EDGE_第13話

Last-modified: 2008-06-14 (土) 18:40:50

【六課―技術室】

 

「……ん、よし。調整完了」

 

デバイスの技術室にひと気がいないのを見計らってアスランはジャスティスの調整をしていた。

 

『――――更新完了しました』
「ありがとうジャスティス」

 

デバイス設定容器に入った相棒からの返事を受け取るともう一度確認の為にモニターをだす。

 

『こんなに早くやってよろしかったので?』
「ああ、もうイージスには慣れすぎたから本格的にこっちの形態でやろうと思ってる」
『空中制御のほうはワタシがアシストします』
「頼む。…それと、4人の戦闘FMとスキル、デバイスの情報も入れとくからな」
『了解です』

 

別の画面をだし眺めるアスラン。
昨日、フォワード達と一緒にやる訓練で彼は常にスバル達の動きを観察し
彼らの戦闘スタイルを独自にまとめあげた。
センターアタッカーという大掛かりなポジションになったからにはそれぞれの性格や能力を把握しなければならない。
そして現状をいち早く理解し、援護に向かう。右往左往な判断は絶対に許されない。
なのでもっと早く動けるように、もっと視野を広げれるようにと
彼はこのデバイスの本来のモードに力を注ぐことにした。

 

ジャスティスの調整が終了するとアスランは履歴などの情報を全て消して部屋をでる。

 

【隊員オフィス】

 

時刻は夕方で訓練が終わったフォワード達は今度は勤務をしていた。
レリックの回収という大変な任務もあるがそれの情報を上に伝えるのも重要な仕事である。
だが、やはり座学と技術の得意不得意の差は誰かにかまわずあったりする。
4人並んだ列の一角の席ではスバルが画面と睨み合い、少々乱雑に手がキーを叩いていた。

 

「………あーーーーっもう、むずかしいぃぃぃ!!」
「うっさい!! スバル!」

 

やがて痺れを切らし苛立ちの声をあげるがティアナにそれを一括される。
エリオとキャロはその様子見て苦笑いしていた。

 

「だってティア~~あたしデスクワーク苦手なの知ってるでしょ~?」
「そういうこと普段から勉強しないからあとでまわってくんのよ」
「う~~」

 

唸りながら頭を机につき伏せる。
どうしてこう、報告書ってのは難しいのだろう?
言葉で伝えるのは簡単だが、それを文章で著すとなるとなぜか難しくなる。
構成とかがごっちゃになったり文脈がへんな方向へとはしってしまったりと。
お偉いさん達はいつもこんなのと格闘しているのだろうか。
そんなことを思っているとオフィスのドアが開き、アスランが入ってきた。
ふにゃけているスバルを発見すると微笑んで近づいていく。

 

「どうしたんだ?」

 

項垂れている本人に訊かずティアナに訊く。彼女はんっと指を画面にさし、答えをだす。

 

(…ああ、報告書か)

 

なるほど、と理解する。自分も軍にいたときはよく書かされたものだからその苦悩は痛いほどわかる。

 

「スバル、書かないと隊長達が困るぞ?」
「う~~わかってるけど、頭が回らない…」

 

本当に辛そうで空気の抜けたボールのようにさらにだれるスバル。
後ろから画面を覗き込むアスラン。その文面を見て思わず苦笑する。

 

「…所々におかしいのがいくつもあるな」
「……それが精一杯……」

 

ぼそっと呟く彼女にアスランは仕方ないといった溜め息を吐き
自分の右手をスバルの横から出しキーにもっていく。

 

「纏める報告データはこれでいいんだな?」
「えっ?…うん、そうだけど…」

 

もう一つの画面に書いてある事項と文章を目で即座に読み上げる。そしてスバルの報告書にキーをあわせる。
次の瞬間、アスランの右手は踊りだすように高速で動き始めた。しなやかに指を一つ一つ動かし見事なタッチをする。
ぴぴぴと規則正しい音が継続的に響き、止む無き指は鮮やかにダンスをしている。
数秒で何十行という空白が一気に文字へと埋め尽くされていくその様子を4人は目を丸くして見ていた。

 

ほんの数十秒で埋め尽くされた画面。手が止まるとこんなもんか、という感じで頷く。

 

「…報告書の約束は、早く、正確にだ。溜めると後で大目玉をくらうことになるぞ」

 

そう言って今度はエリオとキャロの後ろに行き、画面を覗き込む。
予想道理、子供だけあってあまり進んでいなかった。
両手を使いそれぞれの文を打ち込む。目が活発に動き二つの画面を行き来する。

 

「えっ? あのっ、アスランさん!?」

 

自分達の作業を高速で片付ける彼に対して戸惑うエリオとキャロ。

 

「…君達はこんなことは慣れていないのだろう? まずは書く前によく勉強しておけ」

 

そっけなく言うと二人は、はい…と返事をしその様子を見守っている。

 

