grow&glow_KIKI◆8OwaNc1pCE氏_第01話

Last-modified: 2012-07-02 (月) 01:11:23

 ……俺は、必ず自分の夢を叶えてみせる

 

 ……あいつがどんなスキルを持とうが、俺には関係ない

 

 ……さて、これからが大変なんだよね~

 

……僕は、やっぱり不安はありますね

 
 

 ……ようやく私もあの人に一歩だけ、だけど近づけた

 

 ……パートナーの相手が心配なのは私だけ……よね

 

 運命の歯車は
 噛み合いながら
 静かに回り始めていた

 
 

 新暦72年6月
 時空管理局武装隊ミッドチルダ北部、第4陸士訓練校

 
 

 入校式を終え、まだ硬さの残る制服を着た訓練生達が、新たに知り合った仲間と言葉を交わしながら向かう場所――訓練生に僅かな期待と不安を胸に抱えさせることとなる仮割り当ての部屋だ。
 当面のルームメイト及びコンビパートナーがモニターにー投影されるその場所へ。
 彼らは歩む。歩み続ける。
 そして、僅かに歩調は早くなる。
 腐れ縁との相棒の継続となるのか/見ず知らずの者との邂逅となるのかetc。
 多くが、齢にして10と少しの子ども達。
 好奇心を刺激され、より早く結果を知るために――中には駆け出す者もいる。

 

「何故貴様と同じなんだ!」怒号。
「って、そんなこと知るかよ」嘆息。

 

 それは、いち早く、目的地へと辿り着いた銀髪と金髪の問答だった。
 神の悪戯か祝福か。
 腐れ縁の継続を許された金髪と銀髪の少年達。
 しかし、不満げ――面白くなさそうに、彼らは光り輝くモニターを見つめるのだった。
「良かったじゃないか」第三者の感想――少し遅れてモニター前に辿り着いたアスランは面白そうに頬を緩めてみせる。
「そりゃあないぜ、アスラン。イザークが同室ってことは、俺の平穏な学園生活が無くなったってことだろ?」ディアッカ――肩を落とし、げんなりと。
「どういうことだ、ディアッカ」イザーク――制服の胸ぐらを掴み、視線をぶつけ問いただす。
 二度目の嘆息。「これでも、ミッドに来てからはずっとお前と同じ部屋なんだけど?」
 二度目の怒号。「だから、なんだと訊いているんだ、ディアッカ!」
 言い合う二人に教官からの雷が落とされるまで、あと数十秒。
 だが、落雷現場に間近で遭遇したのは、二人はアスランとニコルではなかった。
 二人にとっては見慣れた光景。言い合うイザーク達からモニターへと興味を移した二人はその場から既に離脱済み――結果を予想して。

 

「なにやってんだか」
 呆れたように言葉を吐き捨てる一人の少女。
 入校式を終えた後も、ネクタイ/上着・ブラウスのボタンをきっちりと留めたまま。
 バカを一瞥した拍子にオレンジに纏めたツインテールが静かに揺れる。
「ま、あたしには関係ないか」
 入校初日からバカをやらかす人間と言葉を交わす必要が/まして、仲良くなる必要ないと彼女――ティアナ・ランスターは結論づける。
 金銀コンビから興味を外し、自身にとって重要な組み合わせ結果の探索を開始する。
 仮とはいえ、コンビを組む=己の成績に密接に関わる相手。故に、親しくなるつもりはなくともハズレを引くことは避けたいものだ。
 バカな人間/問題児には当たらないようにと、信じる神などいなくとも願ってみながら、ティアナは視線を上下左右。端から端へ。
 見つける。「32号室」思わず口の外へ。
 すぐ横。「32号室」同じ言葉が耳へと届く。
 惚けたように、両者が見つめ合ったのは数秒。
 少し頼りなさそうな/年下と予想した少女に向けてティアナは問いかけた。
「32号室?」
「あ、はいっ! そうです!」緊張+不安を表情に浮かばせるが、「私、スバル・ナカジマ。12歳です」瞬時に、笑顔を灯す。
「今日からルームメイトでコンビですね! よろしくお願いします」
「正式な班とコンビ分けまでの仮コンビだけどね。あたしは、ティアナ・ランスター13歳……よろしく」
 丁寧な口調/影のない人懐っこそうな笑み/真っ直ぐな視線――不自由なく大切に育てられたとティアナは予想する。
 己とは対極な生活をしてきたパートナー。
 それでも、恵まれたパートナー=当たりを引けたと感じ、心の中で安堵の息を吐き出した。
 出だしは良好。
 その良好さがこの先も続くことを祈りながら、初の訓練へと彼女は臨むのだった。

