魔動戦記ガンダムRF_05.5話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:49:46

☆一杯目「説教」☆

 

「君は一体何をやっているんだ!?」
ヨウラン達がアースラ倉庫でキャロを発見して数十分後、彼女はリンディとクロノ…特にクロノにきついお叱りを受けていた。
「まあまあクロノ、キャロだってフェイトの事が心配で…。」
「母さん!!フェイトもそうですけど貴女は子供に甘すぎです!!」

 

そんな光景をたまたま居合わせたシン達とアルフは少し距離を置いて見守っていた。
「なあアルフ、あの子誰だ?」
「あの子はキャロ・ル・ルシエ、フェイトが色んな事情で引き取った子のうちの一人だよ、特にキャロはフェイトに可愛がられていてね…。」
「そうなのか…あいつも頑張っているんだなあ…。」

 

「ひっぐ…!えぐっ…!」
一方そのキャロはクロノに怒られてグスグスと泣いていた。
「まったく!こっちは色々と大変なのに問題を増やしてくれて…!アースラは動力が壊れて動かないんだぞ!もう帰れないかもしれないんだぞ!?ていうか君がやったことは十分犯罪でだな…!」
「クロノ…もうその辺にしてやれよ、その子も反省してるから…。」
タイミングを見計らって、シンはクロノの説教を止めに入る。
「シン…!君までそんな甘いこと…!!」
「もう2時間も説教してるじゃないか、えーっと、キャロだっけ?もうこんな無茶はしないな?」
「ひぐ…でも…フェイトさん…。」
「あー、フェイトが心配で付いてきたのはわかってる。俺がキャロだったら同じ事するだろうから…クロノだってそうだろ?」
「ぐ…ま、まあ…。」
「クロノ、そろそろ許してあげないとフリードが…。」
見るとキャロの隣にいたフリードがものすごい形相でクロノを睨みつけていた。
「……わかった、もういいだろう…反省するんだぞ。」
「はい…ひっく…ごめんなさい…。」
キャロは嗚咽を漏らしながら、クロノに謝った。

 

「ほら、もう終わったんだから泣きやみな。」
クロノの説教が終わり、アルフとリンディはキャロの涙を優しく拭いてあげた。
「う…ひっく…。」
「あーあ。こりゃしばらく泣きやみそうにないねえ…。」
「キュクル…。」
「ほら、こいつも心配してるぞ。」
シンは泣きやまないキャロの頭を優しく撫でた。
「ひっく…あの、貴方は…?」
「俺はシン、フェイトの昔の友達だよ。」
「えっ…!?」
名前を聞いたとたん、キャロはぴたりと泣きやんだ。
「…?俺の事知ってるの?」
「はい、シンさんの事はフェイトさんからよく聞いてました…まさか会えるなんて…。」
「フェイトったらシンの話をすると止まらなくなるんだよねー、この色男!」
「え?なんで?」
「………相変わらずだねぇ。」
(本当に鈍い人なんだ…フェイトさんの言った通りだぁ…。)

 

☆二杯目「応援」☆

 

