DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第14話1

Last-modified: 2008-10-12 (日) 11:12:12

 甲高い音と共に、白刃が日の光を弾きながら宙を舞う。
 甲板の床にカタナは転がり落ち、刀を弾き飛ばされたシンが尻餅をついた。
「くっ……!」
 シンが刀を取り直そうと手を伸ばすが、柄に触れる前にその喉元へと刃が突きつけられた。
 無表情のティトゥスが見下ろす中、シンは息を呑む。
「そこまで!」
 審判役のアスランの声が甲板に響く。ティトゥスはまず自分が持つ刀、続いてシンが使っていた刀を 拾い上げて鞘に戻した。
「踏み込みが足らぬ。集中力も足りぬ……なにより、気迫が足らぬ」
 ティトゥスが言った。シンは尻餅を付いたまま項垂れている。
「拙者に教えを請うた時の威勢は何処に行った。そんな事では剣どころか何を教えても身には入らぬ。教えるだけ無駄というものだ」
 言い放つと、ティトゥスは黒衣を翻しシンに背を向ける。顔を上げ追いすがろうとするシンに、 ティトゥスは更に一言告げた。
「お主は何故拙者に教えを乞うた? 何故力を求めた? その根底を失ったままならば、拙者がお主に教えられることは何もない」
 シンの動きが止まる気配を背中越しに感じながら、ティトゥスは振り返ることなく艦内へと歩いていく。
「少しいいすぎじゃないのか?」
 アスランがティトゥスへと声をかける。足を止めたティトゥスの鋭い視線と、やや厳しく細められたアスランの視線が交錯する。
「シンはまだガルナハンでのショックが抜け切っていないんだ。そんな状態の彼に、余りにも厳しすぎる……」
「甘やかしたところでどうにもならぬ。そもそも軍人であるなら、戦闘者であるならこの程度で揺らぐ事自体が問題だ」
 アスランの言葉を、ティトゥスはにべも無く切って捨てた。
「しかし!」
「己もまた手を血に染める者……その自覚のないまま力を奮っていたシンが危うかったのは重々承知。今回の件は遅かれ早かれ、直面せねばならぬ問題だった」
 ティトゥスがシンと再開した当初から抱いていた懸念──それはシンの感性があまりにも真っ直ぐで、自分は何一つ間違っていないと思っている節があったことだった。
 信念が揺るいだ時、人は容易く脆くなる。シンが力を求めたのは弱者を守るため、そして復讐のため。
 だが、弱者とは何か。復讐の正当性とは?
 ガルナハンでの惨状を見たシンは、その信念を激しく揺さぶられていた。
「なればこそ、シンは見つけねばならぬのだ。己の根幹にある筈の、決して揺るがぬ己の目的を──でなければ、あやつはこの先生き残れぬ」
 ティトゥスは首だけを動かして後ろを見る。仲間に囲まれながらも、未だに甲板に座り込んだままのシンの姿が目に入った。

 
 
 

第十四話 邂逅

 
 
 

