XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 龍宮の守人編_第5話

Last-modified: 2009-05-31 (日) 23:09:35

○前回までのあらすじ
ジャーンジャーンジャーン
アスラン「げえっ!シン・アスカ!」
シン「…」
アスラン「嘗ての上司のよしみ、見逃してはくれぬか」

 

では本編です。

 
 
 

《パトクロス》に帰還したシンはその脚でブリッジへと向かった。
ルナマリアは、本人は大丈夫だと言っていたが、大事を取って医務室に行ってもらっている。
何せ宇宙空間に放りだされたのだ、自覚しないまま何らかのショックを受けていたら…

 

本当に命を落とす。

 
 

「申し訳ありません艦長。試験機を失ったばかりか、任務を果たせず…」
「謝らなくていいよ、シン君。自分も無茶なミッションだったと今は思う。
 それに、ギリギリで目的は果たせたしね」
報告を受けたトライン艦長は宙域マップをシンに見せる。
そこにはさっきのドレイク級の予測進路と、実際には反転してどこぞへと消えたことを示していた。
「ギリギリまでトレースしたんだけど、連中、君達を攻撃したあと進路を反転しているんだ。
 見逃すことになったのは悔しいけど、それ以上に解せない」
「どういうことですか?」
「最初は連中…もういっそのこと《ボキー2》とでも名づけようかな?
 兎も角秘密のアジトでもあるものだと思ったんだけど、反転したということは、そうではないよね?」
「ええ、普通に考えれば」
ねぐらの位置を悟らせないためにコースを誤魔化したという線もあるが、
自分達は積載限界数のモビルスーツで攻撃を受けた。
補給を受けていた状態…つまり『往路』だったのではと予測する。
「そして、君達が見つけた隠された謎の構造物。
 手を出せる状況じゃなかったから詳しいことは分からないけど、ザフトも、連合も、
 僕達の知る限りではあんな所には基地もコロニーもステーションも作っていない」
「別の賊のねぐら…それともファクトリーとか?」
「ファクトリーはターミナルと共に解体、開発局と情報局に組み込まれたって発表されてるけどね、
 他でもないクライン議長の口から」

 

ファクトリーはモビルスーツ開発工廠、ターミナルは情報機関として、
クライン派を支えていたと噂された組織である。
非公然組織だったその存在は、よくクライン派批判の材料にされてきたが、
解体された後、正規の組織に組み込んで人材と情報網を守り、批判をかわすという荒業に出たのだ。
シーゲル・クラインの呪縛から解き放たれるための禊だったとも言われているが…
それは別の話。

 

「兎も角、僕は上層部に報告して調査ミッションを申請する。
 通らなかったら、きっとアレは都合の悪い何かで僕の命が無くなるんだろうけどね」
「冗談でもやめてくださいよ、面白くないですし」
「そんなに駄目だったか…お疲れ様、ゆっくり休んでくれ」
「はっ」ザフト式の敬礼を返して、シンはブリッジを退出した。

 
 
 

トライン艦長に《ボギー2》と名付けられそうになったドレイク級、
《ニヴルヘイム》と洒落た名前が付けられているその船に帰還した銀色の腕の少女を待っていたのは、
色眼鏡の青年の鉄拳制裁だった。

 

「どうして殴られたか、分かるか」
「…わかんないよ、お兄ちゃん」

 

すでに、少女の眼には涙がたまり、 上目遣いで青年を見やる。
殴られた痛みなんかより、冷徹な表情で自分を見る青年が、恐ろしくてたまらないという風だった。
「ターゲットは確実に仕留めろと言った筈だ。お前、遊んでいただろ?」
「それは、その、えっと」
「口答えはするな。次に同じ事をしたら、見捨てるからな」
「ヤダ!酷いこと言わないでよ!お兄ちゃん…」
縋る少女を振り払って、青年は少女の元を離れる。
「ブリッジに行って来る。独房に放りこんでおけ」
近くにいた手下に命令した彼は、わんわんと泣きじゃくる少女に構わず、ドアを開けた。

 

ブリッジにキャプテンしか居ないことを確認して、青年はこれ見よがしにため息をつく。
「ご活躍じゃないか」
「やめてくださいよ、殴るのは、向いてないんです」
言いながら青年は、少女の頬をぶった裏拳を、さも痛そうにさする。

 

本当に痛いのかもしれない。

 

