Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第16話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:36:31

ステラが捕虜となってから数日後、補給のためにミネルバはマルマラの街に寄航していた。
そして、ある街でアスランは独自にアークエンジェルの行方を調査していた。
そんな折、偶然にも戦後"戦場カメラマン"をしていたミリアリア=ハウと再開し、キラとの接触
を取り持ってもらう事に成功する。
彼女は戦場の現実をカメラに収めていて、そんな時にアークエンジェルが現れた戦場にも
取材で来てたのだ。
 
アスランはその待ち合わせ場所へとセイバーで向かう。勿論偵察と言う名目付きでだが。
MS隊の隊長自らが雑用とも言える任務を申し出た事に疑問を感じたタリアであったが、
ステラの強襲の件もあったばかりなので取り敢えずの許可を出した。
 
待ち合わせの場所へ辿り着き、アスランはセイバーから降り、岩場の影にそれを隠してキラ
を待った。
海に程近い岩場の所だった。
アスランは岩に背を預け、腰を下ろして暫く海を眺めていた。
日が少し傾きかけた頃、アスランは岩場の影から人の気配を感じた。
 
「そう言えばディアッカとはどうしたんだ?アイツは今もザフトに居るぞ」
「フフ、あんな奴、振っちゃった」
 
それがミリアリアとアスランの交わした合図だった。岩場の影からキラとカガリがミリアリアに
連れられて出てくる。
 
「キラ……」
「ゴメン、アスラン待たせて……。少しの間君を見張らせてもらった」
「いや、いい。ミネルバじゃお前達の事を怒ってる奴が殆どだから…懸命な判断だよ」
 
そう言うとアスランは立ち上がり、キラ達の方を向いた。

「ラクスはどうした……?」
「ラクスは今宇宙に上がっている。プラントの情勢を調べる為に……」
「プラントへ……?」 
「アスラン…なんでお前がまたザフトに居るんだ?まさか…あの時の事を気にして……」
 
目の前にはザフトの制服を着たアスラン。その姿に疑問を感じ得ないカガリが話を切り出し
た。
 
「カガリ……そうだ。俺は未だ父の妄執が絡むこの戦争を止めたいと願った。その為に俺は
イザークやディアッカに誘われてザフトに戻った」
「でも…オーブの敵にならなくても……」
「ザフトがオーブの敵になったんじゃない。オーブがザフトの敵になったんだ。カガリ、そこは
履き違えないで欲しい」
「そ…それは……でも、私は反対した!大西洋連合と同盟を結ぶなど、オーブの理念から
外れた行為だ!」
「それを止められなかった君が言う台詞じゃない」
「アスラン……」

懸命にアスランを説得しようというカガリの意気込みは分かる。しかし、アスランの言っている
事も又正論だった。
カガリには政治家としての能力が圧倒的に不足している。
そんなカガリだからこそ、あの時ユウナは怒り、今もアスランは冷たく突き放しているのだ。
オーブの事を一番気に掛けているカガリであったが、口を開けば理想しか口にしない彼女は
あまりにも未熟であった。
 
「キラ、この戦争はお前達だけで何とか出来る物じゃない。あんな馬鹿げた事はすぐに止めて
オーブへ戻るんだ。今ならまだ間に合う」
「アスラン…それは出来ないよ。僕にはどうしても納得できない事があるんだ……」
「納得できない事……?」
「あのミネルバがオーブを離れた後、ラクスがコーディネイターの特殊部隊に狙われたんだ」
「なっ……!」
「そのすぐ後連合とザフトが戦争を始めたから、僕はカガリを雲行きの怪しくなったオーブ
から連れ出したんだ」
「お前がカガリを!?」
 
アスランはずっとカガリが自分からアークエンジェルに乗り込んだんだとばかり思っていた。
それは彼が彼女の行動力を知っていたからでもある。
しかし、それが実際にはキラの意思によって連れ出されたことに驚愕する。
 
「僕も最初はザフトの方が正しいと思っていた。でも、ラクスが襲われた今、僕にはどちらが
本当に正しいのか分からないんだ」
「待て、キラ!そんな証拠も無いのにザフトのせいにするな!議長はそんな人じゃ…」
「じゃあ、あのラクスは何?偽者を仕立て上げて議長は何を考えているの?」
「そ、それは……」
「連合は信用できないけど、あのデュランダル議長って人も僕には信用できない。だから、
僕達は僕達なりのやり方でやらせてもらう」
「キラ……」
 
