伊達と酔狂_第05話

Last-modified: 2008-01-17 (木) 23:14:50

第05話 復活の刻

 
 

キラの怪我からしばらく経ち、退院間近になったある日、なのははキラの病室を訪れた。
「キラ君、退院してからの事なんだけど…どうする?戦える?」
なのはなりにキラを気遣っての質問だったが
「うん、大丈夫、戦えるよ。心配してくれてありがとう」
「そう…それじゃあまず伝えなきゃいけないことがあるんだ。一つ目はフリーダムの使用禁止」
今回の事の原因なだけに当然といえば当然の処置だった。キラ自身もある程度予測はしていた事だったが
「…わかった」
納得いかない様子だったが一応了承した。
「それでね、デバイスなんだけど…こっちで用意するからしばらくは本局のストレージデバイスで我慢してね。
もちろんキラ君用に多少カスタマイズするから。それともう一つ」
「まだ何かあるの?」
なのはは神妙な表情になり
「うん、むしろこっちが本題。キラ君の"力"の事なんだけど…使わないで欲しいの。理由は言わなくても分かるよね?」
キラは頷きそして
「それでもなのは…僕は…」
キラが何か言おうとした瞬間なのははそれを遮った。
「お願い!・・・前みたいな事になるのはもう嫌なの…だから…」
なのはの悲痛にも似た叫びにキラは気圧され、言おうとした言葉を飲み込み
「…うん、約束するよ。使わないって」
「…ッ!!ごめんなさい。また取り乱しちゃって…とりあえずその答えを聞けて安心したよ。じゃ、じゃあ退院の時に迎えに来るからね」
そう言いなのはは急に気恥ずかしくなり、座っていた椅子から立ち上がりその場から逃げるように去って行った。
そして一人病室に残されたキラはベットに横になり、あることについて思考を巡らせた。
それはなのはの"強さ"だった。なのはの魔導師としての強さはおそらく最強クラスに属するものと思われる。なのはの戦歴等を調べたり
実際に戦ってみてその強さは身を以って知っていた。しかしメンタル面では意外に脆い側面があるのだとと今回思い知らされた。
まだ19歳という年齢から考えれば歳相応かもしれない、が自分が想像していたなのは像とのギャップに違和感を覚えた。
(なのはは僕等が思っているよりも弱い女の子かもしれない、ただ周りがそれに気付いていないだけで…だとしたら…)
キラは何やら危うさのようなものを感じたが、そこまで考えたら急に睡魔がキラを襲い、眠りの世界へと誘った。

 
 

それからしばらくしてキラは退院した。キラは迎えに来たヴィータやはやて達に揉みくちゃにされ、拉致同然に車に入れられ病院から連れ出されたのであった。
「ちょ、ちょっとヴィータ。いきなり何なのさ?」
そんなキラ達の様子を見てなのはは笑いながら
「仕方ないよ、ヴィータちゃん仕事とかが忙しくてキラ君のお見舞いにあまり行けなかったから寂しかったんだよ」
ヴィータは顔を真っ赤にしながらうるせぇと小さい声で呟いた。はやては車を運転しながら
「まあまあ、そないヴィータのこといじめたら可哀想やないか」
キラはそんな他愛のない会話で自分の"居場所"に帰ってきたんだなと実感したのだった。そんな中キラはある事に気がついてそれを口にした。
「アレ?フェイトは?」
その問いになのはは
「フェイトちゃんなら朝からシンと模擬戦だよ。シン、物凄く成長しているよ。キラ君も午後から軽く体を動かす?」
「うん、そうだね。今までずっとベットで寝てたから体が鈍っちゃって…お願いできるかな?」
「じゃあ午後からね」
キラはなのはの様子がいつも通りだったのを確認して安心した。

 
 

それから数日間キラはなのは達と共に練習して、怪我で遅れた分を取り戻そうとした。そんなある日…
「じゃあ今日は2on2のチーム戦をやろうか?個人戦とは勝手が違うから注意してね。チーム分けはわたしとシグナムさん、キラ君とヴィータちゃんね」
「おう、キラ。よろしくな。まだ本調子じゃないだろうからあたしに任せときな。キラはなのはの砲撃打ち落としたりシグナムを牽制するだけで充分だ」
「そういう訳にもいかないよ。僕も戦うよ」
いつもと少し違うキラの様子にヴィータは
「張り切るのはいいけどまた無茶されても困るしな。程ほどにしろよな?」
ヴィータの忠告にキラは頷き模擬戦は開始された。