「情けねえ話だが、あのガキを叱れるのはお前だけだ。これからも頼むぜ」
青年は返答せず、別の話題を言い出した。
「こんなところで依頼が躓くとは思いませんでした」
「ツキが無かったとしか言い様がねえなあ…
 お前のお陰で最悪のパターンは避けられたんだ。善しとしようじゃねえか」
ここで言う最悪のパターンとは、押し入り強盗しているところを誰かに見られるということだ。
自分達が逮捕されるのは勿論、依頼主にとっても、最悪なことになる。
筋肉達磨のようなキャプテンは、身体を伸ばしながらそんなことをいう。
良く言って傭兵、悪く言ってテロ屋を指揮する人物として、楽天家なのはよいのか悪いのか…
青年はそんなことを思った。
「兎に角これでご破算だな。依頼主にバレねえようにばっくれて、小銭稼ぎに走るしかねえな」
「ですね、またネタを探してみますよ。」

 
 
 

翌日、《パトクロス》のクルー達は休暇を貰えた。
緊急出撃で機体を損失、さらにパイロットも1名失いかけたという事への詫びなのだろうか。
《アーモリー・ワン》の宿舎の食堂でルナマリアを見かけたシンは、
彼女の向かいにでも座ろうかと思ったのだが、

 

「…ハァ」

 

まるで暗黒の深遠を見つめているかのような表情でルナマリアがため息をついていたものだから
シンはビックリしてしまった。
「ルナ、何かあったのか?やっぱりどこか悪いんじゃ」
「そうじゃないよお…」
ルナマリアはテーブルに置いていた一枚の写真を指差す。
シンは手にとってそれを見たが…成る程ショッキングな一枚だった。

 

「私達結婚します。祝福してね、お姉ちゃん☆」

 

ピンク色の蛍光マーカーでそう書かれていた写真には、
大きなお腹を抱えて幸せそうに微笑む妹メイリン・ホークの姿と、
隣に生硬い表情を浮かべるオーブ軍将官の制服を着るアスラン・ザラが映っていた。

 

「うはあ…」
これには、シンもうめき声を上げるしかなかった。
「私も、アスランになんか未練なんか無いわよ?これっぽっちも。
 だけどさー、負けた気分になるというか、妹に先を越される姉ってどうよとか…
 ああ段々むかついてきた」
「深く考えないほうがいいぞ、きっと、うん」
「…シン、今日の予定は」
暗い、何処までも暗い視線でシンを見つめるルナマリア。
「ヨウランとヴィーノと出かけるつもりだったけど」

 

「そんなことはどうでもいい、私に付き合え。そして何か奢れ」
「…はい」

 

逆らえなかった。
捕食者に睨まれる草食動物の心境になったザフトのスーパーエースは、自分の財布に黙祷を捧げた。

 

(それはそうと、また生え際が後退していたな。アスラン)

 
 
 

独房の前に立った色眼鏡の青年は、電子ロックを解除して、扉を開ける。
案の定と言うべきなのだろうか、泣き腫らした眼を俯けて、うなだれている銀色の腕の少女がいた。
「お兄ちゃん…」
「反省したか。シルバーハンド」
「うん、もうしません。ちゃんと言うこと聞きます。だから…見捨てないで…」
「見捨てないよ、大丈夫だ。さっきは酷いことを言ってしまったね。
 叩いてしまったし、謝るのは俺のほうだよ」
「ううん。私がいけないことしたってわかってるから」
言いながら少女は、決して逞しくはない青年の身体にしがみつく様に抱きつく。
少女の頭をなでながら、青年は「生きなくちゃな」と言った。
「頑張って生きて、いつか本当のお兄ちゃんを見つけないとな。
 俺も探すの、手伝ってやるから」
「うん、うん…有難う…サイお兄ちゃん…」

 

サイ・アーガイルは少女の体温を感じながら、自分の下種さ加減に反吐を吐きたくなった。

 
 
 

軍関係の施設ばかりで味気の無い《アーモリー・ワン》から
繁華街のある《オクトーベル》市に移動した後、
シンとルナマリアは日差しが気持ちいいオープンカフェに入った。
そこで山のようにケーキを注文するルナマリア…

 

(駄目だ、迂闊なことを言えば、やられる)
決して、太るぞとか言ってはいけない。
彼女は人一倍のトレーニングによって食欲と、スタイルを維持するという義務を満たしているのだ…
そういえば、メイリンちょっと太ったかも。子供が出来たからかもしれないけど。