「すっごい…アス兄」

 

スバルは興味津々で声を漏らしていた。
自分の知っている人達、なのはやシャーリーよりも早く打てているからだ。

 

「よし…ティアナのは問題ないだろうから、間違ってないかチェックしてくれないか?」
「あ…うん」

 

いつの間に自分の画面を見たのだろうと疑問に思いながらティアナは3人の報告書データを自分の端末に集め、一通り目を通す。
同じ文章でまとめたかと思ったが、そんなことはなかった。
むしろ、自分のより遥かにわかりやすくまとめてあったし、見やすい文面だ。
一目見ただけで即座にこんな文脈を作り上げたのだろうか?――だとしたらどんな頭の構造してるんだ、この人は?
横目でアスランを見るが彼はスバルとエリオとキャロにアドバイスをしていた。

 

「……それにしてもアスランさん、何でこんなに打つのが早いんですか?」
「ん?…ああ、えっと…こんなような仕事を昔してたからな」

 

キャロに訊かれ少しギクッとするが適当に誤魔化せた。
だが、眉を曲げたティアナが変な想像をして

 

「あんた一体どんだけ地味な仕事してきたのよ?」
「じ…地味って…」

 

そんなに酷くはないだろうとショックを受ける。
だとしたら自分の上をいく親友はどんだけだったのだろう。
――あいつはプログラミングは早かったが内容は滅茶苦茶だったからなぁ。

 

学生時代を思い出し懐かしむアスラン。
だが、こういった勤務はあいつはしてなかったから自分の方が上だとわかった。

 

「まあいいわ…アスランがうまいってことがわかったし、こいつらに教えてあげてくれる? あたしはいいから」
「あ…ああ、わかった…」

 

あしらわれ、なんか納得しない気分になったがこの子達の力に慣れるのならいいか、と考えた。
そして、スバルの方に視線を向けた……いつの間にかデスクの上に大量の書類が乗っていて本人は頬をかきながら苦笑していた。

 

(…今までの溜まっていたものか…)

 

溜め息をつきながら、アスランは椅子をスバルの横に持って行く。

 

数十分後…

 

「ん?…あいつら何やってんだ?」

 

自分の机で書類仕事をしていたヴィータが部下達の賑わいに気付く。

「だからぁ! ココはこうじゃないってさっきから言ってるだろう!!」
「ふえ~~…だってよくわかんないんだもん…」
「わかろうとしないだけだろ、しっかり脳に叩き込め!!」
「へう~~!!」

 

イラつきの混じったアスランの声とそれに堪えるかのようなスバルの声。
おもしろそうなので見にいくことにした。

 

「なにやってんだ、アイツら?」

 

後ろで苦笑いして腰に手を当てて見ているティアナに訊いた。

 

「あっ、部隊長…それがですね、デスクワークの仕方をアスランがスバルに教えてるんですけど、あの子が一向に上達しなくて…」
「アスランが苛立ってるわけか…」

 

言葉を繋ぎ納得するヴィータ。

 

「いやでも、さっきから見てると結構おもしろいんですよ?」

 

エリオが言い、キャロは微笑ましく見ている。
この二人は子供という理由で講座からはぶられたが、やらなくて正解だったかもしれない。
だがふと疑問に思うヴィータ。

 

「あいつ……教えるほどデスクワーク得意なのか?」
「そうですね……あっこれ報告書です」

 

端末を開き、データを送る。

 

「はあ!? もう出来たのか!?」
「やったのは殆んどアスランですけどね…」

 

はあ~といった感じで報告書を見る。どれもこれも正確無比なものばかりでばっちりOKだった。
報告書を見ながら、二人にも視線を向ける。

 

「何度言えばわかるんだ! そんなとこで変な文章使うんじゃない!」
「だってーわかりやすいかな~って…」
「余計わかりにくい」

 

ズバッと言い切れられへこむスバル。さっきからずっとこの調子だ。
アスランは教えるといったらとことん教える超真面目な性格をしている。
中途半端なことはいやだからだ。昔、親友にもこうして怒鳴りながら工学の宿題を助けてやっていた。
文句を言いながら反抗してきたが、それを自分の頑固さで押し通して勝ち続けてきた。
今、アスランにとってはそんな駄目教え子がまた出てきたので再び教師モードになったのだ。

 

「アス兄…そろそろ夕ご飯の時間…」

 

スバルが時計を見て飯時になったのを狙っておずおずと訊くが、

 

「駄・目・だ! これが終わるまでは」
「えーーーッ!! そんなぁ…」
「食べたら眠くなって明日にしようとか、考えるだろ?」
「う゛…」

 

まさにその通りで図星をつかれたスバル。そうやってきたから今、大量にやり残しがあるのだ。

 

「途中で中断するよりもやりきったほうが楽だ。――だからほら、やるぞ」
「うえ~~…」

 

半分泣き顔でしぶしぶ手を動かすスバル。

 

