クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 epilogue.G

Last-modified: 2016-02-28 (日) 01:09:39

エピローグ『ガロード・ラン』
 
 
—————五年の歳月が、経った

ガロードは、部屋で静かにうずくまっていた。
意識を集中させている。
それに、そうしていると無重力空間に自分の身体が馴染んでくるような気がする。

五年の歳月に思いをはせた。

コズミックイラでの最終決戦。サテライトキャノンを撃った次の瞬間、AWの荒野に立っていた。
ウィッツのGファルコンや、アメノミハシラに居たはずのフリーデンも一緒だった。
そこには、アークエンジェルにいたはずのキッドも居たが、ジャミルやロアビィはどこにも見当たらなかった。

みんな、呆然としていた。
厳しいAWの世界を生きてきた人間たちですら、状況に戸惑っていた。

何故かは、わかっている。ジャミルが居なくなってしまったからだ。

フリーデンには、なぜか新品のエアマスターが一機、ハンガーで立っていた。
ウィッツはそれを見て喜んでいたが、ちゃっかりガロードにもバーストへの改造費用を要求してきていた。
もちろん、そんな金は無い。

とりあえず、その日のうちにみんなで話し合った。
フリーデンを出て行くという人間もいたし、残るという人間もいた。
ガロードは、ティファと共に残る方を選んだ。

「残るのはいいけど、誰がキャプテンをやるんだ?」

キッドが、すっとんきょうな声をあげた時、なぜかみんなの視線がガロードに集中した。

「1人しかいないな」

テクスが、笑う。それで決まったようなものだった。
必死に拒否しようとしたが、みんなで支えるからと、周囲から説得されて結局押し切られた。

ウィッツは、フリーデンを離れた。離れても仲間だと、言ってくれた。

それからは苦難の連続だった。
総責任者であるというのが、こんな苦しいことだとは思わなかった。
自分だけならいいが、フリーデンの人間すべてを養っていかなければいけないからだ。
だから、カネを稼ぐのにも必死だった。

ただ、出来るだけ汚いことはやらないようにした。
シンが、そんなことを知ったら多分、怒るだろうと思うからだった。

バルチャーとしても慣れて来た頃、自分はどうすべきなのかガロードは必死に考えた。

ずっと、心に引っかかっていたことがある。
月だ。
あそこからの光で、CEとAWを行き来したのだ。
どうしてそんなことになったのか、まるで謎で、腹が立ってもいた。

人の苦労もしらず、あれこれ好き勝手しやがってと、月に向かって文句の1つも言ってやりたかった。

明日、俺が走る道。

フリーデンの人間は、月へ向かうことを誰1人として反対しなかった。

5年。戦い続けた。
いま、月が届く距離にある。
陸上戦艦フリーデンは、万能戦艦フリーデン�Uに姿を変え、月への航路を取っていた。

「あなた」

暗闇の中でじっとしていると、部屋の扉が開いた。

「おう、どうしたティファ?」
「そろそろ、時間です」
「もうそんな頃か。ったく、フロスト兄弟の奴しつけぇなぁ。またアークエンジェルか?」
「はい」

ティファが、こっくりとうなずく。
彼女は、その腕に男の子を1人抱いていた。
もちろん、ガロードの子である。

「あまり歩き回るなよ、ティファ。産後だから辛いだろ」
「ううん。辛いのも、なんだか悪くないから」

ティファが、微笑みながら、赤ん坊をあやしている。すっかり母親になっていた。

「ティファ、名前どうしよっか?」
「まだ、迷ってるの?」
「うーん、ちょっとこういうの苦手でさ。テクスにでも考えてもらうのがいいかと思うんだけど……」
「ダメ」
「あ、うん。そうだな、ちゃんと自分で考えるよ」

月に、目を移した。輝いている。

「ライトってのは、どうだ?」
「ライト?」
「適当だけど、月の光にあれこれ好き勝手されたけど……
 やっぱり、そういう光に導かれて、ここまで来たって気もするから」
「ガロードがつけた名前なら、私はなんでも好きになれると思う」
「おう、ありがとうよ。愛してるぜ、ティファ」

