スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第22話

Last-modified: 2012-08-15 (水) 22:25:57
 

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED

 第22話「テレパシー」

 
 

 アークエンジェル内部では、地球対流圏に降下が成功した段階で上部に着艦した二機を回収した。
 大気圏突入モード対応機とはいえその発熱は相当のもので、自力で出て来たイチェブも満足に歩けず倒れ、キラもコックピット内部で気絶したままの状態で発見され緊急搬送された。
 降下地点は当初予定のアラスカからは大幅に外れ、灼熱の砂漠が覆うアフリカに行き着いた。

 

 艦長日誌
 アフリカへ降り立った私達の前には様々な問題が山積みとなった。
 二人のMSパイロットが倒れ、着艦した領域はZAFTの勢力圏内のど真ん中だという。
 しかも、シャトルはトゥヴォックと共に宇宙にいる状況だ。
 アークエンジェルはシャトルのコンピューターの補助によってセンサー性能を強化できていたが、現状では新しく整備したコミュニケータネットワークを維持する補助プロセッサユニットにより辛うじて様々なシステムを利用出来ているに過ぎず、センサー類は元の性能に戻ってしまった。
 幸いな事に、着艦して数日は平穏に過ぎた。このまま何事も無ければ良いが。

 

 いつもの様に私は作戦室で上級士官との定例の会議を開いていた。
 この場には私の他にラミアス中佐、フラガ少佐、バジルール大尉、そしてセブンが同席していた。
 彼らはこの数日不眠不休といっても良い程大忙しで様々なことに対応していた。
 人員も物資も足りているのは幸いしたが、武器は大問題だった。

 

「……ストライク及びデュエルの砂漠対応については調整が済んだそうね」

 

 私の問いにセブンが普段通りに答える。
 この状況下では、彼女のこの変わらなさ具合が救いに感じられる。

 

「あぁ。システムの調整はした。
 だが、パイロットが二人とも眠ったままでは動かし様が無い。
 デュエルは他の者を乗せることもできるが、ストライクはヤマト少尉と密接に同期している。
 彼が起きない限りは難しい」
「……OSの書き換えで対応する事は出来ないの?」
「それは勧められない。あのシステムは私が作るものより優れた性能を持っている。
 消すには惜しい。あれと同じものを個人に合わせて作り上げるよりは、本人に使わせるのが最も効率的だ」

 

 私は思わず溜息を吐いた。
 彼女の意見は確かにその通りだとしても、この状況で効率を優先するのは気が引けた。
 とはいえ、キラ少年は目立った負傷があって眠っているのではない。
 そのうち回復して起きてくる事を考えれば、可能な限り急ぐ必要は無いとも言える。

 

「フラガ少佐、貴方の方ではどう?スカイグラスパー……行けるかしら?」
「俺は行けるっちゃ行けますがね、ひよっこの方は……ちょっとねぇ」
「……カズイ・バスカークのことね。
 確かどちらかと言えばMAの適性に優れているという結果だったかしら」
「はい。でも、結論から言えばダメですね。訓練が浅過ぎてまだ飛べる段階に無い」
「……そう」

 

 上に挙がった彼にはスカイグラスパーに交代で乗ってもらう予定でいるが、さすがにそう簡単にことは運ばない様だ。
 話題を変えてセブンに新型の方を聞いた。

 

「で、あれは出来ているのかしら?」
「新型か?……率直に言えば不満はある。だが、動かせる段階にある。
 素体を構造レベルで補強しているから、ストライクと同等程度の性能はあるだろう。
 装備も共通のものが使える。」
「それじゃ、何が不満なの?」
「……ZAFTの新型を見ただろう。あの程度のものに負けるのは、……納得が行かない」
「……セブン」

 

 彼女の立場に立てば無理も無い。
 彼女からすれば「かなり制限をして」作った産物だ。
 それがつい先日の機体によって一変した。
 彼女の気持ちからすれば、不満を感じても仕方が無かった。

 

「艦長からは何か?」

 

 ラミアスはここ最近の近隣の情報の収集結果と、自分の判断内容を記したデータの入ったパッドを私に渡した。
 私はそれに目を通し、彼女の判断を思案し質問した。

 