 ガルナハンを発ったミネルバは数日後、黒海に面した都市ディオキアのザフト軍基地へと寄航していた。
 連合の前線基地にガルナハンゲートと、半ば連戦を重ねたミネルバ。酷使された船体には大規模な整備が、疲れきったクルーには十分な休息が必要だった。幸いディオキアにはミネルバの整備に十分なドッグがあり、また海岸沿いの街はリゾートとしてそこそこ名が売れており休息地にはもってこいだ。
 更に、ディオキア基地では今兵士の士気を高めるある催しが行なわれていた。
『皆さんこんにちわー! ラクス・クラインで~す!』
 基地のど真ん中に急遽造られたコンサートステージに、右手を突き出して直立している一機のザク。ピンク一色に塗られたその機体の掌の上で、一人の少女が舞い謳う。
 ザクと同じピンク色の髪に添えられた星型の髪飾りが日光を照り返す。凹凸のハッキリした身体を引き立てる、露出度はそう高くないがどこか際どい衣装。口から流れ出る美しくも快活なメロディーが、会場の活気を臨界まで盛り上げる。
 彼女こそプラントのアイドル、ラクス・クライン。突如としてプラントに舞い戻り、瞬く間にそのカリスマ的人気を取り戻した彼女が影武者である事実を知る者は少ない。
 その真実を知る者の一人、アスランは休憩室のモニター越しにコンサートの様子を眺めていた。
 観客達の熱狂ぶりはどうかと思うが、『彼女』の歌声はやはり素晴らしい。
 プラントで聞いたとき、『彼女』は本物のラクスを意識して穏やかで麗しい旋律を模倣していた。確かに本物そっくりの歌声だったが、それは『彼女』本来の歌ではない。
 今のメロディーはハッキリ言ってしまえば、本物のラクスとは似ても似つかない。しかし今の歌声こそ『彼女』本来の持ち味なのだろう。その歌声には心を高ぶらせる熱さと、元気を取り戻せるような活発さがある。
 この力はやはり『彼女』の持つ、プラントへの愛と平和への願いの強さゆえか。
 なるほど、今の人気はあながちラクスのネームバリューだけではないのかもなとアスランは思った。
「ホント雰囲気変わったね、ラクス様」
「そうね。でもあたしは今のほうが好きかな。こういう元気なノリの方が親しみやすい感じがするもの……シンはどう?」
「え? う~ん、俺は別に音楽なんて聴かないし……でも、いい曲だな」
「ノリ悪いわね~。まあ意地で仕事終わらせて会場に行ったヴィーノやヨウランほどミーハーなのもどうかと思うけど」
 横のテーブル席に陣取るルナとメイリン、そしてシンが各々の感想を口にする。その様子にアスランは少しだけ安心する。
 先の事件のショック、そしてシン個人に開始されたティトゥスとの対人訓練による容赦ないシゴキにより、ここ数日のシンは沈みがちで笑顔を見せることはほとんど無かった。
 その彼が今、歌を聴いて僅かながら表情を綻ばせている。これも『彼女』の力かなと、アスランは思った。
「アスランさんはどう思います? 婚約者なんでしょ」
 突然の質問にアスランは面食らう。それをよそに興味津々と言った目を向けてくるホーク姉妹と、様子を伺うようにこちらを見ているシン。
 ため息をつきながら、アスランは疑問に答えた。
「よく言われるがな……俺とラクスはもう婚約者同士じゃない。良き友人ではあるけどな」
「「ええーっ!?」」
 ホーク姉妹が驚きの声を上げる。シンも声には出さないが驚きの表情だ。
「よく考えてみろ。俺とラクスの婚約は俺と彼女の親がプラントの議員同士だったという理由で決められたんだ。だがその親は両方もうこの世にはいない。当然婚約は解消されてる」
「で、でも二人は互いに思い合っていたんじゃ……」
「確かに婚約していた当時はそう思っていたこともあった。実際仲は良かったしな。けど、それはあくまで友人としてのものだったんだと今は思ってる。少し下世話な話になるが、『そういう関係』と言えるほど深い付き合いをしていたわけでもなかった。結局俺達は一緒になる人間じゃなかったってことさ……未練はないよ」
 少々顔を紅く染めながら、感心したようにアスランの言葉を聞き入るホーク姉妹。メイリンなどはオトナだなぁ、などと呟いている。アスランは少し照れながら、視線を『彼女』の映る画面に戻した。
「ラクスには、俺なんかよりずっと相応しい相手がいるさ……きっと、『彼女』にも」
 ピンクのザクの傍らに、オレンジ色をしたザクとは違うMSが降り立つ。そのコクピットから、機体と似たオレンジ色の髪をなびかせる美男子が現れた。
 男の身に纏った軍服の色は、赤。エリートの証、ザフトレッド。
「さて、そろそろ出たほうがいいな。シン、ルナ、準備はできているな? メイリン、姉さんは借りていくよ」
 アスランに促され一同は席を立つ。一人蚊帳の外であるメイリンは少し不満げな顔をするが、すぐに明るい表情を作ると締まらない敬礼を返した。
「ティトゥス達はハンガーで、レイは一足先に行っているんだったな……少し急いで行こう。デュランダル議長直々の呼び出しだ。指定された時間に遅れるわけにはいかない」

