GUNDAM EXSEED_EB_9

Last-modified: 2016-01-12 (火) 20:22:31

リヒトはミリアムを置いて、中近東の兵器開発施設から定期的に出ている輸送便で、プロメテウスPMCのアフリカ拠点へと向かった。決して乗り心地が良いわけではないが、そこは我慢だと思い。何度目かのアフリカの大地に降り立つ。
「とりあえず、偉い人に会って、それからかな」
ほとんど癖になってしまった独り言を言いながら、リヒトはアフリカの拠点内に入る。だいぶ冷房が効いていて快適だが、それはどうでもよく、リヒトはアポイントメントも取らずに拠点の代表の部屋に入る。
拠点の代表はいかにもたたき上げの軍人といった風貌だが、本当にたたき上げの軍人ならプロメテウスPMCになど所属はしないので、たいした人物ではないとリヒトは思うことにした。
「とりあえず、着任のリヒト・グレンです。本業は、機関の方なんで状況次第では抜けますが、ご了承を」
そう言うと、代表は何とも言えない表情を浮かべ、リヒトを見送った。
次は同僚のパイロットと、機体との顔合わせだな。PMCの任務ではジェネシスガンダムは使えない。存在自体が機密の塊で色々とマズイ任務にも携わっているためだ。
リヒトはとりあえず。パイロットの待機場所に顔を出してみた。すると、調子の良さそうなのがリヒトに絡んでくる。
「おい、お嬢ちゃん、ここが――」
リヒトは何も言わず、睾丸を片方潰し、黙らせる。
「エージェントのリヒト・グレンだ。任務で同行するが、キミらは勝手に戦ってくれ、僕は後ろでノンビリさせてもらうから、それだけ言いに来たんで、あとよろしく」
そういって、リヒトはMSハンガーに向かうと、プロメテウス機関が開発し、プロメテウスPMCの機体として発表したベイオットが並んでいた。
ゴーグルセンサーにがっしりとしたシルエット。これもヴァリアントガンダムの系譜だとリヒトは聞いていた。とにかくシンプルに機体は頑丈さを重視、オプションで様々な戦場に対応するという機体だ。
アフリカの地形に対応するため、MSハンガーに並んでいる機体は全てが、ホバーを移動用のユニットとホバーによって消費する推進剤を補給するためのプロペラントタンクを装備していた。その上で更に装甲を強化している。
悪い機体じゃないとリヒトは思い。MSハンガーを去り、自室で任務開始まで待機することにしたのだった。

 

そして数時間後、リヒトはベイオットのコクピットに乗ったまま、輸送機で機体ごと戦場まで運ばれていた。待機していると不意に隊長らしき男から通信が入る。
「指揮権の話しなのだが、組織での立場上はそちらが上だが、どうする?」
リヒトは心底どうでもいい話しだと思いながら、答える。
「アンタが指揮していいよ。僕は適当に後ろで観戦しながら、ヤバいのが来たら代わり相手してあげるから」
多分、プロメテウス機関の上の方も、PMCの方の構成員が危険な相手に会った際の保険として、リヒトは派遣したのだろうと思った。危険な相手の存在はリヒトにとって願ってもない話しだ。
ユウキ・カーボンには劣るだろうが、ユウキ・カーボンとの再戦の前に少しMS戦の経験値も上げておきたいとリヒトは思っていた。
正直、任務に関してはどうでも良い。所詮は茶番の戦争だ。地球連合から払われる額の分だけ働く傭兵をやればいい。そんなことを思っていると、輸送機の機長から全機に通信が入る。

 
 

