「PHASE04」

Last-modified: 2013-02-03 (日) 00:20:30
 
 

鬱蒼と木々が茂る森の中を一匹のフェレット―ユーノが駆ける。何故、彼はこの小さな身体で懸命に疾駆しているのだろうか?それは、恐らく自身の失態により巻き込んでしまった二人の少年少女の安否を想っての事だろう。もしくは、自身の発掘した遺失物を自らの手で処理したいからだろうか?だが、彼の心の中にある真相は彼しか知り得ない。

 

桜台の森林地帯に入ってから、大分時間が経過したがジュエルシードやなのは達の気配は一向に表われない。細身の身体で駆け続けるには、高町家から些か距離が離れ過ぎていただろう。しかし、今のユーノ・スクライアには魔法を行使し続ける程、リンカーコアの機能が回復していない。それにジュエルシードの場所を特定する為に、探索魔法の術式を展開した事も影響しているので自身の身体で駆ける他無い。そんな疲労困憊な状態ながらも、森林を疾駆するユーノの神経に魔力反応が感知された。

 
 
 

なのは達二人やジュエルシード異相体の魔力反応とも異なる魔力反応だ。

 
 
 

その気配は上空から此方に接近―いや、此方に気付かずに通り過ぎるだろう。

 
 
 

ユーノは首を上空に向け、その気配の出所を見ようとした。ユーノが黄昏時に染まった紅の空を見上げた先に二人の魔導師が空を翔けていた。一人は黒衣のバリアジャケットと金色の髪を二対のツインテールに纏めた髪が特徴の少女、もう一人が、シンの機械的な造りをした防護服に形状が酷似している金髪の少年、この二人がユーノの上空を通り過ぎようとしていた。

 

ユーノは近づいて来る二人の魔導師、その挙動を観察した。恐らく二人は洗練された魔法技術を取得している管理世界の人間なのだと、ユーノは結論付けた。何故自分以外の人間がこんな辺境の管理外世界に、と呟いたユーノの脳裏に一つの解答が導き出された。

 

 「……まさかっ!?なのは!!シン!!」

 

ユーノは真相を確かめようと、この先に居ると予測されるなのは達の元へとその脚を速めた。

 
 
 
 
 

    魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE04」

 
 
 
 
 

黒衣の少女達が去っていった空を見上げたまま、なのはは呆然としていた。既に地上への着陸は済んでおり、気を失ってしまったシンは両腕をなのはの背中に回したまま身体を預けている状態が現在の状況というところだ。なのは自身もシンの背中に両腕を回し、黒衣の少女からの射撃魔法が直撃したシンの背中を擦る。すると、不思議な事に防護服は破れているのだが、特に目立った外傷が出来ている様には感じられない。何度も何度もシンの背中を擦ってみるが、見事なまでに触り心地の良い、きめ細やかな柔肌の感触しか伝わってこない。

 
 

――そう、あの黒衣の少女は手加減してくれたのだ。

 
 

この森林一帯を去る直前に黒衣の少女が口にした言葉―手加減―その言葉通りに自分達に目立った外傷を与えずに彼女達は去って行ったのだ。最もシンに至っては金髪の少年からかなり強力な一撃を腹部に与えられていたので、シンにしてみれば踏んだり蹴ったりである。

 

なのははつい先日、魔法という未知の力に遭遇した。ジュエルシードという高魔力によって変貌した化け物を自身が撃ち出した魔法によって撃退したのだ。実際にはレイジングハートという魔導端末による恩恵が強いのだが、心の底では自分が強くなれたのでは無いかと、ほんの少し【思い違い】をしていた。

 

要は、有頂天になっていたのだ。ジュエルシードの魔力反応を感知した時に気持ちが急いていたのは、それの表れでもあったのだ。だが、先程の戦闘によって自分が強くなったという【思い違い】は打ち砕かれた。

 

黒衣の少女、金髪の少年―この二人との魔法戦闘において、魔法技術を行使して戦闘に応用する手法、実力の違いをなのは達は見せ付けられた。更に完膚無きまで叩きのめされてから、なのはは純粋にこう思った。

 
 

――凄い、と。

 
 

そして、なのはは自分が本気で魔法の扱い方を覚えなければレイジングハートの【乗り手】になることは出来ないだろう、と結論付ける事も出来た。 

 

 「なのは!!シン!!大丈夫!?」

 

ユーノの声がなのはの耳に入った。さきほど念話によってジュエルシードの位置を教えて貰って以来だ。しかし、そうは言っても場所を教えて貰ってから精々30分程度しか経っていない。にも関わらず、ユーノは魔法を行使せずその小さな身体で、家から2km程離れたこの桜台の丘までやって来たのだろう。

 

そう想うと、なのはは途端に申し訳ない気持ちに包まれた。ジュエルシードの収集に協力する事を自分から言い出したのに、この体たらくである。しかも、技量が自身より優れているとは言え、同年代の少年少女達に奪われたのだ。彼に何と謝罪を言って言いか?その解が見出せずに、なのはは気落ちした表情で顔を曇らせた。

 

 「ユーノ君、私は大丈夫だよ。特に傷付いてる訳じゃないから」

 

なのはの言葉にユーノは彼女の様子を観察する、特に身体に異常が在る様には見受けられないので一安心した。防護服も所々で煤けているが、デバイスが破損している訳でも無いので大丈夫だろう。しかし、問題なのは…

 

 「…シンは大丈夫なの?」

 

そう、問題なのはシンである。防護服は背中部分が破けており、気を失ってる様にユーノには見受けられた。

 

 「…うん、大丈夫だよ。防護服は破けてるけど身体に傷付いて無いし、呼吸もちゃんとしてるよ」

 

ほら、と言いつつなのははシンの背中に回した腕を離し、シンの防護服が破けた背中部分をユーノに見せる。なのはの言うとおり、シンにも特に目立った外傷は見当たらないのでユーノはホッとした。しかし、傷付いている訳では無いのに何故シンが気を失ったのかと、ユーノは疑問が浮かんだ。

 

 「じゃあ、シンは如何して気絶しているんだろう?なのはは何か分からない?」

 

ユーノの疑問に対して、どう答えて良いのかなのはは分からなかった為、シンが意識を手放す前に行った最後の行動、「簡易射撃魔法を使ったら気絶した」となのはは解答した。だが、その程度で気絶するものなのか、となのはは言ってから考え付いた。昨日の時点では、シンは簡易射撃魔法で異相体に応戦していた為、急に気絶するのはどう考えてもおかしいのである。

 

なのはやユーノが解決しない疑問に頭を悩ませた。その疑問に解答したのは、シンのデバイスであるデスティニーであった。

 

 『――なのはお嬢様、ユーノさん。
  マスターが気絶した原因は魔力使用過多によるブラックアウトが要因です――』

 

【ブラックアウト;Black Out】という単語に目を丸くするなのは、疑問が晴れたのか1人頷き納得するユーノ、反応はそれぞれだった。

 

