seed restructures_04_レイ

Last-modified: 2016-09-04 (日) 13:16:05

Destiny Plan。
コーディネーターが培ってきた技術のすべてを結集して作られた、究極の人類救済システム。
人類に幸福をもたらすための計画。

 

個人を遺伝子レベルで解析し、本人すら知らない可能性を明らかにする。
それによって、個人は自分のすべてを知り、自分に何ができるのかを知る。

 

はるか遠い昔、人は神によってこの世界に遣わされているという思想が存在した。
人は何らかの使命をなすために、この世界に生を受けたのだ、と。

 

しかし、問題があった。
人は自分の果たすべき使命を知らなかった。
神はこの世界に居らず、人々は自分の使命を自分で見つける必要に迫られた。

 

そうして過ごすうちに、人々は変わった。

 

あるものは、彼に使命があることを忘れた。
あるものは、使命があることを知るにとどめた。
また、あるものは使命を果たさないようにした。

 

すべては、人々が自らの使命を知らなかったことが原因だ。

 

なぜ、神は人々に使命を教えておかなかったのか。
それは神が人々に与えた試練だったのだろうか。

 

結果、人々は幸福になるどころか、不幸になった。

 
 

だが、今は違う。

 

人は自分の果たすべき使命を探す方法を知っている。
それも、決して間違わない方法を。

 

人は自分の使命を見つけ出し、それを果たして生きる。

 

そうなれば、誰も戦争を望まなくなる。

 

そうならなければならない。

 

戦争は不幸の源であると同時に、不幸の結果でもある。
人々がすでに不幸の状態にあれば、平和は乱される。

 

戦争の手前の不幸をなくす、それがこのシステム。
戦争を生み出すシステムを捨て、このシステムを実行できれば、戦争は無くなる。
戦争を起こす、などといった馬鹿げた使命などあるはずが無いのだから。

 

だが、どんなにすばらしい変化でも、それに反対するものがいる。
何故彼らはそこまで愚かなのか。

 

俺のような存在を二度と生み出さないためにも、これは必要なのだ。
それと同時に彼という存在もまた、必要性が無くなる。
一人一人の人間が、自分の役割を忠実にこなせばよいのだ。

 
 

そうだ、人類の希望は一つの光であってはならない。
世界は一人の人間が作り出すものではない。
たった一つが、世界を照らすなど、あってはならない。

 

ディスティニープラン後の世界は、彼の存在しない世界、彼を必要としない世界。
そしてそれは同時に、俺の存在しない世界、俺を必要としない世界を意味する。
彼という光の影が、俺なのだから。

 

何故俺は不安に駆られている?すでにわかっていたことだ。
新たな秩序は、彼も俺も生まれない世界をつくりだすのだということを。

 

何故こんなにも興奮しているのだろう。
言いたくも無いことまでも、口を出てくる。
こんなに感情的な自分は初めてだ。

 

今までとは違う自分がいる。

 

死期が近いせいだけではない。俺は不安を感じている。
他でもない、DestinyPlanに。

 

しかし、何故今頃になって不安がっているのだ。
そのためにいままで行動してきたのだ、俺は。
ギル、いや議長だってそうだ。

 

そして、
お前もそうだったはずだ。
シン。
俺を理解してくれ。

 
 

ここはどこだろう。暗い。周囲の情報がひどくぼんやりとしている。
いつのまにか、私の前には男がいた。

 

俺は思い出した。小さいころからよく見ている夢だ。
そして、それは夢の中でしか夢だと認識できていない、ということも。

 

私はその男に向かって問いかける。そう、今までずっとそうしてきたように。
問いかける自分は夢の中で成長していったが、男には変化が無かった。

 

「ねえ、ラウは?」
男は決まってこう答える。
「ラウはもう、いないんだ」
男はさらに言葉を連ねる。
「だが、君もラウだ」

 

今までは、彼が何を言っているのか、わからなかった。
その音は聞こえていたが、言葉として認識できていなかった。
その音が何を意味するのかが理解できていなかった。

 

だが、そういうことか。
私は、彼の駒に過ぎなかった。それも、とられたらおしまいのチェスの駒だ。
私だけではない、ラウもきっとそうみられていたのだろう。

 

そして、彼と私は同じ駒。

 

男は私に薬を手渡す。
「それが運命なんだよ」

 

駒の運命は、キングを守ること。
キング以外の価値は同じだ。
すべてが捨て駒だ。

 

これでもう、この夢を忘れなくてすむ。

 
 

すこし眠って、気分が落ち着いたようだ。
いや、眠ったから気分が落ち着いたわけではないことは明白だった。
いつもの自分に戻っていた。まるで肩の荷が下りたように、気分が落ち着いていた。

 

俺はシンに謝った後、再び自分の意思を伝えた。
議長は正しい、と。

 

そうだ。彼が正しいのだ。
俺の過去と、残りわずかな未来。そのすべてをかけた議長が、間違っているはずが無い。

 

たとえ、そのプランが成功してもなお、俺が幸福に過ごすことができなくとも。
それが俺の運命なのだ。

 

俺はシンに意思を伝えることで、自分を納得させた。

 

その言葉が、議長の言葉とは違っていることを意識しながら。

 
 

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