 

模擬戦は一方的になのは達が優勢に運ぶと思われていたが、キラの絶妙な援護でどうにか対等に戦えていた。
なのはの砲撃とシグナムの牽制を一手に引き受けて戦う姿を目の当たりにしたヴィータは
(確かにキラの視野の広さや判断力の高さは凄ぇとは思っていたがまさかここまで…まさか!)
「ヴィータ!伏せて!」
ヴィータはキラの指示通りに伏せるとキラはアクセルシューターをヴィータに向かって放った。
ヴィータに迫っていたシグナムは急に目の前にアクセルシューターが現れたので止む無く防御体勢に入ったが、その隙をヴィータは見逃さず一気にたたみ掛けた。
「シグナムさん!」
なのははシグナムの援護をしようとしたがキラの誘導弾がなのはを襲う。威力自体は微々たるものだが、援護をする暇をなのはに与えなかった。
(キラ君…まさか!)
その攻撃でなのははあることを確信した。そしてキラの裏切りにも似た行為になのはは怒りさえ覚えた。

 

模擬戦後なのはは荒ぶる心を静めながらキラに
「キラ君、わたしとの約束を忘れた訳じゃないよね?」
なのははいつもからは想像もつかない表情でキラに問い詰めた。キラはそんななのはに物怖じせず
「うん、忘れてないよ。忘れてない上で力を使ったんだ」
「何で!!」
なのははキラの襟元を掴み、それを見たヴィータは止めに入ろうとしたが逆にシグナムに止められた。
「僕は…闘う為に戻ってきたんだ」
後ろで静観していたシグナムが口を開き
「一体何と闘おうというのだ?」
キラは真っ直ぐシグナムの目を見つめ
「僕自身とです」
更にシグナムは
「勝てるのか?」
「勝てるかは分かりません。でも勝ちたいです」
「そうか…」
キラは再びなのはと向かい合って
「闘いたいんだ、僕は」
なのはは首を横に振り
「そんなのただの我侭だよ。今度は怪我だけじゃ済まないかもしれないんだよ?」
キラも他人に迷惑がかかる事は百も承知だったが
「このまま逃げたら僕はこれからずっと逃げることになる…それじゃ守りたいものも守れないんだ。だから…」
「もしかしたらしばらく放っておけばいつの日か普通に戻れるかも…」
今度はキラが首を振った
「なのは、"いつの日か"なんていつになっても訪れないよ。少なくとも挑戦しない限りね」
なのはは先ほどに比べれば幾分か表情が柔らかくなったが、それでも尚キラを見据えたまま
「でもやっぱり我侭だよ…」
「ゴメン。それと我侭ついでにもう一つ。フリーダム、まだあるよね?」
「マリーさんに預けてあるけど」
「もう一度フリーダムを使わせて欲しいんだ」
キラの無謀とも呼べる発言にヴィータは
「なっ!バカかお前は!あのデバイスの危険性はお前が一番良く知ってるだろ。あのデバイスは使用者のことなんか完全に無視してるんだぞ」
「うん…。今度は僕を殺すかもしれない。でもフリーダムとじゃなきゃ意味が無いんだ。"二人"で一緒にこの壁を越えたいんだ」
「随分と高く険しい壁だな、オイ」
「覚悟の上だよ」
そこでなのはが無表情で
「キラ君の決意分かったよ…使用を許可します」
なのはの突然の発言にヴィータが驚き
「オイ!なのは!」
「ただし条件付。わたしとフェイトちゃん、ヴィータちゃんにシグナムさんと30分ずつ、合計2時間本気の勝負でわたし達を納得させること。
これが最低条件」
「分かった」
端から無茶を承知で頼んでいたのでキラはそれを承知した。
「じゃあ日時は明日の午後1時から、場所はここでね」
そう言ってなのは達はその場から去って行った。

 
 

「随分と迷惑な話に巻き込んでくれたな?なのは」
帰り道ヴィータはなのはに悪態をついた。
「ヴィータちゃんにシグナムさんもゴメンなさい、勝手に巻き込んじゃって。でもああでも言わなきゃ…」
「構わん、確かにあのままでは話は平行線を辿っただろうな。アイツもああ見えて結構頑固だからな」
「なのはもだけどな。頑固者同士だと色々大変だな…でもキラが圧倒的に不利だろ?あたしら4人に加えて自分自身とも闘わなきゃいけないのに…!
まさかお前それと分かっていて?」
「口で言っても分かってくれないだろうからね」
(おっかね~な)
「キラ君の為だよ。だから明日手加減は無しだよ、いいね?」
「あ、ああ」
なのはは表情にこそ出していなかったがまだ怒っているようだった…

