宿命_第15話

Last-modified: 2007-12-27 (木) 00:23:30

エイミィの持ち帰った書類。
そこには、なのはとフェイトのデバイス、それぞれの決意が記されていた。
その決意の大きさを知ったクロノとリンディは、それを許可した。
そして生まれた新たな力は、やがて少女達を『エース』と呼ばしめるものとなる。
しかし、それとはまた別の部分でも、生まれ出ずる力はある。
その力は、何かを守る事が、救うことが出来るのだろうか?

本部を変えて、フェイトは小学校に行くようになった。
元々それも目的の一つだった上に、なのはが居たため何の苦もなく事は進んだ。
また、キラも家事の手伝いをするようになった。
何人かは忙しくて家を空ける事が多いが、今は大人数で暮らしているのだ。
何もすることのないキラが雑事全般をやるのは、ある意味必然だった。

同じく大人数で過ごしている八神家では、雑事はシンが進んでやっているのは、最早言うまでもなく……。
だから、深夜にこれから蒐集をしようという時になって、つい気になってしまった。
風呂の換気扇を消したかどうかを。
シンはまた出遅れたのだ。 つまり、『大きなミス』をした、のだ。
そのことに気づいたのは、家に残っていたムウが起きてきて魔力を見つけたときであり、最早手遅れとなっていた。

戦いは、始まってしまっていた。

「囲まれた、な」
自分らの周りに居る魔道士の数に、シグナムは忌々しそうに吐き捨てた。
一応遠方にシャマルを控えさせてはいるが、出来る事なら戦線に参加はさせたくない。
「だが、これでもう先走ったりはしないだろうな」
こけてもただで起き上がりたくないのか、ザフィーラがヴィータに向けていった。
言われた方はと言うと、なんともいえないような表情をしていた。
(しかし、今回はあの部隊はいない、か……。)
部隊だったのかすら分からないが、シグナムはベルカの騎士と互角程度に渡り合った少女達を思い出していた。
(もう一度手合わせしてみたいものだな)
それに比べ、自分らを囲んでるのは数だけで、能力的な点では相手になりそうになかった。
(軽く相手をして、逃げるとするか……。)
そう軽く考えていたが、事態はそう簡単に収拾の付くものではなかった。
なぜなら敵の魔道士は、ただ勝つ事だけが目的ではなかったからだ。

空に浮かびあがったシンは、異様な光景を見下ろした。
「何だこれは、球体?」
そこには黒い球状の不可干渉空間が広がっていた。
走ってたどり着いたときには、既に眼前が違和感の塊だったのだ。
下にムウが居るため、まずはそこへ戻る事にした。

「坊主、どうだった?」
空から降りてきたシンに、ムウが尋ねる。
「右から左、上も、多分下も、入れる所は無い・・・みたいだ」
降り立ち、発言と同時に、シンは思念を内部に飛ばそうとしたが、それも不可能だ。
ふと、ムウはシンのほうを向いた。
そして、「悪い、こっちは任せる」と、駆け出していった。
「一体何やってるんだ?あの人は……。」球状結界のほうを向き直って、シンはグチをもらした。
「それはお前もだ、シン」
聞き覚えのある声。
折角向き直ったと言うのに、シンはまた方向転換をすることになった。
しかし、そんな事は微々たる物で、それ以上に怒りがあった。
「またアンタかよ、アスラン!!」
シンは手に持っていた携帯電話からバリアジャケットと剣を呼び出し、それをアスランに向ける形で振り返った。
しかし、アスランは武器を出しはしなかった。
彼はその代わりに、声を出した。
「なぜ俺たちが戦わなくてはならない」と。
「目指す先は、同じ筈だ」と。

「一応修理は終わったけど、まだまだ病み上がりみたいなものだ。
 それに、大幅に使用感覚も変わってるだろうから、モード選択もこちらで制限させてもらっている」
クロノが一通りの説明をした後、なのはとフェイトに改めて目を向けた。
「気をつけなよ。
 デバイスがどれだけパワーアップしても、君達自身はまだまだ体の出来上がってない女の子なんだから」
口ではそういいつつも、クロノはデバイスの向上と同程度に彼女らの意志の向上を感じ取っていた。
この調子なら心配はないだろう。 惜しむらくは、なのはの個人的な体力くらいだ。
「それじゃ、行って来るね」
「わたしも、行って来ます」
心配は十分に届いているのだろうが、少女達はそういっただけで進みだした。
クロノも、フェイトについてはそれで良いと思っていた。
自ら選んだ道だ。 誰も邪魔は出来ない。
「でも、なのはは……。」
結局なし崩し的に協力してもらっているが、前回のこともあって内心穏やかではなかった。
「全く、こんなときにあのフェレットもどきは何をやってるんだ……。」
先ほどキラとともに出かけてから戻ってこないユーノ。
彼も彼で、この状況に気づいていた。