「もうすぐ、降下地点。パイロットは準備を」
へいへい、了解。リヒトはどうでも良いと思いながら、輸送機の後部ハッチが開き、プロメテウスPMCの同じチームの機体が降下していくのをノンビリ眺めつつ、最後にゆっくりと戦場へ降下した。
アフリカの荒涼とした大地を上空から見下ろすと、地球連合の量産型MSジルベルトとクライン公国の量産型MSゼクゥドⅢがシールドを構え、一進一退の攻防。そう言えば聞こえがいいが、どちらもおっかなびっくりシールドを構えつつ、武器を撃っていた。
「どうでもいいなぁ」
リヒトはそう思いながら、降下中でありながら、自機のベイオットのバックパックにマウントされている迫撃砲をクライン公国のMSに向けて発射する。迫撃砲の角度は水平に近いが、そのため降下中にも関わらず、問題なく敵機に直撃し、撃破する。
そして、ビームライフルをロックオンサイトが出ていないが、目測で撃ち、数機のクライン公国のMSに直撃させ、一瞬で三機を撃破する。
ジェネシスガンダム使えれば、一瞬で終わるんだけどな。そう思いながら、リヒトのベイオットは他のプロメテウスPMCのベイオットと同時に着地し、戦闘態勢を整える。
リヒトの機体は重武装型として、バックパックに迫撃砲と高出力のロングレンジビームライフル、右手にビームライフルと左手にマシンガンを装備していた。
「じゃ、あとよろしく」
三機程度、撃破すれば、後は良いだろうとリヒトは少し離れた場所で、適当に戦いの成り行きを見守ることにした。
地球連合軍は最初から、こちらの戦力をあてにしていたようで、若干、数が少なかった。リヒトは、まぁいいんだけどねと思う。実際、PMCが戦った方が良い。その理由は、やりすぎることが無いからだ。
不用意に、コックピットをぶち抜いて、相手パイロットを殺してしまうことはない。傭兵としてメシのタネを安定的に確保するためには、あまり殺しすぎたり、敵勢力にダメージを与えすぎても駄目なのだ。
そこらへんの加減が正規軍の方々は分かっていないんだよなぁ、とリヒトは思うのだった。
「まぁ、どうでもいいけど」
楽なのはPMCの仕事で、やりがいがあるのは機関の仕事。どうぞ御勝手にやってくれというのが本音であり、今目の前で戦闘が繰り広げられていても、リヒトは特に思うことはなく、ボンヤリと眺めているだけだった。
しかし、戦場でボンヤリと突っ立ているだけの機体があれば、PMCを雇っている地球連合としては見過ごすわけにはいかなかった。
「おい、貴様、何をしている!払っている料金分は戦え!」
「うるせぇなぁ、どうせ、はした金だし、てめぇが払ってるわけじゃねぇんだから、僕にゴチャゴチャと言うんじゃねぇよ」
リヒトはそう言って、一方的に通信を切った。放っておくとPMCの連中からもゴチャゴチャと文句が来るのは分かっていたからだ。
文句を言われるのは分かっていたことだが、実際に言われると気に入らないものだ。文句を言われ、不快な思いをすることが分かっていても、わざわざ仕事を受けたのは、ひとえにユウキ・カーボンと戦う時のための準備として、実戦勘を取り戻すためでもあった。
実際には戦った方がいいのだろうが、それは面倒くさかったので、とりあえず戦場を眺めて実戦の場を見れば、まぁ少しはマシになるだろうという考えであった。
とはいえ、戦場であるので、リヒトの機体も完全に棒立ちでいられるわけでもなかった。敵機が棒立ちのリヒトの機体に狙いを定め、ビームライフルを撃つが、リヒトは機体を操り、軽く回避する。そして、流れ弾も飛んでくるが、それもリヒトの機体は楽に躱す。

 
 