 

キラはなのは達と別れたあとマリーの所へ行き、事情を話しフリーダムを受け取ったが
「キラ君、私もやっぱり反対だな。自分の作ったデバイスにせいで誰かが傷付くのは嫌なの」
マリーの表情は不安で曇っていたがキラは
「このデバイスはマリーさんと作ったんですから…多分大丈夫だと思います」
「多分…か。何でそう思うの?」
「勘…ですかね?」
マリーはキラの言葉に呆れたが
「無茶しないで…と言っても無駄か…なら頑張ってねって言うしかないかな、私としては」
「はい」
キラはフリーダムの調整をしてそのまま自室に戻ろうとした。しかし途中でシンに出会ってすれ違い様に
「フェイトから聞いた、アンタ本当にあの4人相手にどうにかなると思ってるのかよ」
「はっきり言って勝算はないに等しいよ…でも可能性は決してゼロじゃない」
キラの発言にシンは呆れつつも
「アンタ…思ってたより馬鹿だな」
「アスランにも似たような事昔言われたよ」
シンはそのままその場から去っていった。

 

次の日、指定された時刻と場所にキラは現れた。そこにはなのは、フェイト、ヴィータ、シグナム、はやてとリイン、ザフィーラ、シャマル
そしてシンが既に待っていた。なのはは
「準備はいいね?じゃあ早速いくよ」
キラは静かに頷きフリーダムを起動させて空に上がった。
「じゃあ最初は切り込み隊長のあたしが」
ヴィータはそう言い騎士甲冑を身に纏いキラの所まで飛んだ。
「今更言うことも無いしな…いくぜぇ!」
ヴィータはグラーフアイゼンを振りかぶりキラに向かって突撃した。
キラはそれを難なく回避してライフルによる射撃で牽制をした。
地上で二人の戦いを見ていたシグナムは
「確かにキラは接近戦は苦手だ。しかしそれはあくまで中距離、遠距離に比べての話、決して弱いわけではない。それに加えて高い回避能力。
案外ヴィータでは荷が重いかもしれないな…」
ヴィータにとってキラは決して相性が良い相手ではなかった。
がキラは敢えてライフルをシュペールラケルタサーベルに替えヴィータに接近戦を挑んだ。
自らのアドバンテージを捨てての一見無謀に思える行動だが、キラには勝算があった。
「この!ちょこまかと」
一つ目はヴィータの一撃は確かに威力は抜群だが、攻撃の出のスピードではキラの方が上だった。つまりヴィータに攻撃の隙を与えずにヒットアンドアウェイ
で攻撃の主導権をヴィータに握らせないこと。
二つ目はヴィータがキラの接近戦を侮っているであろうこと。油断こそしていないだろうがそれでも付け入る隙は十分にあった。
結果ヴィータは予想以上に苦戦、苦戦による焦燥で本来の力が発揮できないっといった悪循環に陥っていった。
しかし30分間攻め続けてもキラはヴィータを倒すことは出来なかったが、ヴィータに合格点をもらいまず一人目はクリアした。
「次は私が」
シグナムがレヴァンティンを抜刀して飛翔した。そして戻ってきたヴィータはなのは達に戦ってみての感想を漏らした。
「戦いづらかったよアイツ。こっちのやりたいことさせてくれないからイライラするし…まだなのはの方が戦いやすかった」
それでもキラと互角以上に戦えたのは流石ヴィータといった感じであった。そして全員再び上空を見上げた。

 
 

「お前の決意、見せてもらうぞ」
「はい…」
二人はそのまま切り結んだ。最初は互角に見えたが、次第にキラが押され始めた。剣術ではシグナムの方が一枚も二枚も上手だったが、
キラは紙一重でそれらを捌いていった。

 

「キラ君凄いな。シグナムの攻撃を捌ききるやなんて」
はやてはキラの動きに驚いたがなのはは
「キラ君にはシグナムさんの攻撃が見えちゃうんだよ…全部ね」
「それだけであんな動き出来るわけ無いだろ?アイツはザフィーラやシグナムから体術とか剣術習って、ちゃんと努力してるんだよ」
ヴィータはなのはにそう返答した。

