megadoomingir氏作/RedeemTheStars/05

Last-modified: 2021-10-30 (土) 00:00:14

ssssssssss

「あの通路で君を見つけてから数サイクルが経過した。今のところ順調に回復しているな。」
ラチェットはスタースクリームのオプティックの健康状態を確認しつつ言った。当てていたフラッシュライトを消灯して一歩下がって言葉を続けた。
「言っておくが、だからって目を離すわけじゃないぞ。」

あれから数日が経過した。修理に2日、休養に2日。機体に残る幾つかの傷痕を除けば、スタースクリームの回復経過は順調だった。むしろ前よりも調子が良いとさえ感じた──ちゃんと生きていると実感できたのだ。

「なぁに、そんくらいわかってるよ。それどころか全員の視線を四六時中独り占めしちゃうんじゃないかって思ってるぜ。」

「あながち間違いじゃないな。」
ラチェットは器具を取り替えつつ言った。

「そろそろ君の付き人が来るだろう。誰が担当するかも決まったようだしね。」
「俺が選ぶのはダメかい?」
「今はまだな。今日はスモークスクリーンかバンブルビーが君のそばにつく。司令室で、交信の手伝いをしてほしいんだ。復興するには星々に散った仲間たちを呼び集めないとならないからな。」
「まったくその通りで……」

言いかけて、医務室の外から聞こえる足音に口をつぐみ耳を澄ませた。
「付き人のどっちかがおいでなすったかな。」
ドアが自動的に開くと、どちらが先に入るかもめていたらしいスモークスクリーンとバンブルビーがあらわになった。
「……両方とは面食らった。」

「えっと、ラチェット。バルクが……」
「バルクが俺にヴィーコンたちの管理を手伝ってって!!!」

最初に言いかけたのはバンブルビーだったが、スモークスクリーンが被さり、青い方が勝ち誇る横で黄色い方が悔しそうに呻いた。

ラチェットも眉を顰め、2人に近づいた。
「これは一体全体何のつもりだ、スモークスクリーン?まさか今日バルクヘッドを手伝いに行けば、明日も君は当番から外れるとでも思ったか?」

途端にスモークスクリーンのオプティックが困惑するように瞬いた。
「えっ、じゃあ明日は俺の番なの!?」

その横でバンブルビーは得意げに笑った。
「じゃあ、俺は先にこっちの事情を片付けちゃおうかな。どっちにしろ交信担当には変わりないし、スモーキーはバルクとヴィーコンたちとの物資運搬がんばってこいよ?」

二機のかわいらしい諍いをスタースクリームはじっと見つめた。メガトロンとの度重なる苛烈な衝突なら山ほど経験してきたが、こういうものは案外見る価値もありそうだった。

この奇妙な状況は彼らにとっても居心地はいいものでないんだ、できるものなら早く済ませたいのだろう。私としては君の体が心配だよ、スタースクリーム。できるものなら、君をあと一日は休ませてあげたいのだが…

悲しい哉、この場においてこの「頭の中の何か」には何の決定権もなかったので、このまま仕事の手伝いをすることになりそうだった。

しかし君にならできる。確か君は、地図について何か言っていたね?それを使えば、諍いを止めつつ君の負担にならない作業を得られるだろう。

スタースクリームはしばし考え込んだ。傍ではよしんば喧嘩がエスカレートしたら面白かろうと思ったが、あいにくそこまで馬鹿な連中でもなく、先に見ているのに飽きてしまった。

「あのさ、」
小さく咳払いすると、3人は一斉に彼を向いた。
「1人だけ不幸になるアイデアがあるぜ。」

ssssssssss

「冗談でしょ?」
アーシーはラチェットやスタースクリームに不満を隠さずに言った。
「今日はビーとスモークスクリーンのどっちかと通信係になるんじゃなかったの?」

「あいにくどっちも頼りないのでな。」
すかさずラチェットが応酬した。
「言っておくがパトロールに行くわけじゃあないぞ。今ある地図の情報を更新しつつ、彼の協力の上で未発見の基地を特定する。情報を照らし合わせて抜けがないかを確認するんだ。」

アーシーのきららかなオプティックがスタースクリームのことを穴を開けそうなほどに凝視したが、見られている本人は頭の中が忙しくて気づかなかった。

きっとその方が君にとって良いことだろう。体を気遣いながら、彼らの助けになれる。どちらにとっても有益な選択だ。

確かにこれはありがたかった。どうもこういう扱いには慣れていなかった。確かに武器は無力化されているし、翼も枷で止められているが、長く鋭い爪の生えた手は自由なままだった。それでも信用してくれている。何かしら返してやるべきと思っていた。

