Seed-NANOHA_129氏_第04話

Last-modified: 2007-12-23 (日) 01:53:07

「ん……」



カーテンの隙間から、光が差し込んでくる。

眩しさにわずかばかり、シンの意識は目覚めへと向かい覚醒を始める。

(あれ……光……?俺……)

朝日による目覚めというシュチュエーションに、まどろみの中シンは違和感を感じた。

眠っていて朝の光が原因で目覚めたことなど、このところあっただろうか、と。

ミネルバの自室には当然のごとく窓がなく、そのようなこと有り得ない。

(ん……ここ……どこだっけ……?)



疑問は感じたが、それよりも眠気が勝った。

そんな彼はこっそりと部屋に入ってくる小さな人影に気付くことなく

ごろりと寝返りを打ち顔に当たる日光を遮断する。



────が。



「おっきろー!!朝だ朝だ朝だーっ!!!」

「ぐええぇっ!?」

直後、大きな音を立てて胃の上辺りに強い衝撃を感じ

激痛に彼は一気に目を覚ます。



「おきねーと、ギガントで潰しちまうぞー!!」

「……お前か」



顔をあげて見たそこには、赤毛を三つ編みにした幼い少女の顔があり。

横になったシンにまたがり、わめきちらしながら肩を乱暴に揺すり続けていた。

大方先程の衝撃と痛み、圧迫感は彼女がシンに向かいボディープレスでも敢行したのだろう。

「『お前』じゃねーよ。ヴィータだっつったろ」



ちゃんと人の名前は覚えないとだめだって、はやてが言ってたぞ。

生意気な少女はがさつな口調でそう言うと、心底楽しそうに笑った。

そして笑い、一度立ち上がり。



「おぐっ!?」

もう一度、きれいにシンの鳩尾の上あたりに豪快なヒップドロップを投下してきたのだった。

痙攣するシンを、彼女は彼に乗ったまま見下ろしていた。



魔法少女リリカルなのはA’sdestiny



第四話 八神家にて



「どや、うまいかー?」

「ああ、うん……まあ」



この状況は一体、なんなんだろう。

時空管理局で目を覚まし、魔法というものを見せられたとき以上にシンは困惑していた。

食卓を囲むのは五人、プラス子犬が一匹。

家主の八神はやてという少女のつくった朝食はなかなか美味しく。

献立は炊いた白米に味噌汁、焼いた魚にベーコンエッグという、和なのか洋なのか

微妙なところの品々。日本文化の影響を受けたオーブにいたシンにとっては

さほど問題ないものであったのは、幸いである。

「……」

「う」



問題はなにかというと、それではなくて。

「なんだ」

「い、いえ。別に」

向かい側の席に座る、緋色の髪の女性──シグナムの突き刺すような目線であった。

「なんや、うちに男の子がいるって新鮮やわー。さ、遠慮せんで」

「あ、ああ」

「……」

はやてがシンに話しかけてくるたびに、彼女はきつい目で睨みつけてくる。

これではせっかくの食事の味も、わかったものではない。

「いただきーっ!!」

「あ?あ!!こら!!」

そして隣から、ヴィータにベーコンの最後の一枚をかっさらわれる。



「主はやて、そろそろお時間です」

「お?ほんまかー。んなら行かんとな。シンさんはゆっくりしとってな」

相変わらずシンのほうを睨んだままのシグナムの促す声を受け、はやてが立ち上がりエプロンをはずす。

その下は小学校のであろう、白い制服だ。

「あれ?使わないのか、あれ」

ふと疑問に思い、シンは部屋の隅にある車椅子を指す。

大きさ、背格好的に見ても彼女のものだろうし、時折足をひきずるような仕草をしていたから

外出時はてっきり使うものだとばかり思っていたのだが。

「あー、あれな。よっぽど遠出せん限りは平気やから」

「そっか」

「ほな、行ってくるなー」

「はい」

「いってらっしゃい、はやてー」

「はやてちゃん、いってらっしゃい」



リビングを出て行くはやてを見送る八神家一同に混じり、シンも

小さく手を振った。見るとやっぱり、シグナムがこちらを睨んでいた。



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「ったく、なんなんだよあの人……」



シグナムに睨まれながら残りの朝食を平らげ。

ヴィータにせがまれてぎゃあぎゃあ騒ぐ彼女のTVゲームの相手をさせられて。

二人が出かけてからようやくシンは、

ぎすぎすぎゃあぎゃあした空気から離れ、安堵の溜息をつくことができた。



「まあ、のどかな世界ではあるけどさ……。レイやミネルバのみんな、どうしてんのかな……」

「シグナムのアレは、警戒しているのだろう。主はやてをお守りするのが我々の使命だからな」

「使命、ねえ。そうですか─────……ん?」



ソファに沈没するように腰を下ろした彼は、話しかけてくる野太い男の声に頷く。

頷いてから、はたと思う。

この家に自分以外に男がいただろうか、と。

たしか女4人と、犬が一匹いるだけではなかったのか。



「あれ?」



声のしたほうを見ても、変わった毛色の子犬が一匹、ちょこんと座っているだけ。

「気のせいか?」

「何を言っている?ここだ」

「うわ!?犬!?」



──犬が、しゃべった。



犬の発した野太い男らしい声に、シンは驚きのけぞる。



「犬ではない。守護獣……狼だ」

「はい?」



いや、どう見たって犬じゃん。どこが狼だよ。

つっこんでから、シンは自分が普通に犬としゃべったことに更に驚きを増していく。

魔法だとか、別次元だとか。

もう何があっても驚かないだろうと思っていたのに、速攻で覆されてしまった。

なんなんだ、この世界の住人は。



「ザフィーラだ。シグナムのあの態度は、主を思うが故。許してやって欲しい」

「はあ」



頭を下げた子犬……ザフィーラに、かくかくと頷くシン。



「これも……魔法、とかいうものなのか?」



やっと、そう言って返すのが精一杯で。

彼の指差す意味に気付き、

子犬(本人?曰く狼)はしばし考えてから同意を示す。

「……そんなものだな。一種の変身魔法といえる、な」

「へ、へー……」

だから、変身魔法ってなにさ。

言いたくても、聞いたところで説明されても自分にはわからないだろうと、ぐっと堪える。

これ以上は混乱して、頭が痛くなりそうだ。



(少し……懐かしい声だな)



どこかで聞き覚えのある声に、子犬の放す声は似ているように思えた。



「シンくーん?」

「あ、はい?シャマルさん?」



洗濯物を干していたシャマルが、ベランダから戻ってきた。

エプロンを外して、財布の中身を確認している。

この家で最も人畜無害なのは今のところ、この人とはやてだった。



「なんです?」

「あなたのお洋服とか、生活用品買いに行くから、お買い物いきません?今から出かけようと思いますし」

「あ、なるほど」



確かに、とシンは自分の格好を見て納得した。

局からこの家に来たときには服といえばデスティニーに積んでいた

予備の軍服とノーマルスーツ、入院着しかなかったから、

現在の彼はかなりラフ。Tシャツに、ジーンズ。

いずれも少々大きいが、シグナムからの借り物だ。

女系家族に男が一人だ、色々入用なものもあるだろう。



(まあ、焦ってもはじまらないし……な)



どの道、帰る手段が見つかり、デスティニーの調査が終わるまでは身動きはとれないのだ。

出歩いてこの町を知ったり、気晴らしをしないと精神が悶々としてしまうだけだろう。

なるべくはやく戻らねばならないのには変わりないが、時間は有効につかうべきだ。



「そうですね。行きます」



シンは彼女の提案を受けて、出かける気になっていた。



つづく。