アム種_134_011話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:36:30

第十一話 少年は大地へと向かう



「何なの……あれは一体……」



 窮地に陥ったインパルス。

 モニタリングしていたその光景に、思わずタリアが腰を浮かせかけた時、「それ」は現れた。

 薄く、全てを切り裂くような流線型のフォルム。

 海のように深い蒼の機体色。

 MSなどより遥かに小さなサイズでありながら、インパルスを捕らえたカオスを体当たりで吹き飛ばすほどの出力を「それ」は持ち合わせていた。



「あれは……ジェナス君のようだね……?」



「それ」を駆るのは、異世界からきたなどと未だ半信半疑の自己紹介をした少年。

 インパルスの──シンの危機を救った機体は、刃のような戦闘機としての本体を分解し、彼の身体を覆う装甲となっていった。

 さきほどまでとは違った意味で、タリアは思わず立ち上がってその光景に目を奪われていた。



「なるほど……。たしかにあのような機体は、我々の世界には存在しない……少なくとも、私の知る限りは」



 外見からいってしまえば、マッシブなシルエットの、重装甲が施されたノーマルスーツ程度でしかないというのに。

「それ」は二振りの対艦刀のような剣を手に、体格差をものともせずカオスと互角に斬り結んでいる。

 対ビームコーティングでもされているのか、はたまた特殊な素材が用いられているのか、ビームの刃をその巨大な刃は防ぎ、跳ね除けている。同様に、その装甲も。



「なんにせよ、これでシンのほうもなんとかなりそうね……アーサー、破砕作業の進行は?」

「はぁー……すごいなぁ……」

「アーサー!!」

「は、はい!!現在───」

「ユニウスに亀裂!!内部からの爆発を確認!!四つに割れます!!」



 呆けたように見ていた副長、アーサーへの叱責が飛ぶと同時に、メイリンの報告がブリッジに響く。

 砂交じりのモニターが捉えた岩塊は彼女の報告通り十文字に爆発を伴い、砕け割れていくところであった。







「こんのっ……せっかく、割れたってのに!!こいつら、退けよっ!!」



 シンがビームブーメランを抜き、ガイアへと向けて投げ放つ。

 MA形態へと変形したガイアはそれをかわし、インパルスへと飛び掛ってその四肢で岩盤へと両腕を押さえつける。



『お前えええぇぇーっ!!』

「っく……!!」



 接触回線で聞こえてくる声は、ひどく幼い女の声だった。

 こんな奴が、ガイアのパイロット?こいつ、自分が何をしているのかわかっているのか?

