XXXIXスレ513 氏_シン・アスカは歩いて行く_第7話

Last-modified: 2012-01-13 (金) 03:32:41
 

《C.E.75年6月15日、オーブ時間11:25、旧体制派による武力蜂起が勃発》

 

《同日13:45、旧体制派に属するMS部隊によりオーブ領カグヤ島が占拠》

 

《15:00、旧体制派からの声明文が発表される。
 内容としては、現代表カガリ・ユラ・アスハの速やかな辞任及び国外への退去処分。
 又、その政策に組していた者も全て除籍ないし排斥。
 さらに、戦艦アークエンジェルとオーブ全軍のMS所有権の譲渡を要求。
 軟弱な現体制を取り除き、亡きウズミ代表の理念に立ち返った正しい国家再生を望んでいるとの事》

 

《16:00、オーブ代表カガリ・ユラ・アスハによる声明が発表。
 “テロリストの要求には一切応じない。速やかに不法占拠している島を明け渡し投降せよ。
  従わない場合、それ相応の対処に出る事になる”と発表》

 

《19:20、アスハ代表の声明に対し、旧体制派は交渉拒否の声明を発表。
 これを受け、アスハ代表は速やかなテロリストの鎮圧を発表。
 軍事同盟を結んでいるプラントにも正式に援助を要請》

 

《22:00、オーブからの援助要請を受けたプラントは、
 防衛部隊隊長キラ・ヤマトを中心とした救援部隊を創設。
 速やかなテロリスト鎮圧の為、ストライクフリーダムに加えインフィニットジャスティスも投入しての
 電撃戦を決定》

 

《22:30、月面宙域に滞在していたストライクフリーダム及び所属部隊数名が、
 本隊より先行し地球への降下を開始》

 

《23:10、大気圏突入を終えた先行部隊がカグヤ島へと接近。テロリストに対し改めて投降を勧告。
 しかし、テロリスト側はこれを拒否し、現在も膠着状態が継続中》

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

「シン、もう少し落ち着いて、と言っても無理な話ですわね」
「落ち着きたいですけど、落ち着くことは出来ませんね。
 あれだけ国を、国民を犠牲にしたアスハの親父の理念に立ち返るだって?冗談にしたって最低過ぎる」

 

 オーブ軍艦の甲板上に立つストライクフリーダムとその奥に見えるカグヤ島を映し出している
テレビを見ながら、俺は苦虫を噛み潰すだけでは飽き足らず、目力だけで人を殺せるような顔をしていた。
これからは、国民の幸せを第一にした国家再建を行っていくと発表したアスハに
何やってんだという思いもあるが、それ以上に、前大戦であれだけの犠牲が払われたというのに、
まだウズミの理念なんかに縋っている奴らが居る事への失望の方が大きかった。
あんなものを守るために俺の家族は殺されたのかと思うと、憎んでも憎みきれない。

 

「それにしても、随分あっさりとプラントは援助を表明しましたね。もう少しグダると思いましたけど」
「以前でしたらそうかもしれませんけれど、今は正式にオーブとは同盟を結んでいる訳ですし、
 何より月面宙域にキラが駐在しているのも、有事の際には速やかに動ける為ですからね」
「何だ、あの人そんな役割も担ってたんですか。てっきり、面倒な仕事は全部アスランに押し付けて、
 自分はのんびり好きな事やってるのかと思ってましたよ」
「さすがのキラでも、正式にプラントの防衛部隊を任される立場となったのですから、
 以前と同じように悠々自適とはいきませんわね。まあ、今までのんびりしてきた分働いて頂かないと」

 

 キラさんが聞いたら、軽く落ち込むような会話をしながら、
ふと俺は疑問に思ったことをラクスさんに聞いた。

 

「そういや、反体制派の奴らは何でカグヤ島を占拠したんですかね。
 蜂起後にMSやアークエンジェル寄越せとか言うんだったら、
 モルゲンレーテのあるオノゴロ島を狙った方が確実なのに」
「そこは技術大国のオーブなのですから、当然モルゲンレーテ近辺の警戒は厳重だったのでしょう。
 それに、カガリさんも旧体制派の動きはマークされていたはずでしたから、
 オノゴロ島よりかは多少ガードの薄いカグヤ島を選んだのでしょう。
 それでも、マスドライバーが押さえられたという事は軍部のある程度上の者たちも今回の武装蜂起に
 参加しているということでしょうね」

 

 確かにオーブの要でもあるモルゲンレーテに被害が及んでいない現状はまだマシなのかもしれないが、
マスドライバーを掌握されているという今の状況ははっきり言えばプラントにとってはあまり宜しくない。
大戦終結後、正式に同盟を結んだプラントとオーブ間の物資輸送を一手に担っているのが、
カグヤ島にあるマスドライバーだからだ。
このまま占拠された状態が長引けば長引くだけ、プラントの生活にも影響が出てくる。

 

