クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第076話

Last-modified: 2016-02-20 (土) 02:26:00

第七十六話 『大丈夫ですわ。大丈夫』
 
 
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ヤタガラスとミネルバはひとまず、目標とした偏向基の攻略を終えた

宇宙の重力にもいくらか慣れた。着艦の衝撃は宇宙ではないに等しい
コクピットで少しだけ感じる振動。DXがハンガーに固定された
ガロードはそれを確認すると動力を落とし、コクピットから降りる

「ちかれた〜」

犬のように舌を出してパイロットスーツを脱ぎ捨てる
戦闘時間はそれほどではないが、連戦につぐ連戦である。体は疲れきっていた
集中力もいちじるしく低下している

「ガロード!」
「おう」

キッドがいないため、ミネルバから出向している整備士のヨウランがスポーツドリンクを投げてくる
それを受け取って、一気に飲み干した。体にしみこむ。飲み終わって、少しだけ味がおかしなことに気づいた
栄養剤が入っていたのだろう

「ヨウラン、アカツキをオオワシからテンメイに換装しといてくれ。ダイダロスにはデストロイが複数配備されてる
 オオワシのまんまじゃ攻撃力の面でキツイ」

やや遅れ、アカツキで着艦したシンが、ヘルメットを脱ぎながらヨウランに告げている
シンの全身は水にでももぐったように濡れており、連戦による疲労の激しさがうかがえた

「偏向基潰して、ひとまずレクイエムは無力化したな、シン」
「ああ、ガロード。後はダイダロス基地の攻略だけだ。でも、ここが一番厳しい」
「レイもやってくれてっからな」

ザフトの主力部隊も、ダイダロス基地の戦力と交戦している。おかげで戦力が二分化されているのだ
大西洋連邦の増援も無くダイダロスを落とすのも、それほど難しくはなくなっている

「レイか。レイは今、どうしてるんだろう・・・・・」
「理屈はわかるんだけどよ。ちとアスランもデュランダルのおっさんも冷たすぎるんじゃねぇか?
 レイだって話してわからねぇほどバカじゃねぇと思うけどな」
「そう、だな。でも俺は細かいことは抜きにして、レイと戦いたくない
 士官学校でさ、あいつにずっとMS戦の成績負けてたんだよ俺。インパルスにもあいつが乗る予定だと思ってさ
 始めて会った時から無愛想なヤツだったなぁ、そういや。ろくに笑いやしなかったっけ・・・・」

レイの思い出を語るシンは、気のせいか少しだけすまなさそうだった

シンはスーツを脱ぐと、ブリッジに向かっていった
ガロードは飲み干したドリンクをくずかごに投げ捨て、着艦して整備を受けるMSを見つめる
ミネルバからインパルスの予備シルエットが搬入されてくる。ソードシルエットだ
対艦刀エクスカリバーが、ガイアの腰に装着されていた。ダイダロスのデストロイ対策だろう

(しかしややこしいぜ)

敵はロゴスに、偽者に、ラクス・クライン。戦争というものについて深く考えられるほど、自分は頭がよくないが、不利なのはわかる
それよりも問題は、ロアビィがなにを考えてラクスへ力を貸しているかということだ。魅了能力にやられたのか。めんどくさい。
こうなったらキラのようにレオパルドの四肢ぶった切って、首根っこ捕まえて一発ぶん殴ってやろうかと思うくらいだ
そうすれば目が覚めるかもしれない

ふとカタパルトが騒がしくなり、MSが二機着艦してくる。カオスとブルデュエルだ
一組の男女が降りてやってくる。

「DXの、ガロード・ランか」

白髪の青年がこちらに視線を向けた

「なんだ。おかっぱ白髪ババァかよ」
「貴様! 何度言わせる! 俺は男で! 名前はイザーク・ジュールッ!」

イザークが顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。付いていた長髪の女性が、イザークをなだめに入っていた
彼はザフトの白服でそこそこ偉いらしいが、アスランいわくラクスに寝返ろうとしたのだそうだ
言わばラクスの熱心な支持者らしい