【ブラックアウト;Black Out】とは、魔力使用過多によって対象者自身の魔力が枯渇、もしくは純粋な魔力ダメージが原因で自身に内包される魔力総量が急速に枯渇する事によって引き起こされる意識喪失の症状を表す言葉である。単に魔力を使い過ぎた事によってその症状が引き起こされる程度ならば問題は無いのだが、魔力過負荷を瞬間的に掛けた場合などには魔力だけではなく肉体にも損傷が及ぶ場合があるので注意が必要でもある。この損傷は【ブラックアウトダメージ;Black Out Damage】と呼称されている。

 

先程の黒衣の少女と金髪の少年両名との魔法戦闘の際に、シンは金髪の少年から魔力が伴った蹴撃を腹部に受けた。金髪の少年から与えられたダメージによってシンの魔力量がかなり削がれてしまったのだ。更に黒衣の少女から発射された射撃魔法をなのはから庇う為に無意識ながらも強化魔法を行使した。魔力の分配も曖昧な上、出鱈目に強化魔法を構成したのだ。そして極め付けには黒衣の少女達に対して、反撃の射撃魔法を放った。

 

以上の経緯から、魔力ダメージによる急激な魔力減少に加えて、構成が滅茶苦茶な魔法使用による魔力使用過多によって、シンがブラックアウト現象に陥ったのではないかとデスティニ―は推測したのだ。

 

魔法技術に触れて二日しか経っていないのに、無茶苦茶な魔力運用を行うシンにユーノは内心溜息を吐いた。これでは、昼間の授業時間中に自分の事を「無理が過ぎる」と自分の事を評したシンに対して異を唱えなければいけない。

 
 

――つまり、無理が過ぎるのは御互い様では無いのかと。

 
 

なのはが傷つく事に対して我慢が出来なかったのだろうか、とユーノは予測を立てたが当の本人が気絶していては事実を確認出来ようも無い。どちらにせよ金髪の魔導師達は大分手加減をしてくれたのは、なのはの様子を見れば明らかである。シンが予想外の損傷を受けた事は、言ってしまえば自業自得だ。だが、彼らは純粋な善意によって自分の事を助けてくれている、これほどありがたい事は無いのだとユーノは思考した。

 

ならば、リンカーコアが正常に機能を取り戻すまで自分に出来ることは、シンに対して揚げ足を取るよりも、魔法技術における魔力運用の基礎をレクチャーする事になるだろう。ついでに、インテリジェントデバイスとして機能したばかりのデスティニーやシンと同じ状況のなのはも一緒に教えた方が今後のジュエルシード異相体において戦闘が発生しても二人が危機に陥る確立は低下するだろう。

 

自分の思慮の至らなさや、二人を巻き込んでしまったことに対する贖罪は、今はその様にしていく事でしか返せるものが無い。既に発生してしまったトラブルなど、取り返しようが無いのだから。

とは言っても、結局のところなのは達が魔力運用を学びたいと言い出す事が前提になるのだが、ユーノは自分が今出来得るこの二人の恩人に対して自らが、現状貢献出来ることについて結論を出した。

 

 「なのは、
  取り敢えず僕が回復魔法を使用出来るようになるまで、
     暫くはここで待機しよう。後の事はそれからだね」

 

ユーノは現在、魔力の消耗を軽減させる為に敢えて変身魔法を使ってフェレットに擬態している。元々スクライア一族はこの様に変身魔法で動物に擬態する事によって、発掘が困難な狭い場所にも潜り込んでいけるのである。更にこの形態ならば、消費した魔力の回復も早いのも長所である。

 

地球の魔力素がユーノの体内にあるリンカーコアとの適合不良を起こしている為、魔力の回復値も心許無い。だが、僅かばかりしか魔力量が回復出来なくても、このフェレットの姿に擬態する事で平常時に自らが使用する魔法を行使出来るのだ。封時結界や探索魔法を滞り無く行使出来るのも、この変身魔法が使えるからこその恩恵なのである。但し、魔力が多少程度回復した矢先に、封時結界や広域探索魔法等の高等魔法を行使するので、中々ユーノの安定基準値まで魔力量が回復して来ないのが現状でもある。

 

 「うん、分かったよ。ユーノ君」

 

ユーノの提案になのはは首をコクンと頷かせて、了承の形をとった。

 

魔法戦闘で手も足も出ず、撃墜されたことにショックを受けているのではないかとユーノには印象に残った。しかし、話題を振って気を紛らわすような対人における高等なコミュニケーションスキルをユーノは持ち合わせていなかった。

 

しかし、真実はユーノの印象とは異なっていた。一見落ち込んだような表情に見えるのだが、ユーノの意見に了承したなのはは何かを決意した様な表情を作り上げ、夕闇に染まりつつある紅の空、黒衣の少女達が去って行った空を眺め続けていたのだった。

 
 
 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 
 
 

――海鳴臨海公園 噴水広場――

 

海鳴臨海公園の一角に存在する大きな噴水広場がある。夜になれば、其処は幻想的な美しさを演出する一つのアートに変わり映えするという話題で格好の評判となる。噴水広場へと続く階段は四方にシンメトリ調に施工されており、その凝った創りは施工者・設計者の拘りが垣間見えて来る。

 

そんな噴水広場へと続く階段に二つの影があった。一人は階段に腰を掛けて座っており、空中に浮遊するモニターに見つめていた。もう一人はモニターを見つめている人物の隣に座り、手に持つ書物に目を滑らせて読み進めていた。暫くすると、空中に浮かび上がっているモニターに変化が起こった。最初は映りの悪いテレビの様にノイズを走らせたのだが、次第にその現象が収まった。次にモニターが映し出したのは、鮮やかな橙色の長髪を持ち、狼の様な耳を生やした女性―アルフであった。まるで高画質のテレビを見ているかのように鮮明な画像で映し出されたのだった。

 

 「アルフ、お疲れ様」

 

輝く様な金髪の髪に深紅の瞳の少女―フェイト・テスタロッサ―は目の前に浮かぶモニターに映るアルフに労いの言葉を掛けた。フェイトに言葉を掛けられたアルフは、見た目不相応に感じられる程の無邪気な笑顔を浮かべた。

 

 「フェイト、今第四区画の広域サーチが終わった所だよ。それで発動前のジュエルシードも一つ見つけたよ」

 

フェイトと、その隣に座る金髪の少年―レイ―がジュエルシードを目視、又は中距離程度の探査魔法によって海鳴市を中心にジュエルシードを探索する一方で、橙色の髪色の女性―アルフ―が市内を広域探査魔法によってジュエルシードを探索していた。昨夜の内に役割を割り振って、それぞれの行動方針にそってジュエルシードの探索に当たっていたのだ。

 

 「ありがとう、遅くまでごめんね。私達の方は夕方に封印した一つだけ」

 

アルフの喜びと安堵が混じった声に対して、フェイトの声には労わりと同時に申し訳無さが含まれていた。広域探査魔法は術式の維持に非常に集中力を必要とする魔法なのだ。その魔法を長時間行使し、広域探索の役割を買って出てくれたアルフに対して、フェイトとレイ二人掛りで探索した結果、アルフと同じ成果だという事実を情けなく感じているのだろう。

 

