艦内点景◆炎のX好き氏 13

Last-modified: 2016-03-05 (土) 11:40:28

艦内点景13
 
 
(朝食編)

ヤタガラス、シン・アスカの自室内。
リズミカルな包丁の音、お味噌汁の香り、炊きたてご飯から湯気が上がる。
戦闘宇宙艦の中とは思えない、のどかな朝食風景だ。
どこから出してきたんだ!の、ちゃぶ台を前にしたシンは『何でこんな事になったんだろう』と、思いながら、差し出された、ふっくらご飯のお茶碗を受け取る。
隣でやはりお茶碗を受け取ったステラが「うぇい。ありがとう」と笑う。
難しい顔のまま「うむっ」と頷き、続けて味噌汁をよそってくれるのは、なんとブルーノ・アズラエルだ。
複雑な表情でそれを受け取ったシンに、ブルーノは「世話になったからな」と言う。

困惑を深めるシンに、ブルーノは「こういう交渉もあるのだよ」と重々しく言葉を継ぐ。
「…そうですか。てっきり、何かの嫌がらせかと思いましたよ」
ため息をつきそうになるのを堪えて、シンが答える。
「"それも"交渉の内だ。覚えておきたまえ」
『やっぱり嫌がらせかい!』
「冗談だ」シンの表情の変化に、ブルーノは楽しそうだ。
「ミスタ-アズラエル、お代わりいただけるか」
何故か、ロンド・ミナがこの場にご相伴している。
『ミナ様。カンがいいか、よほどヒマなのか?どっちかだな』とシンは思う。
ロンド・ミナに、ご飯の2杯目を渡しながら「どうしたシン。食が進まないようだが」とブルーノ。

「ん〜、少年。ちゃんと食べないと大きくなれんぞ」
「そりゃ大変だ!おっちゃん、お代わり」
ミナのセリフに慌てて、空のお茶碗を元気良く差し出すのはガロードだ。
「おわぁ、ガロード。いつの間に!?」シンが驚く。
「いや、うまそうだったんで。つい」
照れ臭そうに頭をかきながらも、ガロードは遠慮無くお代わりを食べ始める。
さすがはガロード、油断も隙もない。
「ブルーノさん。俺もお代わり!」
シンもやけになって、空にした茶碗を差し出した。
「大きくなれよ」
割烹着を着、三角巾を頭につけ、日本の母姿を一分の隙無く決めたブルーコスモス元盟主は、満足そうに頷いた。

(おわり)
 

(ブルーノさんの憂鬱編)

「本当に大丈夫だろうな?」
ブルーノ・アズラエルは何度目か分からない、念押しをする。
「大丈夫。ティファ姉ちゃんをダマすならともかく、シンだろ?楽勝、楽勝」
と、気楽に答えるのは自称、天才メカマンのキッドだ。
ブルーノは逆に、その自信が心配でならない。
今のところは、大丈夫な様だが、ブルーノはそこまで楽天家ではない。
当然だ。
だから長年、巨大な組織を束ねる事もできたのだ。
だが、今回は他に方法が無かったのも事実だ。
自分がミネルバに残るのも剣呑。
だからといって、シンのMSに乗り込み高Gに血ヘドを吐くのも、御免だ。
肝心なのは自分がアカツキに乗っている、と思わせる事。

で、キッドの案だ。
キッドは、イタズラ小僧の顔で笑う。
ミネルバ内に共に隠れたブルーノは、その若輩者の無邪気な笑顔が少し苦々しく、年寄りになったなと、苦笑を浮かべる。
確かにアカツキのコクピットを監視するモニターごしでは『それ』は本物に見える。
キッドの造型スキルは着実に上がっているようだ。
しかし、間近で直接観るシンは気付くだろう。
いくらなんでも…。

———シンはアカツキを高G機動させた後、ブルーノを思いだし、慌てる。
が、『そのブルーノ』は涼しい顔でサブシートに座り、シンに語りかけてくる。
『ナゼ殺サヌ』…『ソウカナ。私ハ、殺セルウチニ殺スベキダト思ウガナ』…『ヒカレテイルノカネ?』
ブルーノはそう言った後、シンをガラスのような(それはそうだ)瞳で見つめた。
シンは心の奥底までのぞかれている気分になり、やはり人の上に立つ者は違うもんだ、と感心する。
だが、シンは知らなかった。
シンが振り向く直前、アカツキのサブシートに座るキッド謹製『メカブルーノ1号』が、高Gで転げ落ちた己の頭を、慌てて拾い上げていた事を。
「な?結構、バレないもんだろ」
モニターでそれを見たキッドは、ゲラゲラと笑う。
だが、ブルーノは『もしかして自分が生涯賭けて敵対してきた存在、コーディネイターは、とても間抜けな連中なのでは?』と、哲学的な疑問に一人、天を仰いだ。

(おわり)
 

おまけ

「ブルーコスモス元盟主!ブルーノ覚悟!」
1人で居た『ブルーノ』に、突如暴漢が鈍器で撲りかかる。
鈍い音がして、ブルーノの首が転がる。
しかし首無しブルーノは泰然と自身の頭を拾い上げ、元通りに乗せた。
驚愕で硬直した暴漢にブルーノは無表情な目線をくれる。
「ブルーノッビィィィイムッ!!」
シャウトした雄叫びと共に『メカブルーノ1号』の目が、ガラス色から灼熱色に変わった。

———死の視線から奇跡的に生還した暴漢は後に語った「ナチュラルの元盟主はバケモノか」と。
(おわり)
 
「キッド君。皆の私を見る目が変だが?」
「さぁ気のせいでしょ?」
「いや…バケモノを見るような、視線を避けるような…」
 
 
前>