「じゃあスバルがんばんなさいよ~~。あたし達先にご飯いってくるから~」
「あ~ん、ティア~たすけてよー!」

 

頼れるパートナーは気楽に後ろ手を振りながら声援を送って先にご飯に行ってしまった。
エリオとキャロは迷っていたが、にやけたヴィータに連れられオフィスから出て行った。
一言余計にあとはよろしく、と言っていた副隊長をスバルは少し恨んだ。
アスランは出ていく皆を見て、次にスバルを見て微笑する。

 

「さあ、早く食べたかったら早くやる!」
「はーい…」

 

もう本当に泣きたくなってきた、と彼女は思った

 

【六課隊舎―食堂】

 

「へぇ~アスランって結構面倒見がいいんだね」

 

スパゲティをフォークに巻きながらフェイトが感想を述べる。
さっきのことをエリオが話したのだ。

 

「はい。それにすごいうまいんですよ、教え方とか」

 

言い方はあれだったが、説明そのものはとても上手だった。
自分も聞き耳を立てていたので参考にもなった。

 

「習い事してたって言ってたからその経験かもね」

 

なのはが微笑みながら食事を口にする。
後輩か誰かにそんな風に教えていたのかもしれない。
はやてがそうかもなと頷く。そして一口サイズのコロッケを口に入れようとした時にシグナムの表情が見えた。
なにやら眉を寄せ上げ難しい顔をしていた。

 

「どうしたん? シグナム」
「いえ、少し気になることがありまして…」
「気になること?」
「はい、アスラン・ザラのことで…」

 

そう言ってシグナムは端末を開き、アスランのプロフィールデータを出す。

 

「あいつのこの前の態度が気になってちょっと調べてみたんですが…」

 

刑事みたいなことしてなにをやってるんだとヴィータは思ったが黙っていた。

 

「どこがおかしいところでもあるん?」
「ええ、ザラは時空被害にあってこの世界に来たとありますが、その欄が…」

 

覗き込む一同。そこにあったのは…

 

「出身世界不明?」
「管理局の未開の世界ならわかります。…ですが名前ぐらいは記していいはずです」
「それが書いてない…」

 

フェイトが難しそうな顔をして言う。

 

「あいつは記憶喪失でもないはずなのに…なぜ隠しているのか? それにあのデバイス。
 ザラは『私の』と言っていたがそれがどうも変だ…」
「何故です?」
「ザラは魔法がまったくない世界からきたのだろう? なのにデバイスを持っている。…だからだ」

 

それに疑問をもったティアナが尋ねる。

 

「えっ? あれって技術部の人たちが作ったんじゃないんですか?」
「あのような機能…少なくとも私は見たことも聞いたこともない」

 

他の人はどうだろうと周りを見回すシグナム。隊長たちも首を横に振る。
デバイスの設計をしているシャリオでさえしらない様子だった。

 

「極秘に開発されたんとちゃうの?」
「その必要性はないと思います」

 

ただの魔力増幅機能なら今のカートリッジシステムがある。
それの発展型というのなら対して秘密にすることではないかもしれない。
局からのデバイス試験運用というのなら事前に知らされてもいいはずだ。しかしそれがこない。

 

「私は逆にあいつが秘密を隠しているとしか思えない」
「う~~ん…でもまあ、色々と知られたくないこととかあるかもしれんし、別にええんとちゃう?」
「私たちだってそうだし…それにアスラン君は悪い人には見えないよ」

 

なのはが今まで彼を見てきた感想を述べる。どう見たって悪人なんかには見れない。

 

「ゲンヤさんが訳ありって言ってたから、きっとそういうことなんよ。だからもう気にしんとこ?」
「はい…そうですね」

 

あまり人のことを探るのはよくないと思ったはやてがそれ以上の査策をうちきる。
確かにゲンヤとはやては長年の付き合いのすえ信用しあっているので、その人の推薦というのなら安心できる。
シグナムはまだ心にしこりが残っているもののとりあえずは言うとおりにした。
そしてもう一つ気になることがあって視線を向ける。
……シャマルが笑顔で鼻歌を歌いながら食事をしていた。

 

「シャマル…お前、なんかいいことでもあったのか?」
「ん~♪ アスランさんって本当に素敵な人だな~って///」
一同「……え゛?」

 

ほうっと吐息し顔を紅く染めながらうっとりとするシャマル。
全員、今の彼女の発言と恋する乙女のような表情に唖然となる。
シャマルがアスランと関わった時といえば昨日の検査の時だ。その際になにかあったのだろうか。
あまりにも気になる有様なのでそれを聞いてみたが
「ナ・イ・ショ♪」と子供のように人差し指をリズムよく振って返された。
その言葉に長年彼女と一緒のつきあいのヴォルケンリッター達は脳に稲妻が走り想いがシンクロする。
『キモチワルイ』―と。
シグナムは聞かなかったことにして誤魔化すように再び食事を取ろうとする。
だが突如アラームが隊舎に響いた。