 

「シンも何か食べようよ」
「ああ、ゴメン。じゃあ…」
言いながらシンは、大きなイチゴが乗ったショートケーキを貰う。
「ふうん…やっぱり子供っぽいよね、シンは」
クスクスと笑うルナを見て、人に選ばせておいて何を言うかと憮然とする表情を見せた。
「こんなのも、クライン議長のお陰なのかな…」
瑞々しく、程よく甘酸っぱいイチゴを口に放ったあとにシンは呟く。
天然食材が高級品だった頃がつい2、3年前だったとは思えないほどだ。

 
 

ラクス・クラインは《アプリリウス・ワン》の執務室で、資料と書類の山に対して挑んでいた。
最高指導者だからといって、何も全てを考えて全てを決めることは無い、
デュランダル時代からの優秀な官僚が、自分を支持する…とは言いがたかったが、
彼の遺言を受けてプラントの治世のために働いてくれているのは、
彼女にとって最大の僥倖であったかも知れない。

 

ただ、全てを『見届けなければ』ならない。

 

その形の一部としてうず高く積みあがる書類を、ラクスは気だるそうな表情で一つずつ目を通していった。

 

「都市開発計画の承認ー…新型モビルスーツ開発の確認ー…」
「議長、思ったことが口からだだ漏れてます」
隣に立つマーチン・ダコスタに咎められて、ラクスは一つ、伸びをする。
「くああ…ちょっと休憩」
「駄目です。30分前に休んだばかりじゃないですか」
「ぐぬぬ…議長に逆らうか」
「何がぐぬぬ、ですか」

 

ラクス・クラインの腹心たるバルトフェルドはオブザーバーという形ではあるが、
情報機関や軍部などに籍を置く身であり、何時もラクスの元にあるわけではない。
長年彼の副官を勤めていたダコスタが、バルトフェルド不在時に議長の傍に付くこともあるのだが、
(随分、キャラ変わったよなあ)
と生真面目なダコスタはしみじみ思うのだ、
ラクスが不真面目という訳ではないのだが、肩肘張らなくなったというか、
化けの皮が剥げたというか…

 

「♪書類はーどこにもー逃げないよー、お金はみんなー何処かにいくのにー♪」
「歌わないで下さいよ、議長…お気持ちは分かりますが」
まさか隊長だけでなく、クライン議長ともこんなやり取りをするとは夢にも思わなかったダコスタは、
ノックの音を聞く。
「こんな時間に誰でしょうか…あ、隊長でしたか」
ドアまで出向いた彼は、来訪した人物が自分の上司だと分かり、彼を中に通す。
「ラクス、話がある」
バルトフェルドが挨拶も抜きに、何よりコーヒーを勧める前に話題を切り出したことに
ラクスは少し身構える。
「ファクトリーと、ターミナルの事についてだ…時間をもらえるかい?」

 

「報告書はコレなんだが…アーサー・トライン艦長が、
 安定軌道に無いコロニーサイズの建造物が隠されていた、高い可能性を報告した。
 ポイントは、ここだ」
言いながらバルトフェルドは、資料を机において、そこに描かれたマップの一点を指す。
「確かに、辺鄙なところですね、隊長。プラントの領宙域ではありますけど」
昔のクセで隊長、とつい言ってしまうダコスタが応じる。

 

「それでだ、率直に聞きたい。解散したはずのファクトリーとターミナルが、
 いまだに健在していて、活動している可能性を」

 

少し考えた後に、ラクスは口を開いた。
「…ターミナルとファクトリーは、私が議長の座に付いた時点で不必要なものとなりました。
 対外的に誠意を示すためにも、先手を打って存在を明らかにし、
 そして残すことなく解散させたはずです」
「ふむ…ダコスタ君の意見は?クライン派としては年季長いでしょ?」
「ええ、自分の知る範囲では両組織とも、その施設も存在しないと思います。
 ですが、元々が地下組織だったゆえに、全ての構成員が情報を掴んでいるという
 性質のものでは無いですから…」
「クライン派の、何らかの施設があってもおかしくは無いわけだな」
「いいえ、もう一つ、可能性があります」
ラクス・クラインは、嘗て歌姫の騎士団を従えていた時の様な、
荘厳さすら感じさせる表情を浮かべながら答えた。

 

「デスティニープラン…」

 
 
 

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