megadoomingir氏作/RedeemTheStars/01

Last-modified: 2020-04-20 (月) 20:34:17

原著

ssssssssss


玉座を見た時は感嘆の声すらあげそうになった。1歩近づくごとに胸に歓喜が込み上がった……集音センサーが、あのおぞましい羽ばたき音を捉えるまでは。プレダコンらを見るなりに移った行動は自分としては上出来だっただろう。玉座を譲ると宣言して身を引けば、それがプレダキングへの敬意ゆえの行動であるように映ることを願った。ちょうど王へのささやかな貢ぎ物になることをきたいした。
「我がここに来たのは玉座のためではないぞスタースクリーム──報いを受けてもらうためだ。」
玉座の上に無力な鳥を追い詰めたプレダキングが低く唸った。
ずっと追い求めてきたイスはひどく小さく感じた。きっとここに座れるのはこれが最後だろう──金輪際、自分のものにならない、そう運命づけられていたのだ。それが何よりも辛かった……プレダキングに脚を掴まれて放り投げられ、今まさに起こらんとする審判の場として、広場の中央にたたきつけられる間さえも、そう感じた。

スタースクリームは痛みに声をあげ、立ち上がって逃げようともがいたが、スカイリンクスが背中に飛びつき叶わぬ願いとなった。

そしてプレダキングはようやく腰をかけた──この狂宴を鑑賞するために。
「貴様らの望むままに為すが良い。我が十分だと思ったらこの手で終わらせる。」

ダークスチールも仲間に混じろうと、獣の姿から人型に変形した。
「俺たちがやることは王のご命令のまま、」
その声は期待に弾んでいた。きっとこれまでこのジェットロンによる屈辱や苦痛を思い返しているのいだろう。
「王が願えばそうする、だって『オネガイ』なんだ、『命令』じゃないんだぜ。」
その一言と同時にスカイリンクスが変形して離れ、ダークスチールの足がスタースクリームの脇腹を蹴り飛ばした。

プレダキングは新たに与えられた玉座に腰掛け、同胞らが哀れで、非力で、無様なスタースクリームを押さえつけ、痛めつける様を眺めた。全身に痛々しい爪痕が刻まれ、各所から体液が止め処なく溢れ出していた。

スタースクリームは命乞なかった。できなかったのだ。この地獄からの脱出口となる言葉はもはや悲鳴と泣き声にとって変わられた。自分だってこいつらにここまでひどいことをした覚えはないのに──暴力のふりかかる一瞬ごとに、そう思考を逡巡させた。こんな単純な獣どもから受ける報復として、これはいくらなんでもひどすぎると思った。しかし次の瞬間に下腹を穿つように蹴り上げられ、腹部を覆った暗色のコクピットが砕け散ると、叫びはさらに悲痛なものに変わった。繊細な部位を砕かれた激痛もだが、その破片が機体の隙間に入り込んでさらに繊細な臓器や部品に細やかな傷を与えたのだ。

自分が泣いているとわかった。フェイスパーツを流れ落ちる希釈エネルゴンが彼の味わう苦痛を物語っていた。今、鳥は自分の頭から滴り落ちるエネルゴンでこの涙がプレダキングに気づかれないことをスパークの奥底から願っていた。

あいにくプレダキングは、スタースクリームの全身に走る傷や流れ落ちる体液を数えることに忙しく、彼の涙や痛みのことなど眼中にもない様子だった。スカイリンクスの爪が優美な翼を引き裂き、その精細な構造をズタズタに切り刻んだ。ダークスチールは銀色の機体を切り開き、内部の配線やスパークチャンバーの一部を衆目に晒した。それらの行為に慈悲などなかった。それでもプレダキングは止めなかった。

2機のプレダコンは少し離れ、これまでの成果を堪能しつつ、どこにまだ手をつけていないかを確かめた。ようやくわずかな安息の時間を与えられてもスタースクリームはもはや動くことも叶わず、新しい傷の痛みの代わりに既にもたらされた激痛に悶えるばかりだった。そして獣たちは再び食らいついた。頭部に爪を立て、四肢に牙をうずめ、首元には尾を巻きつけて、きつく、きつく締め上げて──

スタースクリームは痛みに弱々しく吸気し、華奢な手でダークスチールの尾を必死に引き剥がそうとした。ダークスチールはその感覚に悦楽すら覚え、首を締める尾の圧力を増した。無慈悲な拘束の下で細い首筋の組織が潰れていき、機体から少しずつ命が抜けていくのがわかった。

その時、遠くでオールスパークの泉から……プライマスの御身から鮮やかなスパークの光が弾けるのをスタースクリームは見た。その美しい光景を、ぼやける視界の中で、冷却用の吸気も叶わず機体温度が上昇するのを感じながら見つめた。これが最期に見る光景ならば、それも良いだろう。少なくとも、この下等生物らを見つめながら死ぬことはないのだから。

プレダキングもその光を見たようで、その大きな腕をあげて同胞らに吼えた。

「そこまで!」

首を締め上げる圧力が緩んだ。獣らは嬲っていた機体を落とし、引き下がった。

「でも、王よ」
スカイリンクスは言った。
「本当に十分痛めつけたと思いますかい?これまでの痛みや屈辱、これっぽちで十分なんですかい?」

プレダキングは立ち上がり、地に這いつくばるジェットロンを見下ろした。
「うむ、貴様らには十分だ。」
大きな手が自分よりも一回りも二回りも小さな機体の肩を掴み、確かめるように見据えた。
「だが我が復讐は果たされていない。復讐はこの手で果たしてやらねばな。」

スタースクリームはなるべく意識を空舞うスパークらに向けた。煌めきは暗い空をも照らしつつこちらにも近づいていた。しかし不意に視線をプレダキングに向けてしまい、すぐに後悔した。

