私立ネちょネちょ女学園

Last-modified: 2009-05-21 (木) 11:18:41

目次

注意書き


   ∧_∧ やあ
   (´・ω・`)       /          ようこそ、私立ネちょネちょ女学園へ。
  /∇y:::::::\   [ ̄ ̄]         このベロニカはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
  |:::⊃:|:::::::::::::|   |──|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| うん、釣りなんだ。済まない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ 仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
    ∇ ∇ ∇ ∇      /./|   でも、この題を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
    ┴ ┴ ┴ ┴     / / .|   「百合ktkr」みたいなものを感じてくれたと思う。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/   |   殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄     |   そう思って、この作品を上げたんだ。
   (⊆⊇) (⊆⊇) (⊆⊇)      |
     ||    ||    .||       |   じゃあ、ブラウザを閉じようか。
   ./|\  /|\  /|\




当SSはネちょ学SSです。
出演者のお叱りを受けた場合、謝罪と共に削除させていただきます。





 さて、突然だが、この学園には入ってはいけない委員会というものが三つ存在する。
 一つは風紀委員会。悲鳴が絶えない学園の秩序と風紀を取り仕切る委員会だ。悲鳴を上げさせているのは八割方、彼女達だが、そういった意味で勧められないというわけではない。問題はその訓練にある。Navy SEALsやグリーンベレー、デルタフォースに匹敵すると言われる訓練内容は熾烈を極める。夏頃には高高度降下低高度開傘を行う彼女達の勇姿が実際に見られるので、その戦力はほぼ軍の一部隊と比べても遜色はないだろう。しかし、そこまでする必要性があるのか、何を仮想敵としているのか、そもそも、何と戦っているのかすら不明。今日も見えない敵と戦う彼女達に明日はあるのかも不明。ともかく、誰かがやらなければならない事なのだが、そういった理由から入会を勧められない委員会だ。


 もう一つは美化委員会。学園の清掃活動を取り仕切る委員会。その実態は風紀委員の一番の被害者と言える。破壊された校舎の簡単な修繕なども請け負う為、風紀委員が派手に活動すればするほど、仕事が増える。特に長期休暇中は風紀委員会が校舎内でペイント弾を用いた紅白戦をどちらかが全滅、若しくは作戦目的を達成するまで行う為、地獄を見る。これも誰かがやらなければならない事なのだが、やはり、入会を勧められない委員会だ。


 最後の一つは生徒会。生徒達の総意を背負い、執行する委員会だ。その他にも各委員会や各部活へ支給する活動予算の配分、イベントにおける学園側との交渉なども一手に引きうける。その為、多くの予算を欲する部や委員会との舌戦が絶えず、少し無茶なイベント案を通す為に学園側との権謀術数の争いも行う。少しでも生徒会に相応しくないと思わせる行動をすれば、即不信任決議も持ち込まれてしまう。生徒達に選出されながら、その生徒達の槍玉に挙げられる委員会である。無論、誰かがやらなければならない事なのだが、生徒からも教師からも厳しい目を向けられる委員会である為、覚悟をしていても勧められない委員会だ。


 そんな入ってはいけない委員会の一つ、生徒会の代表、生徒会長である彼女は今日も憂鬱だ。元々、生徒会に入る気もなかった彼女だ。憂鬱になるのも無理はない。特に彼女の場合、支持率十割というあり得ない数字を叩き出した前生徒会長の強烈な推薦を受けて生徒会長となった為、生徒達の目は厳しく、特に落ち度はないにも関わらず、カリスマがない、という一方的な理由で何度か不信任決議に持ち込まれそうになった事もある。彼女としては不信任決議で早く、生徒会長という役職から解放されたいと祈っているのだが、強烈に推薦した前生徒会長の名誉も背負わされてしまっているので、迂闊に不信任決議で失職もできない。


 彼女は憂鬱を追い出すように溜息を吐く。この作業を五回、行ってから仕事を始める。
 目の前には書類の山。彼女の仕事はこの書類の処理だ。彼女が書類に目を通し、それから、各生徒会役員に仕事を申し付けるのだ。全ては彼女が動かなければ、始まらない。それ故、彼女は生徒会にはなくてはならない人間であった。外でどう言われようが、生徒会役員全員がそれを認めていた。


