Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第05話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:35:01

鳥が騒ぎ出す時間帯。
シンは目を冷まし、ベッドの上で体を起こす。
欠伸を噛み殺しながら、共同の手荒い場へ洗顔用具をもっていくと、そこにはエリオとキラが先にいて、歯を磨いていた。
「おはようございますシンさん。」
「おはよう、シン君。」
「はよッス。」
三人で並んで歯を磨き、口の中をゆすいで、着替を済ませ、今日も訓練場に向かう。
「じゃあ、今日から個別のスキルの訓練に入るからね。
え~と、私がティアとキラ、それからシンがシグナム副隊長でスバルはヴィータ副隊長。
エリオとキャロはフェイト隊長。」
はいっと覇気の篭った返事を返す一同。
「それじゃあ、みんな、各自別れてね。」

「シン・アスカ、残念ながら私は古い人間だ。」
二刀のエクスカリバーを構えるシン。シグナムはレヴァンティンを構えている。
「作戦…などと言われても私には『届く距離まで近付いていって斬れ』としか言えん。」
シグナムの腰が沈む。
「だが、お前に経験を積ますことならできる。手加減はするな、全力で来い!」
来る!
シンがそう思ったときには間合いは一瞬にしてつめられ、縦一閃が繰り出される寸前だった。
「ちぃっ!早い!!」
バシィィッ!!
と音をたて、縦一閃を受ける。
足が地にめり込みそうな感覚に襲われた。
「どうした?そんなものか?なら…おおぉぉぉぉ!!!」
シンはエクスカリバーの実体部を足で思いきり蹴り飛ばし、その反動でシグナムを突き放す。
「非殺傷設定だが…当たれば悶絶ものだぞ?」
背後で囁かれる声。
慌てて振りかえるシン。繰り出される斬撃を紙一重でかわす。
(殺らなきゃ、こっちが殺られる!)
シンは訓練なんて気持を捨て、今度はこっちから向かっていく。
エクスカリバー二刀による縦と横の連撃。だが、標的であるはずのシグナムの姿が消え、シンの斬撃は空を斬る。
「いや、消えたんじゃない!!」
太陽を背にして落ちてくる影。飛び退くシン、際どいタイミングで地を切り裂く斬撃。
「動きは追えているようだな。射撃魔法も使いたければ使ってもいいぞ?
どうにかして私に一撃を入れてみろ!」
フッ!と響くシグナムの呼吸音。シンは大きく跳躍し、アロンダイトの片方を振りかぶる。
『フラッシュエッジエクスカリバーシフト』

陰が避けるのが視界に入る。
迷わず、羽を展開。
魔力噴射し、その勢いを利用、シグナムへと斬りかかる。
「はぁぁああ!!」
レヴァンティンで強引にエクスカリバーを弾き、そのまま返す刀でシンに斬撃を叩き込む。
シンも同様に崩れた体制を建て直し、シグナムに斬撃を叩き込む。
舞い散る緋い稲妻が、シンとシグナムの周囲を駆け巡った。

実際、シグナムとの訓練は楽しい。
一々細かく教えない。習うより、慣れろ。まさにその為の訓練と言っても過言ではない。シンの集中力が増し、気分が高ぶっていく。
『CIWS』
無数に出来ていく緋い光弾。
シグナムがエクスカリバーを弾くと同時、放たれる無数の光弾。
上昇してシグナムはかわす。しかし
「逃がすか!デスティニー!」
『リフレクションシールド』
障壁が上昇したシグナムの下方に発生。
CIWSは障壁に着弾後、反射してシグナムへと向かっていく。
横に飛翔してかわすシグナム。
「逃がさないと行ったろ!!エクスカリバー!」
地に突き刺さったままの片方の大剣がシンの手に収まり
『エクスカリバーアンビデクストラスフォーム』
連結し、そのままシグナムに縦一閃。
上段からのエクスカリバーを防ぐが、直後
「何ッ!?」
下段からのエクスカリバーがシグナムの顎を狙う。
(コイツ!?)
「ちっ、外したか…。」
シグナムはレヴァンティンを持つ手に汗をかいているのに気付いた。

「じゃあ、ティアはそこに立ったまま休憩。休憩の間に反省点の改善、考えててね。休憩出来るかはキラ次第だけど…。
さぁ次はキラの番。」
「はい。」
なのはとキラは飛翔を開始する。
「キラの役割は全体のサポート。
広い視野で場を見渡し、フロントアタッカーのスバル、シンのサポートはもちろん、キャロやエリオのサポートもこなさなきゃいけない大変なポジション。
さぁ、訓練行くよ?
ティアに一発でも当たったら…ティアからのお仕置きが待ってるからね?」
ニコっと笑うなのは。
ティアナはなんのことやらさっぱりな様子で、水分をとりながらたったまま休んでいた。

