XXXIXスレ513 氏_シン・アスカは歩いて行く_第4話

Last-modified: 2011-08-31 (水) 02:05:15
 

「おはようキラ君。今日はまた、随分と早いんだね」
「おはようございますバルトフェルドさん」

 

 プラントの首都、アプリリウスのあるコロニー内にある小さなシャトル格納庫にやって来た
エターナルの艦長アンドリュー・バルトフェルドは、画面に向かって作業を続けている
キラ・ヤマトに声をかけた。
元々は要人専用のシャトルを格納していた場所だったらしいのだが、特に使いようもなく放置されていたのを
新技術開発室にするという名目でキラが譲り受けた。
しかし、今はどこかしこから集めてきたガラクタで溢れ返っている。

 

「相変わらず凄い量だなこりゃ。いつかガラクタの波で生き埋めになったりする前に整理する事を勧めるよ」
「そうですね、暇な時にでもアスランを引っ張って来て片付けて貰います。
 それでバルトフェルドさん。今日来られた用事は何ですか?」
「まあ、その辺りはザラ議員のスケジュール次第だが・・・余り迷惑を掛け過ぎないようにな。
 と、僕の用事は君が頼んでいた品物がオーブから届いたんで、そいつを渡しにね」

 

 現プラント議会の重要人物に雑用を押し付けようと画策しているスーパーコーディネーターに呆れながら、
バルトフェルドは、以前キラがオーブのモルゲンレーテに頼んでいたという何かのパーツを渡した。

 

「ありがとうございます。それにしても、思っていたより早かったですね。
 地球からの定期便の周期を考えると、もう少し掛かると思っていたのに」
「まあ、そいつは昨日来たオーブの特使が乗っていた専用シャトルに一緒に積まれていたようでねぇ。
 アスハ代表の関係者で、オーブにも接点が多い君の注文だから急いで持ってきたなん言っていたが、
 君に直接手渡しして何かしらの繋がりを持ちたいという魂胆見え見えだったんで、
 丁重にお断りして僕が預かって来たよ」
「そうだったんですか。いつも迷惑ばかりかけてしまってすみません」
「なに、今や君は地球圏でもプラント圏でも知らぬ者が居ないほどの有名人だ。
 その君とお近付きになりたい人間なんてごまんと居るよ。いい人悪い人問わずにね」

 

 そう言ったバルトフェルドもキラも、お互いに苦笑するしかなかった。
ラクスの下で戦争を終結に尽力した最高のパイロットとキラを賞賛し近付いていくる人間は多いが、
そのほとんどは、キラのスーパーコーディネーターとしての能力から生み出される
技術を狙う連中ばかりだった。

 

「ま、これからもああいった連中は後を絶たないだろうけど、そこは僕らが何とかするよ」
「本当にありがとうございます。お陰で、こっちの作業に集中できます」

 

 そのキラの視線の先には、今度シンへと渡す予定の小型艇が鎮座していた。
現在、MSでクレーターから出られず普段の買い物は貨物コンテナでしか出来ずに不便をしている
シンの為に、攻撃衛星の対象にならない小型艇をプレゼントしようという案が持ち上がり、
その調整をキラが買って出たのだ。

 

「それにしても、シャトルにしては随分と“小さいねぇ”。何か複座も取ってつけたような感じだし」
「“元々は一人乗りの物”を、強引に複座にした感じですからね。
 多少乗り心地は悪いかも知れませんけど、性能は良いですよ。
 シンなら月面から一番近いコロニーまで1時間程度で着けると思いますよ」

 

 含みを持たせたバルトフェルドの言葉に、キラも含みを持たせた言葉で返す。
何せ、この機体を自分が改良しシンの買い物用シャトルにすると言った時は
反対する意見も多かったのだが、貨物コンテナでの買い物だけでは人間二人が生活するには限界があるし、
ラクスの私生活にも関わる大切な事だとかなり強引に話を推し進めて持って来たいわく付きの代物だ。
まだ改良の余地はあるが、もう少し先の巡回時には持って行けるだろうとキラは考えている。

 

「まあ、ザラ議員程じゃないにしても、君も忙しい身だしあまり根を詰めないようにな。それじゃ」
「はい、気を付けます。パーツ、ありがとうございました」

 

 そう言い残し、バルトフェルドは出て行こうとするが、ふと扉の前で振り返った。
そこで彼が見たのは、CEの聖剣でも奢り高ぶったスーパーコーディネーターでもなく、
彼から渡されたパーツを楽しそうに触っている、どこにでも居るような普通の若者だった。
その光景を見たバルトフェルドは、満足そうに微笑んで静かに扉を閉めた。

 

(アイシャ。あの時の少年は、ようやく一人前の男になろうと歩み出したようだよ。
 君の居ない世界で、もう少しだけ頑張ってみようかね)

 
 
 

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「またあいつらに不穏な動きがあっただと?」
「ああ。前代表時代からの強硬派が、最近よく集まって現体制への批判を言い合っているそうだ」

 

 自らの執務室でキサカからの報告を受けたオーブ代表カガリ・ユラ・アスハは、その報告に眉を寄せた。
前大戦中に、政治の中心だったセイラン家が失脚した事により、カガリは実権を取り戻す事が出来たのだが、
そこで待っていたのは、財務処理等の国を建て直す為の仕事の山だった。
今まで、内政に関する政務はユウナを始めとする者たちが手伝っていたのだが、
その多くがジブリールの一件で強硬なウズミ派によって逮捕され、又ユウナも死亡してしまった為に、
全てがカガリの元に集まってきてしまったのだ。

 

(こんな形でセイラン家の有り難さを痛感するとはな。しかし、もうユウナ達に甘える事は出来ん。
 それよりも、まずは強硬派のバカ共をなんとかしなければ・・・)

