起動魔導士ガンダムRラストエピソード1

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:41:23

闇の書事件から三ヶ月後、シンとスウェンはあることを調べるため、アースラのブリッジに来ていた。
「エイミィさん…頼んでいたもの出来ました?」
「うん、今モニターに出すね。」
エイミィはキーボードを操作し、モニターにとある事件の詳細なデータを出した。
(アリシアが死んだ事件…プレシアさんが設計主任として任されていた大型魔力駆動炉の…暴発事故。)
数年前、魔法工学の研究開発者だったプレシアは、上層部にとある新型魔力駆動炉の開発主任を任されていた。だがその開発は前任者からの不十分な引継ぎと、プレシアを補佐していた副主任の独断による安全を無視したスケジュール組み、そしてプレシアが申請したはずの安全措置が何もとられていなかったことなど、不運な事が重なって暴発事故が発生し、アリシアと飼い猫のリニスはそれに巻き込まれて死んでしまったのだ。
「管理局は何もしなかったのか?」
「安全管理を担当してたのはプレシアだったから、彼女は裁判に負けて賠償金を貰うことで会社と和解したらしいの、管理局は裁判に関っただけで事件の調査はできなかった。記録では…プレシアに責任のすべてを押し付けている形になってるわ…。」
「なんだよそれ…!!!」
シンはあまりにも理不尽な現実に怒り、思わず拳を壁に叩きつける。
「そいつらは…自分達が原因を作っておいて、金で解決したのか…。」
スウェンもまた、怒りに打ち震えて拳を強く握り締めた。
そしてシン達の様子をみて、その場にいたクロノ、エイミィ、そしてリンディは何も喋れないでいた。
「なんでこんな…!コイツ等のせいでプレシアさんとアリシアが…ん?」
ふと、シンはモニターに映っていたプレシアの経歴を見る。
「考えてみれば…アリシアにはお父さんが居るはずだよな、今どうしているか判るかな…?」
シンは血の繋がった家族が居なくなってしまったフェイトに、せめて父親には会わせてあげたいと思っていた。
「うーん、私達もそう思ってPT事件の後探してみたのよ、でも…。」
エイミィはプレシアの夫に関するデータをシンにみせる、モニターには『該当データ無し』
と表示されていた。
「私達が調べようとした時は誰かに消された後だったのよ、もうお手上げ状態。」
「仮に見つかったとしても…フェイトをさらに傷つける事になるかもしれないし…。」
「そっか…。」
調べ物が一通り終わり、全員ティータイムに入る。
「でもスウェン君がプレシアの事を知っていたなんて驚きだね。」
「俺をこの世界に連れてきたらしい人が…プレシアという人と通信していたのを見たんだ。恐らく…シンをここに連れてきたのもその人だろう。」
「何の目的で…?二人とも魔力値は高いけど…わざわざコズミックイラの子共を誘拐して何をしようとしてたのかしら。」
リンディはあれこれ考えを巡らせながら、緑茶にミルクと何杯かの砂糖を入れた。

 

スウェンはメンテナンス中だったノワールを受け取り、シンと別れそのまま八神家に帰宅した。
「ただいま。」
「ただいまッス~。」
「ああ、お帰りな二人とも。」
家に入るとはやてが優しく出迎えてくれた。
ふとスウェンはそのはやての笑顔を見て、急に寂しい思いに囚われた。
(あと何回…ここで“ただいま”を言えるんだろうか…。)
スウェンはあと一週間もすればこの世界から追放処分という形でノワールと共にコズミックイラに帰らなければならない。それはスウェン自身が望んだ事なのだが、やはり寂しいという気持ちは抑えられなかった。
一方はやてのほうも、スウェンと似たようなことを考えていた。
(もうすぐスウェンに“お帰りなさい”って言えなくなるんや、寂しいなあ…。)
あと一週間でお別れの時が来てしまう、はやてはそれが寂しくて堪らなかった。なにより…。
(ウチ…まだスウェンに気持ち伝えてない…。このまま離れるなんていやや…。)
フェイトが気付かせてくれたこの気持ち、どうにかして伝えたい。でもどうしたらいいのかはやてにはわからなかった。

 