フェイトの心中を察してか、アルフはジュエルシードの報告を切り上げ別の話題をモニター越しの二人に振った。

 

 「……それにしてもフェイトとレイがぶつかったこの二人。まさか、管理局じゃないよね?」

 

アルフが発したその声には【敵意】というよりも【疑念】の色が強かった。バルディッシュを通じて送信された戦闘場面をモニターして、アルフは腑に落ちない表情を顔に張り付けた。アルフの魔法戦闘及び訓練の経験上、どう考えてもこの二人は魔法に関して慣れていない印象を受ける。

 

何故なら、身体の使い方・魔力運用どれをとっても「まだ魔法を使い始めたばかりです」と言わんばかりのつたなさなのだ。

 

 「それは違うと思うよ。魔法もちゃんと使えて無かったし」

 

フェイトもアルフと同意見なようで、今し方アルフがぼやいた言葉に対しての解答を送る。

 

 「…恐らくは、この世界の現地住人だろう」

 

今まで無言を保ち、読書に耽っていたレイが二人の会話に加わった。レイが導き出した答えに対して、アルフは疑問の声を強めた。それは彼らが所有していた魔導端末にも疑問に感じる一端がある。白い魔導師が所有していたデバイスは、フェイトの所有するデバイス・バルディッシュと同様に、インテリジェントタイプのデバイスのように見受けられる。扱いが非常に難しいデバイスな上、管理外世界では絶対にお目に掛かれない代物である。

 

そして一番重要なのが、もう一人の紅の瞳の色をした黒髪の子供が所有していたデバイスだ。何しろ、レイが所有するデバイス・レジェンドと殆どの機能に似通っている部分が在る事をモニターの映像から識別出来るのだ。

 

 「この黒髪のガキンチョ
  レイと同じタイプの魔導端末持ってる様だけど【何か分かった事】はあったのかい?」

 

アルフが発した言葉、実はレイという少年にとっては非常に重要な事項なのである。何を隠そうレイ…レイ・ザ・バレルという少年は記憶喪失を患っているからである。レイとフェイト、そしてアルフとの邂逅は何れ詳しく語るとして、ここではレイが今までに辿った経緯を【さわり】だけ御伝えする事とする。

 
 
 

※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   

 
 
 

約2年前のある日、フェイトは第1管理世界ミッドチルダ南部森林地帯・アルトセイム山岳近隣にて魔法技術の修練を、魔法技術の【教育者】と一緒に行っていた。その時期のフェイトは魔法技術の修練は日常の一部でもある行為だったのだが、あるトラブルが発生して中止したのだった。

 

突如として付近の森林で轟音とともに発光現象が巻き起こったのだ。当時フェイトの教育担当を行っていた者は、訓練を中止し様子見の為に轟音が鳴り響いた森林の方角へと脚を踏み入れて行った。轟音に驚いて、フェイトは涙ぐみながらも、その教育者が帰還するまでその場で待機していたのだ。

 

暫くしてからその教育者は、一人の少年をその背に背負いながら帰還して来たのだった。この少年こそが、レイ・ザ・バレルである。レイは発見当時にはサイズの合ってない奇妙な服を着用しており、更に魔導端末―レジェンドを所持していたのだ。

 
 

その日の訓練を中断し、フェイトの教育者は負傷していたレイの治療に専念してくれた。 

 
 

レイの傷が癒えてからは、フェイトの母親の薦めもあってフェイトと共にレイも魔導師としての訓練や学問を学んだのだった。何故か、レイは一度説明した事や教わった事に関して非常に物覚えが良かった。早い期間から魔導師としての英才教育を行っているフェイトでさえも舌を巻くほどだったのだ。教育者に褒められるレイにフェイトが嫉妬する事も度々あり、幾度もフェイトはレイに対抗し競い合っていったのだった。その過程にアルフも加わりつつ月日は過ぎるのだが、レイは一つの大きな問題を抱えていたのだ。

 
 

それは自分自身に記憶が存在しないことだ。レイが今現在まで使用している名前も、自らが着用していた奇妙な服に刺繍されていた名前をそっくりそのまま使っているだけに過ぎない。本当の名前・記憶も分からぬまま、およそ2年の月日が経過したのだが、一向に記憶が蘇る気配が無いのだ。

 
 

教育者がフェイトやレイに対しての教育が完了し、フェイトがインテリジェントデバイスを教育者から授かった後は、フェイトの母親の探し物をフェイトやアルフと協力して探索している。フェイトの母親曰く、他の世界を渡り歩けば何かしらの情報が入手出来るかもしれないとも言われ、拾って貰った恩を返す一環で行っているのだ。

 

この地球におけるジュエルシードの探索も恩返しの一環であるのだが、変化は不意に訪れたのだ。それが自分と同系等の魔導端末を所有している黒髪の少年の存在なのだ。自分の記憶に関する手掛かりが得られるかもしれないと、はやる気持ちを抑えつつ少年に問答を行ったのだが、結果はシロだったのだ。魔導端末の出所を皮切りに話を聞いてみようとしたが、黒髪の少年の発言から推測すると【何も分からない】という事が明確になっただけであったのだ。

 

何かしらの進展が在るかもしれないと期待しただけに落胆する気持ちも大きかったが、即座に思考を切り替え目的のジュエルシードの確保を優先したのだ。障害となる白い魔導師と黒髪の少年を行動不能にした後に、単独で行動していたアルフと情報交換をしている現在に至っているのだ。

 
 
 

※   ※   ※   ※   ※   ※   ※  

 
 
 

 「…映像を見れば分かると思うが、特に判明した事は無い」

 

アルフからの問答に表情を変えずにレイは返答した。その口ぶりから、もう黒髪の少年事など気に止めてもいないのだろう、とアルフは予想を付けた。レイの心中を察して、アルフは一言謝罪を申し上げモニターの視聴を再開した。夜間という事もあり、アルフは音声機能をオフにした状態で送信されて来るモニターを視聴し続けている。それから程無くして、夕方に発生した魔法戦闘の映像を視聴し終えたアルフは一息吐いた。

 

 「…一通り目を通して見たけど、
  レイの言う通りかもしれないね。何から何まで素人もいい所だ」

 

アルフは戦闘場面の映像から、白い魔導師達をこの様に評価した。特に黒髪の少年に至っては、魔力に自分自身が振り回されており、挙句の果てにはブラックアウトの症状を引き起こしている。こんな様で魔法戦闘に秀でているフェイト達と競り合うなど無謀にも程がある。そう結論付けると、アルフは魔法戦闘を映していたモニターを消して、フェイト達を映しているモニターへ顔を向ける。

 

 「夕方起きた戦闘はこれで終わりだよ、それでねアルフ。レイと話し合って、これからはアルフを加えて三人一緒でジュエルシードを探さないかって話しになったんだけど、どうかな?」

 

フェイトからの提案にアルフは少々唸りながら思考した。三人で探す事になると【ジュエルシードの捜索】という点で、効率が多少落ちてしまうかもしれない。しかし、白い魔導師達に他にも味方の魔導師が居ると想定した場合、正確な人数が判明していない。フェイトとレイのコンビネーションならば、凡庸の魔導師相手に手数で遅れを取るヘマ等しないと信頼出来るのだが、最悪な展開も想定しなければならない以上アルフもフェイト達に加勢した方が、捜索における危険度はより少なくなるだろう。

