X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第10話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:05:45

機動新世紀ガンダムXSEED 第十話「凄く早いね」

ガロードがアークエンジェルエンジェルにおいて傭兵という立場になってから、既に十日が経とうとしていた。
曳航していたダブルエックスについては、ガロード以外絶対に触れてはいけないというルールじみた物が、直ぐに出来ていた。
と言うのも、機体の修復や整備、またデータの吸出しすらも禁じられ、不審に思ったマリューやナタルが問いただそうとしたところ、ガロードは小型のデバイスを取り出して、ダブルエックスが人手に渡りそうになった時のルーティンをやって見せた。
「もしもの時の為に爆弾を仕込んであるから、自分から奪取しようとしても痛い目を見るのは自分達の方だ」、と。
尤も、操縦機構は勿論の事、装甲や、フレームに使われている物質、動力、果てはOSに関してもこのC.E世界では複雑難解な物であるから、技術班に見せたところで何処から手を付けたら分からないだろう。
何よりガロードがC.E世界の事を知って特に秘匿したかったのはサテライトキャノンとフラッシュシステムの事だった。
フラッシュシステムは当然の事として、今は二つとも使えない状態になっているが、それが秘匿しないでいいという布石には明らかになってはいない。
他にもこの世界ではオーバーテクノロジー扱いの物があって、その内の一つでもどちらかの陣営に渡れば、膠着状態のこの戦争をいっぺんに手に入れた方を有利にせざるを得なかった。
その事実を改めて考えた時、ガロードは自分が持った責任の重大性を思い知らされた。
因みに艦内に置いてあるシミュレーターである程度MS操縦の訓練は出来る。
しかし、操縦系統の違いの壁はガロードにとって分厚く、そして異様なまでに高い壁となって自身の前に立ちはだかる。
今でこそ、歩くといった一般的な動作が出来るようになったが、初日に関して言えば一歩目を踏み出す事も無く、あっという間に地面に張り付いた状態になっていた。
やっとあちこちの部位をきちんと動かせるようになっても、ともすれば羽虫が止まりかねないノロクサさの時もあったが。
そういった状態を克服すべく、朝も昼も夜も常に時間があればシミュレーターにかかりっきりになっていた。
たまに夜の遅くまで訓練を続けて、一段落着いた頃睡魔が襲った為、シミュレーターの電源を切っても操縦桿を握ったまま、シートにもたれかかって、泥の様に眠った時もある。
そんな時のあくる朝は軽い毛布が体にかかっている事が常だ。
その答えはその直ぐ後で食堂や自室に戻った時に、そこにいたティファが頬をほんのり赤く染めた事で分かったが。
本人も顔を赤くして、いつも心配してくれて有り難う、と先ず言ってから会話を交わす。それが二人の日課とも言える。
その光景が一種アークエンジェルクルーの一服の清涼剤の様な感じになっていた。

一方、避難する時に乗ってきたプロトジンに関しては、連合軍側が作業用MSとして使用する際の操作マニュアルが、アークエンジェル内に偶然あった。
が、それはマニュアルと呼ぶにもお粗末な代物で、ガロードの為にOSの再書き換えをしに来たキラが「本当にこれで動かせると思ってたのかな ? 」と小声で言い出す始末だった。
そのキラにしても、始めからアークエンジェルの整備班や技術班の申し出を快く引き受けた訳ではない。
自身がコーディネーターである事を理由に「モノ」の様な扱いをされるのではないかと勘ぐったのだ。
自分の意思や希望とは関係無しに使われる存在として。
自分は一人の人間であって、そんな風に扱われたくはない。
その事をつい、ストライクとゼロの整備を担当しているコジロー・マードックと共に、プロトジンを整備していたガロードに言ってしまう。
それを聞いたガロードは大笑いして、強気にキラに言った。
「俺は、いや、この整備のおっちゃんも艦長さんもそんな事思っちゃいねえよ ! 大体お前がコーデ……なんとかだからって、俺はそんなの気にしねえよ。
お前、自分の友達に自分がコーデなんとかだって言った事はあんのかよ ? 」
「あ、あるけど……」
「んで ? その時何て言われたんだよ ? 」
「……そんなの関係ないって……お前が俺達の友達だって事には変わりないって……」
そうキラが言うと、ガロードは作業に戻る。
作業をしながら一言々々をしっかりと強調した話をしだした。
「俺だって同じだよ。俺はその友達よっか付き合った時間は短いけど、そんなのは関係ねえ。今は同じ船に乗る仲間だろ ? 」
「う……うん。」
「だったら、あまり深く考えるなよ ! 今度また戦闘が起きたら、ムウっていうおっさんと一緒に出ねえと、友達守れねえぜ ? そん時は俺とも宜しくな !! 」
その言葉にキラははっとする。
そうだ。幾ら自分が乗りたくない、討ちたくないと言っても、そんな事はお構い無しに敵は自分達の居場所を撃って来るのだ。
そこには自分の仲間がいる。失いたくない仲間が。
無用に迷っていれば、自分だけではない。みんなが命を落としてしまう。
例え自分の手で同胞を血に染めたとしても……守らなくては。
「有り難う。」
そう一言だけ言うと、キラはストライクの方に歩いていった。
ガロードがちらとその後姿を見ると、何かがのしかかっている様に見えた。