立ち上がり、抱き寄せてその頬に軽くキスをした。
それからパイロットスーツのヘルメットをぶら下げて、フリーデンのブリッジに向かう。

「ガロード・ラン」
「ん、どうしたんだランスロー?」

廊下で、1人の男が待っていた。
ランスロー・ダーウェル。
宇宙で何度か革命軍とやりあううちに、知り合った男だった。
ジャミルとは旧知らしいが、多くは語らない。革命軍のやり方に疑問を持っていて、軍を抜けたようだが、それ以上のことは知らなかった。

「サザビーネグザスという、MSのことをテクスから聞いたのだが」
「おう、あれか」

時間が無いので、ブリッジに向かいながら話をする。

「20年前の戦争終結後、宇宙革命軍は次期主力MSの開発を行っていたのだ」
「へぇ。クラウダか?」

どういう偶然なのかは知らないが、革命軍は新型MSとしてクラウダを開発していた。
ラクスの使っていたものと、ほとんど同じようなものだった。

「ああ。結局は、クラウダが採用されたのだが、もう一つ競合していた機体があった」
「なるほどな」
「クラウダが、量産性と、誰にでも操縦できる汎用性を追求していたのに対し、
 それはコストを度外視した、ニュータイプ専用のMSだった。
 性能も出力も段違いだったが、それだけに問題があったのだ」
「問題……」
「エンジンが能力に追いつけず、しかもその操縦機構の複雑さから、ニュータイプでも相当な腕を持ってないとまともに動かせなかったのだ。
 だから、結局は誰にでも扱え、量産の容易なクラウダが選ばれることになった」
「そいつは、どうなったんだ?」
「開発者は諦めきれなかったのだろう。
 地球のガンダムを、間違いなく倒せるMSなのだと手紙を残し、
 まだフレームしかない、名前すらないそれを操縦して、難攻不落である月への突入を試みたらしい」
「……」
「その後のことは、知らない。月へ突入する前の通信が、最後だった」

それがサザビーネグザスの、原型なのだろうか。
確かに、AW技術では無理でも、事実上無限の力を持つCEの核エンジンならば、要求に応えられたかもしれない。
なにより、あのファンネルはAWのものだった。

わからない。
だが、もしそうだとすれば、ますます月にいかねばならなくなる

「遅いですよ、ガロード」

ブリッジにたどり着くと、カリスが秀麗な顔をこちらに向けてきた。
昔の縁で、仲間になったのだ。フリーデン�Uを得られたのも、彼の功績が大きい。
今は、ガロードの補佐に回ってくれている。万事に気が付く、いい男だった。

「悪い、カリス。状況は?」
「地球軍が追いかけて来てます。ただ、旧型艦では追い切れてないので……」
「アークエンジェルが、単独で来てるってことか。
 やれやれ、あいつらなんだってんだよ」

フロスト兄弟の顔を思い浮かべた。いまや地球軍中将にまで昇って、相当な権力を握っているようだ。
ただ、順調に後方で出世していればいいものを、いつまでもフリーデンを追いかけて来ていた。
しかもどういうわけか、CEからアークエンジェルも一緒に連れてきたようだ。

「ったく、あいつらだけだよなぁ、CE行って得したのって。
 俺らフリーデンは、あんまりメンツ変わってねぇもんな」

「なに言ってやがるんでぇ! この赤い2連星にかかりゃ、地球軍なぞお茶の子よ!」
「その通りだぜ。ひょー、グゥレイトォ! 数だけは多いな!」
「フォンドゥヴァオゥ! 月には、世界中から集めた英知があるとか……
 つまり、ありとあらゆるエロゲ……もとい、文化が残っているのですね!
 いやぁ、楽しみだなぁ! ビバ、AW!」

うん。
きっとジャミルが居た頃とそんな変わらないだろうな。

「ガロード、月からもなにか出撃してるわよ」

サラが、声をかけてきた。トニヤは、ウィッツと一緒にフリーデンを離れたが、元気だろうか。

「よーし、野郎共! 月目指して行くぞ!
 MS隊はフリーデン護りながら進む!」

ガロードがブリッジから飛び出すと、パイロットたちは一斉に続いて来た。

ブリッジに行く。キッドが、出迎えてくる。

「よう、キッド。DXはどうだ?」
「バッチリ! それにしても、5年かぁ」
「DXも、すっかり形が変わっちまったな」

苦笑して、DXを見上げる。
補修に補修を重ねた機体は、すでに原型を失っている。
サテライトキャノンは、とっくの昔に使えなくなっていた。

DXに乗り込み、出撃する。ベルティゴ、バスター、2機のラスヴェート、クラウダが続いてくる。

『こちらアークエンジェル、ただちに投降しなさい、フリーデン!』
「よう、行き遅れたマリューのおばちゃんじゃねぇか!
 こんなとこで俺たちなんかおっかけてないで、男でも漁ってたらどうだ!?」
『な、な、なんですってぇええ! 
 ローエングリン照準!』

