XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 銀色の腕の少女、紅い目の少女編_第2話

Last-modified: 2009-09-29 (火) 03:27:15
 

第2話 『spirit link』その2

 
 

身支度を終え、スーツ姿で議長宅から出てきたラクス・クラインを、玄関で待っていたのは
虎柄のスーツという地球圏にあってはならない配色の服を着込む、隻眼を男だった。
「よ、元気だったかい?ラクス」
「…どういうつもりですか」
「どういうって、お出迎えさ。いつもやっていることじゃないか」
つかみ所の無い、アンドリュー・バルドフェルトらしい笑みを浮かべながら、
悪びれもせずに彼は言い切った。
ラクスは一つ、わざとらしいため息をついた後、無言で彼の黒塗りの高級車に乗った。
車を虎柄にしないのはなんでだろう?と思いながら。

 
 

《アプリリウス・ワン》の混んだ道路を走りながら、バルドフェルトは前を向いたままラクスに話しかける。
バックミラーにチラと映る表情は、いつもの彼の表情だと思えたラクスは、
それだけでこの男の不気味さを味わっているような感じがして、気に喰わなかった。
「しっかし久しぶりだねえ。2週間ぶりかい?」
「…15日と8時間27分ぶりですわ。秒までは覚えていられませんので」
「ラクス、僕は何か嫌われるような事をしたかな?」
「てっきり、私が貴方に嫌われたものと思っていました」
「嫌いになったわけじゃないよ、嫌いになるわけ無いじゃないか。僕とラクスは共犯だというのに」
「共犯…一番しっくり来る言葉です」
「だけどね、ラクス」
改めて呼びかけられたとき、バルドフェルトの目が細められて、眼力が増したような錯覚をラクスは覚えた。

 

「元前線司令官として忠告するよ。上に裏切られちゃ軍隊はもう動かない。
 それがたとえ、どんな末端の兵士だったとしても、ね」
ラクスは少しだけ顔を俯けて、表情を隠そうとした。

 

「君がどんな企みを持っていたのかはまだわからない。
 だけど、君のことだから個人的な問題で、シン・アスカを殺そうとしたんじゃない事は、
 解っているつもりだ。プラント全体に関わるからと、判断したからだと」
そこで丁度赤信号につかまり、車を停止させて話を続ける。

 

「だけど、やり方は選ぶべきだ。命を弄ぶ人間は、必ずその応報を受ける。」
「何ですかそれ、宗教ですか?」
ラクスの言葉に、少しの嘲りが含まれているのは、コーディネイターの殆どが無神論者だからである。
宇宙に住まう民は、地上の神を信じても何一つ救われないと知っているから。
「実体験に基づく持論だよ」
「バルドフェルトさんも、命を弄んでいたと?」
「砂漠の虎だとなんだとプロパガンタされていてもさ、
 実際は下手糞な戦争しかできていなかった、ってことだよ」
彼は、キラが乗っていた《ストライク》に敗れた時の事を言っているのだろうか。
それとも、私が知らない、彼の戦争の事を指しているのであろうか。
その台詞は、バルドフェルトがさらけ出した弱さのようにも思えて、
ラクスは少しだけ、優越感を感じてしまった。

 

「話を変えるんだが、こいつを見てもらえないか。端末は?」
「持ってますわ、そのくらい」
腕を後ろに伸ばしたバルドフェルトの手から、データチップを渡されたラクスは、
それをバッグから取り出した自分の携帯端末に入れて、ファイルを開く。
内容は、現在行われている《ダガーⅡ》の機種転換訓練についてのものだった。
ラクス自身はあまりタッチしていない計画だったが、
上手く行けば地球連合とプラントの橋渡しの証明だと喧伝もできようと、少しは期待していた計画だった。
模擬戦闘のデータを閲覧する。なるほど、量産機としては高性能なのであろう。
チーム戦で《ザク》を圧倒しているデータすらあった。
OSもコーディネイター好みのピーキーなものにアレンジできるらしいし、
ベテランからの評判も悪くない。
ラクス自身は軍事に関しては素人であったが、知識だけは得ようと勉強していた時期もあり、
読みにくいデータをスラスラと読んでいたラクスは、ふと思い当たる。
(キラが見たら、どう思うのでしょうか)

 

ラクスにとって、モビルスーツ・パイロットといえばキラであり、
モビルスーツといえば《フリーダム》であった。
規格外のパイロットと機体の力でデュランダルを排除したラクスであったが、
両者ともすでに、ザフトからは失われている。
(キラを追い込んだのは、私だ…)
彼を傷つけ、それに気づかぬ振りをしたのは…

 