そんなシン達の様子を、彼の同僚であるルナマリア・ホークは物陰から見ていた。
(またかわいい子だ…あの子達もシンの事を…?)
「なんか恋愛マンガに出てくる異様にもてる主人公みたいですわね。」
「うわっ!!!?びっくりした!!」
いつの間にか後ろにいたラクス(とピンクハロ)にルナは心臓が止まりそうになる。
「ら、ラクス様!?なんで貴女がここに!?」
「リンディさんとのお話が終わったので他のクルーの様子を見に来ましたの。それにしても貴女…。」
ルナの表情を見てラクスはニヤリと笑う。
「あの方に…ホの字ですわね。」
「ギクッ!!そそそそんなわわわけななななななないででででで」
分かりやすいルナの態度はもう答えを言っているようなものだった。
「落ち着いてくださいまし、別に他言しようとは思ってませんわ。それにしても何故あの方の事を…?」
ルナは気持ちを落ち着かせながら、ラクスの問いに答えた。
「あ…アイツはなんか抜けてるけど…いざとなったら頼りになるし…優しいし強いし…あの時も…///」
「それ…わかりますわ、わたくしも二年前にキラと初めて会った時バリバリっときましたから…///」
二人とも思い人を想いながら両頬に手をあて体をクネクネさせて悶えていた。
「おーい、なにクネクネしてんだ?」
「「オッフウ!?」」
突然のカガリの登場に、二人は変すぎる声を上げてしまう。
「いえ…実はお互いの思い人の事を…。」
「ちょ!!私はシンの事なんとも…!!」
「ははーん…まあ隠すな隠すな。私もそういった事なら経験がある、ついでに現在進行形だ。」
「へー。誰とです?」
「カガリさんはアスランとらぶらぶですのよ。」
「えっ!?アスラン・ザラってラクス様の婚約者じゃ…あれ!?」
「あー、そこから説明しなきゃならんのか…まあそれは置いといて、恋に悩む乙女を放っておくわけにはいかんな…。」
「いやだかr「カガリさん…こうなったらわたくし達でルナさんの恋を応援してあげません?」
「勝手になにw「おお!!それはいいな!!恋愛の先輩として私が色々とアドバイスしてやろう!!」
「ええ~!!?何この二人の強引さ…!?」
「まあまあ遠慮するな!ここで会ったのも何かの縁だ!お前の恋を応援してやろう!」
「はあ…有難う御座います…カガリ代表、ラクス様…。」
「“様”なんてやめてくださいまし、呼び捨てでいいんですのよ。」
「そんな…恐れ多いですよ…。」
その時、ラクスの表情が一瞬だけ曇ったが、誰も気付く者はいなかった。
「はっはっはっ!まあ初めは緊張するだろうからな、せめてさん付けにしてくれ。」
「はあ…わかりました。ラクスさん、カガリさん。」
「ええ♪こちらこそよろしくですわ。ルナ…さん♪」
こうしてルナは不思議な縁により、ラクスとカガリと友達になった。

 

『らくすヨカッタ!らくすヨカッタ!』
その三人の周りを、ピンクハロは嬉しそうに飛び回っていた。

 

☆三杯目「魔法の練習」☆

 

次の日の朝、オーブの孤児院のある海岸では、ザフィーラとシャマルがキラの念話の訓練の相手をしていた。
「よーくイメージするの、相手の心を感じて…自分の心を相手に見せるように…。」
「なるほど、うーん…。」
キラは動きやすい格好になりながら何かを念じるように目を閉じる。

 

「まさかキラが魔法を習いたいなんて言い出すとはな…。」
「シン君や私達の魔法を見て興味持ったんですって、カリダさん喜んでいたわ~、『家に閉じこもって何もしない子だから自分から動いてくれるのは嬉しいわ~』って。」
「キラ・ヤマト…どことなくシグナムっぽいな。」
「二人を会わせたらどんな反応するかしらね~?」
そんな他愛の無いザフィーラとシャマルの会話に、
『ひどいですよ二人とも~!』
キラが念話で会話に入ってきた。
「おう!?もうマスターしたのか!?」
「飲み込みが早いわねー。キラ君魔導士の才能あるわよ。」
『え?は、ははは…そうですか…ありがとうございます…。』
褒められたキラは恥ずかしそうに俯く。
「しかし…ここはすごいな、かなりの数のリンカーコア所有者がいるのだから…。」
「え?そうなんですか?」
「うん、昨日クロノ君達が調べただけでかなりの人数が持ってたわよ。特に…ラクスさんとアスラン君とカガリさん、シン君の友達のルナちゃんとレイ君なんてはやてちゃん並の高い魔力値を持っていたわ。」
「ラクスが…!?」
キラは自分の恋人や友人達が魔導士の才能を持っている事に驚く。だがそれと同時に、妙に納得したように頷く。
(もしかして…導師の言っていた僕達のあの能力が関係しているのかな…?てことはルナちゃんとレイ君も…?)
「ん?どうしたのだ?難しい顔をして…。」
「え!?いや、なんでもないですよ!それよりもうちょっと練習していんですけど…。」
「あ、そうね…じゃあ次はバインドのやり方を…。」