 
 
 

「やあ、よく来てくれたね。私の我侭で食事などに付き合わせてしまって」
 ディオキアの最高級ホテル、そのホテル内レストランの一室。到着したアスランらザフトレッド、そしてティトゥスとドクターウェスト、エルザを、円形テーブルに座ったデュランダルが出迎えた。
 何故デュランダルが地球に下りているのかというと、地球上部隊の視察という形で基地を回っていたからだ。
丁度ミネルバと同じ時期にディオキアに到着しており、今回はデュランダルの個人的希望としてミネルバの艦長とパイロット達、そしてティトゥス達異界からの客人が食事に招かれたのである。
 既にテーブルには、先にデュランダルと会っていたタリアとレイが着席している。デュランダルは二人とはそれぞれ時間を作って会っていたらしいが、その意図はアスランには分からない。
 デュランダルに促され、全員がテーブルへと着席する。
「君たちの活躍はプラント本国にも届いているよ。特に、シン・アスカ君」
 突然デュランダルに呼ばれたシンが身体を硬直させる。その様子に微笑みながら、デュランダルはシンを賞賛した。
「オーブ沖での戦闘から君は大活躍らしいね。先のガルナハンでも難しい任務を成し遂げたと聞いている。多少問題行動もあったようだが、それを上回る結果を出してくれさえすれば問題ない。ザフトのエースとして、君には期待しているよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
「うむ……時にドクター、そのガルナハンでの作戦にはドクターが直々に協力してくれたとかで、感謝しております。一体どのような技術を使われたのです? 何故かこちらの方には詳しい情報が回ってこないもので」
「フフン、ならば聞かせてやろうではないか! 我輩のマーベラス&エキサイティングな発明の華々しい活躍の軌跡をばんれいっ!?」
「失礼だがこのたわけに喋らせると話が進まぬゆえ、それは次の機会にお願いしたい。宜しいかな議長殿」
「そ、そうかね。ではまあ今日は遠慮させてもらうとしよう」
 ドクターの顔をテーブルに押し付けるティトゥスに、デュランダルは乾いた笑いを返した。
 正直、あの話題についてはドクターとエルザを除く全員が思い出したくなかった。ある意味その中心にあったシンは褒められた直後にその話を振られ逆にへこんでいる。万一調子に乗るようなら諌めようと思っていたアスランも、その様子を見て逆に同情する始末だ。
 空気を変えようと、タリアがデュランダルへと話題を振った。
「ところで議長。宇宙の状況はどうなっているのです?」
「相変わらずだよ。月の連合艦隊に動く気配はない。無論いつ動かれても対応できるよう要所には戦力を配備しているが、にらみ合いを続けているのが現状だ。今後も戦況は地上での行動如何で変わってくるだろう。君たちのお陰で、戦況もこちら側にわずかながら傾いてきているが……」
 そう言うデュランダルの表情にわずかな影がかかるのに、アスランが気づく。
「やはり連合との交渉は……?」
「ああ、まるで進んでいない。内部ではアスハ代表らも頑張ってくれているようだが、今のところは完全に無視されているよ。一度始めてしまった以上下手に引き下がれないのは分かるが、あまりにも頑な過ぎる」
「やはり、いましばらくは……」
「この戦争は終わらないだろう。戦いを終わらせる──戦わない道を選ぶということは、戦うと決めるより遥かに難しいものさ。あちらも、そしてこちらも。分かってはいたことだったが、こうして現実を見ればやはり厳しいものだ」
 重苦しい空気に捕らわれる一同。
 だがその空気を読まない■■■■が突然ギターを掻き鳴らした。静寂を引き裂く轟音に誰もが耳を塞ぐ。
「まったくこの世界の人間は御しがたいであるな! 戦争なぞありとあらゆる資源の無駄遣いであることに気づかぬとは嘆かわしい! 特に気に入らぬのはたいした性能もない機体を無意味にポンポン量産し、五十円投売りレベルで使い捨てている事である! 我輩なら量産機数百機程度の材料でその数十倍の破壊ロボが造れるのであ~る!」
「おお、それは素晴らしい!ではドクター、その腕を私たちプラントの為に振るってはいただけませんか」
「ふ、我輩の腕は高いのであるでんて!」
「調子に乗るなロボ、博士」
『お願いします、それだけはやめてくださいいやマジで』
 ティトゥスとエルザがパスタを盛った更にウェストの顔を叩きつける。それを尻目にミネルバクルーたちは一糸乱れず頭を下げてデュランダルに懇願する。本気で実行しようと思っていたらしいデュランダルだったが土下座すらしそうな彼らの様子に冷汗をかきつつ、やや残念そうではあるが『破壊ロボ主力機化計画』を断念した。
