コードギアスDESTINY
第9話 裏切りの砲口、蘇る天使
オーブでの激闘は続いている。圧倒的な力で押し込んでいたザフトであったが浮遊機雷や、騎士団の最新鋭MSの影響によりその戦いを五分に戻されつつある。
さらには、ザフトのエースであるディスティニーが動けなくなったことが大きい。
メイリンを楯にするカレンとステラを前にして動きが封じられているシンとルナマリア。
「貴方達と私は戦う気はない、このまま引いてくれるならね」
「そんなことできるか!戦いを終わらすためには、ロゴスメンバーを撃つ必要があるんだ!」
怒鳴るシンを前にしてカレンはあくまでも冷静だ。
「それで、本当に戦いが終わるならこんな楽なことは無いわね」
「なに!?」
「戦いは、誰を倒せば終わりって言うわけじゃないのよ。結局、みんなが未来を見れなければ戦いは永遠と続くのよ」
ロゴスメンバーを倒せば未来が見えるのか…。シンは自問自答を行う。
だが、議長はそういった戦いはこれで終わりだと。
もし違うのなら…
「だったら、どうやれば戦いは終わるんだぁ!!」
シンは身構えるが、それを見たステラも反応する。
「ステラ…」
戦わなくてはいけないとわかっていながら、ステラを前に動くことが出来ない。
「シンでも、カレンを虐めるなら…私、許さない」
そんな両者に対してルナマリアは覚悟を決める。
「メイリンだって、ザフトの一員よ。私はザフトとして…ここで、戦いをやめるわけにはいかないの!!」
インパルスはサーベルを振り下ろし、ステラに攻撃をかける。
ステラは開いている片手から呂号乙型特斬刀を抜きとり、インパルスのサーベルを受け止める。
「はぁぁぁ!!!」
シンの目の前で戦うルナマリアとステラ。
速度では、インパルスを凌駕する灰廉を前に、インパルスは防戦一方である。
「やめろ!ステラ、ルナ!」
二人を止めようと動くシンの前に立ちふさがるようにカレンの紅蓮が動く。
「くっ!!」
「あなたの相手は私よ!ザフトのエース!!」
シンの前に立ちはばかる、翼を広げる紅蓮の姿にシンはフリーダムと戦ったときの緊張感があった。
それだけこの機体、そしてパイロットの手腕が見えてくる。
紅蓮の輻射波動を放つ強力な腕が、ディスティニーに向けられる。
双方が戦う中で、レジェンドとサードオニキスも戦闘が続いていた。
サードオニキスは変形し、海面を飛びながらレジェンドのビームライフルをかわしていく。
「それが、あなたの闘い方ですか!?アスラン!」
「オーブを、撃たせるわけにはいかない!」
変形しMS形態になるのと同時に、強力なハドロン砲を打ち込むアスラン。
レジェンドはそれをかわすが、その高熱により、片腕が溶解する。
「なんという火力だ!こんなMSが存在しているなんて…」
レイは驚いていた。この速度、そして火力を併せ持つことができるのはザフトぐらいであると考えていたのだが。
オーブ、いや黒の騎士団にはそれほどの技術力があるというのか。
「レイ!軍を引け!」
呂号乙型特斬刀を抜き取り、レイのレジェンドのビームサーベルとつばぜり合いになる。
「あなたこそ、騎士団にいいように扱われて…!!」
「例え、それでも…俺はオーブを守ると決めたんだ!」
片手を失っているレジェンドを押し返すアスラン。
レイは海面ギリギリまで突き飛ばされると、ビームライフルを放ちながら距離をとる。
その光景を眺めているデュランダル。
先ほどまでの動きから…徐々に押し戻され始めている。驚くべきは敵の中枢にあるMSと、それを操るパイロットである。
ディスティニーと戦いながら、他のMSも打ち倒している。
まさか、騎士団にここまでの力があるとは…。
「艦長、タンホイザーを敵の司令部であろう海岸線一体に向けて発射してくれ」
「しかし、まだ友軍が」
「…敵の戦力を見誤ったよ。まさか…アークエンジェル並みの機体を有しているとはね。
これ以上向こうのペースに囚われていると友軍は全滅だ」
「…わかりました。各機へ、タンホイザーを発射する。射線上から回避しろ」
タリアは、通信を送るのと同時にタンホイザーを戦闘が繰り広げられているオーブの海岸線に向ける。
「敵の旗艦の射線上MSが回避していきます」
ルルーシュは、その言葉を受け…敵がヘブンスベースで見せた主砲であると確認する。
「ラクシャータ…」
「実験はしてないけど…完璧よ」
ラクシャータはイスに寝そべりながら、前の画面を見つめる。
「ローズクォーツ、ハドロン砲を発射!」
格納庫の中、姿を見せる黒き戦艦。射線の延長上…狙うは敵の旗艦ミネルバである。
「ってぇー!!」
「撃て!!」
タリアとゼロの声が交錯する中で、放たれたハドロン砲とタンホイザーがぶつかり合う。