訓練の内容はこうだ。
なのはがキラとティアナにアクセルシューターを放つ。
自分を狙うアクセルシューターを破壊、またはかわしつつ、ティアをも狙うアクセルシューターを撃ち落とすと言うものである。
「それじゃあ…、行くよ!スタート!!」
無数の桜色の光弾が滑らかに不規則な軌道を描き、キラを、ティアナを狙う。
ここから先はキラの判断と射撃の精度がティアナの休憩時間を左右する。
ティアナは立ったまま呆然としていた。何が始まったの?といった感じだ。
アクセルシューターを避けるキラ、顔に焦りの色はみられない。
ティアナに近付くアクセルシューター四発を正確に撃ち落とす。
うまく飛翔魔法の加、減速、上昇降下を駆使してかわしていき、アクセルシューターがティアナの半径十メートルほどにはいるとクスィフィアスと通常射撃の一斉射撃で破壊する。
「うん、いいよキラ、その調子。」
側宙しながらの射撃で自分を狙うなのはのアクセルシューターを一つ破壊。
振り向き様に、背後のアクセルシューターを破壊する。
そして、左右のフリーダムのトリガーを引き、腕をクロスさせてもう一度引く。みるみる減っていくアクセルシューターの数。
「数を増やすよ!」
最初の二倍の数。
ティアナを八つのアクセルシューターが囲む。
「ぐっ!!」
消費される左右のフリーダムの一発ずつのカートリッジ。
『ドラグーン』
翼が八方向へと散り、直線的な軌道を不規則に変えながら八つのアクセルシューターを八つのドラグーンが破壊する。
「す…すごっ…。」
ティアナにはそれしか言えなかった。
目の前を閃いた蒼い閃光がアクセルシューターを撃ち落としたのだ。
ドラグーンはキラ付近の宙域に停滞する。
「ターゲット、マルチロック!」
『All, right』
さらに二発、左右一発ずつフリーダムから弾きとばされるカートリッジ。
消費されたドラグーンに魔力を供給する。輝きを取り戻す八枚の(発射体)つばさ。
振りあげ、目標へと狙いを定められるフリーダムの銃口。
腰部の持ち上がる砲芯。
膨れ上がる膨大な魔力が、トリガーを引くと同時に解放される。
『フルバーストドラグーンプラス』
発射される十三本の蒼い奔流が全包囲で放たれ、キラを囲むアクセルシューターを一掃した。

「はぁぁああ!!」
「おぉぉおお!!」
互いに咆哮を張り上げつつ、フェイントを掛け合い、一度すれちがってから刃を打ち合う。
「慣れてきたか?シン・アスカ!」
「あぁ、いや、えぇ、見えますよ!あんた…副隊長の動きがね!!」
「デスティニー!!」
『Load Cartridge』
弾きとばされる薬筒、展開される翼から勢いよく噴射される魔力。
二本のエクスカリバーは一本の長剣、アロンダイトへと形状を変え、シグナムを弾き飛ばす。
「ぬっ!?」
『High speed thrust』
切っ先に発生する魔力刃。バランスを崩すシグナム。そこへ、シンは最速渾身の突きを繰り出した。
「狙いはいいが…甘い!レヴァンティン!!」
弾きとばされる薬筒。
『紫電一線』
刀身を中心に渦を巻く炎。文字通り、紫電をともなった一撃が、シンの突攻を阻んだ。
「…そんな…何で!?」
崩した体勢を建て直すシン、しかし、振り向く前に
ゴッ
鈍い音と共に意識を失った。

「ちょっ…。」
目前にまで迫ったアクセルシューターに目を閉じるティアナ。
「数が…ぜぇっ!…多すぎる。」
『フルバーストドラグーンプラス』
ほとばしる十三の奔流がティアナを囲む十六発のアクセルシューターのうち十三発を撃ち落とす。だが、十三では足りない。
なので、両腰のクスィフィアスと通常射撃一発の計三発を自分を狙うアクセルシューターの隙間に体を通し、かわしながら降下。
そして三本の奔流を放ち、残り三つを破壊。
ホッとするティアナ。
左右から挟むようにキラを狙い来る桜色の光弾。
紙一重で後退。
直後背中を走る衝撃。
「がっ…。」
その衝撃で前に突き飛ばされるキラ。
「まぁ、ここら辺が限界かな…。」
全包囲からキラを狙い撃つアクセルシューター。
爆煙に包まれ、キラは意識を失った。

