リリカルクロスSEEDW_第11話

Last-modified: 2008-03-17 (月) 10:05:36

「・・・・・キラくんは?」
なのはの問いにクロノは首を横に振る。
「この前の戦いの大怪我、長距離転送による魔力激減、精神に多大な負担。普通だったら死んでるよ」
クロノの言葉に全員が俯いてしまう。
「彼がスーパーコーディネーターだったから今も生きていられるってところだろうな」
「本当は欲しくなかったもののおかげで生かされた・・・・か。だが、今はそれに感謝せねばな」
「キラ君は回復するん?」
全員が今一番聞きたい事をはやてが代表となりクロノに聞く。
「大丈夫だ。これ以上無理をしなければ怪我や魔力は回復するだろうな」
その言葉に全員がホッとした表情をした。しかし、クロノはそのまま言葉を続ける。
「ただ」
「ただ?」
「心を閉ざしてしまって反応がないのが問題だ。これは魔法とかじゃ治せないものだからね」
自分が気付かない間に人を殺していた。人を殺した罪を背負い、不殺の戦いを自分にかせたキラにとっては相当なショックを与えていたのだろう。
そこでなのはは周りにフェイトがいないことに気が付いた。
「フェイトちゃんは?」
「それが部屋に篭って出てこないんだよ」
なのはの質問にアルフが心配そうに答える。
また自分の所為でキラが傷付いたことにショックを受けたのだろう。
誰もそんなことを考えていないし、責める気もない。キラだって責めないだろう。
しかし、フェイトは自分自身が許せない、そう考えている。

 

「とりあえずキラ君の傷と魔力の回復は・・・・シャマルお願いできる?」
この中で最も適任であろう人物にはやては聞く。そして、はやての言葉にシャマルは笑って頷いた。
「もとよりそのつもりですよ、はやてちゃん」
「頼むぞ、シャマル」
「まかせて、早くキラさんが回復するように全力を尽くすわ」
「それなら主はやて、私たちは一刻も早くデバイスを完成させましょう」
リインフォースの言葉にはやては頷く。
すでに7つの試作機を今回の戦いで破損させてきたが実戦でのデータが十分に集まった。
後はこのデータを生かせれば新しいはやてのデバイスが完成する。
「そやな、リインフォース。私も皆を守りたい」
はやても今まで前線で戦えていなかったことやキラが怪我したことを気にしていたのだろう。

 

「少し聞きたいんだが・・・・・・」
クロノがそんな会話をしているはやてやなのはに心配そうに声をかける。
「大丈夫なのか?君たちはあの現場を見てしまっていた」
クロノに言われ、なのはたちは少し暗い顔をした。人が殺されているのを見るのはショックが大きいはずだ。
「大丈夫・・・・・やないけど・・・・」
「今は私たちが頑張らないといけないから」
「まったく・・・・君たちは本当に強いな」
クロノは少し溜め息をついてしまう。もう少し弱い部分があってもいいはずなのだが。
「だが、無理はしないでくれ」
クロノの言葉になのはたちはしっかり頷いていた。
「今は管理局総出でファントムの居場所を探している」
「アリシアちゃんの反応を追ったんだけどうまく撒かれちゃったみたいだからね」
クロノにエイミィが続く。
「それが見つかるまで君たちは休んでいてくれ。あまり考えすぎないでくれ」
その言葉が解散の合図となった。

 

「なのは、すまないけどフェイトに会ってくれないかい?」
全員が解散する中、アルフがなのはに話しかけてくるその顔はとても疲れているような顔だった。
フェイトが心配で仕方ないのだろう。目の下にうっすらとくまが出来ていた。
「うん、分かったよ。アルフさん」
そう言って、なのははフェイトの部屋へとアルフと向かった。

 

「フェイトちゃん?」
部屋に入ると中は暗くフェイトはベッドの上で膝を抱えて座っていた。
その姿がなのはにはとても寂しく見えた。
「なのは?」
部屋に入ってきたなのはに顔を上げるがやがてまた目を伏せてしまう。
「ごめんね、なのは」
「何が・・・・かな?」
「また私の所為でキラが・・・・」
「違うよ。フェイトちゃんは悪くないよ」
なのはは優しく答えるが、フェイトはそれでも首を横に振って言葉を続ける。
「でも!私が行かなければキラは・・・キラは・・・・・」
キラがアッシュを殺すことはなかった。殺した罪を背負い、人を殺すことを恐れている少年に殺させてしまった。
しかし、それはフェイトが予想できるはずもなかった。
「お姉さんに会いたいのは当たり前だよ!」
「私が皆に相談していればあんなことにはならなかった」
確かに相談していればクロノたちが監視を行い、アッシュにもすぐに対処できて2人を捕まえてファントムの居場所を聞くことが出来ただろう。
だが、それではアリシアを裏切り、プレシアも助けられないのも事実だった。
「この前の戦いだって私の所為で・・・」
「っ!!フェイトちゃん!!」

 

パシーン!

