コードギアスDESTINY
第8話 オーブに集うものたち
「これが…お前達の機体」
アスランは目の前にある機体を見て呆然とする。
MSとはまた違った系統を持つ、その機体コンセプトにアスランは、このゼロ、騎士団というものの存在の、新しい謎とともに不安が広がる。
「…ナイトメアフレームとMSの性能のバランスを保つために、内部の動力源は核融合炉を使用いているわ。
残念ながらサクラダイトがこちらではなかったの。機体が動くことにおいては、これで十分なんだけどね~」
彼の前にやってくるラクシャータはキセルをすいながら、アスランの前にある機体を説明する。
「ナイトメアフレーム?」
「MSと違って、ナイトメアフレームは小型でMSと対峙した時ではパワー負けするのよ。
だから大きさや、コクピット構造は参考にさせてもらったわ。脱出機構をつくるのが少し大変になってしまったわ」
それにしても、これだけの技術力を持つ人間をゼロは持っているということか。
前大戦に現れていたら、ただではすまなかった。だが、なぜ今の今まで姿を隠していたんだろうか。
機会をうかがっていたというのか?
「アスラン・ザラ。どうだ?お前の新たなMSは…使えそうか?」
歩いてくるゼロとC.C.がアスランに問いかける。
「操縦形態はMSのようだし、問題は無いと思うが…」
アスランは感謝の気持ちもこめて、これが俺を使って良いのかという言葉を続けようとした。
「デュランダルはやがて、ここを襲撃するだろう。奴が必要とする世界に、我々は邪魔だからな」
「…議長」
アスランはデュランダルの仮面の裏を垣間見た。
彼がディスティニーとレジェンドをシンと自分に見せたとき言っていた言葉。可能性のある世界を提示すること。
おそらくは議長はそれが目的なのだろう。
「戦力はこれで足りるのか?」
「戦いは数ではない。ようは、民衆にどれだけどちらに理があるかを示すことが大切だ」
ザフトのいうロゴス討つべしの戦いで、世界が変わるとは思えない。
なによりも、議長の考えは、既にその先に向いている。
「ゼロ、至急来てください」
走ってやってくるカレン。その一方は、ゼロが予期していた時間よりも少し早い。
「…来たか」
アスランはいよいよ、このオーブにも戦火が舞うときが来たのかと考えていた。
だが、アスランは知らない。ゼロがロゴスの戦力を手にいれたことで、ザフトが攻めようとしていることに。
―――
『ゼロ。君の元に、ロゴスのメンバーがいると思うんだが』
開口一番、デュランダルはそう告げた。
ゼロは、席に座り…肘掛に肘をつけ、司令部の画面にうつるデュランダルを見て話を聞く。
『匿う…というわけではなさそうだが、引き渡して欲しい』
「デュランダル…、ロゴスメンバーを殺害すれば地球圏は今以上に経済的混乱に陥り、実質上崩壊する。
その後は、ザフトによる再建以外、建て直しは聞かなくなるだろう。それは結果的に地球圏をザフトの支配にするのと同じだ」
『だからといって彼らの所業が許されるわけがない。それが地球圏全体の総意だよ』
「まるで、地球圏代表のような言葉だな」
『…』
「地球でのことは地球で任せてもらおう。ジブリール以下メンバーは、オーブにて裁判を行う。
無論、ザフトの陪審員も参加させてもらって結構だ」
『どうあっても…引き渡す気はないということだね』
「…あぁ」
『残念だ。君になら私の考えが分かってもらえると思ったんだが…』
「わからないさ。自分に必要ではないものを簡単に処分しようとする男の考えなど」
『なんのことを言っているのかわからないな。二、三日後にはそちらに着くだろう。
その時改めて聞くとしよう。いい返事が聞けることを期待している』
切れる通信。
さすがに、尻尾は出さないか。
既にロゴスという組織は関係が無い。オーブ、いやこの黒の騎士団という組織そのものをザフトは倒すことだけを考えているだろう。
ヘブンスベースのような作戦は上手くは行かないな。
それに今更、砲台を設備する時間は無い。ミネルバ…も来るだろう。デストロイを簡単に倒していくあの姿。
カレンたちが負けるとは思えないが…。
「いよいよか…アークエンジェルでさえ、倒せなかった相手、さらには戦力はこちらの倍以上…」
C.C.がゼロに話しかける。確かにその通りだ。
だが、こちらもただやられるのを待っているわけではない。
「カレンたちは?」