「は~い、午前の訓練終了。皆、集合!」
なのはの掛け声にティア、スバル、キャロ、エリオ、キラが集合する。
「あれ?シンは?」
シンがいないことに気付いたフェイトが皆に聞くが、どうやら知らないようだ。
すると、シグナムが木陰から姿を現す。
片手にレヴァンティンを握り、もう片方はシンの訓練服の襟首を掴み、ずるずるとひきづって来ていた。
「すまん、やりすぎた…。」
「あはは…、じゃあ、シンくんはシャマルさんのところに連れていってあげて。」
「その必要は…ありませんよ?」
なのはの指示に答えるのは引きずられているシンだ。
ゆっくりと立ち上がり、フォワードメンバーの集合地点まで集合した。
「はい、お疲れ。
個別スキルに入るとちょっときついでしょう?」
なのはの言葉に、
「ちょっと…はぁっ…というか…はぁっ…。」
「かなり…ぜぇっ…ぜぇっ…。」
ティアナとエリオが答える。
「フェイト隊長は忙しいから滅多に顔だせねぇけど…、私は当分、お前らにつきあってやっからな。」
とグラーフアイゼンを構えながらヴィータ。
「私も、いい訓練相手が出来た…。当分はつきあってもらうぞ、シン・アスカ。」
「マジ…かよっ?」
シンとスバルの顔が青ざめた。

とりあえずは解散。皆で局へと戻る途中。
玄関口前で、はやて、シャーリー、リィンフォースと会った。
「おぉ、皆、頑張っとるようやな。」
汚れまみれになった訓練服と、顔を見たはやてが笑いながら言った。
「あっ、そうそう、スバルは何か伝えて欲しいこととかある?」
聞けばスバルはこれからナカジマ三佐と会うらしい。
ちなみに、ナカジマ三佐、とはスバルの父親のことである。
「いぇ、大丈夫です…。」
スバルは遠慮した。
それに、そうかと頷き、はやては車に乗ってエンジンをかける。
それからなのは、フェイト、ヴィータ、シグナムとフォワードメンバーに見送られはやては出発した。

食堂。
「なるほど…、スバルさんのお姉さんとお父さんは陸士部隊の方なんですね…。」
フォークを器用に使いパスタをくるくると巻いて口へ運ぶキャロ。
「うん、八神隊長も…むぐ…いひひぎ父はんの部隊では研修してたんだって…んぐ…。」
個皿に盛った大盛りのパスタを平らげていく。
黙々とパスタを口に運ぶエリオ。
シンはと言えば、「ふ~ん」とか「へ~」とか関心なさそうに答えながら大皿からパスタを個皿にとりわけている。
そして、その隣で個皿に半分パスタを残したまま青い顔をしているキラ。
「しかし、うちの部隊って関係者繋がり多いですよねぇ…。
隊長たちも幼馴染み同士なんですっけ?」
とティアナ、向かい合って座ってパンを食べているシャーリーに聞いてみた。
「そうだよ。なのはさんと八神部隊長は同じ世界出身。で、フェイトさんも子どもの頃はその世界で暮らしていたとか…。」
「え~と、たひか、管理外世界の97番ですよねぇ?」
と会話が進むなか念話を使って話をするシンとキラ。普段は会話を交さないが、周囲の状況に取り残されると、そこはやはり同じ世界の人間で息が合っているのかこうやって会話をしたりする。
「(話…分かります?)」
「(うぅん、全然。)」
「(ところで、パスタ食べないんですか?)」
「(運動したあとって食欲って湧かないものじゃない?)」
「(それはあんただけですよ。食っとかないと、午後の訓練もちませんよ?)」
「(うん、そうも思うんだけどねぇ…。)」
「(思うんなら食べてみたらどうですか?)」
「(ちょっと…黙ってて。何か様子が変だよ?)」
何だか場の雰囲気が暗い。「そ、そういえばキラは私と同じ精密射撃型だけど戦い方随分違うわよね?」
唐突に話題を振られるキラ。
「あぁ、それ、私も思った。ティアとも違うけど、なのはさんとも違うよね?」
「そう…かな?あんまり深く意識したことはないんだけど…。」
「それに、今日の訓練みてて思ったけど…。よくあれだけの弾数を正確にコントロール出来るわよね?」
この話題にシャーリー、エリオ、キャロも加わり、シンとキラはコーディネイターについて説明しなければならず、昼休みはそれに費やされた。

