SMEブレーキもどき

Last-modified: 2017-06-10 (土) 00:16:27

電磁直通ブレーキの設定を上手いこと調整してSMEブレーキみたいなものを再現してしまおう、という企画。(Fa 作成)
(2012/12/06)「自動空気ブレーキとして設定する場合」に電磁直通弁式(日立式)電磁直通ブレーキの設定を追加しました。

特徴

  • 今後BVE5で自動空気ブレーキがサポートされた場合でもおそらくSMEブレーキに関してはこの設定方法のほうが再現度が高い
  • マニュアルラップ方式の他のブレーキ(自動空気ブレーキなど)の代用品として使えなくもない

問題点

  • 応荷重や電空協和制御には対応できない
  • 反応性に少々クセがある
  • 常用ブレーキと非常ブレーキでBC圧上昇速度が変わらない
  • リロードした場合ハンドル位置によってはBC圧が異常に高い値になる
  • 重ナリ位置からユルメ位置にハンドルを動かすとBC圧が0でも緩解音が鳴る
  • MR圧とBC圧・EP圧の連動が完全ではない
  • 運転台パネルにSAP圧・EP圧が表示できないので代用する必要がある

手法の概略(読み飛ばしても問題なし)

BcセクションのApplyStart/StopとReleaseStart/Stopを活用します。そのためこれらのキーの役割についてまず説明します。ここではSAP圧(SmeeセクションのMaximumPressureが最大値)とSmeeセクションのSapBcRatioを掛けたものを仮にBC目標圧と呼びます。またSapBcOffsetは複雑化を避けるため0としてあります。

  • Applyの場合
    • BC目標圧がBC圧+ApplyStartになるとBC圧が上昇を開始します
    • BC目標圧がBC圧+ApplyStopになるとBC圧が上昇を停止します
  • Releaseの場合
    • BC目標圧がBC圧-ReleaseStartになるとBC圧が下降を開始します
    • BC目標圧がBC圧-ReleaseStopになるとBC圧が下降を停止します

 つまり、BC目標圧がBC圧+ApplyStopとBC圧-ReleaseStopの間に入るようにすればその時点でBC圧の動きは上昇方向であれ下降方向であれ止まり、重ナリ状態になります。
 ではどうすればいいか。まずユルメ方向で考えてみるとハンドル位置を重ナリにした時点でBC圧が下降するようではいけませんからReleaseStopはとりあえず0、BC目標圧は重ナリの時点でBC最大圧になるようにします。次にブレーキ方向で考えると0に近いBC圧力でもハンドル位置を重ナリにすれば上昇が止まるようにしなくてはいけませんからApplyStopは重ナリ位置でのBC目標圧=BC最大圧となり、その上でブレーキ位置ではBC最大圧まで上昇しなくてはなりませんからブレーキ位置でのBC目標圧はBC最大圧+ApplyStop=BC最大圧×2ということになります。
 MaximumPressureをいくら大きく設定してもSAP圧はMR圧を超えられませんからBC目標圧を上げるためには主としてSapBcRatioを調整することになります。具体的にはSMEブレーキではBC最大圧=MR圧となるためMaximumPressureをMR圧付近とし、SapBcRatioを2とするのがよいでしょう。そしてこれらに矛盾しないようApplyStart=ApplyStop=BC最大圧、ReleaseStart=ReleaseStop=0に設定します。

具体的な設定方法

 以下SMEブレーキの再現に必要な箇所のみ記載します。具体的な設定値を挙げていない箇所もありますが備考欄や注釈を参考に適宜設定してください。

車両パラメータファイル

セクション名前設定値備考
なしLoadCompensatingfalse
CabBrakeNotchCount2
HoldingSpeedBrakefalse省略可
BrakeTextユルメ,重ナリ,常用,非常類似のものであればよい
BcApplySpeedあまり大きいと操作しにくい
ReleaseSpeedあまり大きいと操作しにくい
VolumeRatioBCの容積はBCとSAPの合計容積に読み替える(注1)
ApplyStartBC最大圧(注2)
ApplyStop
ReleaseStart0
ReleaseStop
Bp非常管(EP)に読み替える(注1)
SapApplySpeed1000~1500(注3)
ReleaseSpeed
VolumeRatio1000ぐらいとにかく大きい値にする
LockoutValve電空協和は設定不可なので省略してよい(注4)
AirSupplement
SmeeMaximumPressureBC最大圧(注2)
PressureRates0,0.5,1,1
SapBcRatio2
SapBcOffSet0
BpInitialPressure(注5)