「さて、少し話が逸れたがドクターの言うことには一理ある。戦争とは確かに人的、物的資源の無駄遣いだ。かつて戦争で困窮し、国を傾かせた国家がどれだけあったか。民は疲弊し、戦いで命を落とし、そして大事なものを数多く失う……だが、何故人はそれだけの対価を払ってでも戦争をしようと思うのだろう?
 戦争は嫌だ、いけない。そう言い続けているのに何故戦争は起こるのか。シンくん、君はどう思う?」
「それは……」
 戦争を起こす、身勝手でバカな連中がいるから。少し前までのシンなら迷わずそう即答していただろう。
 だが、今のシンはそう簡単な一言に割り切ることは出来なかった。少し考えて、ゆっくりと答える。
「憎しみがあるから、だと思います。最初はブルーコスモスとか、そういう勝手な連中が一方的に仕掛けてきて……でもその内に仕掛けられたほうも沢山の物を失って、相手が憎い、殺してやりたいって思いが止められなくなる。そしていつの間にか、お互いに止められなくなってるんだと思います」
 シンの答えにティトゥスが目を細め、アスランが感心したように目を見張った。デュランダルは興味深げにその答えに頷きながら、再び言葉を紡ぐ。
「それもある。ナチュラルとコーディネーター、殺した者と殺された者の確執。憎い。恐い。間違っている。そういった負の感情を持つため、戦いがやめられない……哀しいものだ、人とは」
 シンに目を向けたデュランダルは一度間を置くと、わずかに声を低くして語り始めた。
「しかしシン。実はそんな哀しい者たちを利用してまで戦争をしたいと思わせる、更に御しがたい理由が人間には存在するのだ」
「え?」
「利益だよ」
 その言葉にシンやルナは唖然とし、ティトゥスやアスラン、タリアは眉を潜めた。
「最も分かりやすい例を挙げれば、軍需産業だ。彼らは兵器を造るのが仕事、つまり対価を得る為に兵器を造っている。戦争になれば兵器は消費され、常に新しい強力な、多くの兵器が求められる。つまり戦争は軍需産業にとって一番の儲け時というわけだ」
 確かに戦争は資源の無駄遣い──だが同時に、その使われた資源の分だけ儲かるということでもある。
 戦争にあわせ兵器を準備し、その流通をコントロールすることが出来るなら、それはどれだけの利益を産むことか。
「そんな……それじゃ、戦争を使って金儲けをしてる奴がいるってことですか!?」
「そうだ。そして利益の為に、故意に戦争を起こす事すらも辞さぬ存在があるのだ。ブルーコスモスのような団体を支援し、人々の憎悪を煽る──あれは敵だ、危険だ、戦おう。撃たれた、許せない、戦おう──そう叫び戦争を誘発する者たちの名は、『ロゴス』。世界経済を牛耳るトップが名を連ね、利権追求の為にありとあらゆる手段を行使する組織だ」
 全ては、己の欲望の為に。彼等にかかれば戦争は利益を呼ぶ手段であり、人の生死はその儲けを計算する中の数字の変化でしかない。
 彼らが戦争を煽り続ける限り、停戦はあり得ないだろうとデュランダルは言う。
「冗談じゃない……戦争のせいで、どれだけの人が人生を踏みにじられてると思ってんだ……!」
 シンが怒りを滲ませた顔で、ワナワナと身を震わせている。今まで彼が体験した悲劇、それらが全て何者かの利益の為に起こったという事実を認められないのだろう。
 アスランはシンの怒りをもっともだと思う。戦争による利益は仕方ないにしても、そのために戦争を起こすなど正気の沙汰とは思えない。
 もし、本当にそんな者達が存在するなら……アスランもまた、そのロゴスなる者達へ激しい憤りを禁じえなかった。
「……君の怒りは最もだ。私とて彼らの行動を黙って黙認するつもりはない」
 だが、と言葉を一度区切り、デュランダルは神妙な表情でシンを見つめ直した。
「では、君はどうすればいいと思うかね、シン?」
「え?」
「君はロゴスの存在を知り、その正体に怒りを覚えている。では彼らの起こす戦争を止める為にはどうすればいいか、君は分かるかい?」
 デュランダルの問いに答えを返せず、困惑するばかりのシン。デュランダルは今度は他の者全員へと問いを投げ掛ける。
「ロゴスはまごうことなき『悪』なのか。ならば彼らを余さず殲滅する事で全ては解決するのだろうか……君たちはどう思うかね」
 突然の問いかけにうろたえ、誰一人その問いに答えられない。一度目を伏せ、再び目を開いたデュランダルの顔は無表情だった。