 

「紫電一閃!」
炎熱を纏ったレヴァンティンをキラはシールドを張って防いだが完全に勢いを殺すことが出来ず、吹っ飛ばされた。
シグナムは吹っ飛ばされたキラに追い討ちをかけようと近づいたら、逆に蹴りによるカウンターを喰らった。
「ほぉ、やはり一筋縄ではいかないか…しかし時間もあまり無いのでそろそろ終わりにさせてもらう!」
レヴァンティンを鞘に収めてカートリッジをロードした。
(来るっ!)
キラは身構えそして
「飛竜一閃!」
鞭状連結刃がキラに襲い掛かったが、キラは避けようとせず真っ向から突っ込んでいった。
「血迷ったか、これは易々と避けきれないぞ!」
「避けれないなら!」
キラは攻撃が当たる瞬間バリアバーストで爆煙を発して目を晦ませ、攻撃目標を失ったレヴァンティンは虚しく空を切った。
次の瞬間上空からキラはシグナムに切りかかった。
「くっ!」
連結刃で迎撃しようとしたがキラは左手のサーベルで巻きつけ攻撃を無効化にし、
右手のサーベルでシグナムに一撃を喰らわせようとしたが鞘で防がれてしまった。
「時間か…最初の方と最後の一撃には一瞬ヒヤッとしたが、あとはセンスに助けられたな。剣術もまだまだだ」
シグナムはそのままレヴァンティンを鞘に収め地上に戻ろうとしたが最後に
「残り二人だ、気を抜かず頑張るのだな」
「はい、ありがとうございました」
キラは地上に戻るシグナムに礼をした。

 

フェイトは今回の件についてあまり気が進まなかった。なのはの言うことも分かるし、キラを応援したくもあった。
なので未だにフェイトはキラと戦うことを善しとしていなかったのだ。そんなフェイトになのはは
「フェイトちゃん、甘やかすだけが優しさじゃないよ。辛いのはキラ君の方なんだから」
フェイトは頷きバルディッシュを構えてキラのもとへ飛んだ。途中シグナムとすれ違って
「だいぶ辛いようだ、お前で決めてやれ」
キラは今までの二人との戦闘でSEEDを使い続けて衰弱気味だった。そして実際に苦しそうなキラを見てフェイトは決意を決めた。
(早く楽にしてあげる)
心を鬼にしてフェイトはキラと対峙した。
「そういえばこうやって戦うのは初めてだったね」
「そうだね、ずっとなのはと戦っていたから、君と戦ったことは無かったね」
「うん、じゃあいくよ」

 
 

地上に戻ってきたシグナムにヴィータは
「どうだったよ?キラの奴は?」
「思ったよりやるな。今の奴に足りないのは経験と鍛錬だな。磨けばまだまだ光る」
シグナムは新しい玩具をもらったような子供の心境だった。それほどキラという新たな好敵手の出現は心踊ったのであった。
「でも意外だったな、シグナムならキラをあっさり倒すと思ったのに」
「お前でも手こずる相手だ。そう楽にはいかないものだ」
「それよりシン、さっきからえらく静かやな?どうかしたんか?」
今までキラの戦闘を熱心に見ていたシンははやてにいきなり声をかけられてビックリしたが
「別に…」
と返すだけだった。そんなシンに待機中のデスティニーは
『どうせ君のことだ、キラ・ヤマトの戦闘から何か学ぼうとしているのだろう?だとしたら止めておけ』
「別にそんなんじゃない…」
『彼の戦闘方法は君には合わない、むしろ君の長所を殺しかねない。そもそも君には無理だ』
シンとデスティニーが口論している間に戦闘は既に始まっていた。

 

キラは右手にサーベル、左手にライフルを持ちながらフェイトと戦っていた。
(流石に…きついな」
キラはそろそろ限界に近づいていた。既に1時間以上戦い、しかも相手はヴィータにシグナム。並みの消耗ではなかった。
フェイトの攻撃が来ることが頭では分かっているのに体が反応し切れていない状態で、キラは完全に防戦一方でフェイトに押されていた。
そんなフラフラなキラをフェイトは見るに耐え難かった。
(っ!もう見てられない…だから…今楽にしてあげる!)
プラズマランサーを放ちキラを翻弄して、隙を見つけてこの戦いの幕を落とそうとした。
普段のキラなら基本直線軌道のプラズマランサー程度なら軽くあしらえたのだが、極限状態のキラでは到底無理だった。
容赦なく迫り来る雷の矢にキラは回避しきれないと判断をしてシールドを展開、その瞬間爆発してキラは弾き飛ばされてしまった。
フェイトはこれを見逃さずバルディッシュを振りかぶりキラに最後の一撃浴びせようとした…
そして薄れゆく意識の中でキラは