その夜のこと。
「「「「「「「温泉?」」」」」」
リビングに集まっていた八神一家ははやての突然の提案にとまどう。
「そや、スウェンとノワールとの最後の思い出作りに…今度の休日、海鳴温泉に一泊しようやないか。」
「いいですね…。」
まず真っ先にはやての話に乗ったのは、ヴォルケンリッター1の風呂好き、シグナム。
「ななな!温泉卵ってギガうまか!?」
「美肌にも効く温泉なんですよねーそこ。」
「ペットは可ですか?」
「若い女子とかきますッスか?」
そして次々と賛同していく八神家の面々。
「スウェンはどうや…?」
はやては少し不安げにスウェンに聞いてみた。
「俺は別にいいぞ、オンセンとやらも初めてだからな、楽しみだ…。」
それを聞いて、はやては心底ホッとした。
「そ…そうか!なら予約いれよ、あと…バスの時刻も調べなあかんな。」
「なあなあ!おやつは三百円までってか!?」
「遠足じゃないんだから…。」
一気に盛り上がる八神一家。だが誰一人、はやてが一瞬見せた寂しそうな表情に気付く者はいなかった。

 

数日後、八神一家は温泉宿に向かうバスの中にいた。
「でも残念でしたね、テスタロッサ達を誘えなくて…。」
「しょうがあらへん、あっちはあっちで大勝負に出ているところや、こっちはこっちで楽しもう。」
「大勝負?」

 

そしてバスは海鳴温泉に到着する。
部屋に到着した一同は荷物を置く。
「うわ~、いいとこですね~。」
シャマルは窓から見える景色を見て感動する。
「なのはちゃん達もよくここに来るそうや、下のほうには庭園もあるそうやからあとで行ってみよ。」
「なんだこの床、固い草でできてるー。」
はやてを除く全員は、こういった和風の建物や景色を生で見るのは初めてだったので、各々珍しそうに辺りを見回す。
「んじゃみんな風呂いこっか、はいこれスウェン達の分、ウチら先に行ってるでー。」
スウェンに三人分の風呂用具を渡し、はやて達女組とノワール(青年形態)はさっさと大浴場の方へ行ってしまった。
「じゃあ俺達も行くか。」
「応。」
「ん?なんかおかしくないか…?」

 

そして大浴場の入り口まで来たスウェンとザフィーラは、何故かボコボコにされたノワールを発見した。
「なにやってんだ?」
「チクショウ…!すごく自然について行けたのに…!ヴィータの姉貴なんで気付くんスかー!」
「逆ギレ?」

 

そんでもって女子側の脱衣所、
「シャマル、ごめんな~。」
まだ足が不自由なはやてはシャマルに服を脱ぐのを手伝ってもらっていた。
「にしてもノワールの助平には困ったものですね、あれで生後六ヶ月の子共なんですから。」
「ホントだよな、女の裸見て何が楽しいんだか…。」
「まあいいじゃないの、あの子もそういう年頃なのよ。」
その時、男子側の脱衣所からスウェン達男性陣の声が聞こえてきた。

 

『む…スウェン、貴様いい体しているな。』
『そうか?最近働いたりシグナム達の模擬戦に付き合ったりで体動かしてるからな。』

 

その会話をきいて、はやてとシャマルは聞き耳を立てる。
「二人とも何を…?」
「シッ!静かに!」

 

『ザフィーラもすごい筋肉だよな、カッチカチだ。』
『こ…こら、あんまり触るな、くすぐったいだろうが…。』

 

「………」
「………」
「はやてとシャマル、なにやってんだ?」
「壁に耳をペットリと…。」

 

『お二人とも~、オイラはどうッスか~?』
『おお、肌すべすべだなお前…。』
『水も弾けそうだな。』

 

「………」
「………」
「………」
「増えた!!」
「リインフォースまでなにしてんだよ!」
「い、いや…同じデバイスとして気になって…。」

 

はやて達はなぜか風呂に入る前からのぼせたように顔を赤らめていた。

 

カッコーン。

 

「ふう…いい湯だ…。」
床以外は殆ど木で作られた大浴場で、スウェン達は湯船にどっぷり浸かっていた。
「いい湯だなッス~…。」
「ああ…。」
特に他の客は来ておらず、スウェン達は三人だけの空気を楽しんでいた。
隣の女湯では…。
『はやてちゃん、足のマッサージをしますね~。』
『ありがとうシャマル、気持ちええよ~。』
『おらー!いけー!アヒル隊長―!!』
『こらヴィータ、あまりはしゃぐな。』
『極楽だ…生きててホントよかった…。』

