『PHASE 21:広い広い大海原の小さな出会い』
ミーアがディオキアを出た後、アスランとポルナレフ、形兆は、ひとまずレイの待つミネルバに戻った。ルナマリアは街へ遊びにいくようだ。そしてシンはというと、基地でバイクを借り、走りにいくことにした。
デュランダル議長より武器商人ロゴスの話を聞いてから、シンは気が落ち着かない。一人でいると尚更だ。こういう時はバイクをかっ飛ばして、風で雑念を吹っ飛ばすにかぎる。
海沿いの道を突っ走り、ある程度スッキリした辺りで停車する。広い海を眺めるのにはいい場所だった。その青さが視覚を、潮騒が聴覚を、海風と潮の香りが触覚と嗅覚を楽しませてくれる。
空もまた青く、白い海鳥が飛んでいる。カモメ……いや、ニャアニャア鳴いているからウミネコか。
ふと気付く。岸の崖の上に少女が一人踊っていた。白いドレスを着た金髪の少女。背丈からして自分とそう変わらない歳だろうに、随分子供っぽいことをやっているなぁと思いながら、何となしにその動きを眺めていた。
狭い崖の上をクルクルと独楽のように回り、そして……
「……えっ?」
目に映ったものが理解できなかった。納得がいかなかった。普通そんなドジがあるか? そう思いながら、シンは海を覗き込む。そこには水面でもがく金色の髪と、頭上に上げられ宙を掻く両手が見えた。
「嘘だろ!? 落ちた!? しかも泳げないのかよ!?」
やがて少女は力尽き、だんだんと海中に沈んでいく。
「やばい!」
シンはすぐさま上着を脱ぎ、泳ぎやすくすると10メートルはある崖下へ飛び込んだ。舌には痺れる塩味。これで味覚でも海を堪能したわけだ。
着水のショックを受けるが、気にしてはいられない。少女の側に近寄って、その体を抱え、頭を水上に出してやる。
「……ぁあっ っ! ぁっ!」
だがパニック状態になっているのか、少女は両腕を振り回す。しかも力はその細い体躯に見合わぬ強さだ。
「こ……のっ!」
このままでは自分も巻き添えで溺れると思ったシンは、背後に回ってどうにか押さえ込みながら、いまだに暴れる少女を浅瀬へと連れて行く。
「あ、暴れるなよ! 死にたくはないだろ!」
思わず叫んだその一言が、少女にどのような影響をもたらすか、シンは考えもしなかった。
「……死……に」
「ん?」
急に少女の体から力が抜け、ぐったりとなる。
「お……わかってくれたか? そうそう、大人しくしていれば死なずにすむ……」
「イ、イヤァァァアァァッッッ!!!」
絶叫。
「うわっ! な、なんだ!?」
ようやく腰から上を空気中に出せる浅瀬までたどり着いたところで、少女は急に悲鳴をあげ、いっそう激しく暴れ始めた。そしてシンの拘束を無理矢理引き剥がすと、逃げるように、海へと向かって行く。
「お、おい!?」
「いやぁっ!! 死ぬのいやっ! 怖いぃぃぃ!!」
「待てよ! そっちに行ったらそれこそっ……!!」
シンは少女を追い、その手首を掴んだ。
「死ぬ……死ぬのッ! 撃たれたら死ぬのッ!!」
悲鳴と共に、掴んだ方でない片手が、振り回される。その手は鋭くシンの顔を打ち貫いた。
「ぐはっ!!」
思わぬ攻撃に、シンは弾き飛ばされる。口の中を切ったらしく、血の鉄くさい味を感じた。
「駄目よ! それは駄目!! 死ぬのは駄目!!」
「待つんだ!!」
海へと向かい続ける少女に必死で追いすがる。
「いや! 死ぬのいやっ!! 怖い!!」
「怖くない!! 俺が守るから!!」
シンは少女を強く抱き締めるようにして抑える。そして叫び、誓う。
「大丈夫だ! 君は死なない! 俺がちゃんと守るから! だからっ!!」
