作品集243

Last-modified: 2023-06-24 (土) 18:55:30
ゆきてかえりしダンデライオン  のくた氏

【作品集】243
【タイトル】ゆきてかえりしダンデライオン  【書いた人】 のくた 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1676555704
【あらすじ】
とても強い妖怪の縄張りで、大切に育まれたタンポポは、いつしか言葉を解していた。
沢山の種をつけたタンポポは、やがて妖怪の元から巣立つ日を迎える。

「お前は、外の世界にも行けるのかしら」
 妖怪は優しく笑っていました。
「どんな世界でも、お前はお前。この私が育てた立派なタンポポ。どこであろうと臆せずに根を張りなさい」

タンポポの種はふわりふわりと飛んでいった。
いずれきっと母の元に帰るのだと、めいめいが、そう誓って。

【感想】
幻想郷を飛び出した賢いタンポポのSS。
奇跡の風は、その物語に相応しい優しい結末へとタンポポを運びます。
文体は、まるで子供に読み聞かせているかのような、素直な言葉で紡がれています。
個人的にはタイトルの一文が好きですね。誇らかなタンポポの、その表情が目に浮かぶようではありませんか。

Praepapilio  夏後冬前氏

【作品集】243
【タイトル】Praepapilio  【書いた人】 夏後冬前 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1682072079
【あらすじ】
そのオカルトは往年の神秘に比肩する『格』を備えていた。
『水晶髑髏』、『聖徳太子の地球儀』、『アンティキティラ島の機械』に並ぶオーパーツ。
今日まで連綿と続いている社会の中から突如として発現したイレギュラー。
その名も『Praepapilioのナノマシン』。相手にとって不足なし。さぁ、秘封倶楽部の始まりだ。

【感想】
21世紀に発生した現代オカルトに秘封倶楽部が挑むSS。
とはいえ秘封倶楽部の二人が揃うのは殆んど終盤でして、それまでは各々の視点で動いていくこととなります。
長編ですが読みやすい文章で構成されており、読者を飽きさせない手練は流石の一言であります。
SF物は設定が命となりますが、その点でも実に骨子がしっかりしており、読後の満足感が高い作品です。
ところで遺伝子を『最も小さな秘密』と称した詩人は『あらゆる形に生きものを爆発させる』と詠んでいます。
つまりどういうことかというと、あっきゅん大爆発と、そういうことが書きたかったんだろうなあと想う次第です。

メランコリックなタイムカプセルに捧ぐ  ででんでんでんででん氏

【作品集】243
【タイトル】メランコリックなタイムカプセルに捧ぐ  【書いた人】 ででんでんでんででん 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1685062475
【あらすじ】
その幻想郷の人々は、それなりに楽しくやっているらしい。
小鈴ちゃんも稗田の阿求と寄り添い合って、化石みたいに眠っている。
鏡の向こうの楽園の巫女は『平和ならいいと思ってる』と語った。
だが霊夢はおでんを食べることに決めたのだ。今が春であろうと夏であろうと。
だから全部倒して、その世界に風穴を開けることにした。物語の最終巻を開くような、そんな心で。

【感想】
煎餅をかじりながら夢想転生した五百一人目の霊夢が鈴奈塔(仮)を訪れるSS。
その塔こそは、筆者である氏が心から愛した時代の幻想郷の、そのあらわれでありましょう。
霊夢の直情に則った文体は端的かつウィットに富み、スラスラと読み進めることができます。
はたして霊夢は日記を書くのでしょうか。たぶん書かないでしょう。忘れないでしょうからね、きっと。

赤い靴  東ノ目氏

【作品集】243
【タイトル】赤い靴  【書いた人】 東ノ目 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1679646287
【あらすじ】
その貧しい女の子は靴屋の老婆に赤い靴をもらいました。つぎはぎだらけの靴でした。
彼女はまた別の新しい赤い靴をもらいました。つぎはぎの赤い靴は納屋に転げました。
彼女はまた別の新しい赤い靴を買いました。そのお金は靴屋の葬儀に出るためのお金でした。
彼女はまた別の新しい赤い靴を買いました。折しも、義母の葬儀が行われている時でした。
その赤い靴です。彼女を踊りに駆り立てたのは、その赤い靴でした。

【感想】
赤い靴を履いた里乃が異人さんに連れられて行ってしまうSS。
確かに異人さんですし、確かに外国でもありますね。こわい。
文体は昔話風の、滔々と語られていくスタイルとなっております。
モラルがないということ自体がモラルであり、救いがないということ自体が救いである、とは文学の故郷ですが。
さて、救いはどこかにあったのでしょうか。彼女は救われたのでありましょうか。

小悪魔春闘  真坂野まさか氏

【作品集】243
【タイトル】小悪魔春闘  【書いた人】 真坂野まさか 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1681214457
【あらすじ】
小悪魔は強くなった。昔は道中の雑魚敵程度だったが、今や中ボスを務められる程度になった。
なのにパチュリーとの契約は最初のまんま、何一つとして変わっていない。
今の小悪魔には、その成長に見合った待遇が与えられるべきなのに。
かくして訪れた契約更新日。紅茶を淹れ終えた小悪魔は、固い決意で口にした。