 

そしてキラの魔法の訓練は実に夕方までおよんだ…。

 

☆四杯目「復帰」☆

 

その頃アスランは、オーブの屋敷の自室で、知り合いのプラント議員とある話し合いをしていた。
「お久しぶりです…エルスマンさん。」
『ああ…久し振りだな、うちのアホ息子が迷惑かけて本当にすまない…。』
アスランの話し相手はエルスマン議員、アスランの元同僚ディアッカの父親で、現在は誘拐されたデュランダル議長の変わりに議会を纏める現在のプラントのトップなのだ。
「いえ…俺も聞いた時は驚きましたよ、まさかあいつらが議長と一緒に攫われていたなんて…。」
実はディアッカと彼の部隊は全員、先日の誘拐事件にデュランダル議長と居合わせてしまい、彼と共に時の方舟に連れ去られてしまったのだ。
『こちらはなんとか持ちこたえているが…やはり国民はかなり動揺している。私はここを動くわけにはいかないからラクス様と君には地上に降りてくるザフト軍の指揮を頼みたい…複隊届は受け取った、数日後には辞令と制服が届くはずだ。』
「有難う御座います……。」
『しかし…いいのか?君はオーブ軍で戦い続けたっていいのだぞ?何でまた復隊を…?』
「……俺は二年前、己の意思に従ったとはいえ、一度ザフトを裏切っています…だからこれは俺なりの償いなのかもしれません…それに…。」
『それに?』
「オーブとザフトが共に戦うのなら…両者の事情をよく知るものが仲を取り持つ必要があると思うのです。」
『ふっ…なるほどな。』
画面の向こうのエルスマンはアスランの決意に満ちた表情に満足そうに頷く。
『それでは…議長達を頼む、補充としてミネルバには新型機と “フェイス”を送る、それと…。』
「解っています。ディアッカ達は俺達が必ず助け出します。」
『……ありがとう。』
そして通信が切られ、アスランはゴロンとベッドに転がった。
「イザーク…ディアッカ…無事でいてくれ…!」

 

☆五杯目「捕虜生活」☆

 

どこかにある時の方舟のアジトの、どこかにある体育館のように広い広間。ここでは先日の合同会議の時に時の方舟に誘拐された各国の要人やそれを護衛していた軍人達、そして会議の後に開かれるパーティーに出席するために訪れていた各界の著名人がまとめて収容されていた。
そして部屋の片隅…そこにはデュランダルと、彼を護衛に来ていたジュール隊…イザーク・ジュールとディアッカ・エルスマン、シホ・ハーフネンスにアイザック・マウが一か所に集まってなにやら話し合いをしていた。
「ふむ…大変な事になったなあ。」
「そんな呑気に構えている場合じゃないですよ議長。」
そう言ってイザークは辺りを見回す。すると…
『なんで我々がコーディネイター共と一緒に閉じ込められるのだ!?』というオーラを醸し出しながらナチュラル達がデュランダル達を差別の眼で睨みつけていた。
「うう…居づらい…。」
「ていうか寝泊まりもいっしょなんでしょうか…?私一応女なんですけど…。」
「だ、大丈夫ですシホさん!なにかあったら僕が守りますから!!」
「おお~!勇ましいね~!」
顔を真っ赤にして宣言するアイザックをディアッカは冷やかす。そんな彼を、イザークがあきれ顔で諌める。
「ディアッカ…いくらミリアミアにふられたからって他人の恋路を…あ!!」
イザークは言ってはならないことを言ってしまい、すぐさま自分の口を手で押さえる、だが時すでに遅し、ディアッカはみるみる泣き顔になり、そのまま床に大の字で倒れた。
「ああそうさ!!!俺はあいつにふられたよ!こっちはただ危ない目に会ってほしくないから注意しただけなのにぃ…!!畜生!!世界中のカップルみんなみんな破局しろ!!浮気ばれろ!!世界なんて昼ドラのようにドロドロになっちまえ!!」
「お…落ち着け!!俺が悪かった!!」
「あーあ、トラウマ掘り起こしちゃった…。」
「わかる…わかるぞエルスマン君…!」
「議長…?」
「ひょーほほほほほ!!それで彼女いる奴包丁で殺されかけろ!!ついでにハゲろ!!禿げ上がれ!!イヒヒヒヒ!!」
「うおおおお!!手が付けられん!!」
「取り敢えず…フンッ!!」