「この、明けの砂漠という組織は、ZAFTと反目しているようね。
 でも、規模からすると随分小さいわ。使えるかしら?」
「現状を考えれば使えるものは使うという判断の他に無いと考えます」
「でも、タダでは向こうも動かないでしょうね」
「それは、彼らの要求を実際に聞いてみなければ分かりませんが、交渉の余地はあるかと」
「バジルール大尉はどう考えるかしら?」
「私は、正直な感想で言えば、そのような組織との協力は無益と考えます。
 我々が得る利益より、彼らが我々を知る事で得る利益の方が大きく、我々を売る事で得る利益も考慮に入れると……距離を置くべきかと」

 

 二人の意見は真っ向から反目するものだが、どちらも一理あるといえる。
 我々は孤立無援で、協力を得られるのであれば支援を受けられる体制が有る方が良い。
 しかし、そのことで彼らが情報の価値の誘惑に捕われ、我々を政治的に売る判断を下すリスクもまた存在する。
 だが、私の答えは明確だ。

 

「中佐の考え、使ってみましょう。
 大尉の危惧を考慮に入れても、小さいなら私達が潰せるとも言えるわ。
 勿論、ZAFTが手を焼いているというのを留意してもね。これは十分な脅し材料に使える。
 相手も二正面衝突は望まないと考えれば、私達が交渉する価値はあるわ」
「大佐……」

 

 二人はあまりの話に呆気に取られていた。
 時々見せるジェインウェイの冷酷な一言は、味方ながら恐ろしいものを感じた。

 
 

 ZAFT軍ジブラルタル基地。
 地上に辛くも降下したZAFTの赤服を着た3名…イザーク、ディアッカ、ニコルは、ブリーフィングルームのテレビ電話で会話していた。彼らの相手はラウ・ル・クルーゼだ。
 彼の隣にはアスランの姿も見える。

 

「いやはや、三名共無事にジブラルタルに入ったと聞き、安堵している。
 先の戦闘では御苦労だったな」

 

 クルーゼの口調は普段通りの落ち着いた余裕のある声だ。
 彼の表情は仮面を付けている事からあまり伺えないが、余裕のある……どちらかといえば陽気な時は口元に笑みを浮かべる。
 この時の彼の口もどうやら陽気なようだ。

 

「……死にそうになりましたけどね」

 

 苦笑混じりにディアッカが言い、両サイドに立つ二人を見回すと、イザークもニコルも同様の表情を浮かべていた。
 そんな彼らの反応にクルーゼの口元がにんまりと上がっていく。

 

「残念ながら、足つき艦隊を仕留めることはできなかったが、君等が不本意とはいえ地上に降りたのは幸いかもしれん。
 足つきは今後地球駐留部隊の標的となるだろうが、君達も暫くの間、ジブラルタルに留まり共に奴等を追ってくれ。
 ……無論、機会があれば討ってくれてかまわんよ。なぁ、ザラ隊長」

 

 画面の横にいるアスランの表情に笑顔は無い。彼は淡々と告げる。

 

「君達の健闘を祈る」

 

 アスランはそう言い残し会議を終了した。

 

「はは、宇宙には戻ってくるなってことぉ?……俺達に駐留軍と一緒に、足つき探して地べたを這いずり回れって言うのかよ。あん?って、おい…イザーク!」

 

 ディアッカの問いかけに、唐突に彼は目元を覆う包帯をほどき始めた。
 ニコルもどう反応して良いか困惑していると、程なく包帯は解かれ、その顔に斜めに走る傷跡以外は綺麗に治っているイザークの顔が現れた。

 

「機会があれば、だと。
 ……討ってやるさ!次こそ必ず!……この俺がなっ!!」

 

 彼の表情からは固い決意が見て取れた。
 だが、そこに横からディアッカが申し訳無さそうに告げる。

 

「……気合い入っているとこ悪いがな。お前の機体…ダメだってよ」
「えぇえええ!?!どぅじてぇえええ!!!」

 

 イザークの大仰な落胆振りに驚くディアッカだが、彼も最近はこの反応に慣れてきた。
 とはいえ、下手な発言をしたあとの反応が予想外過ぎて迂闊なことは言えないが。

 

