魔動戦記ガンダムRF_25話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:10:19

時の方舟がCEから去ったその日の夜、皆とのブリーフィングを終えたシンとユニゾンデバイスのデスティニーはミネルバの食堂に赴き、レイとルナマリアと共に夕食を取りながら今後の事を話し合っていた。
「それじゃ明日、デスティニー達が私達の部隊をミッドチルダに連れて行ってくれるの?」
「前から思っていたんだけどさ……ホントお前何者なんだ?」
「まあそれは後々……それよりも皆さん、明日は多分時の方舟との決戦になります、各自心残りのないよう色々と準備しておいた方がいいんじゃないですか?」
そう言ってデスティニーはシンの質問をはぐらかし、30センチしかない体でプチトマトを持ち上げシャクシャク食べた。
「確かにそうだな……俺もギルのところに行くか、2人はどうするんだ?」
「私は……どうしようかな?シンはやっぱり……。」
「うん、俺は……。」

 

そして戦士達は、最後の決戦に向けてそれぞれの時間を過ごそうとしていた……。

 

~Side:ファントムペイン~

 

その夜、ネオは先に連合軍基地に帰っていたジブリールからある指令を受けていた。
「帰還……ですか?」
『その通り、こちらはアリューゼが引き起こした不祥事の後処理などで忙しいのだ、忌々しいコーディネイター共やオーブの姫様が異世界人共を排除してくれるのなら任せた方がいいだろう、だから大佐は我が軍を連れて帰って来るのだ。』
「…………。」
ネオはモニターの向こうでネコを撫でながらふてぶてしく椅子に座るジブリールに、少なからず不快感を抱いていた、その時彼はある事を思い出し、思い切ってジブリールに質問してみる。
「ところで……少し聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」
『ん?なんだ?』
「実は……元アークエンジェルのメンバーが俺の事を“ムウ・ラ・フラガ”と呼んでいたのですが……どういう事なんでしょうね?俺はネオ・ロアノークなのに……。」
『……!さあね……私は知らないな、とにかく早く帰ってこい。』
ネオの質問に少し動揺した様子のジブリールは慌てた様子で通信機の電源を切った。
「やっぱり……何か隠しているねえあの人……。」

 

数分後、ネオは格納庫に収容されていたアカツキの前に来ていた。
「さて……どうしたもんかねえ?指揮官として早く指令を出したほうがいいんだろうが……。」
そう言ってネオは先ほど買った缶コーヒーの蓋を開け、中身を一口飲んだ、するとそこに……。
「あ、ムウ……じゃなかった、ロアノーク大佐、どうしたんですかこんな所で?」
作業員服姿のマリューが書類片手にやって来た。
「ラミアス艦長?こんな時間なのにまだ作業していたのかい?」
「ええ、明日に備えて機体の調整を済ませておきたいので……。」
「そんな……マードック班長に任せておけばいでしょう?艦長のアナタがワザワザやらなくても……。」
「いえ……私にはこれぐらいのことしか出来ないですから、元々エンジニア志望でしたし。」
ネオは不沈艦と呼ばれたアークエンジェルの艦長であるマリューのとても控えめな発言にとても驚いていた。
「これぐらいしかできないって……とても前大戦の英雄とは思えない発言ですね。」
「だって私は……ヘリオポリスの事件の時、偶然生き残って偶然階級が一番上だったからあの艦の艦長になっただけであって特別なにもしていません、あの艦にはキラ君が、バジルール中尉が、そして……ムウが居てくれたから生き残れたんです、私自身は何もしていないですよ。」
「……。」
マリューの話をネオは何も言わずに聞いていた、そして……彼女の話が終わると淡々と語り始めた。
「役に立っていない訳じゃない……少なくともそのムウって奴は、アンタがアークエンジェルに居たから戦えたんだと思うぜ。」
「……?それってどういう事ですか?」
ネオは手元にあった缶コーヒーの中身を飲み干すと、空になった缶を近くにあったゴミ箱に放り入れた。
「それだけアンタの事を守ってあげたいって思っていたんだろ、普通の人間なら投げ出したくなる状況にも逃げ出そうとしない心の強さ持つアンタに、そのムウって奴は惹かれていたんだろうさ。」
「えっ……!!?」
マリューはまるでムウの自分に対する気持ちを理解かつ見通しているようなネオの発言に、思わず顔を恥ずかしさで赤く染めた。
「だからもっと自信を持ちな、少なくともアンタには男を惹きつける魔法みたいなもんを持っている、実際俺もその魔法に掛かりそうだしな……。」
「えええっ!?」

 

一方、そんなネオとマリューの様子を覗いている三つの人影があった。

 

(ネオ……いくらなんでもその口説き文句はどうかと思うぞ……。)
(ネオかっけー!シャマルさんを口説く時の参考にさせてもらうぜ!)
(…………。)
そう言ってスティング、アウル、ステラは先ほどネオが空き缶を投げ入れたゴミ箱の影に隠れ2人の様子を窺っていた。
(ネオ、マリューさんといい感じ……。)
(そうだなー、そのうち付き合うんじゃねえのあの二人?)
(ていうか……元々そんな関係だったようにも見えるけどな……。)