 

 「そうだねぇ、フェイト達を守るのもアタシの役目だからね。二人に合流する事にするよ」

 

アルフからの気の良い返事にフェイトは顔を綻ばせ、合流地点を言い伝えた。アルフの了承の返事と共に空中に浮遊するように映っていたモニターは消失した。それからフェイトは自身が腰を掛けていた階段から立ち上がり、スカートに付いた埃を丁寧な仕草で確りと払う。レイも読んでいた本に栞を挟んで閉じて立ち上がり、フェイトの隣に立ち並んだ。

 

フェイトはレイが隣に並んだ事を確認すると、両手を顔の前に組み、目を閉じて何かを呟いた。次に発生したのはフェイトの魔力光の色をした魔法陣であり、フェイトとレイの周囲に金色の輝きを放っている。周囲の金色の魔力が眩い程の輝きを放った後に、魔力光と共にフェイトとレイの姿が消え去ったのだ。

 
 
 
 

消え去った二人の後に残されたのは、金色の魔力光の残滓と大きな噴水と照明が織り成す幻想的な風景だった。

 
 
 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

 
 
 

身を切るような疾風をものともせず、茶髪を括ったツインテールを揺らしながら僅か10歳にも満たない少女が雲一つも無い大空を疾駆する。そして、その少女に追随するかのように中心部に英語の【target】の言語に似た語句が浮かび上がっている桜色の球体が滑空していた。その球体は縦横無尽に少女を追跡または前方で複数存在している。

 

 「福音たる輝き、この手に来たれ。
  導きのもと、鳴り響け!【ディバイン・シューター;Divine Shooter】シュート!!」

 

 『――Divine Shooter.――』

 

少女・高町なのはの詠唱と共に周囲に桜色の球体が四つ出現する。なのはが出現させた球体は数秒ほどなのはの周囲を待機した後に、怒涛の勢いで【target】と表示された球体に肉薄する。すると、語句を表示している球体は軌道を変更し、追随していたなのはの周囲から逃げるように散開する。

 

逃げる球体の方角を確認し、無手の右手を振りかぶり球体を指し示す。その後になのはの誘導指示のもと【ディバインシューター】と呼称された球体は逃走した球体を追跡する。逃走する球体は墜落されまいと、より一層速度を加速させるがなのはの射出した【ディバインシューター】は逃走する球体以上の速度を叩き出し、グングンと接近する。その様子を食い入る様に見つめ、撃墜出来ると思ったのかなのはに安堵の表情が垣間見られる。

 
 
 
 

勢い良く迫る【ディバイン・シューター】が逃走する球体に着弾し、撃墜する……かのように見えたが、

 
 
 
 

逃走していた球体が再び方角を90度変更し、見事なのはの射出した【ディバイン・シューター】から逃げおおせたのだ。その一部始終を見て、なのはの表情に動揺が走る。しかし、闘いの場面でその様な隙は致命的である。逃走に成功した球体は、なのはに生じた一瞬の隙を見逃さなかった。注意力散漫となったなのはに今度は、一斉に逃走した球体が急接近する。急激に接近してくる球体になのはは気付いた。

 

 (だめ!今から操作したんじゃ【ディバイン・シューター】は間に合わない!)
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先程まで遠隔操作していた【ディバイン・シューター】から意識を切り替えて、今度は別の射撃魔法をなのはは準備した。

 
 
 
 

迫り来る球体に悪あがきの射撃魔法をお見舞いするが、撃墜出来たのはたったの一つであり、残りの球体は全てなのはに着弾した。

 
 
 
 

 『――Mission Failed.(ミッション、失敗です。)――』 

 

レイジングハートの機械音声が周囲に響き渡った。球体がなのはに着弾したことによって、辺り一面が煙に包まれていた。次第に煙が薄れていくと着弾したにもかかわらず、これといって被害も見当たらず防護服に破れた形跡も見られなかった。

 

 「くっ……失敗しちゃったね」

 

 『――Don't mind My master.(お気になさらず、マスター)――』

 

なのははレイジングハートにフォローを貰った後に【誘導制御型】の射撃魔法のレクチャーを受けた。

 

【誘導制御型】射撃魔法は射撃型魔法の中でも、機動・追尾能力にリソースを振った魔法となる。発射後に射出弾の方向制御・誘導が可能であり、熟練者にもなると多数の誘導弾を全く異なる軌道で放つ事が可能となる。高町なのはが使用した【ディバイン・シューター】はディバイン・スフィアと呼ばれる発射台を生成し、そこから誘導制御の魔法弾を発射する。

 

ディバイン・スフィアという発射台をあらかじめ形成することによって、大掛かりな魔法陣制御やチャージを必要としないため、通常時における魔法陣を形成した状態での誘導弾と比べて弾速は遅いものの、発射速度は比較的速く連射も可能なのだ。更に付与能力としては自動追尾とバリア貫通の能力を保有している。

 

複数の【ディバイン・シューター】を立体的に誘導操作し、高町なのは自身の射撃魔法の主力攻撃手段とすることで、防護服の防御性能の高さによって発生する弊害、機動力の低さをカバーするという目的があり、レイジングハートの実戦訓練メニューによって、なのははこの魔法を習得しようとしている。また、レイジングハートの想定している次段階のビジョンとしては、なのは自身が異なる種類の魔法を行使していても【ディバイン・シューター】の魔法弾操作が行えるようになって欲しいとも考えているのだ。

 

ただレイジングハートが想定しているこのビジョンは、思念制御の中でも高等技術であり、魔法を習いたてのなのはには些か厳しいようにも見受けられるのだが、ある意味ではそれだけレイジングハートが高町なのはに対して期待しているのでは無いかとも予想できる。そもそもの話、なのはがこの【ディバイン・シューター】の習得をする事になった理由と言えば、黒衣の少女との戦闘がキッカケとなったと言える。

 

黒衣の少女、金髪の少年との戦闘において特に高速機動戦闘を行う黒衣の少女によって、なのははその速度に翻弄されてしまい自分の持ち味と成り得る射撃・砲撃型の魔法戦を行う事が出来なかったのだ。レイジングハートの戦闘分析によって浮かび上がったその欠点を補う為に、自らの周囲を保護する誘導弾の習得は必須要素だったのだ。遠距離からの砲撃によって敵対勢力を撃ち落すことは、なのはの特性にを考慮しても理想的ではあるが、それ以外の局面、特に近・中距離戦闘においての自衛手段の取得はそれ以上に重要となってくるのだ。

 

現段階では【ディバイン・シューター】を使用するには、詠唱を唱えなければ上手く制御出来ないのだが、あと数週間も訓練を重ねれば詠唱を唱えずとも【ディバイン・シューター】の実戦使用が可能となる、とレイジングハートは予測している。何故このように予測しているかと言うと、術者である高町なのはにディバイン・スフィア形成のイメージが固まりつつあり、デバイスに魔力を流し込むだけで一通り完成しているからだ。