 

「向こうも楽しんでいるようだな。」
「ああ、俺も楽しい…ありがとう。」
「おいおい、何故俺に礼を言う?礼なら主に…。」
「そうじゃない、あのとき…見ず知らずの俺を受け入れてくれてありがとう。」
スウェンは八神家の皆が自分を拾ってくれたことに礼を言いたかったのだ。
「皆に会えたから…俺は強くなれた気がする、もしあのとき、見つけてくれたのがはやて達じゃなかったら俺は今ごろどうなっていたんだろう…そう考えると俺はとてもラッキーなんだな。」
「ふっ、何を言っている。礼を言うのは我らの方だ、我々だけだったら主を救えたかどうか判らないし…少なくともリインフォースは助けられなかっただろう…ありがとう。」
「………。」
スウェンは心なしか照れくさそうに顔半分を湯船に沈めた。

 

『ほ~らリインフォース、観念しいや~。』
『マ…マスター…許してください…私は…』
『あきらめろ、八神家の一員としてこれは通らなければならない道なのだ。』
『ヴィータちゃ~ん、しっかり抑えててね~。』
『ガッテン!!』
『ヴィ、ヴィータ…離してくれ…。』
『安心しいや~痛くせえへんから♪』
『手つきが怪しいです…後生ですからぁ…。』
『だ~め。ほんなら…いただきます!!!』
『ひええええぇぇぇぇぇぇ……///』

 

「はやて…いつもの戯れか。」
「あれから逃れられる者はいない。」
「ナムサン。」

 

風呂からあがり、顔を紅潮させながらスウェン達は広間で合流する。
「リインフォース…お疲れ。」
「オイラはGJを送るッス」
「うう…純潔が奪われてしまった…。」
「ん?あそこにあるのは…。」
ヴィータは広間に二台置いてあった卓球台を見つける。
「テレビによく出てくる卓球台じゃない、『サアッ!』って言うアレ。」
「ああ、よくちっちゃい子が号泣しながらやるアレか。」
「いや…なんかもうちょっとこう、ちがうイメージとかないの…?」
「せっかくやし…みんなやってみる?ウチ審判するから。」
「ええ!?でも主を差し置いて我らが楽しむわけには…。」
「そんなん別にエエねん、誰かやりたい人おるー?」

 

数分後、卓球台にはシグナムとスウェンが対峙していた。
「はああああああ!!!」
「ふっ!」
シグナムの渾身のサーブを、スウェンは華麗に裁く。
「中々やるな!」
「伊達にお前等の戦いを見ていない!!」
「ならば…これならどうだ!」
そのとき、シグナムの持つラケットに妖しい光が纏われる。
「あれは…紫電一閃!」
「知っているのかシャマルー!?」
「あれは本来、レヴァンティンに魔力を纏わせて相手を切りつけるシグナムの必殺技の代名詞!だがガンダムR本編では日の目を見ることが無かった(作者が忘れていた)不遇の技…でもまさか、こんな形で拝めるなんて…!」
なにやら解説を始めたシャマルとザフィーラを尻目に、シグナムは必殺サーブでポイントを奪う。
「ふっ…我がラケットに、捌けぬ球は無し…!」
「はたして、それはどうかな?」
スウェンはポイントを取られたのに余裕だった。
「威勢だけはいいな…だがその減らず口!いつまでも叩けるとおもうな!」
そしてシグナムの紫電一閃によって放たれたピンポン玉がスウェンに襲い掛かる。
「言っただろう?お前達の戦いは見てきたって。」
「「「「!!!!?」」」」
その時、シグナムだけでなく、解説していたシャマルとザフィーラ、そしてスコア係のヴィータは、スウェンの並々ならぬ闘気に圧されていた。
「まさかスウェン…紫電一閃を…!」
「いや!あの魔力の色は!」

 

スウェンの両手にある二個のラケットが、灰色の炎に纏われていた。

 

「双・星・一・閃!!!」

 