 

「あら……?三人共、そこで何をしているの?」
その時、マリューはスティング達の姿に気付き話しかける。
「やべっ!見付かった!」
「ああこらお前等!何覗き見してんだ!!?」
「逃げろ―!」
ネオに怒鳴られスティング達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「まったく……アイツ等ときたら……。」
「ふふふ……大佐、まるであの子達のお父さんみたいですね。」
「ははっ、それじゃマリューはお母さんってか?」
互いに冗談を言い合い、ネオとマリューの間に和やかな空気が流れていた、そして……。
「ラミアス艦長、実は俺達連合軍は……上から帰還するように命令されているんです。」
「……そうなんですか、名残惜しいですけど命令なら仕方ないですね……。」
「それで……ラミアス艦長に少しお願いがあるんです、アスハ代表に……。」

 

~Side:ミネルバ~

 

オーブ政府の来客者用の寝室……そこでレイはデュランダルと久しぶりの再会を噛みしめていた。
「ギル……本当に無事でよかった、助け出すのが遅くなって本当にごめんなさい。」
「気にするんじゃない、グラディス艦長から話は聞いている、今まで良く頑張ってくれたなレイ……。」
「はい……。」
レイはデュランダルに褒められ照れ臭そうに俯く。すると彼らのいる部屋にタリアが入って来た。
「あら……?家族水入らずの所を邪魔しちゃったかしら?」
「グラディス艦長……。」
「タリアか……よかったら君も一緒にどうだ?士郎からもらったコーヒーがあるんだ。彼のコーヒーはうまいんだ。」
「あら?それなら御一緒させてもらおうかしらね。」

 

それから数分後、レイ達はコーヒーを口にしながら談笑していた。
「そう言えばギル……人質だった時は何をしていたのです?アイツ等に酷い事をされたり……。」
「いや、広い部屋に大人数で閉じ込められてはいたが、それ以外は特に……むしろスイートルームよりもよい環境だったよ、娯楽もかなり用意されていてね……士郎と将棋で勝負したのだが3戦全敗してしまったよ、かなり本気でやったのだがね……。」
(コーディネイターのギルが巻けるなんて……なのはの父親は何者なんだ?)
「ふふふ……ギルバート、なんだかアナタ楽しそうね。」
「そうかい?まあ貴重な経験はさせてもらったがね、ナチュラルの、それも連合軍の高官達とあれだけ長い間一緒の空間で暮らすなんて中々できないから……。」
「大丈夫だったのですか?戦争は終わっているとはいえ中にはコーディネイターを毛嫌いする者も……。」
「いやあ、始めはそういったいざこざもあったんだけどね、アリサ君が暴れ回ってくれたおかげで次第に収まっていったんだよ。」
「へえ……。」
ふと、デュランダルは自分の話を楽しそうに聞いているレイを見て優しく笑った。
「レイ……君も変わったな、何というか表情が柔らかくなった、シンや管理局の子達と出会ったからかな?」
「……そうかもしれません、それに……。」
レイの頭の中には自分が名前を与えたフェリシアの顔が浮かんでいた、そしてレイの瞳に決意が宿っていた。
「俺にも救いたいと思う人が出来ました、俺はそいつにラウみたいになって欲しくないと思っています。だから明日の戦い……絶対にしくじるつもりはありません、アイツを連れ戻し、じっくり話をしようと思っています。」
「ふふっ、そうか……いい出会いをしたなレイ。」
「ええ……私も頑張らなければね、早く終わらせて息子にも会いたいし……。」
そう言ってデュランダルとタリアはまるで自分達の息子を見るような目でレイを見守っていた……。

 

~Side:アースラ~

 