 

メコッ

 

「どゅ!!?」
シホの鋭い当て身に、ディアッカは一発で気絶する。
(((こえぇ…!)))
そんな大騒ぎするザフト陣の元に、オーブの代表ユウナがやってきた。
「ははは…なんだか楽しそうですね…。」
「これはこれはセイラン代表…お父上の容体はどうですか?」
「ええ、先程目を覚ましたんですが…ここ最近の事を覚えていないようなのです。」
「やはり彼はあの少年に操られていたのでしょか?」
「で、でもあんな魔法みたいなことありえませんよ!?人が幽霊みたいに取りつくなんて…!!」
「それを言ったら私達をここに連れて来たワープ技術もそうでしょう?一体彼等はどれほどの技術をもっているのかしら…。」
その時、広間の外から少女の怒声が鳴り響いた。
「離しなさいよ!!コノー!!」
「アリサちゃん、暴れちゃ危ないよ…。」
そして広間に金髪のきつい性格の少女と、大人しそうな紫髪の少女が放り込まれた。
「こっのー!!人をこんなところに連れてきて…!!」
「アリサちゃん落ち着いて、それにしても…。」
紫の髪の少女は好奇の目を向けてくる連合の士官等に少し怯える。
「ああ!?あんた達なにすずかをエロい目で見てんのよ!?ぶっとばすわよ!!?」

 

「な…なんだあの女…?」
「どうやら我々とは違う事情でここに連れてこられたようだな…ハーフネンス君、すまんが彼女達をこっちに連れてきてくれないか?話を聞きたい。」
「解りました…。」

 

そんな光景を、遠くから見ている身なりのきれいな男たちがいた。
「まったく騒がしいったらありゃしない…!オイ!ジブリール!!こうなったのも貴様のせいだぞ!!貴様が操られているセイランから招待状を受け取らなければ…!」
「ふんっ…!のこのことそれに従ったのはどこのどなたでしょうな…!!こっちだってあの汚らわしいコーディネイターと一緒に閉じ込められてイライラしているというのに…!!喚かないでいただきたい!!」
「なんだと!?」
男達のうち一人がジブリールと呼ばれた男に掴みかかる。
一触即発かと思われたその時、

 

ゴゴン♪
「「うがっ!?」」

 

その二人の頭にアリサの靴が直撃する。
「うっさいわよあんた達!!こっちもイライラしてんだから喧嘩すんな!!!」
「アリサちゃん…あの人達気絶してるから聞いてないよ…。」
すずかはなりふり構わず暴れまわるアリサの暴走を必死になって止める。
(((コワ…!)))
鬼のようなアリサを見て、周りの人間だけでなくあのヤキン・ドゥーエ戦役を生き抜いたイザーク達ですら恐怖におののいた…。そんな彼女達に、シホは勇敢にも話しかけた。
「その身体能力…貴女はコーディネイターですか?」
「……?なにそれ?私はアリサ・バニングスよ。」
「私は月村すずかです。えっと…たしかコーディネイターって…。」
すずかは昔シンからそのような単語を聞いた事を思い出した。
「もしかして貴方達…コズミックイラの人ですか?」
「「「「「?????」」」」」
デュランダル達はすずかの言っている事が解らず、首を傾げた。