時空管理局、首都中央地上本部

暗い暗い暗室。
その一角にともるモニターの光。
「レリック事態のデータは以上です。」
「封印はちゃんとしてあるんだよね?」
響くのは二人の声。
一人はシャーリーで椅子に座ってモニターを操作しており、もう一人はフェイトだ。
「はい、それはもう厳重に…。
それにしても…、よく分からないんですよね…レリックの存在意義って…。」
赤い宝石の様な結晶。
「エネルギー結晶体にしてはよく分からない機構があるし…。
動力機関としても何だか変だし…。」
「まぁ、直ぐに使い方が分かるようなものならロストロギア指定はされないもの。」
シャーリーの疑問にフェイトは答えた。そんな時にもかわりつづける画面の映像。
「あ、こっちはガジェットの残骸データ?」
「はいっ、こっちはヴィータさんやシグナムさんが捕獲してくれたものと変わらないですね…。
新型は内部機構自体は大差ないし…。」
とキーを操作し、次々と画面を入れ換えていくシャーリー。
「あっ、ちょっと戻してくれる?さっきの三型の残骸写真。」
シャーリーはフェイトの注文通りに画面を戻していく。
「たぶん、内燃機関の分解図…。」
付け加えるフェイト。
「というと…この辺りとか?」
「それ!」
ある一枚の画像がフェイトの目に止まる。
中心に青い宝石の様なものが付属していた。
「これ…宝石?エネルギー結晶か何かですかね?」
画像を拡大していくシャーリー。
「ジュエルシード…。
随分昔に、私となのはが探し集めてて…、今は局の保管庫で管理されてるはずのロストロギア…。」
「あぁ、なるほど…って、何でそんなものが?」
「シャーリー、ここ、この部分を拡大して!」
シャーリーの疑問をそっちのけで指示するフェイト。赤い盤面上に無数に走る白いラインと文字。そして中心にはジュエルシード。
その直ぐ横に黄色いプレートの様なものが張り付いており、何かが書いてあった。
シャーリーは指示通りに拡大して行く。
「これ…名前ですか?ジェイ…。」
「ジェイル・スカリエッティ…。ロストロギア関連をはじめとする様々な事件に数えきれないくらいに関与していて…、超広域にわたって指名手配されている一級指名手配犯…。
ちょっとしたわけがあってね、この男のことは前から追ってるんだ…。
たぶん、この事件に私となのはが関わっているのをしっているんだ…。」

フェイトは一旦言葉をきり、再び口を開く。
「これが本当にスカリエッティだとしたら、ロストロギア技術を使ってガジェットを製作できるのも納得できるし…。
レリックを集めている理由も想像がつく…。
シャーリー、このデータをまとめて、急いで隊舎に戻ろう。
隊長たちを集めて緊急会議をしたいんだ。」
「はい、今直ぐに…。」
シャーリーはデータのまとめを開始した。

隊舎に戻る帰路。
「ドクタースカリエッティでしたっけ?
あの広域指名手配犯…。」シャーリーは気になっていたことをフェイトに聞いた。
「その人がレリックを集めてる理由って…例えばどんな?」
フェイトは車を運転しながら、その表情を険しくさせる。
「あの男は、ドクターの通り名どおり生命操作とか生体改造に関して異常な情熱と技術を持ってる…。
そんな男がガジェットみたいな道具を大量に作り出してまで探し求めるからには…。」
フェイトは言葉を切った。シャーリーも大方想像はついたのだろうか、それ以上質問はしなかった。

とある研究所。
通路を歩く白衣を身に纏った男がいた。紫色の髪に、鋭い目付き、黄色の瞳。
男は無言のうち、不適な笑みを浮かべながら歩き続ける。
通路に響く足音。
そして、照らし出すぼんやりとした光が周囲の環境を露にする。
何十というかずのナンバーをふられたカプセル。
内容液とともに閉じ込められている裸の少女。
男はそんな異常とも呼べる周囲の状況をさして気にとめることもなく、一つの部屋と呼べる空間で足をとめた。
すると、タイミングを見計らったかのようにうつるモニター。
映っているのは女性だ。
『ゼストとルーテシア、活動を開始しました。』
「ふん…、クライアントからの指示は?」
女の言葉を聞き、鼻で笑う男。
『彼らに無断での支援や協力はなるべく控えるように…二人も特別に同行させることを許可しているのだから…とメッセージが届いてます。』
「自律行動を開始させたガジェットドローンは私の完全制御下というわけじゃないんだ。
勝手にレリックの元に集まってしまうのは多目にみてほしいね…。」
『お伝えしておきます。』
「彼らが動くというのならゆっくり観察させてもらうよ。彼らもまた、貴重で大切なレリックウェポンの実験体なのだからね。
まぁ、あまり出すぎた真似をするなとアレックスには伝えておくよ。」
男はそういうと通信をきり、別の通信回線を開いた。