クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第075話

Last-modified: 2016-02-20 (土) 02:25:01

第七十五話 『二隻だけの攻略軍』
 
 
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ミネルバのブリッジ。ゲスト席には、車椅子のギルバート・デュランダルがいる
重力の影響が薄いため、重力下ほど動きは辛くないはずだが、それでもこうして前線に出るのは酷だろう

ハイネは、デュランダルを見た。先ほどの声は合成だ
まだデュランダルはしゃべることができず、顔の半分はまだ包帯が取れていない

オーブ軍が撤退して行く。念のためノワールは出撃準備をさせておいたが、戦闘にはならなかった
それを見て体から少し力が抜けた。いくらなんでも真正面から戦闘になったら勝てない

「ひどい綱渡りだったわ。もうこんなのは勘弁して欲しいものね」

同じような感想を想ったのか、タリアが息を吐いた
するとデュランダルが、例のキーボードを叩いて、文字をディスプレイに映し出す

—————だが、まだなにも終わってはいない。タリア、ヤタガラスに伝令を
       
するとタリアはうなずき、ヤタガラスへの回線を開いていた
そうだ。今、なすべきことはラクスの相手ではない。月、である

「議長。さんざん好き勝手やられましたが、ラクスもこれで終わりですね」
心の中にある彼女への嫌悪が、ハイネの言葉になる。しかしデュランダルはうなずかない
—————彼女を甘く見ないほうがいい。ハイネ、君のようにラクスを毛嫌いしている人間は極めて珍しいのだよ
「そうでしょうか?」
—————ああ。なにしろこの私からして、彼女のファンだったからね。ラウも彼女の歌が好きだったようだ
「プラントはいまなお、『救国の歌姫』、その幻想を捨てていない、と?」
—————そうだね。今回の件、もしも普通の政治家や革命家なら致命的な失態だが、彼女に関しては例外が適用される
         さて、ラクス・クラインが創る未来と、私が創る未来、そしてあの偽者が創る未来
         どれが本当に人々を幸せにさせるのか、神ならざる身ではわからないが・・・・未来は一つしかない
         生きている私は、ウィッツ・スーに感謝しなければならないのだろうね。
         私にはまだ、未来を勝ち取る権利が残っているようだ
「はい。お供します、議長。地獄の底までも」

ハイネが言うと、少しだけデュランダルは微笑んだ。照れているのだ。プラント最高評議会の議長は
その表情を見れただけでも、自分が信頼されていることを実感する

ハイネはブリッジから廊下へ出た。ザフトの白服を来た男が、腕を組んでいる

「イザーク」
「・・・・・」
「これでまだおまえがラクスに未練があるなら、今すぐに軍服を脱ぐんだな
  ラクスはプラントを討とうとした。それを防いだのは、ヤタガラスだ」
「・・・・・」
「この状況下だ。議長はおまえを二度も許されたが、三度目はないぞ
  軍法会議の前に俺が殺す。さすがにそんなことはしたくないんでな。頼むぜ?」

イザークは沈黙している。打ちのめされているのか、それとももっと別の感慨があるのか
ついにはハイネの問いに答えることは無かった
わかっているのは、今は一機でもMSが欲しい状況であるということだけだ

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オーブ軍が引き上げていく。シンは息をついた。
その瞬間、激しい吐き気に襲われる。とっさにコクピットにそなえつけてある袋を引き出して、吐き出す
(なんつーか・・・・)

シンは少し涙目になって、汚物を宇宙空間へと捨てた。これがラクスと相対するということである
これがラクスと戦うということだ。ほんのわずか、喋っただけでこの調子である。
デュランダルがミーアを押し立ててまでラクスの存在を否定しようとしたのも無理は無い

—————よくやったな、坊主

不意に、誰かがそう言ったような気がした。思わずシンは周囲を見回す。誰もいない、ここは硬質なコクピットの中だ

「ありがとう、ネオ」

それでも、なんとなくその声にシンは答えていた

黒い神鳥の船が見えてくる。短時間での小競り合いに過ぎなかったが、
激しい戦闘を物語るかのようにDXやインフィニットジャスティスは傷ついていた
テンメイアカツキがほとんど無傷であることを考えると、少しだけ申し訳ない気分になる

