クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第070話

Last-modified: 2016-02-20 (土) 02:19:44

第七十話 『おまえを助けるためにやってきた』
 
 
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GXは頭部を失ったゴールドフレームを連れて、アプリリウスの港に帰還した
何度か検問に止められたが、ガロードと名乗ると通してくれた

「いったいどうなってんだよ、ったく!」
『・・・・・・・・』

ガロードたちの輸送船に戻り、ゴールドフレームを収納する
それを確認すると、すぐにガロードはきびすを返した

『どこ行くんだよガロード』
「いや、生きてるヤツがいるかもしれねぇしな。ちょっと様子を見てくる
  代表さんやジャミルは大丈夫だと思うけど、先に合流しといてくれよ、シン」
『わかった』

GXはアプリリウスの外に出て、破壊されたプラント、ヤヌアリウスを見回る。生きている人間はほとんど見えない
他にもザフトのMSが救助、捜索に当たっているようだが、成果は見えないようだ
彼らは生きている人間を救出するというより、死体の身元を確認しているという感じだ

「人間を滅ぼしたいのかよ、こいつら・・・・」

ガロードは歯噛みする。GXの手に、こつんと当たるものがある。男の子の死体だった
瞳からは光が失われ、無残な屍をさらしている。思わずガロードは目をそらした

『地獄だな、ここは』

通信が入ってくる。GXの肩を、叩いてくるMSがいた。レジェンドだ
一瞬、ガロードはびくっと身構えたが、そこに乗っているのがレイだったことを思い出す

「レ、レイか。おどかすなよ・・・・」
『この地獄の、原因が判明した。レクイエム。月のダイダロス基地にある、長距離ビーム砲だ
  撃ったのはロゴスの、ロード・ジブリール』
「月、か・・・・」

レイのレジェンドは先ほどの男の子を受けとめ、そっと手で包む

『かわいそうにな。この子も、もっと生きたかっただろうに』
「・・・・ああ」
『なぜ人はこうまでして争うのだろうな。戦争をやりたい人間など、ほんの一握りだ
  だったらそいつらだけで思う存分傷つけあえばいい。なのに現実はこうだ
  力の無い人間だけが、平和を願っている人間だけが真っ先に死ぬ
  そして力を持ち、戦争を望んだ権力者は、か弱い死をあざ笑いながら生きる』
「まーな。きっついよなぁ、こういうの」
『ガロード。俺は、ジブリールもラクスも許せない。あいつらは自分のためだけに戦争を生み出す
  俺は、俺の世界を、おまえたちの世界のようにしたくないんだ
  だから俺はラクスを殺す。ジブリールも殺す』
「・・・・・・・・」

それからレジェンドは男の子の死体を、救助隊に渡した。どうやらレイも救助に参加しているようだ
ずっと向こうの方に、サザビーネグザスの姿が見える

『議長もみずから陣頭に立ち、救助隊の指揮をとっておられる』
「そうなのか」
『ああ。なぁ、ガロード。なぜシンはあんなことをしたんだろうか
  ルナマリアまで巻き込んで・・・・せめて、一言ぐらい相談して欲しかった』
「俺にわかるわけねぇだろ、そんなもん」

生きていると言ってやりたがったが、ガロードはぐっとこらえた
だから少しだけ冷たい口調になってしまった

『そうだな。それもそうだ。だが、友を失うというのは辛いな
  失って初めてわかる、あいつらがどれだけかけがえの無い存在だったかを』
「あ・・・ああ」
『今の俺にできるのは、議長を護ることだけだ。議長は世界を平和に導くすべを提示された
  俺はデスティニープラン実現のため、全力を尽くす』

そう言って、レジェンドが去って行った
その後ろ姿を見つめながら、ガロードはひどく自分が悪いことをしたような気分になる
気を取り直してガロードは捜索を再開した
生きている人間はいなくとも、遺骸を回収したいと考えている遺族は多いはずだった

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アスランはひとまず関係者の無事を確認して安堵した。ユウナ、ジャミル、シン、ガロードの四名は無事である
それらに連絡し、すぐにプラントを離れるように言う
ヤタガラスをプラントに入港させるのはまずいだろう
なにしろ偽者は、ヤタガラスごとオーブ軍を吹き飛ばそうとした男である
あれが事故だったとは思えない。事前に参戦を告げているのだ。明らかに故意である
もしもヤタガラスが近づけば、なにをされるかわからなかった