その言葉が届いたのか、単に疲れきったのか、少女の体から弛緩する。その顔がシンの方を向き、そのすみれ色の目が、はじめてシンの顔を映す。その目からは大粒の涙が溢れ、少女は泣きじゃくる。
「ごめんな……乱暴な口きいて……」
少女の頭を撫でながら、気の済むまで泣かせてやる。おそらくは、戦争か何かによって、心に深い傷を負ったのだろう。自分も妹や両親の死で傷ついたからわかる。自分はその時世話になったオーブ軍人や、ポルナレフ教官らに救われたが、彼女は立ち直りきれていないのだ。
「大丈夫……もう大丈夫だから……」
シンは優しく少女を慰め続けた。かつて、妹の面倒を見ていた頃のやり方を思い起こしながら。
「きみのことは、ちゃんと俺が守るから……」
「まも……る……?」
「うん、だからもう……大丈夫だから。君は死なないよ。絶対に」
我ながら大それたことを言っている。自分は特撮番組の正義の味方ではない。自分はあの生命力に溢れた教官でも、自分より遥かに豊富な戦歴を誇る隊長でも、彼らから聞かされた強き戦士たちでもない。
それでもこの言葉は嘘ではない。自分の命に代えても、この少女を助けたいと切に願う。こんな少女が、理不尽な不幸を背負っている。それこそが、彼が最も許せないと思うことだから。
シンは少女を連れて海から上がる。周囲を観察するが、岩場になっており上までよじ登って戻るのは無理そうだ。まして情緒不安定な少女まで連れていては……
「あっ……怪我してるの?」
少女を改めて見ると、足に傷があり血が流れていた。岩に擦れて傷ついたのだろう。
「ちょっと見せて」
シンは少女の足に持っていた白いハンカチを巻きつけ、止血する。その仕草を見ながら、ステラは少年の言葉を反芻する。
『守る』
言われたことのなかった言葉。
教育を受けているとき言われたことは、『戦え』『殺せ』。
ブチャラティたちに言われたことは、『生きろ』『強くなれ』。
前者は利己的なコーディネイターへの憎悪を込めて、後者はステラたちが生き延びられるようにという優しさを込めて、正反対の意図が込められた二つの言葉。
共通点があるとすれば、それはステラを戦士としてとらえ、かけられた言葉であるということ。
(なんだろう。なんだか安心する……)
「これでよし。しかしどうやって脱出するかな……」
呟きつつも、方法は考えていた。あまりやりたくはないが……
「また教官に笑われるか、隊長に呆れられるか……」
だが背に腹は代えられない。シンはため息一つつき、緊急信号を出す小型発信機を発動させた。この信号をキャッチし、そのうち救援が来るだろう。
「迎えを待っている間、あの岩陰にいよう? 風で体を冷やすといけない」
シンは少女をうながした。
「俺の名前はシン・アスカ……君の名前は?」
シンは、乾いた流木を拾ってきて焚き火を起こし、暖をとっていた。いくら温暖な気候とはいえ、濡れたままでいるのは体に悪い。
ちなみにシンは少女に背中を向けている。少女が今着ているのがショーツ一枚だけだからだ。少女は羞恥心というものがないようで、健康的ななめらかな肌、細い手足、全身の凹凸を惜しげもなくさらしている。
それが嬉しくないといえば嘘になるが、これ幸いとかぶりつきで見るほど恥知らずではない。従って、あの師匠がいたにしてはウブな少年にとって、この状況は生殺しであり、何か喋って気を散らさずにはいられなかった。
「ステラ……ステラ・ルーシェ……」