「ヘボの弾は当たりませんよっと」
リヒトはそう言いながら、機体の操作設定を弄り、コックピット内の足ペダルだけで、機体の動きを制御できるように設定する。出来るのは移動とステップくらいだが、別に戦う気も無かったので、リヒトはそれで充分だと思った。
そして、両手が自由になると、アテネに携帯ゲーム機を転送させ、そちらの方に集中し始めた。リヒトに言わせれば、戦いは見飽きたのでもう良いということだった。
「あ、通信できねぇや。オフラインでやっか」
そんなことを言いながら、リヒトはゲームをする。そんなことをしているとは戦場のだれも想像していなかったが、リヒトの機体は、襲いかかる攻撃の全てを軽々と躱していた。時折、チラリと前を見るがリヒトの視線は基本的にゲームに固定されていた。
目の前で撃破される味方機があっても、リヒトはさして気にせず、自分の回避行動しかしなかった。リヒトにすれば、プロメテウスPMCの人間は初対面でどうでもいい存在だった。これが二回目ぐらいであれば、気分しだいでは助けるが、それでも基本は無視だ。
リヒトに言わせれば、結局のところ能力ない人間が分不相応な場にいて自然に淘汰されていった結果なのだから、たいした問題ではないということであった。
そんな風に、リヒトは戦場にいながら、われ関せずという方針で延々と回避をし続けていた。たまにチラリと前を見ると、弾が直撃し撃破される機体の姿が見えた。リヒトは不思議で仕方がないという思いもあった。なぜ当たるのか分からないと。
自分は父や叔父に教わったように動いているだけで当たらないのに、なぜ、こいつらは被弾するのか?こいつらにMSの操縦を教えた人間が悪いのか、こいつら自身が悪いのか。
まぁ、どうでもいいことかと思い、リヒトは足のペダルを動かすだけで、機体を軽やかに操り、敵が連射してくるビームを全て回避した。その間、リヒトの視線はほとんどゲーム機に向かっていた。
「ドロップ率がイマイチだなぁ、課金したいけど。通信がなぁ」
リヒトはさっさと戦闘が終わらないかなぁ、と思ったが、自分が動こうとはしなかった。三機戦闘不能にしたんだから、仕事はしたから、それでいいという考えであり、あとで何か言われても言い訳は立つ程度に働いたのだから、もういいやという気持もあった。
リヒトがそんな風にサボっているが、プロメテウスPMCの働きもあり、地球連合軍は段々と、クライン公国の部隊を後退させていく。
リヒトに言わせれば、クライン公国の方は、働いてますよーという所を国民に見せつけるためのアピール程度の戦闘で、そこまで頑張る気はないと見ていた。地球連合の方も、来たから、仕方ないし迎撃するかーという感じで働いている所アピールの戦闘だ。
プロメテウスPMC側で、気づいている人間はほとんどいないだろうが、両軍の録画用カメラドローンが浮遊しながら、戦場を映している。
これで、軍隊は頑張ってますよーというところをアピールするわけだ。リヒトは自機がボケっと立っているのも絵面的におかしいし、両軍にとっても編集の際に迷惑だろうと、カメラドローンの撮影範囲に映らないようにも機体を動かしていた。
プロメテウスPMCは地球連合、クライン公国、コロニー同盟の全てと仲良くしているため、色々と気を使わないといけないのだ。地球連合に協力する時は、ベイオットの頭部をゴーグル型カメラにしたり塗装を変えたりと工夫をするなどして。
そうやって、色々と気を使わなければならなくなったのは、リヒトがオジサンから聞いた限りでは、地球連合がプロメテウス機関の存在を把握し潰そうとしていたためであった。

 
 