「手が止まってるよ、ラクス。見て欲しいのは《ダガーⅡ》のスペックじゃない、その中身さ」
バルドフェルトに促されて、訓練に参加しているパイロットのデータを開く。
教官役がつけた評価順にパイロットの名前がソートされている。
トップにあるのはクィン・エルセデス…彼女の名前はラクスにも聞き覚えがあった。
現在の国防委員長の娘であり、それなりに複雑な家庭環境にある娘だったから。
そのあとも下にスクロールしていくが、別に重要なデータは無い…と思っていたら、
下半分のデータを見てラクスの表情が強張る。
表情の変化を見て取ってか、バルドフェルトが解説を入れようとする。
「30名の訓練生のうち、脱落者15名。かなり厳しくやってるみたいだけど、その訓練生は全員」
「第三世代コーディネイター…」
「そういう事だ、もしかしたら、君の持論の裏づけになるんじゃないかと思ってね」

 
 

ラクス・クラインの父、シーゲル・クラインはある一つの事象を懸念していた。
絶望していたと言ってもいいかもしれない。
コーディネイターの出生率の低下である。それは特に、第三世代以降顕著になる。
それゆえに、交配のマッチングを前提にした婚姻統制が行われるほどになり、
ナチュラルとの融和を目指して、シーゲルはハーフ・コーディネイターの保護や奨励を行ったり、
果てはナチュラルとコーディネイターが共存する『隠れ家』の手配もしていた。
第三世代が成長し、社会に参加するようになり始めてから、ラクスは一つの仮説を立てた。
第三世代のコーディネイターは、種としてだけでなく、個体能力的にも劣っているのではないかと。

 

第二世代コーディネイターは遺伝子構造の変容が大きく、
交配するためにはその相手を厳選しなければならない。
これは相手がナチュラルであっても、第一世代であっても同じ事であり、
それは第二世代の脆弱性を示しているようだった。
たとえ上手くマッチングする相手が見つかったとしても、その後コーディネイターに必需となる処理…
優秀な因子を持った受精卵を製造する工程で大きな障害があることを、
そしてその事実をプラントの医術局がここ10年近く黙殺していた事を
ラクスが知ったのは半年前のことである。
コーディネイトされた受精卵から発生が起こらなかったり、奇形が発生するケースが非常に多かったのだ。
その事実を隠してきた医術局は、第三世代を生み出す際には、極力コーディネイトを行わないようにした。
出生率は少し安定したが、要は自然交配、自然分娩と同じような結果しか生み出されなくなったのだ。
コーディネイターの根幹である、遺伝子的な優秀性は失われているのではないか…
この事象が意味する事実に突き当たったとき、ラクス・クラインは、
父と同じ絶望に行き当たったのかも知れない。
コーディネイターの国家に、未来は無いと…

 
 

「それで、クライン議長閣下はどうなさるんで?」
「ラクスで結構ですわ…まだ何もできません、今は、まだ」
「今は、ね。つまり手を講じようとしてるわけだ」
「その時…貴方は助けてくださいますか?アンドリュー・バルドフェルト」
照れくさそうな表情を浮かべながらも、バルドフェルトは真面目な声音で答える。
「とことん付き合ってやりますとも。僕は君の共犯なんだから」
「別に義理立てする必要はありませんよ?キラや貴方が居なくとも、代わりの誰かを探すだけですから」
「そういう事言う人間、ほっとけないんだよなあ」
「呆れた…」
口はそう言いながらも、ラクス・クラインはしばらくぶりに、穏やかな笑みを浮かべた。

 

「何だったら、僕のことアンディって呼んでくれてもいいんだけど?」
「冗談じゃないわ、ふざけんなですわ」

 
 
 

軍務は早く切り上げ、夕暮れ時前に軍病院に辿り着いたルナマリアは、鼻歌を歌っていた。
一旦寮に戻り、カジュアルな私服に着替えてすらいる。そして彼女の蛮行を食い止める人物はいなかった。
(せめて虎さんがいたら押さえが効いたかもしれないのに)
と、新兵が思ったか思わなかったかは不明だが、恋する少女を止められる野暮な人間は、
訓練兵や訓練所スタッフに中には居なかった。という事にしておく。
きっとシンは起きている。根拠も無く確信したルナマリアは、
安堵と歓喜が入り混じった感情で病院の玄関をくぐろうとした。

 

「あれ、エルフどうしたの?」
シン・アスカの遺伝子情報を元に作られた女の子。
昔のシンのように生意気で人の話を聞かない人間だと思えば、
シンのために身を粉にして尽くす面もあって、本当にシンの妹なんじゃないかと思えるような女の子。
不本意ながら、彼女にシンの事を任せなければならない立場のルナマリアとしては、
感謝こそすれ恨むことなどできない少女なのだが…やっぱりちょっと、腹立たしい。

 

でも、今のエルフは様子が変だった。顔を俯けて、凄く暗い表情をしている。
エルフはとぼとぼ歩きながら、ルナマリアに気づかないのか彼女の横を通り過ぎようとする。
「ちょっと、どうしたのよ」
思わず、後ろからエルフの肩を掴んで止める。
「何かあったなら言いなさいよ。そんな風にアピールされたら、聞きたくなっちゃうでしょ?」
ルナマリアのお節介な性格であった。
半ば無理矢理ルナマリアと正対させられたエルフは、ぼそりと何事かを呟く。

 

「…と、…したの」
「へ?」

 
 

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