 

――今楽になろうと思えばなれる…でももう一人の自分がそれを止めるんだ…

 

――今闘ワズニイツ闘ウッテイウンダ!!

 

「うあ゛ぁぁぁぁぁぁ!」
キラの咆哮にフェイトは驚き、一瞬体が硬直してしまいキラは回し蹴りでフェイトを叩き落した。
そして間髪入れずにキラは背中のドラグーンを射出して落下していくフェイトに追い討ちをかけたが、フェイトは何とか回避して反撃の体勢を整えた。
(キラの動きが急に…気を抜いたらやられる!)
フェイトは直感的に身の危険を察知して改めてバルディッシュをかまえた。
「行くよ、フェイト…」
キラは両手をサーベルに持ち替えてフェイトに向かい、二人とも遥か上空まで昇って行った。

 

――無様だって構わない…
キラはドラグーンによるオールレンジ攻撃に加え、自身は雲の中を出入りしてフェイトの死角を突く様な戦法をとった。
――今の自分の全力を出し尽くすんだ!
「くっ!これ以上は」
『PhotonLancer』
フォトンランサーでドラグーンを何基か落として攻撃が止んできたところを見計らって再びフェイトは攻勢に出た。
(凄い…さっきまで崩れかけてたのに私が押され始めている…キラの進化が加速している…戦いの中で)
左手のサーベルでフェイトの攻撃を捌き、残った右手でカウンターを仕掛けたが空を切ったが、体勢を崩しながらも綺麗にフェイトに蹴りを一撃入れ
間合いを取った。
(不思議だ…体中至る所が痛いし意識も飛びそうなのに何故だか最高に気持ちが良い…限界超えたら終わりだと思っていたけど、これなら…)
キラはカートリッジを消費して残っている3基のドラグーンを再び放ち、更に周りにいくつかのスフィアを生成した。
「バルディッシュ、次の一撃で決めるよ」
『Yes,sir.』

 
 

時間的にも互いに最後の攻撃のチャンス
『HakenSaber』
先に動いたのはフェイトであった。キラは迫り来るハーケンセイバーをクスィフィアスで相殺し、そしてドラグーンとスフィアによる一斉掃射でフェイトの足を止めようとしたが
フェイトはそれらを全て回避してキラに切りかかっていった。その後激しくぶつかり合う二人であったが何とかフェイトの攻撃を受けきり定刻となった。
「私で終わらせるつもりだったんだけどな…はぁ~」
フェイトは予想に反してキラが粘った事に驚きを隠せなかった。
「僕にだって意地はあるさ。それに…」
こちらに向かって来るなのはを見て
「自分の我侭を貫き抜こうとしているんだ。これくらいしないとね」
フェイトは呆れつつも
「はぁ~…もう仕方ないね。頑張ってね、って私が言うのはおかしいかな」
フェイトはそう言い地上に降りていった。途中なのはとすれ違って
「ゴメンね、なのは」
「大丈夫だよフェイトちゃん、わたしが10分で終わらせてくるから…」
フェイトはそんななのはの後姿を見送るだけだった。

 

「行くよ…キラ君」
「うん…」
なのははレイジングハートを、キラはシュペールラケルタサーベル状態のフリーダムを互いに構えた。
(なのは相手にどこまでやれるか…)
フリーダムを握る手に力を込め
(一瞬でも気を抜いたらやられる!)
キラは先手必勝と言わんばかりになのはに向かっていった。なのはもそれを迎え撃つべくディバインシューターで弾幕を張った。
向かって来るディバインシューターを避けながらなのはの懐まで飛び込み一太刀浴びせようとしたがラウンドシールドで阻まれてしまった。
(くっ!何て硬さなんだ…右!)
キラは一旦なのはから離れ回避に専念
(…上)
シールドを発生させたがそれを軽々と撃ち抜かれてしまった。
「なっ!」
慌ててもう一枚張って防いだが相殺するので精一杯だった。

