XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 龍宮の守人編_第13話

Last-modified: 2009-07-22 (水) 00:58:28

○前回までのあらすじ
デュランダル議長が遺したコロニー《エル・クブレス》に海賊の艦隊が襲い掛かる。
先行したエルフはピンチになってた。

 

そして、360はテストやらレポートやら金欠やらエンコードやらと戦いつつ、
何とか再開することが出来た。若し待ってた人いたらごめんなさい。

 
 
 

「見事なもんだ。《フリーダム》もどきを完封とはな」
「機種は関係ありませんよ、単騎ならアレで嵌め殺せます」
モニターに映る戦闘の様子を見やりながら、《ニブルヘイム》の艦長席に収まる屈強な大男と、
傍らに立つ色眼鏡の青年は感想を述べる。

 

そこには、陽電子リフレクターの盾を前にして手も足も出なくなっている
異形のモビルスーツが映っていた。
背中の羽根状のユニットは伝説の機体《フリーダム》に酷似していて、
それはサイ・アーガイルにとっても、因縁があるモビルスーツだった。
(パイロットも弱くはないが、アイツと比べるのは可哀想か)
きっと、4年前までは生死も苦楽も共にした友人ならば、易々と突破したであろう。
だからなのか、包囲されてまごついている《フリーダム》もどきを見ていると
馬鹿にされたような気分になる。
「遊んでいやがるな…さっさと殺せばいいものを」
「きっと鹵獲する気なんでしょう、お点前は見事でも、所詮は賊か…」
《ユークリッドB(ブラボー)》という連合軍でも最近配備が開始されたばかりの代物が
簡単に横流しされて海賊の手に渡るという事実。
今のサイにとっては、とてもとても良い事だった。

 

「強行偵察をしかけた《コスモバクゥ》より入電!付近のマップと敵戦力のデータですぜ!」
通信を担当するクルーが耳障りなだみ声で連絡する。
命知らずの特攻野郎から送られたデータは、目標とするコロニーが実存していることと、
付近にいるモビルスーツ母艦はナスカ級1隻しか確認できなかったことが記されていた。
相手方もモビルスーツを展開している…
モノクロだが敵影を映したフォトも届いた。
機種は《グフ》に《ザク》…ザフトの正規軍らしいモビルスーツが五機。
その中には先日《ニブルヘイム》を捕捉して、少なからざる被害を与えた
ダークグリーンの《ダガー》タイプも混ざっていた。
しかし相手の戦力は微弱だ。
これならば銀色の腕の少女に頼る事無く仕事を終わらせられるかもしれない…

 

『ねえー、私の出番まだあ?』
ブリッジに響いたのはモビルスーツで出撃しているはずの、銀色の腕の少女からだった。

 

「待機だ、シルバーハンド。それに戦闘中だ、オープンチャンネルはやめろ」
『だってさあお兄ちゃん、あいつらトロくさいんだもん。私だったら3秒で殺してやれるのに』
綺麗な鈴の音のような、澄んだ少女の声で物騒なことをいう…
まるで血に飢えた獣か、殺すこと壊すことが楽しくて仕方ない犯罪者のような物言いだ。
「人の仕事を取ると恨まれるぞ。いいから大人しくしてろ、シルバーハンド」
『はぁーい…』
不満げな声を出しながらも、とりあえず少女はサイに従ってくれた。
そのまま《ニブルヘイム》の影に身を潜める。

 

サイが彼女と出会った頃と何も変わらない。
モビルスーツから降りて、何時も自分にくっついていないと不安で溜まらないという顔をする
銀色の腕の少女。
モビルスーツに乗って、殺すことに喜びを感じる《シルバーハンド》の異名を持つパイロット。
どちらが本当の彼女なのか、サイには分からなかった。

 

『メイデイ!誰か救援を頼む!誰かっ…があっ!』
「何処からだ!」
「斥候の《コスモバクゥ》からですっ!」
急に耳に飛び込んだ助けを求める声は斥候役…
本来、交戦厳禁な筈なのに、色気を出して食いつかれたのか?
しかし、そうではなかった。
『敵はドラグーンを装備!駄目だ、逃げ切れない…』
「おい!応答しろ!おい!」
恐らく撃墜されたのだろう。しかし《フリーダム》もどきにドラグーンまで持っているとは、
やはりターゲットは只のコロニーでは無いのだろう。
『私の出番ね!行って来ます!』
「待機だ!何度も言わせるなよ、シルバーハンド…」
サイの静止は最早、ちょっと我侭な女の子とか彼女とかに困らされる男の声にしか聞こえなかったから、
ブリッジクルーの荒くれたちは笑いを抑えたり、派手に笑っていやがるのだ。
「だが、ドラグーンは並のパイロットじゃ対処できないと聞くぞ。あのガキでも危ないんじゃないのか?」
意見を挟んだのは艦長だ。この言葉には
『あのガキじゃないと全滅しかねないから、ガキにやらせろ』
というニュアンスが含まれている。
サイも同感だった。そしてこの船のトップは、サイの横にいる筋肉ダルマだ…