オーブ軍MS格納庫、そこでミネルバ、アークエンジェル、そしてアースラの整備兵達は明日の決戦に備えてMSの整備を行っていた。
「マッド班長!ヴェルデバスターとブルデュエルの予備パーツってどっちに入れます!?」
「一応アークエンジェルの方に入れておいてくれ!おいそこ!その機材はミネルバの方に入れるんだよ!」
「マードックさん!ストライクノワールの調整はやらなくていいんですか!?」
「それはスウェンがやっとくから触らないでくれだとよ!お前は別の所へ行け!」
今格納庫はまるで戦場のような忙しさだった、するとそこに沢山のオニギリとお茶を乗せた台車を押したキャロとフリード、そしてシャーリーとルキノとメイリンがやって来た。
「みなさーん!お夜食持ってきましたー!」
「おお!野郎どもメシだー!」
「「「「うおおおおー!!!」」」」
キャロ達の存在に気付いた整備兵達は一斉に台車に群がり、その上に置いてあったオニギリはあっという間になくなってしまった。
「み、みなさんお腹空いていたんですね……。」
「まるでゾンビだわ……あれ?」
すると皆と一歩遅れてヨウランとヴィーノが息を切らしてやって来た。
「げぇー!一歩遅かったか!?」
「も、もうオニギリないのか!?」
「は、はい……今のでもう……。」
「「そんなあ!」」
そう言ってヨウランとヴィーノは力が抜けたようにその場にへたり込んだ、すると……シャーリーが顔を赤らめてモジモジしながらヨウランに弁当箱を差し出した。
「あの……よかったらコレ、中身サンドイッチですけど……。」
「え!?いいの!?」
ヨウランは嬉しさのあまり跳ねるように立ち上がり、シャーリーから弁当箱を受け取る、その光景を見ていたヴィーノはヨウランを恨めしそうに睨んだ後メイリンに期待の眼差しを向ける。
「……?私は何も作って来てないけど?」
「やっぱりねー!!そうだと思ったよコンチクショー!」
ヴィーノはやりきれなさのあまり地面に大の字で寝転がる、すると……。
「あの……ヴィーノさん、私の作ったおにぎりで良ければ……。」
キャロが自分が作ったいびつな形のオニギリをヴィーノに差し出した。
「え!?いいのキャロちゃん!?」
「はい……形が酷いからさっきは台の上に置かなかったんですけど……。」
「いやいやいや!それでも嬉しいよ!それじゃ……。」
ヴィーノは満面の笑みでそのオニギリを手にしようとしていた、だが次の瞬間。
「キュクル~!(パクッ)」
横から現れたフリードにオニギリを掻っ攫われてしまった。
「ア゛―!?フリードこの野郎!?」
「だ、駄目よフリード!アナタの分はちゃんと後で配るからー!」
「あっはっは!フリードナイス!」
「こらそこの2人!ボケっとしてねえでさっさと持ち場に戻りやがれ!」

 

「あらあら、楽しそうねみんな……。」
そんなキャロ達の様子をリンディとクロノは少し離れた場所で見守っていた。
「明日は決戦になるかもしれないですからね……今の内に準備しておかないと。」
「そうね……ん?」
そこに、何やら不安そうな顔をしているエイミィがクロノ達の元にやって来た。
「クロノ君……艦長……。」
「あら……?どうかしたのエイミィ?」
「君がそんな顔をするなんて珍しいじゃないか。」
「う……うん……実はその……。」

 

数分後、リンディとクロノはエイミィからある話を聞き、思わず互いに顔を見合せながら驚いていた。
「「に……妊娠したぁ!!?」」
「う、うん……さっき検査薬で調べたらビンゴだったの、あの……クロノ君……。」
すると突如リンディはエイミィの手を取り彼女の手をブンブンと振り回した。
「きゃー!おめでとう2人とも!私おばあちゃんになっちゃったわ!」
「あ、ありがとうございますリンディさん。」
「ぼ、僕が父親……そうか……。」
クロノは感無量と言った様子で天を仰ぎ、そのままエイミィに抱きついた。
「そうか!それじゃこの戦いが終わったら色々準備しないとな!赤ん坊の服とかベビーカーとか名前とか……!」
「も、もうクロノ君……まだ男の子か女の子かどうかわからないんだから……とりあえずフェイトちゃんとアルフにも報告しないと……。」
エイミィのその提案に、リンディは手で制して止めた。
「いや……あの子は今ちょっとアリューゼさんの事で色々あるから……ちょっと間を置いてから報告しましょう。」
「そ、そうですね……ちょっと不謹慎かも。」
「でもまあ落ちついたらフェイトも祝福してくれると思うよ、だからそう不安がるんじゃない、エイミィ。」
「うん……。」
そしてエイミィはもう一つの命が宿っている自分のお腹を優しく撫でた……。

 

~Side:キラ・ヤマト~

 

その夜、オーブ沿岸にある孤児院ではキラ、アスラン、ラクス、カガリがイザークとディアッカを招いて夕食会を開いていた。
「でも……君達が本当に無事でよかった、僕達心配していたんだよ?」
「はははっ!ありがとうよ!まあ俺達は議長の傍に付いていただけで別に危ない事はしていないんだけどな!」
「それよりも……貴様等2人はどうなのだ?聞いた話じゃザフトの後輩や連合軍の奴らにおいしい所を持って行かれたと聞いているが……ていうか……。」
イザークはふと、テレビの前でユニゾンデバイスのフリーダムとミーティアが子供達と戯れている光景を見る。
「わーい!待て待てー!」
「うわー!何その虫取り網はー!?」
「逃げるよみーちゃん~!」

 

