XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 銀色の腕の少女、紅い目の少女編_第1話

Last-modified: 2009-09-23 (水) 14:30:06

少女エルフは目を覚ますと、部屋の薄暗さと首の痛みを感じて頭をブンブンと振る。
皮膚を剥いだ背中とお尻が痛むから、うつ伏せの姿勢で寝るようにするのだが、
慣れない姿勢のせいで首が痛くなる。
あと、単純に寝床が狭い。

 

エルフは床に無造作にちりばめられた、本とかディスクケースを踏まないようにして、慎重に布団をたたむ。
シャツ一枚とショーツしか着ていない格好で、頭を掻きながら台所に行く。冷蔵庫を開けると、
同居人のために作ったツナマヨサンドもアイスティーも手がつけられていない事が確認できた。
「あとでちゃんと食べてくださいよ?悪くなったらイヤですから」
ブーンと唸るようなコンピュータの起動音が狭い部屋に響いていたから、同居人が起きているものとして
声をかけるが、その同居人の男はか細い声で、うん、と生返事を返すだけだった。
サンドイッチを半分だけ食べた後、エルフは身支度を始める。
借り物のズボンとシャツはダボダボで、無造作に伸びた髪をサイドテールの形でまとめる、
不思議な格好をしていたが、顔立ちがよいためか、そんな格好でも不思議な魅力があった。
「お見舞い行ってきますね。夜までには帰ってきます」
同居人の返事を待たずにエルフは玄関を出る。
外の表札には『Takt Soma』と書かれていたが、これは偽名だ。

 

現在、エルフ・アスカはキラ・ヤマトの閨(ねや)に居候している。

 
 

 逆襲のシン 銀色の腕の少女、紅い瞳の少女編
 第1話『spirit link』

 
 

《セプテンベル・ツー》の朝は、出勤する会社員や作業員でごった返していて、
コロニー内のリニアトレインや車道は絵に描いたような通勤ラッシュの様相を見せていたが、
宇宙港への道は寧ろ空いている、
人の流れに逆行するように、エルフはシャトル発着場へと自転車で向かう。
本当は、エレカでもバイクでも、それこそモビルスーツでも乗りこなせる少女なのだが、
プラントですら未成年扱いされる年の彼女には、選択肢はあまり無かった。
この自転車もキラ・ヤマトからの借り物で、少女が乗るにはアンバランスな代物だった。
《セプテンベル・ツー》から、シン・アスカが入院する軍病院がある《アーモリー・ワン》へ行くには、
一日二往復しか出ていないシャトルに乗るしかない。
エルフがプラントコロニーに住まうようになってから、
彼女の生活はシン・アスカの世話をすることが生活の中心になっていた。

 

自転車ごとシャトルに乗り込み、程なくして《アーモリー・ワン》に辿り着く。
再び自転車にまたがり、ペダルを立ちこぎで回す。
ザフトのコロニーらしい殺風景な市街を走っても、《エル・クブレス》にいた頃にはいつも感じられた
緑や土の匂い、潮風や獣の匂いが全くしない、乾ききった空気。
人工的に作られた、居心地のいい空気が、エルフは好きになれなかった。
10分ほどで軍病院に着いたエルフは、敷地に自転車を無造作に停めて、そのまま早足に病院の中に入る、
「今日もご苦労様、手はちゃんと洗うのよ」
受付に座る事務員も、すでに少女の事は顔パスで通してくれる。
病院ゆえに、廊下を走るわけにもいかないが、早足で病室へ向かいながら、
エルフはいつも、病室に入る前は期待と不安で胸が一杯になる。

 

今日は、シンは起きているかな。
今日も、シンは起きないのかな。

 

そして、病室に入ると、やっぱりシンは目覚めていなくて、悲しくなるのが習慣になってしまった…

 
 

「ルナマリア、さん?」
病室に入ると、まず目についたのは粗末な丸椅子に座ったまま眠っているルナマリア・ホークの姿だった。
確かに昨日は、久しぶりに見舞いに来ていたけど、彼女には仕事がある。病室で一夜を明かすなんて、
私もそうしたいといつも思っていたけど…尋常じゃない事だ。
「ルナマリアさん、起きてください!」
思わず耳元で怒鳴りながら、肩をゆすって起こそうとする。
ルナマリアは直ぐに目を覚まして、寝ぼけた目でエルフの顔を見つめる。
「んあ…シン?髪伸ばしたっけ?似合わないよ」
「マジで寝ぼけてますね!エルフですよ!」
「ああアンタか…今何時?」
「7時58分です。占いでも見ます?」
時間を聞いた瞬間にルナマリアの顔は青ざめ…次の瞬間には悟りきった顔になった。
「軍務って、サボれないかなあ?」
「知りませんよ、そんなの」
「冗談よ」
今度はしれっとした顔をしながら、ルナマリアは手櫛で髪を整える。