「賃上げを要求します」

【感想】
より良い待遇を求めて春闘する小悪魔と、毅然を崩さない雇用主のSS。
2023年は物価の上昇もあり、春闘は満額回答での妥結が連日報道されていますが、図書館はどうなのでしょうね。
コミカルなストーリーで、その明朗な文章もあってか、スラスラと読み進めることができます。
小悪魔が実に小悪魔的な作品でした。悪魔的ではなく、あくまでも小悪魔的。あくまでもね。

妖怪の山遭難死亡事故調査報告書 最終稿 再々々修正 五月十八日版  イワヒバ氏

【作品集】243
【タイトル】妖怪の山遭難死亡事故調査報告書 最終稿 再々々修正 五月十八日版  【書いた人】 イワヒバ 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1684499878
【あらすじ】
何時からか、里外は人間へ開かれ、人妖の生活圏が曖昧になろうとしている。
博麗大結界成立以降、里外は化外の領域であった。先祖代々で神を畏れ、妖を恐れて、決して安易に踏み込もうとはしなかった。
しかるに人々の意識は変容した。それも、その自己意識の変容に対して無自覚・無頓着なままに。
その注意喚起がため、慧音氏は一つの報告書を書き上げた。最終稿を再? 再々? 再々々修正して、やっとこさ。

【感想】
慧音先生が人妖に挟まれ、そのジレンマに苦しむSS。
検閲された資料から察すると、やはりそちらが真実ということなのでありましょうか。
その論文めいた堅苦しい文章は、慧音先生の普段の授業を存分に想起させて下さいます。
個人的には、慧音先生は全部理解した上で一部資料を検閲し、この報告書を書いたものと推察します。
雪女とヤリたい人が大挙してはね、流石に困りますから。

雪空の下には  珈琲味のお湯氏

【作品集】243
【タイトル】雪空の下には  【書いた人】 珈琲味のお湯 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1677239848
【あらすじ】
妖夢が紫に連れられた先では奇妙な雪が降っていた。
その桜色の小雪は、無造作に、しじまに、空の上から降ってくる。
鉄臭い、その雪の香りは、水の記憶の名残りであろう。
雪の心や何を急くか。花の心や何を急くか。

【感想】
物分かりの悪い妖夢と、それでも何とかしようとする紫のSS。
散ればこそ、とは好みの分かれるところでありましょうか。
文体は個性が出ています。没入感の強い文章と言えるかも知れません。
雪を花として雲の彼方に春を透かすのであれば、やがては人を柳や桜に見ることもできましょう。それこそ西行のように。

25の無意味で不確かな断章  みゆきの氏

【作品集】243
【タイトル】25の無意味で不確かな断章  【書いた人】 みゆきの 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1680853430
【あらすじ】
これは『蒐集』の物語だ。博麗神社の敷地内の少し奥に入った鬱蒼とした森には、外界からの遺物が流れ込む。
これは『日常』の物語だ。霊夢や仲間達との暮らしは、彼女にとっての竜頭である。
これは『文学』の物語だ。父との最後の議論は、彼女の懸命な伝達であり、未練がましくも決別できぬ文学であった。
これは『魔理沙』の物語だ。1週間後の4月7日の11時59分、霧雨魔理沙は『第一章』を終える。

【感想】
博麗神社に一週間ほど泊まり込んで外界の遺物を蒐集する計画をたてた魔理沙のSS。
その一週間を経て、魔理沙の時間が動き出したのであれば、何より幸甚であります。
25の無意味で不確かな断章によって構成されていますが、現在と過去を交錯させる内的独白は少し複雑かも知れません。
ただ魔理沙の父親の、娘を勘当するシーンでの言葉は感慨深いです。端的ながら、その苦渋がヒシヒシと伝わってきます。
互いの気持ちが伝わったと信じたいですね。その話し合いこそは彼女にとって最高傑作の文学であったに違いありませんから。

乱心  戸隠氏

【作品集】243
【タイトル】乱心  【書いた人】 戸隠 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1679217596
【あらすじ】
ロケットになりたいと暁の空に飛んでったメイドはA5ランクになれなかった。
三日後に戻ってきた咲夜は、レミリアに謝罪し、達観し、そんでもって再起する。

「はい、そうです。それがロケットになれなかった咲夜がケジメを付けます」
「よし、やってみろ」

それは、咲夜が星座になった伝説の話である。

【感想】
ロケットになった咲夜と、それを見送るレミリアのSS。
従者がロケットになってもお嬢様は動じません。すげえ。
その作風は、コンプライアンス違反がないよう、ルールを厳守したものになっております。なしトゲトゲ!
ただ氏に問い質したいこととしては、コンプライアンスってもんを本当に理解できているかって話でしてね。