 

……経過。1時間……

 
 

 練習場、用具室前。
 
 訓練用のデバイスを受け取ろうと、生徒達が列を成していた。
 支給されるものは、ミッド式は片手杖か長杖。近代ベルか式はポールスピアの計3種。全てが無償で貸与されるが、使用はその3種に限定されることはない。
 生徒達が列を作る中、列には混じらない者が2人――スバル・ナカジマとティアナ・ランスター。

 

 スバルは、両足にローラーブーツ/右手にリボルバーナックルを装着。
 ティアナは銃型デバイスを右手に保有。
 自作デバイス持ち込みの変則同士故に生まれた仮コンビ。

 

 「わ……銃型! 珍しいね。かっこいい!」
 スバルの感嘆に対し、ティアナは一見するのみで答えを返すのだった。

 

 魔導士の使うデバイスの中では、銃型は珍しい部類に入る。
 照準を覗かなくてはならない質量兵器とは違い、使うのは魔力弾。放って終わりの直射だけではなく、誘導弾も存在し、また、自身の周囲に展開させたスフィアから放つこともある等、あえて銃型を選ぶ者は数少ない。
 質量兵器を意識させるということから、銃型デバイスを忌避する考えもあるにはあるが、何よりも杖を普及させた大きな――特に、子どもへの大きな影響を与えた要因が1つ。

 

 エース・オブ・エース。高町なのはの存在だ。
 魔導士としての実力・そして容姿も合わさり、衆人観衆の場にさらされやすい彼女にあこがれる者は数多い。
 彼女だけではなく、八神はやてやクロノ・ハラオウンといった有名な若いエリート魔導士が多いことも更なる拍車をかける結果となっていた。
 子どもにとって、彼女達と同じ杖を構え訓練ができることが1つの楽しみだ。
 同じ高みに立てずとも、あこがれのなのはさんのようにマネをして魔法が使えるのだから。

 

 その点、銃型デバイスを使う大衆に周知された魔導士――特に、年若く子どもがあこがれる存在となる人物はいない。
 その枠に当てはまることのできたティーダ・ランスターは既に故人。また、子どもにとっても、事件の内容はどうであれ、任務中に敵に逃げられてしまった魔導士だ。

 

 流行という点で、杖型が主流となっていることは世の必然だった。

 
 

 やりきれない想いになりながら、ティアナはスバルを連れて告げられた先=Bグループへと歩を進め――と、杖やポールスフィアだらけの訓練生の中で異彩を放つ4人組に目が留まる。
 彼らが所持するデバイス。そのどれもが1つとして同じモノはなく、ティアナ達と同じ変則組であることが容易に想像できた。

 

 と、ティアナの後を歩いていたスバルは駆け出した。
 それは、ほんの一瞬の出来事。
 ティアナが呼び止めようと口を開いた頃には、既にスバルは4人の前に到着済み。
 そのまま放っておくこともできず、しぶしぶティアナもまた、4人組の下へと足を向けるのだった。

 

「皆さんもデバイス持ち込んでいるんですね」
 興奮をそのままに、スバルは瞳を輝かせ、胸の前で両手を握りしめながら4人組へと問いかける。
「あなたたちも持ち込みなんですね」
 唐突な質問――それでも、4人の内の一人が優しげに答えを返す。
「あっ、はい。そうです」
「べつに丁寧語を使う必要は、ないんじゃないか」
 翡翠の目が印象的な少年が、笑いながら言葉を続ける。
「自分は、アスラン・ザラだ」
「あっ、僕はニコル・アマルフィといいます」
「えっと、私はスバル・ナカジマ」
「ティアナ・ランスター。よろしく」
 取り立てて誰かと親しくなろうと考えていなかったティアナだが、パートナーが挨拶をした以上、事務的に言葉を告げるのだった。
 互いに一礼を返し、やがてニコルは残りの二人、滑らかな銀髪おかっぱを肘でつつく。
「なんだ?」
「ほら、イザーク達も挨拶したらどうですか」
 面倒くさそうに――しかし、ここで拒む理由も見つからず、
「イザーク・ジュールだ」
「俺、ディアッカ・エルスマン。よろしく」
 二人も挨拶を返すのだった。