着艦してハンガーにアカツキを固定し、降りた。アスランが怖い顔をして立っている

「艦長」
「シン。昔のように、殴りはしないがな。勝手な行動は慎め
  プラントの大使である以上、おまえには立派な外交権があるんだ
  ラクスがもしもオーブ政権の正当性を主張したらどうするつもりだったんだ?」
「あ・・・・」

まったく考えていない事態だった。確かに、停戦と引き換えにキラ政権の正当性を主張されたらまずいことになっただろう
親善大使を名乗った以上、その主張を無下にはねつけることはできず、
国としてなんらかの回答をしなければならないことになる。そしてシンの回答は、プラントとしての正式な回答だった

「まぁ、緊急事態だったのは確かだ。説教はこれぐらいにしておいてやる
  よくやったな、シン。ムウさんとおまえが、プラントを守ったんだ」

それだけを言い残し、アスランは去って行く。忙しい男だ。これからまた打ち合わせがあるのかもしれない
ネオが死んだ。それを思い出す。悲しみよりも、喪失感の方が強い。失った
もっと話をしてみたかった。よく考えると、ほとんど話をしたことが無かった
ラクスたちの仲間にして、『エンデュミオンの鷹』と呼ばれた男。その誇りは、どれほど高かったのか
それを知る機会は、もう二度とない

自室に戻って、すぐにシャワーを浴びた。デュランダル議長に会おうかとも考えたし、ガロードと話もしたかったが、
それ以上に疲れ果てていた。ラクスと話すだけでこの消耗、尋常ではない。体が泥のようになっている
個室のシャワールームから出ると、ステラがベッドに座っていた。驚いてタオルを腰に巻く

「シン、だいじょうぶ?」

構わずステラが、シンの方にやってくる。彼女は床を蹴ってシンの胸に飛び込んできた
抱きとめた彼女の甘い香りが、鼻をくすぐる

「俺は大丈夫だよ。ステラは?」
「うん、平気。でも・・・・シン・・・・」
「なんだ?」
「ステラ、なにかわすれてるのかな・・・・」
「・・・・・・・・」

シンは抱きしめる力を強くした。ステラの白い首筋に、額を押し当てる
そこに唇を当て、吸った

「んっ・・・・」

ステラがくぐもった声をあげる。覚えているのはそこまで。
意識が刈り取られる。遠くなる

今、ここに君が生きていてくれることが、ただ・・・・

言葉にしようとしたことが、睡魔の波に襲われて消えた

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イアン・リーが敬礼している。宇宙の虚空へ。しばらくすると彼はそれを解き、副艦長席に戻った
そこにあるのは実直な軍人の顔である

MS戦を終えたアスランはブリッジに戻ってきて、艦長席につくとすぐに指示を出した

「シンゴ。ミネルバにヤタガラスをつけてくれ。どちらにしろ議長とこれからのことを話し合わなければならない
  いいですね、代表?」
「ああ」

アスランの声に、ユウナがうなずいた
ジャミルは腕を組む。どちらにしろここからが勝負だろう。今回のことは反撃ののろしをあげたことになるが、
同時にそれはオーブとプラントに宣戦布告を行ったに等しい。それもこちらの戦力は笑いたくなるほど少ないものだ

(切り札は)

DXになるだろう。あれは最大の戦力である

ふと、ティファが沈んだ顔をしていることにジャミルは気づいた

「ティファ。あまり気にするな。ムウ・ラ・フラガが死んだのは君のせいではない」
「・・・・・はい」

そう言いながらも、ティファの表情は暗い
ジャミルは少しだけ嫌な気分になった。ラクス・クラインである
彼女は間違いなく、ティファが予見した未来を変えた。予見した未来にはムウの死など無く、ただ撤退するオーブ軍があっただけだ
ティファの予知とて万能ではない、ガロードが覆したこともある・・・・が

(だが)

ラクスはガロードと同じく、未来を変えられるほどの人間だと言うことだ
しかも彼女はとてつもないほどの力を持っている。魅了能力だ。ニュータイプとしては間違いなく異質な能力
だがNTはカリスマ性の旺盛な人物が少なくない。ならばNTとしてその能力を持っていてもおかしくはない
(魅了能力をCE世界の人間に、告げるべきか?)