 

正直な話、これほどまでに魔法習得が早ければ、単独で黒衣の少女を撃退する事も夢ではなく実現出来るのではないか、と思わせる程に高町なのはの魔法技術の習得速度が速いのだ。

 

 「あ、いけない。もうすぐ授業が終っちゃう」

 

つい先程行った訓練内容をモニターし、反省点・改善点をチェックしようとした矢先に授業終了の時刻が迫っていることになのはは気付く。何を隠そう今は授業中なのだ。授業を受けているにも関わらず、何故なのはがレイジングハートと共に魔法の鍛錬を行っているのか?授業を受けなくても良いのか?と疑問符が浮かび上がるかもしれない。

 
 

だが、心配に及ばずとも【現実で】高町なのははしっかりと授業を受けている。言い換えればこれもれっきとした魔法技術の修練なのだ。

 
 

まだ詳しく語る事は出来ないのだが、なのはは【現実空間】つまり、我々が日常に過ごしているのと同じ時間の中では、きちんと聖祥大小学校3年1組で授業を受けている。では今なのはが訓練している場は何なのかと言うと、魔法によって形成・維持しているイメージトレーニングの空間、仮に【意識空間】とでも呼称する事にしよう。

 

聡明な方は、現実と意識、二つの空間に神経を注ぐのは大変な労力なのではないかとお考えになるだろうが、魔法技術には複数の思考・行動を行う技法が存在し、魔導師はこの技法のトレーニングも行っている。より精錬した魔導師となるには必要な技法をなのは達は修練しようとしているのだ。

 

 「レイジングハート、
  お昼休みになっちゃうから午前の訓練はここまでにしておくね。
  モニターチェックは後でするよ」

 

 『――All light My master, Make yourself at home.
    (了解です、マスター。どうぞごゆっくり)――』

 

レイジングハートに休憩を取る事を伝え、なのはは意識空間を主体にした意識から現実空間を主体とした意識に切り替えた。なのはの意識の切り替えと同時に授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。授業が終了したことに一安心し、なのはは複数行動によって書き写した自分のノートを確認した。いつも彼女が書き写しているノートの状態と寸分違わないので、上手に出来ていることにふと笑みがこぼれる。

 

 「なのは、お疲れ。
  お昼は何処で…って、随分嬉しそうだけど、何か良い事でもあったの?」

 

授業が終了したので、友人のアリサがなのはの席に近付き昼食を摂る場所を何処にするか聞き出してくる。しかし、なのはの笑顔がこぼれる様子を疑問に思ったのか、アリサがその訳を尋ねた。

 

 「あ、アリサちゃん、いや、な…なんでもないよ。
  お、お昼は屋上で食べようよ。すずかちゃんやシン君も……って!?」

 

アリサからの質問にタジタジとなってしまったなのはは、話題を逸らそうと昼食を摂る場所の相談を後方の席のすずかやシンに求めようとしたが…

 

 「あの…シン君?どうしたの?」

 

 「………」

 

【心此処に在らず】といった状態、いやまるで能面のような表情で虚空を見つめるシンを心配したすずかの姿がなのはの目に映った。シンの様子に気付いたアリサがシンの席の隣に居るすずかに声を掛ける。

 

 「すずか~、シンがどうかしたの?」

 

 「あ、アリサちゃん。シン君の様子がおかしかったから、呼びかけてみたんだけど反応が無くて…」

 

 「何よそれ?シン、具合でも悪いの?」

 

なのはの席を後にしたアリサはシンの席に向かう。

 
 
 
 
 

 ―――――シン君!――シン君!!意識戻して!!――授業終わってるよ、シン君!!―――――

 
 
 
 
 

なのはは咄嗟に念話で呼びかけるが、シンからのレスポンスが無く舌を巻いてしまう。かなりトレーニングの方に意識が傾倒しているのでは無いかとなのはは気付き、必死にシンに対して念話で呼びかける。

 
 
 

 ――結局シンが意識を現実空間に引き戻したのは、
               なのはが念話で呼びかけ続けてから5分ほど経過した後であった――

 
 
 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 
 
 

見渡す限りの青、藍、蒼…上を見ても下を見ても青空ばかりが広がる空間に一人の少年―高町シン―が居た。いや、正しく言えば一人ではなく、ここ最近この少年の話し相手の一人に加わった魔導端末―デスティニー―も含めて一人と一機が存在している。

 

 『――では、始めてくださいマスター ――』

 

デスティニーから開始を促され、シンは返事と共にコクンと頷き両手を前面に差し出す。差し出した両手の間に桜色の魔力光が発生する、それを元に自分の全身に行き渡る様にリンカーコアという器官から魔力を放出し調節していく。

 

その感覚をシンが把握すると、魔法術式を展開する為の【トリガー・アクション;Trriger Action】を言葉にする。

 

 「――我は求める、頑強なる守護。幼き我が身に鋼の護身を……
 【エンチャント・ディフェンス・ゲイン;Enchant Defence Gain】!!――」

 

シンが言い終えると、シンの全身が桜色に激しく輝き、炎が燃え上がる様に魔力光が勢いを持ち始める。その様子を一見すると、辺り一面広がる青空と相まって非常に映える光景にも思える。しかし、暫くしてシンの口から苦悶の声が上がり始めた。炎の様な勢いを持った魔力光は収まるどころか、より一層その勢いを増そうとしている。堪らずシンは術式を解除する為の解除ワードを発声した。

 

その言葉を発する事によって、シンを覆っていた荒れ狂う炎の様な桜色の魔力光は急激に大気中に散って行った。肝心のシンはと言うと、長距離マラソンを走った後のランナーのように息を荒げて足りなくなった酸素を肺に取り込んでいた。

 

 『――マスター、今の魔力の流れは防護服を中心としたフィールドを強化しようとして、危うくフィールドの外まで魔力を流出する所でした。自身の身を強化したいのであれば、正しいイメージで御自身の身と防護服を中心としたフィールド内に魔力を流すべきです――』

 

デスティニーから情け無用の指摘が入っているが、勢い良く魔力が駄々漏れし、呼吸することすら困難だった所為か、シンはデスティニーの忠告に応じることすら出来ずにいた。

 

今し方シンが発現させ様とした魔法はミッドチルダ式の補助魔法であり、発動者もしくは対象者の能力強化を主眼においた【Increace Type;インクリースタイプ】つまり、対象者に能力強化の効果を齎す【ブースト魔法】である。シンがこのミッドチルダ式の補助魔法を使用しているのは、単にユーノに教えて貰っただけではなく、シン自身の魔力の特性が関連するからである。

 

そもそも【魔法】という技術体系は大気中に存在する魔力素を特定の技法で操作して【 作用 】を発生させる技術体系である。術者の魔力を使用して、【変化】【移動】【幻惑】 原則的にはこのいずれかの【 作用 】を起こす事象なのだ。この引き起こされる【 作用 】を術者が望む効果が得られるように調節もしくは組み合わせた内容を、魔導師は術式詠唱などのトリガー・アクションによって発動する。

 