 

 コンビでもない相手と話をすりつもりがなかろうが、パートナーであるスバルが話を降ってくることもあり、ティアナは自然と会話に参加させられる。
「これはアームドデバイスですよね」
「そう。リボルバーナックルだよ」
 そして話の流れは、共通点――自分達だけが持つ、周囲とは異なるデバイスへと向かってしまうのだった。
「イザークのデバイスもアームドデバイスなんですよ」
 突然話を振られながらもイザークは黙ってデバイスを差し出し、鞘から抜いて見せつける。
 両刃の剣/曇り一つない純白の刀身。ただその根元だけは、綺麗なうっすらとした青みを帯びている。
「デュエルだ」
「へぇ~、名前付けてるんだ」ティアナ――何気なく。今までデバイスに名前を付けることも、付けようとも考えていなかった為に、いつの間にか告げていた。
「俺が付けたわけじゃない。最初からこの名前だ」イザーク――ぶっきらぼうに。それでも、ティアナの独白に言葉を返す。

 

 その後、ディアッカは金の杖、その先がアメジストを埋め込んだと思わせる球形なデバイス「バスター」を。ニコルは漆黒の、肘から指の根元までを覆っている防具のような形をしたデバイス「ブリッツ」をティアナたちがよく見えるように掲げてみせる。
「アスランさんは、何式なんですか?」
 アスランもまた、自身のデバイスを見せようとしたところで、スバルは問いかけた。
 アスランの現装備――両手に躑躅色(つつじいろ)をした篭手+右手に漆黒の銃型 のデバイスが1つ。
 ぱっと見れば、ティアナと同じストレージデバイスのミッド式(射撃式)と思いつくが、それでは篭手を付ける理由が存在しない。
「アスランは、ミッド式と近代ベルカ式の両方の適性があったんですよ」
 ニコルに視線で促され、アスランは手の甲にある仕込み刀を展開してみせる。
 それは、アスランの魔力で作られた真紅の魔力刀。

 

「それって……凄いわね」思わずティアナは感嘆する。
 彼女は、今までベルカ式とミッド式の二つのタイプを使う魔導師に会った事もなく、併用する人物がいるとは思いもよらないことだった。スバルも同様に驚き、アスランの銃型デバイスと真紅の魔力刀をまじまじと見下ろした。
 そんな感心する者がいるなかで、イザークだけは面白くなさそうに視線を逸らす。
 知っていたこととはいえ、ライバル心をたぎらせる相手の、自分とは違う能力があることを示される言葉は何度聞いても不愉快だった。

 

(ったく、しょうがねーな)
 その様子を見てやれやれと思ったのか、
「まっ、二つ使えても中途半端になるかもしんね~な~」
 横槍ともとれる言葉を入れる者――ディアッカ・エルスマン。
 彼としては、幼なじみに気を使ったためであるのだが、
「ディアッカ! その言い方はないんじゃないですか」
「いいんだニコル。たしかに今の俺は、このイージスをまだきちんと扱えていない」
 ニコルは批難を/アスランは反省を持って言葉を返す。
 訪れる静寂。実に、気まずい。
 とにかく、ディアッカの一言で気まずくなった空気を変えようとしたスバルは、新しい話題――自分が気になっていたことを口にした。
「あのー、そういえば、どうしてイザークさんとディアッカさんは同室なんですか?」
 首を傾げる金銀コンビによりわかるようにスバルは言った。
「だって、異性二人で同じ部屋なのは駄目じゃないんでしょうか」

 

 直後の4人は、
 沈黙する――ニコルは気まずそうに視線をイザークへ。
 凍り付く――アスランは目+口を大きく開けて固まった。

 

 次いで起きるのは、爆笑と憤怒の爆発だった。
「やっぱ、初めて見たらそう思うよなあ」ディアッカ――膝をつき+腹をよじり+地面を叩き。
「貴様、俺が女だというのか!」イザーク――怒号+剣呑な表情=スバルを威圧した。
 イザークの手にしていたデュエルはコンクリートの床に突き刺り、有無を言わせずスバルに前言撤回をさせようと意気込むイザークの隣。
「……男なんだ」
 何も気にするでもなく、ティアナは意外そうに呟いた。
「おい貴様、どういう意味だ! それは」
 鋭くなるイザークの双眸+浮かぶ青筋。
 それでも、火に油を注いだ人物=ティアナはそのまんまの意味よ、と己の感想を正直に。