また丁度その近くにティファの方はと言うと、テクスの身辺の世話をしながら、何とかガロードの力になれないかと、考えていた。
自分はそんなに身丈夫と言う訳ではないが、持ちえる力を最大限に利用して何か出来るようにしたい。いや、したい。
その時、ある出来事が思い起こされた。
自分が宇宙に行く前、ビットMSを操縦する者がフリーデンに対して牙をむいた時、自分がガロードに何が出来たかを。
そして一つの結論を出した。
その結論はある意味危険な賭けだ。
だが、何もせずに艦の一室でガロードの帰りを待つだけの存在になるよりかは幾分良いだろうし、何より自分の一番成したい事を二つも叶える事が出来る。
ガロードに言ったらどんな反応をするだろうか ?
必ず最初に驚いて、そんな危ない事は止めろと言うに違いない。
だが、こればかりは自分に視線を向けて欲しい事の次に通したい我が儘だった。
ティファは作業班に指示を出しているマードックに近づいた。

作業を一旦終えたガロードが休憩をしていると、マードックが複雑そうな顔をして彼の元にやって来る。
気軽に、「どうかしたの ? 」と訊ねたガロードに対して、彼は「それが……」と気まずそうに言う。
マードックから事情を聞いたガロードは、飲みかけの飲み物を危うく口から吹き出しかけてむせかえってしまう。
「ティファが一緒に乗りたいって言ってきたから、あのMSを複座式に改造させてくれだって ?!! 」
「そうなんだよ。幾ら言ってもあの嬢ちゃん聞かねえんだよ。危なっかしいっていったらありゃしねえのに……お前さんから何とか言ってやれんか ? 」
マードックの舌の根の乾かぬ内にガロードはティファの方に走り出す。
当のティファは格納庫から居住区に移ろうとしていたところだった。
「ティファ !! 」
呼び止められたティファは自分の方に血相を変えて走ってくるガロードの方を見返る。
息を整え、出来るだけ落ち着いた様な雰囲気で話しかけられた分はまだ良かったが。
「どうしたんだよ。一緒にって……危なすぎるじゃねえか。」
そう言うと、ティファは真剣な顔ではっきりと答えた。
「私は私に与えられた力をガロードの為に使いたいの。私も、守りたいから、あなたを。それに……」
「それに ? 」
そこまで言うと、ティファは恥ずかしそうに下を俯き聞こえるか聞こえないかの声で続ける。
「いつもガロードと一緒に居れるから……なの。」
「えっ ?! 」
「な……何でもないの……お願い。」
ティファはそれ以上何も言う事無く、その場から早歩きで去ろうとする。
不意に後ろから声がかかった。
「わかった ! 後で整備のおっさんにたのんでみるよ ! 」
その答えがうれしい。自分はガロードの精神的な支え以上に何かをしたかった彼女にとっては何よりも。
「じゃあ、また部屋でな。」
「うん。ガロードもあまり無理はしないで……」
「オッケー。あ、部屋よりかそろそろご飯時だから食堂の方が良いかな ? 」
「クスッ……私は何時でも待てます。」
「あ、あれぇ ? そお ? それならさあ……」
結局、お互い何処で待ち合わせるかについて、その場で十五分近く話しこんでしまい、ガロードが早く作業に戻って来いと言われる羽目になったが。