「……あ、いやぁ、その、な?……お前、気を失ってたから知らないだろうが、正直お前が無事なのがおかしいくらいに損傷がやばくてさ。
機体の修復は不能だそうだ。
 あ、だけど心配するなよ!新しいのは司令部がよこすって回答来てるからさ。
 それまでお前の機体……無し……だけど気にすんな!お前が生きていただけでも良かったよ!」
「マァジィでぇえええええ!!!」

 

 イザークが盛大に叫ぶ。その様はムンクの叫びを思わせるほどの哀愁を漂わせながら。
 何となくこうなることは分かっていたディアッカだが、それでも何故か激しく納得が行かなく、ディアッカは頭を掻きながらニコルの方へ視線を移す。
 だが、そのニコルは早々に逃げる姿勢を鮮明にして視線を合わせない。
 彼は目前で大粒の涙をこぼして嘆く友を、為す術無く見守る他無かった。

 

 その頃、会議通話を終えたヴェサリウスでは、アスランの自室でありクルーゼの元執務室の応接椅子に対面で座っていた。

 

「先の戦いは本当に助かりました。クルーゼ隊長」
「……フフ、今は君の隊長ではないよ。でも、嬉しいな。そう言って貰えるのは。
 何、礼は要らないさ。我々は同志だ。志を共にする者が助け合うのに理由は要るかな」
「司令部との連絡で初めて知りました。あなたが援軍として来るとは聞いていなかったので。
 いえ、そんなことは良い。アレは何です?
 ……技術資料を請求しても機密の一点張りで教えてもらえませんでした」
「……まぁ、そこに目が向くのは仕方の無い話だな。アレは…そうだな、司令部が隠すのも無理は無い。
 だが、君の父上は連合のXナンバーの危険性を強く感じておられた。それ故の決断の産物だろう。
 お父上を察して欲しい。軍とはそういう場所だ」
「……わかりました。そういうことでしたら、これ以上はその件には触れません。
 今後はどうされるおつもりです」
「命令に従うまでさ。ここの指揮は君が採るのだろう。
 ならば、君か……もしくは司令部が決めるだろう。違うかな?」

 

 クルーゼは応接椅子の背もたれにゆったりと背を付けて座っていた。
 この場を端から見たなら、立場上はアスランが上とは誰も思わないだろう。

 
 

 アークエンジェルのハンガーでは、セブンのもとにフレイ・アルスターとトール・ケーニヒが招集されていた。
 彼らの目前には「新型」が佇んでいた。
 新しく整形し直された機体は、正式名をジン改めジーニーとされ、ジン特有の尖ったデザインは廃されて、丸みを帯びたフォルムを採用していた。

 

「Xナンバー風のモデルナンバーを付けるならば、ジンは元だからX-100だろうな。
 ジーニーの適性はお前達二人の他にフラガ少佐が適応すると出ている。
 お前達二人には、今後交代でこの機体を動かしてもらう事になるだろう」
「私……達の機体……ですか?専用じゃないんですね」

 

 フレイの言葉にセブンは片眉を上げて反応する。

 

「そうだな。『今の所』はな。予定は決まっていないが新しい機体は作るつもりだ。
 それまではこれで慣れる事だ。お前達の能力が上がらなければ、作った所で戦力にはならないからな」
「……はは、ま、そうっすよねぇ。でも、なんで俺も適性があるんですか?
 能力なら少佐やノイマンさんの方が上じゃ?」
「良い質問だ。お前とフレイ・アルスター、そしてフラガ少佐には拡張空間認識能力がある様だ」
「拡張空間認識能力?」
「簡単に言えば、そうだな……お前達の概念ではテレパシーの様なものだと考えれば良い。
 本来地球人にはそのような能力は自然発生しない。
 だが、宇宙空間に進出することで脳内活動が活発化し、新しい回路が生じる事でテレパシー能力を獲得する個体が現れることもある。
 テレパシー自体は特別な能力ではない。脳量子を特別に感じ取れる個体が自然にも存在する。
 例えば双子の様な生体組織が同一の個体等だ。量子は物体を透過して亜光速で到達する為、遠く離れていても共感するテレパシー現象が発生するのだ」

