megadoomingir氏作/RedeemTheStars/06

Last-modified: 2021-10-30 (土) 00:00:50

ssssssssss

スモークスクリーンはぶつくさ言いながらホロマップルームに向かっていた。コンソールにしがみついていたらとうとうラチェットに引き剥がされ、アーシーの様子を見にいくように言われたのだ。どうせ大丈夫だろうとは思っても、あのジェットロンはまったくもって信用ならない。奴に関わった者はろくな目に合わないのが相場だった。

しかしラチェットに追い出された挙句、命令されてはどうしようもならなかった。

目的の場所に辿り着くとスモークスクリーンはためらいつつドアを開け、そっと中を覗き込んだ。
「あのー、アーシー?」
そっと入ると、2人はホロマップを見ていた。
「大丈夫?何かあった?」

スタースクリームは引き続き座標に情報を打ち込みながら笑った。
「いたって順調だ。お前も仲間になりたいなら喜んで混ぜてやるぜ?」

「案外悪くないわよ。」
スモークスクリーンのしかめ面に反して、アーシーも乗っかった。

「それにラチェットもいないんだぜ。それこそボーナスだろ?」

「俺はただ、お前が何かしでかしてないか確認に来ただけだってば…」

あまりに心外だ。密かに拳を作り、小さく唸り声を上げた。

気にするな。好きに言わせればいい。彼はまだ慣れていないんだ、しばらくはそうだろう。アーシーは落ち着いたが、もし君が急に行動を起こしたなら、また警戒するはずだろう?スモークスクリーンのことは気にしなくていい。彼の気が済むまで、好きに言わせておこう。

スタースクリームは深く息を吸い、小声で文句を言いつつも情報の打ち込みを続けた。するとスモークスクリーンが近くまで来て覗き込んできた。

「何?文句のひとつもなし?」

彼は君を試している。下手に言い返せば買い言葉と思われるだろう。何かを言うとしたら、言葉選びは慎重に。

スタースクリームはスモークスクリーンを睨み返し、言った。

「今の言い方は傷ついたぞ。」
言い方に気をつけて。
「だが…気持ちはわかる。口約束で他者に危害を加えないとしても、信じてもらえないのは必然だ。信頼というのは、勝ち取るのに時間を要するわけだし……」
いいぞ、その調子だ。
「こうしてここにいることで、その時間を補えるだろ?」

アーシーは椅子にもたれながら聞いた。
「まさかあんた、ずっとここにいるつもり?」

「いや、それはごめんだ。」
続きを言うために、いったん手を止めた。
「でも、前よりはだいぶマシだ。今ごろ、プレダキングとその腰巾着どもがダークマウントに居座ってるだろうし。少なくとも当分は戻りたいと思わねえし……。」

スモークスクリーンはスタースクリームを見つめながらいったん頷いた。しばらくしてもう一度頷き、言った。
「いいコにしてりゃ、好きなだけいられるぜ。」
そしてアーシーに向くと、「ビーと当番代わるから、またな」と言い、ドアへ戻っていった。

「またね。」
閉まるドアに、アーシーも言った。

少しして、スタースクリームは作業に戻りつつ、苛立たしげに文句を並べ立て始めた。
「あのクソルーキー、人のことをガキみてえに扱いやがって!インセクティコンのがマシな扱い受けてるんじゃねーのか!?」

幼稚な激昂にアーシーは全く動じなかった。むしろ期待通りの反応だろう。
「文句を言える立場かしら?彼だけじゃなく、私たち全員に。少なくとも私たちオートボットにとって、あんたは二枚舌や裏切りの権化だったもの。壁を立てるのは当然の権利よ。」
さすがに何も言えず、スタースクリームはブツブツと何か呟いたが、そのままアーシーは続けた。
「──例えば、クリフジャンパーを殺したあんたを嫌う権利が私にあるように。」

途端、座標を打ち込む手が体ごと固まった。こんな時こそ、オプティマスが生きていればと思う。今は丸腰で、翼は切られたも同然で、アーシーの得意とする間合いの中。自慢の爪があっても、状況は不利でしかなかった。

