XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 龍宮の守人編_第6話

Last-modified: 2009-06-03 (水) 01:43:29

○前回までのあらすじ

 
 

カガリ「中に誰もいませんよ?」

 
 

では本編です。

 
 
 

「うう…頭痛い…」
「コーディネイターが二日酔いってどうよ」
頭を抱えるルナマリアを見て、シンは呆れる。

昨日はルナに付き合って自棄酒にまで巻き込まれた。
《アーモリー・ワン》基地内のブリーフィングルームには、
ナスカ級《パトクロス》クルーの面々が集められていた。

珍しい事だった。 海賊討伐やパトロールが主な任務になっている彼らの場合、

大概は一隻で活動しているから、わざわざ基地に集まることもないからだ。

《パトクロス》のクルーではない顔も混じっている。
「これから共同作戦だって言うのに、暢気だねえお二人さんは」
二人の後ろに座っていたヴィーノが声をかける。
「そういや何処の部隊と組むか、聞いてる?」
「ジュール隊。しかも大掛かりなものになりそうだよ。さっきまで重火器の搬入手伝ってたし」
「げ、あの人達か…」
別にシンがイザーク・ジュールに何かをされたという訳ではないし、した訳でもない。

ただ、何時も血圧高そうなイザーク・ジュールが少し苦手なだけだった。

1年前のメサイア戦役にて、ギリギリのタイミングでピンクのお姫様に寝返った事を
恨めしく思わなくもないが…

 

「あーそうだ。私のモビルスーツってどうなってるんだろ。
 《ジン》でも《ゲイツ》でもいいんだけどさ、この際」
「それがですねルナマリアさん…あ、艦長達が来た」
ブリーフィングルームに、いかにも中間管理職風のトライン艦長と、
いかにもコーディネイターめいた整った顔立ちをしたイザークが並んで入室する。
部下達が敬礼するのを見やった後、挨拶もそこそこにトライン艦長は説明を始めた。

 

「二日前の任務の途中で偶然発見されたものだが、

 ザフト領宙内で巧妙に擬装されていた大型の構造物が発見された。

 擬装された面積から類推して全長40キロに渡るものだと思われる」
(俺とルナが見つけたアレか)
結局トライン艦長の報告は受理されたという事か。少し安堵を覚えながら話の続きを聞く。
「そこで我々に下った指令は、ジュール隊《ボルテール》と僕の隊の《パトクロス》が共同で

 この構造物の正体を明かすことだ。調査隊に陸戦隊、その護衛のモビルスーツ隊を伴った

 大規模な作戦になるが…実際には臨機応変に事態に当たることになると思う。

 各員、気を引き締めて任務に当たってくれ。

 …ジュール隊長からは、何かありますか」
今まで気難しそうな顔で押し黙っていたイザークは「うむ」と返事をして、こちらに向き直って語り始める。

 

「トライン艦長の言うとおり、コレが何者であるか全くわからん。

 廃棄されたコロニーなのか、賊のねぐらなのか、非合法の実験施設であるかも知れんし、

 果てはファクトリーやデスティニープラン絡みの施設かも知れん」
デスティニープラン、という単語を聞いた時、シンの身体は思わずピク、と震えた。
そうでなくても周りのクルーの目が一寸自分に集まる。

デュランダル議長子飼いのパイロットとして認識されていたのだから、当然であろうが…
「よってだ、フタをあけたら訳の分からん生体兵器が出てくるとか、

 《フリーダム》や《デスティニー》の大群が襲い掛かってくるとか、

 得体の知れないモビルアーマーが出てるか、

 はたまた《ジェネシス》級の戦略兵器が顔をだすとかな…兎に角、
 数多の可能性を秘めた玉手箱という事だ。
 場合によっては困難な任務となる。これだけは肝に銘じろ。以上だ!」

 

正直、中身があるブリーフィングとは言えなかったが、

それでもイザーク・ジュールはやらざるを得なかったのだろう。

黙って部下を死地に追いやるよりは、いくらかマシだと思って。
敬礼によって締められたブリーフィングを後にして、各員は各々の準備に入った。

 
 

新たに受領した機体を確認しようとして《パトクロス》の格納庫に入ったルナマリアは、
自分のモビルスーツを見るなり絶句してしまった。
「落ち着いて聞くんだルナマリア。うちの開発部も依頼主も得られたデータに
 いたく満足したらしくてな?引き続きザフトでのテスト運用も続けて、

 もしかしたら プラントでもライセンス生産を行う可能性すら出てきたんだ」

 

「あ…な…だ…」

 

ヴィーノの話も耳に入らず、声にならぬ声でうめくルナマリア。
「それでまた、おかわりがザフトに引き渡されたんだけど、

 機種転換訓練受けてるパイロットなんて居なくてな?結局またこっちに…」

 

「何で《ダガー》に乗んなくちゃいけないのよ!」

 

ルナマリアはヴィーノの胸倉を掴み、上下に揺さぶる。
「おおお落ち着くんだルナ!」
「誰ぞあるかー!ルナマリア殿ご乱心!ご乱心だー!」

 

連合カラーの青と白で塗り分けられた《ダガーⅡ》が、
そんな喧騒を静かに見下ろしていた。

 

「赤だ、赤に塗るんだ、でないと乗らない」
「無茶言うな!アジャストでてんてこ舞いだってのに」
「別に、何でもいいじゃんか。モビルスーツなら」
嘗て最新鋭の機体ばかりに乗っていたシン・アスカとも思えない台詞を吐くのだった。