 

【隊舎屋上―ヘリポート】

 

そこにはすでに六課のフォワードメンバーが揃っていた。

 

「皆、お疲れかもしれないけどたった今任務が入りました」

 

はやてが真剣な表情で現状を知らせる。
ミッドチルダ南方の海上、航海中の輸送船からレリックの反応があったとのことでこれからその回収任務に向かう。
乗船員は既に脱出艇で非難したということ。

 

「だけど、ガジェット達も動き始めたらしくてな。……恐らくは戦闘になる」

 

険しい表情の隊長たち―だが、

 

「だけどこの前みたいに、皆の力を合わせていけばきっと大丈夫!」

 

なのはが以前の任務で確信を得た新人達の力。チームワークは良好。個々の鋭い突破力。
それに成長しているのは力だけではないこともわかっている。

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

その活で気合をいれる一同。
アスランにとっては起動六課に入隊して初めての任務となった。

 

――ヘリの中、さすがに前の任務で成功したといってもやはり緊張は拭えないようでピリピリとした雰囲気が漂っている。
今回のメンバーは新人5人となのはフェイトとなっている。
見る限りでは小人数ではあるが力量的には充分なので副隊長二人は待機となった。
作戦内容は隊長二人が空中のガジェットⅡ型を相手にして、残りは甲板上及び船内部のガジェットの殲滅。
ルートを確保して速やかにレリックの回収をすること。
一通り説明をし終わったあとなのははアスランに視線を向ける。

 

「アスラン君は今回が初めてだけど大丈夫?」
「……何がですか?」

 

その質問にきょとんとするアスラン。は?となる一同。

 

「えっ! だって、緊張とか…」
(…ああ、そういう意味か)

 

なんか当たり前のことを聞かれたので思わず惚けてしまったのだ。
確かに“この世界”での任務は初めてだが、彼は既に戦場という修羅場に何度も出ていた。
なので出撃前の心構えといったものはとうに出来ている。
慣れない人に聞かれたのでどうも返しにくく、彼は作り笑いで誤魔化す。

 

「大丈夫ですよ…」
「…そう」

 

しかしその暗い瞳の色は誤魔化せないようで、なのはは気になったが何故だか今の彼には踏み込めない感じがあった。
アスランは視線をなのはから外すと自分の手のひらにあるデバイスに向ける。

 

――自分達の相手はガジェットという“機械”だ。それを撃てばいいだけ…。

 

そう言い聞かせてデバイスを握り締める。

 

【ミッドチルダ南部―海上】

 

ヘリが輸送船の見える距離まで来ると後ろのハッチが開いた。
夜空が広がり、海の真ん中にはポツンと船がたたずんでいる。
フォワード達は立ち上がり、ハッチの先端に並ぶ。

 

「じゃあ、スバルとあたしで船内を回るから、アスランとライトニング二人は甲板をお願い」
「「はいっ!!」」
「わかった」

 

ティアナの指示に頷くアスランとエリオとキャロ。
一人、スバルの返事が聞こえなかったので相棒のほうを見るがいやに元気がない。
腕をだらんとぶら下げ、深く溜め息をついている。

 

「どしたの、スバル?」
「…ご飯…食べ損ねた…」

 

あ…と固まる一同。そうだった、彼女はアスランのデスクワーク教習の所為で夕飯をとっていないのだ。
さっきやっと書類が片付き、アスランと一緒に食堂に向かう最中だったが突如アラートが鳴った。
任務の優先が第一なので食堂に行くわけにもいかず、その足でそのまま集合したのだ。
気まずそうにアスランを見るティアナ。スバルは恨めしそうに彼を見る。

 

「あ~…ごめん…スバル…」

 

確かに自分がやりすぎたと思ったアスラン。
スバルは食事をする時は本当に嬉しそうに食べるのだ。それほど彼女にとっては大切な時間なのだろう。
それを思い出し、反省しながら謝ったがスバルの表情は変わらない。

 

「わかった、これが終わったら何でも好きな物奢ってやるから…」

 

その言葉にスバルの眉がピクリと動く。

 

「……デザートもつけてくれる?」
「…ああ」
「よっっしゃーー!!がんばるぞぉーーーっ!!」

 

一気に180度、スバルの機嫌が変わった。気合が入りハチマキに張りがつく。
…はっきり言って単純すぎると誰もがそう思った。

 

「じゃあ、私が先に空の道を確保してくるから。――みんな、しっかりねっ!!」

 

大きな返事を聞き遂げたあとなのはは勢い良くハッチから飛び降りる。
数秒後桜色の光が彼女を包み、白いバリアジャケットを着て飛翔。
飛行型ガジェットに向けて何個ものアクセルシューターを放つ。
逃げ切れない機械共は小さな閃光を作り、消えていった。

 

(やっぱりすごいな…あの人)