「慧音。何か、頭の痛くなるような書類があるのですが……」


 仕事を始めた彼女は書記でありクラスメイト且つルームメイトの慧音先生を呼ぶ。慧音先生と彼女の付き合いは、初等部からと長い。その為か、彼女は何かあると無意識に慧音先生を呼んでしまうのだった。それは信頼の証でもあるし、親愛の証でもある。


「どうかしたのか?」
「風紀委員が着用する制服の請求書が混じっていました。彼女らには十分な予算を回した筈なのですが、何故、生徒会に届いているのでしょう。そして、何故、請求書がないと探しに来ないのでしょう」
「あー、どさくさに紛れて、払わせようとしているな。それは」


 風紀委員会に渡した予算は去年度よりも、かなり増やしているのだ。それでも、こんな真似をすると言うのは、嫌がらせとしか思えない。彼女は溜息を吐いて、痛み出した頭を抱える。


「何なら、私が瀟洒! 先生に持っていこうか? 丁度、暇なんだ」
「いえ、私が行きます。こんな書類も来ていますので」


 そう言って、彼女はもう一枚の書類を手に取り、慧音先生に見せる。
 それは、不信任を訴えられた事を告げる書類だった。
 不信任を訴えられたのは生徒会役員の名はドックンドール。現生徒会長の名だった。










 ――生徒会長Lv0













 生活指導室から響き渡る男の悲鳴。
 生活指導室前まで来ていたドックンドールがその悲鳴の主が教頭であり、生徒会顧問でもあり、学園唯一の男性でもあるてんこあいしてぬであると判断するのに時間は掛からなかった。
 恐らく、何か不幸な事故でも起こったのだろう。ドックンドールはそう判断する。風紀委員会を統率する顧問であり、全校生徒の恐怖の象徴である生活指導教諭の逆鱗に好き好んで触れたりしない。だから、事故であると判断した。
 ドックンドールは今日、何度も吐いた溜息をまた吐き出す。
 教頭への教育的指導が済むまで、生活指導室に入室できない事を予測したからだ。
 さて、どうしたものか、とドックンドールが考え出すと、生活指導室のドアの前に立っている、きっちりとメイド服を着こなした風紀委員の少女がドックンドールを見下ろしていた。
 少女がドックンドールを見下ろしているのは少女自身の背丈が高いわけではなく、ただ単にドックンドールが小さいだけだ。
 ドックンドールは小さい。高校生なのだが、その身長は百四十センチに届かない。それだけではなく、体を構成するパーツ一つ一つが例外なく小さいのだった。胸に至っては小さい以前に無だ。洗濯板だ。絶壁だ。悲しいくらいに女性としての魅力がなく、カリスマを感じられないと言われる所以も、これに起因する。


「これは生徒会長。お疲れ様です。何か、用向きでも?」


 現在、取り込み中である為、用向きを伺うよう申し付かっているのだろう。
 どこまでも統制が行き渡った教育は見事としか言い様がない。
 尤も、ドックンドールからすれば、風紀委員会は頭痛の種でしかなく、どれだけ素晴らしい教育成果や活動内容を残そうが、その印象に一切の影響を及ぼさない。精々、生活指導の瀟洒! を尊敬しているくらいだ。


「ええ、風紀委員会で処理すべきものが生徒会の書類に紛れていたので届けに来たのですが、取り込み中のようですね」
「わざわざ、ご足労、ありがとうございます。宜しければ、預かりますが、如何しますか?」
「いえ、直接渡しますので」
「わかりました。そろそろ、指導も終わると思うので、お待ち下さい」


