人間共の戦意を確認したのか、ストライクフリーダムは、”キラ・ヒビキ”は再び戦闘を開始する。
先ほどとは違い、数百機のモビルスーツ、そして危険指数の高い戦艦が接近していることを理解するとその悪魔の機械は行動を定めた。
「イザーク、俺の機体にはラクス・クラインが乗っている。
お前に預ける、必ずヴェザリウスまで届けてくれ、
もしも此処で戦う兵士達が敗れたとき、プラントの再起を担える人材だ」
「ふざけるなアスラン、俺に敵前逃亡しろというのか!」
「そんな損傷でいきがるな!」
「くっ」
イザークとて分かっている、センサーの集中する頭部を粉砕されたデュエルは、ナチュラルのストライクダガーにも劣る、お荷物だというコトを。
イザークは屈辱で沸騰する頭をなんとか冷やして、指示に従った。
「アスラン、俺はお前が嫌いだ」
「イザーク……俺はそんなお前を信頼している」
ハッチを開け、気絶しているラクスを託す。
「とんでもないものを見た筈だ、念のため彼女の部屋は、監視できる、密閉状態の部屋にしろ」
「なんだその指示は……いやいい、聞かないでおく、いいかアスラン。
お前は俺は部下にするんだからな!
勝手に死んだら許さんからな」
「わかったよイザーク。
約束だ、勝って帰る」
イザークは未練がましくこちらを向いていたが、やがてヴェザリウスへ帰還していった。
「さて、約束どおり守りきってみせるか、
散々追い掛け回した艦を守るのは変な気分だな。
ニコル、お前ならなんて言うかな」
馬鹿な空想を頭を振って追い出し、アスランはスロットルを開け、滑るようにジャスティスを最前線に飛ばした。
飛んで火に入る夏の虫。
そんな形容がふさわしいほど、たった一機のモビルスーツに群がり、悉く打ち落とされていく人の乗ったモビルスーツたち。
四肢や頭部を打ちぬかれるだけなので、死ぬ危険性は無いように思われる。
だが戦艦が近づけないので、結局行方不明か酸欠で死ぬ可能性が高い。
その光景を前方に眺めながら、天使級の艦長たちは無言で艦を進ませる。
「陽電子砲有効射程距離まで、あと一分」
長い、長い時間だ。この瞬間にもマルチロックオンでまとめて仲間が落とされている。
ストライクフリーダムの遠隔砲台は縦横無尽に暴れまわり、しかも次々再生しながら射出しているため、今では20個を超えている。
正確無比なフルバーストと、味わったことの無い無線式ガンバレルの攻撃に手も足も出ず、落とされていく。
「あと30秒」
最初数百機いたモビルスーツも、もう百機くらいになった。
腕のいいものがなんとか残っているが、皆傷つき、落ちるのは時間の問題といえた。
残っているモビルスーツの大半がZAFTなのは流石というべきだろうか。
「あと15秒」
ついにストライクフリーダムのデュアルアイがこちらを危険と判断し、視線を向ける。
来る。
マリューは、ナタルは歯を食いしばり、損害に備えた。
「あと10秒」
ミリアリアの悲鳴が響く。
「ドミニオンに火線が集中しています。
無線式ガンバレルです!」
アークエンジェルの横でドミニオンが傷ついていく。
ダメージコントロールを行おうにも、すでにクルーは脱出させている。
ナタルは祈ることしか出来ない。だが、
「マリュー艦長、主機関大破、囮になる!」
ドミニオンが脱落してしまう、機関が動かなければ陽電子砲は撃てない。
だが撃てるように見せかけることはできる。
ナタルは敵の注目を引くために指示を下す。
「ローエングリン発射準備」
木馬のような艦の前足が開き、ローエングリンが姿を現す。
だが、そこに移動砲台が直接飛び込み、大爆発を引き起こした。
「きゃあああ!」
ナタルはあまりの衝撃に叫び声をあげ、ドミニオンは船体から火を噴いて、
あらぬ方向へ流れていった。
その間、モビルスーツ隊は怠けていた訳ではない。
全身全霊、腕や足がなくとも止めてみせると言わんばかりに、接近し攻撃を繰り返していたが、もはや残像すら伴って回避するストライクフリーダムを視界に入れることすら出来ぬほどに苦戦していた。
刺し違えることすら許されず、次々に脱落していくモビルスーツたち。
だが、報いはあった、ついにアークエンジェルが。
「射程距離です」
「ローエングリン用意!」
辿り着いた!
そう希望を持った瞬間、チャンドラの悲鳴が上がる。
「敵、目前!」
主砲を開く前にフルバーストが放たれる。
終わった───そうブリッジの人間が思った時。
「第四の結印は『エルダーサイン』!
脅威と敵意を祓い、
我が怨敵を打ち破るもの也」
輝く五芒星が押し寄せる閃光を弾く!
ベルデュラボー!
声にならぬ声で全員の声が唱和する。
「照準!」
「良し」
「てぇー」
願いを伴った陽電子の閃光は、しかし、
あっさりとフリーダムに回避されてしまう。
気持ちが萎えかけた瞬間。
「僕が動きを止める。もう一度だ!」
ベルデュラボーが叫び、重力制御の魔術を組上げていく、
だが、その間五芒星が消えうせ、アークエンジェルは無防備となる。
その機を逃さず、敵は無線式ガンバレルを飛ばし、アークエンジェルの右主砲を粉砕してしまう。
ゆれるブリッジの中、誰一人悲鳴を漏らさず職務をまっとうする。
「照準良し」
再照準完了、だが撃てない、またかわされてしまえば全ては終わりだ。
「捕らえた───」
ベルデュラボーの言葉どおり、敵機は何かに押し付けられたかの如く、苦しそうに静止している。
「うっつ、!???」
マリューの指示が下る寸前。なんたることか、
動けないその状態でも、敵機は腹のビームをアークエンジェルの残る左主砲へ撃ち込んできた。
まずい───、絶望が瞬時に脳裏を駆け巡る。
だが、その終わりをもたらす閃光は───
何者かに再び弾かれていた。
魔術ではない。
それは防壁。
メビウスゼロのガンバレルに溶接された、四枚のストライクの盾だった。
「トール!?」
ミリアリアの絶叫。
「俺だって、奇蹟の一つや二つ!」
だが、届かない。
ゆっくりと溶けていく。
フリーダムの閃光は終わること知らず、
アンチビームシールドを融かしていく。
「トールゥーーーー!」
とまった時間から数秒後───
メビウスゼロは爆散した。
「イヤァーーーー」
「てぇー!」
ミリアリアの悲鳴と被さるように、陽電子の奔流が打ち出された。
つづく
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