「いつの間にあんなちみっちゃいのを飼い始めたんだ?」
「あはは……色々あったんだよ色々と。」
その時、キラ達がいる食堂に書類を持ったバルドフェルドがやって来た。
「ラクス……ダコスタから連絡が入った、明日の朝にでもエターナルはオーブに着くそうだ、ミーティアやイザークとディアッカのMS、それにハイネの新機体を乗せてな……。」
「そうですか、間に合ってよかった……地上でも運用出来るよう改良してあるのですよね?」
「ああ、俺の知り合いのジャンク屋ギルドに頼んでおいた、これならエターナルもミーティアも地上での運用が可能さ、それで……2人はいいのかい?折角助け出されたばかりなのに……。」
そう言ってバルドフェルドはイザークとディアッカの方を見る。
「ああ、今まで迷惑を掛けた借りを返す、俺達もそのミッドチルダとやらに赴いて時の方舟の野望を打砕いてやろうじゃないか。」
「ま、正直今でも管理局とか異世界とか魔法とか言われてもいまいちピンとこないけどさ……俺がいなきゃ駄目なんだよコイツ。」
「おい!?それはどういう意味だディアッカ!!?」
「まったく……何年経っても変わらないなお前達は……。」
アスランはイザークとディアッカのやり取りを見て思わず笑みをこぼす、すると彼等の元に子供達と遊び通してクタクタのフリーダムとミーティアがやって来た。
「ラクスー、ボク疲れたよ~。」
「あらあらピンクちゃん……それではそろそろお休みしましょうか。」
「そうだな!明日は早いし……私とアスランもここに泊らせてもらうぞ!」
「イザークとディアッカは基地に戻っていてくれ、また明日アークエンジェルで会おう。」
「寝坊するなよアスラン、キラ。」
「シホとアイザックと話もしなきゃいけないな……それじゃおやすみー。」
そしてイザークとディアッカは自分達の寝床が用意されているオーブ軍基地に戻っていった。

 

そして皆が寝室に向かう中、キラは隣でフヨフヨ浮いているフリーダムに声を掛ける。
「フリーダム……明日はよろしくね、僕達の腕に皆の未来が掛かっているんだ。」
「…………。」
だがフリーダムはキラの問いに答えることなく、彼の目の前に立ちはだかった。
「マスター……マスターはアリューゼ・テスタロッサをどう思います?」
「アリューゼさんの?そうだな……。」
キラは頭の中でしばらく自分なりの答えを模索し、そしてフリーダムに言い放つ。
「そうだね……彼がどれだけ悲しい思いをしていたのか、僕には解らない、でもだからって……他の人に迷惑を掛けていい訳じゃない、だから僕は彼を……止めたい。クルーゼの時みたいに後悔はしたくないんだ。」
「…………そうですか~。」
フリーダムはキラの言葉に満足したように微笑むと、彼の肩の上にチョコンと座った。
「それじゃ明日に備えて僕達も寝ましょ~!ぐっすり眠って体力つけないと~。」
「ふふふ……そうだね、それじゃお休みフリーダム。」

 

~Side:八神ファミリー~

 

アースラの訓練室、そこでスウェンはノワールとユニゾンしながらシグナムと共に実践訓練を行っていた。
「紫電一閃!てやあああ!!!」
『なんの!』
「甘い!」
シグナムのレヴァンティンの強烈な一振りを、スウェンは二対のフラガラッハを交差させて防ぎ、そのままそれを弾いて彼女との距離を一気に離した。
「ふふふふ……やるなスウェン、この7年で大分腕をあげたな。」
「シグナムこそ、昔より大分強くなっていて驚いたぞ。」
すると彼らのいる訓練室にシャマルからの通信が入ってきた。
『みんなー、そろそろ時間よ、あんまりはしゃぐと明日が辛くなるからねー。』
「もうそんな時間か……付き合わせて悪かったな2人とも。」
「いや……大丈夫だ、ちょうどいい気分転換になった。」
(オイラ腹減ったッス~。)

 

そして数分後、八神一家が待つ休憩室に戻ってきたスウェンに待っていたものは、ちょうど彼の演習を見学に来ていたミューディーの熱い抱擁だった。
「スウェンすっごーい!カッコよかったわ~!」
「ミューディー……少し苦しいんだが。」
そう言ってスウェンは苦笑いをしながらユニゾンしていたノワールを自分の体の中から出す。
「アニキ~、その辺にしといた方がいいッスよ~。」
「?何がだ?」
「いやだって……この部屋に瘴気が蔓延しているッス……。」
そう言ってノワールは視線を瘴気が発生している箇所に移す。そこには……。
「スウェン……。」
「ミューディー……。」
まるでこの世の終わりだと言わんばかりに2人に妬みとも憎悪ともいえない視線を向けるはやてとシャムスの姿があった。
「主!なんつー顔しているんですか!?」
「うわ~ん!はやてちゃん怖いです~!」
リインⅡははやての顔を見て思わずリインフォースの背中に隠れた。
そしてスウェンはミューディーを引き剥がすとテーブルに座り、負のオーラを醸し出しているシャムスと向き合う。
「しかしミューディー、シャムス、本当にいいのか?明日の作戦に協力してくれるなんて……お前等異世界なんて初めてだろう?」
「何言ってんの!?異世界なんてこんな機会じゃなきゃそうそう行けるものじゃないわ!ここまで協力させといて今更仲間はずれなんて無しよ!」
「そーだそーだ!最後ぐらい俺達にも表舞台で活躍させろ!」
そんな二人の答えを聞いて、スウェンは微笑する。
「そうか……ありがとう2人とも。」

 