「キラさん、戻っててください」
黒球の前にたどり着くと、ユーノは本拠に戻るよう勧めた。
「でも、僕も」
「はっきり言って!!」
キラが何らかの行動をしたがっているのは分かっていたが、ユーノもそれを許すわけには行かない。
それに、何かをなす為には、キラの持つ思いだけでは足りないのだ。
「足手まといです。
 こんな問答だって、時間を無駄にしてるんです」
これも真実ではあったが、ユーノにはそれ以上の思いもあった。
それは、あの時ともに戦った人間の知人なのだから危険に曝したくはないと言うもの。
「分かった……。」
キラはそういって、帰路に付く事にした。
ユーノもそれを見、黒球に向かっていった。

それだけ気を使われていても、キラ・ヤマトも運命の輪からは抜けられない。
「そう、抜けられはしないのだよ、キラくん」
目元を隠した男が見つめる先は、キラの進む先。
そこには、シンとアスランの姿があった。
彼の放った手駒は2つ。
一つは知略における戦いのためのもので、もう一つは、キラを戦いの輪へ入れるためのもの。
もちろん、それ以外にも暗躍していた。
だから、彼の口元には嘲笑が絶えなかった。

なぜ戦うのか。
それに、明確な答えを出す自信も、つもりも、シンにはなかった。
必要な事はただ、この道を立ててはやてを救う事だけ。
そのためにアスランの手助けを借りられると言うのなら、それに異存はなかった。
しかし、そのためには不明な点が多すぎた。
だから、もっとも危険性をはらんだ事象を聞くことでしか、返答は出来ない。
「……あんたの後ろには、何がいるんだ?」
「何!?」
「あんたは何を聞いて戦っているのか、聞きたいんだ」
正直アスランは強かった。 だから、彼の後ろに何らかの存在があるのは間違いない。
そいつらが何を考えているのか、これが、シンの見極めなければいけない一点。
もし、はやてに害のあるものだったら、なんとしても止めなければならない。
「俺は今何が起こってるのかを聞いて、最悪の結果にならないように動いているだけだ。
 そのためには、あの書を完成させなければならない」
「なんで?
 完成するから困るんなら、させなければ良いんじゃないか!?」
事実、完成しなかった場合はやてが犠牲になるだけで、むしろアスランはそちらを狙うべき立場にあるように思えた。
「もしかして、今の持ち主を護る為、なのか?」
それならば、アスランとも協力できる。 もしかしたらアスランはそういった組織、団体の元に居たのか。
そう思ったのだが、その期待は一瞬で無くなってしまう。
「今の持ち主を助ける事は、どう転んでも不可能だ。 世界を救うためには、犠牲にならなくてはならない」という、アスランの一言で。
それならば、シンの目指す先がアスランのそれと交わる事などありえないのだ。
デバイスを構えたシンに、アスランはかつて戦友に言われた言葉を言い放った。
「割り切れなければ、死ぬぞ」と……。

キラが町をさまよっていると、「どういうことだ!!」と、突然怒鳴り声が聞こえた。
どこかで聞いたことのあるような声に、キラは思わず声のしたほうへ歩いていった。
壁の端から覗いて見る、よく見知った人間が二人。
(アスランと、シン!?
 なんであの二人が……。)
衝撃を受け、キラはその場で話を盗み聞きする形になった。
しかし、たいして話の内容も理解できない上に、秒数で数えられる程度の時間がたった後に互いが剣を出したため、キラも行動をとるしかなくなった。
「何をやってるんだ、二人とも!!」