 

「やはりな…」
上空の戦いを見ていたシグナムは一人呟いた。
「何がだよ?」
「ヴィータ、お前は100%本気で戦ったか?」
「本気出したけどそこまで全力じゃないな」
「なのはは全力全開で戦っている…ってことですか、シグナム?」
「ああ。それゆえキラがいくら攻撃しても分厚いシールドに阻まれ、攻撃を先読みして防御しようにも撃ち抜かれる。そして回避しようにも…」
キラは回避している間にいつの間にか追い詰められていて全方位囲まれていた。
(駄目だ、防ぎきれない…)
次の瞬間キラ目掛けて全方位からアクセルシューターが襲い掛かり地上に落とされた。
「ああなる訳だ。いくらアイツの力が凄いといっても埋めようのない経験の差と圧倒的な魔力の差で簡単に覆せる」
「まあこうなる事は最初から分かっていたけどな…良く戦った方だろうな。そもそもなのはは今のフリーダムをキラに使わせるつもりなんて無いからな。
あたしも反対だけど」

 
 

(フリーダムが強化したシールドをこうも軽々と…駄目だ、桁が違う。このままじゃ負ける)
キラは何とか立ち上がり上空のなのはを見上げた。
(今の僕じゃなのはに勝てない、けれど負けない戦い方に徹すれば…)
そして深呼吸をして
(まだチャンスはある…)
もう一度飛翔した。

 

「まだだな」
「何がですか?ザフィーラ」
ザフィーラの言葉にリインⅡが聞き返した。
「まだ奴は諦めていないようだ」
「だが、どうやって戦うつもりだ?勝機などあるまい」
「シグナム、お前は勝てないと分かっている相手とは戦わないのか?」
「愚問だな。私が一対一逃げるとでも?まぁ奴のお手並み拝見といくか」

 

「まだ…戦う?」
「うん…まだ戦える、まだ諦めないよ」
「そう…」
なのはは再びアクセルシューターを32発を放ったが、キラは何の躊躇もせず突っ込んでいった。
キラは二重にシールドを張り、最初のシールドで勢いを殺しもう一枚のシールドを湾曲させ弾を反らせていった。
「器用だね、でも後ろががら空き…!」
次の瞬間キラが目の前にいた
(速い!)
なのはは急いでラウンドシールドを張ったがキラは零距離で対フィールド魔法のクスィフィアスを叩きつけその場から離れた。
(ラウンドシールドを破れたけど全然効いて…「隙だらけだよ」
「!」
なのははフラッシュムーブでキラの背後に周りレイジングハートで打撃攻撃してきたが、キラはギリギリで避け残ったドラグーンで応戦した。
(そろそろ限界かな、カートリッジも替えが無いし、目も霞んできた…何とかしなきゃ)
キラはサーベルをライフルに持ち替えて持てる力を出してなのはと撃ち合ったが、圧倒的火力の前にキラは次第に追い詰められていった。
そこでキラはドラグーンを全てなのはに向かわせたが、なのははそれを全て撃ち落した。なのははそれがキラの囮である事を見抜いて爆煙の中に
ダメ押しのショートバスターを放った。
「発想は良いけれど同じ手は二度も通じないよ」
「だろうね」
「!」
なのはは気付かぬうちにキラの接近を許してしまっていた。そして今度は零距離で有りっ丈のクスィフィアスとライフルを連射した。
しかし次の瞬間キラはバインドに掛かってしまった。
「なっ!く…これは」
「驚いたよ、まさかキラ君がここまでやるなんて。でもこれで…」
『StarlightBreaker』
そう言いなのはは周囲の魔力を集積し始めた。

 

「なのは!まさか…」
地上で見ていたフェイトはそう叫び止めに行こうとしたがシグナムに
「止めておけ、二人の勝負に水をさすつもりか?」
「でもアレじゃキラが…」
「勝負とはそういうことだ」
フェイトは再び空を見上げる事しか出来なかった。

 
 

(チャージ開始…チャンスはこれ一回だけ…)
キラも魔力を集積し始め
(失敗したら…アレを喰らう事になるのかな…ちょっと嫌だな。でもだから成功させなきゃ)
必死にバインドを解こうとしたがなかなか外れなかった。
「スターライト…」
(今だ!!)
「ブレ…」
瞬間上空からドラグーンがなのはに襲い掛かった。
「えっ!」
なのはは急いでスターライトブレイカーをキャンセルして防御し、キラはその間にバインドを外しなのはに接近した。
なのははドラグーンを落として改めてスターライトブレイカーを放とうとしたが
「これで!カリドゥス!」
キラは収束した蒼色の魔力を放出、なのはに叩き付けた…