父さんやオジサンがプロメテウス機関を乗っ取った時には既に地球連合に地球連合に目を付けられていたんだよなぁ。
それで結局オジサンが、表向きはプロメテウス機関を解体してプロメテウスPMCになって軍事力を提供するから見逃してという感じで落ち着いた。
まぁ、父さんやオジサンが素直にプロメテウス機関を解体するわけなど無かったわけで、今も秘密裏に残って、自分も働いているわけだが、とリヒトは思った。
まぁ、色々とバレてはいるんだろうが、プロメテウスPMCがキチンと働いていれば、多少の、お目こぼしはいただけるということで、リヒトも多少は気を使ってカメラドローンの映像に映らないように気をつけながら、敵の弾、流れ弾、全て回避する。
クライン公国軍は露骨に撤退を始めた。リヒトはゲーム機から目を離し、そろそろ終わりかなと思った。しかし、その時である。地響きが機体を通してコックピットにも伝わり、リヒトはゲームを一時中断し、前を見る。そして、思わず口にした。
「マジか」
リヒトの目に映ったのは、巨大すぎる四足歩行の兵器だった。一瞬、ゴリラか何かを想像したが、それとは違う異形だった。
まず両手足の長さが同じであり、その両手足にはびっしりと砲身が並んでいる。一応頭部らしいものは見えるが、小さく何か光を発しているだけだった。
そして、背中と言っていいのかリヒトには分からなかったが、とにかく巨大な砲を前方に二門、後方に二門背負っていた。
「MG(モビルギガント)ってやつだっけ」
とにかくデカいとリヒトは思った。200m以上のサイズは間違いなくあるし、ヘタすれば戦艦並だ。それを四足歩行で支えている。それに、意外に速度があることを見て、リヒトはもしかしたらと思う。
「“ギフト”持ちの機体か」
だったら、やるしかないな。そう思ったが、地球連合軍は、クライン公国のモビルギガントを見た瞬間に後退を始めている。諦め早すぎだろうと思ったが、責めても仕方ない。リヒトは通信を戻し、PMCの隊長に連絡する。
「“ギフト”持ちの可能性がある。“ギフト”持ちは倒すのが機関の方針なんで、僕はいくが、アンタらは邪魔なんで消えててくれ」
リヒトはそれだけ言うと、通信を切り、モビルギガントに向かっていく。見た感じの設計思想は背中の二門砲から、砲撃支援型だとリヒトは思った。
たぶん、向こうも補足してくる頃合いだろうと思った瞬間、モビルギガントの背中の砲から、凄まじい砲炎があがる。
その瞬間、リヒトは勘で機体を動かす。そして、モビルギガントが撃った砲弾は地面に着弾し凄まじい爆発をあげる中を、リヒトの機体はくぐりぬけ進んでいく。
「こえー、こえー」
口で言う言葉とは全く違う飄々とした態度でリヒトは、無傷の機体を進ませる。機体を移動させながら、機体の操作設定を自分好みに調整し直し、リヒトの機体は進む。
リヒトは左目をつぶり、モビルギガントのパイロットの位置を探ろうとするが、距離が離れすぎて無理だった。その直後、再び、モビルギガントの砲撃が行われるが、リヒトは雑すぎて話しにもならないといった感じに機体を操り回避する。

 
 

リヒトは相手のモビルギガントがその巨体に対して、思った以上に機敏に動くことで、重力制御系の“ギフト”が使われているだろうと、見当をつけていた。
プロメテウス機関にも重力制御に関する“ギフト”はあるが、それは補助的なものだ。おそらくクライン公国は完全な重力制御を可能にする化石を持っているとリヒトは考えていた。
距離はまだあるが、どうしたものかと思いながら、リヒトは自機が右手に持つビームライフルを発射する。ビームは一直線にモビルギガントに向かっていくが、直前で軌道が不自然に変化し、地面に落ちる。
「機体に使っている重力制御と重力バリアみたいなもんか?質量不足のビームじゃ逸らされるのか」
やはり、重力制御系のギフトだとリヒトは確信を持った。予測が当たったのはいいが、それほど嬉しくないとも思いながら、とにかく、敵機との距離を詰めることを優先するのだった。
その間も、試しに機体のバックパックの迫撃砲を撃つが、今度は放物線を描きながらモビルギガントに向かっていくはずの砲弾が、不自然に浮き上がり、あらぬ方向へと飛んでいく。
「やっぱり重力制御をバリアに使ってんな」
確信を抱いたリヒトは敵を墜とす方法は接近戦がベストなのは確実だと思い、ひたすらに前進する。
当然、モビルギガントも向かってくるリヒトの機体には気づいており、二本の前脚に装備されている、片脚だけ十数門のビーム砲、両足合わせて三十は間違いなく超えているビーム砲から一気にビームを発射する。
その砲撃は前方全てを焦土に変えるような広範囲攻撃であった。面白いな、リヒトそんな感想を抱きつつ、相手の火力の凄まじさを感じ取り、興奮しながら機体を動かす。
当たらないと思えば当たらない。リヒトはそう思いながら、機体に踊るように軽やかにステップを踏ませる。リヒトの機体はパイロットの操縦に応え、スペックの限界の動きを見せ、ビーム砲の雨の中を、躱し、かいくぐり、すり抜ける。
「ははっ♪」
結構、楽しくなってきたぞ。リヒトはそう思いながら、機体を更に前へと進ませる。驚くべきことにリヒトの機体は全くの無傷で、雨のように降り注ぐビーム砲の中を突っ切っていた。
もういっちょ来るかな?リヒトがそう思った瞬間、再びビーム砲の雨が降り注ぐが、リヒトは別に脅威とも感じずに機体を動かし、当然のごとく無傷で機体を突破させる。
リヒトとしては別にたいしたことをしているつもりはない。単純に、ビームとビームの隙間を見つけて、そこを通り抜けられるように機体の姿勢や体勢を細かく制御しているだけだ。
ただ、まぁ面倒なのは、OSなどの補助なしに完全なマニュアルでMSを動かしていることだ。一瞬の間に機体の稼働箇所、全てを手動で動かす。ただそれだけのこと。
フルマニュアルという名前で呼ばれる操縦技法だが、これが出来ると機体を完全に自分の手足と同じように動かせる。リヒトは普通に皆出来るものだと思っていたが、世間一般では常識外れの技術らしかった。
しかし、リヒトの周りで腕が立つパイロットは、フルマニュアルで操縦できる時間に差こそあるが、全員習得しているので、リヒトは当然の技術だと思っていたが、そうではなかった。