 そう言って、少女は椅子を用意し、ドックンドールに座るように促す。
 ドックンドールはその椅子に遠慮なく座った。
 その間も悲鳴は絶えない。


「ところで、今日は何時になく激しいようですが、教頭先生は何をやったのでしょう?」
「瀟洒! 先生の胸を揉んだそうですよ」


 ドックンドールは話に尾ひれがついている事を感じた。教頭は男性だ。沸き立った性欲に惑わされる事もあるだろうが、凡そ、そんな事をする人柄ではない。真相はぶつかった拍子に胸に触れた、程度のものだろう。
 その程度でここまで本格的な指導を行う瀟洒! の方に問題があるようにドックンドールは思う。教育的指導を行い、見本となる大人がたかだか、胸に触れられた程度で校内に悲鳴を響かせる程の指導を行うのは行き過ぎだ。精々、けじめとして平手打ち一つで済ませる程度の問題だ。
 等とドックンドールが考えていると、生活指導室から絶えず聞こえてきていた悲鳴が途絶えた。
 どうやら、教頭への指導が終わったようだ、とドックンドールが少女を見る。
 少女と視線が合い、それを合図に少女が生活指導室にいる瀟洒! に声をかける。
 少女と瀟洒! が二、三話してから、ドックンドールに入室許可が下りる。
 それを聞いたドックンドールは椅子から立ち上がり、断りを入れてから生活指導室に入室した。
 ドアの向こうには爽やかに汗を拭う瀟洒! と満身創痍のてんこあいしてぬの姿があった。既に見慣れてしまった光景の為、ドックンドールは驚かない。


「こんにちは。書類を届けに来ました」
「ええ、ご苦労様。今から、後片付けをしなければならないから、机において貰えるかしら?」
「わかりました。それともう一つ用件があるのですが」


 ドックンドールが瀟洒! の机の上に風紀委員制服の請求書を置き、瀟洒! に向き直り、もう一つの用件を告げる。
 瀟洒! はその用件を知っているのか、溜息を一つ吐き、不信任訴状をドックンドールに見せる。
 そこには、ドックンドールに生徒会長たる資格が如何にないかが書かれていた。


「今回は、生徒を牽引する力がない、という理由ですか」
「……慣れたものね」
「もう、十五回になりますので」


 表情も変えずにドックンドールは答える。
 ドックンドールが不信任訴状を受け取るのはこれで十五回目だ。その何れも、不信任決議を開くまでは届かないのだが、それでも歴代生徒会長の中では最も多い数だ。恐らく、この記録は今後も破られる事はないだろう。


「それで、貴方の活動方針に問題がないか判断しなければならないのだけど……。貴方の場合、もう何度もやっているから、訊く必要もないのよねぇ」


 不信任決議を開くにはまず、生活指導及び、生徒会顧問がどういった思想を持って活動をしているか訊き、それが問題となるかどうかを判断するのが通例だ。その後、生徒総会が開かれ、不信任決議が行われる。


「しかし、やらなければならない事でもありますので」
「そうね。……では、生徒会長ドックンドール。貴方はどのような考えを持って生徒会長として活動していますか?」


 いつも通りの言葉がドックンドールに向けられる。
 ドックンドールは深呼吸を一つして、その問いに答える。


「生徒会活動とは生徒一人一人の自発的な活動を支えるものだと考えています。私は生徒会長という、生徒を代表する立場です。生徒達の総意を背負い、可能な限りそれを叶えるのが私の仕事です。故に、私が生徒達を牽引してはならないと考えます。私が生徒達を牽引するという事は、生徒一人一人の自発的な活動の妨げとなるでしょう。無論、牽引する事が総意であるのならば、そうするでしょうが、それを望む生徒は半分も満たしてはいません。ならば、私が生徒達を牽引する必要はありません。今まで通り、生徒達の自発的な活動の助けとなるよう、学園側と交渉するのが私の仕事だと考えています。以上です」


 もう十四回も瀟洒! に伝えた言葉を今回の訴状に合わせて連ねた。
 瀟洒! も、もう覚える程度には聞いていた為、すぐに問題はないと判断した。
 問題は満身創痍の生徒会顧問のてんこあいしてぬだが、どうやら、聞いてはいたらしく、小さく手を動かし問題なしと瀟洒! に告げていた。