 

「シンの事、ちゃんと見てるのよ…それと」
ルナマリアがエルフの顔を見て話す…この二週間、殆ど無かったことだ。
「敬語が似合わないわ、あなた。シンと同じで」
冗談とも悪態ともつかない事を言い残して、ルナマリアは病室を出て行った。

 
 

「何かあったんですか?」
検温をしにきた中年の看護婦にエルフが聞くと、看護婦は優しい笑みを浮かべながら答えた。
「昨日、アスカさんが寝言を言ったんですよ。
 若しかしたら目を覚ましてくれるかもしれないって思って、ホークさんったらずっと傍にいたんですよ?
 結局、起きませんでしたけど…」
「そうなんですか…よかったあー」
さっきまでルナマリアが座っていた椅子に腰をかけながら、エルフは安堵したように息を大きく吐く。
「ですから、今日はアスカさんのこと、ちゃんと見ていてくださいね。
 目を覚ましたときに誰も居ないんじゃ寂しいと思いますから」
言われるまでも無い。エルフは椅子に座ったまま、じっとシン・アスカの顔を見つめた。
この役をルナマリアから取るのは申し訳ないとも思ったが、私だって、シンに早く起きて欲しかった。
二週間の間に、シンに言いたい事は、積もりに積もっていたのだから。

 
 
 

遅刻ギリギリでミーティングルームに入ったルナマリアの顔を見て、
新兵ボーラスは言いようの無い不安を感じた。
「今日、ヤバイかも…」
「どうしてよ?ボーラス君」
隣に座るクィンは、訳が分からないという表情をする。
「ルナマリアさん妙に嬉しそうだ、それに服もヨレヨレだし…朝帰りと見た」
「よく見るね…変態さん?」
「ちげえよ!一を見て十を判断するのは、客商売の基本だぜ?」
「そんな事無いと思うし、今は軍人でしょ?」
ボーラスとクィン以外にも、私語をやめない新兵は居たので、
ルナマリアは彼等を黙らせるように手に持っていたファイルをバン!と机に叩きつける。

 

「さて!今日で訓練も11日目、
 クソ新兵な貴方達も、少しはモビルスーツ操縦というものが解ってきたかしら?」

 

ヤバイ、マジで浮ついているぞ。今日のルナマリア教官は。
何か嬉しいことがあって、それが待ち遠しい子供の目つきをしている。
こういう時、自分達はきっと酷い目に遭うものと相場が決まっているのだ。
表情と声音だけで、ボーラスはそこまで判断した。
ちなみに、彼女が言うところの『クソ新兵』は、この訓練の中で15人…全体の半分が既に脱落している。
その中には昨日ルナマリアに歯向かった勇気あるザフトレッド2名も含まれる。
というか、最初10人いたザフトレッドは現在2人しかミーティングに参加していないのだが。
「今日は教官直々に稽古をつけてやるわ!1対2の模擬戦闘、1が私で2がアンタ達よ、
 チーム分けは私の指示に従いなさい…負けたら、愉しいわよ?」

 
 

「さてと、どう相成りますやら…」
『ボーラス君、もうちょっとやる気を見せてよ。相手が隊長代理だからって』
「解ってるよ!俺達に相手を選ぶ権利は無いんだからな、ハァ…」
ボーラスはいつも通り、クィンとチームを組んで訓練用の《ダガーⅡ》に乗り、
模擬戦用にあつらえられた残骸や小隕石が浮かぶ宙域を警戒しつつ飛行していた。
今回想定されたケースは『海賊に襲われて、窮地にある友軍を救援しつつ、賊を討伐する』というもので、
その海賊役をやるのがルナマリア教官というわけだ。
ボーラスの組は2番目の出撃だ、つまり最初に出撃した『犠牲者』を助けないとならないわけで…
「賊が見つかったら俺が前に出る。友軍と賊を引き離すから、保護した後、援護してくれ」
『しばらく一人で引き受けることになるよ、大丈夫?』
「足手まといが足手まといを二人も助けないといけないんだ。
 少しはリスクを背負わないと、リターンが無いよ」
そこまで言い切って、ボーラスは一つ深呼吸をする。
(これは意趣返しだ、賊を討伐することよりも、アスカ隊長を助けることを優先した俺への)
それが解るからこそ、今は両方、こなさなければならない。