怪物は吼えながらスタースクリームを床に叩きつけ、胸部装甲を強かに踏みつけながら高らかに言い放った。
「貴様は我々を卑しめた!我々を虐げた!」
そして華奢な腕を引き揚げて地面から引き剥がすと、鞭をしならせるように勢い良く地面に叩きつけた。
「貴様の行いが我々にもたらしたのは憎悪である!その結果我々は自由を求め戦った!」
次はか細い首を掴み上げ、スパークの波の漂う天に高く持ち上げた。数多の光が彼らを通り過ぎては包み込んだが、プレダキングが気にかけることはなかった。

怪物の王は踏み締めるように1歩1歩進み、スタースクリームを塔の端に宙吊りにした。
「貴様の苦痛をここで終わらせることを慈悲だと知りながら死ぬが良い。この王が、その生の地獄から解き放ってやろう。」

スタースクリームはただ静かに泣いていた。プレダキングに見られようが構わなかった。激痛のあまり気にしていられなかった。プレダキングが手を突き出して嗤う中、無数のスパークが頭上を飛び交った。

「この結末は実に愉快だな、哀れな存在め。」
低くおぞましい笑い声が耳に届いた。
「今この世界で愚かなのは、スタースクリーム、貴様ただ1人だ。貴様は決して変われはせぬ、学べはせぬ。この世界を生きることも叶わぬだろうよ。」
大きな掌が、細い喉をいっそう締め上げた。
「そのスパークが解き放たれることを光栄に思えよ。」

そして、プレダキングはもはやボロクズのような機体を、スパークの煌めく塔から投げ落とした。その中から、ひときわ目を引く光が、落ちゆく小さな機体を追いかけた。

最初にスタースクリームに見えたのはプレダキングの姿だった。そのあとに自身を追いかける光に気がついた。それは徐々に近づいてきて、砦の突起に何度もしたたかにうちつけられる機体にまとわりつくと、力なく伸べられたスタースクリームの手にしがみついた。やがて赤と青の2色に輝くスパークが機体に秘められたスパークと重なり、あやすような声でささやいた。


大丈夫だ。安心して。


そう聞こえて、どうやら1人寂しく死ぬわけではなさそうだと微笑んだ。これが誰のスパークだろうが、こうして落ちながらも感謝の気持ちが絶えなかった。旅路は永遠にも感じられたが、故郷たる星の金属質な大地に墜落する衝撃はほんの一瞬のものだった。あとに残るのは暗闇──塵と暗闇ばかりだった。


ssssssssss


とたん、オプティックが勢い良く開いた。まだ生きていた。修理不可能なほどにボロボロのスタースクリームは動きようもなかったが、グラウンドブリッジの翡翠色の光が哀れな機体に降り注ぎ、そちらを見るように促されているように感じた。当然、視線はそちらへ向いた。

あのスパークの感触はもうどこにもなかった。頭上を最後の1つが飛んでいくのが見えて、きっと他と同じく飛び去ったのだろうと考えた。それにしてもなぜこのような場所にグラウンドブリッジが開いたのか。


自ら行動しなければ、誰の仕業なのかはわからないままだよ。


スタースクリームの思考は靄がかかりすぎて、それが果たして自分の思考だったのかどうかすらわからなかった。


剛勇も臆病も君の選択次第だ。君は死の暗闇を受け入れられるほどの剛勇か?それともこのグラウンドブリッジの開く先に逃げ込みたいほどの臆病か?


スタースクリームは自分に囁く声に身を任せ、思考を漂わせた。


それとも君は今すぐ死に身を任せる臆病か?それとも自身を生き長らえさせようと覚悟を決められる剛勇か?いずれにしても私は君のそばにいる。私はいつだって君を受け入れて、助けてあげよう。しかし今は選択の時だ。


無力なジェットロンは、自身を照らすブリッジをゆっくりと睥睨した。


選択の時だ。覚悟を決めるんだ。時間がないのだ。君ならどうしたい、スタースクリーム?君は臆病か、蛮勇か?変化の時を迎える用意はできているか?君が選ぶのは生か、死か?選択するんだ。今こそ、選択をするんだ。


スタースクリームは小さく呻きながら、手足を地につき体を起こした。全身から激しい痛みが走り、機体が震えた。それでも歯を食いしばった。だって今までもっとひどい目に遭ってきたじゃないか。まだ死ぬわけにはいかない、まだだ。細く、苦しげに吸気しながらも、よろめきながらブリッジに這い寄った。

頭の中の声がまた聞こえた。まるで励ましてくれるように、力を与えてくれるように。


そうだ、頑張って、スタースクリーム。君は今日死ぬさだめじゃない。君はまだこの世界に残るべきだ。抗うんだ、生きるために戦うんだ、今この時を生きるために戦うんだ。私は君を信じている。君になら成し遂げられると信じているよ。


スタースクリームはブリッジにたどり着いた。最後の力を振り絞って倒れ伏し、弱々しく辺りを見回すと、ひどく覚えのあるネメシスの通路にいることに気づいて小さく排気した。前回この船を見たのは墜落の瞬間で、今や無人であることは疑いようもなかった。


君がひとりぼっちで取り残されることはないよ、スタースクリーム……保証する。君が助かっても、助からなくても、私は今も君を信じている。どうか君自身を信じてくれ、スタースクリーム。君はやり直せるよ。これはその第1歩だ。これからどうするかは君次第だ。君こそが、君自身の王なのだから。


声は静まりかえり、スタースクリームは最後に1つ排気した。薄れゆく意識の中で注意深く近づいてくる足音の反響を聞くと、微笑みながらオプティックを消灯した。


ssssssssss