「ステラへの処置が終わったからな。相手をしてやっているよ」
ステラの身体的な強化措置における副作用を抑えるための処置が終えた。
これで戦闘に対しては、課題が残っていたステラを思う存分使うことができる。
こういうと、すっかり友達となってしまったカレンや、彼女に境遇の類似から同情を抱いているC.C.に怒られそうだが…。
「アスランがつれていた女は?」
「今は目を覚ましている。話を聞きにいくか」
「…ミネルバのクルーである以上、話は聞いておくことに越したことは無いだろう」
ゼロが、メイリンの元に赴き、話を伺おうとしたときだった病室から声が聞こえる。
ゼロは気がつかれないように、覗き込む。
仮面の男が部屋を覗き込む姿は、はたから見ると変質者に見えないことも無い。
―――
「ちょっと!ステラ、ダメじゃない。勝手に部屋に入っちゃ…」
カレンがステラを抑えているが、ステラは暴れながらメイリンのザフトの制服を触っている。
「シンの匂いがした」
「だから、誰よ!それ?」
「…シン・アスカ。私と同じミネルバのMSパイロットです」
メイリンはそんな2人を見てクスクスと笑いながら言う。
「シン…会いたい」
ゼロは、以前からステラが言っていたシンという言葉の意味をここでようやく知った。ミネルバのMSパイロットか…。
なるほど。これは使えるかもしれないな。
「敵に会いたいって言ってもね…」
「戦うんですか?ザフトと…」
カレンの言葉にメイリンはベットから身を乗り出して聞く。
「それは…、攻められれば戦うしかないから」
答えずらそうに言うカレン。
「…シンと戦うの、いや」
ステラはカレンに対してそういう。
「なら、私達と戦う?」
「それもイヤ!」
メイリンはベットの上でそんな2人のやり取りを聞きながら涙をポロポロと流す。
それに気がついてカレンとステラは、メイリンのほうを見る。
「…こうやって、連合だった人とも、私のようなザフトも一緒に話すことができるのに…どうして戦わないといけないんだろう…」
メイリンは一度だけ、ステラを見ている。ステラをシンが撃墜して保護したことがあった。
だが、そのときのステラは非常に危険な状況であり、結果的に放置しておけば命に関わることなので連合に無断にシンが返してしまったのである。
メイリンはそのときのステラの顔を覚えていた。シンが凄く心配そうにしていたのが印象的だったから。
カレンはそんなメイリンを見ながら、自分も同じように感じる。
「ゼロ…、私の上司なんだけど…私も、信用できなかった。だけど、一緒に戦って、ぶつかって…話をすることで、わかっていったんだ。
いろいろと…後悔もいっぱいしましたけど。でも今はそれでよかったんだなって。こうやって一緒にいれるから…」
スザクやルルーシュも、また戦いの中で、未来を見つけようと必死だった。
自分はそんな彼らを信じてあげられなかった。
その悔いを今、自分はルルーシュの味方となることで清算しようとしている。
「いいじゃないかな。最終的に分かり合えれば…、メイリンさんのように、世界の人がみんな分かり合えるようになれば、戦いなんて、くだらなくて誰もやらなくなっちゃうよ」
「そんなときがくるのかな?」
「そのときが来るために、私は戦ってる。未来を切り開くために」
カレンの言葉に、メイリンは自分の迷いを振り切れることは出来なかったが、一つの答えではあると思った。
戦いを終わらすためには…互いを知って分かり合うことが大切であるということ。
「ステラも…、みんなと仲良くなりたい。シンとも、メイリンとも…カレン、みんなで仲良くなれば、きっと楽しい」
「そうね~。なんだか凄いことになりそうだけど…」
カレンは、ただひたすらにステラが騒ぐような気がして思わず笑ってしまう。
ゼロはそんな会話を聞いて、振り返り司令部に戻ろうとする。
「なんだ?混ざっていかないのか?」
振り返った前にたつC.C.がゼロを見て聞く。
「俺のような者がいっても邪魔なだけだろう」
「そうか?」
「戦場では、あのような仲間意識が重要なものとなる。俺がいって現実をよみがえらすのは得策ではない」
そういってゼロはC.C.の横を通り過ぎていく。
C.C.はそんなゼロの背中を見ながら、溜息をついて
「頭の固いやつめ」
とぼやいた。
戦いは、誰もが望まないことのはずなのに…、現実は戦いに向けて走っていく。