 

『敵機捕捉、映像を送ります』
スナイパーパックを装備しているクィンの《ダガーⅡ》は一般機より目が良い。
残骸の陰に隠れながら仮想敵機であるルナマリアの朱色の《ダガーⅡ》の姿を捉えた映像が、
ボーラス機にも送られる。
「うげ、わかりやすい事をする…」
エールパックを装備した紅い《ダガーⅡ》は、訓練兵が乗る沈黙状態の《ダガーⅡ》に斬艦刀の刃を当てて

脅しに使おうとしている。
もう一機の《ダガーⅡ》は相対的下に位置する隕石に叩きつけられて、こちらも沈黙していた。
中の人、死んでなきゃいいけど。
「相手はこっちに気づいているか?狙撃は?」
『解らない…狙撃は先に気づかれそう』
「解った、やっぱり最初の作戦で行こう。ミサイルコントロール、任せたからな」
『了解…怪我しないでね?』
「ルナマリアさんに聞いてくれ!」
叫ぶなりボーラスは、自機に背負わせたブレイズウィザードのミサイルを斉射、
同時に自分もルナマリア機に向かって吶喊をかけた。

 

「そう来たか!ボーラス!」
ルナマリアは内心舌を打つ。
脅しに使っていた斬艦刀を前に構え直し、内蔵ビームガンと頭部機関砲でミサイルを撃ち落し始める。
向こうが近づいていたことは解っていたから、狙撃ならば訓練兵の《ダガーⅡ》を
盾にしてやろうかともおもったが、ミサイルの弾幕相手にそんなマネをすれば自分も砕かれる。
「ミサイル程度でどうこう…何っ!?」
突如、ミサイルが急激にベクトルを変えてルナマリア機…ではなく、
ルナマリア機が抱えていた《ダガーⅡ》の左肩の付け根に二発命中する。
炸薬を抜いた模擬弾頭であるが、運動エネルギーだけで間接部を破壊し
ルナマリアと友軍機を無理矢理引き剥がす。
種を明かせば、ミサイルはクィンの手によってマニュアルコントロールされたのだ。
ドラグーンのような特殊なコントロールではなく、ボーラス機を親機に見立てた短距離操縦であるが、
奇抜なアイディアではあった。
「クィン援護!」
「了解!」
片腕を失った《ダガーⅡ》をボーラス機が拾い上げるのと、
ルナマリア機に対して狙撃弾が繰り出されたのがほぼ同時、
ボーラスは友軍機のオーバーライドを起動させ、自動的に後退させてやる。
「オーバーライドは使える、よし…帰ってろ!」
ルナマリアも狙撃から身を隠すために、デブリの物陰に伏せざるを得なくなり、
その間にボーラスはもう一機もオーバーライドで帰還させた。

 

「ここまでは50点でしょ、教官!?」
『20点ね、私を倒せたら、お情けで満点だ!』
ルナマリアも瞬時に、狙撃の射線を遮るように漂流物を使ってボーラス機に接近するルートを見つける。
ボーラスは斬艦刀の剣戟にはまともに立ち向かおうとはせず、離脱をかけようとするが、
ブレイズウィザードの推力をフルに使っても、ルナマリアからは逃れられない。
「無理、クィン助けて」
「もうちょっと頑張ってよ!」
こうも密着されていると狙撃で敵だけ落とすというのは至難の技。
故にクインは、ボーラスの正面にある隕石に数発、大型ライフルの高速弾を打ち込みその巨岩を砕く。
「オッケー、これは読めないだろ!」
ルートが開くことを予測できていたボーラスと、できない筈のルナマリアには差がある。
その虚を突いて反転、反撃に転じようとしたボーラスは、目の前に大岩が迫っていることに驚愕する。

 

ルナマリアは直進したばかりか、斬艦刀に砕かれた隕石の一片を突き刺して、
それをさながらハンマーのようにしてボーラス機の頭に振り下ろす。

 