「問題なし、ね。明日の生徒総会も頑張りなさいね」
「はい。推薦してくれた前生徒会長の名誉に賭けても頑張ります」


 そう言って、生活指導室を出ようとするドックンドールだが、それを生活指導教諭である泥酔☆萃香が止める。


「泥酔先生? どうかしましたか?」
「いやーねぇ。不信任でここ来る度に思うんだけどさー。学園の主役は学生だと思うんだよねー」
「そうですね。私は責任ある立場ですので、裏方に回らざるを得ませんが。影の主役という事で楽しませてもらってますよ」
「やー、そーゆー事じゃなくってね。偶には表に出て主役張ってみるもの面白いよー? というか、主役張ろうぜー」
「主役、ですか。私はどうにも、日の当たるところというのが苦手なんですよね」
「そこは思いっきり楽しめば、気にならなくなるよー? ともかく、弾けてみるといーと思うよー? だって、会長さんは何時も肩肘張ってて楽しそうじゃないしねー」
「……確かに、弾けてみるのも面白そうですね」
「んじゃ、明日の生徒総会で一発かましてみなよ。楽しいよー」
「考えておきます。では、寮の門限もありますので、失礼します」


 そう言って、ドックンドールは生活指導室を後にした。


「珍しいですね」


 ドアが閉まるのを眺めてから、瀟洒! が泥酔☆萃香に話しかける。
 勤務態度は決して真面目とは言えない泥酔☆萃香だが、親身になって生徒を諭せる瀟洒! とは真逆の指導を行う生活指導教諭だ。その目は心の機微に聡く、多くの生徒達の悩みを見抜き、それとなく解法に導いてきた。しかし、瀟洒! の言うように、ドックンドールにそのような行動をとる事は珍しかった。


「んー、まーねー。あの子自身は全然、動じても疲れてもいないんだろうけどねー」
「では?」
「やー、あの子、ある意味、犠牲者じゃん? 生徒会に入る気もなかったみたいだしねー。それを嫌でも期待を受ける形で生徒会長になっちゃったじゃん? だからねー、偶にはそんなの無視して思いっきり、弾けてもいいんじゃないかなーって思ったんだよー」
「なるほど。生徒が主役なら、生徒会長とは言え、一生徒であるあの子も主役ですものね」
「そー。まー、どうするかはあの子次第だけどねー」


 そう言い残して、泥酔☆萃香は自分の机に戻り、自前の瓢箪に入れたカルーアミルクを呷る。


「勤務中ですわ」
「えー、ケチー。あたいは酒が入らないと仕事に身が入らないんだぞー」


 そんな感じで、倒れているてんこあいしてぬを他所に二人は仕事を再開するのだった。









 私立ネちょネちょ女学園は全寮制だ。
 家が近かろうが、例外なく生徒は皆、寮に入れられる。
 親元を離れ、身の回りの事を自分でやらざるを得なくなれば、自然とそれらが身につくという理由らしいが、実際のところどうなのかは不明だ。
 ドックンドールが自室のドアを開けると、音楽が聞こえてきた。
 どうやら、ルームメイトである慧音先生が帰ってきているらしい。
 今日の生徒会に送られてきた書類の多くが苦情で、書類の処理を終えてすぐに生活指導室へドックンドールが赴いたのならば、その後の仕事は少しの雑務しか残らない。慧音先生が先に帰っている筈だ。


「ただいま」
「おかえり。遅かったな」
「考え事をしていたので」
「そうか。……そろそろ、口調を戻したらどうだ? 二人でいる時までそうだとこちらの調子も狂うんだが」
「んー、あー、まぁ、そうねー。私はもう、慣れちゃったから、どっちでもいーんだけどさー」
「私はずっと、今の姿を見てきたから、落ち着かないんだがな」


 ドックンドールと慧音先生は初等部以来、ずっと同じ部屋で過ごしてきている。ほぼ家族と言ってもいいくらいの仲だ。その為、ドックンドールの人見知りが激しい事も知っているし、やたらと丁寧な言葉で話す時は相手を恐れている時だというのも知っている。尤も、最近では生徒会長としての体面を保つ為に丁寧に話している面もあるので、時たま、二人の時でも丁寧に話しているのだが、それを知っている程度に付き合いが長い為、丁寧に話しかけられると寂しく感じてしまうのだろう。慧音先生が思いの他、寂しがり屋である事を知っているドックンドールとしてはその態度が堪らなく可愛く思えるのだった。