 

 セブンの丁寧な解説だが、当の二人は混乱している模様だ。
 彼女はそんな二人の反応に溜息を吐きつつ、微笑んで続けた。

 

「ジーニーにはフラガAIを進化させたものを搭載している。
 お前達の脳波を感じ取って行動する神経リンクインターフェースにより、考えるだけで動く事が出来る。
 幾つかの挙動はモーションキャプチャーもするので、例えば手の指を動かすといった細かい動作は、自分の手を実際に動かせば良い」
「す、すげー。どうやってそんなシステム作るんですか!?」

 

 トール・ケーニヒは機械技術を学ぶ身としても興味津々の様子だ。

 

「話せば長くなる。それはお前達の仕事が無くなった時にしよう。
 ……早く、平和な場所へ向かいたいものだな」

 

 セブンはそう言い、二人を順番に一人ずつ指導していった。

 
 

 ヴォイジャーでは急ピッチで新しい装備の設置に取り組んでいた。
 地球連合軍が開発した技術を元にヴォイジャーで完成されたそれは、ヴォイジャーが地球軌道圏内に入る為に必須の技術と言える。

 

「ブリッジから機関室。ベラナ、準備は良いか?」

 

 艦橋の艦長席よりトムが問い掛ける。
 機関室の方の彼女はワーププラズマ前のコンソールで待機していた。

 

「いいわ。始めて」
『わかった、始めるぞ!』

 

 トムの号令で艦内が非常照明に切り替わる。

 

「ドレス、起動!」

 

 彼の命令でドレスが起動された。すると、機体表面を薄く液体が覆い尽くす。
 全てが覆い尽くされた瞬間、それは宇宙空間に溶け込み、ヴォイジャーは闇の中に消えた。
 その様子を外部のプローブからの情報で確認する。

 

「よし、成功したぞ!」
『いや、だめよ……このままでは使えないわ』

 

 機関室でも確認していたベラナだが、確かに成功したのは間違いない。
 しかし、彼女はこの技術の欠陥に気付いてしまったのだ。
 その頃医療室のZAFTの少年達はドクターの先日の話に元気をなくしていた。

 

「ミゲル、ラスティ、君達の今後についてだが、喜びたまえ。
 いつかは君達の国に返してやれることになるそうだ。良かったなぁ、二人とも」

 

 にこやかに語りかけるドクターだが、当の二人はそんな気分ではなかった。
 先日自分達の国がしている驚愕の事実を聞かされて、そこに帰れると言われても内心素直に喜べる様な話でも無かった。

 

「……ドクター、たぶん僕らはもう亡くなったことになっているよ」

 

 ラスティが暗い表情で返答する。
 ミゲルもちらっとドクターの方を見るだけだ。
 彼らはベッドの上に座りながらパッドで本国のアニメーション等を見ていたのだが、それも半ば惰性行動に過ぎない。ここでは何もやる事がないのだ。

 

「そこを帰ってくるんだ。ご両親もさぞ喜ぶ事だろう」
「……そうかもしれないね」

 

 必死に笑顔で語りかけるドクターだが、彼らには全く効果が無い様だ。
 彼らのこの落ち込み具合を見て、さすがに情報を告げるのが早過ぎたかと感じていたが、過ぎてしまった事は変え様が無い。
 この状況を打開する方法は無いか。
 このような状況の彼らを変える良い方法は……?

 

「……そうだ、君達、何か好きな事はあるかね」

 

 ドクターの言葉に二人は目をパチクリとしている。

 

「うーん、もっと体を動かしたいかなぁ。ここだとさぁ…」

 

 ミゲルが医療室の彼らの居る区画を遮断するフォースフィールドに触れ、フィールドが発光して反発する。

 

「ってな具合だろ?……ここを出る事は出来ないのか?」
「君達の安全の為にこのフィールドは張られている。
 予め言っておくが、君達が何かアクションを取ろうと考えているなら止めた方が良い。
 ここに居るのは君等よりずっと強い人達だ。いくらコーディネイトされた君達でも、彼らは天然で君等の能力より進化している。無駄な努力になるだろう」
「……へぇ、ナチュラルなのに強いってのか」
「ナチュラル?……あぁ、確かにそう言われれば、その通りだな。
 フフ、彼らをナチュラルというなら、確かに相当進化したナチュラルだ」

