さらにそこを目がけて放たれた実弾のギガランチャーを、急降下してかわす。
そして、背部のアロンダイトを引き抜き、翼から輝く光を放ちながらドムへと斬りかかっていった。

「うおおおおぉぉ!」

デスティニーに向けられるギガランチャーを、機体を左右させてかわしながらシンは、アロンダイトを構えさせ、ヒルダのドムに向けて振り下ろす。

「な、何だって!?」

思わぬ速さで迫ってきたデスティニーに反応しきれず、咄嗟にヒルダはギガランチャーを手放し、ギガランチャーはアロンダイトに切り裂かれるが、その隙にヒルダは、引き抜いたビームサーベルでデスティニーに斬りつけた。
デスティニーはそれを、アロンダイトを斬り返して受け止め、両機の間にプラズマの光が迸る。

「とろいんだよ!あんたは!」

ヒルダ達の腕はクライン派の中でもトップクラスの実力であり、動きが本当にとろいわけでは決してない。
ただキラのフリーダム・ストライクフリーダム、ネオの駆るラスヴェート、アスランのインフィニットジャスティスというこの世界の中でもトップ中のトップの実力を有する相手と戦ってきたシンの腕が、それらの敵と戦うために、シン本人が自覚することはなかったが、上がっていたのである。

アロンダイトとビームサーベルの鍔迫り合いになったまま、シンはデスティニーの翼を展開させて、そのままドムを押し切ろうとする。
だがそこにマーズとヘルベルトのドムが襲い掛かってきたため、
デスティニーはヒルダのドムを蹴りつけて、その反動を使い距離を取った。

「おいヒルダ、大丈夫かよ?」
「らしくないな、押されているぞ」
「わかってる!伊達にフリーダムやインフィニットジャスティスを倒した訳じゃないようだね。こうなったらアレをやるよ」
「へっ、そうこなきゃな!」

3人はそう言うと、ドム3機を結集させて縦一列に並べる。

「何をするつもりだ?」

3機の行動の意味を知らないシンは、ヒルダ達の真意を当然ながら知らないため、首をしかめる。
シンは、フリーダムを撃墜したとき、ヒルダ達通称「ラクス親衛隊」と交戦したことはあるが、そのときは、2機の相手をレイとガロードが引受けていたし、3機目のドムはウィッツのエアマスターバーストによって足止めさせられた結果、宇宙に留まらされていた。
そのため、3機のドムが結集し、スクリーミングニンバスとビームシールドを構えて突っ込む先頭のドムの背後から2機のドムが相手を撃破する、という、ドムトルーパー3機の合体攻撃「ジェットストリームアタック」を知らなかったのである。

「「「ジェットストリームアタック!!!」」」

ギガランチャーを失ったヒルダのドムがビームシールドとスクリーミングニンバスを展開し、赤い光を纏った3機のドムがデスティニーガンダムへと迫っていく。
シンは本能的に危機を察知し、さらに機体を3機から離して、アスランを焼き尽くした高エネルギービーム砲を放つがビームのエネルギーは3機を撃ち抜くことなく力を失って弾かれる。

「あいつなんて防御力だよ!?」

シンに少し焦りが生まれ、ドム3機はさらに高速でデスティニーに接近してくる。
そしてヒルダのドムの背後からヘルベルトとマーズのドムがデスティニーに向けてギガランチャーを近距離から打ち込む。

「何!?」

シンは咄嗟にビームシールドを展開してギガランチャーを受け止めると、再び上空へ逃れる。
そして偶然近付いてきていたグフの頭を掴んでパルマフィオキーナで撃ち抜くと
そのままグフの機体をドム目がけて投げつける。だがドムは動きどころか進行方向すら変えずに投げつけられたグフをスクリーミングニンバスで吹き飛ばし、グフの爆発により生じた爆煙の中からなおもデスティニーに向けて襲い掛かってきた。

「避ける必要すらないってことかよ!?」
「そんな攻撃でジェットストリームアタックを抜けると思ってんじゃないよ、デスティニー!」
「おお怖え」
「全くだ」

シンが本領を発揮し始めたドム3機に押されていた頃、タケミカズチから出撃したGXを駆るジャミルはようやくオーブ本土に到達し、その防衛戦に参加し始めていた。

GXは、軍本部を目指しながら進行方向でM1アストレイやムラサメと交戦しているザクのコックピットを1機1機確実にビームマシンガンで撃ち抜き、上空で飛行形態のムラサメと戦うグフの部隊をディバイダーのビームで撃ち落とす。

元いた世界で少年の頃からニュータイプ部隊のエースとして、ガンダムエックスを駆り、宇宙革命軍と戦ってきたジャミル・ニートは、操縦技術・実戦経験等を含めた総合的な戦闘能力の点では、現時点でCE世界のパイロット達の最高峰の位置にいる人間の一人である。