「嘘だろ!?ふぐぉ!!」
一発で頭部を完璧に砕かれて、首なしになった機体に二撃目が繰り出される。
今度はコクピット部へぶつけられた岩石は粉々に砕かれるが、
ボーラスも衝撃に耐え切れなかったのか、《ダガーⅡ》は沈黙した。
『実体剣にはこういう使い方もあるのよ!』
簡単にボーラス機を沈黙させたルナマリアはそのままクィン機が伏せているであろう方向に向き直る、
ボーラス機を正面にかざして相手の狙撃を防ぎつつ、ルナマリアはブービートラップを発動させる。
オーバーライドで後退中の友軍機が、突如クィン機に向かって頭部機関砲を発砲したのだ。
「え!?どうして!」
すんでのところで離脱したクィンだったが、動揺が激しく次の行動に移れていない。
ルナマリアは彼女の様子を見やり、
(操縦は上手くても、とっさの判断はまだまだか)
とクィンを評価し、ボーラス機を投げ捨ててクィン機に接近する。
「ひっ!」
『二人とも不合格!出直してきなさい!』
そして、クィン機にエールパックの推力を生かした蹴りを打ち込んで、彼方へと飛ばしてやった。

 
 

「これで最後の組か…わあー、6番機下半身もげそうじゃん」
「隊長代理も戻ってきた…コクピットだけになってるよ?7番機」
保冷剤つきのヘッドバンドをつけたボーラスと意気消沈したクィンは膝を抱えて座り込んで、
哀れな訓練生達が帰還する様子を格納庫で見ていた。
結局、訓練用に用意された8機の《ダガーⅡ》は全てルナマリア一人の手によって
戦闘不能なまでに破壊されてしまった。
「未熟者なのはわかってたけど、これから訓練どうするんだろ、地球の企業の人に怒られないのかな?」
「ルナマリアさんがそんな事気にするタマだと思うか?」
「それもそうだね…」
どうせ、機体が無いなら無いでハードワークが課されるであろうと思うと、二人とも気分が暗くなった。

 

「お疲れ様、狙いは悪くなかったけど残念だったわね」
機体から降りた後ルナマリアは、真っ直ぐ自分の部下の元に近づき話しかける。
この時だけは鬼教官ではなく、同じ釜の飯を食べ、同じ船で寝る『戦友』の声音で話しかけてくれた。
ルナマリアもずっと鬼教官役を演じるのが、ゆるくないのだ。
「普通にやっちゃ勝てないのはわかってたんですけどね…自信あったんだけどなあ」
「トリック自体は悪くないわ、ボーラスがわかりやすく逃げすぎなのよ。
 速度が速すぎて、そのままじゃ衝突確実だったし。
 オーバーライドに頼るのも良くないわ、私も一度、同じ手で引っかかったから」
成る程、とボーラスは心の中で頷く。ルナマリアさんらしくない、こすい手だとは思っていたから。

 

「ま、操縦も反応もまだまだね。
 機体も壊れちゃったし、しばらくは陸トレとシミュレーターでしごいてやるから、覚悟しなさい」
「りょうかーい…ん?」
「となると、私はやる事無くなっちゃったし、今日は早く上がれそうね」
「隊長代理…まさか…?」
「早く帰りたいからって、装備潰すようなことしますか普通!」
「チッ、ばれたか」
その時、ルナマリアはとても悪い顔をしていた。
「大丈夫、耐久テストと安全性テストも兼ねてるから。企業の人も泣いて喜んでくれるわよ」
「泣きながら修理するヴィーノさんの事も考えてくださいよ…」

 
 
 

「う…眩しい」
シン・アスカの意識が覚醒して、先ず感じたのは眩しいほどに目に入る照明の光だった。

 

(俺、モビルスーツに乗ってたはずなのに、どうしたんだ?)