 

「シルバーハンド、行ってこい。今日は遊ぶなよ?」
少女は自分の指示でしか動かない。だからサイは自分の口でいつも、彼女を戦場へと向かわせる。
『分かってますって、それじゃあ、いってきまーす』
軽い口調で応じた少女は、《ディザストレイ》を鉄火場へと奔らせた。
サイにはそのモビルスーツの背中を見つめることしか出来なかった。

 

『あらあら、大の男がそろって子供に頼りきりとはねえ?情けないんじゃない?』
サイがつけているヘッドセットから女の声が流れる。聞き覚えのあるそれは、
自称『オシャレにうるさい海賊』のものだろう…またハックされたのか?
「何ですか、こっちの事情に口出ししないで下さいよ」
『拗ねないでよ少年。貴方に手助けしてあげようと思ったのよ?』
「…どういうことですか。それと、出し惜しみは無しですよ。裏切りに等しい行為だ」
『もう、真面目ねえ少年。予備兵力は何時でも置いておくものよ。
 それに、ドラグーンならアタシ達が何とかしてあげるから』
「はあ、それはすごいですね…」
サイは生返事を返した。ニュートロンジャマーの影響で誘導弾やFCSがアテにならない戦場で、
ドラグーンは正確無比かつ執拗な攻撃を行う存在として君臨している。
対抗策なぞ、海賊風情が持っているわけなど…持っているのか?
『信用してないわね、うちのメカマンは優秀なのよ?というわけでオターク。行ってらっしゃい』
自分でやるんじゃないのかよ、サイはヘッドホンから微かに聞こえる、
男の文句というか泣き言を聞きながら、心の中で悪態を付いた。
話半分だが、ドラグーンを封じられるなら銀色の腕の少女も楽になるだろうし…

 
 

『エルフ!無事か!』
「アハト!助かったあー…」
陽電子リフレクターに守られた敵群に苦戦を強いられていたエルフは、
心強い援軍が来たことに安堵を覚える。
アハトの《Nインパルス》に装備されているドラグーンなら、リフレクターの裏から攻撃が出来る。
早速と言わんばかりにドラグーンを展開するアハト。
自衛用に二基だけ残して、その殆どを繰り出して攻撃を開始する。
まるで一基ごとに独立した意思を持つように機動する自動砲台は、
敵機の死角に滑り込むようにしてからビームを放つ。
対応できない賊のモビルスーツを、次々と撃破する。
呼応してエルフ機もライフルを撃つ。ドラグーンに翻弄される敵をつるべ落としにすることは容易かった、

 

だが、一番排除したかった敵は撃破出来なかった。
「アイツ、全面にバリアを張れるのか?」
リフレクターを使う《ユークリッド》は、機体全面の発信機と、
後部に展開したガンポッド3機の発信機を使って自機を四面体で覆うような防御姿勢をとった。
これではドラグーンを使っても有効打は与えられないだろう。
「ならば接近してっ!」
『駄目だ、一度下がって立て直すぞ、エルフ』
「どうしてさ!」
『ザフトの方も協力してくれる。共同で敵に当たる。それがマスターの指示だ』
「わ、わかった。シン・アスカも出てくれるんだよな?」
『恐らくな』
エルフとアハトの《Nインパルス》は砲撃しながら後退をかける。
撃破は狙っていないがリフレクターを使う敵も、迂闊には追撃しないだろう。

 

しかし、事態は二人の望むようには進まなかった。

 

先に違和感を感じたのはアハトだった。
背部のコンテナにドラグーンを帰還させようとしても上手く行かなかったのだ。
マシントラブルのはずが無い、現にさっきまでは正常に操作できたはずなのに、どうして。
(ドラグーンを無効化する装備が、あるということか?)
確証の得ようも無いが、若しそんな装置があって、今使うのだとしたら…
相手は仕掛けるつもりだ、その予測が当たっていなかったら…