 

 ミゲルはドクターの言葉に興味がくすぐられたが、実際これほどの技術を持つのであれば、ドクターが遺伝子の再配列を施術出来ることも含めてお手上げだろう。
 それでも、それがどのようなものなのかというのは興味深い。
 ラスティは彼の思惑とは別に自分のやりたい事を考えていた。
 考えてみれば、彼は最初のミッションで失敗して死んだ筈の身で、必死に訓練して身につけたMS操縦の技術を一度も使う事無く終わってしまったのだ。
 一度死んでしまっているのに戦いたいと思うのもおかしいが、現在は連合とかZAFTに関係無く純粋にMSの操縦を楽しんでみたいというのが頭にあった。

 

「ねぇ、ドクター、何でも好きな事ができるの?」
「ん、まぁ、可能な範囲であればだが」
「じゃぁさぁ、モビルスーツを操縦する……なんて事は出来る?」

 

 彼の言葉にドクターはしばし沈黙した。
 彼の要求に応える事は出来るだろうが、それが果たして良い事なのだろうか。
 ゲームセラピーとでも言うべきか。そうした前例がないわけでもない。
 プログラムについてはトム・パリスに頼めば考えてくれるだろう。

 

「……可能だろう。数日時間は貰うことになるだろうが、良いかね?」
「うん!操縦出来るなら待つ!……希望とかは聞いてもらえるのかなぁ?」
「それは構わないだろう。パッドの方に纏めておいてくれたまえ」
「分かった!有り難う、ドクター!」

 

 彼は患者を治療するのが仕事だが、患者が常に笑顔を返してくれるとは限らない。
 笑顔で礼をするラスティの明るい表情に、ドクターは彼を治療できて良かったと感じていた。
 この笑顔をこれからの人生の中でも維持して行ってくれれば、医者として幸せな事は無い。
 そう感じ入っている傍らでミゲルは、ラスティの提案内容にも興味が湧いていた。

 

「なぁ、それ、俺も仲間に入れてもらってオッケー?」
「うん、ミゲルも一緒だよ!」
「二人とも仲が良いな。希望は随時受け付ける。パッドに日誌と一緒に提出してくれ」

 

 二人は頷いて同意した。
 彼らの要求を聞き入れる事にしたドクターは、早速パリスのもとへ申請を入れるための作業に入った。

 
 

 アークエンジェルのハンガーでは大忙しで作業していた。
 新しく入ったスカイグラスパーの一つをバラす作業をしていたのだ。
 丁度視察に来たジェインウェイがセブンのもとへやって来た。

 

「あら、何やっているのかしら」
「あぁ、社長。見ての通り、分解している。幸い2機あるからな」
「えぇ、それはわかるけど、一体何をしようというの?」
「機体構造性能の評価と改造余地を見ている。このままの機体を飛ばしても限界がある。
 我々は数で劣るからな。だから出来る限り質で上を行かなくてはならない。
 だが、社長も知っての通り、我々には縛りが有る。その為にどこまで出来るか評価する必要が有る」

 

 セブンの技術者魂には驚かされた。
 彼女はこの極限とも言える状況でも飽くまでエンジニアとして最善を目指している。
 それも我々が課した条件の中でだ。神経リンクインターフェースの件はヒヤリとさせられたが、この戦闘機を改造する程度ならば問題は無いだろう。
 ただ、内容は知りたい。

 

「……あなたの努力にはいつも感心させられるわ、セブン。
 で、何が出来ると考えているのかしら」
「あぁ、それなら、これが私が評価した結果の報告書だ。ここにいるなら渡す手間が省ける」

 

 彼女は私にパッドを渡した。
 私はその報告の内容に目を通す。

 

