winter reminds me of you

Last-modified: 2024-02-14 (水) 00:08:10

目次

注意書き



当SSは一応古明地こいしに恋をしたモブSSです。
イチャイチャしていません。
イチャイチャなんて書けない作者ですので悪しからず。


以上の点を踏まえてお読みください。

本編





 春になれば空虚さだけが心に残る。
 満たされていた記憶もないのに、失ったという感覚だけが胸にある。
 覚えていないことが空虚感をより強めている。
 何を失ったのだろう。
 忘れてしまうくらいのものなら失ったところで何も感じない。
 何を忘れてしまったのだろう。
 大事なもの。きっと大事だったはずのもの。
 虚空に手を伸ばす。空を撫でても何もない。
 それでも手を伸ばす。記憶に触れるように。
 きっと手に触れられるところにあった、何かに、誰かに、触れるように。
 自分の記憶に触れられるように。失せ物を探すように空を撫ぜる。
 伸ばして撫ぜて、その先に手に触れるものは春の風だけ。
 春は違う。春には何もない。鼻腔をくすぐる春のにおいが教えてくれる。
 失ったものは冬。
 冬にあった何かを失ってしまったという感覚。
 春のにおいが教えてくれるのはそれだけ。そんな曖昧な感覚だけ。
 思い出せるのは冬だけ。不確かな感覚が、それは確かなものだと教えてくれる。
 ただ空虚感が、どうしようもない空虚感だけが広がっていく。








 夏になれば己が空蝉であると錯覚する。
 空虚の春が心の穴を押し広げて、体以外の何もなくなったと思わせる。
 いっそ暑さにくるってしまえればいいのに。
 すでに正常とは言えない心で脳まで狂えと願っている。
 それでも、狂わず狂えず、抜け殻のように日常を送る。
 冬とは正反対の季節を送る。
 己が空蝉なら、心はどこへ行ってしまったのだろう。
 失ったもののそばにいるのだろうか。
 ならば己の空虚感は満たされなければならない。
 己の心はいまだ肉体のうちにある。己の中にある。己からは一歩も出ていない。
 それでも己の中には何もない。何もないというむなしさだけがある。
 この空虚はまだ続くのだろうか。
 思い出せない何かのために、思い出せないまま永遠に。








 秋になれば実りを貪る。
 空虚に耐え兼ね、せめて何かで埋め合わせなければと秋の実りを手当たり次第に貪る。
 やがて体が限界を迎えて全て吐き出し、満たされた錯覚も嘔吐して、また空虚だけが残る。
 気が狂いそうになる。既に狂っている。
 ただただ、冬になれば忘れた何かが戻ってくる。
 春に感じた曖昧で確かな何かにすがって生きている。
 そうしてただこの季節をやり過ごそうとしている。
 彼果て積もる命たちに期待を燃やす。
 早く冬になれとただただ願う。
 冬になれば、思い出せる。
 思い出して、失ったものの大きさを確認して、感情で押し流せる。
 そうして、この空虚とは別れられる。
 失うことが人生なら、それは常日頃のことで、失うことに納得するために感情はある。
 感情の発露の機会が失われているから、いまの気を狂わせる空虚感に襲われる。
 だから、思い出させてくれる冬の訪れを希う。








 冬になって君に出会う。
 君に出会って、また恋に落ちる。
 これを何度も繰り返してきたことを思い出す。
 何度も君に出会って、何度も初恋を繰り返す。
 君と別れれば何も思い出せなくなる。
 ただ、冬に、誰かと出会って忘れて失って、その感覚だけが一年付きまとう。
 君に会ってようやくそれが埋まる。
 しかし、この冬に君に出会って気づいたことがある。
 君に会って、君を思い出すまで、己はそれが初恋であると錯覚していることに。
 思い出して、君が初恋の相手であることに気づいて、失う恋心が初恋を上塗りするたびに大きくなっていることに。
 きっと、次は耐えられない。君を失うことに耐えられない。
 すでに己は空蝉で、気が狂う苦しみに蝕まれている。
 今満たしている心が、冬が終わればすべてなくなってしまう。失われてしまう。
 それにはもう耐えられない。
 次の春を思うだけで己は生きていけなくなってしまう。
 だからこそ、君に別れを告げる。せめて幸せにと願いを込めて。
 恋心に満たされているこの瞬間に己を終わらせる。












































「実験は失敗ね」


 古明地さとりは冷たく呟いた。
 妹のこいしが完全に誰の記憶からもなくならないよう、こいしに出会った季節に結び付けて思い出せるように実験していた。
 しかし、こいしを思い出せるくらいに強く印象に残った相手は皆、このような結果を迎えてしまった。
 次の手を考えなければ、さとりはただその場を去って、こいしを探しに行った。



















後書き





ネタはない。いつものこと(挨拶)
というわけで、いつものです。なんかもうあれよね、あれ。うん。


注意書きにある通りこいしちゃんに恋したモブの話です。
出会うたびに初恋が上塗りされて、その分だけ忘れた喪失感が倍増していくという地獄に落ちてます。
あとはまぁ、白文字仕込んだのでそこで確認していただけると。


それでは最後に、東方シリーズ原作者であるZUN氏に多大な感謝を!
読んでくれた読者様にありがとうを送ります。


以上。



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