 

「があっ!」
『アハト!』
機体にビリッと走る衝撃にアハトは思わず呻く。
予測が当たっていなかったら、今頃首を刎ねられていただろう。
急に接近された敵機は寸前で回避できたが、バックパックを少し抉られてしまった。
強いジャミングが戦域に施されているのか、センサー、レーダーが全く用を成さない。
カメラと自分の眼だけがものを言う状況で、アハトは今しがた、高速で飛び込んできた機影を追う。
スラスター光を美しい尾を引き、ぐるりと大きく回りながら機動する機体は、
機影こそ捉えられ無かったがアハトには脅威に映った。
「エルフ、アイツを近づかせるな!」
『わ、わかった!』
アハトとエルフ、二人の《Nインパルス》は互いの後背を庇うようにして、
大きく旋回する機影に射撃を加える。
ドラグーンが使えないとはいえ、核エンジン搭載機2体の繰り出すビームは濃密だったが、
その全てをすり抜けるように回避される。
『くそっ、埒を開けてやる!』
焦りからか、エルフは展開していた砲身を折りたたみ、ビームサーベルを引き抜く。
加速ではフリーダムシルエットは負けないはずだと信じて、敵に追いすがろうとするが。

 

「お馬鹿さん。我慢できずに飛び出して」

 

《ディザストレイ》を駆る銀色の腕の少女はフリーダムもどきの挙動を見て
黒い覆面の中で舌なめずりをする。
連携を解いて単騎になった敵ほど容易く刈り取れるものは無い。
フリーダムもどきにわざと『追いつかせた』少女は、繰り出される斬撃を手首を受け止めて防ぐ。
パワー負けする前に腹に蹴りを入れて、宙返りをするようにしてフリーダムもどきから離れる。
元気な敵ではなくその奥…プロヴィデンスもどきを目標に定める。
機体を捻りながらライフルの火線を避ける。二基搭載された電磁推進システムのお陰で、
AMBACや姿勢制御スラスターを使わずとも機体を自由に泳がせられることが
銀色の少女の気に入った点であり、《ディザストレイ》の強みだった。
そして、遂にはプロヴィデンスもどきの懐に飛び込んで…

 

「バイバイ!」
右手につけた《アッシュ》のビームクローで、《プロヴィデンス》もどきの腹を、深く貫いた。

 

『ぐおおおああああ!』
「アハト!アハトっ!今、助けるから!」
信じられないものを、見ている気分だった。
アハトと私、二人揃えばどんなヤツが相手でも勝てると思っていたのに、
それが黒い《アストレイ》…カスタムされた量産型に過ぎないヤツにこうも簡単に弄ばれて!

 

『あら?まだ生きてたの?意外とタフなんだね、おにーさん。
 それともトーゼン?だってコクピットはちょっとだけ、外してあげたんだもんね?』
「ぐ…、逃げろ…エルフ…」
アハトの苦悶の声と、アハト機を通じてなのか、知らない少女の声が聞こえる。
哂う様な少女の声が。

 

「知ってる?アラスカ基地に攻め込んだザフトって、
 フーセンみたいに膨らんで、弾けて死んじゃったんだって…
 …こんな風にさあ!」

 

《ディザストレイ》はクローのブレード部を高熱化させる。
ビームを形成してしまえば、中のパイロットはプラズマで直ぐに焼かれてしまうだろう。

 

銀色の腕の少女にとって、そんな死は『救い』でしかない。
折角、一生で一度の大イベントなのだ…
たっぷりと苦しんで、生の最後の一秒まで苦しんで死んでくれないと。

 

そう、この私みたいに!

 
 

『おごっぶぼぼぼ…』

 

意味を成さないアハトの最後の言葉のあとに、

 

エルフはブクブクという音を、バンと弾ける音を、聞いた気がした…

 
 

5秒後、パイロットを失った《Nインパルス》が硬直する。
《ディザストレイ》は無造作に機体を蹴り飛ばす。
クローの刃には、焼け焦げた血の跡がベットリとついていた。

 
 

「アハト…殺された…お前…おまええ!」
『安心しなよぉ…アンタも同じにしてあげるからさあ!』

 

仲間の死に怒りを燃やす少女と、死を与えることに何にも勝る愉悦を覚える少女。
二人の機体が、交差した。

 
 

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