(注1)VolumeRatioについてはSMEブレーキについての各項目も参考にされたい。
(注2)理想的にはMR最大圧と同じ値にするとよいが、MR圧が低いときにBC圧が十分に上がらなくなってしまう(これは裏で動いているSAP圧がMR圧までしか上がらないのにApplyStart/Stopの値は一定値のため引きすぎてしまうから)ので、MR最大圧とMR最小圧の中間かそれより少し小さいぐらいに設定する。
(注3)小さい値にするとハンドル操作からの応答性が悪くなるが、あまり大きい値にしてもBC圧の値が暴れてうまく重なりにならなかったりマイナスになったりするので1500ぐらいが限界。同じ理由で電気指令式ブレーキを利用して設定することはできない。
(注4)抑速ノッチを設定している場合はRegenerationLimitのみ大きな値(最高速度より十分大きい程度)を設定して動作しないようにする。
(注5)理想的にはMR圧に追従してそれよりわずかに小さい値ということになるが、動的な値を設定できないのでMR最小圧ないしそれよりわずかに小さい値にする。ただし現行バージョン(5.3)でBpInitialPressureを設定するとBC圧が立ち上がらないバグが存在するようなのでとりあえず省略する。

運転台パネルファイル

  • sapキーはデバッグ以外には使用できないのでSAP圧を表示したい場合にはbcで代用します。
  • EP圧はbp(通常時にMR圧に追従しないのが違い)もしくはmr(非常ブレーキ時に圧力が0にならないのが違い)で代用します。

車両サウンドファイル

  • Brakeセクションの緩解音は3種あるうちBCReleaseFullのみ設定します。他のキーに設定するとユルメ位置にするとき以外でも音が鳴ってしまいます。

SMEブレーキについて

 SME(非常管付き直通空気)ブレーキは通常の直通空気(SM)ブレーキに非常管(EP/EmP)を加えて、連結運転中の列車分離に際して非常ブレーキが動作するようにしたもので、ウェスチングハウス・エア・ブレーキ社の開発によるものです。直通管(SAP)とEPを引き通す2管式と、SAPとEPに加え元空気ダメ管(MRP)を引き通す3管式があります。なお類似のものにジェネラル・エレクトリック社の非常直通ブレーキがあり、大抵非常管付き直通空気ブレーキの解説が行なわれる場合にはそちらの解説となっていますが、補助空気ダメを各車に設置したり非常管に直接空気を送り込む機構がブレーキ弁になかったりしてSMEブレーキとは少々挙動が異なります。

非常弁

 各車に設置されている非常弁のピストンの両側にはそれぞれEP圧と元空気ダメ(MR)圧(もしくは供給空気ダメ(SR)圧)がかかるようになっていて、EP圧がMR(SR)圧より大幅に低いとMR(SR)とブレーキシリンダ(BC)が接続され非常ブレーキがかかります。EP圧がMR(SR)圧とほとんど同じになればピストンに取り付けられたバネの力でピストンが移動しSAPとBCが接続されるようになっています。SMEブレーキで用いられる非常弁には大きく分けて初期型で速動部がないA系列と速動部を追加したD系列があり、近年まで残ったものの多くはD系列の改良品であるD-1非常弁を使用しています。速動部はSAPとBC双方の圧力を比較してBCの圧力が低ければMR(SR)からBCへ送気し、BCの圧力が高ければ非常弁から直接排気します。速動部があれば後述のような電磁弁機構がなくても先頭車以外における給排気が行なわれることになり、応答性の向上に寄与し、また2管式の場合はVolumeRatioの値に影響します。