 

頭に霞がかかっているかのようにぼんやりとする。思考と記憶がうまく纏まってくれない。
とりあえず身体を動かさないと、と思ったが、全身が固められてしまったかのように、
身体がびくとも動かなかったために、焦りを感じてしまう。
「起きたの?シン、よかった…私の事、わかる?」
声をかけられた方向に、反射的に首を向けようとするも首を回すことすら出来なかった。
それに気づいたのか声をかけた女…いや、少女は自分の顔を覗き込むようにする。
「俺…?じゃなかった、エルフか?」
「よかった、覚えててくれてた」
そう言った少女は、はにかむように笑って、額に手を当てる。
「えっと、熱は無いけど、具合悪くない?頭痛くない?それとも何か食べる?
 あ、でもお医者様に聞かないとダメか」
「待ってくれ、色々言われても困る。俺、一体どうしちまったんだ?
 そうだ…《エル・クブレス》!無事だったのか!?」
「あ、ああ。クブレスは無事だ、シンやザフトの人達のお陰で、守られたんだ」
「そっか、よかった…」
「でも、そのせいで…シンの身体、こんなに傷ついて…」
エルフの言葉と、自分の身体の状況が結びついて、
やっと何が起きたのか、おぼろげに思い出すことができた。
「俺、撃墜されたんだよな…黒いアストレイと戦って、負けたんだっけ…違うな、駄目だ、思い出せない」
「無理に思い出すことないよ…シン、本当に、ごめんなさい」
「エルフ?」
「私のせいで…私が一人で突っ込んで、シンに助けられることが無かったら。
 シンもやられなかったかもしれないのに」
言いながら涙ぐむエルフを慰めようと、手を伸ばそうとして動かない。
もどかしさを感じながら、シンは声をかける。
「エルフのせいじゃないよ。単純に俺の実力不足だったんだ、それか俺がマヌケだったか」
「そんなこと!」
「それでも悔やむというなら、無力を悔やむなら、後悔する前に考える事があるはずだろ。
 過去に囚われちゃいけないんだ、前を、見ないと…」
シンの言葉は、まるで自分にも言い聞かせているようだった。
エルフはそんなシンの姿を見て、自分とシンは、少しだけ重なったのかも知れないと思えた。

 
 

それからエルフは、《エル・クブレス》の顛末や、その後の事をかいつまんで説明した。
襲撃からすでに2週間以上経っていること、他のザフトの調査隊は全員無事だったこと、
そして自分は、シンの治療を手伝うために、プラントのコロニーにいること…
「《エル・クブレス》はいいのか?それに、住む場所だって無いだろうに」
「クブレスは、マスターとジーベンがいるから大丈夫だよ。私は元々、大したこと出来ないから。
 あと、家はキラ・ヤマトの家に居候させてもらっている」
「マジ?」
「私も最初はビックリしたよ。でも、別に問題なくやっているよ」
「ならいいんだけど…」
デュランダルを討ったラクスの剣とも言われたキラ・ヤマトと、
デュランダルの遺児とも言えようエルフが同居するという話は、考えれば考えるほど妙に思えたが…
まあ、ヤマトさんはお人よしだし、エルフが問題ないって言うなら大丈夫なの…かな?
「何故だか知らないけど、私に同情的だったんだ。
 別に何をしてもらっているってわけじゃないけど、助かってるよ」
「ふーん…何でだろうな」
「私のことはいいんだ、シン、今は大丈夫か?痛くないか?」
「…よく解らないんだ、全身ガチガチに固められてるから、確かめようもないし」
両足両手、さらには首周りもギプスで固定されていて、部位の感覚もおぼろげにしか感じられない。
人生でこんな大怪我をするのが始めてだったから、どうにも具合が解らなかった。

 

「キツイな…エルフ、全治何ヶ月か聞いているか?」
「…完治に短くても五年って、お医者様は…」
「そうか…」
無意識に発した落胆の声を聞き、エルフが酷く暗い表情を見せたために、シンは慌てて取り繕う。
「いや、治る見込みがあるなら万歳だな!一日でも早く治して、復帰しないと!」
強がっていることが見え見えだったから、エルフは顔を背けるように立ち上がり、
シンと同じぐらいに取り繕った明るい声で叫ぶ。
「お医者様に知らせないとな!何か飲み物も持ってくるよ、それから…えと…」

 

ルナマリアはそんなに怒って無いから大丈夫だよ。エルフだけが責任感じることなんて、無いんだから

 

エルフは一瞬、その言葉を発した主がシン・アスカだと、どうしても『思えなくて』思わず振り向く。

 

「ルナマリアさんが、何て…?」
「へ?ルナがどうしたって?そんなこと言ったっけ?」
「…なんでも無い」
エルフは堪らず、逃げ出すように病室から走り去った。

 

シンは今のルナマリアの、荒んだ様子も、ルナマリアの心のうちも知るはずが無いのに。

 

断定的だったその言葉に、言いようの無い不安を感じてしまったから。

 
 

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