 

大量の魔力弾を操り、高速で飛び交う彼女を見てアスランは感想を思う。
普段の教導から身をもって知っているがやはり戦闘能力は高い。
魔法能力だけではなくて反射神経など体術的にも一流で相当のブランクを積んでいるのがわかる。
エースという肩書きをもっているのは伊達ではなかった。

 

「スターズ3、スバル・ナカジマ」
「スターズ4、ティアナ・ランスター」
「「行きます!!」」

 

その爆発が消えるのを見計らい今度はスバルとティアナが飛び出す。
ウイングロードで船までの道を造り、その上をローラで勢い良く駆け先攻する。
ティアナがそれを追う。

 

「リィボルバァーーシューートッ!!」

 

剛勢と共にスピナーを回転させ前方のガジェットに衝撃波をくらわせ爆散。
爆煙の中からもう二体現れ左右からスバルへと迫る。

 

「クロスファイヤーーシューート!!」

 

オレンジ色の魔力弾がスバルの横を通り過ぎ、ガジェットの真ん中を貫き二つとも撃墜。
後ろを振り向いてパートナーに親指を立てるスバル。ティアナも微笑で返す。
長年のコンビを組んでるだけあってチームワークは抜群だった。

 

(いいコンビだ…あの二人…)

 

ハイペースで船内への道をつくり、激しい突破力を見せている二人。
その様子をハッチから見下ろすアスラン。
普段はおちょくりあってのでこぼこコンビに見えたが、やはり内面は通じ合っているのだろう。
見事な連携を見せている。

 

そして、次はライトニングの番だ。

 

「ライトニング3、エリオ・モンディアル」
「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ」
「「いきます!!」」

 

エリオとキャロが手を繋ぎ一緒に飛び降りる。フリードもあとに続く。
少し心配気なアスランは思わず、身を乗り出し落ちていく二人を見る。
すると、空中に大きな魔方陣が現れフリードがその光に包まれる。

 

―――ゴォォオオオオオオオーーーーーーーーーッ!!

 

光がはじけ、その瞬間とてつもない咆哮が響く。
アスランは起こった出来事に目が大きく開かれた。そこにいたのは巨大な白竜だったのだ。
姿形からフリードだということがわかる。恐らくはあれが真の姿なのだろう
だが犬のような性格をしていた小さな竜の面影は一切感じられない。
見るものを圧倒する威厳と迫力だけがひしひしと伝わってきていた。
肝心の二人はフリードの背に乗っている。

 

「ケリュケイオン!!」

 

キャロがそう高らかに命令すると彼女のケリュケイオンが発光し光が放たれる。
それがフリードの口前に収束するとオレンジ色の火球が形成、そして

 

「フリード!――ブラストレイッ!!」

 

集まった火球は甲板にいるガジェットⅠ型の集団に向けて発射された。
火球が着弾するとまるでナパーム弾のような轟音と炎が燃え広がりガジェットを焼き尽くす。
その炎上網の中から一際でかいガジェットが姿を現した。
エリオとキャロには見覚えがあり以前苦戦した相手だ。
だが、同じ手は何度も食わない。新規の相手のデータは既に入手済み、戦いかたも練習している。

 

「ストラーダ!!」
『jar!!』

 

身の丈以上ある槍が機械音を立てて変形する。
槍の噴射口から金色の刃がとび出し、より鋭利な姿になる。
ストラーダの一つの形態―ウンヴェッターフォルムだ。
先端に魔力の刃が加わり、リーチはさらに長くなる。
キャロからの支援魔法も受け魔力刃の色は黄色から桃色に変わった。
ブーストを吹かし、フリードの上から勢い良く飛び出すエリオ。

 

「でぇやあああああああぁぁッ!!」

 

体を縦に回転させ円を描いた。桃色の光が尾を引き円刃になる。
刃は触手を切り裂くが勢いは止まずそのまま本体に切り込み、真っ二つにする。
ガジェットは音を立てて爆発。エリオは体を空中でしならせ華麗に着地した。
空上にいるキャロに自分の無事を知らせるかのように笑みを送った。

 

「……あれがあの子達の“力”か…」

 

訓練では見なかった二人の猛攻振りにアスランは暗い瞳で見下ろしながら呟いた。

 

「あれでも本当に子供か?…って思えちゃうよね…」

 

横からの質問に目を向けるとフェイトが苦笑しながらエリオとキャロを見ていた。
ええ…とアスランは何となしに返すが正直、彼女のことはあまり好きにはなれない。
エリオから聞いたがこの人がどうやら二人の保護者のようで局に入るきっかけとなった人だとわかった。
自分達を支えてくれた優しい人…だそうだ。
だが、アスランは疑問に思った。それならばなぜ彼女は二人を止めなかったのだろうか。
長年、局につとめている彼女なら経験もつんでいるはずで危険性も熟知しているはずである。
これではまるで遣われているようではないか。