そんな時、ヴィータの頭の上に乗っかっていたアギトがふと口を開けた。
「そう言えばさ……フェイトとアリシアはほっといて大丈夫なのか?アイツ等随分と悩んでいたみたいだけど……。」
「うーん、そうやなあ……。」
そのアギトの意見に八神一家は一斉に腕を組んで思案し始めた。そしてヴィータが口を開く。
「つーかよ、なんでアリューゼのおっさんはなんでフェイトやアリシアと一緒にいたのに自分が父親だって打ち明けなかったんだ?やろうと思えば簡単に出来た筈だろ?」
「それは難しいんじゃない?何年も会っていないのに今更父親と名乗るなんて……おまけにフェイトちゃんはあんな目に遭わされているし、正直アリューゼさんが何を考えているか私には解らないわ。」
「…………。」
ふと、ノワールははやてが怒っているような顔をしている事に気付き、彼女に話しかける。
「どうしたんですかはやて姐さん?顔がさっきとはまた別の意味で怖いッスよ?」
「ん……いやあ、ちょっとアリューゼさんの事を考えていたんや、なんであの人、フェイトちゃん達に酷い事したのか……私には同じことはできへん、ヴィータ達を無理やり洗脳して戦場に出すなんて……。」
「……オイラの見立てじゃ、多分姉さん達が前線に出されたのはアリューゼの判断じゃないと思うッス、多分あのバカが……。」
「ノワール……?」

 

「話が脱線したな……まあフェイトとアリシアに関してはシンとなのはに任せよう、あの二人はPT事件の当事者だしな。」
「うん……それがええね。それじゃ明日に備えて今日はもう寝るかいな。」
「わーい!はやてちゃん一緒に寝ましょう!」
「ずりいぞリイン!アタシも一緒に寝るぞ!」
「はいはい、二人とも喧嘩しないの。」
その光景を見ていたミューディーとシャムスは、小さな声でスウェンに話しかけた。
(いいわねえスウェン、こんなステキな“家族”に出会えて……。)
(ホントホント、仏頂面だったお前の表情が柔らかくなったのも納得だぜ。ところでどうするんだ?この戦いが終わったら……あの子達と一緒に行くのか?それとも……?)
(それは……まだ決めていない、まあゆっくり考えるさ、今回の件を片付けたらな。)
そう言ってスウェンはリイン達と共に寝室に向かうはやての背中を見送った……。

 

~Side:なのはとルナ~

 

皆がそれぞれの時間を過ごしていた頃、ルナマリアはシンの様子を見にアースラにやって来ていた。
「シン……やっぱりフェイトの所かしら?色々と話したい事があるんだけど……うーん。」
ルナは恐らくフェイトの所にいるであろうシンの元に向かおうとしたが、フェイトの今の心境を気遣ってその場で足踏みしていた。
(フェイト……今アリューゼさんの事とかで大変なんだもんね……私が今言ったら邪魔になるかな?)
「あれ?あそこにいるのは……。」
「ルナさんだ!おーい!」
するとそんな彼女達の元になのはとマユとユーノがやって来た。
「あらマユちゃん、汗びっしょりじゃないの。」
「えへへ、今まで魔法の訓練をしていたから……これからシャワーでも浴びようかと思って。」
「僕達はここで待っているよ、だからいっといで。」
「はーい。」
そう言ってマユはシャワールームの方へトコトコと歩いて行った。
「ふうん……マユちゃんに魔法を教えているんだ。」
「うん、なのはのリハビリも兼ねてね、あの子はシン君に似て魔法のセンスがあるからね、今の内に基礎を身につければ将来有望な魔導師になれると思うんだ。」
「将来……ねぇ……。」

 

それから三人はマユのシャワーが終わるまで暇つぶしに自販機の前で談笑することにした。
「それじゃ今シンはリニスと一緒にフェイトとアリシアに付いて行っているんだ?」
「うん、あんまり大人数で押し掛けちゃうと迷惑だろうし……気にならないっていったらウソになるけどね。」
「そっか……じゃあ任せておいたほうがいいかも、それにしてもマユちゃん、いつの間に魔法なんて習い始めたんだ?」
「本人も魔導師に興味を持っていたみたいだからね、特別に僕達が教えているんだ。」
「ふうん……いいわね、目標があるなんて……。」
ふと、なのはとユーノはルナマリアの言葉に疑問を持ち彼女に質問してみる。
「……?ルナちゃんは目標とか夢があって軍人になったんじゃないの?」
「うん……小さい頃から絶対なりたいって夢があったんだけど……何分小さい頃の事だから思い出せないのよね、それでなんとなくやる事が見付からないなら人の役に立つような職業に就こうかなって思って軍人になったの。」
「へえ、そうなんだ……。」
(普通自分の夢を忘れたりするかな……?)
そんな風に和気あいあいと会話するなのは達の元に、今度はアリサとすずかがやって来た。
「あ、なのはちゃん、ユーノ君。」
「アリサちゃん!すずかちゃん!どうしたのこんなに来て……。」
「いやー、私たちアースラに来るのって初めてだからさ、二人で見学しようってことになって……。」
「ははは、君たちも相変わらずだね……。」
「……?なのは、この二人は誰?」
ルナの質問になのはは楽しそうに答える。
「えっと……金髪の子はアリサちゃん、紫の子はすずかちゃん、二人とも私の幼馴染なの!」
するとルナの着ている制服を見たアリサとすずかは、顔を綻ばせて彼女に駆け寄った。
「もしかして……あなたザフトの人ですか?」
「私たち囚われている間にもザフトのジュールさん達によくして貰ったんです。おまけに時の箱舟から救い出してくれて……本当にありがとうございました!」
そう言ってアリサとすずかはルナの手を取り、感謝をこめて彼女と堅い握手を交わした。
「な、なんか照れるわねー、私大したことしていないのに……。」
「そんなことないさ、君たちがいなかったらなのは達を救い出せなかっただろうし……。」
「そ、そう?たはは……。」
そしてルナはアリサ達に手を握られながら、昔の事を少し思い出していた。
(そういえば……小さいころもこんな風に感謝されたことがあった気がする……誰に感謝されたんだっけ……?)