「ところで、けーねが私のCD聴いてるなんて、珍しいねー。何時もクラシック聴いてるのに」
「たまにはいいだろう。というか、お前はよくわからない音楽を聴き過ぎだ」


 そう言われてドックンドールは、慧音先生の横に置いてあるCD群を見る。
 それから、慧音先生の言い分に納得した。
 慧音先生が持ってきたCDは、どれも好きでなければ聴かないという傾向が強いものばかりだった。


「そりゃ、わからなければ、拒絶しちゃうようなの持ってきてればそうなるよねぇ」
「お前はなんで、そんな音楽ばかり聴いているんだ……」
「んー、飽きっぽいからかな」


 慧音先生は納得したかのように溜息を吐いた。その中に呆れとこの会話に区切りを打つ意味が含まれている事をドックンドールは察した。
 だから、慧音先生の言葉を待った。


「で、考え事と言っていたが、何かあったのか?」
「んー、まーね」
「まさか、会長を辞めるとか言うんじゃないだろうな」
「や、それはないよ。偶には遊んだら、って言われただけ」
「それで悩んでいたのか」
「私って、そんなに余裕ないように見えるかな」
「いや、むしろ余裕あり過ぎだ。不信任を訴えられても、普段通りな辺りどうしようもない」
「何か、物凄い酷い事を言われた……」
「まぁ、私も遊んだ方がいいと思うがな。お前は少し真面目に働き過ぎだ。活動に遊びがない」


 慧音先生の言う通り、ドックンドールは生徒会長という役職を真面目に淡々とこなしていた。一度も問題を起さず、業務に忠実。良くも悪くもドックンドールは申し分のない能力を発揮している。だが、それだけだった。


「と言われても、私はこれで良いと思うんだけどさ」
「だが、それを良いと思わない人もいるから、不信任を出されるんだろう?」
「まぁ、そうだけどさー。でーもー、期待されても七瀬さんみたいな事はできないしねー。私は私なんだしさ」
「前会長か。そういえば、何でお前を推薦したんだろうな」


 前生徒会長。
 その圧倒的なまでの才覚を振るい、生徒会の権威を強め、元から無茶な活動を行っていた学園をより良い意味での混沌に導いた人物だ。彼女の先代の生徒会長が不信任で失職してから、一年生にして生徒会長選挙に当選。以後の三年間を生徒会長として過ごしている。そのあり得なさは、支持率十割という化け物地味た数字を見れば一目瞭然だった。
 そして、ドックンドールはその人物に強烈に推薦されて生徒会長となった。当然、その支持率十割という期待も、前生徒会長の名誉も背負わされる。それは、前生徒会長以外には重過ぎる荷でしかない。前生徒会長はそれも考慮した上で、ドックンドールを選んだ。選んだ理由は実に単純なものだった。それは、ドックンドールの気質が日陰者のそれだったからだ。


「んー、それはけーねには一回、話したと思うんだけど」
「日陰者、だからだったな。でも、その先は聞いていないぞ?」
「そーだっけ? まぁ、いいや。七瀬さんが私を推薦した理由は簡単。これが七瀬さんが考えた一大プロジェクトだからだよ」
「なんだそれ」


 前生徒会長が考えた一大プロジェクトとは、生徒のやりたい事を好きにやれる環境を作る事だった。元より、自由にできる幅が広かった学園だが、前生徒会長はその幅ですら狭く感じていた。だから、生徒会の権威を強め、数々のあり得ない企画を通してきた。それは例えば、八十日間世界一周旅行だったり、人工衛星の独自開発、打ち上げだったりした。だが、それは全て前生徒会長が企画し、主導したものでしかなかった。その企画のあり得なさと、それを通してしまう手腕に生徒達は満足したのだが、前生徒会長が見せたかったのはそんなものではない。即ち、望めば、こういう事ができる、というのを見せたかっただけなのだ。
 だが、生徒達はそれで満足してしまった。故に、誰かが牽引しなければ、やりたい事という案が殆ど、でてこなかったのだ。それに気付いた前生徒会長は、日陰者気質を持ったドックンドールに目をつけた。目立つ事を嫌うドックンドールが生徒を牽引するとは思えず、ただ仕事をこなすだけだろうと判断した。生徒会とは、生徒の総意を以って初めて、その活動を本格化する組織だ。だから、真に何かやりたいと感じたのなら、嫌でも動かざるを得ない筈だ。そう考えたからこそ、前生徒会長は丸一年、ドックンドールを生徒会長として必要なものを徹底的に叩きこみ、生徒会長選挙で強烈に推薦したのだった。