反応があったことに安堵し、彼女の住所や家族のことを聞いたが、成果はかんばしくなかった。ただ、ネオ、スティング、アウルという人たちと一緒に暮らしていることくらいだ。
(ここを出たら、その人たちを探さないと……)
そう考えていた少年は、背後で少女が何やら動いているのを感じた。
「シン」
名を呼ばれ思わず振り向き、肌色を目にして慌てて顔を背けるシン。そんなシンに首をかしげながら、ステラは右手を少年に向けて差し出す。その手の上には、ピンク色の桜貝が置かれていた。さきほどステラが拾い、宝物にしようとしていたものだ。
「……くれるの?」
ステラは微笑んで頷いた。
「ありがとう」
シンもまた微笑んで受け取る。ステラは、少年が喜んでくれたことで、自分もまた嬉しい気分になった。
二人がそんな歳の割には微笑ましい時間をすごしているうちに、日は沈み星が輝き始めたころ、ようやくエンジンの音が彼らの耳に聞こえてきた。
「休暇中にエマージェンシーとは、やるときはホント、派手にやってくれる奴だな君は!!」
「こんなとこで遭難するとは物好きだなオイ!!」
「隊長!! 教官!!」
シンが最も頼りにする上官二人の声に、シンは安堵する。
「断っておきますけど、遭難したわけじゃないですよ。ただちょっと……」
シンが言い訳をしているうちに、彼の背後から裸身の美少女が現れたことに二人の救援者は目を丸くした。
シンとステラは無事救出され、ポルナレフと共にアスランの運転するジープに乗っていた。
「この子が崖から海に落ちちゃって……助けてここに上がったはいいけど動けなくなっちゃって……」
「ふーむ、運の悪いやつかと思っていたら、実はラッキーだったんだなこのヤロウ」
ポルナレフが、支給した毛布を体に巻いたステラを見ながら言う。ポルナレフは、シンがこの少女に強い関心を寄せていることを見抜いていた。
「しかし名前しかわからないとなると、ザフト基地に連れて帰って、そこで身元を調べてもらうしかないな」
あらましを聞いたアスランの提案は、しかし無用に終わった。
「ステラ~~っ!!」
「どこだ~っ!! この馬鹿ぁ~~っ!!」
少女を呼ぶ声が聞こえてきたから。
「スティング! アウル!」
ステラが二人の少年の名を呼ぶ。それで少女の知り合いと確信したシンたちは、彼らの元へとジープを進めた。
「ったく! どこに行ったんだあの馬鹿!!」
アウルが罵る。だがその声には怒りだけではなく、心配と焦燥があった。スティングとアウルにとって、ステラは同じ場所、同じ環境ですごした仲間だ。心配しないわけがない。
「怒鳴っても仕方ねえだろ……見つかるまで探すしか……」
アウルをなだめるスティングが、ふと自動車のライトが近づいてくることに気付いた。
「スティング~~! アウル~~!」
二人のエクステンデッドは、ステラが見つかったことに安心しながらも、彼女が乗るのがザフトのジープであり、しかも赤服が二人も乗り込んでいることに驚愕する。
しかし相手の雰囲気から、こちらの正体がばれているわけではないと判断し、堂々と振舞った。
彼らの内心を知らず、ステラは喜びの声をあげてジープから跳ね降りる。
「心配かけやがって。ブチャラティたちも別のトコ探してんだから、帰ったら謝るんだぞ」
アウルが腕組みをして偉そうに言う。ポルナレフはアウルの言った名前に聞き覚えがあったが、同姓の別人だろうと気にはしなかった。
「海に落ちたのを助けていただいたとは……ザフトの方々には本当に、色々とお世話になって……」
スティングが礼を言うと、シンは照れて頭を掻く。
「いえ、そんな……気にしないでください。良かったねステラ。お兄さんたちに会えて」