この原則的な【 作用 】を軸にして、枝分かれする様に【圧縮】や【放出】など様々な魔法技術が存在するのだが、この魔法技術の種類の得手不得手は個々人によって差異が生じる。この様な個々人が持つ魔力的特徴を【魔力資質】と称している。魔法技術の様々な場面で顕著に現れるものだ。

 

先日発生した黒衣の少女達との魔法戦闘においてシンが発現させた強化魔法をデスティニーは解析した。解析の結果、シンの魔力資質は【変化】を起点において、【自分自身もしくは他人の能力に強化を齎す魔法】に特性が在るのでは無いかという結論に至ったのだ。そこで一度、単純に魔力を込めて自分自身を対象に施す能力強化【自己ブースト】の訓練をデスティニーを主体とした教導の下にシンは訓練を敢行した。

 

しかし、シン自身の加減が下手なのか要領が悪いのかイメージが不出来なのか定かではないが、シンは毎回毎回制御困難な事態に陥り一気に魔力量を消耗し疲弊してしまうのだ。ここで【自己ブースト】の利点を説明すると、一度行った魔力による能力強化は無意識でも維持できる事に利点がある。但しシンの場合、何故か魔力量が底を尽きてしまう程に【自己ブースト】が掛かってしまうのだ。桜台での魔法戦闘においてシンがブラックアウトを引き起こしたのも、この事が原因であると、デスティニー達は結論付けている。

 

一応ここ数日の間シンが訓練する際には、なのはやレイジングハートそしてユーノも手伝っている為、訓練の後はなのははシンの介抱、レイジングハートはまだ魔導端末として幼いデスティニーへの助言、ユーノは介抱された後のシンとデスティニー対して魔法技術の講釈を行うのが、ここ数日の日課となっていた。

 

だが、シンよりも魔法技術の修得が早いなのはとレイジングハートのコンビの足手纏いになる訳にもいかない。自己ブーストをシン自身が扱いきれない事を問題に思ったデスティニーはシン共々ユーノに解決策が無いか教えて貰ったのだった。その結果として、ミッドチルダ式の【ブースト魔法】をユーノから教えて貰ったのだ。【ブースト魔法】は一定の魔力付与の元に能力強化を行うのが特徴だ。発動のプロセスとしては…

 
 

①消費する魔力量を術者が調整し、
どの種類の能力(防御や攻撃、速度強化など)に強化を施すのか詠唱によって設定する

 

②詠唱の段階で能力強化の対象者を設定する(例;術者自身の場合、我が~等)

 

③最後に魔法術式を展開し、魔法効果を発動する為にトリガーアクションを詠唱する

 
 

以上、この三点が【ブースト魔法】の発動プロセスとなる。最後にトリガーアクションの詠唱と説明しているが、最もポピュラーなのは効果を齎す術式名を唱える事になるだろう。一応、この【ブースト魔法】と呼ばれる補助魔法は魔力ランクCレベル相当にあたる困難さであり、飛行魔法よりも修得は困難でもある。飛行魔法をデスティニーの補助が在る事前提で行使出来るシンには些か苦難するレベルの魔法なのだ。

 

 「…ハァ…ハッ…ちっ…くしょ…う…分かってるよ…」

 

 『――いいえ、マスターは理解しておりません。
 …ですが一度の訓練で魔力が底を突かなくなったのは大きな進歩なのでしょうが――』

 

今デスティニーが洩らした愚痴の通り【ブースト魔法】を教えて貰ってからのシンやデスティニーの訓練における利点はこの一点に尽きるのだ。今までは訓練と呼べる程の内容をシンは全くこなせなかったのだ。

 

デスティニーとしては、射撃魔法の誘導制御といった実践的な訓練に移行しても良かったのだが、現在なのは達を含めて海鳴市に確認される四人の魔導師の内、魔法戦闘においてシンだけが持ち得る優位性を確立する事が先決だと考えた為に【ブースト魔法】や自身の能力強化を主体とした訓練を積んで来たのである。

未だ予測段階ではあるのだが、デスティニーが想定しているビジョンとしては【ブースト魔法】を修得していく内に、シン自身が魔力の制御や加減も身に付くようになるだろうと考えているのだ。そして【ブースト魔法】を使役出来るようになれば、現在海鳴市で確認されている魔導師の中で魔力量が四人の中で最も劣っていても撃墜され難い術を身に付けられるのでは無いかと予測しているのだ。

 

ここで一番重要なのは、シン達が魔法戦闘で対峙する事になる黒衣の少女と金髪の少年を撃墜する事ではなく、最終的にジュエルシードを封印し確保する事が重要になるのである。その為には、封印魔法を登録しているレイジングハートを使用出来るなのはを守護出来るようになるのが、理想的な形なのだ。シン自身もその事には納得しており、その為に魔力を消耗して気絶する様な目にあっても【自己ブースト】ないし【魔法ブースト】を修得しようとしているのである。 

 

 「………なぁデスティニー、防護服の性能って変更出来ないのか?」

 

魔力を消耗した状態から回復したシンが、デスティニーに対して問い掛けた。何故そのような事を訊ねてくるのかデスティニーはシンに説明を要求した。

 

シン曰く、自身が【ブースト魔法】を展開する際に、全身から防護服まで魔力を浸透させようとすると腰部、脚部そして腕部の防護服の部分で【魔力の流れが重くなるような】感覚に陥り、無理矢理に魔力を流そうとするのだ。そして、無理矢理に魔力を流した後は、制御が困難な状態に陥り【自己ブースト】を行う時と同様な結果となってしまうらしい。シンは自分が掴んだ【この魔力の感覚】から、自分自身が【ブースト魔法】または【自己ブースト】を使用する際に制御困難な状態に陥るのは防護服に何かしらの原因が存在するのでは無いかと考えたのだ。だからこそ、シンはデスティニーに防護服の性能を変更出来ないかと提案したのだ。

 

どうやらデスティニ―の思惑通りにシンも魔力の感覚を掴んできているようであり、デスティニ―は自らに存在するかも分からない歓喜に包まれて来るような感覚で満たされたのだ。

 

 『――了解しましたマスター。
  そういうことでしたら防護服とマスターの魔力波長を計算しておきます。
  御時間が掛かるかも知れませんので、防護服の設定の変更については今しばらくお待ちください――』

 

 「ああ、頼むよ」

 

シンが魔力の感覚を掴んで来ている事に喜ぶ反面、防護服の性能面での問題点が浮き上がってしまった為デスティニーは問題解決を洗い出すのに時間が掛かる旨をシンに伝え、了承を貰った。魔導端末であり使用者をサポートする自分に問題があるのであれば早急に原因を調べ上げなければならないのでデスティニーは必死になる。

 

自分が使用者であるシンに負担を掛けるなど問題外にも程がある、とまだ幼いインテリジェントデバイスは思考しながらもモニターを展開し、情報を整理し出した。

 

冷静を装いながらも慌ただしく状況確認をしているデスティニーのその様子をもしもレイジングハートが観測していたら【まるで目に涙を溜め込みながら必死にモニターを見ていますね】と評された事だろう。

 
 
 

 ―――――――――シン君!!!!――――――――

 
 
 