 

☆六杯目「王様の料理人」☆

 

一方、高町一家とノエルとファリンはカシェルによって、アリサとすずか、そして忍とは別のところへ連行されていた。
「えーっと、僕等はどこへ連れて行かれるのかな?」
「すぐにわかります、黙っててください。」
士郎の質問は一刀両断される。
「お父さん、お母さんは?」
「大丈夫だよ雫、忍はちょっと別の用事があるんだ、それまでおばあちゃんやおばさんと一緒に遊ぼうな。」

 

そして大きな扉の前に到達し、カシェルは扉を開け放った、そこには…。
「…女の子?」
豪華な装飾が施された王座に座るオレンジ髪の少女がいた。
「料理人をお連れしました、イクス・ヴェリア様。」
「……。」
イクスと呼ばれた少女は少年の問いに答えず、彼をギロリと睨みつけた。
「何をされても…私は貴方に協力するつもりはありません。」
「そうは言われましてもね、わざわざ攫ってきたのに拒絶されたら困りますよ。」
「攫って…!?」
イクスは士郎達を一瞥すると、鬼のような形相でカシェルを睨む。
「貴方達は一体なんなんです!?私を目覚めさせてこんなところに連れてきて…!!無関係な人まで巻き込まないでください!!」
「しょうがないでしょ?我々の出した食事を一口も食べないものだから、首領が気を使って連れて来たんですよ?貴方がわがまま言わなければ彼等は平穏無事だったんです。(まあ本当は月村忍のついでに思いつきで連れて来たんだろうけど…。)」
「くっ…!!」
イクスは悔しそうに歯ぎしりする。そんな只ならぬ光景を、士郎達は固唾を飲んで見守っていた。
「取り敢えず大人しく我々に従ってください、でなければ……トレディア・グラーゼやルネッサ・マグナスみたいになりますよ?」
そう言い残し、カシェルはイクス達がいる部屋を出て行った…。

 

「どうして…!?どうしてこんな…!!」
するとイクスは両手を顔にあてしくしくと泣き始めた。
「あなた…。」
「うーん、なにか複雑なことに巻き込まれた気がするな…。」
「どうしよう、お父さん…。」
美由希と桃子は不安そうに士郎に問いかける、すると…。
「あ!雫!」
恭也の娘雫がイクスの元にトテトテと駆け寄っていく。
「うっ…!うっ…!」
「お姉ちゃん泣いているのー?」
そう言いながら雫はイクスの頭を優しく撫でた。
「……?貴方達は…?」
「私月村雫、後ろにいるのはお父さんとおじいちゃんとおばあちゃんとおばちゃんとノエルちゃんとファリンちゃんです!」
「え?え?」
イクスは訳が分からず頭に?マークを浮かべる。
「うーん、こっちもなにがなんだか訳がわからないのよね…。」
「あれ?でもさっきの子、私達の事料理人ってよんでたわよ?」

 

グゥ~。

 

するとイクスの方から間抜けな腹の虫が鳴り響く。
「あ…///」
「おばあちゃん、この子お腹すかせているよ?」
「あらあら…どうしましょうか?」
すると、部屋を探索していたファリンが戻ってきた。
「士郎さん…あそこにキッチンがありましたよ、お誂えむきに食材まで…。」
「ふむ…どうやら僕達はこの子の専属料理人として連れてこられたようだね。宮廷料理人って奴だ。」
「しょうがない!いっちょ腕をふるいますか!」
「そうね…。」
そう言って高町一家は雫とノエルとファリンを残してキッチンに向かって行った…。