「うん!!」
ステラが元気良く頷く。スティングはその様子に少々意外の念を抱く。
(今日初めて会ったばかりの人間に、ステラがこんなに懐くなんて)
「……では私達はこれで」
アスランが言い、基地へと引き返す準備をする。シンもジープに乗り込んだ。
「シン、行っちゃうの?」
「ステラ……」
雨に濡れた子犬のように悲しげな目をするステラに、シンは心を針で刺されるような痛みを覚える。
「迷惑をかけるなステラ」
スティングにたしなめられても、まだ納得できないらしいステラ。
ジープが動き出し、見送るステラの切なそうな顔に、シンは気がつけば声を出していた。
「また会えるよ! ていうか、会いに来るから!」
名前以外何も知らない少女に、シンは叫んだ。住所も知らないのに、また会えるも無いものだが。そのときのシンは本気で、また会おうと思っていた。
(また会おう、ね……。会えるかもな。運命っていうのは時々味なマネをするもんだからよぉ……)
ジョナサン・ジョースターがエリナ・ペンドルトンに会ったように。ジョセフ・ジョースターがスージーQに出会ったように。
(せめてこの時代、そんくらいのロマンチックがなきゃあよぉ……)
ポルナレフは教え子の淡い想いが実ることを祈っていた。
「シン……」
ステラは少年の名前を呟く。それだけで、ステラは自分が少年に守られているような暖かさを感じる。
シンの存在は、ステラの傷を癒していた。
『死』。ステラに架せられたブロックワード。兵器としての暴走を止める鍵。
ダイアーの波紋によって、薬物の副作用よりまぬがれてなお、彼らエクステンデッドを苦しめる呪い。ブチャラティたちでも消せなかったその呪縛を、シン・アスカはなんら気付かぬままに解こうとしていた。
ステラが戦士であると知るがゆえに、誰もかけることのなかった『守る』という言葉と行為。戦士にとっては、あるいは侮辱と受け止められるかもしれないその言葉は、ステラには良い方に作用した。
『死』から『守る』という言葉が、彼女をブロックワードから守ったのだ。
それはシンがステラを知らなかったという、無知ゆえの幸運か。否、それだけではない。シンという男が、人を『守る』と言うに相応しい戦士であったがゆえ。彼の言葉に、覚悟と信念が篭っていたがゆえ。
まさしくこの少年少女の出会い(ボーイ・ミーツ・ガール)は運命と言えるだろう。
だがこれは始まりに過ぎない。シンの誓いが、ステラの救いが、守り抜かれるかどうかは、いまだ見えざる試練を乗り越えられるかどうかは、まだ見えぬままだ。二人の命を運ぶ運命は、まだ動き始めたばかりである。
―――――――――――――――――――――――
「一体どうなっているのです!!」
ロード・ジブリールは怒りに震えながら、モニターに映る顔に向けて怒鳴りつけた。振り下ろされた拳がデスクを打つ。
「それは君だって知っているだろう? プランの準備が完全に調っていなかったところへもってきて、あの未曾有の大被害。それでも君の言うとおり、強引に開戦してみれば、プラントへの核攻撃もかわされ、オーブはプラントと手を結び、あっという間に手詰まりだ」
モニターに映る、大西洋連邦大統領コープランドが辟易とした調子で答えた。
「これではあちこちで民衆がはねっ返り、ゴリ押しで結んだ同盟が綻びはじめるのも無理ないさ」
(こいつ……ろくに反論もせずに言いなりに開戦をしておいて、この状況になってから『だから嫌だった』などと、こちらに責任を押し付けるようなことを……!! この最低の無能が!!)