もし彼に、他者の力を借りることなく自在に操れるニュータイプとしての能力が残っていたのであれば、間違いなくこの世界で最強のパイロットだということができよう。
しかし、ジャミルは自身の過去のトラウマ、世界を滅ぼすきっかけとなる引鉄を引いたということから、極力、この世界に介入することを控えようとしており、これまでは実際にそうしてきた。

だが自分を世界と同一視し、己の正義・思考・都合の全てを力で押し付け、世界である程度普遍的と言える決まりすら蔑ろにし、本人の意思には反するが、実質的・客観的には世界を滅ぼそうとするラクス・クラインの脅威は、2度と目の前で世界が滅びゆく光景を見ることを望まないジャミルを戦場へと駆り立てるのに十分なものであった。

ドム3機の猛襲にシンは回避と後退を余儀無くされていた。
手持ちのビームライフルや背部の高エネルギービーム砲ではジェットストリームアタックを撃ち抜くことはできず、攻防一体となっているジェットストリームアタックに接近戦を仕掛けても3機のコンビネーション攻撃が予想され、取り回しのよくないアロンダイトでは1対1ならまだしも、3機を相手に近接戦闘を行なうには無理がある。
3機の背後に回り込めれば後ろからなら撃ち抜くことはできようが、3機の後ろを取ることにも無理があるし、スクリーミングニンバスが展開されていない背後が弱点であることはドムの3人自身が最もよくわかっているはずである。つまり、シンは攻め手を欠いていたのである。

デスティニーがビームライフルを放ちながら後退していると、その背後の上空からグフの小隊がいつの間にかデスティニーに迫ってきていることにシンは気付く。
そしてグフがスレイヤーウィップを一斉にデスティニーに向けて延ばす。

「しまった!?」

シンはタイミング的にその攻撃を回避し切ることは不可能と悟り、ビームシールドを咄嗟に展開したその時であった。
見慣れたビームの束が一挙に上空のグフ部隊を撃ち落とすのが見え、デスティニーに通信が入って来た。

「大丈夫か、デスティニー!?」
「GXか、済まない!でもガロードじゃない!?誰だ、あんたは!?」
「今は自己紹介をしている時ではなかろう!私はジャミル・ニート、ガロードの仲間だ!」
「了解!それで十分だ!」

「ほらほら!余所見してんじゃないよ!」

ドム3機がデスティニーとGXに向かってくる。GXはドムに向けてビームマシンガンを撃ち込むが、それは案の定、スクリーミングニンバスとビームシールドの防御を破ることはできない。

「無理だ!あいつらの防御は半端な攻撃じゃ抜けない!」

シンの言葉を聞きジャミルは思案する。
今は一刻も早くこのドム3機を落として残りの降下部隊を倒さなければならない。
各個に戦っていたのでは時間を取らされるおそれがあり、その隙にさらなる降下部隊が軍本部を制圧することもカーペンタリア軍をおとりにいきなりの本土制圧作戦を展開してきたラクス軍ならば考えている、とも思える。
だが、空中にいる敵にではなく、地上で動く敵に向けてディバイダーのビームを撃ったのでは周囲に与える被害が甚大なるものとなるおそれがある。
その時、ジャミルは、ドム3機が進む先にあるMSの残骸などの障害物を一切避けることなくデスティニーに攻撃を仕掛けている光景を目にして、キッドから聞かされたデスティニーの特徴を思い出してある策を思いつく。

「デスティニー!今から私が奴らの視界を塞ぐ、その隙に一気に奴らを貫け!」
「は!?なんだよそれ!」
「あの3機の攻撃の欠点は3機が縦に重なることと攻撃の最中には細かなモーションを取れないことだ、己の機体で何が可能なのかは自分で考えろ!」

そう言ってジャミルは上空を見上げて、上空に軍本部を目指しているであろうグフ2機を見つけると、GXはビームソードを構えてグフに向かっていった。

他方で、一方的にジャミルから指示を受けたシンはなおも迫り来るドム3機の猛攻をビームシールドと回避でしのぎながらジャミルの言葉の意味を必死に考えていた。

(一気に貫けって…いや考えろ、デスティニーは俺の機体だ。
 俺がデスティニーを理解してやらないで誰が理解してやるんだ…考えろ、シン・アスカ!
 機体の性能を発揮しきれないであのキラ・ヤマトを倒せるものか!)