 

☆七杯目「旅立ち」☆

 

南米フォルタレザ国際空港…そのロビーであるバスケットを持った青年が数人に見送られて旅立とうとしていた。
「じゃあスウェン…気をつけてね。」
「よかったらいいオーブ土産を買ってきてくれ、女の子を口説くのに使えそうなやつをな。」
「ふっ…わかったよ。」
するとバスケットの蓋が開き、そこから30センチの少年…ノワールが顔を出した。
「それじゃいってきます!エドさん!セレーネさん!ソルのアニキ!」
「うん、ノワールも元気で、無茶しちゃだめだよ。」
ソルと呼ばれた金の短髪の青年はノワールの頭を優しく撫でた。
「スウェン…ちゃんとはやてちゃん達を助けて、ちゃんと帰ってきなさい、貴方にはまだまだ教えたいことが一杯あるの、それと…。」
「『はやて達を連れてきて、出会いと再会を祝してお酒でも飲もう』だろ?」
「ふふふ…、わかっているじゃない。」
すると空港内に、スウェンの乗る便の発進アナウンスが流れる。
「じゃあ…行ってきます。」
「なにからなにまでありがとうございますッス!」
「いってらっしゃい、スウェン。」
そしてスウェンとノワールは皆に手を振りながらオーブ行きの飛行機がある発着所へと向かっていた。
「行っちゃったね、彼…。」
「まあ彼の仲間も向こうで合流するみたいだし、無事に帰ってくるわよ。」
そしてノワールにエドと呼ばれた中年の男は、近くにあったベンチに腰かけた。
「ふむ…騒がしいのがいなくなると何となく寂しいな。」
「なに?親バカ?」
「ははは、確かにな…この齢だったらあれくらいの息子がいてもおかしくないからなあ…。」
「そうね…貴方が戦場から彼等を連れて来た時は本当に驚いたわ。」
「二年前の戦争の時、アフリカで大ケガ負った叔父さんを助けてくれたんだよね、あの二人…。」
「まったく、妙な縁というか…まるでドラマだよ。」
「彼がはやてちゃん達を連れてきたら…貴方大家族の大黒柱ね。」
「んじゃ、さしずめセレーネはお母さんてか?」
「んもう!まだそんな齢じゃないわよ!」
セレーネとよばれた女性は苦笑しながら、スウェンが向かって行った方角を見つめる。

 

「スウェン…頑張んなさい。」

 

一方オーブ行きの飛行機に乗り込んだスウェンは、座席で何か考え事をしていた。
「アニキ?難しい顔をしてどうしたんッスか?」
「いや……もし俺がはやて達に出会わなかったら、今頃どうなっていたんだろうと思っていたんだ。もし彼女等に会わなかったら、俺は今頃連合の兵として戦場を駆け回っていたのだろうか…。」
「………。」
ノワールはその言葉を聞いたとたん、悲しい表情になる、その表情はまるで何かを思い出してしまったような、そんな表情だった、だがすぐにいつもように笑った。
「アニキ、『あの時こうしていたらどうなっていたんだろう?』って考えるのは時間の無駄ですよ、アニキは今を生きているんッスから。」
「………?」
スウェンはいつもと調子の違うノワールに少し戸惑うが、とても小さく微笑みながらバスケットから顔を出す彼の頭を撫でた。
「そうだな……さて、まだ星の出る時間じゃないし…先に休むか。」
「はい、お休みッス♪。」
スウェンは毛布をはおり、瞳を閉じてそのまま眠りこけた。
ノワールはその様子を見てバスケットの中に引っ込み、コロンと寝転がった。

 

「そう、貴方の“かつての業”はもう無い。オイラは…俺は貴方の夢を守る。」

 

その、ノワールの独り言を聞いていた者は誰もいなかった。

 

☆八杯目「お昼寝」☆

 