おいおい、いきなり必殺技かよ。
さすがに見え見えの予備動作で、当たるほど間抜けじゃない。
フリーデンも、MS隊も余裕をもって回避行動を取る。
それにいまなお、フリーデンの操舵はシンゴ・モリだった。

『いい加減決着をつけるぞ、ガロード・ラン!』
『君たちのライバルとしてね!』

「けっ、ライバルだと思ってるのはてめぇらだけだろ!」

バスターライフルを撃ちつつ、アシュタロンとヴァサーゴにも近づいた。
軍として整備が受けられる彼らは、いつも新品のような装甲で出撃してくる。

何度も、ビームを放ち合った。

「おい、いいのか中将さんよ。また宇宙革命軍が変な動きしてるんだろ」
『むっ、なぜそれを知っている?』
「蛇の道は、って奴さ」
『フン。さすがは最強のバルチャー、ガロード・ランってところかな』

5年、あちこちで戦い続けてきた。
自覚は無いが、名前だけはバカに売れていて、最強のバルチャーとか、大げさな名前でガロードを呼ぶ人間もいた

「褒めてくれてありがとうよ。どうだい、ここらで休戦ってのは?」
『休戦だと?』
「俺たちゃ、月に行きたいだけでね。
 おまえらと追いかけっこしたいわけじゃないんだ。
 それにフロスト艦隊も、革命軍に備えなきゃいけないんじゃないのか?」
『それはどうかな。僕らも、月に行かなくちゃいけないんだ。
 連邦政府にとっても、D.O.M.E.の謎は関心事でね』

そう言ってると、月の方向から反応があった。
身体をそっちに向けた瞬間、ビームが襲いかかってくる。かなりの、出力。

「Gビット……!?」

舌打ちをしながら、回避行動を取った。
それらは、フリーデン、アークエンジェル、お構いなしに攻撃をかけてくる。

『仕方ない、休戦の話に乗ったぞガロード!』
「おう、賢明だぜシャギア!」

ビームソードを引き抜きながら、Gビットの脇腹を払う。
十分に斬りつけられる体勢だったが、浅い。
相当厚い、装甲のようだ。

「どうやら、月の引きこもりさんは、招待状のないお客が嫌いなようで」

ぺろりと、自分の唇をなめた。
悪くはない緊張感だった。

『手を貸すぜ、ガロード!』

懐かしい声を、聞いた。振り返ると、5隻もの戦艦を従えた蒼いMSが、こちらに向かってきた。

「ウィッツ!」
『悪いな、宇宙に上がるのを手間取っちまってよ!』

ウィッツ一家。AWで、最大規模を誇るバルチャー集団である。
その巨大さは、一国すら動かすと言われていた。

『こっちもいるよぉ!』

赤いなにかが、目先をかすめた。
Gファルコン。それと、合体した見覚えのある機体。

「ロアビィ……おい、おまえなのか!?」
『お久しぶりぃ、5年ぐらい?』
「生きてたのかよ! 連絡の1つもよこさねぇで! バカヤロウ!」
『悪い悪い。どうも、俺だけ宇宙に飛ばされててね。サテリコンって人らのとこで世話になっていたのさ』

『あ、アタシはパーラ・シス。あんたが有名なガロード・ランかい?
 ロアビィから話は聞いてるよ』
「おう、ガロードだ! よろしく頼むぜ!」

ロアビィの後ろから、やはり数隻の戦艦がやってきていた。

『ったく、大所帯だね。これで月に押しかけるのかい?』
「まぁ、なんとかなるだろ、オルバ」

アシュタロンや、ヴァサーゴと並んで進む。
そういえばこいつらとも、長い付き合いだった。

「待ってろよ、D.O.M.E.。5年前のこと、きっちりオトシマエ付けてやるからな!」

叫んだ。月の施設が、徐々に見えてきていた。
 
 
エピローグ『シン・アスカ』