ジャミルの胸にそれがある。だが、科学的に証明する方法が無い
それこそAWの施設でラクスの体を直接調査しなければ、実証は不可能なことだ

だが魅了能力をどうにかしなければ、ラクスは何度でも立ち上がる。
不幸にして、彼女も不屈だ。とても温室育ちのお嬢様とは思えないほどの精神力を持っている
唯一の手段は、彼女を殺すことだろうが、そうなればなったで彼女の残光が世界を埋め尽くす
それこそラクス・クラインは神となりかねない

(せめて彼女の弱点がわかれば)

対処のしようもあるが。NTの多くは感受性の強さが欠点となる場合が多い。自分も含めて、だ
それに例外がないとすれば、ラクス・クラインにももろさがあるはずだ

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「にしても、簡単にハッタリばれちまったなぁ」

ガロードはDXを見上げながらつぶやいた。隣ではキッドが、DXのデータを取っている
復帰後の経過を見るためだそうだ

「そりゃあ無理ねぇよ、ガロード。サテライトキャノンは、どう考えてもMSの内臓エネルギーじゃ無理な威力だからな
  マイクロウェーブが使えねぇ以上は、遅かれ早かれこうなってた。むしろばれんのが遅かったぐらいだ」
「んじゃま、結局Gファルコンか?」
「撃つにしろ、撃たないにしろ、撃てた方がいいに決まってるからな。その件についてはジャミルと・・・お?」

キッドが振り返ると、当のジャミルがMSデッキにやってきていた
彼はDXの足下まで来ると、キッドを見つめる

「キッド。やはりGファルコンを造るにはGXをつぶすしかないか?」
「ああ。エネルギー効率の問題がある。俺のテクじゃそれを解決できねぇ」
「わかった。GXをジャンク屋ギルドの船に乗せて、アメノミハシラまで運んでくれ
  こうなれば一刻を争う。もう基本設計はできているのだろう?」
「できてるけど・・・・今すぐアメノミハシラに?」

するとジャミルはうなずいた。GXは彼の愛機である。コクピット恐怖症だったとはいえ、それなりの愛着もあるだろう

ジャミルの声を受けて、GXはすぐに搬出の準備に取り掛かられる
これで一旦、キッドはGファルコン製造のためにヤタガラスから離れることになった
ついでに頭部を失ったゴールドフレーム天ミナも搬出されるようだ

「ニュータイプを一人死なせたな」
ジャミルは搬出されるGXを見つめている。サングラスのせいで表情はわからない
「ムウ・ラ・フラガってヤツのことか?」
「ああ。私の目的はNTの保護だ。それはあの大戦で罪を犯した、私の生きる意味でもある
  その意味では後悔しているよ。なぜあの時、GXで無理にでも出撃しなかったのか、と」
ジャミルはこぶしを握り締め、己が顔の前で震わせる。口調は穏やかだが、無念さがにじんでいた
「仕方ねぇよ。それに、あのムウだかネオだかいうオッサン・・・・カトックに似ていた」
「DXをおまえに託した、あの男か?」
「多分、ああいうのは止められねぇよ。死に場所を探しているっつーのかな
  シンは、首に縄つけても止めたかったと思うけどさ」

少し思い出す。過ちを繰り返すな。ガロードの前で、そうつぶやきながら息絶えた男の顔を
あれからどれだけの時間が経ったのか。まだ俺たちは殺し合いをしている
それが情けなくて、歯がゆい。DXという圧倒的な力があるからといっても、戦争を終わらせられるわけでもない

「なーに難しい顔してんのよ、異邦人?」
いきなり、背中から抱きつかれた。背中に柔らかいものが当たる
ガロードはとっさに後ろを見た

「な、なにすんだよルナ!」
「思ったとおり純情少年ねー。顔真っ赤にしちゃって」

くすくすとルナマリアが笑っている。バカにされた気分になって、ガロードは頬をふくらませた

「それよりもなにか用かよ?」
「そうそう、シン知らない?」
「シン? あいつならさっさと部屋に引っ込んだぜ
  ステラも付いてったし、えらい疲れてるみたいだったから、放っておいてやれよ」
「くっ・・・・あいつらこの期に及んでまー、よく励むこと」
「まぁ、ステラもシンになにかしたいとか言ってたしな。それで俺も相談されたし」