 

―――ルナちゃんありがとう、君のおかげで―――

 

「あれ?どうかしたんですかルナマリアさん?ボーっとしちゃって……?」
「え?ああううん、なんでもない……私そろそろ行くね、明日に備えてゆっくり休まなきゃ……。」
ルナはそう言うとなのは達に別れを告げてミネルバに戻って行った。
「ルナマリアさんどうしたんだろ?なんだか様子が変だったね……。」
「うーん、あの人にも色々あるんじゃない?もうすぐマユちゃんも戻ってくるし……私たちもそろそろ休もうか。」
「そうね、色々話したいことはあるけどまずは全部終わってからだね。」

 

~Side:シンとフェイト~

 

アースラのとある一室、そこでシンとアルフとユニゾンデバイスのデスティニー、そしてアリシアとリニスはアリューゼの事について話し合っていた。
「じゃあアリシアもリニスもアリューゼがプレシアの旦那だって事は知らなかったのかい?」
「はい……私がプレシアと出会ったのは別れた後でしたから……。」
「私も……二歳の時の事なんて全然覚えてなかったから……。」
「ならしょうがないよな、でもなんでアリューゼさんはあの女と協力してフェリシアを達を使ってあんなことを……。」
「CEの平和を願いながらミッドチルダに復讐……?本当にできると思っているのかフェイトの親父さんは?盗んだMSをつかってミッドチルダに新しい政府でも作るつもりなのか?」
アルフ(おとなフォーム)はそう言って悩ましそうに顔を歪めながら腕を組む。するとシンが何かを思い出したかのように口を開いた。
「そういえば……どうしてあの人CEのMSなんて集めていたんだろう?自分たちにだって作っている筈なのに態々連合やザフトから奪うなんて……。」
そのシンの疑問にデスティニーが答える。
「恐らく彼らは自分たちの作った模造品よりも、この世界の人間の手で作られた純正品が欲しかったのではないでしょうか?」
「純正品……なんでまた?」
「うーん……何かの儀式で必要だとか?そこら辺は私にも解りかねます……。」
「そうか……。」
その時、アリシアがシンの肩をツンツン突いて話しかけてくる。
「ねえシン君、そろそろフェイトの様子を見に行かない?あれからどうしたかしりたいからさ……。」
「ああそうだな、じゃあみんなで行くか。」

 

「それから数分後、シン達はフェイトの部屋の前まで来ていた、そしてリニスが代表してフェイトのいる部屋のインターホンを鳴らす。
「フェイトいるかー?入っても大丈夫か?」
『あ、うん……ちょっと待ってね。』
フェイトは返事を返した後、部屋の扉を開けてシン達を招き入れた。
「あ、アリシア達もいたんだ。」
「まあね……大丈夫フェイト?随分と落ち込んでいたみたいだけど……。」
「平気って言ったらウソになっちゃうけど……アリシアこそ大丈夫なの?アリューゼさんはもしかしたらアナタのお父さんかもしれないのに……。」
「“私達の”でしょ?それに状況証拠がそろっているだけだしね……まあ今ウジウジ悩んでもしょうがない、明日ふんじばってちゃんと話を聞こう?ね?」
「う、うん……。」
(さすがアリシア、フェイトのお姉さんだなあ。)
(まあそれは当然でしょうねえ……。)
その時、アリシアは自分の腕につけていたピンク色の腕時計を見る。
「あ、そう言えば私達用事があったんだ、ねーリニス、アルフ、デスティニー?」
「そう言えばそうでしたね、ちょっと行ってきます。」
「え!?アリシア!?」
そう言ってアリシア達はシンとフェイトをその場に残して何処かに去って行った。
(まさかアリシア……私に気を使って?)
「あいつら何考えているんだか……。」
その時、シンは袖をフェイトに引っ張られ彼女の方を向く。
「あの……よかったら部屋に来る?コーヒーなら出すけど……。」
突然のフェイトの提案に、シンは飛び上がりそうになるくらい大いに動揺する。
「えっ!?いやっ!臨時とは言え女の子の部屋に入るのはちょっと……!」
「や、やっぱりイヤだよね……(シュン)」
「い、いやじゃないけど……。」

 