 
 

「おかえりー…また不機嫌そうだねえ隊長」
ディアッカ・エルスマンの言葉には構わずイザークは《ボルテール》の指揮官席に乱暴に座る。
何時も怒っているように見えるイザークの様子が何となく違うと感じられるのは、
士官学校以来の連れである彼くらいだった。
「そんなに気になる、っていうか不安な任務なのか?」
「そうじゃない、ラクス・クラインが一枚噛んでいる気配がするのが気に喰わないだけだ」
ヒュウ、とワザとらしく口笛を吹いてみせるディアッカ。

 

「兵には知らせられなかったが、これは議会…要はクライン議長から下命された任務だ、
 トライン艦長の報告から分かったというのは本当だろうが、

 彼女は正体が何であるか知っているんじゃないかと思えてな…」
「それを知った上で、部下達を危険に晒させることになるのが気に喰わない、と」
「甘いと思うか、それがザフトの仕事だと重々承知していたつもりなのだがな」
義勇兵だと建前はあっても、所詮ザフトは議会議員の私兵なのだ。軍隊ではない。
「しかしイザーク、お前さんピンク姫のファンじゃなかったっけ?」
「歌と政治は別だ、俺はクライン議長の方針を全面的には賛成しない。

 キラ・ヤマトの事にしてもな…」
「はいはいストップ。済んだ話はするもんじゃないよ?隊長殿」
「隊長。モビルスーツ、装備物資の搬入及び陸戦隊の搭乗、全て完了しました」
ブリッジに入ってきたシホ・ハーネンフースが報告する。

本来はパイロットがする仕事では無かったのだが、

今回は彼女が開発に関わった装備の搬入があったため、そちらの指揮を執ってもらっていたのだ。
ご苦労、と短く労いの声をかけたあと、イザークは席を立ち上がる。
「各員配置に付け。艦長、頼む」
「ハッ!」

立派な髭が目立つ《ボルテール》の艦長が返事を返す、

ベテランらしい、小気味良いものだった。
「錨を揚げろ!《ボルテール》出航!ヨーソロー!」

 
 
 

デスティニープランとは、一体何であったのだろうか。

全人類を遺伝子情報に基づき、その人生を決めるシステムだったとも、

只の職業選択の自由を奪うシステムだとも後日言われることになったが、シン・アスカにとっては…

……1年前のシン・アスカにとっては、この世から戦争を無くすための、唯一の手段だと思っていた。
だから彼は、デュランダル議長と、彼の懐刀たるレイ・ザ・バレルに乗ったのだ。

 

当時の彼は絶望しきっていた、

家族を失い、守りたかったものも失い、復讐を果たしても何も戻らず、

そしてロゴスの残滓たる《レクイエム》が、無辜の民が住むプラントをズタズタにして…

だからそんな世界を終わらせる手段ならばと、本気でデュランダルの夢想に乗っていたのだ。

 

結局は、ピンクのお姫様と、彼が従える騎士たるキラ・ヤマト、

そして議長から離反したアスラン・ザラに負けたのだ。

デスティニープランは成就せず、シンは完膚なきまでにアスランに破れ、

そして、また一人友を失った。

 

後日、デスティニープランは子供が出来ないばかりに女…グラディス艦長を奪われたデュランダルが、
全人類に同じ苦しみを味わわせようという企みだった…と喧伝するゴシップもあったが、
そんなことは信じたく無かった。

 

デュランダルは、レイは、自分を戌だとしか見なしていなかったのかも知れない。

 

だけど、シンは戌でもよかった。

 

平和を為すための戌ならそれでよかった。

 

レイも、ステラも、父さんも母さんも、マユもいない。

 

もういない。

 

もういない世界で俺は一体何をしているのだろうか…

 
 

「…聞こえてる?ねえ、シン!」
「あ、ああ。聞こえてる、どうぞ」
「どうぞじゃないわよ、交代よ」
いつの間にか、自分の機体の後ろにルナマリアの《ダガーⅡ》が接近していた。
色を塗り替える時間は勿論無くて、右肩だけ紅く塗られた機体と、

肩ですれ違う要に位置を入れ替える。
「大丈夫?ぼーっとしてなかった?仕事してよ?」

 
 
 

結局、航行中な何もトラブルは起きず、そのまま謎の構造体の調査と相成った。
擬装スクリーンを、卵の殻をむくように慎重に剥いでいるのは新兵が乗る《ゲイツR》、
ワークス・モビルスーツで事足りる作業でもどんな危険があるのか分からない以上、
パイロットの仕事となるのだ。

シンはそんな光景を見ながら周囲警戒に当たっていた。

 

「しっかしまあ、剥いて見れば何てこと無い、って感じよねえ」
ルナマリアは段々と姿を現にする構造体…コロニーを見やりながら言う。

プラントのものとは違う円筒型のコロニー、しかしミラー部と地表部が半々になっている。
何か意図があってのデザインなのだろうか…
『アスカ隊長、ミラーの奥が見えにくいのですが、どうなっているのでしょう』
新兵の少女の方、クィンがそうもらしながら、シンの《ダガーⅡ》にも映像を送る。
サーチライトで照らしているにも関わらず、奥まで見えないのだ。
「何だ…?水でも入っているのか?」
「さながらコロニーサイズの水槽ね。でも何のためにだろ?」
疑問を口にするが、それを明かすのはまた後の話だろう。

 

新兵の《ゲイツR》の脚が爆ぜたのは、その時だった。

 
 
 

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