 
 

リヒトは思うが、だったら練習すればいいだけだろうに、なぜ練習しないのかが全く分からなかった。自分だって最初からできたわけではないのだし。リヒトはつくづく思う、世の中の人間は勤勉さに欠けていると。
出来なければ練習すればいいのだ。大抵のことは練習すれば出来るようになる。そんな風に関係ないことを考えながら、リヒトは三度目のビームの砲撃を回避し前進していた。
「そろそろ見えるか?」
リヒトはコックピットの中で左目をつぶると、ボンヤリと発光するトゲトゲした小さな物体が、六個、モビルギガントの各所に見えた。その箇所は、頭部らしき部分に一つ。その反対側の尻らしき部分に一つ。そして四肢の付け根らしき部分に一つずつあって、四つ。
「やっぱ、人工EXSEEDか」
予想はしていたので、驚きはしなかった。リヒトは左目をつぶると、人間がイメージの形で見える。母もそうだったとリヒトは父から聞いていた。
この能力の便利なところは、壁や何か遮蔽物、例えばMSなどの装甲があってもパイロットの位置などを正確に判別できる点であることと、相手がだいたいどんな人間か分かるという点である。
任務に忠実な軍人なら首輪付きの犬、気ままな性格なら猫などがイメージ像として見える。しかし、相手の精神状態で見えるイメージが変わることもあるため、そこまであてになるものではないが、まぁ、使えなくはないとリヒトは思う。
そして、モビルギガントのパイロットたちのから見えるイメージの形はリヒトが今まで見てきた経験上、人工的に脳に何らかの処理を施された人間か、特殊な薬物を使われている人間、基本的には自我を持たない戦闘マシーンのような人間たちであった。
まぁ、そんなことが分かっても、どうも思わねぇけど。リヒトに言わせれば、人間それぞれなのだから、実験動物みたいになるのがいるのも、まぁ仕方ないことで、リヒトにとっては気にすることではなく、どうでも良かった。
子どもだったら、少しは可哀想とかいう気持ちも湧いて、なんとかしようかと戯れに考えるのだが、今は別にそういう気分でもないので、例え乗っているのが子供でも、なんとかしてやろうというような考えは、リヒトには毛頭なかった。
運がなかったな、リヒトはそう思いながら、機体を接近させ、すでにリヒトの機体とモビルギガントの距離は、目と鼻の先といった状態であった。
さて、近寄ったら、どうなるか。リヒトが期待してみると、モビルギガントは前脚を振り上げる。分かりやすく押し潰しか?リヒトはそう思ったが、次の瞬間には考えを改め、機体を急速機動させる。
なぜ、そのような行動をリヒトに取らせたのか、その理由は単純である。リヒトは振り上げられた前脚の足の裏に、巨大な砲口を見たからであった。
そして、リヒトが見た通り、モビルギガントの足の裏には、砲口が存在しており、前脚を振り上げ、足の裏をリヒトの機体に向けた瞬間、モビルギガントの足の裏から陽電子砲が発射される。