 

「──正直に言おう。私には、ロゴスを潰すつもりなど毛頭ないのだ」

 
 
 

 会食が終わり、ホテルの中庭へとデュランダルとアスランは出ていた。既に日はほとんど沈み、深いオレンジ色が地平線伝を微かに浮かび上がらせている。
 シンたちパイロットとタリアにはデュランダルから、ホテル上級客室への宿泊というささやかな褒美が贈られていた。万一の時の待機要員として、またオーブからの連絡があった際に備えアスランだけはミネルバに戻る事になったが、その彼にデュランダルは少しだけ付き合ってくれないかと言ってきたのだ。
「私の言葉に皆、特にシンは驚いていたようだね……納得もいっていなかったようだ」
「確かに伺った限り、議長のお言葉は分かります。ですがシンにとっては受け入れがたいのでしょう。戦争を助長する組織をしょうがないとはいえ放置しておく、というのは……彼はこれまでの戦いでも、色々とありましたから」
「だが、納得してもらわねばならん。彼はザフトの兵士なのだからな」
 デュランダルの言葉にアスランは頷く。
「ところで、私を呼び出されたのはやはりオーブ関係の話ですか?」
「うむ。こちらでもアメノミハシラ越しに多少のコンタクトは取れるが、やはりそちらほど頻繁にはいかなくてね。少々歯がゆいが贅沢は言えまい。ただ、今回はその話だけではないんだ」
 デュランダルの顔に悪戯っぽい笑顔が浮かぶ。その顔をみてアスランは嫌な予感を感じた。
 この顔は、何かろくでもないことを考えている時の顔だ、と。
「ミネルバの諸君にも紹介しなければならないのだが、事情を知る君には先に会ってもらおうと思ってね。それと、ちょっとした説明を……」
「アスラ~ン!」
 ぎょっとしてアスランは振り向く。ホテルの廊下から手を振っているのは予想通りの人物で、だからこそアスランは驚きを禁じえなかった。
「ミー……いや、ラクス!?」
 本名を言いかけ、慌ててアスランは訂正した。彼女の横に、ライブでも傍にいた赤服の男がいたからだ。
 だか当のミーアが告げた言葉に、再びアスランは驚かされることとなった。
「ウフフッ! ミーアで構わないわ、アスラン。この場にいる人はみんな私の正体を知ってるから」
「何だって? それじゃ……」
 アスランはミーアの後ろから歩いてくる赤服の男を凝視する。男はデュランダルと目配せすると、微笑を浮かべてアスランへと右手を差し出してきた。
「アンタがアスラン・ザラか。FAITH所属、ハイネ・ヴェステンフルスだ。ラクス・クライン──いや、ミーア・キャンベル嬢直属の護衛任務を受けている……ま、よろしく頼むわ」

 
 
 

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