ラケットを振り下げ、灰色のXを作り出し、スウェンはピンポン玉をはじき返した。
「!!!」
シグナムは玉の速さに動く事が出来ず、ポイントを許してしまう。
「どうした?まだ試合は始まったばかりだぞ?」
スウェンは両手で、二個のラケットをクルクルと回していた。
「くっ!まだだ…まだ終わらんよ!」

 

「なあなあはやてー。ラケット二つ使うの反則じゃねえのー?」
「うーん…おもしろいからおk。」

 

「すげえ…!!オリンピック選手並だ!!いやそれ以上か!?」
「玉が早すぎて線に見える…!!」
いつのまにか他の利用客も集まってスウェンとシグナムの試合を観戦していた。
「あーあ、軽く大騒ぎッス…。」
「そうだな…。」
少しはなれたところで、ノワールとリインフォースは試合を遠目で見ていた。」
「はい、フルーツ牛乳。」
ノワールは買ってきた飲み物をリインフォースに渡す。
「ありがとう。」
リインフォースは蓋に針を刺して開け、一口飲む。
「そういや…修正のほうは進んでいるんスか?」
現在リインフォースは管理局で闇の書の防衛プログラムの暴走を削除するための修正作業に入っていた。
「ああ、問題はない…私がユニゾンデバイスでなくなるということ以外はな…。」
「…………。」
リインフォースの修正はとあるコズミックイラの科学者が作ったワクチンで、はやてを呪い殺したり暴走を起こすことはなくなった、しかし負荷が激しく、近い将来リインフォースはユニゾンデバイスとしての効力を失ってしまうのだ。
「これからはシグナム達と同じ存在となって生きていくことになる…管制人格を失った我々はこれから少しずつ朽ちて行くだろう…だが我らはそれをずっと望んでいたのかもしれない。」
「………。」
リインフォースは目を細めて卓球で盛り上がるはやて達を見る。
「命は…限りあるから尊いんだ、だから私は…お前達にもらった今と未来を皆で大切にしたいと思う。」
「うん、それに気付けたならオイラ達も安心ッス、でもはやて姐さんのデバイスはどうするんッスか?」
「私をモデルに…新しいユニゾンデバイスを作る予定だ。ヴィータは自分より年下に作ってくれと言ってるらしいな。」
「へー…帰る楽しみが増えたッスね。また妹ができるのかー。」
「ああ、だからちゃんと帰ってこいよ。我らはずっと待っている。」
「もちろんッスよ。」

 

「おーい、リインフォース~、ノワール~。」
「二人とも、出番やで~。」
「おっ!マイスターがお呼びッス!」
「ああ、貴様の腕前、見せてもらおう。」
二人はお互い微笑みながら、スウェン達の下へ向かっていった。

 

夜、先程の卓球大会で精魂尽き果てたシグナム達は部屋でグッスリと眠っていた。
「ふう…今日は楽しかったな。」
スウェンは一人起きて、窓の外から見える星空を眺めていた。
「スウェン…起きてる…?」
そこに布団から起き上がったはやてがスウェンに話かける。
「どうしたはやて…?眠れないのか…?」
「ちょっとな…スウェン、外で散歩せえへん?」
「散歩…?別に構わないが…?」
スウェンははやての願いを聞き入れ、彼女を外の庭園に連れて行った。

 

「星がきれいやなあ…。」
スウェンに車椅子を押されながら、はやては雲一つない夜空に浮かぶ星空を眺めていた。
「うん、そうだな…。」
スウェンは車椅子が石などに引っかからないよう注意しながら星を眺めた。
そして二人は空の星が映し出されている小川にやってくる。
「うわ~…見てみいスウェン、水面に星が光っとる。」
「本当だ…。」
スウェンも水面に視線を向ける。そして二人はしばらくその水面の星を見ていた。

 