 
 

当たれば、問答無用で対象を消滅させる、陽電子砲がリヒトの機体を襲うが、リヒトの機体は直前の急速機動で、陽電子砲を辛うじて躱していた。
だが、リヒトは無事で済んだことよりも、なぜ足の裏に、陽電子砲があるのか。そして今、気づいたが、足に指が存在し、それが普通に手の指と同じような長さがあることが理解できなかった。
単純に地面に足をつける程度ならば、指など必要ないし、指に長さなど更に意味がない。そこまで考え、リヒトは嫌な考え頭をよぎった。
「いやいや、無いだろ。おかしいって」
リヒトは自分の考えを否定しようとしたが、目の前では、その考えが見事に的中し、リヒトが頭の中で思い描いた状態が再現され始めていた。
まず、モビルギガントの後ろの両脚が地面に足をつけた状態で180度回転し、ビーム砲の付いている側が前面を向く。同時に後方を向いていた大型砲がスライドして前方を向く。これだけならば、前面に火力を集中させただけに見えるが、それだけではなかった。
驚くべきことに、モビルギガントの巨大な胴体が、後ろ脚だけに支えられて浮いたのだ。常識的に考えて、四本足で巨体を支えていたのが、後ろ脚だけで支えられるわけが無い。そう思うのが当然だが、モビルギガントは問題なく直立して見せる。
そして、直立したことで、ハッキリと背中に背負っていると言えるようになった四つの大型砲はその向きを変える。隠されていたアームが露わになり、それが大型砲を移動させる。
後ろの二門の大型砲は直立した機体の真ん中あたりで前方を向き、前の大型砲は肩に移動し前方を向く。
そして、前脚だったものは既に下へと垂れ下がり、もはや腕と言って良い存在になっていた。足だと思っていたものは、完全に手となり、握り拳を固めている。
そして、小さく出ていた頭部はせり上がり、隠されていた形状を露わにする。それは、見た目自体は完全にMSの頭部のそれだった。
「……馬鹿じゃねーの?」
リヒトはそう言うしかなかった。なぜなら、先ほどまで四足歩行のMAだったものが、一瞬で、二足歩行のMSの姿に変わったのだから。そして何より馬鹿げているのは、そのサイズであった。
四足歩行状態で全長は200m以上と見積もり、高さは100m位だと思っていたが、二足歩行の今、その全高は300mを超えているようにリヒトには見えた。
リヒトは思う。これに関わった人間は全員、頭がおかしいと。設計した人間も、開発に許可を出した人間も、実際に作った人間も、みんな頭がおかしい。
どういう思考をしていたら、300mオーバーというアホみたいなサイズの二足歩行人型兵器を思いつくのかリヒトは理解できなかった。
とはいえ、これで“ギフト”が使われているのは間違いなくなったわけだった。300mというバカげたサイズを二本の足で支えるには重力制御系の“ギフト”でも使わなければ不可能だからだとリヒトは確信を抱いた。しかし――
「とはいえ、どうすんだコレ……」
リヒトは天高くそびえ立つ、モビルギガントの姿を見上げ、そう呟くしかなかった。

 
 

