伊達と酔狂_第01話

Last-modified: 2008-01-12 (土) 00:02:45

その日の夜キラは物思いに耽っていた。さっきシンに絡まれてキラは思い出したのだ。
(シン・アスカ・・・確かアスランが言っていたデスティニーとインパルスのパイロットで
ベルリンで討った巨大MSのパイロットのことで僕を恨んでるって…)
恨まれて当然だな、とキラは考えそして一つの決意をしていつしか眠ってしまった。

 
 

次の日の朝、キラはなのはにある一つのお願いをした、それは…
「シン君とお話がしたい!?」
キラは静かに頷いた。
なのははキラのいきなりの言葉にビックリした。
(昨日一悶着あったばかりなのに…)
「キ、キラくん。いくらなんでもそれはちょっと・・・、また昨日みたいになるかも知れないよ?」
「うん、それでもちゃんと言葉は伝えないと」
そう言ってキラはなのはを見た、その真剣な目を見てなのはは思った、
自分もかつてフェイトやヴィータ達とは戦いながらも言葉を交わし、心を通い合わせたのである。
「わかった。でも危なくなったら止めに入るよ?」
なのははその旨をフェイトにも伝え渋々了承させたのである。

 
 
 

キラは車椅子でシンの病室の前まで来ていた。
「それじゃああまり無理しないでね?」
キラは頷きシンの病室に入れてもらった。
「アンタは!?何しに来たんだよ!」
予想した通りシンはキラを睨み、噛み付いてきた。
「君とちゃんと話がしたくてね」
それを見たフェイトはオロオロして、
(でも大丈夫かな?彼にもしものことがあったら・・・)
(フェイトちゃん心配しすぎ、大丈夫だよ設置型のバインド仕掛けてきたから、ね?)
二人は念話でやりとりしながら部屋から出て、中の様子を会話聞くことにした。

 

「俺はアンタなんかと話すこともないし話したくもないね!」
「ベルリンの時のデストロイ?だったっけ?」
それを聞いた瞬間シンはキラを睨みつけた。
「謝っても許されることではないと思うけど…」
キラもシンを見据えたまま続けた。
シンはすぐにでもキラに飛び掛ろうと考えていたが我慢した。
「あの時あの機体を落とすしかなかったんだ」
それを聞いたシンは声を荒げて
「だからって討つのかよ!アンタは!いつだってアンタ等みたいのは多数を助ける為だって少数を犠牲にする!」
「それでも・・・助けられる命があるなら助けたいんだ」
キラは目を瞑ってかつて自分が助けられなかったフレイやトール、エルやその他大勢の顔を浮かべた。
「じゃあステラは・・敵のパイロットはどうなってもいいのかよ!まあアンタはそうやって大勢殺してきたんだろうけどな!」
シンの言っていることは大きな矛盾だった。軍人は人を殺すのが仕事なのだ。

 

キラは再び目を開け
「そうだね・・・僕は前の大戦から合わせると多くの命を奪ってしまった」
それを廊下で聞いていたなのはとフェイトは絶句した。二人は軍人だと聞いていたが現実に話を聞くと結構キツイものがあった。

 

「討った相手にだって家族や恋人、親友がいると思う、そういう人たちに恨まれるのは仕方がないことだと思うよ。
でも…本当に怖いのは恨まれることじゃなくて討った人の『未来』を奪ってしまうことなんだ。僕は多くの人の命を奪い、血を流し、
『未来』を奪ってしまった、その奪ってしまった命と流した血の総量と閉ざしてしまった『未来』に値する何かを僕は出来るのだろうかってね?」

 

「……!」
シンにとってキラの言葉は重くのしかかった。

 

シンは自分が仰ぐ正義を信じ、己の力を振るってその両手を血で汚していた。しかし信じていた筈の正義はいつの間にかすり返られ
ただ暴力を奮い命を奪い誰かから恨まれる対象になっていた。

 