落ち着いて、深呼吸するんだ。私はここにいる。状況が悪化しないように導こう。信じてくれ。私が君を守る。

声の励ましを聞いても、固唾を飲まずにいられなかった。どうにか無視して打ち込みに戻ろうとしても、手が動かなかった。

アーシーはどこか遠くを見ながら言った。
「ずっと考えてきた。あんたが犯人だと知る前から。クリフを殺したやつを見つけたら、どうしてやるか……」

体が震えるのがわかる。しかし言葉が出ない。彼女が妙に落ち着いていたのは、全てはこの瞬間、彼を殺すためだったのだろうか。

まずは心身を落ち着かせて。彼女に話を続けさせよう。スモークスクリーンと同じと思ってはいけないよ。彼女には言うべきことがあるから、言わせてやるんだ。

「見つけたらどう痛めつけてやろうか考えてきた。手も脚も八つ裂きにしながら、どうしてって問い詰めるとか。」
アーシーは椅子の手すりを何度も弾きながら続けた。
「犯人があんただと知った時、本気で殺すつもりだった。その後も、いつでもあんたを殺す準備はできていた。」

しかし急に彼女の覇気が抜けた。
「ただ……憎悪がつのるごとに、疲れてきた。そしてこの状況。故郷を取り戻した今、いい加減この憎悪を手放したい。けれど、あんたがこんな側にいる世界で生きるなんて嫌。答えを知らないままじゃ、絶対に認められない。」

固唾を飲み、ゆっくりと隣を見た。アーシーの視線はこちらをじっと捉えていた。
「一度だけ聞くわ、スタースクリーム。私ももう、この妄執から解放されたいの。」
彼女は深く息を吸い、言った。
「教えて。クリフはどんな最期を迎えたの?なぜ、彼を殺したの?」

視線を落とさずにいられなかった。何を言えばいいかわからず、口を閉ざした。ここで奇襲をかけたら瞬時に首を落とされるかスパークを抉られる。

そうはならない。真実を伝えるんだ。嘘や誇張をしてはいけない。そうすれば彼女は君に危害を加えない。彼女が求めているのは争いではなく、苦しみへの決着だ。

「あいつは……」
ようやくひり出した声は、ささやきに近かった。それでも言葉になっていた。
「あいつは、『ご主人様はどこだ?』と言った。言葉としてはそれだけだが、俺にとっては『奴隷』と呼ばれたも同然だった。俺は断じて奴隷じゃない。今までも、その時も。メガトロンに仕えたとしても、無心の奴隷に落ちぶれはしなかった。だからクリフジャンパーがああして俺を嘲ったとき、決して許せなかった。」

アーシーは顔を逸らし、首を振った。
ディセプティコンとて、始まりは差別や腐敗への打倒だった。しかしメガトロンが本性を現した頃には、すでに別の戦いとなっていた。あれはただ、虐げてきたものたちを虐げ返すための復讐劇だった。

「あいつは最期まで屈しなかった。」
スタースクリームは続けた。
「最後の瞬間まで、しっかり俺を見据えていた。殺されることは想定外だったようだが、決して恐怖しなかった。」

横目でみると、アーシーはオプティックに込み上がった涙を拭っていた。
「ときどき、あいつを羨ましく思う。俺はこれまで何度か死ぬ思いをしてきたけど……、」
言いつつ、早く作業に戻りたいと思った。
「毎回、怖くて怖くてしょうがねえんだ。」

アーシーの手が自分の手に重なってきた時、スタースクリームは跳ね上がった。
「少し、休憩しましょう。」
彼女は立ち上がり、1人で出口に向かっていった。
「お互い、必要だと思うわ。」

アーシーは扉へ向かい、こちらを向いて待った。ついていくべきか迷ったが、どうにか気を持ち直し、同じく立ち上がった。その後ろをついていく間、両手は決して出さないように、後ろにしっかり隠すようにした。

ssssssssss

最初にバルクヘッドの笑い声が聞こえてきた。どうやら食堂に向かっているようだ。かつては幹部クラスの者が休憩し、エネルゴンを補給するための部屋だった。
オートボットのメンバーの多くが先にくつろいで、楽しげに談笑していた。スタースクリームはアーシーの後ろに隠れるようにして入ったが、扉が開くとほぼ同時にバルクヘッドが呼びかけた。