何か他意があるのか、スタースクリーム?重ねて言うが、私は君を信じている。どれだけかかろうと、君が変われるように助けるつもりだよ。

しかしオートボットたちは必ずしも同じくらいに待っていてくれるとは思えなかった。いずれもっと要求と期待を重ねてくるようになるだろう。スタースクリームとしては、いつでも期待以上の何か、予想を超える何かでありたかった。

しかし今の君には彼らがいる。そして君は彼らと共に星の再建に手掛ける。リーダーというのは、突然頭角を現すものじゃない。そこに至るまでに積み重ねをするものだよ。

スタースクリームは小さく愚痴をこぼした。すると2人分のオプティックが自分に向かい、視線に気づくと姿勢を正して咳払いした。
「失礼、ちょっと翼の枷が……気にしないようにはしてるんだけどよ。」

「でしょうね。」
アーシーは呆れたように言い、ラチェットを見てようやく首を縦に振った。
「わかった、受ける。ただ、せめて1ジュール(時間)ごとにビーかスモークスクリーンに視察に来させてよね?」

ラチェットも頷き返した。
「私もちゃんと確認にくるよ。さて、さっそく準備だけしておくか。」
彼はそう言ってアーシーの横を抜け、コントロールルームに踏み入れた。スタースクリームは極力ラチェットの近くをついていき、その背後からはアーシーが鋭い目をしっかり向けながらついてきた。

部屋の中央に鎮座する丸いコンソールの前に腰掛け、横にあるボタンを押し込んだ。すると、中央にサイバトロン星を象った光る球体が投影された。

すると隣からラチェットが脇腹を軽く小突いてきた。スタースクリームは流石に不機嫌そうな顔を向けた。
「何だよ、これ使うんだろ?それともやっぱり俺はなんもおさわりしちゃダメか?」

「我々を待ってくれたっていいだろうに、せっかちめ。」
ラチェットは言い返した。

「『我々』というよりも『私』じゃない?」
アーシーは向かいの席、なるべくスタースクリームから離れた席に腰掛けた。
「さっさと片付けましょう、あんま長く一緒に過ごしたくないしね?」

実に期待通りの反応だった。それでいて、歯牙にも掛けないことにした。

「あっそ、んじゃさっさと済ませて次行こうか。満足かいアーシーさんよ?」

「あーお見事ねスタースクリームさん、」
アーシーは返答ついでの一瞥の後、ラチェットを向いて手を振った。
「それじゃ、またあとで。役立たずなコイツでも、運が良ければ有益な情報のひとつやふたつくらい持ってることを期待するわ。」

ラチェットは、アーシーに睨みを返すジェットロンを無視してその場から去った。
誰が役立たずだこの女。クリフジャンパーにしてやったように自分が誰なのかわからせてやろうか。

しかしそれは君のためになるのか、スタースクリーム?彼女に危害を加えることが好手だと思うか?そうしたところで、結局いつかはこの部屋を去る時に、他の者たちに所業を知られて報復を受けることになるだろう。

まあそれがデメリットなわけだが。

見くびっていたと思い知らせるなら、『知識』がある。それは君だけの武器だ、彼女にそれを奪う手段はない。君の持つ知識を他者に渡すかどうかで、君と周りのものの立場は大きく変わる。

そう聞いてスタースクリームはゆっくりほくそ笑んだ。たしかに今の自分はとても重要な立場にいるのだな。

さすがにその様子にアーシーが指を向けてきた。
「ちょっと、何をニヤニヤしてんのよ。」

スタースクリームはオプティックを瞬かせて視線を返した。
「なんでも?ちょっとぼーっとしてただけだって。んじゃさっそく仕事に取り掛かろうぜ。俺が黙れば黙ってるほど、お互い気まずい空気が長引くわけだし。」

露骨に嫌な顔をしたアーシーだったが、大人しく投影図に書き込みを始めた。さっそく広い範囲を囲った。
「今回の私の探索区間はこのエリア。バルクヘッドがヴィーコンたちとこの辺りに建築をしているの。スモークスクリーンとビーも、戻ってくる難民たちの着陸場所としてこのエリアを指定している。星の復興の第一拠点というわけね。」

スタースクリームは枷を嵌められたままの翼の不快感に少し体を揺らしつつも、指摘された範囲をじっくりと観察した。ひと握りのオートボットやヴィーコンの暮らす街の拠点としてはかなり広範囲で、復興にはかなり時間がかかることだろう。あまり深く気にしないようにしながら、アーシーの選択した中から小さなエリアに絞り込んでみた。