C.E.2XX――そういえば、あの時代の戦場は、頭のおかしい兵器のオンパレードだったなとエルヴィオは思い出す。
各国がユウキ・クラインの配った羽クジラの化石を使い、“ギフト”を製造し、それを応用し新兵器を試作していたからだ。リヒトから聞いた300m越えのモビルギガントも、その試作機の内の一つだったらしい。
話しに聞いたぶんでは、地球連合側も300mサイズの機体は造っていたが、それに関しては、リヒトとは別のプロメテウス機関のエージェントが一人で、なおかつ生身で破壊したそうだ。
地球連合は公国の重力制御とは別の方法で300m級の機体を完成させたそうだが、それについては、リヒトも詳しくは知らないという。まぁ、調べれば分かるか。とエルヴィオは思うのだった。
トンデモ兵器の数々に思いを馳せるのも悪くはないが、リヒトから戦場の話しを聞いたのは、これが最初だったという重要なことをエルヴィオは思い出した。
若いころのリヒトは戦争に関しては、完全に「どうでもいい」というスタンスだった。自分の知り合いが関わっていたりでもしなければ、興味も関心もなく、戦争で何がどうなろうと自分の不利益にならなければ、構わないという考えであった。
勝手に殺し合っていればいいとも言っていたのを覚えている。自分は戦場に出ても絶対にやられないとも思っていた。
その上、味方と言っても、名前も知らなければ顔も知らない人間のために戦うのは嫌だということで、戦場の中にあっても静観していることすらあったそうだ。別に顔と名前もしらない味方が死んでも特に気にも留めていなかったという。
ただまぁ、知り合い、と言っても嫌いではない場合に限るが、そういう人物がいる場合ならば、多少は頑張ったそうだ。
しかし、まぁエルヴィオが聞く限りでは若いころのリヒトに言わせれば戦争などは――
「一人で戦えないヘボが群れをなして、死体とガラクタの山を積み上げるだけのくだらないピクニックを兼ねた経済活動」
とまぁ、とんでもないセリフを吐いていた。そのセリフを聞いた時は閉口するしかなかった。リヒトにとって戦争は経済活動ということだったが、結局、この考えは変わらなかったなとエルヴィオは思い返す。
経済活動だから別に頑張る気も起きないのが若いころのリヒト、ついでに兵隊というくくりにされるのが大層気に入らなかったという。
リヒトの若いころは自尊心というか良く分からないプライドが相当に強く。見ず知らずの他人と一括りにされるのは我慢が出来なかったのだ。
しかし、あの男が変だったのは、知り合いとだったら一括りにされても良いというか、嬉しがるところだった。良く分からない所で集団への所属欲求を見せるのが、リヒト・グレンという男だった。
エルヴィオは少し考えがまとまっていないなと思った。
このところ、歳のせいか思考が色々と脱線するのだ。そのせいで執筆にも影響が出ている。事実に忠実ではなく、エルヴィオの思い込みも入ってしまっているが、まぁ良いだろうと思った。事実と多少違っても巷のリヒトに関する本に比べればマシなのだから。
とりあえず、思い出す限りでは、リヒトが戦争に対して「どうでもいい」というスタンスから切り替わったのは、二十代に入ってからだったか?
世間的に言えば、二十代も若いころだが、なんというかリヒトが二十代になると“大人”になってしまったため、エルヴィオはどうしても二十代のエルヴィオを若いころとするのには抵抗があった。
二十代の頃のリヒトは戦争に対して「儲けるのに効率な行事」と見ていた。まぁ色々あったのだ。エルヴィオ自身もリヒトについて回っていたせいで色々とあった。だが、それを思い出し始めると色々と考えが脱線し、執筆に支障をきたすので止めることにした。
そして、三十代に入り四十代になる頃には、戦争を「養うための道具」とリヒトは見るようになっていた。何を養うのか?それは、まぁ沢山のものだ。結局、全員がリヒトに背負わせたのだ、何もかもを。自分もその一人であったことをエルヴィオは今では後悔している。
戦争など、どうでもいいと言っていた男が、結局、最後は戦争漬けの毎日、奴自身にも責任はあるが、いい加減、嫌になって消えたくなるのも分かる気がして、エルヴィオは、今は行方不明となったリヒトがまだ生きていることを信じながら、再び筆を進めるのだった。

 
 

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