「ようアーシー、おかえり!コウモリ野郎は片付けたか?」
そう笑ったが、アーシーの背後に続く姿を見ると、表情がぽかんと落ちた。
「ありゃ。」

「何よ、こっちも補給がいるの。」
アーシーは返しながら、補給器でキューブを満たした。
「座標を特定するのに苦労してるの。結構な宝探しになりそう。」
そう言って、スタースクリームにもキューブを取るよう促して、バルクヘッドたちのもとに向かった。

しかし、すぐには反応できず、立ち尽くしてしまった。

いつも通りに過ごすといい。恐怖を振り払って。ただしゃんとすればいい。建前をすぐ用意するのは、意外と難しいものだ。

やがてスタースクリームは自分のキューブを取った。その間、背中に視線がグサグサと刺さるように感じた。ヒソヒソと話し声も聞こえてくる。それでも気にしなかった。その方が楽な時もある。

「悪いなスクリーマー、こっちは満員なんだ。」
ホイルジャックがふんぞり返ってニヤニヤと笑っていた。

言われて振り返ると、彼らは全員で話し合えるように席やテーブルを並べて円陣を組んでいた。アーシーのぶんの席は開けたようだが……特に気にしないことにした。

「別に、いい。」
言いつつ、食堂の角にある小さなテーブルへ歩き、スツールに腰掛けた。
「ここが特等席だから。」

彼らに向くようにして座った。そういえばこうして座るのは初めてな気がするが、どっちにしろオートボットたちのことは無視した。皆して一様にこちらを見つめるのをやめず、食堂内の空気はピリピリした。

が、ようやくノックアウトが笑いながら喋り出した。
「ところでここ、よく変なことが起こるんですよ!特にヴィーコンたちがですね…」

あとは完全に無視して、キューブを置いて肩肘ついて隣の壁を眺めた。意図的につけられた引っ掻き傷は、これまで反逆した回数、メガトロンにイラつかされた回数、ノックアウトをウザイと感じた回数などなど……次第に意味を失い、いつからか数えるのもやめた。やがて、ここに座った時にただ傷をつけるだけになった。それももう数え切れない。

今回も静かに、群衆の気をひかないように傷をつけた。つま先についた紫色の塗装を払い落とし、キューブからひと口啜った。

笑い声がして、物思いから引き戻された。こういう時に限ってあの変な声が聞こえない。なんでいらん時に出てくるくせに、必要な時に出しゃばらないのか。

呼んだかい?

部屋がすっと暗くなったように感じた。物理的にはこのテーブルの席は、片方を自分が占有し、もう一脚は空だった。相手の姿を思い描こうとしたものの辛うじて描けたのはヴィーコンだった。なにせたくさん見てきたもので、スパークの形に至るまでイメージが再現できるのだ。

私はたぶんヴィーコンではなかったけど、姿を思い描こうとしてくれることは嬉しいな。

ならアンタは何だったんだ。というかサイバトロニアンなのか?

どうだろう、生きていたかもわからない。

スタースクリームは顔を顰めた。てっきり……

前にも話したが、無闇な期待はしないほうがいい。多くの場合は外れるし、誤解を生む要因となる。

スタースクリームはまたキューブからひと口飲んだ。呼ばなければよかった。

そうなのか?いなくなった方がいいか?

そりゃもう、と言いたかったが、話し相手が欲しいことには違いない。せめて、自分をスタースクリームだからと変な決めつけをしない相手がいい。そう思ってキューブを飲み干すと、声は小さく笑った。

呼ばれているよ。

クソっ、本当に誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。

心配ないよ。私はいつでもそばにいる。決して……

「スターーーーースクリーーーーム!!」
急に怒鳴られて跳ね上がった。ようやく現実に引き戻されると、全員がこちらを見つめていて、恥ずかしさに縮こまりそうになった。

「…………なに?」

小さな声で返事すると、先ほど叫んだラチェットがため息をついた。
「アーシーから報告を聞いたよ。新たな調査用の座標を見つけてくれたとね。数が結構多いことだし、スモークスクリーンが彼女と同伴して調査することにした。そしてその任務に、お前も参加してほしい。」

スモークスクリーンは不満げに腕を組み、そっぽを向いていた。しかしラチェットは続けた。
「スタースクリーム、明日の調査に関して、我々はお前を信じて大丈夫か?」

もちろんだ。そうだろう、スタースクリーム。

スタースクリームは小さく頷き、ラチェットをまっすぐ見つめた。
「もちろんだ、ドクター。信じてくれ。」

ssssssssss