2管式

 SMEブレーキが開発されたときからの古い方式で単車を連結する場合に使用されたという経緯から原則として各車に空気圧縮機が必須となります(ただし制御車用のSCEブレーキではEPからSRへ供給する方式のため不要)。MRからの空気漏出を考慮する必要がないのでSAPやBCにはMRから直接空気が供給されます。直通空気ブレーキからの改造に際して手間・コストが抑えられますが、空気圧縮機の負担に関してデメリットがあるためのちには3管式が一般的になりました。
VolumeRatio(Bc/A系列非常弁):MRは1両目のみ、BC+SAPは編成全体で計算します。
VolumeRatio(Bc/D系列非常弁):MRは1両目のみ、BCは1両目の全部と先頭車以外の1/3~1/4前後(正確にしたい場合には速動部の動作をモデル化しベルヌーイの定理等により求めます)の合算、SAPは編成全体で計算します。
VolumeRatio(Bp):MRは1両目のみ、EPは編成全体で計算します。

3管式

 固定編成を組んで運行する場合に多い方式で空気圧縮機は編成中の一部の車両にあれば十分です。MRPからの空気漏出を考慮してSAPやBCへの空気供給はMRPと逆止弁を介して接続しているSRから行なわれます。現代でも使われているSMEブレーキはほとんどが3管式です。ただしMRPの接続をしなければ2管式と同等の動作になります。
VolumeRatio(Bc):MRとBC+SAPの双方とも編成全体で計算します。
VolumeRatio(Bp):MRとEPの双方とも編成全体で計算します。

ブレーキ弁の位置

  • ユルメ SAPを大気開放、EPとMR(SR)を接続、BC圧は下降する。力行・惰行時はこの位置に置く。
  • 重ナリ SAPは閉塞、EPとMR(SR)を接続、BC圧は維持される。ハンドルはこの位置で抜き取ることができる。
  • 常用ブレーキ SAP・EPとMR(SR)を接続、BC圧は比較的緩やかに上昇する。非常ブレーキを緩解する場合はこの位置かユルメ位置に置く。
  • 非常ブレーキ SAPとMR(SR)を接続、EPを大気開放、BC圧は急激に上昇する。EPには他の運転台から空気が供給され続けMR(SR)圧が低下していくため緊急停車する場合以外は使用しない。

電磁SMEブレーキ

 ブレーキ弁に接点を追加し、この接点から伸びる指令線を編成中に引き通し、各車両の電磁弁でもSAP・EPの給排を行なうようにしたもので、長編成でも応答性が悪化しません(単行ではあってもなくても変わりません)。SMEブレーキはもともと2両編成まででの使用を前提としており、多少のブレーキの応答遅れと衝動を許容しても3両編成までが限界となるため、4両以上で組成する場合には必須の機構となっています。本企画で再現される挙動はこの電磁SMEブレーキに近いものになります。
VolumeRatio:2管式の場合BCとSAPは1両目のみで計算します。その他は電磁弁がない場合と同じ。


自動空気ブレーキとして設定する場合

 SMEブレーキもどきをさらに転用するので再現性は低く、BVE本体で自動空気ブレーキがサポートされるまでの繋ぎとしてしか使用できませんが操作系(マニュアルラップ方式)は類似しているので書いておきます。
 以下にSMEブレーキ用の設定からさらに変える必要がある部分のみ記載します。なおこれは電車・気動車・客車・貨車用の設定ですから機関車の場合は車種ごとの設定を確認のうえ適切な値に設定してください。

セクションキー2圧式K弁2圧式A弁3圧式(KU弁・E弁)日立式電磁直通
BcVolumeRatioBCのみの容積で計算
ApplyStart350000440000(注1)(注2)440000(注1)
ApplyStop
SmeeMaximumPressure
PressureRates0,0.5,1,10,0.5,0.9,10,0.5,1,10,0.5,0.98,1
BpInitialPressure省略してよい
BpEPへの読み替えは不要

(注1)応荷重なしの車両の場合。応荷重制御を行なう車両では使用環境(路線データの乗車率設定)を考慮して応荷重制御範囲内の適当な値に設定する。
(注2)3圧式は応荷重が標準装備なので応荷重制御範囲内の適当な値に設定する。