 

「ときどき忘れちゃうんだ…そういうこと…」

 

フェイトの低い声にアスランは何も答えずに流した。
なるほど…この人はこうなんだ、と恐らくの推測を自分のなかで纏めた。

 

「……私もいきます」
「あ、うん。初めてだけど頑張ってね! きっとうまくできるよ」

 

自分の顔を見ずただ宣言した彼にフェイトは勘ぐりながらも声援を送る。

 

「私はなのは隊長と一緒に海上をまわるから、危なくなったらすぐに呼んで」
「わかりました」

 

アスランの返事を受け取ると彼女は微笑んで飛び降りた。
金色の光が彼女をつつみ、バリアジャケットへと姿を変える。
そしてもう一人の隊長のところへと向かう。
残されたアスランはふうっと溜め息をつく。そこへ…

 

「頑張ってこいよ! 新入り!」
「…はい」

 

このヘリのパイロットであるヴァイスが親指を立てて彼を応援した。
アスランは苦笑して返す。

 

「とりあえず…行くか」

 

今は感傷にひたっている場合ではない。――アスランは覚悟を決める。
戦場にいることを認識し彼の目つきと雰囲気その物が変わった。
体があの時の感覚を呼び覚ますかのように強張る。

 

「フェイス0(ゼロ)―アスラン・ザラ…出る!」

 

戸惑いもなくアスランはヘリから飛び降りる。

 

『SETUP―FORM-JUSTICE』

 

紅い光が海上に輝く。
アスランはワインレッドのジャケットを着ていた。
両腰の鎧片には白く細い円柱形の筒のような物がついている。
なおも降下する。

 

『FATWUM-01』

 

落ちていく彼の足元に紅球が現れ、はじける。
そこからでてきたのは魔力でできたリフターで、形は大鷲をイメージさせるものだった。
これはジャスティスが作り上げた独立ユニットでアスランの魔力と繋ぎあわせることで操作が可能になる。
アスランはその背面に乗り姿勢を整え船へと向かう。

 

彼を出迎えたのが3機のガジェットⅠ型。
標的を捉えるとエネルギー弾を雨のように連射してきた。
だが、彼は恐れない。もっと早く、もっとするどい熱光線を今まで避けてきたのだから。
一発あたれば死ぬ可能性だってある、ビームの速さに比べればこのような弾はたやすく見切れることができる。
反射神経はMS乗りにとって何より重要なスキル。嫌でも研ぎ澄まされる。
弾丸の合間をぬってよけ、銃を構えるアスラン。
一発の圧縮した魔力弾を一機に打つ。命中したと思った矢先
弾はガジェットの前面で溶け込むように消えた。

 

「!?」

 

その光景に戸惑って一時上空に対比するアスラン。
そしてなのはにあの機械について説明されたことを思い出す。

 

「確か…アンチマギリンクフィールドだったか…?」

 

ガジェット搭載されている機能で単体で高位の防御魔法を展開できる。
だがその内容がなんとも手厳しく、そのフィールド内にはいった魔法はすべて妨害されるというもの。
攻撃を通すには物理攻撃、あるいは魔力以外のエネルギーが必要になる。
アスランはこれを陽電子リフレクターと重ね合わせた。
しかしそれよりもずっとやっかいな物だ。近づけば魔力が煉れず攻撃のすべがなくなる。
遠距離からの砲撃もシールドされて効果がない。

 

(しまったな…)

 

説明を思い出し急に不安になるアスラン。
実は彼はあのフィールド魔法についての訓練はまだ受けていないのだ。
ちょうど明日行う予定であったがなんとも悪いタイミングである。

 

〈アスラン!!〉
「ん、ティアナ?」

 

突如入る彼女からの画面通信。

 

〈あんたまだAMFの訓練受けてないんでしょ?〉
「ああ…」
〈だったら無理せずに下がって、ちびっ子達の援護だけしてくれればいいから〉

 

その言葉に少しむっとなるアスラン。
なんだろう…?――もしかして嘗められてる?

 

援護だけといわれても一応彼にも年上というプライドがある。
子供だけを戦わせて自分は後ろから見てろというのか?――否、そんな訳にはいかない。
なので彼の心の抵抗心に少しだけ火がつく。

 

「馬鹿にするな…」
〈は?〉

 

アスランの思わぬ返事に唖然となるティアナ。
何か言う前に彼は通信を切り、迫ってくる敵を迎え撃つ。

 

「ジャスティス、頼むぞ」
『了解です。マスター』

 

三機はアスランを取り囲むように位置につくとフィールドを周りに展開した。
デバイスが作り上げたファトゥムは固定化されているため形を保ち続けているがアスランの魔力は
煉りにくくなりジャスティスと繋いでいる魔力結合が切れる。
そこから飛行制御はデバイスに移行する。

 

『Deutorion expand』

 