 

 カガリが頭を悩ませているもう一つの原因は、先ほどのキサカの報告にもあった
ウズミを崇拝する強硬派の存在にあった。
彼らは、カガリが拉致されセイラン家が何とかオーブの舵を取っていた時も、
ウズミの理想を喚き立てているだけで決して自ら表立って行動しようとはせず、セイラン家を罵倒し続けた。
そして、カガリが戻るやいなや、セイラン派排斥に留まらず共に国を運営していた者たちまでも尽く糾弾して
失脚させ、一方では自分達の勢力拡大に着手し、瞬く間にオーブ議会の半分に迫るまで拡大していった。

 

(確かにお父様の掲げた理想は立派なものだったが、今となっては前時代的な綺麗事だ。
 その事を痛いほど痛感して戻ってみれば、未だその理想にしがみ付いている者たちによって
 悩まされるとはな)

 

 ここまで来ると、理想というよりはもはや呪いに近いな。と、自虐的に笑うカガリであったが、
国家元首として座っている以上、いつまでも感傷に浸って居る訳にはいかない。

「強硬派については、監視の目を強化しつつ軍部やモルゲンレーテと
 不用意にコンタクトを取れない様にしておけ。
 今は、国の復興が最優先だ。あいつらの妄言に付き合っている暇はない」
「了解した。それと、先方との会談だが、完全な秘匿回線で行う為音声のみになるが大丈夫か」
「構わん。この会談は絶対に奴らに気取られるわけにはいかないからな。
 何より、これからオーブの民を守って行く為には絶対に必要な会談だ。失敗は許されん」
 そう緊張した面持ちになったカガリの前にある通信機から、
タイミングを見計らったかのように通信が繋がった。

 

『まさかウズミの娘から呼び出されるとは思ってもみなかったが、中々どうして肝が据わって来たようだな。
 では、そろそろ始めようではないか。
 もっとも、そなたが私の望む人間になってきたかはこれから判断する事になるがな』

 

 どうやら、先ほどまでの会話が会談相手にもダダ漏れだったようだが、カガリは臆する事無く答えた。

 

「ああ、オーブ国民の為にあなたの助けが必要だ。その為の話し合いを始めようか」

 

(待っていろアスラン。私は今度こそオーブを立派な国に復興させてみせるぞ。それまで、泣き言は言わん)

 
 
 

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 一方、月のローレンツ・クレーターに居るシンとラクスはのんびりと食後のお茶を楽しんでいた。

 

「今日の仕事も終わったし、明後日の回収日には纏まった金も入る。
 今度の買い物では、ちょっと贅沢して何か良いものでも買いましょうか?」
「あら、余裕が出来たからと言って無駄遣いしてはいけませんわよ。あなたはそそっかしいのですから、
 もしも何かトラブルが起こった時の為にも、普段からちゃんと節約はしておかないと」
「そうですか?今回はラクスさんの欲しかった物も何か一個くr」
「シン、私新しいヘアードライヤーが欲しいですわ」
「早!今さっき自分で言った事完全スルーですか!
 というか、欲しいものあるんだったらちゃんと言って下さいよ」

 

 窘められたかと思ったら、速攻で自分の要求を告げてきたラクスに苦笑しながらも、
シンはこの仕事を始めてから付けている帳簿に目を落とした。

 

「まあ、ドライヤー位でしたら問題ないですよ。
 ラクスさんが来てから今まで何もプレゼントした事無かったですし、
 一応お世話になっている気持ちも込めて買ってあげますよ」
「本当ですか、シン?」
「ええ、男に二言はありません」

 

 すると、ラクスはファッション雑誌を取り出し、その1ページを指差した。

 

「ではシン、こちらの注文をお願いします。今日頼めば、明後日には間に合うと思いますので」
「随分と用意が良いですね。ま、分かりましt・・・」

 

 その雑誌の載っていたドライヤーの広告を見てシンの動きが止まった。
 そこに掲載されていたものは、シンの認識しているドライヤーという物より0が二つほど多いものだった。

 

「えっとラクスさん?これは一体なんでしょうか?」
「何ってヘアードライヤーですわ。シン、まさかヘアードライヤーも知らないので?」
「いや、そういう意味じゃなくって、何故にドライヤーがこんなお値段なのかと」
「プラントの有名美容師さん御用達の一級品ですわ。今使っているものも悪くはないんですけども、
 やはり女性としては良い物を使いたいですし。シン、早速注文して下さいまし」
「いやでも、この値段はちょっと・・・身嗜みの道具ってレベルじゃないですよ」
「あらシン、男に二言はないのでしょう?それとも、シンは私と約束した事を反故にするんですの?」
「う・・・」

 

 こうなってしまうと、ラクスのペースだ。ボキャブラリーの少ないシンでは碌に反論する事も出来ず、
あれよあれよと言う間に彼女の要求を呑まざるを得ない状況へと追い込まれてしまうのだ。
思えば、来て早々に要求された風呂の改装にしたって、よく分からないラクス理論に言い負かされて、
せざるを得ない状況になってしまい、余計な出費に泣く事になったのだ。

 

「あーもう!分かりましたよ、男に二言はありません。ちゃんと注文しておいてあげますよ」
「嬉しいですわシン。だからあなたは大好きなんです」

 

 そう言って、嬉しそうにしているラクスを見るシンは、苦笑いをしながらも
ふと懐かしい感覚を思い出していた。

 

(全く調子がいいんだから。でも、誰かにプレゼントをするのなんて何時以来だろうな。
 マユ、お兄ちゃんは前を向いて頑張れているかな)

 
 
 

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