決意の固いキラの表情にアスランは何も言えなくなってしまった。
 
「ア、アスラン…せめてお前だけでも私達の敵になるのを止めてくれ!それで出来れば
私達と一緒に……」
「カガリ……」
 
カガリの誘いにアスランは悩む。互いに想い合う同士、出来れば一緒に居たいと思う気持ち
は同じだった。

「俺は……」
 
そのカガリの誘いに返事を返そうとした時、アスランの頭の中に浮かんだのはハイネの言葉
だった。
 
(自分が何の為にザフトの制服を着ているのか、考えろよ)
 
「俺はやっぱり一緒には行けない。俺はザフトの兵士だ。二度もプラントを裏切るわけには
いかない……」
「そんな…アスラン!」
「行こう、カガリ」
「キラ…でも!」
「きっとアスランにはアスランなりの考えがあるんだよ。だから今は……」
「……」
 
キラに説得され、カガリは背を向ける。
 
「アスラン、僕も正直君とは戦いたくない。もう…二年前のような事は嫌なんだ。だから僕に
君を討たせないで……」
「キラ…それはお前の傲慢だ。例え俺を倒せてもお前にカミーユは倒せない」
「カミー…ユ?」
「一度戦っただろう?ムラサメに似た可変型のMS……」
 
キラの頭の中にΖガンダムが映し出される。
不思議な感覚を放つ癇に障る声をしたあの戦場で唯一苦戦したパイロット…それが

カミーユ=ビダンだった。
 
「……アスラン、彼に伝えておいて。僕はあなたの様に戦いたくて戦ってるわけじゃないって」
「……わかった。だが、俺からもお前に言っておく。カミーユはきっと戦いたくて戦ってるわけ
じゃない。昔のお前と同じで巻き込まれたんだ」
 
カミーユが別世界の人間である事は敢えて説明はしなかった。言っても簡単に分かる問題
ではないからだ。
 
「……覚えておくよ……」
 
それだけ口にすると、キラ達はその場を離れる。
アスランはその姿が見えなくなる前にセイバーに乗り込み、その場を去った。
 
「あれが…アスランのMS……」
 
帰り際、飛び去っていく真紅に彩られたセイバーを見つめて、キラは一言呟いた……

シンはステラが医務室に寝かせられるようになってから、毎日のように殆どの時間をそこで
費やしていた。
カミーユの告白を聞いてからというものの、シンはずっとステラの事ばかりを考えていた。
いつもの様にシンが医務室に入り浸っていると、そのカミーユ本人がやって来た。
 
「まだ目を覚まさないのか?」
「……」
 
カミーユの問いかけに振り向く事も無くシンは黙って頷いた。
 
「少し休んだ方がいい。酷い顔をしているぞ」
「カミーユの話を聞いたからには、そんな訳にはいかない」
「シン……」
 
体が資本のパイロットにとって疲れを残しておくのは良くない事だ。カミーユは少しだけシンに
話をした事を後悔した。
二人を重い空気が包み込む。
 
「う…うぅ…ん……」
「ステラ!」
 
そんな時、ステラが目を覚ます。シンにとって気の遠くなるような時間を待っていた所へ喜び
の瞬間が訪れたのだ。
 
「ステラ!俺だ、シンだ!分かるか!?」
「シ…ン……誰?…ここは?」
「ステラ!?俺が分からないのか!?ほら、君から貰ったこの貝殻…」
「ネオは…ネオは何処……?」
 
シンの見せる貝殻を無視して知らない男の名前を呼ぶステラ。その様子にシンは愕然とした。
 
「そ…んな……ステラ……」
「ネオは…ネオ…は……」
「ステラ……?ステラ!」
 
シンの呼びかけも空しく、ステラは再び眠りについてしまった。
 
「くそっ!何でだよ、ステラぁ……!」
「シン…この子はきっと記憶を操作されて……」

悔しさを隠せないシンをカミーユが慰める。
 
「そんな…そんな事って……!」
「ああ、許しちゃいけない。こんな事をしたネオって奴を放って置いてはいけないんだ。だから
その時の為にも今は体を休めるんだ」
「カミーユ……くっ!」
 