ジブリールは、自分が反論させないように仕向けたことを棚に上げ、怒りに燃える。
「私はそんな話が聞きたいのではない! そんな現状に対して、あなたがどんな手を打ってらっしゃるのかを、聞いているのです!! コーディネイターを倒せ、滅ぼせと、あれだけ盛り上げてさしあげたのに、その火を消してしまうおつもりですか!?」
「いや、それは……」
コープランドは苦い表情になる。正直コープランドは、自分の地位と権力さえ安泰ならば、コーディネイターの撲滅など大した執着はないのだ。だがブルーコスモスの支援を失えば、地位が危うくなるから従っているに過ぎない。
「弱い者はどうせ最後には力の強い方につくんです! 勝つ者が正義なんですよ! そんな簡単な法則すらお忘れですか、大統領!」
「ジブリール……」
そうは言われても納得はいかない。圧倒的な物量によってすぐに勝負がつけられると思われた戦争は、ほぼ互角のままずるずると長引いてしまっている。戦争を続けるのはつらい。だが恥を受け入れてまで止めるほど致命的な被害はない。なんとも選択の難しい戦況だ。
だがそれでもジブリールはこの戦争、勝たなくてはならなかった。アズラエルの死後、弱体化し続け、ジブリールの尽力でようやく立て直された『ブルーコスモス』。ここで成果を出せなければロゴスからも見捨てられてしまう。
ロゴスの後ろ盾が無ければブルーコスモスなど、そこらの過激な環境保護団体と変わらない。それがわかっているからジブリールも焦る。その焦りを隠し、表面上はあくまで強気に叫ぶ。
「我らが力を示さないから、はねっ返りが出るんです! ならまずそこから手を打ってください!! ユーラシア西側のような状況を、いつまでも許しておくから、あちこちではねっ返りが出るんですよ! そのために『スリーピング・スレイヴ』もつくったというのに!!」
疎ましく思っているブチャラティたちの部隊さえ手札として出しながら脅しをかける。
「確かにスリーピング・スレイヴはよくやってくれているが、それでもなお足りん! 我々とて手一杯なのだ!!」
スリーピング・スレイヴの交渉、あるいは実力行使により、反乱は多少食い止められている。だが一部隊ではいくら有能といえ手が足りない。
「戦力は限られているし、人員の問題もそうそうは……だいたい、君のファントム・ペインやブードゥー・キングダムだって、大した成果は上げられていないじゃないか!!」
コープランドの逆襲に、ジブリールも言葉に詰まる。確かに戦艦ミネルバはいまだ沈めることができず、おかげでミネルバやそのクルーは、勝利の象徴として士気高揚に多大な効果をあげているようだ。
シン・アスカやアスラン・ザラを大々的に紹介したプラントの雑誌やTVニュースを思い出し、ジブリールは歯噛みする。
(逆に言えば、あれを落とせれば敵の士気はガタ落ちになるということだ……!!)
ジブリールはミネルバを討てぬネオ・ロアノークに怒りを向ける。だが現在のところ、彼に頼るしかない。そのためにブチャラティと合流もさせたのだ。目的のためには手段は選ばない。
「いいでしょう……近いうちに必ず、あの忌まわしい船を落として見せましょう……!!」
ジブリールはコープランドの顔を、仇を見るような目で睨みながら通信を切った。
「……ふう。ジブリールめ。何が『勝つ者が正義』だ。ならばやはり、お前は正義ではない……」
コープランドは吐き捨てながら、温かみのない笑みを浮かべる。
「そしてそう……スリーピング・スレイヴは本当によくやってくれているよ……それこそ、ロゴスを滅ぼそうというほどにね」
軍需産業複合体ロゴスは国際的な巨大企業だ。たとえ国家でさえ、その巨大な経済力には太刀打ちできない。確かに言うことに従うことで得られる恩恵もある。大西洋連邦がこの世界でリーダー面をしていられるのもロゴスの協力あってこそだ。
(だが……この戦争は危険そうだ)
コープランドとて大統領にまでなった政治家だ。ロゴスの先行きは、明るいものと断言できなかった。1年前ならば断言できたが、今となっては。
(スリーピング・スレイヴという反乱者が出ているだけでも、それは感じ取れる。今まで反乱者の芽さえ出させなかったロゴスの支配が、緩んできているのだ)
ブチャラティやアバッキオといったメンバーと顔を合わせ、彼らならやれるかもしれないと判断した。だがまだ可能性の段階だ。
今裏切って、ロゴスを倒せなければ破滅だ。かといって大西洋連邦優位の世界にこだわり続けてロゴスに味方し、挙句にロゴスと共倒れになればそれもまた最悪だ。
(いつ……どちらにつくか……その見極めに、私のすべてがかかっている……!!)
ふらふらと揺れ動くコウモリはコウモリなりに、未来を手に入れようと前向きに行動している。誰もが、それぞれ戦っているのだ。
王は王なりに。戦士は戦士なりに。強者は強者なりに。弱者は弱者なりに。正義は正義なりに。邪悪は邪悪なりに。
それが、生きるということなのだから。