 そこには空間戦闘モビルアーマー改良予定書とあり、装甲、バッテリー、武装の3つが挙がっている。
 装甲は開発中の試作カーボン素材の完成版である、表面結晶硬化機能性炭素素材『Carbond(カーボンド)』装甲を採用。耐熱、対光、対ビーム性能を大幅に上昇させながら軽いという特性を持つ。
 簡単に言えば表面をダイヤモンド化することで、耐久性能を上げながらコストを大幅に下げるという離れ業をやってのけたのだ。
 単純性能はラミネート装甲程度の強度だが、弱いビームやレーザーならば反射もするので、今後の主流に採用されれば大幅なコスト削減に繋がるだろう。
 しかも、この装甲はナノチューブ蓄電池としての機能性を持ち、バッテリー容量が大幅に増える結果にもなる。
 武装は空間ミサイルを4発搭載するほか、新開発のパルスビーム砲を2門搭載するという。
 パルスビームを採用するのは省電力化の他、モジュールの寿命自体を伸ばすためだという。

 

「……セブン」
「なんだ」
「これ、いつ頃できるのかしら」
「装甲は……設備が足りないのでもう暫く掛かる。その他は個々のコアモジュールは完成しているので、規格に合わせて組み立てれば使えなくもない。だが、もう暫くかかるだろうな」
「……そう。まったく、あなたの才能には驚かされるわ。このカーボンドなんて、ヴォイジャーでも使えるんじゃないかしら?」
「それはどうだろう。この技術はボーグが過去に同化したものだ」
「……なるほど」

 

 彼女の知識の中にはボーグが同化した人々の知識もある。
 この時代の技術レベルに合わせているという彼女の言葉をその通りに受け取れば、それは確かに我々が遥か昔に通過して行く上で捨てた選択肢なのだろう。

 
 

 艦橋ではバジルールがラミアスの休憩時の交代として艦長席に座っていた。
 操縦席にはノイマンが座り、副操縦席には誰もいない。CICにはサイが一人で担当している。
 OSがアップグレードされて以来、CICの必要人数は大幅に減り、最悪1人でもデータを参照できる。
 そのお陰でシフトが格段に緩やかになった。現在の艦橋にはこの3人のみだ。

 

「ノイマン、お前は休まないのか」

 

 その声は唐突に彼の後ろから聴こえて来た。
 彼が振り向くと、そこには艦長席に居た筈の人物が前に立っていた。

 

「大尉、私はここが落ち着くから良いんですよ」
「そうか?」
「えぇ。思えばヘリオポリス以来、ずっとこのシートに座ってきました。
 時間にすればそう長くない筈なのに、ここに居る事が半ば当然の様にしっくりきて」
「……フフ、そういう君が新型のパイロットに応募していたのは、何故かな?」
「そ、それは!?……正直、私も乗りたかったんですよ。モビルスーツ。
 パイロット選定にも挑戦した事がありました。でも、不合格で」
「ならば、この席は不本意なものなのか」
「だったら、ここに座っていませんよ。ここが好きだから座っている。
 結局、パイロットとしてここに立っている自分が好きなのかもしれません」

 

 ノイマンは笑顔で話していた。それは心からのものなのだろう。
 殺伐とした戦場の中において、普段は緊張の連続で無表情になりがちだが、彼はそんな状況でも笑顔を見せた。何と強い男だろうか。

 

「ノイマン少尉、今度暇が出来た時は、私と一緒に過ごす気は無いか?」

 

 彼女の意外な申し出に彼の方が驚いていた。普段は全くそんなそぶりも無かったはずだが。

 

「えぇ、喜んで」

 

 彼は笑顔で承諾した。
 彼女は自分のしたことに恥じらいつつも、彼の目を見て微笑んだ。

 

 アークエンジェル医療室では、二人のパイロットが眠っている。
 暗い室内はカーテンで仕切られており、二人のバイタルメーターが動いている以外は無音だ。

 

「うっ」

 

 イチェブは目を覚ました。
 腹の辺りにチクリとする痛みを感じて起こされたのだ。
 彼はゆっくり起き上がる。……降下は無事成功したが、コックピットを出た後の記憶は無い。
 たぶん、その後ここには運び込まれたのだろう。どれくらいの時間が経過したのだろうか。
 彼はシャツをめくって先程痛みを感じたところに触れた。
 触れてみるとなんとなく固いものがある。
 彼にはそれが何で有るかはすぐに分かった。そして、その原因も。

 
 

 ―つづく―

 
 

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