「そういやイザークさんよ。ちょっと聞きてぇんだが・・・・」
「なんだ。俺は忙しいんだ」
「時間は取らせねぇよ。ラクスってめちゃめちゃ好かれてるけどさ、どこがいいんだ」
「・・・・・嫌味か、それは? 俺はもう寝返る気は無い」
「真面目な話しだっつーの。俺の仲間がさ、ラクスについてんだよ。それをどうにかしてぇだけだ
 ラクスがどんなヤツなのか教えてくれよ」
「なんだ貴様。コーディネイターのくせに、いや、ナチュラルだったな。・・・・・チッ。そうだな」

イザークが思案顔になる。その真面目な様子を見ると、アスランの言うとおり根は悪い男ではないのだろう
彼の説明によると、前大戦の少し前から彼女は歌手としての活動を始めた   

最高評議会の娘ということもあるが、それ以上にラクスの唄う歌は心地よく、プラント中の人間が彼女の虜になったという
ただ彼女は真剣に世界の平和を願い、その想いがやがてキラへのフリーダム譲渡、という事件に発展する

「フリーダムはザフトのMSだった。本来なら俺が乗る予定だったがな。チッ、どうでもいいことか
 それをラクスさ・・・いや、ラクスは当時連合の所属だったキラ・ヤマトに渡したのだ
 これが発覚したことにより、シーゲル・クラインは失脚し、やがて暗殺される。だがここから彼女の反撃が・・・」

ガロードは話にあえて口を挟まなかった。だがそのフリーダム強奪事件。無茶苦茶である
普通の思慮分別があれば、
最高評議会の子であるラクスが敵のパイロットに機密満載の最新鋭機を渡せばどうなるかわかるはずだ
だが問題はそこにない。ラクスが普通の女性なら、売国奴として逮捕され、罵倒され、処刑されるかなにかされて終わりだ
しかし現実の彼女は、声価を下げるどころか救国の歌姫としての評価をさらに高くしている

ここだろう。彼女がNTに覚醒して魅了能力を身に着けたとすれば、多分ここだ。少なくともこれ以前でなければおかしい
その時、ラクスになにがあったというのか

(キラとの出会いがきっかけ・・・・・?)

イザークの話を聞きながら、ガロードはそんなことを考えた

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戦況は一進一退である。本来なら無理にでも攻めるべきかと思ったが、状況は変わっていた
レイは宇宙空母ゴンドワナの艦長席でじっと戦況を見つめる。ザフトのMSは、連合を押していた
まとった白服も、今は違和感無く体になじんでいる。

「まんまと囮にされているということかな」
「忌々しいことです、バレル艦長」

副艦長席に座る男が、不機嫌を表に出した。サトー
鼻に傷のあるザラ派の男で、デュランダルが自分の補佐につけてくれたのだ

「別にいいんだ、サトー。誰がレクイエムを落とすか、それは問題じゃない
 レクイエムを撃たさないようにするのを、俺は優先したい。いま、もっとも守るべきはプラントだ」
「優しいことで。このままではユウナ・ロマや議長を名乗るあの偽者が、手柄をさらって行きかねません
 そうなれば第二のラクス・クラインが誕生します」
「君は家族を血のバレンタインで亡くしているんだったな」

レイがじっとサトーを見つめた。鼻の傷は、心の傷か。そう言いたくなった

「それがなにか」
「俺たちがそういう手柄争いをして、またプラントを攻撃されたらどうする
 第二、第三のサトーを作りたいのか君は?」
「いえ、それは」
「なら今はくだらないことを考えず、目の前の任務に集中しろ
 俺たちだけでは偏向基をああも鮮やかに落とすことはできなかった。それも事実だ」

サトーが不機嫌そうに押し黙る。彼は優秀なのだろうが、過激な思想を持っているのが欠点だ
思考しながらレイは、自分が想像以上に指揮官として適応しているのを感じた。ラウもこうだったのか
空母ゴンドワナの艦長席からレイは立ち上がり、MSデッキに向かった。サトーにも付いてくるように言う