ふと思い出す。月への旅の時、何気なくシンへ聞いたこと。シンの望み
それはもうステラに伝えてある。とはいえあれは、ステラにもどうしようもないと思うが・・・

「ふーん。やれやれ、もうプラントは大騒ぎらしいわよ。レイなんかどうしてるのかしらね?」
「レイか。アイツとは戦いたくねぇな」

レイは目立たないが、強い。だがそれ以上に純粋で、平和を愛している
ああいう人間と戦いたいとは思わない。仮にこの先、偽者と戦うことになっても、それは避けたいことだった

「そうね。そうそう、二時間後にヤタガラスのブリーフィングルームで会議があるからちゃんと出席するのよガロード?
  ジャミルさんもね。それと・・・・・」ルナマリアが視線を移す。MSデッキの出入り口。そこで見つめている二つの瞳「彼女にも、
  ちゃんと言い訳しとくのよー。私が抱きついたところばっちり見てるから」
「る、ルナ、てめぇ! それでッ!」
「発案はトニヤよ。じゃあ、私はあんたのあたふたしてる所、横でニヤニヤしながら見てるわ。頑張ってねー」

ルナマリアが高笑いしながら去って行く

MSデッキの出入り口、ティファが顔だけでこちらを見ている
ガロードはそこへ飛んでいくと、言い訳すべく口を開いた

「その、ティファ・・・・ルナとはなんにも・・・・え?」

ガロードは固まった。ティファの着ている服がいつもと違う。青くて、嫌にひらひらしている
いや、それはいい。それは。問題は・・・・

「ガロード・・・・」
「ティファ・・・・うっ」

か、かわいい。いや、ティファはなにを着てもかわいいが
肌の露出もそれほどないくせに、今日の格好はえらく刺激的である。
ガロードの顔面に血がのぼる。口がぱくぱくして、言葉が出なくなる
「ごめんなさい」

だが意外にもティファの口をついたのは、謝罪の言葉だった

「え・・・・?」
「あの人は助けられたはずなのに・・・私はなにもできませんでした」
「あの人って、ムウとかいうおっさん?」
「助かるはずだったんです、あの人は。でも・・・未来が変わってしまった」

ティファが沈痛な表情を見せる。NTの予知は万能ではない
だが彼女は予見したのだろう、ムウが生き残ってこの戦艦にやってきて、笑う合う未来を
それが覆されたことに、責任を感じている

「気にすんなよ。そんなの、ティファのせいじゃねぇだろ?」
「・・・・・・・」
「いいよ、ティファはみんなのために頑張ってくれたんだろ?
  えっと、その、うまく言えねぇけど・・・・誰もそんなこと悪いと思いやしねぇって!」

できるだけ明るく言ったが、ティファの表情があまり晴れない
それが少し気にかかる。ここまで落ち込むのは、なにか理由があるのだろうか

「・・・・・・あの人が」
「ええと・・・もしかしてラクスか?」
「はい。・・・・始めて、怖いと思いました。誰かを」
「そんなにかよ・・・・・ラクスってのは」
「あの人と今度、なにかあったら、私は私でいられるでしょうか。ガロード・・・」

ティファが少しだけ青ざめた顔で、虚空を見つめている
抱きしめてやりたかった。しかし勇気の無い自分の両手は、動くことがなかった

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作戦会議のための、定刻が近づく。ヤタガラスのブリーフィングルームである
アスランは会議の準備をしていたためかなり早い段階からそこにいたが、入ってきた人物を見て驚いた

「イザーク?」
「・・・・・・」
              イチベツ
イザークはアスランを 一瞥 すると、黙って席についた。口は真一文字に引き締められ、顔をしかめている
不機嫌というより、会話を拒絶している感じだ。アスランも、パトリックにそっくりだとののしられたことを思い出す
そのせいか、部屋の空気が嫌な感じに張り詰めた

「おいおい、あんまピリピリすんなよ。頼むぜ?」

ザフトの緑服を身にまとったディアッカが、気楽そうな声をあげて入ってくる
アスランはそちらに視線を移した

「ディアッカ。どうしておまえたちがここにいる?」
「デュランダル議長のはからいでね。ジュール隊はミネルバに復帰したわけよ」
「そうか・・・・」
「おいおい、そんな顔すんなってアスラン
  今すぐ信用してくれとは言わないが、もう議長を裏切るつもりはないんだぜ?」
「まぁ、俺も裏切者だから偉そうなことは言わないがな。議長が許されたのなら、俺がどうこういうつもりは無い」