「この辺も探索したのか?」
スタースクリームは尋ねた。
「街のはずれにあるし、どこまで探索できたかも気になるもんだしな。」

アーシーは得意げに回答した。
「そこならとっくに調べたわ。ディセプティコンの前哨基地跡地が2つ、小規模なエネルゴン貯蔵庫。中身はしっかり回収済み。」

スタースクリームはわずかに顔を顰めた。
「……あのな、今の状況がスッゲー気まずいっていう気持ちはわかるぜ。」

「あらそう?」

「そうだよ。だからこそ1秒でも早く俺と同じ空間にいるのが嫌なら、ちゃんと協力させろ。別に手を借りなくてもお前は十分優秀だろうが、少しは楽にできるって約束する。」

アーシーは黙って腕を組み、睨みつけた。何も言い出さないことを確認し、スタースクリームは続けた。

「というわけで、どこまで確認したか教えてくれ。調べ尽くした場所を排除すりゃ多少は時間の無駄もなくなるだろうよ。」

アーシーはしばし睨み続けたが、やがて「わかった」と言いつつ腕をほどき、地図のハイライトされた領域のメモを指し示した。
「これが詳細情報。ここに私の発見が全部書いてあるから、確認したい領域を自分でタップして見て。」

スタースクリームが言う通りに球に触れると、各情報における仔細な情報が表示された。確かに彼女は優秀だ。記録は事細かに記述されていた──が、見落としもあった。それもそのはず、ディセプティコンですら気付くのが難しいものだった。スタースクリームが気づいたのも事前に知っていたからだった。

彼女の見落としに何か言いたいか?

スタースクリームはわずかに顔を顰めた──そのことにアーシーも気づいたようだったが、何も言わなかった。そろそろあの声も鬱陶しくなってきた。人が頭の中で考えていることにアドバイスという名目でいちいち口出ししてくる。
確かにひとこといじってやっても面白いかもしれない。しかしそういう考えが過ぎるたびに、この声は疑問を投げかけてくる。

そんなことをして何になる?

「いや、
スタースクリームはついに言った。
「やっぱやめだ。」

「何て?」

アーシーが怪訝な顔を向け、スタースクリームは枷のかかった翼を少し垂らした。

「いや、ちょっと思考が漏れた。えーっとその……」
誤魔化すように咳払いをし、言葉を選びながら指摘することにした。
「正直驚いた、ずいぶん綿密に調べられてる。けど、この地点、この地点、あとここ2箇所を見落としているな。これらはショックウェーブが個人的に隠した物資保管所だ。もともと幹部以上の者だけが知られる場所で、雑魚、ましてやオートボットには決して見つからないようにされている。だからお前に見つけられなかったのも納得だ……が、誰の手もつけられていないか確認の価値はあるだろう。」

もうしばらくホロマップを眺め、アーシーの入れたデータのなかにいくつか書き加えた。ふと隣を見ると、当のアーシーは……困惑だろうか?ずいぶん複雑そうな顔を向けていた。少なくとも怒っているわけではなさそうだが──

いや、君に対して驚いているようだ。

助けてやっているのに不満だというのか。これは意外や意外、何も鋭い皮肉や思わせぶりな態度を見せずともオートボットたちを困らせることはできるのだ。期待を裏切るというのは案外いい手段かもしれなかった。

しばらくはそいうことでいいだろう。やがて彼らは穏やかな君に慣れてくる。自分の力を証明することに固執してはいけないよ、スタースクリーム。こうして手助けを続ければ、やがて彼らも君に対して真摯に接してくれるようになるだろう。

「考える時間が欲しいんなら、今日のところはお開きにするか?無闇に怒らせるのは本意じゃねえし。」

「怒るですって?」
アーシーは静かに言った。
「……そうじゃないわよ。確かにあんたのことはこれまで私や私たちに迷惑かけてくれたぶん含めて徹底的に苦しめてやりたいけれども、今はそういうつもりないわ。」

「んじゃ、次の当番が来るまで休憩をはさむか?無理に言葉を挟むこたねぇし、見張ってりゃいい。」

そう言ってやれば、スモークスクリーンかビーを呼びつけるだろうと思った。しかしアーシーは静かに首を振り、
「いいえ」
そう一言返した。

さすがに予想を裏切られ、思わず彼女を見つめてしまった。
「『いいえ』?」

「今日中にさっさと進めましょう。明日は見逃した部分を全部まとめて調査したいし。あんたの言うように誰も手をつけていないのなら、きっと潤沢な物資を得られる。」

ため息まじりの回答に、スタースクリームはまだ困惑が抜けないまま、ゆっくりと頷いた。
「そー……か。なら、早めに進めるか……。」
そして立ち上がり、ホロマップ上の要調査の座標の指摘を続けた。

いいぞ、その調子だ。自分の周りにいる者たちと争わないことの良さがわかってきただろう?

ssssssssss