W-Seed_380氏_第04話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 12:58:21

頭が割れる様に痛い。耳鳴りがする。目の前に白い闇の様な靄がかかっている様な感じする。
私の心は急流に落ちた枯れ葉の様に千々に揺れて流れる。

崩壊したマユの家の前であて無く佇んでいる私たちは、マルキオと名乗る男性に声をかけられ、彼の好意により彼に厄介になる事となった。
マルキオの邸宅に辿り着くと、マユは心身共に疲れ果ててしまったのか夢の国の住人となってしまった。

マユをベッドに寝かせて、私はマルキオに私が異世界から来てしまった可能性があると言う事を告げ、この世界についての様々な話を聞いた。
ナチュラルとコーディネーター。そしてその対立。この世界の情勢……。
 
 そして今、私はあてがわれた部屋のベッドの上で一人思考の海に沈んでいく。。

 マルキオの話だけで判断する事は危険ではあるが、私はこの世界には救いが無いと思わざるを得ない。
優れた能力を持つコーディネーターは自然の節理から外れた遺伝子操作という歪な進化をして種の保存が危うい。
ナチュラルはコーディネーターの優れた能力を羨み、そして危険視するばかり。
更に言えばコーディネーターは能力は優れていても精神的に言えば退化していると言える。 ナチュラルも精神的には停滞している。
共に精神的な昇華がなされていない。父が夢見た人間の在り方にはほど遠い。
ただお互いに憎悪しあい、互いに戦争を、否、殺しあっているのみだ。
しかし、僅ながら共存を説く人々もいるらしい。
プラントには平和を望む歌姫がいて、地球にはこのオーブという国がある。
歌姫とやらはクイーンの様な人物なのだろうか。少しは期待をしてしまう。もしそうならば、私は助力を惜しまないだろう。
オーブは……つまりこの国は残念な事に壊滅状態である。
戦争に敗北し、政府首脳は逐電した。
 私見を言えば理想の為に国を犠牲にするのは少々問題があるのでは無いかと思う。
その理想が国を犠牲にする程の価値があるのであれば、何れ歴史の表舞台に現れるだろう。その時に改めて私が助力をするか否か判断すべきだろう。

 この世界の情勢を考える以前に、私の心を掻き乱す乱す一つの疑念があり、私は悩んでいる。
私がコーディネーターではないかという事だ。
無論、この世界での範疇で言えばの事ではあるが、遺伝子操作という言葉が私をさいなむ。
……私はトレーズ・クシュリナーダの娘ではなく、ただDNAが一致する様に調整されただけの馬の骨では無いのか……。

私の世界にも遺伝子操作は存在する。有名な事例を挙げるとウィナー家の女性、カトル・ラバーバ・ウィナーの姉達。彼女達は宇宙に適応出来る様に遺伝子の操作を受けたと聞いている。
 それから私が産まれるまでに何年が経ったのだろう。
技術が発達し、根本的に遺伝子を操作する事が可能になったのかも知れない。

 耳鳴りはやがて声となり私の脳髄を貫く。「代わりは幾等でも作れる」と。デキムの言葉が私を打ちのめす。
私は僅かに希望を持っていたのだ。私は本当にトレーズ・クシュリナーダの娘であると。
だからこそレディもクイーン・リリーナもドロシーも、サリィ・ポゥも私と親しくしてくれたのだと思っていた。
しかし、私の持っていた希望間違いであり、皆は本当は私を何処の馬の骨とも解らぬ娘と腹の中では笑っていたのではないか。
デキムの声から彼女達の嘲笑へと変わる。 嫌だ、聞きたくない。耳をふさいでも声は聞こえる。
白い闇の様な靄の中で皆が私を憐れみの目で見て指差しを蔑でいる。
嫌だ、見たくない。目を閉じても姿が見える。
やがて私の心に狂気の芽が芽生え始める。
 コーディネーターを否定すれば良いのだと。
 コーディネーターを否定すれば、私がトレーズ・クシュリナーダの娘だと証明する事が出来るのだ……。
しかしそれは父の思想に反するのではないか?
迷いが迷いを呼び出口の無い迷宮に閉じ込められた様だ。
私は醜く涙を流しながら、意識を手放して深い眠りへと墜ちて行く……。

――to be continued――