それは、どこの世界でも、いつの時代でも変わらないことなのだろうか…。C.C.はメイリンやカレン、ステラを見ながら、
彼女達のような考えが世界の中で広まらなくてはいけない…、
それこそが、本当に戦いを終えることができる…ということなのだろう、と考えていた。
―――
それから…3日間は平和だった。
4日目の朝、オーブ近海にザフトの艦隊が出現。
数は不明だが、ヘブンスベース侵攻の時とほぼ同数の数である。
司令部にてルルーシュはデュランダルからの通信を受ける。
『さて、以前の答えを聞かせてもらおうか』
「ジブリール以下、ロゴス幹部はここにはいない」
『冗談にしては面白くないな。その意見の変更はどういうつもりかな』
「その言葉通りの意味だ」
『…ならば、我々は君達を討たなくてはいけなくなる』
「そちらがその気なら、我々は抗戦するまでだ」
デュランダルからの通信が切れる。誰もロゴスがいるなどとは思ってはいない。
知っているのは、最初に話を明かしたデュランダルと騎士団のルルルーシュ、C.C. カレン、ステラの一部の騎士団だけだ。
そして今度の作戦においてもこの4人だけが詳しい内容を把握している。
ステラにおいては、カレンを補佐につけることで戦闘をコントロールする。
『ザフト軍は、我々騎士団がロゴスメンバーを匿っていると決め付け、攻撃を仕掛けようとしている。
我々黒の騎士団は、オーブを守るため徹底的に戦うことを約束しよう』
格納庫、いやオーブ中に響きわたるゼロの声…。
「…ザフトは、シンは、本当に…オーブを焼くつもりなのか」
アスランはゼロの言っていることを信じていた。
彼はロゴスメンバーがここにいることを知らないのである。
アスランは目の前にあるナイトメフレームとMSの融合を目的として作られた新たな機体を見上げる。
「ルルーシュ、あいつに本当のことを言わなくていいのか?」
C.C.は白い戦闘服を着ながら、仮面を外しているルルーシュに聞く。
「必要ないだろう。どっちにしろ行き場所が無いあいつは、俺達につくしかない。存分に戦ってもらうさ」
『敵の第一陣が攻撃を開始しました』
「きたか…」
正午、オーブにてザフト軍の攻撃から戦闘が開始される。
MS展開によるザフト軍は、一気に攻勢を強め、黒の騎士団との防衛部隊と攻撃を開始する。
騎士団は、通常MS、ムラサメやブルーコスモスの量産型ウィンダムで応戦を始める。
―――
「うわあああああ!!!」
シンのディスティニーが周りのMSをなぎ払い、火球に変えていく。
圧倒的なパワーと速度の前に、連合のMS、オーブのMSも敵ではない。
「こんなことで、こんな力で国を守れると思っているのか!」
シンはかつていた国の情けない姿に、大声をあける。
ミネルバやそのほかの艦艇の攻撃にたいしても応戦するが、敵の防備体制は軟弱であり、攻撃に対して、圧倒的にザフト有利の展開が進んでいた。
ミネルバにいるデュランダルは、シンやレジェンドのレイの活躍を見ながらも、敵の散漫な攻撃に対して、どこか不思議に感じていた。
まるで自分たちをおびき寄せているようだ。
この戦い方は…どこか、そうヘブンスベースのときに似ている。
「あまり、艦隊を前に出さないほうが良いかもしれない」
「これ以上、隊を下げるとMS部隊が孤立します」
デュランダルは、それに納得しながら
「艦長、周辺の警戒を怠らないように…、嫌な予感がする」
司令部にいるゼロの元には戦況の報告が逐一報告されている。
圧倒的なザフトの物量に、連合軍とオーブの元来の戦力は、ほぼ無力化され始めている。
それと同時にオーブ本島に攻め込もうと敵の艦艇、およびMSが島に近づいてくる。
それを見定めるように、ゼロは立ち上がる。
「そろそろだな、敵は勝利を確信し、湾岸にはいりこんでいる。カレン、ステラ、アスラン出撃!各機、攻撃を始めろ」
ゼロの指示とともに、先ほどの散漫だった攻撃が統一され始める。
そして、姿を現す機影…。
「なんだ…あれは?」
シンの目の前に現れる影は見たことが無いもの…、まるでアスランを追ったときに現れたときの機体のように…。
MSとしての形に囚われていない機体。
「新型か…、シン、ルナマリア。布陣を組め。これからが本番だぞ」
「「了解」」
そんな彼らの後ろで爆発が起きる。
次々と艦船が沈んでいくのだ。爆発はなおも続いていく。
「これは…機雷!?」
タリアは、海中にある反応を見て声を上げる。