(シン、生きていたのなら)

なぜ一言連絡してくれないのか。なにか事情があったのはわかる
偽者のデュランダルに従っているのも、どうでもいいことだ。話し合えば説得する自信もある

こうやって同じくプラントのために戦っているのに、なぜ別の道を行こうとしているのか
レジェンドのコクピットに乗り込みつつ、レイは暗い気持ちになる

「バレル隊本隊、発進用意だ。ヨップ、ガナーザク隊は発進と同時に後方へ。5間隔で支援砲火
 サトー、ならびにグフ、ブレイズザク、スラッシュザクは俺のレジェンドに続け。一斉射撃の後、一気に突っ込むぞ」
「了解」

同じくデュランダルにつけられた男、ヨップ・フォン・アラファスが、砲撃戦用のガナーザク隊を率いて先発する
ヨップは隠密行動を得意とする特殊部隊出身らしいが、まっとうな戦闘でもそれなりの力を見せる

「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」

レジェンドはレイの気分とは裏腹に、軽快な動きで戦場に舞い降りる。サトーのグフが、追従してきた

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アークエンジェルのブリッジで、一発の銃弾が放たれた。撃った女は泣きわめき、撃たれた男は平然とした顔をしている
銃弾は外れたようだ。当てる気がなかったのか、それとも正気を失っていてちゃんと狙いが定まらなかったのか

「どうして撃ったの! ムウを!」

マリューが涙を流して叫ぶ。彼女は少し前まで呆然としていて、気力を失っていた
なにを聞かれても上の空で、そのためバルトフェルドは仕方なしにアークエンジェルへ移ったのだ
ところが彼女はシャギアを認めた瞬間、銃を抜いて放ったのだ

「どうして撃ったか、だと? あのままフリーダムを放っておけば、核爆発でどれだけの被害が出たか
 私にはあれ以上、適切な処置はなかったと思うがな」
「おいシャギア、刺激すんな!」

同じくアークエンジェルへあがってきたロアビィが、シャギアの肩をつかむ

「適切な『処置』!? 処置ですって!」
「やめろマリュー! ロアビィ、シャギアを連れてブリッジから出ろ!」
「はいはい・・・・」

顔をしかめるシャギアを、ロアビィが無理矢理引っ張っていく。バルトフェルドはそれを確認すると、マリューを見た
彼女は依然として銃を握り締めている。やがてマリューの手からは、力なく銃が落ちた

「うっ・・・・うっ・・・・・」

マリューが艦長席の手すりにしがみつき、嗚咽を漏らす
バルトフェルドは彼女のそばに立つと、口を開いた

「マリュー。君はいったん、自室に戻るんだ。そして思いっきり、泣けばいい」
「うっ・・・・はい、ごめんなさい・・・・取り乱して」
「艦長とはいえ、人間だ。仕方ないさ」

バルトフェルドはマリューに好意を持っていた。二年間、彼女に近い場所で暮らしていたのだ
だがここで彼女を積極的に慰めるのは、男としてムウに申し訳ない気がした
それに今、バルトフェルドには余裕がない。オーブ軍をどうするかで頭が一杯だった

マリューを送り出すと、バルトフェルドは艦長席の手すりを握り締めた

(どこへ行くか)

退くとすればラクスに好意的な、中立の月面都市コペルニクスだろう。だがオーブ軍の艦隊規模は大きい
艦隊まるまるコペルニクスに持っていけば、さすがに受け入れ拒否を受けるだろう
本当に退くなら、コロニーメンデルに残した艦隊も率いてオーブ本土まで退くしかない
だがそうなれば。長期戦になる。そして長期戦こそがもっとも避けねばならないことだ