ふと、はやてがポツリともらした。
「スウェンと一緒に星を見るのも…あと数回しかないんやな…。」
スウェンはハッとはやてのほうを見る、彼女の頬には一筋の涙が流れていた。
「なんでやろ……入院していたときよりも胸が苦しい…ホンマにウチ、どうしたんやろ?笑顔で二人を送り出さなきゃならへんのに…。」
「はや…て…。」
スウェンは突然のことに戸惑うことしか出来なかった。
「ウチ…ホントは二人と離れたくない…!ずっとずっと一緒に、いろんな世界へ行きたい…!スウェンが隣にいないなんて嫌や!!!」
「………すまない。」
搾り出すようにその言葉を口にするスウェン。
「謝らんでエエ!!でも…!!帰ったって…!あの世界には辛い思い出しかないやん!!復讐でもするんか!?それに…もう帰ってこれへんかもしれないんやで!?」
はやては今まで胸の内に留めていたものを、寂しそうな顔をしているスウェンにぶつけた。
「なんでや…?ヒックッ…なんで一緒にいてくれへんの…!?ウチ等これからやん…!」
車椅子の上で泣きじゃくるはやて。
「はやて。」
スウェンはそんな彼女の前にしゃがみ、涙を手で拭く。
「俺はこの世界にきてから…ずっと“訳”を探していたんだと思う…。」
「“訳”…?なんの…?」
「なんでこの世界にきたのか…はやて達に、シン達に出会ったのか…でも、リインフォースを救って…気付いたんだ。」
スウェンは立ち上がり、星を見上げる。
「きっと…戦う理由を…守る理由を見つけるために…俺は出会ったんだ。そして見つけた、俺はあの世界で理不尽に弄ばれている命を救うために戦うんだ、そして…みんながあの星空のような笑顔にするのが…呪縛から逃れた俺に課せられた使命なんだ。」
「使命…。」
「でも……約束する、俺達は死なない、生きて…再びはやて達に『ただいま』を言うんだ。」
「スウェン…!!」
はやてはその時初めて、スウェンの笑っている顔を見た、その笑顔はまるで常夜に浮かぶ月のように、優しい光を放っていた。
「そうやな…ウチが信じなくてどないすんねん……スウェンにはスウェンの使命があるんや、だから…。」

 

その時、はやてはおもむろに車椅子から立ち上がろうとする。
「はやて!?」
スウェンはすぐさま手を貸そうとするが、
「手を出さんといて!!」
はやての叫びに遮られ、二、三歩引き下がった。
「く…!う…!」
はやてはまだ完治していない足に渾身の力を込め、立ち上がった。そしてはやては一歩一歩スウェンに向かって歩き出す。
「………!!」
スウェンは手を貸したい衝動を必死に抑え、はやてを見守った。そして…
「くう!!」
そのまま力尽き、スウェンの体にもたれ掛かった。
スウェンははやての体を抱きとめ、彼女の顔を覗き込む。
「はやて…。」
「ウチ…スウェンに言いたい事があるねん…でも言っちゃうとスウェンがもっと遠くに行ってしまいそうで不安やねん…だから…絶対帰ってきて、シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、リインフォースも、そしてウチも…ずっと待ってる。だからスウェンも…ちゃんと使命を果たしてな。」
スウェンははやてを力強く抱きしめた。
「わかった、約束は必ず果たす、だから…待っていてくれ。」
「うん、ずっと待ってる、何年でも…何十年でも…。」
そしてはやては、スウェンの両肩を掴み、腕に懸垂の要領で力を入れて、彼の額にキスをした。
「あ…。」
「勇気がでるおまじない…迷惑やった?」
はやては顔を真っ赤にし、上目使いでスウェンを見る。
「あ、ああ…少々驚いた、でも…ありがとう。」
「う…うん。」
(ホンマは唇にしたかったんやけど…さすがに恥ずかしすぎる///)

 

そしてこの数日後、スウェンとノワールはシンと共に、みんなに暖かく見送られながらコズミックイラに帰っていった…。

 

闇の書事件から6年後…
新暦71年、ミッドチルダのとある民家。
「ほーら、タンスはこっちに置いてや、テレビはこっち。」
「はやてちゃーん、窓拭き終わりましたー。」
「あんがとなーシャマル、お昼ごはん作っといてくれる?」
「りょーかいしましたー♪」
海鳴からここ、ミッドチルダに移り住んできた八神家は、引越しの作業に追われていた。
「はやてちゃーん!リインはどこを手伝えばいいですかー?」
そこに銀色の髪をした体長30cm程しかない少女が、掃除機をかけていたはやての下にやってくる。
「そうやなー…リインはダンボールの中整理してな。」
「りょーかいです!」
そう言ってリインはピューンという効果音とともにダンボールのある部屋に飛んでいった。
「リインが生まれて大分経ちますね…。」
そこに観葉植物を持ったシグナムがはやてに話しかけてきた。
「そうやな、リインフォースがユニゾンデバイスとしての機能を失って、代わりにあの子…リインフォースⅡを作ったけど…ウチの三男坊がいたときを思い出すなあ…。」
はやては懐かしそうに目を細めた。