 「!?な…何だよ!?なのは!?イキナリ大声で念話するなよ、びっくりするだろ!?」

 

突然なのはから思念通話が入ったことで、シンは驚愕してなのはに苦言を呈した。しかし、先程から何度も何度もなのははシンに対して念話で呼び掛けていたのだ。その事実についてデスティニ―は感知していたのだが、シンからの指示が無かったので応答しないでいたのだ。

 

実際の所、シン自身はなのはからの念話を無視していたという訳ではなく本当に耳に入っていなかった様だ。それだけ【ブースト魔法】の魔力の流れと自身の魔力の感覚を掴む事に必死だった様だ。しかし、デスティニーはその事を指摘する余裕は最早片鱗を見せて居らず、待機状態のアクセサリーのままモニターを凝視している。

 
 
 

 ―――シン君、やっと念話が繋がった…早く意識を戻して!!もう授業終わっちゃってるよ!!―――

 
 
 

 「はあ!?嘘だろ…全く気付かなかった…」

 

シンは自意識をイメージトレーニングを行う意識空間に傾倒するあまり、現実空間において授業を受けていることに全く意識を割けなかったことにまたしても驚愕するのだった。だが、今は思考しても意識を現実空間に向けられなかった自分を責めても仕方ない。すぐさまシンはモニターを見つめている待機状態のデスティニーに向き直った。

 

 「デスティニー、ごめんな。授業終わったから意識を切り替えるよ」

 

 『――了解しました。
  どちらにしても解析には時間が掛かりますので、
  良い区切りになります。しばし休息を取って下さい――』

 

シンの謝罪の意図とその理由を知っているからか、デスティニーはシンの謝罪に対して了承の言葉と気遣いの言葉を同時に掛けた。デスティニーからの返答を受け取ったシンは自身の眼前に右手を差し出し、魔力を込める。

 

そして、シンの右手前方に魔法陣を展開し自らの周囲に魔力光を纏わせる。すると、シンの身体が下半身から消失する現象が発生し始めた、その消失は次第に上半身にまで表われて来る。やがてシンの身体全体が消失し、意識空間には待機状態のデスティニーだけが残された。

 

 『――まだまだ問題は山積みですね。
  私がしっかりマスターを導いて行かなければなりませんね――』

 
 
 
 
 

 シンが現実空間へと戻った事を確認してから、デスティニーは前方に展開していたモニターを増大させた。

 
 
 
 
 

 最初は一つ、二つと増えていただけなのだが、次第にその数は勢いを増して行った。

 
 
 
 
 

 前方に展開するだけでは足りなくなったのか、デスティニーの左右後方上方下方周囲360度にモニターが展開されて行った。

 
 
 
 
 

 デスティニーを取り囲むモニターから漏れ出す輝きで、青一色の意識空間は色取り取りの輝きを周囲に放つ。

 
 
 
 
 

 何処か不気味さを感じ取れる様なその空間の中で、一機の魔導端末はモニターを見つめ続けるのであった。

 
 
 
 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 
 
 
 

海鳴市にある市街地、高層ビルが立ち並び大勢の人々の出入りの多い場所だ。人の出入りが多いとなると、当然交通区画も整備されていなければ、安全に行き交う事も出来なくなる。なので、この市街地ではあちらこちらに十字路交差点などが見受けられ、都心に似通った風景が感じとれる。歩行者と自動車の交通を分離する役割を持った信号機が、歩行者に対して『止まれ』つまり『赤』色の表示を行っている。そして、その表示が『進め』つまり『青』色の表示になるのを待ち構えている人々の群れの中に一際目立つ一組―レイとフェイト―が居た。

 

この国の人々に見受けられる黒髪や茶髪系統の髪ではなく、透き通るような金色の髪は人々の注目を集める。しかし、そのような様子を特に気にする訳でも無く、平然としていた。

 

「平然としている」この様子は、当人以外の人々から見た印象であり、実際のところはいちいち気に掛けていられる程の余裕が無かったりするからなのだ。

 

レイに関しては、フェイトとレイの二人から少し離れてジュエルシードの探索を行っているアルフと連絡を取り合っているのだ。

 

では、フェイトはどうなのかと言うと、横断歩道の向こう側、彼女自身の正面にいる親子に目を向けていた。

 

この表現をすると「フェイトがサボタージュをしているのでは無いか」と勘違いをされるかもしれないので弁明するがアルフとの連絡の取り合いはレイとフェイトが交代交代で行っており、今の時間帯はレイが担当をしているのだ。それで手持ち無沙汰になってしまったフェイトが何か無いかと考えて視線を回した結果、今視線を向けている親子に目が止まってしまったのだ。

 

 「今日のお昼ご飯、なに?」

 

 「ん~そうねぇ。何にしよっか?」

 

数メートル離れていても、子供の元気溢れる声と母親の微笑みの様子から会話の端々を読み取れる。時間帯から考えて、昼食のメニューについて相談しているのだろう、とフェイトは予想していた。ごく平凡な、どこにでもあるような普通の家庭の光景がそこにあった。

 
 
 
 
 

その光景は彼女自身にかつての自分と母との記憶を想起させるのには充分過ぎる光景だった。

 
 
 
 
 

どれほど小さい時だったかも覚えていない頃の幼いときの記憶、いや、記憶と言うほどでもないありふれたものだった。

 
 
 
 
 

記憶の中の自分が描く母の似顔絵、食事の準備が出来た事を伝える母の柔らく優しい声。

 
 
 
 
 

食事のメニューは自分の好物か確認を取る無邪気な彼女、そんな彼女に対して【優しい笑み】を浮かべて応える母。

 
 
 
 
 

記憶の中の母の笑顔は、今現在フェイトに向けられる表情とはあまりにも違う事にフェイトの胸は張り裂けそうな程に痛んだ。一体何時の頃から母は変わってしまったのか?とフェイトは自問自答した。しかし、どんなに思考を巡らせても結論など出てこない。だからこそ、フェイトは彼女の母親が突き付けて来る無理難題に答え続けなければならないのだ。

 

因みにフェイトの母親が突き付けて来る無理難題とは「フェイトの母親が指定する世界で、指定した物体を持って来ること」である。その指定された物体の中には、ロストロギア級の物も含まれているのだ。優秀な魔導師として教育を施されて来たフェイトとレイ、アルフが一緒であれば、困難な事などそうそう存在する物ではない。

 

しかし、フェイトの母親はそれを理解しているためか度々困難な要求を突き付けて来る。それでも、フェイトは記憶の中の母親が幼い時に見せてくれた笑顔を再び自分に向けてくれる様に自分が頑張らなければならないのだ、と自分に言い聞かせ続けている。それが彼女の心を縛り続ける呪詛になるとは把握できずに。

 

 「……イト、………フェイト」

 

 「…!?…っえ!?」

 

数歩先を進むレイに声を掛けられ、フェイトはふと我に返った。周囲を確認すると、信号機は何時の間にか『青』色の表示に変わっている。立ち止まっていた人々も既に動き出していた。フェイトが立ち止まったままで居た為に、彼女の後ろに居た人たちは彼女を避けながら、横断歩道を渡っていた。フェイトが動き出さない事をその背に察したレイは、見かねて彼女に声を掛けたのだ。