キーワードは、「その隙に一気に貫け」「3機が縦に重なる」「細かなモーションが取れない」
そして、「デスティニーなら可能なこと」。シンは自分の機体の能力、特徴、武装を必死に思い出し、ジャミルの言葉を理解した。

「そうか、そういうことかよ!」
(もっとわかりやすく言ってくれよ)

内心で思いながシンはデスティニーをさらに後退させた。
そして、シンの行動を見て自分の意図を察したことを判断したジャミルは、デスティニーとドムが交戦する上空でグフのコックピットをビームソードで貫き、その下方にいた別のグフに激突する角度でパイロットを失ったグフを地上に向けて蹴り落とす。
咄嗟の事態に対処し切れなかった下方にいたグフは哀れにも蹴り落とされてきたグフの下敷きになる形で地上に落下していく。
2機のグフは、重力に引かれて地面に向けて落下していくが、その2機のグフをGXのビームマシンガンのビームが貫き、ドムの前方で大きな爆発が起こった。

「今だ!」

大きく上がった爆煙によってデスティニーの姿が隠れた隙にシンは、デスティニーにアロンダイトを構えさせた。
するとデスティニーガンダムのツインアイが輝き、広げられた紅い翼から光が生まれる。
そしてシンは爆煙を凝視し、煙の流れから向かってくるドムの位置を割り出した。

「うおおおおおおおあああ!!!!」

シンが咆哮を上げて、デスティニーガンダムの両腕のビームシールドを展開させながらアロンダイトを正面に構えて突撃していく。

「ふん!隠れようったって無…」

ヒルダが言い終える前に、アロンダイトの刃はヒルダとその後ろのマーズのドムのコックピットを貫いていた。

「よくも2人をやったなああ!」

アロンダイトをドムに突き刺したままのデスティニーガンダムの前に、貫かれたドムの陰から3機目のドムが飛び出してきた。
ヘルベルトは、パイロットとしての勘でアロンダイトに貫かれる前に上方へ逃れていたのである。そのままヘルベルトのドムはギガランチャーをデスティニーに向けて発射の構えを取った。

「そうはいくかああああぁぁ!」

だが、シンは咄嗟にアロンダイトのビームの刃を上に引き抜き、デスティニーガンダムの最大出力でアロンダイトを前方上空に向けて斬り上げると、2機のドムの上半身は左右に切り裂かれ、そのままアロンダイトの刃は、ドムの首の付け根を貫いていた。
そして、上空に斬り抜けたデスティニーガンダムに向かってなおもギガランチャーを放とうとするが、最後のドムは背後からGXのビームマシンガンに貫かれて爆発した。

「はあはあ…」
「よくやったな、デスティニー」

興奮と疲労に息を切らせながらドムの爆発を見ているシンの下にジャミルから通信が入ってきた。

「俺の名前はシン・アスカだ、凄腕のオッサン」

シンはジャミルの腕に正直に驚いていた。
ガロードの戦闘センスや適応能力、キラ・ヤマトの超人的な身体能力を生かした操縦を間の当たりにしてきたシンであったが、純粋な操縦技術や戦闘能力でここまでのものを彼は当然ながら見たことがなかったからである。

「オ…そ、そうか、では残りの部隊を叩く、行くぞシン!」
「了解!」

そう言って、シンとオッサン呼ばわりに軽いショックを受けたジャミルは残りの降下部隊の迎撃に向かって行った。

「ドムトルーパー、シグナルロストしました」

ミネルバのブリッジにダコスタの報告の声が響く。

「…そうか、ではカーペンタリア軍及び残りの降下部隊に撤退命令を出せ。
 デスティニーだけでも計算外だったが、GXまで出てきたんじゃドム抜きにあの国は落とせん」
「ですがまだ交戦中のカーペンタリア軍は健在です!増援を出せばオーブを落とせます!」

ダコスタがバルトフェルドに噛み付いた。
彼にはまだ作戦は失敗したとは映っておらず、バルトフェルドのやり方が手緩いと感じられていたのである。

「ダコスタ君、増援を出したら連合がカーペンタリアに攻め込んでくるかもしれんし、 ジブラルタルやディオキア、マハムールのデュランダル派がどう動くかわからん。
 僕達は地球じゃ嫌われ者なんだ、他の国がプラントへの輸出を止めている今、カーペンタリアを落とされるわけにはいかんだろうが!」
「…了解しました」

バルトフェルドの立てた作戦はサテライトキャノンを撃たせないことで自軍の損失を最小限に抑えかつ、それと同時にオーブ中枢を押さえる、というものであったが、彼にとって計算外だったのはデスティニーと、ジャミル・ニートというパイロットの存在であった。
GX及びガンダムダブルエックスのパイロットはガロード・ランだという情報しか、バルトフェルド達は当然のこと、ユウナ達オーブ首脳以外の人間は知らなかったのである。
だが、このオペレーションフラワーの失敗は、オーブに更なる脅威を与えることになることをユウナ達はまだ知らない。