マードックは図面を見て頭を抱える。
あれからガロードがジンの改造を頼んできたのでそれは快く引き受けた。
ゼロとストライクの整備はいつでも新品同様で出撃出来るほどに完了し、幾らか手持ち無沙汰だったからという事もあるからだが。
しかし、引き受けたは良いものの問題が山積みの状態だ。
確かにザフトには複座式のジンが存在するが、資料なんて物は無い。
鹵獲でもして構造を知ればなんて事はないだろうが、そうそう飛んでいる代物でもない。
何より最大の問題が資材と装備、そして今、この艦の上の方でも水と並んで話題になっているだろう弾薬。
改造が済んでも丸腰で出て行ったんでは話にならない。
何回目になるか分からない程頭を掻いた時、通信が入る。
ブリッジから入ったそれは、補給を受けられるある地点が見つかったと言うのだ。
しかし、マードックは首を傾げる。この近くにそんな事の出来る場所があったか、と。

キラはストライクで、ガロードはプロトジンでキラの友人達が作業ポッドで行っている補給作業の護衛に当たっていた。
アークエンジェルが見つけた補給場所……それは地球の周りを取り巻く宇宙ゴミの墓場、デブリベルトだった。
用済みになった人工衛星や、宇宙開発の段階において発生する廃棄物が漂っている所と一般には認知されているが、勿論そこにあるのはそういった物だけではない。
比較的原形をとどめた艦艇、撃墜されたMSが漂っている事があるのだ。
そういった物から得られる資材は非常に有り難い物でもある。
しかし、元の世界でそういった事には慣れているガロード以外は、今回の補給作業は死者の眠りを妨げる様な、盗掘者紛いの事をやっているという後ろめたさがあった。
こと、水に関しての一件はそんな意識を避けようが無かった。
デブリベルトで見つかった巨大な大陸。
それは、C.E世界で起きた戦争の最たる原因であり、ナチュラルとコーディネーターの間に横たわっているどうしようもない溝をありありと表す最大のデブリ、ユニウスセブン。
プラントの七割は水圏で、ユニウスセブンも一億トン近い水が凍り付いている為、水はそこから補給する事となった。
逃げ遅れた母子の遺骸を意識せず見た時はキラも言葉を失ったが、出発する前にムウが言った言葉を思い出して、何とか正気を保てていた。

俺達は生きてるんだ。ってことは生きなきゃなんねえ、ってことなんだよ ! ?
自分達は間違い無く生きている。ここに存在している。
言い方が不味いかもしれないが、生者こそが勝利者なのだと思うしかない。
一息吐いて脇を見ると、ガロードのジンがせっせと作業していた。
先程作業をすると言う事で、一応自分達と一緒に形式上だけ黙祷はしていたが、見たところここでの作業に他の人達が持っている程大きな心理的な抵抗感とかは感じてはいない様だ。

「作業……凄く早いね。」
「んあ ? まあな。生き延びるにゃ仕方ねえ事だってあるだろうよ。俺達までここで眠る人達の仲間入りってのは勘弁だからなぁ。」
「そう、だね……」
感心したように言ったキラの一言をなんて事はない様に飄々とガロードが受け流す。
その時、ストライクとジンに大きな声が聞こえてくる。
『逃げてください !! 一刻も早く、そこから !! 』
その声に真っ先にガロードが反応する。
声の主のティファは、ジンの複座式への改造に着手出来ていない今、居住区でガロードの帰りを待っている筈だった。
「ティファ ! どうしたんだ ?! 」
それは彼女にしてみれば結構大きな声だった。
いつもは穏やかで、静かな声なのにここまで大きな声を出すと言う事は……
紛れも無い。何か、敵が近づきつつあると言う事なのだろう。
またもや勝手にブリッジに入ってきて、しかもCICの通信機を勝手に使った事に対して、通信機越しにナタルが『何をやっている ?! 』とか、『作業はまだ済んでいないんだぞ !! 』とティファに怒鳴るのが聞こえてくる。
ガロードは両手に抱えられるだけの資材を持って、アークエンジェルに帰投する。
資材を搬入し終わったガロードは、次に作業用ポッドに作業をしていた者達全員が乗り込んだのを確認し、それも直ぐに収容する。
その最中にキラが話しかけてくる。
「ガロード、どうしたの ? 」
「わからねえけど、何かやばいみてぇだ。ティファがここに居るのは不味いって感じたんだろうけどよ……」
「ティファって、君とよくいる女の子の事 ? 」
「ああ、後でお前の友達とかにも俺の自己紹介含めて紹介するよ。それはそうと、先ずここを抜けださねえ事には……」
そう言うと、ジンのバーニアが一層吹かされる。キラのストライクもそれについて行く。
二機を収容したアークエンジェルはその場を全速離脱した。

その丁度三十分後、彼等が居た宙域に強行偵察型のジンと一つの救命ポッドがやってくる。
尤も、ジンもポッドも数時間後に当該宙域に来たザフトのナスカ級戦艦に拾われたが。