「プラントを襲ったのは、レクイエムだよ」
「レクイエムですか?」

ヤタガラスのブリッジ、メインモニタでユウナが聞きなれぬ単語を吐く
アスランは艦長席でそれを聞いていた

『そうだ。月ダイダロス基地にいる、ロード・ジブリールの切り札だよ』
「代表、それがプラントを撃ったんですか? 正気か・・・・民間人の大量殺害など・・・・」
『あれはもう完全に狂ってるね。この時期にこんなことやるんだから、思慮分別を失っているとしか思えないよ』
「参ったな・・・・。ザフトはどう動きますかね?」
『今は救助活動に専念しているね。すぐに軍を再編して月に行きたいところだろうけど、
  ラクスに寝返った将兵がかなりいる。こうなるとラクス・クラインがどう動くか、かな
  ただ彼女について気になることがある』
「なんです?」
『一つわからないのがね、彼女、ジブリールより議長の方を敵視してるよね
  あれ、なんでだろう? 元々、開戦の指示をしたのはジブリールらだし、議長は応戦しただけだよ
  そりゃあ、今の議長はちょっといろいろまずいけどさ。それでも彼女、議長に執着しすぎている気がする』
「それは・・・本人に直接聞いてみないとわかりません」
『アスラン、君でもラクスはわからないのか?』
「一応、婚約者でしたが。でも子供の頃から、わからないところはありました」
『そうか・・・・。まぁいいや。ひとまず合流しよう』

モニタが落ちる。アスランは艦長席でため息をついた
正直、ロード・ジブリールのことなどまったく気にかけていなかった
オーブのことや、ラクス、偽者のことなどが頭を埋め尽くしていた
知っていたらどうこうということはないが、それでも無念さが頭を焼く
故郷などとうに捨てたと思っていたが、この無念さはなんななのか

プラントの防衛線ぎりぎりまで、ヤタガラスは近づいた
カメラを望遠すると、粉々になったヤヌアリウスの屍が見える。犠牲者は百万を超えただろう
しばらくして小型の輸送船が合流してくる。アスランはそれをそのまま、MSデッキへ収納させた

「シンゴ、ヤタガラスをこの宙域に固定させろ。トニヤ、メイリン、周辺警戒怠るな
  イアン、付いて来い。作戦会議だ」
「はっ」

ユウナは月を攻めたいと考えている。そのための作戦会議だった
ヤタガラス一機、正面から攻めれば勝機は薄い。だが奇襲さえ成功すれば・・・・

「艦長!」

突如、メイリンが声をあげた。アスランはブリッジを出ようとする足を止める

「なんだ?」
「お・・・・オーブ軍艦隊が・・・・」
「オーブ軍? メンデルでなにか動きがあったのか?」
「いえ、オーブ軍艦隊が本艦に対し接近中です!」
「なんだと!?」

アスランは瞬間、頭が真っ白になった。予想外、という単語も生ぬるい
ラクスはなにを考えているのか。今、艦隊を動かすというのはどういうことなのか

「目標はプラントだろうな、艦長」

ブリッジにジャミルが顔を見せてくる。ユウナも一緒だった

「ジャミルさん。ラクスがプラントを攻めるっていうんですか?」
「戦術としては悪くない。君でさえ驚いたのだ、ザフトはその数倍の驚愕を受けているだろう
  まさに奇襲の中の奇襲だ、これは」
「なにを考えてるんだラクスは・・・・。レクイエムを撃たれたプラントに攻め入るなんて・・・・」
「正義は結局、勝者のものだ。そういう意味でラクスは、わかっていると言うべきかな」
「あいつら!」

ラクスは基本的に、二者が戦っているところへ介入するのが好きだった
彼女はそうやって勝利を築いてきたのだ。今回もその例に漏れなかったというべきか

「どうしますか、艦長?」

イアンが聞いてくる。どうしますか。戦うか、逃げるか。そしてプラントかアメノミハシラに行くか、月へ向かうか
難しい判断を迫られることになった。アスランは腕を組む
オーブ軍とヤタガラス一隻で真正面から戦って、勝てるわけが無い。ここは当初の予定通り、月へ行くべきだろう
そう思ったときだ。ティファがアスランの前に立った