それから数分後、シンはコーヒーを淹れに行っているフェイトを待ちながら部屋の中で正座していた。
「け、結局入っちゃったか……ここがフェイトの部屋か……。」
シンは緊張のあまり、辺りをキョロキョロと見回していた、その時、彼の目にある写真立てが目に入って来た。
「この写真立てって確か……。」
シンは見覚えのある写真立てを手にしながら、中に入っている写真を見てハッとなる。
「これ……アリシアとプレシアさんの……。」
その時、フェイトがコーヒーの入ったマグカップを二つ持って部屋に戻ってきた。
「おまたせー……ってシン?何しているの?」
「ん?ああちょっとね……使ってくれているんだ、この写真立て……。」
「うん、だってシンが私の誕生日プレゼントとしてくれたものなんだもん……。」
フェイトは昔を懐かしみながらシンと共に写真立てを手に取る、その写真立ては昔、シンがフェイトの誕生日を作った際にプレゼントした物だった(“二人の誕生日”参照)
「そう言えばコレ、遠見市で暮らしていた時からずっとあったよな、でも……他にも随分と増えたな……。」
そう言ってシンは棚の上に乗っている他の写真立てを見る。そしてフェイトはその幾つもの写真立てに一つ一つ解説を加えて行く。
「これは……一年前に出会ったエリオと撮ったものだね。こっちはリンディ母さんと一緒に撮ったもの……こっちははやての誕生日に時に皆で撮った写真だね。」
「へえ、一杯撮ったんだな……。」
「うん、シンと一緒に撮ったのもあるよ。」
フェイトはそう言うと七年前の自分とシンが映っている写真を見せた。
「ああ懐かしい、コレ俺とスウェンがコズミックイラに帰る日に撮った物だよな。」
「うん……あの時は大変だったね、はやてもヴィータもスウェンと別れたくないって言って大泣きしてたよね。」
「おいおい、フェイトだってあの時泣いてたじゃないか。」
「えー?そう言うシンだって泣いていたじゃない!」
「はははっ、そうだったな……。」
「ふふふ……。」
自然と2人の間に和やかな空気が流れる、そしてフェイトが決意に満ちた目でシンに言い放った。
「シン……明日は頑張ろうね、アリューゼさんを止めるんだ……一体何をするつもりかわからないけど……。」
「そうだな、俺は今度こそ助けるよ……プレシアさんの時みたいにはならない。復讐なんて悲しいだけだからな。」
「うん……でもこれが終わったら私達、また別々の世界で暮らす事になるんだよね……。」
シンはフェイトのその一言を聞いて彼女の横顔を見る、フェイトの顔にはどこか寂しさが入り混じっていた。
「でも……今度は行き来は自由になるだろうから……たまには遊びに来てね?その時は歓迎するから。」
「うん……ありがとう。」

 

シンの心にどこかモヤモヤしたものが生まれていた。自分は彼女に対する気持ちに気付いたのに、果たしてこのままフェイトと離れ離れになっていいものか?
(いつもならデスティニーに助け舟を求めるんだけどな……自分で考えろってことか。)
「……?どうしたのシン?」
「ん……いや、なんでもない、明日は頑張ろうな、フェイト……。」
「うん……。」

 

~次の日~

 

その日、オーブ軍基地の港にはアークエンジェル、ミネルバ、そして先程到着した戦艦エターナルが停泊し、その周りにはMSのデスティニー、ノワール、そしてフリーダムが三隻を取り囲むように浮遊していた。
「デスティニー……言われた通りスタンバイしたけど本当に大丈夫なのか?」
「ええ、私達の魔力じゃ三隻が限界ですけど……必ず皆さんを向こうに送り出して見せますよ。」
『お任せッス~!』
『任せてよ~!』
「はあ……まあ信用しているぜ、三人共。」

 

その頃アークエンジェルのブリッジでは、カガリとマリューがエターナルに居るラクスとバルドフェルド、ミネルバにいるタリアと連絡を取り合っていた。
「そちらの状況はどうですか?タリア艦長、ラクスさん?」
『ええ、こちらも装備やMSの搬入は終わっています。』
『こちらも完了しました。』
「よし……予定通りだな。このまま一時間後に転移とやらでミッドチルダに向かうのか……。」
「よう!状態はどうだい?」
するとカガリ達のいるブリッジにネオがやって来る。
「ロアノーク大佐……準備は完了しています、このまま予定通りに転移できると思います。」
「そっか、そんじゃアカツキで待機してますかねえ。」
「ええ、あの……それよりも……。」
そう言ってマリューはネオの格好を見る、ネオは今連合軍の制服ではなく、オーブの白を基調とした軍服を着ていた。
「本当によかったんですか?軍を勝手に抜けてオーブ軍に入るなんて……おまけにスティング君達まで……。」

 

~某所にあるロゴス本部~
そこでジブリールは沢山のモニターが設置されている部屋で、ヒステリックにワイングラスを地面に投げつけた。
「ろ、ロアノーク大佐め!裏切りおったなー!!!!」

 