いつかアスランがシンに向かって言った言葉は正にこれだった。

 

「人間の集団は、話しあえば解決できる程度のことに、何万リットルもの血を流さなきゃならないのかな?そもそも平和な世界って?」
「はぁ?そりゃ戦争の無い世界だろ。その為のデスティニープランで…」
キラは首を横に振りシンの言葉を遮った
「人の自由意思を無視して抑圧する平和は平和じゃない、それは支配だよ。そんな時代は不幸だよ…」
「じゃあアンタが言う平和ってなんだよ?」
「分からないんだ、と言うより分からなくなったかな?昔は戦争さえなければ平和だと思っていたけれど実際戦争に参加して
色んな人に会ったり色んな事を経験して多くのことを考えさせられたんだ…それで知ったんだ、世の中には人の命以上の価値のものがあるという説と、人の命に勝るものはないという説…僕にはどちらが正しいか分からないんだ…」
「人の命より平和か、平和より人の命か…」
シンはそのまま黙ってしまった。

 
 

キラは車椅子から立ち上がって、フラフラとシンのベットの前に立ち、手を差し出した。
「僕はまだ自分が何をすべきか答えが見つからないんだ。だから一緒に探さない?
一人より二人の方が良いと思うんだ。…駄目かな?」
シンは俯いたままでまったく動かなかった。
「…アンタの言っている事が正しいか俺には分からない…でも…それでも俺はアンタが…」
「それでも構わないよ、知っておいて欲しかったから。僕の本当の気持ち…思いを」
キラは差し出した手を引こうとした瞬間シンはその手を取った。そしてシンは不満そうな声と表情で
「…一時休戦だ。この怪我じゃ今アンタをどうこう出来ないし、ここじゃ邪魔も入るだろうし…癪だけどな」
「うん」
シンは握った手を力一杯握って
「でもいずれは…」
「あの~?二人共もういいかな?少しお話があるんだけど…」
その瞬間なのはが恐る恐るドアから少し顔を出し声を掛けた。
「大丈夫だよ?どうしたの?」
「ちょっと二人の今後についてね」
キラは取り合えず車椅子に座りシンも上半身を起こして話を聞く体勢に入った。
そこへ20代半ば位の男が入ってきて
「時空管理局次元航行部隊のクロノ・ハラオウンだ。さっそくだが本題に入らせてもらう。まず君達の出身地なんだが
第97管理外世界と断定した」
キラとシンはなんじゃそりゃ?って顔をしたがなのはとフェイトは驚いた。
「クロノ君、それって!?」
「ああ、彼らもなのはと同じ世界の出身者だ、しかし彼らは未来から来た・・・そう考えるのが妥当だ」
「あ、あの・・・ちょっといいですか?」
キラはクロノに尋ねた
「何かな?」
「それで僕達は元の世界に戻れるんですか?」
クロノは少し考えたが
「残念だが元いた世界には帰れない。次元が違うならまだしも過去や未来には帰れないんだ」
「そんな・・・」
「管理局としては君達に出来る限りの保障はするつもりだ」
キラはショックを隠せない状態だった。それを見たなのはは
「キラ君大丈夫?少し休もうか?」
「大丈夫だよ…大丈夫」
口ではそう言っていたが明らかに大丈夫ではなかった
「取り合えず今は怪我を治すことが先決だ」
そう言ってクロノは病室から出て行こうとしたが
「君達の時代でも魔法無かった、それは間違いないな?」
「え?ええ、見るのも聞くのも始めてですけど…それが何か?」
「いや、君達からリンカーコアが検出されたからな、そうか…たまたまか…」
魔法が無い世界でもなのはやはやてのようにごく稀に魔力をもって生まれてくる人間がいるが、
自分の周りにはそういった人間が多いなと思いながらクロノは出て行った。
「リンカーコア?」
シンの質問になのはは
「リンカーコアは魔導師が持つ魔力の源のことだよ。周囲の魔力素を取り込み、体内の魔力を使用するための器官なんだよ」
「へぇ~、じゃあ俺達も魔法は使えるってことか?」
「ちゃんと練習すればね」