「なるほど。そういう事だったのか。確かに、あの人のやる事なす事が面白くて、それを見ているほうが楽しかったからな」
「でも、それは本意じゃなかったから、私が引っ張り出されたわけ」
「ふむ。それを聞いて思ったんだが、やっぱり、お前はもう少し遊んでいいと思うぞ? いや、遊ぶべきだ」
「えー、私から何かするの面倒ー」
「そうかもしれんが、やってみれば面白いぞ?」
「やだー、やーだー。私は日陰でまったりと一生を終えるのー」
「生徒会長になった人間のいう事ではないな」
「まぁ、そうだけどねー」
「どうせ、会長になった時点で日陰者の人生には戻れないだろう? だから、思いっきり遊べばいい」
「えー」
「全く、仕方がないな。私からの頼みだと思って、遊べ。それならいいだろう?」
「じゃー、けーねの胸で手を打つよ」
「な、何を言ってるんだ。お前は」
「やー、だって、自分にはない感触ってやつを楽しみたいじゃん? 絶壁ナメンナ」
「わかった。わかったよ。畜生。わかった」
「んじゃ、後でお風呂でねー」
「おま、生か!?」
「勿論」


 二人の姦しい言い合いを他所に、夜は更けていくのだった。









 全校生徒参加の鬼ごっこ。
 その企画が上げられたのは、ドックンドールの不信任決議を終えた直後だった。
 余りに突然な企画に生徒総会に参加した全員が驚いた。
 何かやれと言った慧音先生ですら驚いたのだから、何も知らない者が驚くのは無理もない。
 かくして、生徒会長主導の学園全てを巻き込んだ鬼ごっこの企画は進み、遂に開催へと至ったのだった。


「えー、本日はお日柄もよく、鬼ごっこ日和となりました。と、長々しい挨拶は歓迎されませんね。では、早速、ルールの説明をします」


 壇上に上ったドックンドールが背筋を伸ばして、ルール説明を始める。


「まず、第一に、逃げる一人を除いて、鬼は全員がやります。逃げる役はここではプレイヤーと呼称します。プレイヤーは鬼から逃げます。鬼はプレイヤーを捕まえるべく、追います。鬼の人数を除けば、ここまでは普通の鬼ごっこですね」


 一息吐いて、区切りを置く。


「勿論、ここネ女学でそんな普通の鬼ごっこはしません。鬼がプレイヤーを捕まえると、緋想式弾幕戦科目のルールに従って、一対一で戦ってもらいます。鬼が勝った場合は、捕まえた鬼がプレイヤーとなります。負けたプレイヤーは鬼となります。プレイヤーが勝った場合は、捕まえた鬼を失格とし、以降、プレイヤー交代が起こるまで、復帰できないものとします。このルールに従い、十七時を迎えた時点でプレイヤーとなっている人が勝者となります。ルールは以上です。以降のルール確認は手元のプリントを読んでください」


 そう言って、ルールを記載したプリントを掲げて見せる。


「さて、皆様、楽しみにしているであろう事です」


 場内が盛り上がる。
 皆が楽しみにしているもの。それは賞品だ。
 勝者には賞品をつける、とは最初から言っていたものの、肝心の賞品のないようについては伏せていた。
 だからこそ、皆、盛り上がるのだ。