「まあ、今のところいきなり何かが不足するなんて事はないでしょうけど、
 長引けば長引くほどにプラントへのダメージも大きくなっていきますからね。
 そう考えれば、今回のキラさんとアスランの出撃は分かりますけど」
「ええ、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスを主軸とした精鋭部隊投入による早期決着。
 あまり目新しさのない作戦ではありますが、確実な手ではありますわね」
「とはいえ、二人が出撃している間はプラントの防備が手薄になるってのがなぁ。
 エターナルやジュール隊は残っているみたいですけど、
 余りにも主力を投入しすぎている感じがするんですが」
「それも考えての早期決着狙いなのでしょう。それに、カグヤ島を奪還出来れば
 そこのマスドライバーを使用して迅速に宇宙へ戻ってこられるのですから。
 先ほど、キラも言っていたではありませんか」
「いやまあ、確かに言ってましたけど。あの人、言いたいこと言って物も適当に置いて
 とっとと行っちゃいましたし」
「それだけ急いでいたという事でしょう。それでシン、キラが置いていったモノはなんなのでしょう?」
「以前話していた小型シャトルだって話ですよ。
 現状ゲイツじゃクレーター外へ買い物にも出掛けられないんで、
 キラさんが暇つぶしを兼ねて作ってくれていたんですけど、まだ中身を確認してないのでなんとも」
「あら、これでようやくコロニーへもお買い物に行けるようになるのですね。
 今回の事件が無事終わりましたら早速連れて行って下さいな」
「あの人の手が入っていると考えると、どんなモノなのか想像付かないんで不安なんですけどね。
 と、後続の部隊が降下してきたようですね。ジャスティスも降りてきたし、
 そろそろ膠着状態から抜け出すかな?」

 

 TV画面には、プラントからの救援部隊第二陣が降下してくる映像が映し出されていた。
その先頭に立って降下してきたインフィニットジャスティスが、
オーブ軍船の船上に立つストライクフリーダムの横に着地した。

 

「こんな事、早く終わってくれればいいんですけどね、本当に」
「そうですわね。何事も無く終わってくれる事が一番ですわ」

 

 そんな事を話しながらテレビに眼を移すと、プラント代表としてのアスランが
テロリストへの最終降伏勧告を行っているところだった。
しかし、先ほどのキラの時と同様に降伏は拒否され、それに伴い周囲のプラント・オーブ連合部隊が
島へと動き出した。
こうなれば、後はどの位の時間でカグヤ島が奪還されるかだけだったが、
突如TV画面にはオーブ議会の服を着た男が映し出された。

 

「こいつは確か・・・ウズミの腰巾着の一人だった奴か。
 いつも演説しているウズミの後ろに居ましたからよく覚えてますよ」
「そうですわね。確かウズミ様の理念に心酔されていた方のはずですから、 
 今回の首謀者と見てまず間違いないでしょう」

 

 その画面に映し出された中年の男は、沈痛な面持ちで話し始めた。

 

『この度、堕落しきったオーブを亡きウズミ様の掲げられた正しき道へと導いてゆく為に
 決起した我々であるが、真に残念な事に、卑劣なる外圧によって今まさに
 無残にも蹂躙されようとしている。
 しかし、我らを卑劣なる手段をもってして排除しようとする愚かなもの達に、
 オーブの獅子より受け継がれた我らの覚悟を見せてやろう。見よ!』

 

 その言葉が終わった瞬間、切り替わった画面に映し出された
カグヤ島のマスドライバー各所から爆発が起こった。
その様は、かつてウズミ・ナラ・アスハが自らの娘達を宇宙に送り出した後に自決した
あの忌まわしき情景と重なっていた。

 

『そうだ。あの時ウズミ様は連合の侵略を阻止する為にこのマスドライバーと運命を共にし、
 その想いを受けた者達があの大戦を終結へと導いていったのだ。
 だが、その想いを受けたはずのお前たちがここまで堕落してしまい、
 ウズミ様の想いまでも忘れてしまったというのならば、
 その大罪、貴様らが守るべき者達に償って貰おうではないか!』

 

 その言葉が終わるのと、俺たちの住むローレンツ・クレーターに
警戒警報が鳴り響いたのはほぼ同時だった。

 

「クレーター防衛圏への接近警報!?
 くそ、やっぱりオーブの奴らはキラさん達をおびき寄せる為の囮だったのか!」
「シン、まさかこの度の騒動の本当の目的はまさか・・・」
「ラクスさん、間違いなくあなたでしょう。
 誰かは知らないけど、あなたを拉致するのならこれ以上のタイミングなんてないですし!」

 

 そして、こちらへ強引にコンタクトを取ってきた相手側モニターに映る人物を見て、
俺は心の底からゲンナリした。
そのモニターに映っていたのは、俺にワインを押し付けてきたあのいけ好かない査定員の男だった。

 

『お久しぶりで御座います、ラクス様。
 不敬の輩が帰ってこられない今こそ、あなた様をお救いする絶好の機会と馳せ参じた次第です』
「あぁ~、予想はしてたけどやっぱあんたか。マジで勘弁してくれよ」
『ふん、あなた如きに発言を許したつもりはありませんよシン・アスカ。
 私はラクス様にのみご挨拶をしたのですから。
 とはいえ、忌々しい事ですが一応あなたも連れて来るように言われておりますので、
 おとなしくしているように』
「ラクスさんだけじゃなく俺も?一体誰がそんな事を」

 

《貴様が気にする事ではない。ただ黙って従えば良い》

 

 そんな言葉が聞こえ、査定員の後ろから現れた男の顔を見て俺は絶句した。
何故なら、そこに立っていたのは

 

「な、何で」
《改めて確認するぞ。ラクス・クラインとシン・アスカだな?》
「何でお前が」
《大人しく私と一緒に来てもらおう。もっとも、拒否権など最初からありはしないがな》

 

「何でお前がそんなところに居るんだよ。答えろ、レイ!」

 
 

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