巨大な閃光が出来上がり、それぞれの攻撃に弾かれたものが、両者の艦の周りを吹き飛ばす。
「敵の目標艦は健在ですが、周りの艦艇は撃沈を確認」
騎士団の新型艦である『ローズクォーツ』…ハドロン砲を両翼に装備する戦艦であり騎士団の旗艦である。
なんとか完成は間に合ったが…今の攻撃でしばらくの発射は不可能である。
現在は格納庫にて、援護攻撃だけを行っており、出撃はまだ出来ていない。
「敵のミネルバMSはカレン率いるナトメアフレーム隊で抑えられる。さらに、こちらの量産MSとローズクォーツで艦艇は無力化。
全ての条件はクリアされた。こちらには、よく見えるぞ。部下を失ったキング、ミネルバの姿が…、各機、デュランダルを抑えろ!」
敵は面食らっているはずだ。まさか騎士団にこれほどまでの戦力が整っているとは思ってはいないからである。
勢いはこちらに完全にむいている。
このままミネルバを沈め、デュランダルを確保すれば勝利だ。
ゼロはディスティニーを牽制しているカレン、ステラにミネルバの攻撃命令をだそうとしたときだった。
ザフト側からのオープンチャンネルでの通信が入る。
『勇敢に戦う皆さんの前で発現をすることをお許しください。私はザフトのラクス・クラインです。
ロゴスメンバーを匿っている黒の騎士団の方々…、あなた方は国民を欺いてなお、その手に世界が欲しいのでしょうか?
私達はロゴスメンバーを引き渡してほしいだけであり、このような無益な戦いを起こす気はありません』
「小娘が、偉そうに…いうものねぇ」
ローズクォーツ艦内にて、その回線を聞いているラクシャータが嘲笑いながら言う。
ルルーシュは、デュランダルも躍起なのだろうと考える。
「ルルーシュ、この回線はおそらく世界中に広められているぞ」
「…あぁ、奴らはロゴスを追い詰めたときと同様にして追い詰める気か…。だが、今更そんなものを聞く奴はいない。ここはオーブ、私の陣地内だ」
C.C.の言葉にゼロは頷く。それにしても、この世界の人間はラクス・クラインという存在を崇めているようだ。
一種のアイドル的存在ということか。大衆を誘導するには丁度いいのかもしれない。
『ロゴスの方々は弱き人間達を、踏みにじり利益と富を得てきました。
戦いの悲劇をこれ以上、広めないためにも…私達は、それを止めなくてはいけないのです』
「なによ!これじゃー私達がまるで悪人じゃない!」
カレンは士気を取り戻したザフト兵士達の操るMSの攻撃を避けながらも、ディスティニーとの死闘を繰り広げている。
紅蓮が打ち出されたゲフィオンネットを避け、ディスティニーはカレンを追撃する。
「はあぁぁぁ!!」
その2人の後ではステラとルナマリアが、こちらも激戦を繰り広げていた。
「あなたが、シンを惑わすから!」
ルナマリアの殺気染みた攻撃を、ステラはなんとか凌ぎつつ、攻撃を続けていく。
「私は…誰もやらせない!!」
ステラは、ビームライフルを輻射波動で弾きながら、呂号乙型特斬刀でルナマリアにきりつける。
『…戦いをやめてください。私達の道は1つのはずです。ですから…』
『その声と姿に騙されてはいけません!』
アスランは、耳を疑う。もう1人のラクスの声?
それはレジェンドに乗るレイの動きも封じる。
オーブ近海の海から姿を現した、撃墜されたはずの白き天使…アークエンジェルの姿。
そこから飛び出す機体。それはフリーダムとはまた、異なった新しい機体、ストライクフリーダム。
そして黄金の機体である、アカツキ。
飛び出した二機がザフトのMSを攻撃していく。
『私こそが、本当のラクス・クラインです。ザフト軍、そしてオーブの黒の騎士団に言います。今すぐ戦闘をやめてください。
我々は、騎士団の武装解除から、ザフト軍に対して、ロゴスメンバーがいるかどうかの調査、引渡しを行って欲しいと提案します』
その言葉に、ザフト側のラクスことミーアは驚きで何も言えなくなってしまっている。
デュランダルは回線を遮断する。
「…アークエンジェル!?まさか、奴らが生きていたとは……」
ゼロはローズクォーツにて、拳を握る。これは予想外だ。
この混戦の中にさらなる勢力が入ってくるとなると…。
『オーブコントロール、オーブコントロール、私はカガリ・ユラ・アスハである。黒の騎士団代表である、ゼロ。
お前達から私はオーブを取り戻す!』
「…感謝されることはあれ、恨まれる覚えは無いな。誰のおかげで今までオーブを守りきれたと思っている?」
ゼロはカガリに対して言い切る。カガリは言葉に詰まるが、
『…私は、オーブを守ってきた。私の愛するオーブ首長国連邦を。それを勝手に改めたことを、私は許すことは出来ない』
カガリは強い口調ではっきりという。カガリの言葉に一部の民衆は混乱を始める。