柳の下の〇〇キ  まんぼ氏

【作品集】243
【タイトル】柳の下の〇〇キ  【書いた人】 まんぼ 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1686017518
【あらすじ】
本気の霊夢との弾幕勝負にあっさりと負け、しかも袖にされたレミリアは実に不興であった。
ただ戯れ付きたかっただけなのに。霊夢に余裕がないのはいただけない。楽しくない。
聞けば、人里では飲み屋の看板娘が生き血を吸われたと大騒ぎしているそうな。
レミリアは、さっそくメイド長に命じて、異変の解決へと向かわせるのであった。

【感想】
主の名誉挽回と真実のために異変解決に向かった咲夜と、お人好しな妖怪のSS。
妖怪もまた思った以上に大変な生態をしていらっしゃるようで。大変ですね。
構成は序+破急+蛇足となっております。PCの御仁は面倒がらず『次>』ボタンを押しましょう。
それにしても〇〇キとは何を意味しているのでしょうか。吸血キ、赤蛮キ、それにもちろん殺人キ?

守って! 道交法  こだい氏

【作品集】243
【タイトル】守って! 道交法  【書いた人】 こだい 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1680519956
【あらすじ】
運搬用ドローンと飛行者の接触事故を受け、その影響を重く見た賢者達は幻想郷での飛行を禁止した。
飛べばお縄とあっちゃ仕方がないってんで、飛行者は歩行者へと甘んじた。
ところが、そんな現歩行者たちを更に困らせる事態が出来した。
是非曲直庁による歩行者取締規則の施行である。

【感想】
歩くことにすら歩行免許が必要になった幻想郷のSS。
その軽妙洒脱な語り口でもって、反人倫的な物語が落語調に進められていきます。
二匹の秋トンボが素敵でした。実に叙情的な描写です。
やはり同情者も連行ってのは印象的でしたね。ただの洒落と思いきや、とんでもない。101号室です。

えのきにまつわるエトセトラ  バームクーヘン氏

【作品集】243
【タイトル】えのきにまつわるエトセトラ  【書いた人】 バームクーヘン 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1681477252
【あらすじ】
霞たなびく雨水の候、穣子は退屈しのぎに貸本を読んでいた。
とりたてて不思議のない外界の大衆本であったが、さて、その中に『えのき』という食材の写真があった。
もちろん幻想郷にも『えのき』は存在するが決して白くも細くもない。茶色いキノコキノコした、ただのキノコだ。
不思議に思った穣子は、食材のプロに質問せんと、行きつけの居酒屋を訪ねるのであった。

【感想】
エノキダケのために奔走する穣子と、それに振り回される者達のSS。
白化ビン栽培法の偉大さが改めて良く分かりますね。なめ茸も嫌いじゃないですけど。
緩やかに流れる日常の中で、穣子が走り回る姿はなかなか可愛らしいものであります。
作中で彼女達が舌鼓を打つ『えのき』は、我々には極々一般的な食材なのですから、農業技術者には感謝するばかりですね。

一輪花見船騒動  ぬぶ尻氏

【作品集】243
【タイトル】一輪花見船騒動  【書いた人】 ぬぶ尻 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1676553839
【あらすじ】
寅丸に頼まれて猪鍋屋を訪れた一輪は首尾よく宝塔と酒肴を手にする。
どこぞ人目につかぬ場所を探した結果、目に止まったのは花見船の幟。
花見船の客の視線は桜に向けられるが必然で、酒飲みの尼僧に向くはずもなし。
かくして一輪は花見船の最後尾に陣取り、杯事を始めるのであった。

舟行けば、幻想の国に酒の香り。流れも清き柳の運河、花の盛りの頃となる。

【感想】
森の石松ならぬ雲居の一輪が花見船にて騒動に巻き込まれるSS。
どう考えても目立つと思われるのですが、それはそれ。
明朗な筆致で、一輪の様子がユーモラスに描写されています。
呑んべは死ななきゃ直らねぇ、と。そういうことでありましょうな。

バレットフィリア面白かったです。  早田ハム氏

【作品集】243
【タイトル】バレットフィリア面白かったです。  【書いた人】 早田ハム 氏
【URL】 ttps://coolier.net/sosowa/ssw_l/243/1679783879
【あらすじ】
一通りの家事を終えて読書に耽っていた正邪は針妙丸に目隠しの悪戯をしかけられる。
何やら浮かれている彼女は、どうやら正邪に見せたいものがあるのだとか。

「焦らされるのは好きじゃないぞ」
「まぁまぁそう言わないで。改めまして……じゃじゃーん」

針妙丸が提示したものはアビリティカード、近頃にわかに流行り始めた蒐集品である。
その造形に感心していた正邪であったが、その中に、何故か自分がモチーフとなっているカードを見出して――。

【感想】
針妙丸に心を許している正邪と、正邪に心を許されている針妙丸のSS。
『見て見て』と言いながら目隠しをしてくる針妙丸の無邪気さには脱帽です。
文体は正邪の心に沿いつつ、丁寧に表現すべきところは綿密に描写されている印象であります。
家事の描写が良い味を出していますね。納得尽くで行っているところが、さらに良い塩梅です。