「ティファ?」
「勝てます」
「は?」
「大丈夫、勝てます」
「勝てるって・・・・それはどういう意味だ?」

まるで予言者のようなことを言うと、アスランは思った。ティファの瞳は遠くを見ていて、ここにない
また、その姿がラクスに似ていると感じた
ちなみに心なしか、青ロリの姿をしたティファを、見つめるユウナの顔色が悪い

「戦った方がいいのか、ティファ?」

混乱するアスランに代わり、ジャミルがたずねる。するとティファはこくんとうなずいた

「はい」
「勝てると言われてもな・・・・。そんな不確かな予言で、俺は軍を動かすわけにはいかない」
「だろうな。だがここはティファの言うことを聞いてくれないか?」

ジャミルが言ってくる。彼の優秀さは、少し触れただけでわかっている
だがそれでも、アスランはニュータイプというものを信じられないでいた
人類の革新という思想。どこか幻想じみている。そして戦争の中で幻想を夢見たら、軍人は死ぬ

アスランはユウナに視線を移した

「ユウナ代表」
「ミナのやつ・・・・なんでいまさらこんなものをわざわざティファに・・・・・」
「代表!」
「あ、な、なんだいアスラン?」
「最終決定権は代表にあります。どうしますか?」
「あ、戦うかどうかね。うーん。僕としては・・・・」

ドォン!

瞬間、ヤタガラスのブリッジが大きく揺れた。アスランはとっさに艦長席の椅子をつかみ、顔をあげる

「トニヤ! 損害報告!」
「右舷後方被弾! 損害軽微!」
「メイリン、どこからだ!」
「オーブ軍からの艦砲射撃です! 威嚇の攻撃が当たったものと思われます!」
「ラクス・・・・!」

アスランは歯噛みした
ブリッジのメインモニタに、オーブとザフトの混成部隊を引き連れた、アークエンジェルとエターナルの姿が映った

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シンはMSデッキで腕を組み、じっとしていた。目の前にはアカツキがいる
最近、こうやって考え事をしている時間が多くなった

「シン、どうしたの?」

ルナマリアがステラを連れてやってくる。シンは腕組みを解いた

「いや、なんでも・・・・。それよりステラ、もう風邪はいいのか?」
「うん。だいじょうぶだよ?」
「よかった」

シンはステラに手をのばし、頭をなでてやる。彼女は気持ちよさそうにそうしていた

「それにしてもいったい、なにが起こったのよ・・・。寒気がするわ・・・」
「レクイエムのことか」
「プラントが六基も壊滅したって、どういうことなのよ。無茶苦茶じゃない!
  ロゴスやブルーコスモスは、どうしたって私たちコーディネイターを滅ぼさなきゃ気がすまないの?」
「ルナ。だから俺たちはここにいるんだろ。絶対にあんなもの、もう撃たせちゃいけない」
「ええ」

瞬間、大きく地面が揺れた。シンはステラを抱きとめる

「なんだ!?」

『コンディションレッド発令。当艦はオーブ軍より攻撃を受けています
  これより戦域からの離脱を行います。MS隊はけん制のため、発進用意』
「オーブ軍だって!?」

シンは思わず息を呑んだ。オーブ軍が動いてきた理由は一つしか考えられない
ヤタガラスの討伐ではない。プラントの制圧である。レクイエムが放たれたこのタイミングなら、
ラクスは有利に軍を展開することができる

しかし。だからといってあんまりな話だった。ラクスの目的は、Dプランの廃案とデュランダルの解任だったはずである
プラントの制圧ではなかったはずだ。なのになぜ、彼女はこんなことをするのか
まるでプラントの民がどうでもいいと言わんばかりの行動だ。だが、それでも人は彼女を支持するのだろう