するとブリーフィングルームの隅が動いた。顔に雑誌を乗せて昼寝していた男が立ち上がる
ツンツンに立った彼の金髪がかすかに揺れた

「ったく、めんどくせぇやつらだな。これだから軍属ってのはいけねぇ
  そんなに気にいらねぇなら、放り出しちまえばいいじゃねぇか」
「ウィッツ。おまえは・・・・」

なにか言いかけたアスランを尻目に、ウィッツはディアッカの前に立つと手を差し伸べた

「ウィッツ・スー、ガンダムエアマスターバーストのパイロットだだ
  腹の探り合いは流儀じゃねぇ。おめーが仲間だっつーんなら、俺は信用するだけだ」
「へぇ、また毛色の変わったヤツが乗ってんな? ディアッカ・エルスマン、愛機はヴェルデバスターだ」
「おっと、握手する前に言っとくぜコーディネイター? 俺はナチュラルだ。それでもいいんだな?」
「上等だよ」

ディアッカが躊躇無く、ウィッツの手を握り返した。だがどういうわけか二人ともその手を離さない
よく見ると、お互いの顔が赤くなっている。そして握っている手が震えていた

「おいディアッカ。やせ我慢はよくねぇぜ?」
「喧嘩を売ってきたのはそっちが先だろう」

どうやらお互いに手の潰し合いをしているようだ
ウィッツとディアッカは相性がいいのかもしれない。かませ犬同士で。
「「おまえとんでもなく失礼な想像しただろ!?」」

二人同時に声が飛んでくる。アスランは両耳をふさいで、それを無視した

しばらくしてブリーフィングルームにおもだったメンバーが集合する
さすがに車椅子のデュランダルがやってきた時はミネルバに移るべきだったかと思ったが、
あくまでも作戦の主導権はオーブが握りたかった

「シンは?」

点呼を済ませた時、メンバーの欠如に気づいてガロードに尋ねる

「あいつなら泥のように眠ってるぞ。いっぺん起こしたんだけどな」
「まったく! ・・・・まぁいいか。今は眠らせておいてやる」

いずれにしろこれから、休む機会などなくなるのだ。それほど厳しいことになる
ブリーフィングルームの証明が切れ、暗闇に宇宙の地図が浮かび上がる

ジャミルが立ち上がり、指揮棒で月を指し示した

「現状、我々の戦力はヤタガラスとミネルバだけです
  もっとじっくり情報戦を行えばこちらに引き込める戦力はあるかもしれませんが、その猶予はありません
  わずか、二隻だけの攻略軍。これで作戦を展開します。第一目標は、レクイエムの発射阻止」

ジャミルが、月の周囲をなぞる。そこにはレクイエムの偏向基があった
偏向基は廃棄コロニーを改造したものであり、そこにはロゴスの護衛艦隊がついている

「具体的にどうするんだい?」

ユウナが声を上げる。彼はデュランダルを意識しているのか、少しだけ緊張があった

「この戦力で正面から当たるのは無謀です・・・・が。ここはあえて正攻法で行きます」

ジャミルが言うと、部屋がざわついた。しかし直感的にアスランは、悪い作戦ではないと思う
パネルを入力し、最新のデータを地図上に発生させる

「現在、ザフトの月基地攻略軍がすでに連合軍と戦闘に入っております
  それで連合軍は戦力を分散せざるを得ません。ちなみに率いているのは、バレル隊・・・・」
「バレル隊!? バレル隊って!」
思わず、一人の女性が立ち上がった。ルナマリアだ
アスランは少し、とがめるような視線をそちらに向ける

「おまえの思うとおり、レイ・ザ・バレルの隊だ。彼はいま、白服をまとい艦隊を率いている
  レイがなにを考え、なんのために戦っているのか。それはわからない。が、俺たちがなすべきは一つだけだ」
「そう・・・ですね。はい。すみません、取り乱して」

ルナマリアがそろりと席に着いた。彼女はレイと士官学校からの付き合いだ
自分たちとはまた違う、親友というイメージを持っているのだろう

会議の空気が変わったが、ジャミルが落ち着いて説明を再開する

「よって、敵の戦力すべてと我々が当たるわけではありません
  作戦は、偏向基を次々に落とし、最後はレクイエム本体を叩く。それを正攻法で行います
  ただし、誰にも追いつけないほどのスピードで」