シンは医務室を飛び出す。
その時、偵察から戻ってタリアに報告を済ませ、ハイネの見舞いにやって来たアスランと丁度
入れ違いになるようにすれ違ったが、シンはそれを無視して走っていった。
 
「シン……カミーユ……?」
「すまない。そっとしておいてやってくれ」
 
それだけ言うとカミーユも医務室を後にした。
二人とステラの間に何かある事は分かっていたアスランだったが、今はカミーユの言う通り
何も言わないで置こうと思った。それも、自分もキラ達と秘密裏に会っていたという隠し事が
あったからでもあった。
アスランは眠るステラを横目で見つつ、別室のハイネの下へ向かった。
 
「ハイネ、入るぞ」
 
コンコンと二回ドアをノックし、アスランは個室へ入る。するとそこには仰向けになって雑誌を
読んでいるハイネの姿があった。
 
「アスランか…お、今週号?」
「ああ」
 
そう言ってアスランはハイネに雑誌を渡した。
 
「お前、偵察に出たんだって?相変わらず真面目だねぇ…そんな事、他の奴にやらせれば
いいのに」
「いや、まぁそうなんだがな…気分転換も兼ねて空のドライブでもしようかな…なんてな?」
「ふーん……」
 
たどたどしいアスランの話にハイネは不審に思う。きっと偵察というのは建前で、本当は別の
目的があったんだろうと思った。
ハイネは一つカマを掛けてみる事にした。
 
「で、女には会えたのか?」
「それが…ハ、ハイネ!?違うんだ、そんなんじゃなくて……!」

言いかけてアスランは口を押さえる。しかしもう遅かった。
ハイネの中のアスランの印象に"馬鹿が付くほど正直者"が追加された。
 
「ははっ、分かりやすい奴だな、お前は。冗談だよ。けど、その様子だと連中と接触する事は
出来たみたいだな?」
「いや、それは……」
「お前は単純すぎるんだよ。で、塩梅はどうだったんだよ、ここだけの話?」
「……」
「大丈夫だって。誰にも言わないからさ」
「詳しい話は出来ないが、説得に失敗した……」
「だろうな。あれだけの力を持ってるんだ。そう簡単には引き下がるまい」
「ああ……」
 
キラの言葉を思い出す。
キラはザフトを信用していなかった。それに一瞬でも傾きかけた自分の気持ちの弱さが気に
入らなかった。
 
「お前、それでどうするんだよ?このままザフトで戦うのか、それとも…」
「止めてくれ、ハイネ。俺はザフトを離れる気は無い」
「そうか…ならいいんだが、覚えておけよ?お前にとって帰るべき場所はここだって事を」
「ハイネ…何を……?」
「俺達は共に戦う仲間だ。シンもルナマリアもレイもカミーユもこの艦の皆も…勿論俺もな」
「……」
「だから、何があっても必ずこの艦に戻って来い。これは命令だぜ、アスラン」
 
真剣な眼差しで、しかし口元は穏やかに曲線を描き、ハイネはアスランに告げる。
そんなハイネの視線にアスランはハイネに信頼を寄せる。
 
「分かった。その命令は必ず遵守すると約束する。だから、ハイネも早く治して戻ってきてくれ
よ?俺じゃ、あいつらの面倒は看きれないからな」
「ははっ、確かにそうかもな!じゃ、俺はお前が苦労している間にゆっくりさせてもらおうな」
「おいおい……」
 
気楽なハイネの言葉にアスランは苦笑する。しかし、悩んでいたアスランもハイネと話したこと
によって少しだけ気持ちの整理をつける事が出来た。
後に、この時交わした会話がお互いを苦しめる事になろうとは今の彼等には知る由も
無かった……

ミネルバはジブラルタル基地へ向かって航行を続ける。
シンはステラの事がショックで部屋に籠もりきりになっていた。ベッドに横になり、妹の形見の
携帯電話をぼんやりと眺めていた。折りたたみ式のその電話を開くと、そこには少し幼い自分
と妹の写真が待受画面に映っていた。
薄暗い部屋で時間の感覚も分からなくなってきた頃、誰かの足音がシンの部屋にやって来
るのが聞こえた。
 