    キワ
「進退窮まったってヤツかねぇ。だいたいデュランダルが偽者ってどういうことなのか・・・・」

以前からプラントのあまり品がよくない週刊誌などで、そんな記事がのったりしてたらしいが。
ただつじつまはあう。デュランダルはある一時期から、豹変した
サザビーネグザスなどがその最たる例だろう

(もしも・・・・)

もしも本当にデュランダルが偽者なら、ヤタガラスは最高のジョーカーを持っているということだ
『偽者にプラントを追われた本物の最高評議会議長』。これ以上の大義名分はない
しかも今、ヤタガラスは、外道をやったジブリールを討つというわかりやすい正義を成そうとしている

加えて最大の問題が一つ。Dプランを提唱したデュランダルがもしも偽者だったのなら、
ラクスの大義も戦う理由も粉微塵に消える。ただ。一つだけ、一つだけ大義を取り戻す方法はあるが・・・・

「僕たちはなにをやってるんだろうねぇ、ノイマン君」
「は・・・・?」

バルトフェルドは、アークエンジェル操舵士のアーノルド・ノイマンに話しかけた

「これは僕の愚痴だけどね。思っちゃったよ
 オーブ本土にとどまったまま、ラクスもキラも無理にでも隠遁させとけばよかったってね」
「・・・・・」
「わかってるよ。そんな顔しないでくれ。ひとまず艦隊はコロニーメンデルへ。残していた軍と合流させるぞ」

ラクスが大義を取り戻す方法は一つ。ヤタガラス、ミネルバへの全面降伏である
だがそんなことをすれば・・・・・

憂鬱な気分のまま、バルトフェルドはブリッジから出た

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ロアビィはシャギアを無理矢理引っ張り、部屋に押し込めた

「記憶戻ってんじゃねぇのかおまえさん!」
「フン。だったらどうする?」
「・・・・とにかくしばらくマリューさんの前に顔見せんなよ。いきなり撃たれても俺は知らないからね」

長髪をかき上げながらロアビィは、シャギアの部屋から引き上げた

ラクスへの好意は強い。戦争や思想がかった戦いは嫌いだが、彼女を見ているとどうしても協力したくなってしまう
傭兵としてもかなりの金をもらっているし、クラウダをガロードに引き渡したこともとがめられず、待遇も悪くない
つまり、ここはロアビィにとって居心地がいいのだ

だが冷徹な傭兵としてのロアビィ・ロイが、危険信号を告げている。オーブ軍から負けのにおいがするのだ
いかにラクスが好きとはいえ、どこかで見切らねばならないとは思う
とはいえいまさらガロードたちの前に姿を見せられるはずも無かった。
蓄えもできたし、またどこかでジャンク屋の手伝いしたり運び屋やったりしながら食いつなごうか

そんなことを考えながらロアビィはアークエンジェルの廊下を歩いていた
漆黒の宇宙が窓から見え、その先に蒼い星、地球がある。
AW世界にいた頃は、こうして宇宙に行くことなど考えたことも無かった
その先、同じように宇宙を見つめている女性がいる。長いピンクの髪。ラクス・・・・いや

「えっと、ミーアさんだったっけね?」
「あ・・・・はい。ミーア・キャンベルです」

ミーアがこっちに目を向ける。寂しさと悲しさがその視線にある

「俺のこと知ってる?」
「それは、はい。ロアビィさんですよね? レオパルドの」
「おっと、敬語はやめね。俺は元々傭兵だぜ?」
「あ・・・はい。ロアビィ」
「いいね。いい声だ。力がわいてくるような気がするよ」

ロアビィが務めて明るく言ったが、ミーアは暗い影を落としてうつむいた

「あたしはこの声、嫌い」
「なんでさ?」
「最初はプラントのためにって、ラクス様の代わりを頑張って、でも結局それはラクス様を裏切ることだった
 だから嫌いなの。この声も」
「整形、か?」

言葉を放ってから、ロアビィはミーアを傷つけたかなと思った
彼女はちょっとだけ笑って、ポーチから写真を取り出す。笑っている少女の顔。
そこにいるのは、美人でもなんでもない平凡な少女の笑顔だった