驚いたような顔なのはアスランで、シンはどこか納得の行った様な顔をしていた。
「これは……。」
剣を見て飛び出したキラだったが、両者の格好を見て、驚いた。
「君たちも『魔法』を使えるのか?」
「君たちも?
 キラ、お前も使えるのか?」
結局アスランは手を止め、キラと話すことを選んだ。
「僕は使えないけど、僕を拾ってくれた人たちが色々教えてくれたんだ」
キラも身の上話を始めた様子だった。
それを見てシンは立ち去ろうとした。 そんな話を聞く気も、余裕もありはしないのだから。
が、それをキラに呼び止められた。
「君を探してたんだ、フェイトちゃんと……。」
シンは振り向き、頷いた。
わかってる。 優しい子だ、心配しないはずがない。
アースラに拾われたのなら、出会っていても不思議ではないし、むしろ自然の成り行きを感じられる。
「会ってあげないの?」
もう一度、躊躇ったがはっきりと、頷いた。
「なぜ?」
「俺は、今やってる事を自分のすべき事だって信じてます。
 だから、今は会えません」
キラは、怒りをも感じた。
「それでも、彼女は悲しんでるんだ!!
 君が死んだんじゃないかって、今も泣いているんだ!!」
身勝手とも取れる言葉を発したのは、シン自身も重々承知の上だった。
しかし、キラの怒りようには驚いた。
それ以上に、フェイトが如何に悲しんでいるかも、想像できた。
でも……。
「なら、どうするんですか?」
「え?」
シンはずっと選択を繰り返してきた。
それは、力を求める事であったり、信じるものを定める事であったり、助けたい相手、護りたい相手を選ぶ事であったり。
「俺を連れて行きますか?力尽くで?」
いきなりの言葉に、キラは驚いた顔をしていた。
当たり前だ。
少なくとも和解したと思っていた相手にいきなり道を示されたのだ。
それも、片方は諦めであり、片方は闘争である。
「俺は敵なんだ、あいつらの……。」
今までどうしても口には出さず、さらには戦いになればそれを止めようとまでしていた。
しかし、認めざるを得ないのだ。
フェイトに会えば決意が鈍るかもしれない。
それだけでなく、今後の行動が辛くなる。
「君は・・・自分勝手だ……。」
なんとなくだろうが、キラもシンの現状を理解したようだった。
変えられない、変えたくない、変えちゃいけない
そのどれなのかは分からない。
しかし、「分かった」と、キラは言った。
「でも、もしフェイトちゃんに害が及びそうになったとしたら、僕も黙っていないから」
「分かってます」
答えながら、アスランがいつの間にか消えている事に気づいた。
だから、自分も捨て台詞とともに去ることにした。
「そのときは、俺も手伝いますよ」と。
あぁ、結局自分は変われない。 器用に切り捨てる事も、嘘をついて自分の立場を護る事も出来やしない。
カッコ悪い優柔不断の生半可な決断を繰り返す。
それでも、『はやての為』も『フェイトの為』も、どちらもシンにとっては真実なのだから、それは仕方がないのかもしれない。

シンは変わった。
一部始終を見ていて、アスランは先ず、そう思った。
彼を動かしているものは自分の中の『正義』。
「もう、人の言葉で戦いの理由を変えるような人間じゃないんだな……。」
ならば、今度こそぶつかり合うのは互いの信念だとか正義になるのかもしれない。
そのどれかは分からないが、一つだけはっきりしている物もあった。
もう、シンに他人の意思は見えはしない。
(それが強さになるか弱さになるか、見せてもらう)
今度こそ、『シン・アスカ』と『アスラン・ザラ』との戦いの中で……。
だが、もう一つ懸念もあった。
それは、シンが今追っているものがあまりにも虚像だからだ。
それを追い続けて、いつかまた喪失を味わうのではないかと、勝手な心配をしていた。

「お~い、シャマル!!」
突然の声に、驚くシャマル。
「シンさん、なんですか?」
「いや、あの人見なかったか?」
あの人、とはムウの事で、先ほどから姿が見えなかった。
「いえ、見ていません」
「そっか、ならいい。
 あれ、どうなってるんだ?」
後ろ指で例の球体を指す。
今はいない人間の事など考えてられる状況ではなかった。
「大きな魔力をぶつければ壊れると思いますが、そうなると、書の魔力を使うくらいしないと……。」
シャマルは乗り気ではなさそうだが、仲間を助けるためでは仕方ないと思ったのか、使用の準備をしていた。
その心意気は良い。 また貯めれば良い魔力と仲間の命を同じ天秤で比べる気などは無い。
だが、「待ってくれ」と、シンはそれを止めた。
既に自分の存在はばれているのだ。
(今更隠れることもない、か)
シンは一度デバイスを待機形体に戻した。
「新しい力、行けるか?」
「Yes,sir」
新しい力とは、ヴィータとシグナムに訓練で叩き込まれたものだ。
その形を何とかできないのか、と言われたので、新しいメモリースティックを3枚買ってきたのだ。
「いいんですか?」
シャマルが覗き込んでくる。
彼女もシンが極力魔法を使わないようにしている事を知っていたが、
「俺だって、はやての事を助けたいと思ってる」
むしろ、それらの気持ちはシャマル以上かも知れないという自信だってあった。
アスランの言った事や、フェイトのことも確かに気になったが。
(フェイトは、よく笑うようになった。だから、今度ははやてを……。)
緑色に変色したメモリを携帯に挿入し、ブラストのモード。これはヴィータが色々言って来たから適応させたものだが、その話はまた後ほど。
そして、この形体ならば思い切り魔力を放出できる。
「シャマル、俺が倒れたりしたら、家まで運んでくれ」
反論は言わせない。 言っても、聞かない。 聞こえても、引かない。 引かせられても、貫く。
シンは一歩前に出て、現れた2門の大砲を構えた。
(その為なら、俺はどんな立場にだって立ってみせる!!)
「貫け!!」
砲から凝縮された魔力が迸る。
そのまま黒球に衝突し、その部分から結界を溶かしていく。
「すごい……。」
隣からシャマルの声が聞こえてくるのを認知する程度には余裕があるが、これだけの魔力を放出するのはなかなかに難しいものだ。
(本当に意識が飛びそうだ……。)
シンはかつてフェイトと戦った少女の同じような巨大な魔力の収束波を思い出していたが、小さい体でこれを抑えるのは、本当に圧巻だと思った。
そんな強大な『力』にシンが耐えているとき、その近辺は少しだけ、空気が変わった。