「いいのいいの、俺前からあのおっさん嫌いだったし、アンタ達ならステラ達を人間扱いしてくれるんだろ?」
「まあな、それにしてもジブリール、エクステンデッドなど酷い事しおって……帰ったら真実を地球中にばら撒いてやる!」
『ふふふ……手伝いますわカガリさん。』
「あの……ちょっといいですか?」
するとそこに副長席に座っているリンディがマリュー達に声を掛けてきた。
「ん?どうしたんですかリンディさん?」
「わ、私がこんな所に座っても大丈夫なんでしょうか?もっと相応しい人がいると思うんですけど……。」
「何を言っているのだ!アナタにはミッドチルダでは優秀な指揮官だと聞いている、ならそこに座るのは当然だと思うがな、彼女と同様に……。」

 

「エイミィさん、解らない事があったら言ってくださいね?」
「ありがとうミリアリアさん。」

 

「まあ……任されたからには尽力しますわ。こんな所に座った事ないからちょっと緊張しますけど……。」
「ふふふっ、お願いしますね。」

 

その頃艦の外では、高町一家やマユ、アリサ、すずか、それにサーペントテールやマーシャンの面々、留守番を言い渡されたシホとアイザックがエターナルに乗るなのは達魔導師組を見送っていた。

 

「なのは……気を付けてね?向こうで何が起こるかわからないから……。」
「出来ればアリューゼさんは……無事に捕まえてほしいのだがな……。」
「うん、わかったよお父さんお母さん、なんとかやってみる、私は戦えないけど……。」
「なのはは僕が守ります、だから士郎さん達は安心してここで待っていてください。」
「頼もしーねユーノ君!なのはは頼んだよ!」

 

「ちゃんと帰ってきなさいよね!怪我なんてしたら許さないんだから!」
「帰ってきたらお茶会でもしよ?イザークさんやディアッカさんも誘って……。」
「うん!ほな行って来るな!」

 

「スウェン・カル・バヤンに伝えておけ、彼らを守る任務、受け持ったと……。」
「帰ったらまた一緒に遊ぼうね!アギト!」
「ありがとうサーペントテール、ここの留守は頼んだぞ。」
「じゃなあ劾!風花!」

 

そしてなのは達は沢山の人に見送られながらエターナルに乗り込んで行った。

 

「準備は整ったようですね、それでは行きますか……二人とも。」
『おうッス!』
『うんー。』
三隻の準備が整ったのを確認したデスティニー達はMSに乗ったまま瞳を閉じて精神を統一する、すると……。
「お、足もとに魔法陣が……。」
シン、スウェン、キラの乗るMSの足もとに巨大な魔法陣が描かれ、その三つの魔法陣はアークエンジェル、ミネルバ、エターナルを囲むように一本の線で繋がっていく。
「みなさん!ショック体勢を!転移します!」
そうデスティニーが号令した瞬間、辺りに強い光が放たれ、数分後には三隻とも姿を消していた。

 

「行ったか、タリア達は……。」
「そ、そうみたいですね……。」
その光景を、指令室でデュランダルとユウナは落ち着いた様子で見ていた。
「……無事に帰って来るのだぞレイ、皆……私達は待っているからな。」

 

「みなさん、到着しましたよー。」
それから数十分後、三隻はとある宇宙空間に召喚されていた。
「ここは……もしかしてミッドチルダか?」
『そうみたいね、今エイミィに座標を確認してもらったわ……ここはミッドチルダ付近の宙域よ。あそこにほら、ミッドチルダ本星が見えるわ。』
アークエンジェルにいるリンディからの通信を受け、シンはレーダーを見る、そして……ある違和感に気付いた。
「なんだココ……やけにデブリが多いな……。」
その時、何かに気付いたスウェンとキラが慌ててシンに通信を入れて来た。
『おいシン!これは……!』
『これ……戦艦じゃない!?』
三隻の周辺に漂っていたデブリは、何者かによって破壊された幾つもの管理局の次空巡航艦だった。
「まさか時の方舟が……!?」
「主!前方に何か接近してきます!これって……!」
皆は前方から何かが近付いてきている事に気付き、モニターでその物体が何なのか確認する、そして……。
『か……回避―!』
『面舵!急いで!』
このままではその物体と直撃すると気付き、急いで回避行動をとった。

 

ゴオオオオオオオオ!!!

 

『うわああああ!!!!』
『ひ、被害状況は!?』
『な、なんとか三隻とも回避できたようです!デスティニー!ノワール!フリーダムも健在!収容します!』
『マリューさん!あれは……!』
『そうだったわ……!すっかりアレの存在を忘れていたわね……!』
そう言ってマリューはモニターに映るその物体を睨みつける。一方その物体が何か解らないミッドチルダ陣は大いに動揺していた。
『な……なんですかあの大きな岩は……隕石?』
『いや、隕石というよりアレは……。』

 

その時、MSの中で待機していたアスランがコックピットの中で拳を叩きつけ、その音がシン達の耳に入っていた。
『くそっ!アリューゼの狙いはアレを落とす事だったのか!コズミックイラから奪った……ユニウスセブンを!』

 

そして皆は刻一刻とミッドチルダに向かって落下していく、時の方舟によって奪われたユニウスセブンを見つめていた。

 

ミッドチルダ滅亡まで後……30時間。