 

乾いた音が部屋に響き渡った。
「っ!?・・・な・・・なの・・・は?」
フェイトはなのはにはたかれた頬を押さえ、驚いた表情でなのはを見つめた。
「いい加減にしてよ!そんなフェイトちゃん、私・・・・見たくないよ」
なのはの目からボロボロと涙が零れていく。
「キラくんだって、そう言うよ・・・だから・・・・」
フェイトは思った。もしキラが起きていれば、こんな自分を見れば怒るだろう。
はたかれた頬は痛くないが、胸が痛かった。
そして、気付いた。自分が今すべきことはこんなことではない・・・・と。
フェイトはそっとなのはの涙を優しく拭う。
「ごめんね、なのは」
「フェイトちゃん」
「そうだよね。私にはやらなきゃいけないことがあるのにこんなところで止まってちゃダメだよね」
自分が今やらなければいけないこと。それはキラがもう無理しないようにこの事件を解決すること。
そして、アリシアとプレシアを助けることなのだ。
「えへへ、やっといつものフェイトちゃんだ」
なのはは決意したフェイトの顔を見て嬉しそうに笑った。フェイトもなのはに優しく笑い返す。
「私、もっともっと強くなる」
「うん、私もフェイトちゃんと一緒に強くなるよ」
2人はお互いの決意を口にした。

 

そして、1週間が過ぎた頃だった。
「シャマルさん、キラくんの具合はどうですか?」
なのはとフェイト、はやてはキラのお見舞いに来ていた。任務がない日は毎日来ている。
シャマルもいつも通り笑顔で迎えてくれる。
「怪我も魔力もほとんど治ってきてるわ」
しかし、シャマルはその続きを喋ることはない。ここ数日でもキラの意識が戻ることはなかった。
「キラくん、今日も来たよ~」
「キラ、アリサとすずかからお花貰ってきたから後で飾るね。良い香りだよ」
「そう言えば、今日学校でな・・・・・」
3人は今日あったことなどの報告をキラに優しそうに語りかけている。これも治療法の1つだ。
お見舞いに来た人は毎回キラに語りかけていく。キラに早く目を覚ましてもらうために。
シャマルはそんな3人を優しそうに見ながらもあることが気掛かりだった。
キラは今は穏やかに眠っているが、時々うなされている時があった。それはなのはたちには言えなかった。
「ほんなら私はデバイスの方に行くな。リインフォース待たせとるから」
「うん、頑張ってね。はやてちゃん」
「頑張って、はやて」
「あ、途中まで付いていきます」
なのはとフェイトの言葉にはやては嬉しそうに頷くとシャマルと一緒に部屋から出ていった。

 

「それじゃあ、私もそろそろ帰らなきゃ。フェイトちゃんは?」
「私は・・・・もうちょっといるよ」
「うん。それじゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
そして、なのはも帰っていき部屋には眠っているキラとフェイトだけが残った。
「キラ、あのね・・・・・今日は言いたいことがあって来たんだ」
フェイトはゆっくりとキラに語りかけ始める。
「まずは・・・・ごめんね。謝ったらキラに怒られるよってなのはに言われたけど・・・・ごめんね」
フェイトは苦笑いをしながら話を続ける。
「この前なのはに話したことだけどキラにも言っておきたいから。
 私ね、強くなるから。キラに無茶させないから。
 そして、ファントムを捕まえてアリシアと母さんを助けるよ。これが私が今やるべきことだから。
 これをキラに言っておきたかったんだ」
フェイトはキラの頬を撫でながら続ける。
「だから、キラはゆっくり休んで。そして、目を覚ましてね」
フェイトはそう言い終わるとゆっくりと立ち上がり、部屋を出ていった。

 