時計が夕方の4時を示したころ、レイとルナは訓練と業務を終えてミネルバにある自室に戻ろうとしていた。
「あ、ねえレイ、ちょっとさっきの模擬戦のデータ欲しいからアンタの部屋に入っていい?」
「いいぞ。」
そう言ってレイはシンと相部屋でもある自室のロックを開く。
「なあ!?」
「きゃあ!?」
するとシンのベッドの上に巨大なオレンジ色の狼が体を丸めて寝転がっていた。
「静かに、二人が起きちまうだろ。」
「え!もしかしてアルフさん!?」
「二人…?」
よく見るとアルフのお腹のあたりにシンとキャロとフリードが寝息を立てて眠っていた。
「zzz…。」
「むにゃあ…フェイトさーん…。」
「キュクー…。」
「フェイトの事で話しているうちにキャロが眠っちゃって…シンも久しぶりだからーって一緒に寝ちゃったんだよ。」
「そうなんですか…ふふふ、可愛い顔しちゃて。」
ルナは眠っているシンの頬をツンツンと人差し指で突く。

 

「シンも…大きくなったね…前は私の体にすっぽり入るくらい小さかったのに…。」
「…?あなたは特にシンと仲がいいみたいですが…どういった関係で?」
レイの質問に、アルフは昔を懐かしむように目を細めた。
「そうだね…シンが初めてなのは達の世界に来た時、私とフェイトは彼の世話をしていたんだ。最初の内は家族が恋しくてぐずるこいつをこうやってあやしていたんだけど…。」
(何気に恥ずかしい過去をばらされているわね…家族にも喋ってなさそう…。)
「魔法を覚えて、私達に協力するようになってからシンはどんどん男らしくなってね…私もフェイトもそんなシンにだんだん惹かれていったんだよ。」
「………それわかります。俺も…こいつにはたくさん助けられましたから…。」

 

『お前は他の誰でもない!!お前はレイ・ザ・バレルだ!!』

 

レイはかつてシンが送ってくれた言葉を思い出し、優しく微笑みながらキャロの頭を撫でた。
「ふにゅう……。」
「ほんとに気持ちよさそうに寝ているわね…。」
ルナはそう言いながらシンの横に寝転がる。
「お前はなにをやっているんだ。」
「いやあ、気持ちよさそうだなーって…。」
「アタシは別に構わないよ、なんならアンタもどうだい?」
「えっ…?」

 

一時間後、メイリンはシン達を呼びに部屋の前に来ていた。
「お姉ちゃん、シン、レイ、ごはん食べにいこー…って。」
部屋に入ったメイリンは、そこでアルフのふわふわな毛皮を枕に昼寝しているシン、レイ、ルナ、キャロ、フリードを目にした。
「マユ…そ、そんな、俺達兄妹…。」もぢもぢ
「んー…、シンのにほひ…。」クンカクンカ
「ふにー…フリード、そんなの食べちゃダメ…。」
「うーん、俺、参上~。」ビシッ
「神戸牛がバタフライ~。」

 

「なにしてんのみんな…レイまで…。」
メイリンはあきれ顔でやれやれとため息をつく、すると、
「キュクル。」
起きていたフリードが毛布を銜えてメイリンにすり寄ってきた。
「え?もしかして…これをみんなにかけろって?」
「キュク♪」
メイリンは皆に毛布を掛けると、フリードを抱き上げた。
「あーあしょうがない、一緒に食事でもどう?」
「キュクルー♪」
嬉しそうに鳴くフリードを抱えながら、メイリンは食堂に歩を進めた。

 

それは、星を駆ける機動戦士と、世界を駆ける魔法使い達の、ほんの一時の安らかな時間。
彼等の迎える明日は過酷なものになるけれど、奇跡のような出会いを果たし、深い絆で結ばれつつある二つの“物語”はきっと乗り越えられるだろう。
そして安らかな時間は、一瞬のように過ぎ去って行った…。