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プラントに放送が入る。例のフリージャーナリストによる生中継は、即刻取りやめられた
だがそれでもしぶとく、ネットや使われていない周波数のテレビなどで生中継は続く
人々は、プラントの外で戦っている者たちの存在に気づき始めた

「このッ! なめんじゃないわよッ!」
Dインパルスの延伸式ビーム砲塔が赤い射線を描き、ウインダムを吹き飛ばす
「うぇーいッ!」
ガイアが変形し、ビームカッターでダガーを両断する

月、ダイダロス基地では信じられぬ報告が次々と入ってくる
ロゴス直属の司令官は、思わず呆然とした
「どういうことだ!? たった二隻の戦艦に、第一中継ステーションが落とされただと!?」
「いえ! 第二ステーションももうじき陥落・・・・・!」

ブルデュエルは偏向基に取り付き、二本のビームサーベルを抜き放ち、突き刺した
「汚名を二度もかぶったのだ。もうイザーク・ジュールに失うものは無い・・・・今はプラントのためにッ!」
そしてそこにやってくる、ダガーLの編隊。だがそれはデュエルにたどり着く前に、赤の影に斬り落とされた
「うかつだな、イザーク」
「アスラン・・・・! チィッ!」

ロード・ジブリールは緊急の報告を受けて、すぐさまダイダロスの司令部にあがった
そこでは怒声が飛び交っている。ジブリールは司令官を見つけると、すぐに食って掛かった
「どういうことだ! 第一ステーションがわずか30分で落とされただと!?」
「いえ、第二ステーションも含めて、30分です」
「誰がやった! ザフトはまだ食い止めてるんだろう!」
「それが・・・・・」
司令官はあいまいにうなずき、巨大なスクリーンを見つめた。そこにあるのは黒と白、二隻の戦艦である

「この勢いなら、押し切れるかな。それにしても実戦というのは、怖い。情けないが・・・」
ユウナがヤタガラスのブリッジでつぶやく。その隣にいるのは車椅子のデュランダルである
—————私も、怖いですよ。
「そうは見えませんね、議長。あなたは僕よりずっと落ち着いてらっしゃる」
—————やせ我慢をしているだけです
ディスプレイにその文字が映ると、ユウナは少しだけ笑った。かすかにこの男との距離が近づいたような気がした

第三ステーション。エアマスターは変形し、最高速度で連合艦隊に突っ込み、かく乱する
「遅い、遅すぎるぜ! エアマスターを、宇宙の王者にしちまうつもりかよ!」
バスターライフルがダガーLを落とす。だが次にやってザムザザー、陽電子リフレクターがライフルをはじく
「宇宙の王者には、まだ早いみたいだな」
ザムザザーの背中から、巨大な対艦刀が突き刺さられる。犯人は即座に離脱し、エアマスターの横に来た
「ケッ。ハイネ、カッコばっかつけてんじゃねぇ」
「カッコつけたのはおまえが先だろうが、ウィッツ」
言いながら、二機は連携して次々と敵を落とす

「第三ステーション陥落ッ! 第四艦隊、第五艦隊壊滅ッ!」
次々と報告があがってくる。ジブリールは呆然とした
誰が信じてくれるだろうか。わずか二隻の艦隊に、ロゴスの艦隊は敗れようとしている
ザフトを防いでいるのに、レクイエムのチャージさえ万全なら反撃もできるというのに
「たった二隻で、大国の軍事力に匹敵するというのか?」
司令官のつぶやき。聞きたくは無かった

第四ステーション。
拠点攻略のためオオワシに換装したアカツキが、戦艦に取り付く
「よしっ! 久しぶりにあれをやれガロード!」
「おう、シン!」
DXが戦艦に取り付いたアカツキごと、バスターライフルを放った
それはアカツキにダメージを与えることなく、戦艦だけを破壊する

ジャミルはヤタガラスのブリッジで、第四ステーションの陥落を見た
偏向基を破壊せんと、各MSができる限りのダメージを与えている
(残るはダイダロス基地か)
そう思念をめぐらすと同時に、イアンがローエングリンの発射を命じ、偏向基は二つに割れた