 

「はぁっはぁっ、これで駄目なら…」
爆煙の中カートリッジをリロードする音と共に
『DivineBusterExtension』
高密度に圧縮された魔力が放たれ、キラはそれを両手でシールドを張って防ごうとしたがあっさり砕かれてしまった。
「うあぁぁぁぁ!」
そのまま直撃を喰らい為す術もなく落ちていった。そこへフェイトがなのはの許へ行き
「なのは、時間だよ。正確にはスターライトブレイカー止められた時にね」
なのはは時間を見てみると確かに少しオーバーしていたので、ホールディングネットでキラをキャッチして無事地上まで降ろした。
急いではやて達はキラに駆け寄り
「キラ君大丈夫か?」
「ちょっと、無理かな?これは…」
「シャマル!治療を」
「はい!」
そこへなのはとフェイトも降りてきて、見ると流石になのはも直撃を喰らったのでバリアジャケットはボロボロでダメージもあるようだ。
なのはは深呼吸を一つしてすこし和らいだ表情で
「約束は約束だからね…キラ君の好きなように。でも」
なのははしゃがんで人差し指でキラのおでこを指して
「出動時とか日常生活でもシャマルさんのチェックを必ず受ける事。それでもし駄目だったら出動禁止。わかった?」
「う、うん」
「ちゃんと守れる?」
「ハ、ハイ。守ります」
そんな二人の様子を見ながらはやては笑いながら
「まあまあなのはちゃん、今の戦い見る限り大丈夫そうやしな?キラ君もじゅ~ぶん分かってるやろうし、それくらいで勘弁してやらな」
「もうはやてちゃんは甘いよ…」
「キラ君もなのはちゃん怒らすと怖いちゅうのが分かったやろ?これに懲りたら素直に無理なら無理って言う事やな」
「うん、そうするよ。初めてなのはと戦って震えたよ…怖かった…」
「キラ君!」
ギロリとなのはがキラを睨み付けた。
「それに、泣かれるのももう嫌だからね」
それを聞いたなのははあの時の事を思い出して顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 
 

「それよりさっきのは一体何をしたんだ?」
シグナムが話題を変えた。
「なのはの今までの戦いを見せてもらって一番使われて厄介だと思ったのがスターライトブレイカーやディバインバスターといった強力な砲撃魔法です。
どちらも発射までに相当の時間がかかる事や動けないといった弱点があります。それをなのははバインド等を使う事で克服していました。
でもそれを逆手に取ることで勝機があるんじゃないかなと思ったんです」
「逆手?」
「なのはに僕は完全にバインドにかかりこれでもう攻撃することが出来ない、そう思わせて油断させれば付け入る隙が出来るのではないかと」
「成る程な」
「でもキラ君、わたしドラグーン全部落とした筈だよ?最後の一基は?」
「あれはフェイトと戦ってる最中に雲の中に隠したんだ。勿論ただ隠すだけじゃバレるから僕でも使えるような簡単な幻術魔法でカモフラージュしたんだ。
あとわざと雲の中で爆破させてみたりもした。正直バレてるんじゃないかって内心ビクビクだったよ」
「そんな子供だましに…」
「なのはみたいな一流の魔導師には逆にこういった二流三流の手が通じるんじゃないかって。もしスターライトブレイカーやディバインバスターを
使われなくても何かしらの保険になればと」
「お前とはもう戦いたくないな…ペテン師め」
ヴィータが引き攣りながら答えた。
「そもそも君たち4人に正攻法で勝てる筈がないからね。足りない分は頭で、と思ったけどやっぱり次元が違うね。まだまだだよ」
「キラはこれから強くなっていけばいいよ」
フェイトが優しくキラの髪の砂を払った。
「そうするよ」
そこへ今まで黙っていたシンがアロンダイトをキラに向け
「俺とも戦え」

 
 

次回予告

 

なのは「シンがキラ君に勝つ為にわたしが出来るアドバイスは2つ…」

 

キラ「それでも僕は彼と戦うよ…」

 

シン「理屈じゃないんだよ!コレは!」

 

次回「誰が為の勝利」