ジャスティス自身の魔力は煉るのではなく、無尽蔵に作り出すこと。
彼に魔力をめいっぱい送り増幅させることが可能である。
溢れ返った魔力は盾の外縁から放出され、長大な魔力刃を形成した。
刃の長さの調整は煉ることができないためデバイスに任せる。
常に魔力を作り出すことで燃料切れという言葉をなくす。これで彼の体力が続く限り戦うことができる。

 

「はあぁっ!!」

 

勢いよく盾を振り下ろし、目の前の一機を両断するアスラン。
A.M.Fはフィールド化しているためシールドの作用を同時に発動できない。なので易々と切り裂くことができた。
あとの二機が後ろから攻撃してくるが高速で上昇し、避ける。
リフターから跳躍しアスランが片方に向けて直空から刃を振り下ろす。
もう片方はフォトゥムが先端といえる部分を刀のように形を変えそのまま勢いよく突撃する。
切られ、貫通し、ほぼ同時に爆発して煙の中からアスランは出てきた。
下からリフターも現れ、彼はうまく着地する。

 

『大丈夫ですか、マスター?』
「ああ、だけど今回はほとんど接近戦でいかないとな」

 

アスランの銃デバイスはただのアームドデバイス。
AI機能がないためサポートもなし。
魔力弾はアスラン自身がつくらなければならないのでフィールド内では無理だ。
それにシールドを貫く鋭さもない。

 

『いえ、方法ならあります』
「え?」
『ティアナ・ランスターと同じようにやればいいんです』

 

そういえばあいつはさっき射撃でやすやすとガジェットを打ち抜いていた。
シールドは張っているのになんであんな簡単に貫くことができたのだろう。

 

『多重弾膜です』
「?」
『簡単にいえば弾を膜状バリアでつつんでその膜でAMFを中和させるんです』
「ああ、そうか。そうすれば中の弾は消されずに本体にあたるってわけか…」
『その通りですマスター』

 

理屈はわかったがそれを実行できるのかが難しかった。
一応は構えて実践してみることにした。

 

(弾に膜をはるイメージか……)

 

魔力弾をつくってその上に被せる。
だがつくって膜をはる工程にいくと魔力弾の形が崩れてしまった。

 

「これは相当の集中力がいるな…」

 

苦戦しながらも自分の感覚をさらに研ぎ澄ます。

 

数分後、エリオとキャロは順調にガジェットを落としていた。
エリオは甲板上の廊下で、キャロは柵の外からフリードに乗って飛んでいた。

 

「はあ、前のほうはあらかた片付いたかな…?」
「うん。でもアスランさんがまだこっちに来てないから…」

 

専攻しすぎて彼との距離が離れすぎたようで二人は戻ろうとする。
その際に2機のガジェットが廊下の角から現れ襲い掛かってきた。
ぶつかりそうな距離をすぐさまバックステップで下がり、ストラーダを構えるエリオ。
弾を放つガジェットだがソニックムーブで高速移動し避ける。
敵との距離を一気につめて、そのまま槍を突き刺し破壊。
もう一体にそのまま攻撃しようとするが、彼は気づかなかった。密かに伸ばされた触手に。
コードのような細い触手に片足をとられてすっころぶエリオ。

 

「つうッ!!」

 

声を漏らして痛みを堪えるが、転んだ拍子にストラーダが手から離れてしまう。
やばいと感じ手を伸ばすがギリギリの所で届かない。
ガジェットの中心が光はじめる。

 

「エリオくん!!」

 

キャロもその光景にあせって急ぎ助けようとするが
フリードの炎ではエリオも巻き添えに燃やしてしまう。拘束魔法も詠唱が間に合わない。
混乱してあせる一方で今にも放たれようとする攻撃。
エリオが目をつむり防御体制をとる。

 

――――しかしくるはずの衝撃や痛みは数秒たってもこなかった。
恐る恐る目をあけるとガジェットが音を立てて地面に落ち、光っていたカメラアイは黒く沈黙した。
なにが起こったかわからずエリオは戸惑う。

 

「戦闘中に目をつむるんじゃない…」

 

その声にはっとしてガジェットの後ろに目を凝らす。
アスランが暗闇の中からこつこつと歩いて姿を現した。
その手には銃をもっている。あれで助けてくれたのだろう。

 

「…ア、アスランさん?」
「無事か?」
「えっ? あ…はい!!」

 

戸惑っているエリオに手を伸ばし起こしてやるとその体をよく見て外傷がないかを確かめる。
キャロもフリードから降りて彼らの元に寄る。

 

「エリオくん、大丈夫だった!?」
「うん…なんとか…」

 

ストラーダを拾い上げて冷や汗を拭うエリオ。

 

「ありがとうございます…アスランさん。助かりました…」
「ああ、無事ならそれでいい…だけどつっぱしり過ぎだ、二人とも」
「「す、すいません!!」」

 

頭を下げて謝罪するエリオとキャロ。
アスランは溜め息をついて苦笑する。

 