 

その後なのはとフェイトはキラとシンを同じ病室に移動させた。(シンは露骨に嫌そうな顔をしたが問答無用で決定した)
しかしキラはまだ立ち直っていない状態だった。
「キラ君…」
「うん、大丈夫。ちゃんと立ち直れるけど…少し時間が欲しいんだ。心配かけてごめんねなのは」
キラは笑顔を作って見せたが逆にそれが痛々しかった…

 
 

その日の夜キラとシンは非常に気まずかった。いくら和解したとはいえいきなり二人きりは辛く、
さらにキラは未だに落ち込んでいる状態で空気は重苦しかった。
シンはとうとう耐えられなくなり
「そんなにショックかよ?」
「・・・まあね、向こうには親友や仲間がいるからね。それに皆に心配もかけてるだろうし、そういう君は?」
「向こうには心配してくれる家族もいないし・・・それほど帰りたいとは思わないですね」
多分レイはもういない。シンは直感的に感じていた。
シンとキラはそれから自分達の家族や今までの事などを話した…そして

 

「これから…どうする?」
「どうするって言われても、帰れないんじゃこの世界で暮らしていくしかないじゃないか」
「君は凄いね」
「単に前向きなだけさ…」
そのまま会話も途切れ二人は眠りについた。

 
 

次の日の朝フェイトが二人の病室をを訪ねた。なのはは仕事の関係で今日は来れないとのことだった。
医師の話ではキラとシンの怪我の回復のスピードは尋常じゃない早さだと驚いていた。
「おはよう二人とも、体の具合はどう?」
フェイトの問いにキラは
「まあまあかな?結構怪我には慣れているから」
と苦笑しながら答えた。昨日に比べてだいぶ立ち直れたようにフェイトは感じた。
「それよりフェイト…さん?魔法の事なんだけど・・・」
そんなシンにフェイトは微笑みながら
「フェイトでいいよシン、それで何?」
「何か簡単な魔法を教えてくれないか?こっちの世界じゃ魔法は当たり前のことなんだから
使えないと何かと不便だろうし…」
それを聞いたフェイトは
「そうだね、じゃあコレなんてどうかな?」
(二人とも聞こえる?)
「何だコレ、なんか頭の中に直接声が…」
しかしフェイトの口は動いてなかった。それを見たキラは
(腹話術?)
などと頭の中で考えた。フェイトは笑いながら
「キラ、それは違うよ。コレは念話っていって離れた相手に言葉を伝える魔法の基本なんだよ?」
「あの…フェイト、なんで僕の心の中が読めたの?」
それを聞いたシンは呆れながら
「アンタ今念話ってやつ使ってたじゃないかよ」
「え!」
キラはそれを聞いて驚いた。
「凄いねキラ、基本でも見ただけで出来ちゃうなんて」
「なあなあ俺にも教えてくれよ」
シンはフェイトに教わってすぐに使えるようになった。
二人はこうやって魔法の基礎をなのはやフェイトから時々教わったのだった。

 

しばらく経ったある日
八神はやてが二人の病室を訪れた。
「初めまして、時空管理局本局の八神はやてです。よろしく」
そう言って二人に握手した。
「それでこれからの二人の処遇についてなんやけど…とりあえず私らの所で預かろうと思ってな、
それやったらなのはちゃんやフェイトちゃんが忙しくても誰かが魔法を教えられるし」
それを聞いたキラは
「流石にそこまでしてもらうとなんかかえって悪いような…」
「そんなこと気にせんでええよ。二人のことは管理局に任せて、な?」
シンは
「まあこの人がそう言ってるんだから良いんじゃないですか」
と言って先に折れた。
「それでな、二人のこれから住むところなんやけど…」
こうしてキラとシンのミッドチルダでの生活が始まろうとしていた…