「止めないと」
「うぇい?」

思わずシンはつぶやいた。ステラがぽかんとした顔をしている
ルナマリアも首をかしげていた

「止めるって、あんた・・・・」
「オーブ軍を止めないと! ラクスはきっと、わからないんだ!」
「え?」
「あいつ、自分がプラントを攻撃することで、プラントの市民が苦しむって事がきっと、わかってないんだ! 
  自分がプラントを制圧すれば、コーディネイターが幸せになると思ってるんだ!」
「ちょ・・・シン? あんたなに言ってんの? まるでラクス・クラインの知り合いみたいなこと・・・・」
「知ってるんだよ。ラクスはそういうヤツなんだ」
「でもあんた、止めるってどうすんのよ? いくらヤタガラスでも、
  相手はザフトを吸収してさらに大きくなったオーブ軍なのよ? キラ・ヤマトだっているんだし」
「でも放っておいたら、プラントが・・・・。あそこは今、本当に地獄なんだ!」

すると、とんとんとシンの背中が叩かれた
振り返ると、ガロードがにやりと笑ってる

「シン」
「ガロード」
「理屈はよくわかんねぇけどよ、ラクスを止めてぇのか?」
「ああ」
「なら行こうぜ。おまえにゃ俺がついてる。そして俺にはこいつがついてる」
ガロードが、ハンガーに固定された機体を指差す。最強のMS。この世でなにより恐れられた悪魔
「復活したのか」
「おうよ。いつでも行けるぜ」
「・・・・・・」
「平和を作るんだろ。人が死ぬのは真っ平なんだろ? なら、やるだけやってやろうじゃねぇか」
「悪いな。おまえには関係ない世界なのに、つき合わせて」
「いや、気にしてねぇ。それに・・・・俺、思うんだ。なんでこの世界にやって来たのかって」
「?」
「もしも俺がこの世界にやってきたことに、なにか理由があるのなら・・・・」
  きっと俺は、おまえを助けるためにやってきた」
「ガロード・・・・・」
「あー、畜生! こっぱずかしいこと言わすんじゃねぇよ! ・・・とにかく貫けよ、シン
  おまえが正しいと思うこと、おまえがやりたいと思ってることをよ
  もしも間違ってたらちゃんと言ってやらぁ、正しけりゃ力になってやる。覚えとけ」

ガロードが照れくさそうに笑う。シンは大きくうなずいた
それからルナマリアとステラに視線を送る

「ステラ、ルナ、ごめん。ちょっと協力してくれ。これからオーブ軍を止める」
「は・・・・? あんた本気なの?」
「うぇーい」
「ここでラクスを止めなきゃ、コーディネイターに未来はないよ。いつまでも戦争なんて、やっちゃいけない
  本当に死ななきゃならない人間なんて、本当は一握りなんだ。なのにいつまでもこんなバカなこと・・・・
  わからせてやるんだ。なにが正しくて、なにがいけないのか、あの子供にさ」

シンが言うと、ルナマリアは呆れたような顔してうなずいた

それからアカツキに乗り込み、MSを起動させる。隣でDインパルスとガイアが起動する
そして最後に、ゆっくりとガンダムダブルエックスが動き始めた・・・・

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ラクスはアークエンジェルにいた。エターナルにいるのは、依然としてバルトフェルドとミーアである
体調は完全でないこともあるが、一種のおとりだった
こういう影武者作戦、キラは好きでないが、仕方なかった。ラクスの命には代えられない

「威嚇だけでいいわ。戦う必要はないから」

ヤタガラスが見えた時、マリューは威嚇射撃を命じた
キラはアークエンジェルのブリッジで、宇宙にただよう漆黒の船体を見つめる

(アスラン・・・・)

心の中で親友に語りかける。なぜこうなってしまったのだろう
友だったはずなのに、お互いの行く道はこうもすれ違ってしまった

「ラクス」
「なんですの、キラ?」

ゲスト席で、少し青い顔をしたラクスが顔をあげる
また少し、彼女は体調を崩していた

「悲しいね。きっと、こんなのもう誰も嫌なのに。なんで僕たちは戦ってるんだろう」
「そうですわね。だから、もう終わりにしましょう。この戦いを最後にして、どうか平和な世界を」

ラクスに言われ、キラはうなずいた。ヤタガラスから目をそらし、プラントを見つめる
そこにいる、デュランダルという男。まずはそれを倒さなければ始まらないだろう

「ったく、うるさいな」

いきなり、一人の男がブリッジに入ってきた。ムウだ
キラは少し不満げな視線をそちらに送った

「ムウさん。営倉入りはどうしたんですか?」
「ちゃんと三日間、立派に勤め上げただろうが。なんだ、坊主。まだ怒ってるのか?」
「怒ってませんよ。でも、もうあんなことやめてください。ラクスは病人なんですよ!」
「はいはい。気をつけるよ」