「勝者に与えられる賞品は――」


 壇上の横にあった賞品がその姿を現す。
 そこにはこの学園に通っているものなら、誰もが見覚えのあるものだった。


「我が校、唯一の男性であるてんこあいしてぬ教頭とのクレスタデートをする権利、一年分です!」


 喝采を予想したてんこあいしてぬが両手を上げる。
 が、そんなてんこあいしてぬを襲ったのはブーイングの嵐だった。
 ブーイングに凹むてんこあいしてぬ。
 賞品となった彼だが、最初は渋っていたのだ。だが、ドックンドールに散々、持ち上げられ、気分をよくし、賞品となる事を快諾したのだった。そんな経緯もあり、てんこあいしてぬの心は天国から地獄に落ちたのだった。


「教頭先生をあまり、虐めないであげてくださいね」


 ブーイングを納め、ドックンドールが開始の合図をする。


「さて、そろそろ開始としたいところですが、気になる最初のプレイヤーを発表します。最初のプレイヤーを発表し次第、開始しますので、準備をしていてくださいね」


 そう言うと、生徒達がそれぞれ、周囲に気を配り始める。
 賞品に対してブーイングを送った生徒達だが、祭は全力で楽しむものと誰もが思っているのだ。
 ならば、この馬鹿げた規模の鬼ごっこに手を抜く人間はいないだろう。
 ドックンドールはその空気を感じ取り笑う。


「最初のプレイヤーは、不肖生徒会長の私、ドックンドールが勤めさせていただきます。では、開始!」


 開始の言葉と同時にドックンドールが突然開いた壇上の奈落に落ちる。
 全校生徒が逃げられた、と思うのと同時にドックンドールが全力で逃げる気であることを悟った。
 それから、全校生徒がドックンドールを追うべく、動き出す。
 馬鹿げた鬼ごっこは始まったばかり。ドックンドールの遊びも始まったばかり。
 命は短し遊べよ乙女。音速の人生が終わるよりも早く。光速の少女時代が終わるよりも早く。
 遊べ。学べ。楽しめ。
 全てに等しくその権利が与えられている。
 ならば、それを行使し、人生に花を咲かせるのが使命というものだ。
 楽しみを追う鬼ごっこは始まったばかり。祭も始まったばかり。
 さぁ、楽しめ乙女。走る先が幸福である様、楽しめ人生。





後書き



最早、何も言うまい。
強いて言うとすれば、ただの息抜きだから続きとかないよ。


では、最後にご出演者の皆様と!
お付き合いいただいた読者様に最大限の感謝を!
ありがとうございました!



嘘予告





 空を仰げば、広がる青が眩しい。




 水面を見下ろせば、深い青が揺れる。




 何故、私は泣いているんだろう。




 嬉しいのか。悲しいのか。




 そんな事もわからずに、私は泣いている。




 一人で、静かに泣いている。




 ――泣き虫スーさん





苦情はこちらへ

コメント欄:

  • うおーーーい!!言ってることとやってることチガッ!!…とまあ、ツッコミはここまでにして、流石です………ただ、やるならもっと徹底的にやってほしかった、故に次回作を要求する!!……と言うかお願いします -- ファンネル@漏斗? 2009-05-03 (日) 12:55:05
  • 文字が端にいって見えなくなってるのはなんでだろう・・・? まぁ、見れましたけれどもw 教頭先生の扱いに凄い吹いたwww 後、嘘予告・・・ヽ( ´∀`)ノどうなるんだろうw どちらにせよ、ドックンさんの次の作品を楽しみに待ってますw -- 酒飲みスーさん? 2009-05-03 (日) 14:51:07
  • 皆もっと喜んでくれよう(´;ω;`) そして出演させていただいたことに感謝 こんな学園なら毎日の出勤だけでテンション上がるね! -- てんぬ? 2009-05-05 (火) 02:43:43
  • ドックンさん何やってるんですかwwってかね、あれよ・・・ぐずるドックンさん・・・反則だろ!!!w -- B.B.? 2009-05-09 (土) 12:35:51
  • 賞品に少々異論が!! -- 瀟洒!? 2009-05-09 (土) 21:18:29
  • ホントはハーレム状態(?)のはずなのに、不憫なてんぬさん(ノ∀`) 前生徒会長時代の学園、スゴク気になる…。(訳:読みたいなぁ) そして……なぜに続きがないんですk(;ω;`)ブワッ -- オワタ☆残骸? 2009-05-21 (木) 11:18:40