 

思考の海に沈みこんでいたフェイトはすぐさまその状況を把握すると、頬を赤らめながら早歩きでレイに近付いた。すると、先程自分が記憶を思い返す原因となった対面にいた親子とすれ違った。親子は仲良く会話を続けている。それをフェイトは横目で眺めて、すぐさま目を逸らす。

 

 「ごめんね、レイ。ボーっとしてて」

 

 「いや…気にするな、対した事じゃない」

 
 

 レイ達は『青』色の表示が点滅し、『赤』色に変わる前に横断歩道を渡りきった。

 
 

レイは横断歩道を渡りきる直前、フェイトが横目で見ていた親子を見た。仲の良い親子の様子にフェイト自身がかつての彼女と母親の関係を思い返していたのだろう、と予測したのだ。フェイトと彼女の母親の関係は今よりもずっと幼い頃良好だったという事は、レイはフェイトから聞き及んではいた。しかし、だからこそどうしたら最善なのか対応が出来ないでいるのが現状でもある。

 

レイにとって、テスタロッサ親子とフェイトの教育者は命の恩人でもある。だから、彼女達の力になれることならば可能な限り応えたい。しかし、一番の命の恩人であるフェイトの教育者は既にレイやフェイトの下から去ってしまっている。その上フェイトの母親は「フェイトが向かう世界の先々で彼女の手助けをしてくれればいい」と言うだけだ。

 

では、最後にフェイトに対して支援出来ているのかと言うと、彼女は自分で出来る事は大抵自分で行おうとするし、向かう世界において魔法戦闘などが発生するにしても、彼女が自ら先導して事無きを得てしまうのだ。それほどまでにフェイトは魔導師として教育を完璧に施されているのだ。レイが手助け出来る事といえば、複数人の魔導師が束になってこちらに戦闘を仕掛けてくるような事態になった時などはサポートに徹している。

 

普段の生活においてはフェイトの教育者から教わった炊事洗濯などの健康面でフェイト達をレイはカバーしている。フェイト自身もまだ10歳にも満たないので、日常で必要となって来る生活スキルが乏しいのは仕方の無いことだし、アルフは元々フェイト達にに出会う以前は【普通の生活】を行って来ていないため、生活スキルを備えてなどいないのだ。結局、今のレイに出来ること戦闘面においては、実を言うとそれ程多くは無い。その為常にフェイト達に対してあらゆる面でサポートを行っている。今回の第97管理外世界でのジュエルシード捜索も例外ではないのだ。

 

 「…フェイト」

 

 「レイ…何…?」

 

横断歩道を過ぎ去ってある程度歩いてきた所で、レイはフェイトに振り向き声を掛けた。突然呼び掛けられた事に驚きながらフェイトはレイの呼びかけに応える。

 

 「そろそろこのエリアの捜索も終わる…
  時間も丁度良いから、捜索が終わったら食事にしよう」

 

 「え?…でも…」

 

突然のレイの申し出にフェイトが異を唱える。それもその筈だ、フェイトとしては一刻も早くジュエルシードを揃えて母親に渡したい気持ちで一杯一杯なのだ。その為にはこのエリアの捜索が終了したら、すぐさま次のエリアを徘徊したいとも考えているのだ。

 

そう、休んでいる暇など無いのだ、自分の母親が満足する代物を見つけ出すまでは休息する事をフェイト自身が許しはしない。行動の果てに優しかったかつての母親の笑顔を取り戻し、記憶の中にある柔らかくも優しい思い出を実現させたいという行動原理が彼女にあるからだ。どんなに辛く厳しい事態にも耐えなければならない、愛しさに肩を震わせても、為し遂げなければならない。何故なら、彼女には譲れない【願い】があるのだから…

 

 「フェイト、どんなに気が急いていて根を詰めても休息を取らない人間に成功など有り得ないぞ」

 

 「……え?何で?」

 

自分の考えを見透かされている事にフェイトは驚く。

 

 「…やはり、すぐにエリアを移して捜索する事を考えていたか」

 

 「…!!」

 

レイが発した言葉からカマを掛けられていた事に気付き、フェイトの眉根が吊り上る。

 

 「フェイト、根を詰めることは悪い事だとは言わない…
  だが、それは度が過ぎれば自身の身を滅ぼす事にもなる」

 

フェイトの表情にいかにも「不機嫌です」という感情が表われていても、レイは自身の考えを言葉に出すのを止めない。レイの持論としては以下の通りとなる。

 

人間にとって何かしらの活動を行うに至って継続するということは確かに大事なことである。ただ、人間という生き物は活動を行い【成功】を収めるためには【集中力】が重要な要素となって来る。例えるならば、学業・仕事・スポーツなどありとあらゆる場面で【集中力】の有無が成否を左右することが多々あるのだ。そして、この集中力というものは、日々の食事に気を使い充分な栄養も摂取すること、休息を取ることも大事なのだ。そして、これを疎かにすると良い事態どころか最悪な事態すら起こしかねない。それほどまでに人間にとって集中力というものは重要なのだ。

 

 「でも、この間の戦闘からジュエルシードの発動が感知されていないし…
    あんまり長引かせて母さんを待たせたくない……」

 

レイの説得を聞かされても尚フェイトは引き下がらない。彼女にとって一番に優先する事項とは、とっくに自分の心の中で決定しているからだ。例え、幼い頃から切磋琢磨している仲で家族同様の存在であるレイの言葉でも揺るぎはしなかった。

 

 「…まぁ、そう言うとは思っていたさ、だから賭けをしよう」

 

 「賭け……?」

 

レイからの思わぬ提案にフェイトは宝石の様な瞳を丸くして、呟いた。

 

 「ああ、このエリアの捜索が終った後に次のエリアに移る。
  但し、そのエリアで、きっかり1時間捜索して
  ジュエルシードの反応、発動が無い様だったら大人しく、
  アルフも交えて三人で休憩を取る。これならシンプルで分かり易いだろう?」

 

 「分かった。次のエリアで1時間以内に反応、発動が確認されたら……」

 

 「もちろん、ジュエルシードの確保に向かうさ。」

 

 レイが提案してきた賭けにフェイトは頷き、彼女は必ず次の1時間で見つけ出してみせると心中で決め込んだ。一方のレイもジュエルシードの発見の有無はともかくとして、捜索に対しての時間の区切りをフェイトと取り決めできた事に安堵した。フェイトは約束事に関しては必ず守るきちんとした人格を持ち合わせていることをレイは理解している。だからこそ、フェイトに対して先程の【賭け】を要求して来たのだ。

 

 「そうと決まればさっさとこのエリアの捜索を終えて、次のエリアに向かおう。
  時間というものは誰に対しても平等で、貴重なものだ」

 

その言葉を最後にレイは再び歩き出し、フェイトもその後に続く。

 
 
 
 

そして、レイ達が次のエリアに移動してから1時間後、レイの思惑通りフェイト達は3人で休憩を取る事となったのだ。

 
 
 
 
 
 
 
 

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