地雷の水中型であり、海中の中にしかけられたもので浮上することで真上にある船を撃破することが可能なものである。
さらには、前にいたザフトのMS軍が、一気に光と化す。
煙の中、現れる機体…。
―――
「さぁ、行くわよ。私と紅蓮の力みせてあげる!」
カレンの乗る新たなMSと互角に戦えるよう巨大化した『紅蓮暁式』。
限界の8枚の羽を持つエナジーウィングを装備した機動力をあげながら、さらには紅蓮特有の輻射波動は据え置き、その腕はさらに強化を施してある。
変更点としては巨大化にあたり腰部にハドロン砲が設置されている。
「…あの中に、シンがいるの?」
ステラが操るのは紅蓮弐号機こと機体色を灰色とした『灰廉』。
暁式と同じくMSとの戦闘におけるために巨大化している。
輻射波動を装備することも可能だが、ステラのために破壊力抜群の呂号乙型特斬刀を二本装備し、腰部には紅蓮と同じくハドロン砲が発射可能。
エナジーウィングも6枚ついている。
「オーブを、やらせるわけにはいかない!」
アスランの乗るのは飛行形態に変形可能な『G・サードオキニス』。
上記の二機体とは違って、ムラサメをコンセプトに改良したものである。
基本性能は向上し、その容姿もかなり厳つい形となっている。
背中にハドロン砲を二門装備し、ビームライフルとサーベルもあるナイメアフレームとMSの融合型といえる。
ラクシャータはキセルを回しながら、戦闘の様子を伺う。
新たな機体として投入されるそれらはラクシャータの折り紙つきの機体と言えるだろう。
他にもムラサメを強化した機体が次々と投入され、ザフトを押し返す。
「こんな奴らにぃぃ!!」
ディスティニーを操るシンがサーベルを振るう。そのサーベルは、カレンの操る紅蓮の強化された右腕で受け止められる
「なにっ!?」
『相手が悪かったわね、私と紅蓮は…無敵よ!』
カレンは輻射波動のスイッチを押そうとした。
輻射波動を直接受ければ、たとえディスティニーといえど、なす術無く破壊されるであろう。
『待って、カレン!』
だが、そのステラの声に一瞬、注意をそがれ、シンのサーベルを離してしまうカレン。
シンは後退して相手の様子を伺う。
『シン、シンなの?』
「ステラ?」
その声…、シンが間違うはずが無い。
だが、彼女はベルリンにてフリーダムにやられたはずじゃ…。
「本当にステラなのか?」
『そうだよ、シン。会えて…良かった』
シンはどうしていいかわからなくなっていた。
ステラ相手に戦えるはずが無い。しかも彼女は暴走しているわけでもなく、普通に会話が出来ている。
「ステラ、ステラなら俺と一緒にいこう。戦いの無い場所に君を…」
ディスティニーからさし伸ばされる手。
その手をステラは見ながらも、拒む。
「ダメ、ステラ…。シンも大切だけど…カレンやC.C.も大切」
ステラの後にいるカレンの操る紅蓮を見るステラ。
シン以上に、同じ時間をすごしていた仲間、そして自分を解き放ってくれたものをステラは捨てることが出来ない。
「そんな…」
シンは力なく、答える。そんな両者に割って入るインパルス。
「なにしてんのよ!シン!」
インパルスの放つビームライフルをカレンは、片手を挙げて輻射波動の放つバリアで、ビームを弾き飛ばす。
「!?」
「そんな…」
驚くルナマリアとシン。
この機体はビームライフルが通じないというのか。
ステラはインパルスに対しては敵意をむけて、身構える。
シンはルナマリアとステラが戦うことだけは避けたいため、ルナマリアを後にして前に出る。
「シン!」
「ここは、俺に任せて、ルナ…」
カレンは、そこでルナマリアという名前を直接通信にて聞く。
そう、アスランがつれてきたメイリンの姉である。
カレンはシンとルナマリアに対して通信を開く。
「私達は、メイリン・ホークを預かっている。もし戦うというのなら、彼女の身の安全は保証しない」
「メイリンが!?」
その言葉にルナマリアの動きがとまる。
「卑怯だぞ!!人質なんて」
「勝負に卑怯も何も無い。要は勝てばいいのよ」
カレンは自分で言いながら、どことなくルルーシュに似せるよう頑張ってみせる。
勿論、そんな会話を聞いているC.C.はクスクス笑い、ルルーシュはムスっとした表情で聞いていた。
戦闘は始まったばかり…、
黒の騎士団とザフトの戦いは熾烈を極めようとしていた。
そして海中で動き始める白き戦艦…。
まだ、誰もそれが再び飛翔することを知らない。