言って、ムウは視線をブリッジのメインモニタに映した
キラも視線をそちらに戻す

ヤタガラスから、きらっ、きらっと光芒が映った。出撃するMSだろう
おそらく、ただけん制のために出てきたものと思われる

いや。ヤタガラスのMS隊は艦の守備につかない。それどころか、一直線にこっちへやってくる

不意にオペレーターのミリアリアが叫んだ
「か、艦隊に接近する機影、四! アカツキ、Dインパルス、ガイア、そして・・・・ガンダムダブルエックス!」
「な・・・・・!」
「あ、少し遅れてエアマスターが合流しました」
「ガンダムダブルエックス・・・『ユニウスの悪魔』!?」

キラの全身から血の気が引いた。ガンダムDX
MSでありながら、ジェネシスやレクイエムと同等の破壊力を持つ悪夢の兵器

「お、オーブ艦隊停止! DXの射線上から緊急退避!」

マリューが色を失い、命令を下す。そのせいでオーブ艦隊は混乱し、なんとぶつかりあう艦まで出た
たった一機である。たった一機のMSが出現しただけで、この軍は大混乱におちいっていた

「クッ・・・・ラクス、僕はストライクフリーダムで出るよ」
「キラ・・・・ええ。お願いします」
「もうあんなもの、放っておいちゃいけないんだ。DXなんて、人には必要ない!」

キラがそう吐き捨てた瞬間、全周波数で通信が入った

『全オーブ艦隊に告げる。こちらはプラント最高評議会、特命親善大使シン・アスカ
  ただちにプラントへ向かうのをやめ、引き返されたし』

「「シン・アスカ?」」

ラクスとキラの声が、重なり合った。さらに別のMSから通信が入る

『えー、ちなみに俺は炎のMS乗りガロード・ラン
  こちらの要求を聞き入れない場合、サテライトキャノンぶちかますので、そこのところヨロシク』
「なっ・・・! なんてことを!」

キラは歯噛みする。なんてやつらだと思った。言うことを聞かねば、大量破壊兵器を使うと通告しているのだ

『聞こえるか、ラクス・クライン。シン・アスカだ!』
「・・・・・・ミリアリアさん。わたくしに通信を」言われ、ミリアリアがラクスに通信を回す「ラクス・クラインです」
『プラントを攻撃しないでくれ。あそこは本当に地獄なんだ。あんたの目的は議長の排斥とDプランの廃案だろ?
  プラントの制圧じゃないはずだ。もうやめてくれ』
「そういうわけにはまいりませんわ。わたくしは・・・・」
『おっと、もう理屈の勝負じゃないぜラクスさんよ。こっちは聞かなきゃサテライトキャノンぶちかますって言ってんだ!』

ガロードの声が聞こえる。本気なのかはったりなのか、キラには判断がつかない

『そういうことだ。だから撤退してくれ、オーブ艦隊。俺たちは撃ちたくないんだ』
「・・・・・・・・」
『プラントは本当に、本当に今、地獄なんだ。だからやめてくれ
  あんたのやっていることは、コーディネイターのためにならない。ただプラント市民を苦しめるだけなんだ』
「そうではありません。デュランダル議長こそが・・・・」
『どっちでもいいんだ、そんなことは! 撤退するかしないか、どっちだ!
  撤退しなければサテライトキャノンをこちらは撃つ!』

シンの血を吐くような叫び。本当に血を吐いているのかと思うような、叫び
それが、キラの心を、ほんの少しだけ揺り動かす

「いけません。それでもわたくしたちは行かねばならないのです。理不尽な暴力に屈するわけには・・・・」

ラクスが言いかけた。瞬間、そのこめかみに銃が突きつけられた

「悪いな、シン。俺にはこんなことしかできないよ」
「ムウさん?」
「ラクス。シンの言うこと、聞いてやれ。撤退を命令するんだ。多分おまえさんは、間違ってる」

ラクスが怪訝そうな瞳で、銃をつきつけるムウを見つめていた