 

「えーっと、これとこれと…。」
はやてに指示され、リインはダンボールを閉じているテープを切る。すると中に、アルバムと望遠鏡が出てきた。
「はれれ?これはもしかして…。」
「それはスウェンとノワールの私物だ。」
そこにリインフォースがやってくる。
「あ、お姉ちゃん~。」
「ふふふ、懐かしいな…。よくアイツ等もこれを使ってベランダで星を見ていたな…。」
「お姉ちゃん、スウェンさんとノワールさんってどんな人だったんですか?確かリインが生まれる前に八神家で暮らしていたんですよね?」
「そうだな、片方は無愛想、もう一方はスケベ小僧だったが、二人はとっても家族思いで優しかったぞ。今私がリインと一緒にいられるのも…彼等のお陰なんだ。」
「そうなんですか…。」
リインはアルバムを開き一枚の写真を見る、そこには銀髪の14歳ぐらいの少年と、リインと同じサイズの色黒で黒い髪の毛の少年が写っていた。
「ふわ~!この子リインとおんなじです~!」
「そうだな、じつはリインが今使っているお出かけボックスは…もともとノワールが使っていた物なんだ。」
「ふえ~!?そうだったんですか~!?」
するとそこに、
「こ~ら!作業サボってなにしてん?」
はやてが様子を見に来た。
「ご、ごめんなさいですはやてちゃ…。」
「あ!スウェン達の写真やん!懐かしいな~。」
すると、はやての声を聞きつけてシグナム達もやってくる。
「懐かしい…こいつらよくベランダで天体観測してたな。」
「あと図書館で本読んでましたね~、星関連の。」
「ふ…俺の背中でよく昼寝していたのを思い出しました。」
「なーなー!引越しの作業終わったら久しぶりに星を見にいかねー?この望遠鏡を使ってー。」
「あ、エエな~それ!」
ワイワイと盛り上がる八神家。

 

「お姉ちゃん…スウェンさんとノワールってみんなに愛されていたんですね…。」
「当たり前だ、二人は今でも八神家の一員だからな。」
「リイン…お二人に会ってみたいです、そして…色々お話したいです…。」
「そうか、なら今夜星にお願いしてみるか…きっと叶うはずだから…。」

 

同時刻、コズミックイラ、南米地区
「クソッ!?なんだあのモビルスーツは!?」
人型機動兵器『ストライクダガー』に乗った連合のパイロットは、たった一機のMSに全滅させられた仲間達を見ながら、そのMSと対峙していた。
『貴様等に聞きたい…エクステンデットの研究施設はどこだ?』
謎のMSから入ってくる通信。
「し…しらねえよ!そんなの…!俺達はただ上官に言われてここを守っていただけだ!!」
『ならばその上官とやらの居場所を…。』
そこに増援にやってきたダガーがそのMSを取り囲む。
『出たな…黒いストライクめ!次々と連合の基地を襲いやがって…撃てー!!』
一斉に放たれるビーム、だがそのストライクは天高く飛び、それらをかわした。
『どうします?』
「向かってくるなら倒すしかない、俺達はここで立ち止まるわけにはいかないからな。」
そしてストライクノワールに握られた銃から、ダガーに向かってビームが放たれた。

 

数分後、辺りにはMSの残骸が散らばっており、その中心には黒いストライクガンダムが立ちすくんでいた。
「ふうっ、アイツ等は逃げたか…折角の手掛かりだったのに…。」
コックピットから銀髪の青年がヘルメットを取って出てくる。そして彼は地面に転がる無人のMSの残骸を見渡す。
『しょうがないッスよ、慌ててもなにもならないッス…さあ帰りましょう、みんな待ってるッス。』
「そうだな…ん?」
青年はふと、空に一筋の流れ星を見つける。
そして青年は、その流れ星に願いを込めた。

 

「また…家族全員で星が見られますように。」

 

この一年後、ミッドチルダとコズミックイラを巻き込むある大事件がきっかけで、スウェン達とはやて達は再会する事となる。

 

まるで“運命”に導かれたように。