完全にゼロを信頼しきっていない、ユウナがいやで渋々ゼロのいうことを聞いていた、というものは、
本来の主導者であるカガリが来ることを待ち望んでいた。
「…民衆が動揺しているな」
ザフトの攻撃に対して形無き楯として、市街地に立てこもらせていた市民の様子を監視カメラで見ていたC.C.が言う。
「くっ…、大衆は動かされやすい」
ゼロは、アークエンジェルが生きていたという、動きを読むことが出来なかった、自分に憤りを感じる。
『オーブの皆さん、私は、あなた方の本来の国を守ります。カガリさんとともに、皆さんの力を貸してください』
そのラクスの言葉がきっかけとなったのか、一気に市民は騎士団にたいして、反発し始める。
「ゼロ!どうなってるのよ!こいつらは敵なの?味方なの?」
突如現れた、アークエンジェルたちにカレン、そしてミネルバのシンたちは動揺する。
それはアスランもそうだ。すっかり撃墜されているものだと、思っていたアークエンジェルが再び目の前に現れたのだ。
驚くに決まっている。
それに自分たちはオーブを守っている。
攻撃をされる覚えはない。アスランは回線をひらいてアークエンジェルに通信を開く。
「こちら、アスラン・ザラ…アークエンジェル聞こえるか」
『アスラン、お久しぶりです』
「ラクスなのか?これは…」
『えぇ、会いたかったですわ』
「ラクス…俺は、オーブを守りたいだけなんだ。形はどうあれ、彼らは俺たちの味方で…」
『……アスラン、私と供に来てください……』
ラクスから放たれた言葉にアスランの目が赤く輝く。
『ゼロ、指示を!指示をお願いします』
混乱する戦況の中でカレンは、どうしていいのかわからない。
ゼロ=ルルーシュは、唇を噛み締めながら
「…全軍、全軍撤退だ!!体勢を立て直す。我々は宇宙…月面ダイダロス基地に移動する!即座に艦に帰還しろ」
格納庫にあったローズクォーツは体勢を真上にあげるよう準備をしている。
ゼロにとっては、最後の手段であった。
まさか…ここまで追い詰められることになるとは。
「ステラ、引き上げるわよ!」
「…わかった」
そんなステラの前にやってくるアスランのサードオニキス。
「アスラン、あなたも…」
カレンがそう言ったとき、アスランの操るサードオニキスがサーベルを抜き取り、目の前のステラめがけて突き出す。
「!」
機体が貫かれる音…。
ステラの灰廉の前にビームサーベルがディスティニーの機体の肩に貫かれている。
灰廉を庇うため、シンが機体を呈してステラを守ったのだ。
「「シン!」」
ルナマリアとステラの声が同時に響く。
「…俺は、守るって…、ステラ…君を守るっていっただろ」
「シン!どうして…なんで?」
ステラは涙を流しながら大きな声で怒鳴る。
ディスティニーの肩の部分が大きく爆発する。ルナマリアは怒りに身を任せてアスランのサードオニキスを撃つが、変形してその場を離脱する。
『何をしている!はやくしろ!』
ルルーシュの焦りの声…。
ステラは、その破損しているシンのディスティニーを抱えると、連れて行こうとする。
「待ちなさい!どうしようっていうの?」
それを止めるようにルナマリアがビームライフルを構える。
ステラはそんなルナマリアを突き飛ばすかのように、前進し
「シン、助ける!このままじゃ…このままじゃ!!」
ルナマリアは迷う。
どうしていいのか…一体何を信用して良いのかわからない。
議長の言っていることは本当に正しいのか…。
そしてこのままじゃ、シンが。
「…あなたも、くる?」
カレンがルナマリアに問いかける。
ルナマリアは、その突然の言葉に何も言えない。
「元気になったら、後で脱走でも何でもしてつれて帰れば良いじゃない。
このままだと、このパイロットも、艦に帰れない私達も、みんなお陀仏よ」
「…わかったわ」
ルナマリアは受け入れた。
なぜ、自分がそうしたのか分からない。
だけど、このままシンが殺されるよりかはマシだと思ったから。
カレンに連れられ、破損したディスティニーをつれ、ザフトの攻撃を凌ぎながらローズクォーツに乗り込む4人。
「カレン機含め乗艦しました」
「ローズクォーツ、カウントダウン開始」
「10…9…8…」
混乱する中で騎士団の残党MSと戦闘を続けるレイは、シンの信号が途絶えたことに気がついていない。
目の前ではオーブのギアスをかけられた兵士達が戦闘を続けている。
ルルーシュたちにとっては始めての宇宙。
こんなことで実現しようとは思わなかった。
『3…2…1…発射』
煙を上げながらローズクォーツは青い空を高く、高く上っていく。
それを見つめるものたち…。
戦場は宇宙にと移っていく。
ルルーシュたちは、次なる目的地、月面ダイダロス基地にと向かう。