Tradition/シフルヴァティ

Last-modified: 2022-03-13 (日) 10:31:33

基本情報

  • イデア名:Syphelvati(シフルヴァティ)
  • 身分:水の女神

水を象徴する女神。本人(?)にはその自覚はないようだ。

収録弾

Tradition

No.51 満ち溢れるキャロル(シフルヴァティ)

 

シフルヴァティはわずかでありすべてである。姿は環境に呼応して千変万化するが、本質は集合離散するただ一種の元素である。海洋の深淵の誰も一望し得ない大に小にうねる対流はどこも均一でなく、午睡のまどろみのように変化と差異に事欠かない。陽熱によって海原から剥がされ空に吹き上がる気流となるとき、成人の儀礼を思わせる衝撃的な目覚めを経験させる。天高く安寧を得たのも束の間、冷気から自重に耐えかねて地上に落ちるときは、今生の別れのような悲しみに包まれる。大地に染み渡り生物たちを巡ればやがて集まって河を成し、海まで流れようと志す。

 

思う。

No.93 湧き出づるフーガ(シフルヴァティ)

 

泉のほとりに腰掛けるシフルヴァティを前に、男は戸惑う。自分は愛する者の裏切りに絶望して首をくくったのではなかったか。高所の岩棚であった。丘陵がはるか遠くまで、雲とも霧とも知れぬ曖昧さの中に波打っている。

 

「いいえ、現世です。ここは天国ではありません」

 

シフルヴァティが言った。男の心は一度壊れていた。放浪のなかで回復したものの、その間の記憶はないようだ。

 

「悟りや霊験ならばここにはありません。救いも与えられません。しかし、恵みならば」

 

女神の膝上の桃がひとつ、男に差し出される。しなやかな腕に実るようにして。うやうやしく受け取った男が尋ねる、あなたは神仙のたぐいのようにしか見えない。それが霊験でないなら何を言うのだろう。シフルヴァティは答えた。

 

「世界が広ければままあることです。物理現象と精神現象の積み重ねがもたらす帰結を、あなたがたが奇跡と呼ぶのは滑稽に思えます」