先ず、結界の外で魔力に気づいた方々の中で、戦闘中だった3名。
闇の書の持ち主側で、外にも仲間が居ると踏んでいたクロノと、それに立ちはだかった仮面をつけた人間。
その仮面を付けた人間は、あまりの魔力量にただただ驚いていた。
しかし、クロノはそれだけでは終わらなかった。
(この魔力、どこかで……。)
デバイスが特殊型になれば、魔力の質は特定しやすくなる。
そして、その魔力にはそういった独特な質があった。
(でも、これは誰の?)
まるで見知った魔力が掛け合わされたかのように歪んだ魔力に、クロノはどうしても人物を特定できなかった。

そして、キラ・ヤマト。
彼はその魔力の光を見れる位置に居た。
だから、質や量ではなくても、誰のものだか判別が出来た。
その光はコズミックイラで数多のものを妬いてきた忌炎の色そのものだったのだ。
「シン、何で君は……。」
フェイトを護り続けていたシンと、会うことを拒絶したシン。
そして、これからも護り続けるような事を言った。
(君の本当は何処にあるんだ?)
多分、答えは何処にもないと、キラは感じていた。
そう、シンの中にも……。

アスラン・ザラ。
彼は自らの拠点につき、仲間の居ない事に気づいた。
自分を入れて四人の内、一人残ってた男に聞くと、『書を護りにいった』との事。
そんな状態で、何気なくモニターをつけて、それを見た。
そのとき、結界はもう壊れていた。

では、戦っていなければどうなのか?
アスランと同じくモニターを見、アスランと違いはじめから見続けている二人の女性。
その二人は、魔力量も然る事ながら、それを発している人間に驚いた。
「シン、くん?」
エイミィは名を口から漏らし、リンディはただただ呆然としていた。
どうして、という疑問が渦巻く。
生きていた事は喜ぶべき事だが、どうしても、解せない。
――彼は、仲間だったはずだ。

そして、残された邪悪。
それはシンの魔力を感じたとき、微笑した。
これが望んでいた事を早めるのだ。
そのための力を彼に渡し、彼はそれを使いこなした、
もう、仮面の男を止めれるものはいない。
彼は勝利を、確信していた。

結界が壊れる事で、戦いは沈静化した。
それは、シグナム達側が逃げる事が出来たためであり、管理局側が自慢の結界を魔法で壊された事への驚愕故でもあった。
「雰囲気が変わったな、あの二人のデバイス……。」
硝煙の向こう側に見えた多数の人間の中からなのはとフェイトを見つけ、シンが呟いた。
今、自分はとても不誠実な人間なのだろう、心が痛んだ。
でも、そんな事は今更、言ってられる物ではない。
「戻ろう、シャマル」
ふらつく足で振り向いて言った。
「あ、はい」
家に直行するわけにもいかないので、行動は迅速に行わなければならない。
ふと視線をデバイスである携帯に落とすと、メモリースティックが排出されていた。
焼け焦げて、ブラストはもう使い物になりそうに無かった。
(無理をさせすぎたか……。)
それを一応ポケットに突っ込んで、逃げの行動を開始する。
今回の事で明らかに変わったであろう状況を少しだけ想像しかけて、やめた。
それは避けたかった状況の一つであるようにしか思えなかったからだった。