「それでエイミィ調子はどうだ?」
「今のところ全然居場所が見つかったっていう報告はなし」
クロノの質問にエイミィは溜め息を付きながら首を横に振る。
「エイミィ、私が頼んだ件はどうだったかしら?」
「あ、はい。この前のキラ君の件でしたね」
エイミィがキーボードを叩き、モニターが現れる。
そこにはアッシュ・グレイを殺害した時のキラの姿があった。
バリアジャケットは黒く、翼も黒く変わったキラの姿は誰も見たことはなかった。
「あの・・・・・キラ君がアッシュ・グレイを殺しちゃったことで何か罪に問われるんですかね?」
エイミィは心配そうにリンディに顔を向ける。
「さすがに管理局の方もアッシュ・グレイをデッド・オア・アライブにする方針だったらしい。
 だから彼には大きな罪が掛かることはないだろう」
リンディに代わり、クロノがその質問に答える。
「それでキラさんのあの状態について何か分かったのかしら?」
「あの状態はキラ君に教えてもらったSEEDって力が発動した時の魔力の波動と似てます。
 そして、あの状態のキラ君が危険なことくらいでしょうか」
「危険?」
「はい、あの時のキラ君は本能のまま戦っていたようです。
 それにあの状態の魔力は通常時のフルドライブより上をいきます」
「クラス的にはSランク以上に匹敵しそうだな。全くどうなってるんだあの人は」
「ただあの状態は通常の人間じゃ耐え切れないほどの魔力を発生させて・・・・・死んでいてもおかしくなかったそうです」
クロノはコメカミを抑えながら溜め息を付く。無茶苦茶すぎるのだ。
「原因は分かるかしら?」
「多分、SEEDの能力に関係があるかと、後はフェイトちゃんを助けたのはキラ君の本能がそうさせたのかもしれません」
映像ではフェイトが助けを求めた時と同時にキラが転送してきている。転送してきたルートなどは不明のままだ。
「2年前といい今回といい彼には謎が多すぎるわ」
リンディが思い出すのは本来の姿から子供になってしまったこと、彼の出所不明のデバイス、闇の書事件のあの巨大な傀儡兵のようなもの。
キラはあれが自分の世界でキラが乗っていたモビルスーツというものとは聞いた。
その恐ろしい威力を見たリンディはこの事を極秘にし、キラ自身にもそのジャケットモードの使用禁止と封印を命じた。
そして、今回の暴走の件。
「とりあえず、この状態をバーサーカーモードと付けてますけど・・・・・」
「狂戦士か・・・・確かにな」
「とりあえずキラさんにはSEEDを使うことをやめさせましょう。バーサーカーモードについても詳しく調べて」
「はい」
エイミィが頷く中、映像ではアッシュ・グレイを殺すキラの姿が映っていた。
「そういえば管理局に色々苦情が届きまくってるらしいよ?」
「どうしてもテロとなると後手に回らざるを得ないし、素早く動けないからな」
このままでは管理局に対する非難が集中してしまい、クルーゼたちが考えている通りになりかねない。
「早く元凶を叩いてしまうしかないわ」
「でも、早々簡単に居場所が・・・・って・・・・あれ?」
「どうしたエイミィ?」
「いや、何か通信が入ってきて・・・・この場所って・・・・・」

 

「主はやて、そろそろ休んだ方が・・・・・」
「ううん、大丈夫や。リインフォース、心配してくれてありがとな」
はやてはリインフォースに笑いかけるとすぐにデバイス製作に集中する。その目はとても真剣だった。
「私も早く皆を守りたいんや。そのためにも・・・・」
「分かりました。頑張りましょう」
リインフォースの言葉にはやては嬉しそうに頷いた。

 

「シグナム、ちょっと訓練付いてくんねーか?」
「珍しいな、お前がそんなこと言うとは」
ヴィータのお願いにシグナムは少し驚いた顔をしたが、口の端を少し持ち上げるとゆっくりと立ち上がる。
「休めと言われていたんじゃないのか?」
「そうなんだけどな・・・・・あたしはじっとしてる方が落ち着かないんだ」
「なるほどな・・・・・私も同じだ。場所は?言っておくが私には教えるなんてことは出来ないぞ」
「相手をしてくれるやつがいればいいんだ。全力で頼むぜ」
レヴァンティンをシグナムがグラーフアイゼンをヴィータが取り出し、訓練場まで向かった。

 

「シャマル、キラのほうは大丈夫か?」
食事をしにきたシャマルにザフィーラが話しかけてきた。後ろにはアルフやユーノもいた。
「えぇ、怪我も魔力も大分は良くなってきたわ。ただ意識の回復の兆しは全然なくて」
「シャマルさんは大丈夫ですか?ずっとキラの看病してますけど」
心配そうに聞いてくるユーノ。キラの看病はシャマルにまかせきりなのだ、疲れも溜まるはずだろう。
それでもシャマルは笑顔で答える。
「大丈夫よ。私は戦闘で役に立てないからこういうところで私は頑張らないといけないから」
「無理するんじゃないよ?」
「えぇ、分かってるわ。反面教師がいるからね」
もしこの場にキラがいればどういう表情をするだろうかとシャマルは想像しながら笑っていた。

 

そんな時だった。
「皆!ファントムの居場所発見したよ!!」
エイミィからの通信が全員に伝わる。遂に決着を付けるときが来たのだった。