「シン!あの子が目を覚ましたみたいよ!」
 
おもむろに扉を開けたルナマリアはシンに吉報を告げる。その言葉にシンは跳ね起きる。
 
「ステラが!?本当なのか!?」
「ええ、でもすごい混乱しているみたい!んで、カミーユがあんたの事呼んで来いって言う
から…」
 
ルナマリアが言い終わる前にシンは部屋を飛び出していた。
 
「あっ、待ってよシン!」
 
全力で駆けて行くシンを追ってルナマリアも医務室へと向かう。
 
 
「ステラ!」
 
勢い良く扉を開けたシンはステラの元へすぐさま駆け寄る。ステラの周りに居た医者やカミーユ
の視線がシンに注がれる。
ステラは拘束器具で押さえつけられたまま何とかそこから逃れようと体を動かしていた。
 
「ステラ、分かるだろ?シンだ!」
「知らない…あんたなんか知らない!」
「これを見て!思い出さないか!?」
 
シンはポケットの中からピンク色の貝殻を取り出してステラに見せた。するとステラは動きを
止めてそれに見入る。
やがてシンの顔に目をやり、何かに気付いたように険しかった表情が穏やかに変化する。
 
「……シ…ン?」
「ステラ……!」
 
ステラがシンの事を思い出したのだ。
そこへ遅れてルナマリアがやって来る。
 
「シ、シン……どうなったの?」
 
息を弾ませてルナマリアは訊ねる。
しかし、その様子を見ていたカミーユが皆に退室を勧める。

「すみません、他の人は一度この部屋から出て貰えませんか?」
「えっ?何で……」
「今は二人きりにしてあげたいんだ……」
 
不安そうな顔をしながらも落ち着いたステラの様子を確認した医者達は部屋を出て行った。
納得できないルナマリアもカミーユに背中を押されて退出していった。
ステラを気にしながらもその様子を見ていたシンは、心の中でカミーユの気遣いに感謝した。
 
 
「何か納得いかないな……」
 
医務室を追い出される形になったルナマリアはポツリと呟いてカミーユの顔を見つめる。
 
「えっ?」
「カミーユとシンって何かあったでしょ?」
「ど、どうしてそう思うんだ…?」
「だって、おかしいじゃない!?ちょっと前までは全然親しくしてるとこなんて見なかったのに、
ここ最近は嘘みたいに打ち解けたみたいになっちゃってさ!どう考えても不自然よ!」
「別にそんな事無いだろ?俺とシンがいつまでも仲悪いままでいるわけにもいかないし…」
「これはあたしの勘なんだけど、あのステラって子が絡んでるんじゃない!?あの子がここに
来てからシンとカミーユの態度が変わった様な気がするんですけど!」
 
ルナマリアの指摘に、これだから女の勘って奴は怖い、とカミーユは思った。思わずニュータ
イプなんじゃないの、と言ってやろうかと思ったが、そんな言葉など知らない彼女に言っても
余計にややこしくなるだけだと思い直し、言葉を飲み込んだ。
窮するカミーユを見てルナマリアが詰め寄る。
 
「どうなのよ!」
「いや、だから、その……」
「答えなさいよ!」
(た、助けてくれ……)

その後約十分間程ルナマリアに問い詰められたカミーユはなんとかはぐらかしつつも、やっと
解放された。まだ据わった目でカミーユを睨みつつも、頑なに説明しようとしないカミーユに
一瞥をして去っていった。
 
(シンの世話を焼くルナマリア…か……)
 
これまで何かとシンに世話を焼くルナマリアを見てきて、カミーユはファ=ユイリィの事を思い
出していた。
元の世界に居た頃、カミーユにとってのルナマリアはファだった。自分の家のお隣さんで、
両親が不在がちなカミーユにとって、ファは母親代わりといっても過言ではない存在だった。
いつも口うるさく文句を言っていたファを思い出し、懐かしい気分に浸る。
ふと、今のシンとステラ、ルナマリアの様にもしフォウとファがお互い出会っていたらどうなって
いただろうかと想像してみる。
ロザミィの時と同じ様に忠告をしてくるだろうか、先程のルナマリアの様にやっかみを入れて
くるだろうか、それとも又違ったリアクションを取るだろうか……
しかし、そんな事を考えてみても、いつも側に居て自分を気遣ってくれたファとは今は会えな
い。他愛の無い話も出来ないし、下らない事で喧嘩も出来ない。
それが今になってカミーユは寂しく思えた……