 自分の行動で地球が、どうなるのかを。



「この、やろうーっ!!」



 巴投げの要領でインパルスの全身を使い、ガイアを投げ飛ばす。

 即座に起き上がり、無重力下で体勢を崩しているガイアへとバーニア噴射で追いつく。

 そしてレーザーを切った状態のエクスカリバーを喉下へと押し当て、ブースターを全開にして大地へと叩きつける。

 女の呻き声が聞こえたが無視して、接触回線で語りかける。



「お前!!こんなのが落ちたらみんなが『死んじまう』んだぞ!?もっと細かくしなきゃいけないのに、邪魔すんなっ!!」

『!?』

「手伝えとは言わないから、作業の邪魔、するなっ!!退けっ!!」



──シンの言葉が、届いたのだろうか。もがいていたガイアの動きが一瞬、ぴたりと停止する。

 いや。停止したかと思うと、更にじたばたと無茶苦茶な動きで暴れ、インパルスを無理やりに引き剥がす。

 引き剥がしてあらぬ方向へビームを乱射したかと思うと、明らかに落ち着きをなくした動きでインパルスとは正反対の方向へ飛び去っていく。



「あ……おい!?」

『シン、行ったぞ!!』

「っ……ええいっ!!なんなんだよ、あいつっ!!」



 カオスと斬り合っているジェナスからの通信。

 突き出されたアビスのビームランスを受けると共に、エクスカリバーのレーザーをオンに。

 ランスをレーザーによって真っ二つに断たれたアビスは肩のキャノンを撃ち込むと、二本になってしまったランスを投げ捨てる。



 そうだ、まずはこいつら……!!戦う気がないなら、放っておけばいい。

 余計なものに、構ってられない。限界高度までに作業を完了しなければならないのだ。

 既にユニウスの底面部は、赤熱化をはじめていた。時間はない。







「何ィっ!?ステラがどっか行ったぁ!?何やってんだよ!!」

『しらねーよ!!大方相手からの通信でうっかり、ブロックワード聞いちまったんだろーよ!!』

「ぐ……マジか……」

『ネオ!!正直こっちもやばい……!!エネルギーの残量がガーティに戻るまで持ちそうにない……!!』

「おいおい……勘弁してくれよ……。俺、始末書書きたくないぜ?」

『こいつら、冗談抜きでやる……。このままじゃ大気圏までに落とせねぇ……!!』

「だーもー!!わーかった!!お前ら、なんとか持ちこたえろ!!迎えに行ってやっから!!いいな!!」



 通信を切って、ネオは頭を抱えた。

 余計なことに首をつっこんだ報いだろうか?



「いかがなさるので?」

「行かなきゃ、しゃーないだろが。ミラージュコロイド維持したまま、全速前進。三人を回収する」

「は?ですが……」

「最悪、そのまま大気圏に突入する!!やばそうな石ころがあったらついでにゴッドフリートで叩き割る!!異論は!?」

「本気ですか?」

「あー本気だよ、悪いか!?奪った機体も、貴重なパイロットも失うわけにはいかんだろうが!!」

「……いえ」



 リーの胸倉を掴んで、喚きたてることで無理矢理に説得する。

 上官の立場を最大限に利用した恫喝だ。

 すごすごと引き下がるリーに溜飲を下げるネオ。

 あとは、もう一つの懸案事項だけ。



「さーて……こっちの説得もうまくいくと、いいんだがね……?」







『各機!!限界高度だ、後退しろ!!』



 3つ目の岩塊が砕けたところで、無情にもその命令は下された。

 MSの推力では大気圏に捕まり、振り切ることができない──これ以上の作業は自殺行為を意味する。限界高度がやってきたのだ。

 各々にユニウスから退いていくMSたちを、シンやジェナスも確認していた。



「そんなっ……!!」

『まだでっかいのが残ってるってのに!?』



 顔を見合わせる二人の機体へと、カオスとアビスのミサイルが降り注ぐ。

 顔を背け、岩の飛礫が晴れたそこに、二機の姿はなかった。



「逃げたか……。でも、このままじゃ地球が……」

『こんなとこで戻れるかよっ!!』

「あ、おいジェナス!?」



 一応の小康に、安堵するシンを尻目に、ジェナスのエッジバイザーが飛び立つ。

 殆どMSか、それよりわずかに大きい程度の石ころばかりになった足元の流星群から離れ、未だ威容を湛える巨大な岩塊へ。その表面には、いくつかメテオブレイカーが設置されたまま放置されている。



「ジェナス、死ぬ気か!?」

『大丈夫だ、ゼアムジャケットとネオエッジなら!!大気圏の熱にも耐えられる!!』

「おい、待て!!なんでそんな───」

『ピープルを守るのが、アムドライバーの仕事だっ!!』

「はあ!?ピープ……あ、おい!!ジェナ───え?」



 センサーがもう一機、ユニウスへと向かう機影を捉える。

 追わせたメインカメラに映るのは、鋭角的なフォルムに、真紅のボディの戦闘機。 あれは──。



「アスランさん!?」



 アスランの駆る、セイバー。

 彼もまたジェナスと同じように、ユニウスの破片へと、推力を全開にして突き進んでいく。



「本気かよ!?いくらVPS装甲があるからって……!!」



 エクスカリバーを背中に戻し、ちらりと豆粒のごとき後方のミネルバを見る。

──生きて、帰ってこれるかなぁ。戦場ならともかく、こんなことで死ぬかもしれないなんて、覚悟は、決めてはいなかった。



「もう、知らねーぞ、俺は!!死んだら恨むからなぁっ!!」



 でも、放ってはおけない。一応VPS装甲のエネルギー残量を確認して、シンもまたレバーを押してインパルスを発進させる。

 二人が向かったユニウスセブン、地球へと落ちていく最後の岩塊へと、全速力で──


 
 

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