「反対側の敵はもう片付けたからあとは後ろだけだ…行くぞ」
「「えっ?」」

 

背を向け歩き出すアスラン。
二人は唖然となりながらもとりあえずはついて行く。
エリオはふと振り返りさっき壊れたガジェットを見る。
背面の中心より少しずれた所に穴が開いていた。
もしかして彼は爆発しないようにそこを狙って打ち抜いたのではないか。自分が爆炎にのまれないようにと。

 

「エリオ! 何してる、行くぞ!」
「あ、はいっ!!」

 

怒られ我に返るエリオ。慌てて二人についていった。

 

その後も順調にガジェットを撃破していく3人だが
エリオとキャロはアスランの行動に驚きまくっていた。

 

「キャロ、フリード! この辺は燃料タンクに近いからさっきのような砲撃は絶対するな!」
「は、はい…」
「エリオはもっと周りを見ろ! それと無駄な破壊をするんじゃない」
「はは、はいっ!!」

 

いつもの穏やかな感じの彼とは違い、ほとんど怒声に近い声で的確に指示をだしていたからだ。
アスラン自身も無駄な破壊は一切せずに空中にいる敵以外はすべて爆散させずに倒している。
それにいつのまにか飛翔魔法を使っていることにも驚く。

 

【六課隊舎―ロングアーチ】

 

「……」

 

指令室から映像を見ていたはやては目を丸めていた。
ほかのスタッフ達も驚いたような顔をしている。

 

「まさか飛行魔法も使えるとはなぁ…陸士やないやん」
「それだけじゃないですよ…あのデバイスどんだけ高性能なんですか…」

 

シャリオがアスランがAMFのフィールド内で格闘している時の映像をだす。

 

「この時のザラさんの魔力値…AAを超えています」
「そんなに!?」

 

カートリッジシステムを使っても簡単にいかない数値をいともたやすくだしていた。
シャリオは眼鏡を輝かせて微笑む。

 

「ああ、調べたいな~♪ あのデバイスぅ」

 

メカオタクと呼ばれた彼女の性格が酷いくらいに現れていた。
だがあれだけ新機能そなえていたら確かに技術部の人も声をそろえて言うかしれない。
興奮気味のシャリオに少し引き気味に苦笑するはやて達。
そしてはやては真剣な表情になって再び画面に見入る。

 

(やけど最も驚くところはそこやない。驚くのはあの成長スピードや…。初めてのガジェットに対して攻略法を
 直に見出し、多重弾膜という難度スキルのこつをたった数分でつかんで使い慣らしてる――なんていう人や…)

 

はやては知らず息を呑んでいた。
先程シグナムに言われたことを思い出し、自分の考えを不定しなければならない。

 

(あかん…。めっちゃ気になる…)

 

優柔不断だ。

 

【輸送船―甲板】

 

空上にガジェットを誘い寄せ直線上に並んだのを見計らいアスランは魔力を溜める。
フォトゥムの両翼に二つの魔方陣が展開し、光が収束。

 

『Fortes Bastar』

 

放たれたのは細い魔力砲でなのはのディバインバスターに近いものだった。
高密度の二つの紅い光線は並んだガジェットどもを貫通し一気に爆発する。
その様子を下から見ていたエリオとキャロはポカンとしていた。
アスランは疲労の溜め息をつくと安心した表情になる。
多重弾膜のこつを覚えたので他の射撃魔法にも使ってみようと思ったのだが見事うまくいったようだ。
甲板におりると二人に近づく。

 

「他はもういないようだ。あとは中だな…ってどうしたんだ?  二人とも?」

 

見ればエリオとキャロは呆けた顔で自分を見ている。
二人はえっ?っと顔を見合わせ慌てて元の顔にもどした。
キャロがそのままの感想を口にする。

 

「えっと…アスランさんってすごいな~って思って見てました…」
「ああ、そういうことか…。言ったじゃないか俺は大事なポジションだからしっかりやらないとって」

 

確かにそう言ったがまさかここまで出来るとは思わなかったらしい。
ティアナのような的確な指示。自分達への援護。しっかりと両立していたのだ。
アスランは二人の目線の高さに合わせて膝をおる。

 

「それに君達は子供なんだ…大人の俺が頑張らないでどうする…」
「「…はい」」

 

彼の低い言葉に思わず返事をするエリオとキャロ。
まただ…この人はやたらと自分達に“子供”という理由をつけて納得させようとする。
心配してくれるのは嬉しいのだが自分達も一応は局員で仲間であるのだから信用してほしい。
喉から出そうになった言葉を飲み込むエリオ。
彼の真剣な表情を見て言えなくなったのだ。一体なんだというのだろうか。

 

「よし、じゃあ中に行くぞ」

 

アスランは再び立ち上がると入口を探すため歩き出す。
エリオとキャロもとりあえずは従い一緒に後を追う。