「あたし、好きな人がいるんです。ううん。あこがれた人なのかな・・・・
 でもあたしがラクスになって、その人は振り向いてくれた。それはこの、『ミーア』のままだったら無理だったと思う
 だから後悔なんてしたくないんだけど・・・・」
「これが、君か」
「でも、その人に近づいたら近づいたで、またどんどん辛くなるの・・・・なんでかな? 
 バカだね、あたしは。こんなこと考えてる場合じゃないのに」

うっすらとミーアの目に涙が浮かぶ。抱きしめてやりたい愛らしさだったが、耐えた

「いや、恋は人類が始まった時から誰もが抱える、不治の病さ。状況なんて関係ないよ
 それよりも、よく知らない俺に悩みを打ち明けてくれたことに感謝してるね」
「え・・・・?」
「気になってたんでね。ミーア、君はいつも一人だったろう? かわいい子が、辛い目にあってるのは嫌なんだ
 なにかあったら、また愚痴でもなんでも言ってくれ。付き合うからさ」
「えっと・・・」
「別に下心はないよ。俺は、ただいい男でありたいだけなのさ」

ロアビィは右手をあげて、ミーアから離れた

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ここはどこだろうか。僕は誰だろうか。顔のない女性が、僕にささやきかけてくる

殺すのよ。殺すのよ。殺すのよ。わたしのためにコーディネイターを殺すのよ。
それでコーディネイターのあなたも死ねばいいの。そうよ、あなたへの優しさなんか偽者よ
あなたが強いから優しくしてあげただけ。わたしはあなたを利用しただけ

やめて・・・・。拒絶の言葉は遠く、顔のない人たちが、耳をふさぐ僕の手を引きはがす

そうだ。君は愛されることなどない。君の能力はそういうことだ
こっけいではないか! 誰よりも強いがゆえに、たやすくなにもかも成せるがゆえに、君は誰からも拒絶される!
そう、アスラン・ザラの友情も偽者だ! 現に見てみろ、彼は君を平気で殺そうとしている
どうだ、君はアスランを親友だと思っていたようだが、彼はそうでないようだね!

やめて、やめて。世界がおかしくなる。死にたくなる。
僕がなにをしたの僕がなにをしたの。僕はなにか悪いことをしたの。やめてやめてやめて

おまえは死ぬべきなんだよキラ。俺はおまえが憎いから裏切ったんだ
なのにどうして俺が死んで、おまえが生きている? 誰もおまえなんか必要としてないんだよ
人を殺すことしかできないくせに。無価値だ、無意味だ、早く死ね

意識が遠くなる。死にたい。死にたい。生きていることが苦痛に代わる
死ねば楽になる。楽になるんだ。そう、僕は生きていても仕方ないから
とにかくこうしているのが辛い。死ねばなにもかも解放される。それなら早く死なせ・・・・

「キラ。大丈夫ですわ。大丈夫」

誰かが自分の名前を呼んでいる。誰だろうか。思い出せない
そんなことはどうでもいい。とにかく死にたい。でも死ぬ気力さえない
ならこの痛みはいつまで続くのだろうか。死ねないのなら、早く心が壊れないだろうか

だって僕は生きていてもしょうがないんだから。どうせ嫌われるだけの人生なら、早く終わった方がいい

「キラ。心を楽に・・・・・。大丈夫ですわ。なにも怖いことなんてありませんから」

なにかがキラの口に押し付けられた。反射的にそれをくわえる。軽く吸ってみた。なにか懐かしい気がする
そうか、母の乳房。いや、僕は多分これとは無縁だった。ならこの乳房は誰のものだろうか

キラの部屋で、ラクスはキラを寝かせたまま顔だけを抱きあげていた
彼女は着物の胸だけをはだけ、右の乳房をキラに与えている。
乳など出ないが、キラは光のない瞳で、それをくわえていた

やがてラクスは唄い始める。優しい歌を。キラを慰める、優しい歌を