 

 きめ細やかな肌×端正な顔立ち+すらりとした体型/羨ましい。
 滑らかなプラチナブロンドの髪は一本一本が細く、一目見てもわかるほどにサラサラ/羨ましい。
 しゃべり方が悪くとも、口が悪いで済ませることが可能。
 胸は……世の中には貧乳というカテゴリーが存在。
 以上の要素を踏まえて、スバルとティアナは判断したのだった。

 

 彼女達を含めた大多数が同じ感想を持っていた。

 

 イザークの怒りに驚く周囲にいた訓練生全員。
 皆が「エイプリルフール」と衝撃を受けたかのように硬直していた――というのが、後のディアッカ・エルスマンによる証言であった。

 

 かくして、波乱の予感を感じさせながら、彼女達の/彼らの訓練校生活の部隊の幕が上がる。

 

 

 同時刻。同場所にて――。

 

「あ、朝の訓練始まるねー」
「はい!」
 訓練校屋上。練習場を見下ろすことができるその場所で、エリオ・モンディアルとシャリオ・フィニーノはいた。
 エリオの入校を考え、見学のために此処――フェイトも過ごした第4陸士訓練校を彼らは訪れた。
 眺める先――デバイスを手に、練習場へと駆け出す訓練生。
 未来の自分と重ねるように/その目に焼き付けるように、訓練に励む魔導士見習い達をエリオは注視する。
「あれ楽しそうですっ!」
 関心を引かれた一場面。思わず視線で追いかけ、――オレンジの髪をした少女が、訓練校屋上に立つ自分達よりも高く飛ばされ――見上げていた。
「エリオはマネしちゃダメだよー」
 見慣れた景色なのか/経験でもあったのか。
 見られちゃったかーとシャリオは苦笑する。

 

 どこかのんびりとした時間の流れ。
 その空間に、「何やってるんだよ。垂直飛越なはずだぜ」混じるのは呆れ声。
 いつのまにか二人の隣に並ぶ青年が一人。
「あのっ、貴方は?」
 驚くよりもまず、シャリオの口から飛び出した言葉は問いかけだった。
 青年の恰好――友人で見慣れた武装隊。それも、教導隊の制服を着用中。
 総数でも100人ほどしか居ない教導隊の男がわざわざ一訓練校を訪れる理由が見つからないが故。
 答える青年は、
「おっと。俺は本局武装隊所属、航空戦技教導隊第5班ハイネ・ヴェステンフルス。……まずは、よろしく」口調も視線も仕草も穏やかに。
 挨拶代わりにエリオの頭に手を置き、次いでシャリオに右手を差し出した。
「初めまして。この子はエリオ。私はシャリオ・フィニーノです。今日はこの子の訓練校見学で此処に来たんですけど、ハイネさんはなぜこちらに?」握手に応え、シャリオは自身の疑問を正直に投げかけた。
「俺は、再来月からここで実戦訓練の教官をする予定だからな」
「けど、ハイネさんは教導隊ですよね?」
 さらなる疑問。基本的に、教導隊の人員が訓練校に出向くことは数少ない。
 敷地の見学前に訓練校について説明された中でも、第4陸士訓練校の教官不足の話はされてもいない。
「まあ、いろいろと」
「答えになってないですよ」
「気にすんなって」
 快活に笑ってハイネはシャリオの疑問を煙に巻いた。 転属理由――表だった理由は己が上に掛け合ったことだが、それだけであるはずもなく。
 いかなる政治的駆け引き/やりとりがあったことも事実だが、知り合ったばかりの女に教えてやる義理も必要もなく。
 ハイネはエリオと同じように訓練に励む訓練生――己が気になる四人の少年へと視線を向けた。
 4人組――中でも、躑躅色の篭手を付けた少年――かつて己の度肝を抜いてみせたアスラン・ザラに意識を傾けて。

 

 自然と口角が上がっていくのを感じながら、ハイネは期待の新人達の訓練の有様を眺めているのだった。